特許第6416036号(P6416036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6416036
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】シリコーン多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/36 20060101AFI20181022BHJP
   C01B 33/157 20060101ALI20181022BHJP
   C08G 77/06 20060101ALN20181022BHJP
【FI】
   C08J9/36CFH
   C01B33/157
   !C08G77/06
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-85401(P2015-85401)
(22)【出願日】2015年4月17日
(65)【公開番号】特開2016-204470(P2016-204470A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直之
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−151210(JP,A)
【文献】 特開2003−206125(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/010949(WO,A1)
【文献】 特開平07−247180(JP,A)
【文献】 特開2007−268512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/36
C01B 33/157
C08G 77/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通する気孔と、二官能のアルコキシシランと三官能のアルコキシシランとの共重合により形成された、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質体の湿潤ゲルを液体中で切断する切断工程を備えるシリコーン多孔質体の製造方法。
【請求項2】
さらに、切断した前記シリコーン多孔質体の湿潤ゲルを洗浄する洗浄工程を備える、請求項1に記載のシリコーン多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相分離を伴うゾル−ゲル反応は、シリカ、チタニア等の酸化物、および三官能アルコキシシランを出発物質とする有機無機ハイブリッド系において、大きさの制御された連続貫通孔をもつモノリス状多孔材料を得る方法として知られてきた(特許文献1及び特許文献2参照)。しかしこれらの多孔体ではゲルの弾性率が極めて低く、また全体として脆性が高いために、大きな変形に耐える柔軟性を付与することは困難であった。
【0003】
このような従来の問題点を鑑みて、高い柔軟性をも併せ持つモノリス状多孔材料の研究が進められている。ここで、特許文献3には、二官能基のアルコキシシランと、三官能基のアルコキシシラン又は三官能以上のアルコキシシラン類との両方を出発原料とし、ゾル−ゲル反応によりこれらのシランを共重合させ、Si−O結合によりネットワークを形成させると共に相分離を行い、連続貫通流路と化学種を溶解できるシリコーン骨格とを有するエアロゲル又はキセロゲルのシリコーン製モノリス体を作製することが記載されている。また、特許文献3には、当該シリコーン製モノリス体が高い柔軟性と高い気孔率を併せもつことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2893104号公報
【特許文献2】特許第3397255号公報
【特許文献3】特開2014−61457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が特許文献3に記載のようなシリコーン製モノリス体(以下、シリコーン多孔質体ともいう)について検討を行ったところ、以下の知見を得た。すなわち、特許文献3では、密閉容器内でバルク状のウェットゲル(湿潤ゲル)を作製しているが、作製したバルク状の湿潤ゲル、特に、サイズの大きなバルク状の湿潤ゲルをそのまま密閉容器から取り出すと、その自重によって湿潤ゲルが破壊してしまうおそれがあるとの問題が判明した。
【0006】
そこで、本発明は、シリコーン多孔質体の製造過程において、湿潤ゲルの破壊の発生を有効に防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を鑑みてさらに鋭意研究を行った結果、シリコーン多孔質体の湿潤ゲルを液体中で切断することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、連通する気孔と、二官能のアルコキシシランと三官能のアルコキシシランとの共重合により形成された、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質体の湿潤ゲルを液体中で切断する切断工程を備えるシリコーン多孔質体の製造方法が提供される。
【0009】
上記シリコーン多孔質体の製造方法は、さらに、切断した前記シリコーン多孔質体の湿潤ゲルを洗浄する洗浄工程を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
液体中においてはシリコーン多孔質体の湿潤ゲルに浮力を含む圧力がかかるため、当該湿潤ゲルの破壊が有効に防止されている。本発明の製造方法においては、液体中でシリコーン多孔質体の湿潤ゲルに浮力を含む圧力がかかった状態で、当該湿潤ゲルを適切なサイズ及び形状に切断する。このようにして適切なサイズ及び形状に切断された湿潤ゲルであれば、液体中から取り出された際にも自重による破壊が有効に防止される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
以下に、本発明のシリコーン多孔質体の製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態のシリコーン多孔質体の製造方法は、連通する気孔と、二官能のアルコキシシランと三官能のアルコキシシランとの共重合により形成された、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質体の湿潤ゲルを液体中で切断する切断工程を少なくとも備える。
【0013】
(準備工程)
本実施形態のシリコーン多孔質体の製造方法においては、まず、準備工程として、二官能のアルコシシシランと三官能のアルコキシシランとを相分離を伴ったゾル−ゲル反応により共重合させて湿潤ゲルを得る。
【0014】
より具体的には、本工程では、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランを前駆体として用い、これらをゾル−ゲル反応による共重合によりSi−O結合のネットワーク化をしつつ、界面活性剤で相分離を制御しながら、酸触媒及び塩基触媒による酸塩基2段階反応を行うことにより、連通する気孔と、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質体の湿潤ゲルを形成する。
【0015】
上記シリコーン多孔質体は、連通する気孔と、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するものである。すなわち、本発明におけるシリコーン多孔質体は、モノリス構造を有するものである。ここで、「モノリス構造」とは、連続した三次元網目状骨格と、連通する気孔とにより一体的に構成される共連続構造である。
【0016】
ここで、シリコーン多孔質体の三次元網目状のシリコーン骨格の表面は、シリコーン多孔質体自体の外形を形成(画定)する部分と、前記連通する空孔を形成(画定)する部分とからなる。本明細書における「湿潤ゲル」とは、シリコーン多孔質体の三次元網目状のシリコーン骨格の表面の全部又は一部に、ゾル−ゲル反応後の反応液等の液体が付着した状態を示す。
【0017】
本工程においては、まず、ステンレス等の金属製の容器又はガラス容器等の適宜な容器中で、溶媒、酸触媒、塩基触媒及び界面活性剤を混合する。溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール等を用いることができる。酸触媒としては、例えば、酢酸、シュウ酸、ギ酸等を用いることができる。塩基触媒としては、例えば、尿素、アンモニア水等を用いることができる。界面活性剤としては、例えば、塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)等を用いることができる。
【0018】
具体的な一実施形態においては、例えば、ガラス容器等の容器中で、溶媒としての水と酸触媒としての酢酸を混合して酢酸水溶液を調製し、その中に界面活性剤としての塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)及び塩基触媒としての尿素を添加する。
【0019】
ついで、前駆体としての二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランを添加し、たとえば10〜30℃で0.5〜2.0時間撹拌して、前駆体の加水分解を進行させる。
【0020】
その後、得られた溶液を密閉状態下に置き、たとえば50〜85℃で6〜48時間加熱することにより、塩基触媒を加水分解して塩基性条件下としつつ、加水分解した前駆体をゾル−ゲル反応により重縮合させることにより、湿潤ゲル(ウェットゲル)を得る。ここで、前記溶液を密閉状態下に置くには、例えば、当該溶液を含む前記容器を密閉状態としてもよく、あるいは、当該溶液を前記容器とは別の密閉容器に移してもよい。
【0021】
ここで、二官能のアルコキシシランは、珪素の4本の結合基のうち重合(結合)に関与するアルコキシ基を二つ有し、残りの反応に関与しない修飾基を二つ有するものであり、下記化学式(1)により示されるものである。
【0022】
【化1】
【0023】
二官能のアルコキシシランにおけるアルコキシ基(−OR)は、好ましくは炭素数1〜5のアルコキシ基である。加水分解反応速度の観点からは、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基であることが好ましく、メトキシ基又はエトキシ基であることがより好ましい。なお、二官能のアルコキシシランにおける二つのアルコキシ基(−OR)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
二官能のアルコキシシランにおける修飾基(−R)としては、置換または非置換のアルキル基、アリール基、ビニル基、メルカプトアルキル基等が挙げられる。
置換または非置換のアルキル基におけるアルキル基は、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素などが挙げられる。置換されたアルキル基としては、フロロアルキル基が好ましい。
アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基などを挙げることができ、フェニル基であることが好ましい。
メルカプトアルキル基としては、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基、メルカプトプロピル基等が挙げられ、メルカプトプロピル基であることが好ましい。
【0025】
二官能のアルコキシシランにおける二つの修飾基(−R)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。なお、得られる構造体への撥水性や耐熱性等の機能付与の観点からは、これら二つの修飾基のうちの一つ以上が、メチル基、フェニル基及びフロロアルキル基からなる群より選択されたものであることが好ましい。
【0026】
二官能のアルコキシシランとしては、具体的には、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられ、耐熱性向上の観点からは、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等が特に好ましい。なお、二官能のアルコキシシランとしては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
三官能のアルコキシシランは、珪素の4本の結合基のうち重合(結合)に関与するアルコキシ基を三つ有し、残りの反応に関与しない修飾基を一つ有するものであり、下記化学式(2)により示されるものである。
【0028】
【化2】
【0029】
三官能のアルコキシシランのアルコキシ基(−OR)としては、二官能のアルコキシシランのアルコキシ基(−OR)と同様のものを挙げることができる。また、三官能のアルコキシシランの修飾基(−R)についても、二官能のアルコキシシランの修飾基(−R)と同様のものを挙げることができる。
【0030】
三官能のアルコキシシランにおける修飾基としては、得られる構造体への撥水性や耐熱性等の機能付与の観点からは、メチル基、フェニル基又はフロロアルキル基であることが好ましい。
【0031】
三官能のアルコキシシランとしては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、耐熱性向上の観点からは、メチルトリメトキシシランが特に好ましい。なお、三官能のアルコキシシランとしては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、本発明においては、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランとともに、三官能以上のアルコキシシラン類をさらに共重合させてもよい。ここで、三官能以上のアルコキシシラン類とは、重合(結合)に関与するアルコキシ基が三つ以上のものを指す。三官能以上のアルコキシシラン類としては、たとえば、−Si−C−C−Si−構造または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランが挙げられる。Siの結合基は4つであるが、−Si−C−C−Si−構造または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランを架橋剤として使用することにより、その6つの官能基を利用することができ、より緻密なシリコーンのネットワークを形成することができる。
【0033】
−Si−C−C−Si−構造をもつアルコキシシランとしては、たとえば、1,2−ビス(メチルジエトキシシリル)エタン等が挙げられる。
【0034】
二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランの重合比は、目的とするシリコーン多孔質体の特性等を考慮して適宜選択することができ、特に限定されないが、それらの重合比(二官能のアルコキシシラン:三官能のアルコキシシラン)は、容積比で、好ましくは2:8〜6:4であり、より好ましくは3:7〜5:5である。前記重合比が2:8以上であると、得られる多孔質体への柔軟性付与といった点で好ましい。また、前記重合比が6:4以下であると、機械強度維持といった点で好ましい。
【0035】
なお、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランとともに、三官能以上のアルコキシシラン類をさらに共重合させる場合、三官能以上のアルコキシシラン類の重合比は特に限定されないが、たとえば、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランの合計に対する容積比(二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランの合計:三官能以上のアルコキシシラン類)として、たとえば6:4〜4:6である。
【0036】
(切断工程)
次に、上記準備工程により得られたシリコーン多孔質体の湿潤ゲルを液体中で切断する切断工程を実施する。本工程においては、液体中でシリコーン多孔質体の湿潤ゲルに浮力を含む圧力がかかった状態で、当該湿潤ゲルを適切なサイズ及び形状に切断する。このように、湿潤ゲルを液体中で適切なサイズ及び形状に切断すれば、液体中から取り出した際にもその自重による破壊を有効に防止することができる。
【0037】
本工程において、切断回数は一回のみであってもよく、あるいは複数回であってもよい。また、複数回の切断を実施する場合、切断方向は一方向のみであってもよく、あるいは、複数方向から切断を実施してもよい。さらに、一回の切断において、切断の途中で切断方向を任意の方向に変更してもよい。
【0038】
本工程において、湿潤ゲルを切断する切断手段は特に限定されないが、例えば、カッター、ナイフ等の各種刃物等を使用することができる。
【0039】
本工程においては、シリコーン多孔質体の湿潤ゲルを液体中で切断すればよく、使用される液体は特に限定されるものではない。当該液体としては、例えば、上記準備工程におけるゾル−ゲル反応後の反応液であってもよく、当該反応液とは別の液体(以下、その他の液体ともいう)であってもよく、あるいはこれらの混合液であってもよい。当該その他の液体としては、例えば、上述の準備工程における溶媒として使用可能な液体や、後述する洗浄工程において使用される洗浄液として使用可能な液体等が挙げられる。具体的には、例えば、水を用いることができる。
【0040】
使用する液体の温度は、使用する液体の種類等に応じて適宜選択すればよいが、例えば15〜90℃である。また、使用する液体の量は、上述の準備工程で作製した湿潤ゲルのサイズや形状、容器のサイズや形状等に応じて適宜選択すればよいが、湿潤ゲルの全体を浸漬可能な量の液体を使用することが好ましい。
【0041】
本工程において、湿潤ゲルの切断は、上述の準備工程で用いた容器内で行ってもよく、準備工程で用いた反応容器とは別の容器(以下、その他の容器ともいう)内で行ってもよい。
ここで、その他の容器中で切断を行う場合には、例えば、以下のようにして湿潤ゲルを当該その他の容器に移すことができる。すなわち、準備工程で用いる反応容器の一部に反応後の反応液と湿潤ゲルを排出可能な排出口を設けておく。そして、当該反応容器中で湿潤ゲルを作製した後に、当該反応容器の排出口を、その他の容器中に入れられた液体中に接触させる。この状態で反応容器の排出口から湿潤ゲルと反応液を排出させる。このようにすると、当該湿潤ゲルに浮力を含む圧力がかかった状態を維持しながら、当該湿潤ゲルをその他の容器に移すことができる。
【0042】
本工程において、切断後の湿潤ゲルのサイズ及び形状は、液体から取り出した後に自重による破壊が生じないものであれば、特に限定されない。自重による破壊を特に有効に防止するため、また、後述する洗浄工程において未反応の前駆体、触媒及び界面活性剤等の不純物を良好に除去するためには、シート状であることが好ましい。
【0043】
ここで、切断によりシート状のシリコーン多孔質体(以下、シリコーン多孔質シートともいう)を得る場合の、シリコーン多孔質シートの厚みとしては、例えば0.05〜30mmであり、好ましくは0.5〜15mmである。シリコーン多孔質シートの厚みが30mmを超えると、後述する洗浄工程によっても、未反応の前駆体、触媒及び界面活性剤等の不純物を良好に除去できない場合がある。また、シリコーン多孔質シートの厚みが0.05mm未満であると、後述する洗浄及び乾燥工程で破断する場合がある。
【0044】
(洗浄工程)
次に、上記切断工程後のシリコーン多孔質体を洗浄する洗浄工程を実施する。本洗浄工程では、シリコーン多孔質体に残った未反応の前駆体、触媒及び界面活性剤等の不純物を除去する。
【0045】
洗浄方法としては、特に限定されるものではなく、温水洗浄、超音波洗浄、サクションロールによる吸引、マイクロバブル洗浄、シャワー・スプレー洗浄、パンチングメタルロール及び菊型ロールを併用した振動による洗浄(FV洗浄方式、特開2006−320811号公報等参照)等の各種洗浄方法の1種又は2種以上を、適宜適用することができる。
【0046】
上記各洗浄方法のうち、洗浄液を用いる洗浄方法を行う際の洗浄液としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジオキサン、エーテル、酢酸ブチル、アセトニトリル、クロロホルム、アセトン、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン等の各種溶媒の1種又は2種以上を、適宜用いることができる。
【0047】
なお、上記切断工程において洗浄液として使用可能な液体を使用した場合には、切断工程後に続けて洗浄処理を行うことができる。
【0048】
また、洗浄工程においては、切断工程後のシリコーン多孔質体の破断を防止するために、切断工程後のシリコーン多孔質体を支持体上に載置した状態で洗浄してもよい。支持体としては、搬送時に破壊しない程度の引張強度を有する支持体を適宜使用することができるが、例えば、不織布、プラスチック等からなるメッシュ、紙やプラスチック等からなる各種シート等を用いることができる。ここで、支持体としては、不純物を含む洗浄液を容易に透過できる、不織布、メッシュ、多孔性シート等の多孔質基材を用いることが好ましい。
【0049】
(乾燥工程)
上記洗浄工程により不純物を除去した後、シリコーン多孔質体を乾燥させる乾燥工程を実施する。
例えば、洗浄工程後のシリコーン多孔質体をノルマルヘキサン等の非極性溶媒に含浸させて溶媒置換をした後に、たとえば20〜80℃で5〜24時間乾燥させることにより、キセロゲルとしてのモノリス構造を有するシリコーン多孔質体が得られる。なお、乾燥工程を行う際には、前述したように非極性溶媒で置換した後に乾燥させてもよいが、置換工程を経ずに、洗浄液に一部または全部が浸された状態で乾燥させてもよい。また、洗浄工程後のシリコーン多孔質体を炭酸ガス等により超臨界乾燥させることにより、エアロゲルとしてのモノリス構造を有するシリコーン多孔質体を得ることもできる。
【0050】
(ロール化工程)
本実施形態のシリコーン多孔質体の製造方法において、シリコーン多孔質シートを製造した場合においては、上記各工程に加えて、必要に応じて、シリコーン多孔質シートをロール化するロール化工程をさらに実施してもよい。これにより、連通する気孔と、二官能のアルコキシシランと三官能のアルコキシシランとの共重合により形成された、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質シートのロール体を製造することができる。
【0051】
ロール化工程としては、シリコーン多孔質シートをロール状の形態とすることができるものであれば、特に制限されないが、例えば、シート化した薄葉状のシリコーン多孔質シートをロール状の形態に巻き取ることが挙げられる。
【0052】
本実施形態において、シリコーン多孔質体の気孔率は、特に限定されるものではないが、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。気孔率が50%未満であると、柔軟性及び軽量性を損なう場合がある。また、気孔率が高くなりすぎると機械強度が低下する場合があるため、好ましくは95%以下である。
【0053】
また、シリコーン多孔質体の連通する気孔の平均孔径は、特に限定されないが、例えば50〜50,000nmである。また、シリコーン骨格の骨格径も特に限定されないが、例えば50〜10,000nmである。なお、当該シリコーン多孔質体の連通する気孔の平均孔径は、SEMや光学顕微鏡等により測定することができる。また、シリコーン骨格の骨格径は、SEMや光学顕微鏡等により測定することができる。
【0054】
本実施形態の製造方法により得られるシリコーン多孔質体のシリコーン骨格は、二官能のアルコシシシランと、三官能のアルコキシシランとの共重合により形成された、三次元網目状のものである。当該シリコーン多孔質体は、このように形成された三次元網目状のシリコーン骨格と、連通する気孔とを有するモノリス構造を有することによって、高い柔軟性と、シロキサン結合に基づく高い耐熱性とを有することができる。したがって、たとえば、航空、宇宙、自動車、原子力施設、船舶等の分野における、制振材、防振材、クッション材、断熱材、吸音材、通気部材等として有用に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明につき、実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0056】
(実施例1)
5mMの酢酸水溶液150mLに、界面活性剤としての塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム10gと尿素50gを添加し、ガラス容器中で撹拌混合した。
次いで、前駆体としてのメチルトリメトキシシラン30mLとジメチルジメトキシシラン20mLを加え、60分間スターラーで撹拌した。撹拌後に、この溶液を密封容器に移し、80℃で24時間加熱することにより、尿素を加水分解して塩基性条件下としつつ、加水分解した前駆体をゾル−ゲル反応により重縮合させた。
つづいて、得られた湿潤ゲルを、当該湿潤ゲルが十分に浸漬される量の水中に投入したところ、水圧によって形状が保持されており、湿潤ゲルに自重による構造破壊が生じることはなかった。
次いで、湿潤ゲルを水中で刃物によって5mm厚にスライス加工した後、水中から取り出した。前記スライス加工された5mm厚の湿潤ゲルを、支持体としてのポリプロピレン製メッシュ基材上に載置した状態で0.5m/minの搬送速度で搬送しながら、60℃の温水中を50m通過させて不純物を洗浄除去し、70℃で2時間乾燥させることで、薄手シート状のシリコーン多孔質体を得た。
【0057】
(比較例1)
実施例1記載と同様の方法で重縮合させることで得られた湿潤ゲルを反応容器から取り出して、平板(大気下)に載置したところ、自重によって形状が崩れてしまい、所望の形状のシリコーン多孔質体を得ることができなかった。