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特許6415981単量体プロアントシアニジン除去植物抽出物
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  • 特許6415981-単量体プロアントシアニジン除去植物抽出物 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6415981
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】単量体プロアントシアニジン除去植物抽出物
(51)【国際特許分類】
   C12C 3/00 20060101AFI20181022BHJP
   C12C 5/00 20060101ALI20181022BHJP
   C12G 3/04 20060101ALI20181022BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   C12C3/00
   C12C5/00
   C12G3/04
   A23L2/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-538506(P2014-538506)
(86)(22)【出願日】2013年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2013075798
(87)【国際公開番号】WO2014050840
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-218317(P2012-218317)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】米澤 太作
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133758(WO,A1)
【文献】 国際公開第98/044087(WO,A1)
【文献】 特開2006−296378(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/136015(WO,A1)
【文献】 特開2005−082497(JP,A)
【文献】 国際公開第00/064883(WO,A1)
【文献】 特開2010−260823(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/064550(WO,A1)
【文献】 特開平09−002917(JP,A)
【文献】 J. Agric. Food Chem.,2006年,vol.54, no.11,pp.4048-4056
【文献】 J. Sci. Food. Agric.,1999年,vol.79, no.8,1123-1128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 3/00−5/04
C12G 3/00−3/14
A23L 2/00−2/84
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジン含有ホップ抽出物であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が12%以下であり、総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合が75%以上である、前記ホップ抽出物。
【請求項2】
総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が10%以下である、請求項1記載のホップ抽出物。
【請求項3】
総プロアントシアニジン含量が10ppm以上の飲料であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が19%以下であり、ホップ由来のプロアントシアニジンが添加されている、前記飲料。
【請求項4】
総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が15%以下である、請求項記載の飲料。
【請求項5】
飲料がビールテイスト飲料である、請求項3または4記載の飲料。
【請求項6】
プロアントシアニジンを含有する呈味剤であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が12%以下であり、総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合が75%以上であり、プロアントシアニジンがホップ由来である、前記呈味剤。
【請求項7】
総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が10%以下である、請求項記載の呈味剤。
【請求項8】
単量体のプロアントシアニジン量が低減されたホップ抽出物の製造方法であって:
(i)水系溶媒を用いてホップからポリフェノールを抽出する工程;
(ii)得られた抽出液を活性炭処理する工程;
を含み、
前記ホップ抽出物は、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が12%以下であり、総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合が75%以上である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロアントシアニジン高含有植物抽出物であって単量体のプロアントシアニジン量が低減された植物抽出物、それを利用した呈味剤に関する。さらに本発明は、プロアントシアニジン含有飲料であって、単量体のプロアントシアニジン含量の低い飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビールや、発泡酒、ノンアルコールビールテイスト飲料などのビールテイスト飲料の分野において、消費者の多様化した嗜好に応じて、香味を向上させる方法が求められている。
【0003】
ビールやビールテイスト飲料の製造に用いられるホップには苦味やフレーバーを与える物質などが含まれていることから、ホップを加工、熟成することで、苦味やフレーバーの質を向上させる加工方法や、フレーバーを豊富にする方法が開示されている。
【0004】
具体的には、苦味の質を向上させる加工方法として、水溶性渋味成分や低分子苦味成分をホップ中から抽出除去することにより、上品なキレのある苦味を有し、渋味が少なく飲み易い発泡性アルコール飲料を製造する方法(特許文献1)や、高温保管したホップを用いることにより、マイルドな苦味が持続する発泡性アルコール飲料を製造する方法(特許文献2)が開示されている。
【0005】
フレーバーを向上させる方法として、ホップ香気成分を豊富化する後熟ホップの製造方法(特許文献3)や、新鮮なホップフレーバーを付与するために収穫後乾燥することなく凍結した生ホップを用いる方法(特許文献4)が開示されている。
【0006】
また、低アルコール飲料にリンゴワイン及びホップポリフェノール又はリンゴポリフェノールを添加することによる、新しいタイプのアルコール飲料の製造方法(特許文献5)や、6条大麦の麦芽を原料として用いることにより、ポリフェノールを増強したビールの製造方法(特許文献6)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-77671
【特許文献2】特開2008-212041
【特許文献3】特開2007-89439
【特許文献4】特開2004-81113
【特許文献5】特開2005-204585
【特許文献6】特開2003-245064
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フレーバーや苦味を付与すると共に、収斂味やキレの悪さを増強させることなく、コクや飲みごたえといった味を付与することのできる抽出物等を提供すること、および優れたコクや飲みごたえを有する飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ホップ由来のポリフェノールが、飲料のコクや飲みごたえを増加させることを見出した。さらに本発明者らは、ホップ由来のポリフェノールの中でも、重合ポリフェノール、特に単量体プロアントシアニジンを低減させ、主として2量体〜4量体プロアントシアニジンを含むものを用いることによって、収斂味やキレの悪さを増強させることなく、飲料にコクや飲みごたえを与えることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
(1)プロアントシアニジン含有植物抽出物であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が12%以下である、前記植物抽出物。
(2)総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が10%以下である、(1)記載の植物抽出物。
(3)総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合が75%以上である、(1)または(2)記載の植物抽出物。
(4)植物がホップである、(1)〜(3)のいずれかに記載の植物抽出物。
(5)総プロアントシアニジン含量が1ppm以上の飲料であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が26%以下である、前記飲料。
(6)総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が19%以下である、(5)記載の飲料。
(7)総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が15%以下である、(6)記載の飲料。
(8)プロアントシアニジンがホップ由来である、(5)〜(7)のいずれかに記載の飲料。
(9)飲料がビールテイスト飲料である、(5)〜(8)のいずれかに記載の飲料。
(10)プロアントシアニジンを含有する呈味剤であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が12%以下である、前記呈味剤。
(11)総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が10%以下である、(10)記載の呈味剤。
(12)総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合が75%以上である、(10)または(11)記載の呈味剤。
(13)植物がホップである、(10)〜(12)のいずれかに記載の呈味剤。
(14)単量体のプロアントシアニジン量が低減された植物抽出物の製造方法であって:
(i)水性溶媒を用いて植物からポリフェノールを抽出する工程;
(ii)得られた抽出液を活性炭処理する工程;
を含む方法。
(15)植物がホップである、(14)記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の単量体プロアントシアニジン含量の低い植物抽出物または呈味剤を用いることにより、一般にビールに比べコクや飲みごたえが弱いとされる発泡酒、リキュール類に分類されるビールテイスト飲料、さらには低アルコールまたはアルコールを全く含まない飲料に、収斂味やキレの悪さを増強させることなくコクや飲みごたえを付与することができる。さらに、主として二量体〜四量体プロアントシアニジンを豊富に含むことによりコクや飲みごたえを有する飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、植物抽出物中に含まれる単量体、2〜4量体、および5量体の割合を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、プロアントシアニジン高含有植物抽出物であって単量体のプロアントシアニジン量が低減された植物抽出物、それを利用した呈味剤に関する。さらに本発明は、プロアントシアニジン含有飲料であって、単量体のプロアントシアニジン含量の低い飲料に関する。また本発明は、飲料の総プロアントシアニジンに対する単量体プロアントシアニジン量を低下させることによる、飲料のコクまたは飲みごたえの付与方法に関する。
<単量体のプロアントシアニジン量が低減された植物抽出物、およびその製造方法>
本発明の植物抽出物は、プロアントシアニジン含有植物抽出物であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が12%以下である植物抽出物である。好ましくは、単量体プロアントシアニジンの重量割合は10%以下、より好ましくは8%以下である。
【0014】
また、本発明の植物抽出物は、総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合が75%以上である。好ましくは、総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合は80%以上であり、より好ましくは85%以上である。
【0015】
本明細書において「総プロアントシアニジン」とは、単量体、2量体、3量体、4量体および5量体のプロアントシアニジンの合計をいう。
【0016】
本発明のプロアントシアニジン高含有植物抽出物は、コクや飲みごたえを付与する添加剤として使用することができる。また、本発明のプロアントシアニジン高含有植物抽出物はビール等の発酵工程前に添加することにより、収斂味や切れの悪さといったネガティブな香味を増強することなくコク(厚み)を付与することができる。
【0017】
ここで、本明細書において、「コク」とは味のひろがり(厚み)及び味の経時変化(余韻)が合わさったものであり、「飲みごたえ」とは味の強さである。
【0018】
プロアントシアニジンは、フラバノールが縮合または重合したポリフェノール化合物であり、例えば三量体プロアントシアニジンは、以下の一般式で表される構造を有する。
【0019】
【化1】
【0020】
本発明の植物抽出物は、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合や総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合等について、上記要件を充たす限りにおいて、五量体以上のものを含んでいてもよい。
【0021】
本発明のプロアントシアニジン高含有植物抽出物は、例えばホップから水系溶媒にてポリフェノールを抽出した後、単量体プロアントシアニジンを選択的に除去する処理をすることによって得ることができ、得られる抽出物は単量体のプロアントシアニジン量が低減された植物抽出物である。ここで、単量体プロアントシアニジン選択的除去方法としては、活性炭処理が挙げられる。
【0022】
用いるホップは、その品種に制限はなく、例えばザーツ、トラディション、ペルレ、カスケード、ナゲットなどが挙げられる。また、複数の品種を混合して用いてもよい。
【0023】
用いるホップの部位は、プロアントシアニジンが含まれる部位であればいずれを用いてもよい。また、本発明で用いるホップの形態としては、新鮮なもの、凍結したもの、乾燥したものなど、いずれを用いてもよく、たとえばホップを圧縮したホップペレット、ベールホップ、ホップ苞、超臨界CO2等によりホップから苦味成分を抽出したホップエキスを製造する際に出る残渣、およびこれらを粉末状にしたもの、エタノール抽出のホップエキスを製造する際に生じる副産物である水溶性画分エキス(例えばHopsteiner社製 Tannin Extract)などを用いることができる。
【0024】
ホップからのポリフェノール抽出には、公知の方法を適宜用いることができるが、ホップを水性溶媒と混合し、ろ過し、ろ液を回収することによってポリフェノールを抽出することができる。ポリフェノール抽出に用いる水性溶媒としては、たとえば水、エタノール等のアルコール、またはこれらの混合物が挙げられる。抽出条件は適宜調整すればよいが、たとえば95℃以上の温水とホップペレットを混合して、10〜30分間程度攪拌することによって抽出することができる。
【0025】
得られた抽出液は、そのまま単量体プロアントシアニジン除去処理に供してもよいし、濃縮したものや、凍結乾燥した粉末をエタノール水溶液等の溶媒に溶解したものを単量体プロアントシアニジン除去処理に用いることもできる。
【0026】
活性炭は、吸着剤として用いるために化学的または物理的な活性化処理を施した多孔質の炭素を主な成分とする物質である。本発明において使用できる活性炭は特に限定されないが、公知のあるいは商業的に入手可能な活性炭を適宜選択することができる。活性炭としては、その材料やその製法は特に限定されない。通常入手できる活性炭であれば、上記植物抽出物と接触させることにより単量体プロアントシアニジンを選択的に除去することができる。当業者であれば、必要に応じて、活性炭の種類や量等を種々検討して、本発明の目的に合った最適な活性炭を選択することができる。
【0027】
活性炭処理とは、上記植物抽出物と活性炭を接触させて、単量体プロアントシアニジンが選択的に除去された植物抽出物を得ることである。こうした活性炭処理は、処理に供する液の量や濃度と、用いる活性炭の種類、量及び接触時間、温度等を適宜設定することができる。接触時間としては、好ましくは数分〜1時間程度である。活性炭による処理後は、ろ過、遠心分離等の公知の固液分離手段によって活性炭を除去して所望の植物抽出物を取得することができる。
【0028】
活性炭処理に限らず、例えば分画処理により、単量体プロアントシアニジンを選択的に除去することができ、たとえばゲルろ過クロマトグラフィーを用いることができる。具体的には、以下のような方法で単量体プロアントシアニジンが低減され、2〜4量体プロアントシアニジンを高含有で含む抽出物を得ることができる。まず、ホップから得られた抽出液の凍結乾燥粉末を10%エタノールに溶解し、ゲルろ過クロマトグラフィー用担体(たとえば、Sephadex(商標) LH-20(GEヘルスケア バイオサイエンス社)に負荷する。次いで、充填した担体容量の2〜5倍程度の水で担体を洗浄する。さらに、0%〜100%の間で濃度を順次上昇させながらエタノール水溶液をカラムに通液し、2〜4量体プロアントシアニジン含有量の多い画分を回収する。溶出に用いるエタノール水溶液の濃度は、適宜調整すればよいが、たとえば、水、35%エタノール水溶液、70%エタノール水溶液、100%エタノール水溶液を順にカラムに通液することで、プロアントシアニジンを重合度ごとに分離することができる。溶出された画分中の2〜4量体プロアントシアニジン含有量は、例えば順相系の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる(特開2006−38763参照)。得られた成分が目的の2〜4量体であることは、LS/MSにより分子量測定を行うことで確認することができる。
【0029】
回収した画分は、そのまま本発明の2〜4量体プロアントシアニジン高含有植物抽出物として用いてもよいし、濃縮、凍結乾燥、または噴霧乾燥等の処理を施して用いることもできる。
<呈味剤>
本発明の単量体プロアントシアニジンを低減させ、プロアントシアニジンとして2量体〜4量体プロアントシアニジンを主として含む植物抽出物は、飲料にコクや飲みごたえを付与するための呈味剤として用いることができる。
【0030】
本発明の呈味剤における総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合は12%以下である。好ましくは、単量体プロアントシアニジンの重量割合は10%以下、より好ましくは8%以下である。
【0031】
また、本発明の呈味剤における総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合は75%以上である。好ましくは、総プロアントシアニジン含量に対する2〜4量体プロアントシアニジンの重量割合は80%以上であり、より好ましくは85%以上である。
【0032】
本発明の呈味剤は、例えばホップからポリフェノールを抽出した後、単量体プロアントシアニジンを選択的に除去する処理をすることによって得ることができ、得られる呈味剤は単量体のプロアントシアニジン量が低減された呈味剤である。
【0033】
本発明の呈味剤は、2〜4量体プロアントシアニジンを高含量にて含むことにより、飲料に配合した際、渋味やエグ味を増強させることなく、コクや飲みごたえを付与することができる。よって、本発明は、飲料中の総プロアントシアニジンに対する単量体プロアントシアニジン量を低下させることによる、飲料のコクまたは飲みごたえの付与方法でもある。
【0034】
本発明の呈味剤を配合する飲料は、特に限定されないが、発泡酒、ビールテイスト飲料の他、アルコールを含まない飲料である炭酸飲料、果汁飲料、スポーツ飲料、栄養飲料などが挙げられる。
【0035】
本発明の呈味剤の配合量は、飲料に対して3.6×10-4重量%〜10.5×10-4重量%となるように配合し、5.2×10-4重量%〜8.9×10-4重量%となるように配合するのが好ましく、6.8×10-4重量%〜7.4×10-4重量%となるように配合するのがより好ましい。
【0036】
ビールや発泡酒などの発酵飲料へ配合するときは、後発酵工程の前であれば、どの段階で添加してもよい。但し、後発酵工程の直前に添加するのが好ましい。
【0037】
本発明の呈味剤は、その効果を損なわない限り、乳化剤、緊張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等の任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
本発明の呈味剤は、使用の目的に応じて、液状、粉末状、顆粒状、タブレット状等の任意の剤形とすることができる。その際には、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤、可溶化剤、矯味剤、香料、着色剤等の任意の製剤素材を添加してもよい。
<飲料>
本発明の飲料は、優れたコクや飲みごたえを有する。これは、飲料中の2〜4量体プロアントシアニジンの含量の相対比が高まることによる効果である。
【0039】
本発明の飲料は、総プロアントシアニジン含量が1ppm以上であって、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合が26%以下である。好ましくは総プロアントシアニジン含量は6ppm以上であり、より好ましくは10ppm以上である。総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合は好ましくは19または15%以下であり、さらに好ましくは12%以下である。
【0040】
本発明の飲料中のプロアントシアニジンは、好ましくはホップ由来である。
【0041】
本発明の飲料としては、限定的でない例としては、発泡酒、ビールテイスト飲料の他、アルコールを含まない飲料である炭酸飲料、果汁飲料、スポーツ飲料、栄養飲料などが挙げられる。
【0042】
本発明の飲料は、上記呈味剤を飲料に添加することによっても、常法で得られた飲料に単量体プロアントシアニジンを低減させる処理を施すことによっても得ることができる。前者方法による製造の一例として、ホップからポリフェノールを抽出した後、単量体プロアントシアニジンを選択的に除去する処理を施して得られた呈味剤を、発泡酒やビールテイスト飲料等に添加する方法を挙げることができる。
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1(活性炭処理)
ホップペレット20gを2Lの水で攪拌下、60℃、20分間抽出した。ろ紙にてろ過後、放冷し、250mlの抽出液に対して各濃度の活性炭を添加し、室温で60分間攪拌した。
活性炭は、日本エンバイロケミカルズ社製のものを用いた(製品名:FP1、FP3、FP4、FP6、FP9)。その後、0.2μmのフィルターによりろ過後、濃縮・凍結乾燥した。得られた粉末をHPLCにより分析し、単量体〜5量体のプロアントシアニジンを定量した。
(HPLC条件)装置:HEWLETT PACKARD SERIES 1100、カラム:Inert Sil(GL Sciences Inc. SIL 100A 3μm 4.6×150mm)、流速:1.0ml/min、移動相:ヘキサン:メタノール:テトラヒドロフラン:蟻酸=45:40:14:1の溶液を用いてアイソクラティック溶出、サンプル注入量:10μl、検出:200〜300nmでの多波長検出結果を表1に示す。活性炭処理により、単量体プロアントシアニジンが選択的に除去されることが確認された。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例2(活性炭処理ホップ抽出物の添加試験)
ポリフェノールリッチペレット(Hopsteiner社 Polyphenol-Rich Hop Pellets)10gを1リットルの60℃の水で抽出し、得られた抽出液をろ紙にてろ過した。ろ過して得られた抽出液に500、1000、2000ppmの濃度となるように活性炭を添加した。活性炭は、日本エンバイロケミカルズ社のFP3を使用した。活性炭処理は、室温約26℃にて1時間攪拌を行った。得られた抽出液をADVANTEC社のメンブレンフィルター 細孔径0.2μmにてろ過した。得られた活性炭処理液を減圧濃縮(30℃、20mmHg以下)、凍結乾燥(-80℃で凍結後、-84℃で凍結真空乾燥)を行なった。凍結乾燥後、得られた抽出物をプロアントシアニジン総量が同じになるように(7.3mg)、市販のビールテイスト飲料に添加し、官能評価を行った。
【0047】
官能評価はパネル5名にて行い、評価項目に対して、0点を感じない、3点を強く感じるとし、1点をやや感じる、2点を感じるとして評価を行った。評価項目はポジティブな要因としてコク(厚み)、飲み応え、また、ネガティブな要因として、キレの悪さ、収斂味とした。
【0048】
表2は添加抽出物量と添加抽出物中のプロアントシアニジン量を示す。図1は、表2に示した添加抽出物中のプロアントシアニジン量の各量体の割合をグラフにしたものである。
【0049】
【表2】
【0050】
添加試験結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
上記活性炭処理抽出物を添加することにより、コク、飲み応えが上昇することが明らかとなった。さらにはネガティブな要因である収斂味やキレの悪さも上昇せず、ポジティブな要因のみが上昇するという最も良い結果が得られた。

実施例3 飲料中の各重合度のプロアントシアニジン分析
ビール、発泡酒およびノンアルコールビールテイスト飲料などの市販品500mlを超音波処理し、脱気した後、30℃減圧下で250mlまで濃縮し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の粉末を20mlの10%エタノールに溶解後、450mlのLH20を充填したカラムに通液し、水1500ml、30%エタノール1500ml、100%エタノール1500ml、80%アセトン1000mlを通液することでポリフェノールとその他樹脂へ吸着する成分を含む画分を分離した。
【0053】
それぞれの画分を30℃減圧下で約20ml程度に濃縮後、凍結乾燥を行った。
【0054】
30%エタノール以降で溶出させた画分を再度10%エタノールに溶解(0.1g/ml)し、LH20を60ml充填したカラムに通液し、水180ml、35%エタノール180ml、70%エタノール240ml、100%エタノール200ml、80%アセトン100mlを通液し各画分を得た。各画分を30℃、減圧下で濃縮後凍結乾燥したものを、同様の条件にてHPLCにより分析を行った。結果を表4および5に示す(各重合度のプロアントシアニジン量を記載(単位はmg/L))。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
市販のビール、発泡酒およびノンアルコールビールテイスト飲料には、総プロアントシアニジン含量に対する単量体プロアントシアニジンの重量割合は38%以上であった。尚、4量体と5量体は検出限界以下であった。
実施例4(活性炭処理)
1)ホップ苞抽出液の調製
ホップ苞を40g/Lの濃度で水にて攪拌下、97℃、20分間抽出した。ろ紙にてろ過後、凍結乾燥し、粉末化した。
2)活性炭処理エキスの製造
ホップ苞を40g/Lの濃度で水にて攪拌下、97℃、20分間抽出した。ろ紙にてろ過後、6000ppmの活性炭(湿潤重量 実質2000pm)で1時間処理し、凍結乾燥した後に粉末化した。尚、活性炭は、日本エンバイロケミカルズ社製のものを用いた(製品名FP3)。
3)分析
上記1)および2)で得られた粉末をHPLCにより分析し、単量体〜5量体のプロアントシアニジンを定量した。
(HPLC条件)装置:HEWLETT PACKARD SERIES 1100、カラム:Inert Sil(GL Sciences Inc. SIL 100A 3μm 4.6×150mm)、流速:1.0ml/min、移動相:ヘキサン:メタノール:テトラヒドロフラン:蟻酸=45:40:14:1の溶液を用いてアイソクラティック溶出、サンプル注入量:10μl、検出:200〜300nmでの多波長検出結果を表6に示す。ホップ苞を原料として用い活性炭処理することにより、単量体プロアントシアニジンが選択的に除去されることが確認された。
【0058】
【表6】
【0059】
実施例5(活性炭処理ホップ抽出液粉末の添加試験)
実施例4の1)および2)にて調製した粉末をビールテイスト飲料の製造に用いた。
【0060】
通常のビール醸造と比較し、発酵液に上記粉末を添加することによる影響を評価した。試験1(Cont)は比較で粉末未添加、試験1(T1)は発酵させる麦汁60Lに対して1)の活性炭未処理粉末を添加粉末による総プロアントシアニジン量の増加が10ppmとなるように13.50g添加した。試験2(T2)は発酵させる麦汁60Lに対して2)の活性炭処理粉末を添加粉末による総プロアントシアニジン量の増加が10ppmとなるように15.38g添加した。試験3(T3)は発酵させる麦汁60Lに対して2)の活性炭処理粉末を添加粉末による総プロアントシアニジン量の増加が15ppmとなるように23.08g添加し発酵させた。
【0061】
尚、各試験においてプロアントシアニジンとしては以下の表7に記載している重量のプロアントシアニジンが添加された。
【0062】
【表7】
【0063】
上記発酵試験により得られた醸造品中のプロアントシアニジン濃度を測定した。結果を表8に示す。
【0064】
【表8】
【0065】
分析結果より、比較(Cont)に比べ粉末を添加した試験では各プロアントシアニジンの増加が見られた。
【0066】
プロアントシアニジン重量が同量になるように添加したT1、T2の各プロアントシアニジン重量を比べると、活性炭処理により単量体を選択的に除去したエキス(粉末)を添加したT2はContとほぼ同量の単量体含有量であったのに対し、活性炭未処理抽出液を添加したT1は2,3量体の増加と共に単量体の増加が確認された。また添加濃度の異なるT2、T3を比べると添加量が多いT3の方が各プロアントシアニジン量が多いことが確認された。この結果より、抽出液を活性炭処理し単量体を選択的に除去したエキス(粉末)を添加することで単量体濃度は高めずに2,3量体濃度を高めることが可能であることが確認された。一方で活性炭未処理抽出液では単量体量も高まることが確認された。
【0067】
上記各醸造品の官能評価を行った。官能評価はパネル8名にて行い、評価項目に対して、0点を感じない、3点を強く感じるとし、1点をやや感じる、2点を感じるとして評価を行った。平均点が、2点以上3点以下を○、1点以上2点未満を△、1点未満を×とした。結果を表9に示す。
【0068】
【表9】
【0069】
1)の抽出液から調製した粉末を添加したT1と活性炭処理した抽出液から調製した粉末を添加したT2及びT3を比較すると、T2及びT3はT1に比べ収斂味や切れの悪さといったネガティブな香味を増強することなくコク(厚み)を付与することが明らかとなった。この結果より、単量体を選択的に除去したエキス(粉末)を発酵前に添加し、製品中の単量体割合を下げることでネガティブな香味特徴を増強することなくポジティブな香味のみを増強できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、一般にビールに比べコクや飲みごたえが弱いとされる発泡酒、リキュール類に分類されるビールテイスト飲料、さらには低アルコールまたはアルコールを全く含まない飲料に、収斂味やキレの悪さを増強させることなくコクや飲みごたえを付与することができる。そして、2〜4量体プロアントシアニジンを豊富に含むことによりコクや飲みごたえを有する飲料を提供することができる。
図1