(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の非水電解質電池用電極、非水電解質電池および電池パックを、図面を参照して説明する。以下の図面の記載において同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する記載は省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる場合があることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
また、以下に示す実施の形態は、発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。発明の技術的思想は、請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
[第1の実施形態]
第1の実施形態によると、非水電解質電池用電極が提供される。本実施形態の非水電解質電池用電極は、集電体と、集電体の片面または両面に形成された合剤層とを持ち、合剤層は、活物質と結着剤(バインダ)とを含む。また、非水電解質電池用電極は、ペレット状に形成して、非水電解質電池の電極として用いることもできる。
【0011】
実施形態の非水電解質電池用電極の合剤層は、ATR(Attenuated Total Reflection:全反射測定)法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、2200〜2280cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
1と、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピーク強度I
2との比I
2/I
1が10以上、20以下である。あるいは、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、1650〜1850cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
3と、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピーク強度I
2との比I
3/I
2が0.1以上、0.8以下である。I
2/I
1が10以上、20以下であって、かつI
3/I
2が0.1以上、0.8以下であることが好ましい。
ATR法とは、測定対象となる試料表面にATR結晶(高屈折率媒質)を圧着して、試料内部にもぐり込んで反射した全反射光を測定することによって試料表層部の赤外吸収スペクトルを測定する方法である。ATR法を用いて測定された赤外吸収スペクトルから、試料表層部の被膜の成分を分析することができる。赤外吸収スペクトルは、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて測定することができる。
【0012】
2200〜2280cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピークはニトリル結合に由来するピークであり、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピークは炭酸リチウムに由来するピークであると考えられる。これらのピークの強度比であるI
2/I
1が10以上、20以下の範囲である合剤層を持つ非水電解質電池用電極を用いることにより、高温環境下での寿命特性に優れた非水電解質電池が得られる。これは、非水電解質電池用電極の合剤層の表面に、ニトリル結合を含む結着剤や被膜が存在し、さらにその被膜が炭酸リチウムのような炭酸塩の無機物を多く含むことによって、高温環境下での過剰な非水電解質の分解と、それに伴う有機物の被膜の形成が抑制されるためであると推察される。ピークの強度比であるI
2/I
1は、好ましくは13以上、19以下であり、さらに好ましくは14以上、18以下である。
【0013】
1650〜1850cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピークは、有機物の被膜に由来するピークと考えられる。炭酸リチウムなどの無機物に対して有機物が少ない被膜が表面に形成されている合剤層を持つ非水電解質電池用電極を用いることにより、高温環境下での寿命特性に優れた非水電解質電池が得られる。これは、非水電解質電池用電極の合剤層表面に形成される無機被膜に対して有機被膜が少ない方が合剤層の電気抵抗が低くなるためと考えられる。有機被膜由来のピークのピーク強度I
3と、炭酸塩由来のピークのピーク強度I
2の比であるI
3/I
2が0.1以上、0.8以下であると上記効果が高くなる。ピークの強度比であるI
3/I
2は、好ましくは0.15以上、0.6以下であり、さらに好ましくは、0.2以上、0.4以下である。
前述のピークの強度比であるI
2/I
1とI
3/I
2は、双方を満足することがさらに望ましい。
【0014】
非水電解質電池用電極の合剤層に含まれる活物質としては、例えば、リチウムを吸蔵する二酸化マンガン(MnO
2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、Li
xMn
2O
4又はLi
xMnO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、Li
xNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えば、Li
xNi
1−yCo
yO
2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えば、Li
xMn
yCo
1−yO
2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi
1−y−zCo
yMn
zO
2)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(例えば、Li
xNi
1−y−zCo
yAl
zO
2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えば、Li
xMn
2−yNi
yO
4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えば、Li
xFePO
4、Li
xMnPO
4、Li
xMn
1−yFe
yPO
4、Li
xCoPO
4)、硫酸鉄(Fe
2(SO
4)
3)およびバナジウム酸化物(例えば、V
2O
5)が挙げられる。上記の化学式おいて、x、yおよびzはそれぞれ、0<x≦1であり、0<y<1であり、0<z<1である。電極活物質として、これらの化合物を単独で用いてもよく、或いは、複数の化合物を組合せて用いてもよい。
【0015】
より好ましい電極活物質としては、例えば、リチウムマンガン複合酸化物(Li
xMn
2O
4)、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Li
xNi
1−yCo
yO
2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(Li
xMn
yCo
1−yO
2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Li
xNi
1−y−zCo
yMn
zO
2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えば、Li
xFePO
4、Li
xMnPO
4、Li
xMn
1−yFe
yPO
4、Li
xCoPO
4)が挙げられる。上記の化学式おいて、x、yおよびzはそれぞれ、0<x≦1であり、0<y<1であり、0<z<1である。
【0016】
特に好ましい電極活物質としては、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Li
xNi
1−y−zCo
yMn
zO
2)、リチウムマンガン複合酸化物(Li
xMn
2O
4)、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リン酸鉄リチウム(Li
xFePO
4)、リン酸マンガン鉄リチウム(Li
xMn
1−yFe
yPO
4)が挙げられる。上記の化学式おいて、x、yおよびzはそれぞれ、0<x≦1であり、0<y<1であり、0<z<1である。リチウムマンガン複合酸化物(Li
xMn
2O
4)は、Mnの一部をAlで置換したリチウムアルミニウムマンガン複合酸化物(Li
xMn
2-aAl
aO
4、0<a≦1)を含む。リン酸マンガン鉄リチウム(Li
xMn
1−yFe
yPO
4)は、Mnの一部をMgで置換したリン酸マンガン鉄マグネシウムリチウム(Li
xMn
1−b−cFe
bMg
cPO
4、0<b+c<1)を含む。
【0017】
第1の実施形態に係る非水電解質電池用電極では、合剤層が、導電剤を含んでいてもよい。導電剤の例としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブのような炭素質物が挙げられる。これらの炭素質物を単独で用いてもよいし、或いは複数の炭素質物を用いてもよい。
【0018】
さらに第1の実施形態に係る非水電解質電池用電極の合剤層に含まれる結着剤は、電極活物質、導電剤および集電体を結着させる作用を有する。結着剤としては、ニトリル結合を有する有機物を用いることが好ましい。ニトリル結合を有する有機物としては、例えばポリアクリロニトリルなどが挙げられる。この他、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムおよびポリアクリル酸などのアクリル樹脂またはその共重合体である結着剤を含んでもよい。
【0019】
非水電解質電池用電極の合剤層に含まれる電極活物質、導電剤および結着剤の比率は、電極活物質が80質量%以上、96質量%以下の範囲、導電材が3質量%以上、18質量%以下の範囲、結着剤が1質量%以上、17質量%以下の範囲にあることが好ましい。導電剤の比率を3質量%以上の量にすることにより、合剤層の集電性能が向上し、合剤層は優れた充放電特性を発揮することができる。導電剤の比率を18質量%以下の量にすることにより、高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤の比率を1質量%以上の量にすることにより、十分な電極強度が得られる。結着剤の比率を17質量%以下の量にすることにより、電極中の絶縁材料である結着剤の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0020】
以上の第1の実施形態の非水電解質電池用電極によれば、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、2200〜2280cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
1と、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピーク強度I
2との比I
2/I
1が10以上、20以下とされていて、高温環境下においても非水電解質を分解させにくい無機物を多く含む被膜が形成されている。このため、本実施形態の非水電解質電池用電極を用いた非水電解質電池は、高温環境下での寿命特性が向上する。
【0021】
また、本実施形態の非水電解質電池用電極によれば、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、1650〜1850cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
3と、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピーク強度I
2との比I
3/I
2が0.1以上、0.8以下とされていて、高温環境下においても電気抵抗が低い。このため、本実施形態の非水電解質電池用電極を用いた非水電解質電池は、高温環境下での寿命特性が向上する。
【0022】
[第2の実施形態]
第2の実施形態によると、非水電解質電池が提供される。
第2実施形態に係る非水電解質電池を
図1および
図2を参照してより具体的に説明する。
図1は、第2の実施形態に係る非水電解質電池の一例を示す断面図である。
図2は、
図1のA部の拡大断面図である。
【0023】
図1および
図2に示す非水電解質電池において、捲回電極群1は、2枚の樹脂フィルムの間に金属層を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装部材2内に収納されている。捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外層の負極3は、
図2に示すように負極集電体3aの内面側の片面に負極活物質を含む負極合剤層3bを形成した構成を有し、その他の負極3は、負極集電体3aの両面に負極合剤層3bを形成して構成されている。正極5は、正極集電体5aの両面に正極合剤層5bを形成して構成されている。
【0024】
捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6は最外層の負極3の負極集電体3aに接続され、正極端子7は内側の正極5の正極集電体5aに接続されている。これらの負極端子6および正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装部材2の開口部から注入されている。袋状外装部材2の開口部を負極端子6および正極端子7を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群1および液状非水電解質を完全密封している。
【0025】
第2実施形態に係る非水電解質電池は、前述した
図1および
図2に示す構成のものに限らず、例えば
図3および
図4に示す構成にすることができる。
図3は、第2の実施形態に係る非水電解質電池の他の例を示す部分切欠斜視図である。
図4は、
図3のB部の拡大断面図である。
【0026】
図3および
図4に示す非水電解質電池において、積層型電極群11は、2枚の樹脂フィルムの間に金属層を介在したラミネートフィルムからなる外装部材12内に収納されている。積層型電極群11は、
図4に示すように正極13と負極14とをその間にセパレータ15を介在させながら交互に積層した構造を有する。
【0027】
正極13は複数枚存在し、それぞれが正極集電体13aと、正極集電体13aの両面に担持された正極合剤層13bとを備える。負極14は複数枚存在し、それぞれが負極集電体14aと、負極集電体14aの両面に担持された負極合剤層14bとを備える。各負極14の負極集電体14aは、一辺が正極13から突出している。突出した負極集電体14aは、帯状の負極端子16に電気的に接続されている。帯状の負極端子16の先端は、外装部材12から外部に引き出されている。また、図示しないが、正極13の正極集電体13aは、負極集電体14aの突出辺と反対側に位置する辺が負極14から突出している。負極14から突出した正極集電体13aは、帯状の正極端子17に電気的に接続されている。帯状の正極端子17の先端は、負極端子16とは反対側に位置し、外装部材12の辺から外部に引き出されている。
【0028】
以下、本実施形態の非水電解質電池に用いられる正極、負極、非水電解質、セパレータ、外装部材、正極端子、負極端子について詳細に説明する。
【0029】
(正極)
正極は、正極集電体と正極合剤層とを含む。正極合剤層は、正極集電体の片面若しくは両面に形成される。正極合剤層は、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、2200〜2280cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
1と、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピーク強度I
2との比I
2/I
1が10以上、20以下である。あるいは正極合剤層は、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、1650〜1850cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
3と、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピーク強度I
2との比I
3/I
2が0.1以上、0.8以下である。正極合剤層は、I
2/I
1が10以上、20以下であって、かつI
3/I
2が0.1以上、0.8以下であることが好ましい。
【0030】
ATR法により測定される正極合剤層のI
2/I
1およびI
3/I
2を上記の範囲にする方法としては、非水電解質電池を高温環境下にて一定時間保管(エージング)する方法が挙げられる。具体的には、0−100%SOC(State of. Charge:充電状態)のいずれかのSOCにおいて、80℃以上95℃以下の高温環境下にて3時間以上、非水電解質電池をエージングする方法が挙げられる。このとき、電池内でガス発生がある場合にはガスを除去してもよい。ガスが発生しない場合にはガス除去を行わなくてもよい。正極合剤層の結着剤としてニトリル結合を有する有機物を用い、炭酸塩を形成しやすい添加剤を加えた非水電解質を用いると、高温環境下でエージングすることで、I
2/I
1が上記の範囲に入るように無機被膜が形成され、過剰な有機被膜の形成を抑制でき、I
3/I
2が上記の範囲に入るようになる。
【0031】
次に、ATR法により正極合剤層の赤外吸収スペクトルを測定する方法を説明する。ATR法により正極合剤層の赤外吸収スペクトルを測定するためには、非水電解質電池を解体し、正極を取り出すことが必要となる。非水電解質電池の解体作業は、電池を放電状態としてから行う。電池の放電状態とは25℃環境下にて0.2C電流にて1.5Vまで定電流放電を行った状態とする。非水電解質電池が直列接続された状態で放電状態とする場合には、電池の直列数×1.5を放電終止電圧とする。例えば5個の非水電解質電池が直列接続されている場合、5×1.5となり、7.5Vが放電終止電圧となる。
【0032】
非水電解質電池から取り出した正極は、エチルメチルカーボネート溶媒に浸漬させて洗浄した後、乾燥する。電池の解体、正極の取り出し、洗浄および乾燥はアルゴン雰囲気など不活性雰囲気下で行う。
【0033】
乾燥後の正極は、窒素雰囲気下のグローブボックス内で3mm角に切り出し、ATR結晶を備えたATRホルダにセットして、正極の正極合剤層とATR結晶とを圧着させる。このときグローブボックス内の露点は−50℃とする。ATRホルダを、グローブボックスから取り出して、FT−IRの分光器に取り付ける。正極合剤層はATR結晶に圧着させているため、正極合剤層を大気に接触させることなく、ATRホルダをFT−IRの分光器に取り付けることができる。赤外吸収スペクトルの測定は、FT−IRの分光器を窒素ガスでパージし、ATRモードで行い、積算回数は256回とする。ATR結晶は、Ge結晶を用い、赤外光の入射角は45°とする。得られた赤外吸収スペクトルはバックグラウンドを除去する補正を行う必要がある。赤外吸収スペクトル中のピークの両端が平坦になるようベースラインの補正を行う。
【0034】
正極合剤層は、正極活物質、導電剤および結着剤を含む。正極活物質、結着剤および導電剤としては、前記第1の実施形態において例示した化合物を用いることができる。
【0035】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、およびSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99重量%以上であることが好ましい。Fe、Cu、Ni、Crなどの遷移金属を含有する場合、それらの含有量は1質量%以下であることが好ましい。
正極合剤層の密度は、3g/cm
3以上であることが好ましい。
【0036】
正極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、正極活物質、導電剤および結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥して、正極合剤層を形成する。その後、プレスを施す。或いは、正極活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成し、正極合剤層として用いることもできる。
【0037】
(負極)
負極は、負極集電体および負極合剤層を含む。負極合剤層は、負極集電体の片面若しくは両面に形成される。
【0038】
負極合剤層は、負極活物質、導電剤および結着剤を含む。
負極活物質としてはグラファイト、ハードカーボンなどの炭素質物や、スピネル型チタン酸リチウム、斜方晶型Na含有ニオブチタン複合酸化物、Ti
1−xM1
xNb
2−yM2
yO
7−δ(0≦x<1、0≦y<1、−0.5≦δ≦0.5、M1およびM2は、Mg,Fe,Ni,Co,W,TaおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を表す、前記M1と前記M2とは、互いに同じ金属元素であってもよいし、互いに異なる金属元素であってもよい)、単斜晶系チタン複合酸化物、アナターゼ型チタン複合酸化物およびラムスデライド型チタン酸リチウムやTiNb
2O
7,Ti
2Nb
2O
9などのようなチタン含有酸化物を含んでもよい。斜方晶型Na含有ニオブチタン複合酸化物は、Li
2+vNa
2−wM1
xTi
6−y−zNb
yM2
zO
14+δ(M1はCs,K,Sr,BaおよびCaからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を表し、M2はZr,Sn,V,Ta,Mo,W,Fe,Co,MnおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を表し、0≦v≦4、0<w<2、0≦x<2、0<y≦6、0≦z<3、−0.5≦δ≦0.5)である。
【0039】
負極活物質は、好ましくは炭素質物、スピネル構造のチタン酸リチウム、斜方晶型Na含有ニオブチタン複合酸化物、Ti
1−xM1
xNb
2−yM2
yO
7−δ、単斜晶系チタン複合酸化物、TiNb
2O
7,Ti
2Nb
2O
9などのようなチタン含有酸化物である。特に、好ましくは、グラファイト、ハードカーボン、スピネル型チタン酸リチウム、斜方晶型Na含有ニオブチタン複合酸化物、Ti
1−xM1
xNb
2−yM2
yO
7−δおよび単斜晶系チタン複合酸化物である。
【0040】
導電剤は、集電性能を高め、また、活物質と集電体との接触抵抗を抑える作用を有する。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブのような炭素質物が含まれる。これらの炭素質物を単独で用いてもよいし、或いは複数の炭素質物を用いてもよい。
【0041】
結着剤は、活物質、導電剤および集電体を結着させる作用を有する。結着剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、フッ素系ゴムおよびポリアクリル酸などのアクリル樹脂またはその共重合体である結着剤を含んでもよい。
【0042】
負極活物質、導電剤および結着剤の配合比は、負極活物質は70質量%以上、97質量%以下、負極導電剤は2質量%以上、28質量%以下、結着剤は1質量%以上、28質量%以下の範囲であることが好ましい。導電剤の配合比が2質量%未満であると、負極合剤層の集電性能が低下し、非水電解質電池の大電流特性が低下する恐れがある。また、結着剤の配合比が1質量%未満であると、負極合剤層と負極集電体の結着性が低下し、サイクル特性が低下する恐れがある。一方、高容量化の観点から、導電剤および結着剤の配合比は各々28質量%以下であることが好ましい。
【0043】
負極集電体は、0.0Vから3.0Vの電位範囲において電気化学的に安定である銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔、アルミニウム箔若しくはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、CuおよびSiのような元素を含むアルミニウム合金箔から形成されることが好ましい。
【0044】
負極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、負極活物質、導電剤および結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、負極集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥して、負極合剤層を形成する。その後、プレスを施す。或いは、負極活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成し、負極合剤層として用いることもできる。
【0045】
(非水電解質)
非水電解質としては、電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質、液状の有機溶媒と高分子材料を複合化したゲル状の有機電解質、または、リチウム塩電解質と高分子材料を複合化した固体非水電解質が挙げられる。また、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)を非水電解質として用いてもよい。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)等が挙げられる。非水電解質は、液状もしくはゲル状で、沸点が100℃以上で、有機電解質または常温溶融塩を含有することが好ましい。液状の有機電解質は、電解質を0.5〜2.5mol/Lの濃度で有機溶媒に溶解することにより、調製される。これにより、低温環境下においても高出力を取り出すことができる。有機電解質における電解質の濃度のより好ましい範囲は、1.5〜2.5mol/Lの範囲である。なお、液状非水電解質は、非水電解液とも称することもある。
【0046】
電解質の例としては、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミトリチウム[LiN(CF
3SO
2)
2]およびトリストリフルオロメチルスルホン酸リチウム(Li(CF
3SO
2)
3C)等のようなリチウム塩が挙げられる。これらの電解質は、単独で又は2種類以上を組合せて用いることができる。これらの中でも、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を含むものは、高電位においても酸化し難いため好ましい。
【0047】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate:PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate:EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate:VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate:DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate:DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate:MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran:THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane:DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxyethane:DME)、ジエトエタン(diethoxyethane:DEE)のような鎖状エーテル;アセトニトリル(acetonitrile:AN)およびスルホラン(sulfolane:SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で又は2種類以上を組合せて用いることができる。
【0048】
より好ましい有機溶媒の例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群から選択される少なくとも1種の第1の溶媒と、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびメチルエチルカーボネート(MEC)よりなる群から選択される少なくとも1種の鎖状カーボネートからなる第2の溶媒とを含む混合溶媒が挙げられる。この混合溶媒は、4.4〜4.5Vの高電位での安定性が高い。このような混合溶媒を用いることによって、高温特性および低温特性の優れた非水電解質電池を得ることができる。第1の溶媒と第2の溶媒とを含む混合溶媒において、第2の溶媒の配合比は70体積%以上であることが好ましい。
【0049】
さらに電解液には添加剤を加えることができる。添加剤は、Li
2CO
3のような無機化合物を被膜として形成するものが好ましい。無機化合物の被膜を形成する化合物としては、例えばLiPF
2O
2、Li
2PFO
3、リチウムビスオキサレートボレート(lithium bisoxalate borate:LiBOB)、リチウムオキサレートジフルオロボレート(lithium oxalate difluoroborate:LiODFB)、トリストリメチルシリルボレート(tris(trimethylsilyl)borate:TMSB)、トリストリメチルシリルホスフェート(tris(trimethylsilyl)phosphate:TMSP)、フルオロエチレンカーボネート(fluoro ethylene carbonate:FEC)などが挙げられる。これらの化合物の濃度は、非水電解質の全体量に対して0.1〜5質量%の範囲にあることが好ましい。
【0050】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(polyethylene:PE)、ポリプロピレン(polypropylene:PP)、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate:PET)、セルロースおよびポリフッ化ビニリデン(PVdF)のような材料から形成された多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を用いることができる。さらに多孔質フィルムに無機化合物を塗布したセパレータも使用できる。
【0051】
(外装部材)
外装部材としては、ラミネートフィルム製の袋状容器又は金属製容器が用いられる。
形状としては、扁平型、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、積層型等が挙げられる。なお、無論、携帯用電子機器等に積載される小型電池の他、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池でも良い。
【0052】
ラミネートフィルムとしては、樹脂フィルム間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂フィルムには、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロンおよびポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。ラミネートフィルムは、肉厚が0.2mm以下であることが好ましい。
【0053】
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されることができる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛およびケイ素のような元素を含むことが好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属の含有量は100 ppm以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることが可能となる。金属製容器は、肉厚が0.5mm以下であることが好ましく、肉厚が0.2mm以下であることがより好ましい。
【0054】
(正極端子)
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3.0V以上4.5V以下の範囲において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成される。アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、CuおよびSiのような元素を含むアルミニウム合金から形成されることが好ましい。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0055】
(負極端子)
負極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が1.0V以上3.0V以下の範囲において電気的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成される。銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,Siのような元素を含むアルミニウム合金から形成されることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0056】
以上の第2の実施形態によれば、正極として、上述の第1の実施形態に係る非水電解質電池用電極を用いるので、高温環境下において優れた寿命特性を有する非水電解質電池を提供することができる。
【0057】
[第3実施形態]
第3の実施形態によると、パック電池が提供される。
本実施形態に係る電池パックは、上記第2実施形態に係る非水電解質電池(即ち、単電池)を二個以上有する。二個以上の非水電解質電池は、それぞれ直列また並列に電気的に接続して配置される。
【0058】
このような電池パックを
図5および
図6を参照して詳細に説明する。
図5に示す電池パックにおいては、単電池21として、
図1に示す非水電解質二次電池を使用している。
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子6および正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することによって組電池23を構成している。これらの単電池21は、
図6に示すように、互いに電気的に直列に接続されている。
【0059】
プリント配線基板24は、単電池21の側面のうち、負極端子6および正極端子7が延出する側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、
図6に示すようにサーミスタ25、保護回路26および外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池23と対向する保護回路基板24の面には組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0060】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29,31は、プリント配線基板24に形成された配線32,33を通して保護回路26に接続されている。
【0061】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出し、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34aおよびマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。
図5および
図6の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35を接続し、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0062】
組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。具体的には、保護シート36は、組電池23の側面のうち正極端子7および負極端子6が突出する側面以外の三側面に配置されている。
【0063】
組電池23は、各保護シート36およびプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向に沿った両方の内側面と短辺方向に沿った一方の内側面のそれぞれに保護シート36が配置されている。短辺方向に沿って配置されている保護シート36の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36およびプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0064】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0065】
図5、
図6では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続してもよい。組み上がった電池パックを直列、並列に接続することもできる。
【0066】
なお、電池パックの態様は用途により適宜変更される。実施形態に係る電池パックの用途としては、大電流を取り出したときに優れたサイクル性能を示すことが要求されるものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、高温耐久性の優れた非水電解質二次電池を用いた電池パックは、車載用に好適に用いられる。
【0067】
以上の第3の実施形態によれば、上記の第2実施形態に係る優れた寿命特性を有する非水電解質電池を備えることにより、高温環境下において優れた寿命特性を有する電池パックを提供することができる。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
【0070】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末を90質量%、導電剤としてアセチレンブラックを5質量%、結着剤としてポリアクリロニトリルを5質量%の比率にてN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し後、乾燥し、プレスすることにより正極合剤層の密度が3.2g/cm
3の正極を作製した。
【0071】
(負極の作製)
負極活物質としてLi
4Ti
5O
12粉末を90質量%、導電剤としてアセチレンブラックを5質量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5質量%の比率にてN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥させた。集電体と乾燥したスラリーとをプレスすることにより負極合剤層の密度が2.0g/cm
3の負極を作製した。
【0072】
(電極群の作製)
正極、厚さ25μmのポリエチレン製多孔質フィルムからなるセパレータ、負極およびセパレータをこの順序で積層した後、得られた積層体を渦巻き状に捲回した。これを90℃で加熱プレスすることにより、幅が30mm、厚さ3.0mmの扁平状電極群を作製した。得られた電極群をラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥を施した。ラミネートフィルムとしては厚さ40μmのアルミニウム箔の両面にポリプロピレン層を形成して構成され、全体の厚さが0.1mmのものを使用した。
【0073】
(液状非水電解質の調製)
プロピレンカーボネート(PC)およびジエチルカーボネート(DEC)を1:2の体積比率で混合して混合溶媒とした。この混合溶媒に電解質としてLiPF
6を1Mとなるように溶解させ、さらにLiPF
2O
2を液状非水電解質の全体量に対して1.5質量%となるように添加して液状非水電解質を調製した。
【0074】
(非水電解質電池の製造)
電極群を収納したラミネートフィルムのパック内に液状非水電解質を注入した。その後、パックをヒートシールにより完全密閉し、前述した
図1に示す構造を有し、幅35mm、厚さ3.2mm、高さが65mmの非水電解質電池を製造した。製造した非水電解質電池は、以下の充放電処理とエージング処理とを行なった。
【0075】
(充放電処理)
非水電解質電池を、25℃の環境下にて、充電電圧を2.6Vとし、放電電圧を1.8Vとして、電流レート0.2Cで充放電を3回行なった。
(エージング処理)
非水電解質電池の充電状態を50%SOCに調整した後、80℃の環境下にて3時間保管した。
【0076】
(充放電サイクル試験)
エージング処理後の非水電解質電池を用いて、60℃環境における充放電サイクル試験を行った。充電は定電流定電圧モードで行った。各サイクルの充電条件は、充電レートを10C、充電電圧を2.6Vとした。また、充電終止条件を3時間経過したとき、もしくは0.05C電流値に到達した時点とした。放電は定電流モードで行った。放電終止電圧は1.8Vとした。充放電サイクル試験において実施するサイクル数は、1000サイクルとした。
【0077】
[実施例2]
正極の作製において、正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の代わりにLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0078】
(実施例3)
正極の作製において、正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の代わりにLiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0079】
(実施例4)
正極の作製において、正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の代わりにLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0080】
(実施例5)
正極の作製において、正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の代わりにLiAl
0.15Mn
1.85O
4粉末を用いたこと、充放電処理と充放電サイクル試験とに際して、充電電圧を2.7Vとし、放電電圧を1.8Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0081】
(実施例6)
正極の作製において、正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の代わりにLiFePO
4粉末を用いたこと、充放電処理と充放電サイクル試験とに際して、充電電圧を2.1Vとし、放電電圧を1.6Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0082】
(実施例7)
正極の作製において、正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の代わりにLiMn
0.85Fe
0.1Mg
0.05PO
4粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0083】
(実施例8)
正極の作製において、LiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の量を72質量%とし、正極活物質としてさらにLiCoO
2粉末を18質量%加えたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0084】
(実施例9)
正極の作製において、LiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の量を45重量%とし、正極活物質としてさらにLiCoO
2粉末を45質量%加えたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0085】
(実施例10)
正極の作製において、LiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の量を72質量%とし、正極活物質としてさらにLiFePO
4粉末を18質量%加えたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0086】
(実施例11)
正極の作製において、正極活物質として、LiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2の代わりにLiAl
0.15Mn
1.85O
4を72質量%およびLiCoO
2を18質量%用いたこと、充放電処理と充放電サイクル試験とに際して、充電電圧を2.7Vとし、放電電圧を1.8Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0087】
(実施例12)
負極の作製において、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12粉末の代わりに単斜晶系チタン複合酸化物TiO
2(B)粉末を用いたこと、充放電処理に際して、充電電圧を2.8Vとし、放電電圧を1.8Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0088】
(実施例13)
負極の作製において、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12粉末の代わりにTiNb
2O
7粉末を用いたこと、充放電処理と充放電サイクル試験とに際して、充電電圧を2.8Vとし、放電電圧を1.8Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0089】
(実施例14)
負極の作製において、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12粉末の代わりに斜方晶型Na含有ニオブチタン複合酸化物Li
2Na
1.8Ti
5.8Nb
0.2O
14粉末を用いたこと、充放電処理と充放電サイクル試験とに際して、充電電圧を3.0Vとし、放電電圧を1.8Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0090】
(実施例15)
正極の作製において、正極活物質としてLiNi
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2粉末の代わりにLiFePO
4粉末を用いた。負極の作製において、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12粉末の代わりにグラファイト粉末を用い、集電体としてアルミニウム箔の代わりに銅箔を用いた。液状非水電解質の調製において、PCの代わりにエチレンカーボネート(EC)を用い、ECとDECとを1:2の体積比率で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1Mとなるように溶解させ、さらに液状非水電解質の全体量に対してLiPF
2O
2を1.5質量%、FECを1質量%添加した。充放電処理と充放電サイクル試験とに際して、充電電圧を3.6Vとし、放電電圧を2.4Vとした。以上のこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0091】
(実施例16)
負極活物質として、グラファイト粉末の代わりにハードカーボン粉末を用いたこと以外は、実施例15と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0092】
(実施例17)
エージング処理時の非水電解質電池の充電状態を50%から5%としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0093】
(実施例18)
エージング処理時の非水電解質電池の充電状態を50%から80%としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0094】
(実施例19)
エージング処理時の非水電解質電池の充電状態を50%から100%としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0095】
(実施例20)
エージング処理の時間を3時間から24時間としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0096】
(実施例21)
エージング処理の条件を85℃環境下にて3時間としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0097】
(実施例22)
エージング処理の条件を90℃環境下にて3時間としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0098】
(実施例23)
エージング処理の条件を95℃環境下にて3時間としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0099】
(実施例24)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒にLiPF
2O
2の代わりにLi
2PF
3Oを1.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0100】
(実施例25)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒にLiPF
2O
2の代わりにLiBOBを1.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0101】
(実施例26)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒にLiPF
2O
2の代わりにLiODFBを1.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0102】
(実施例27)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒に添加するLiPF
2O
2の量を1.5質量%から1.0質量%として、混合溶媒にTMSBを1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0103】
(実施例28)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒に添加するLiPF
2O
2の量を1.5質量%から1.0質量%として、混合溶媒にLiODFBを1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0104】
(比較例1)
エージング処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0105】
(比較例2)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒にLiPF
2O
2を添加しなかったこと、エージング処理時の非水電解質電池の充電状態を50%から100%としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0106】
(比較例3)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒にLiPF
2O
2を添加しなかったこと、エージング処理時の非水電解質電池の充電状態を50%から100%としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0107】
(比較例4)
液状非水電解質の調製において、混合溶媒にLiPF
2O
2を添加しなかったこと、エージング処理の時間を3時間から24時間としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0108】
(比較例5)
正極の作製において、結着剤としてポリアクリロニトリルの代わりにPVdFを用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池を製造し、充放電サイクル試験を行なった。
【0109】
実施例1〜28および比較例1〜5にて行った充放電サイクル試験の1000サイクル後の放電容量の維持率を、表1に示す。
【0110】
また、実施例1〜28および比較例1〜5の充放電サイクル試験後の非水電解質電池の正電極合剤層について、前述の方法により、ATR法を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。得られた赤外吸収スペクトルから、2200〜2280cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
1、1400〜1480cm
−1の波長範囲に現れるピークの中で最も強いピーク強度I
2、1650〜1850cm
−1の波長範囲に現れるピーク中で最も強いピーク強度I
3をそれぞれ計測し、I
2/I
1とI
3/I
2を算出した。その結果を表1に示す。また、
図5に、実施例2および比較例2の充放電サイクル試験後の非水電解質電池の正極合剤層について、ATR法により測定した赤外吸収スペクトルを示す。
【0111】
【表1】
【0112】
図5に示す赤外吸収スペクトルにおいて、2200〜2280cm
−1の波長範囲に現れるピークはニトリル基、すなわち、結着剤として用いたポリアクリロニトリルに由来するピークである。実施例2および比較例2で用いたポリアクリロニトリルの量は同じであるため、ピーク強度I
1は実施例2と比較例2でほぼ同じとなる。従って、実施例2のI
2/I
1が、比較例2のI
2/I
1よりも大きいことから、実施例2で製造した非水電解質電池は、比較例2で製造した非水電解質電池よりも正極合剤層の表面に形成されている無機物被膜が多いことがわかる。また、実施例2のI
3/I
2が、比較例2のI
3/I
2よりも小さいことから、実施例2で製造した非水電解質電池は、比較例2で製造した非水電解質電池よりも正極合剤層の表面に形成されている有機物被膜の量が少ないことがわかる。
【0113】
実施例1と比較例1とを比較すると、エージング処理を行なうことによって、I
2/I
1を10以上、20以下に制御でき、過剰な有機被膜の形成を抑制しているため、I
3/I
2を0.1以上、0.8以下に制御可能となることがわかる。比較例1の高温サイクルでの容量維持率が75%であることに対し、実施例1では89%となり、I
2/I
1、I
3/I
2を制御することにより高温サイクルでの容量維持率が高くなることがわかる。
【0114】
実施例2〜11より、正極活物質が異なる場合や、複数の正極活物質を組み合わせた場合においてもI
2/I
1、I
3/I
2を制御することが可能であること、これらを制御することによって、高温環境下での寿命特性を向上させることができることがわかる。
【0115】
実施例12〜16より、負極活物質として、実施例1〜11のようにLi
4Ti
5O
12に限定されることなく、単斜晶径チタン複合酸化物、TiNb
2O
7、斜方晶型Na含有ニオブチタン複合酸化物、グラファイト、ハードカーボンなど各種負極活物質を用いた非水電解質電池においても、正極に所望の被膜形成を行うことが可能となり、高温サイクル特性に優れた非水電解質電池を得ることができることがわかる。
【0116】
実施例17〜23は、エージング処理での非水電解質電池の充電状態や、処理温度、処理時間を変化させた結果を示すが、非水電解質電池の充電状態を5〜100%とした場合、処理温度が80〜95℃とした場合、80℃にて24時間処理した場合においてもI
2/I
1は、10以上20以下となり、優れた高温サイクル特性を示していることがわかる。
【0117】
実施例24〜28は、液状非水電解質に添加した化合物を変更した非水電解質電池の結果を示すが、Li
2POF
3やLiBOBなどの添加剤においても、I
2/I
1を制御できており、高温サイクル特性に優れることがわかる。
【0118】
比較例2〜4は被膜形成が起こりやすくするための化合物を、液状非水電解質に添加せずに、非水電解質電池を高温でエージング処理した結果を示すが、I
2/I
1が10よりも小さく、被膜形成が十分ではないことがわかり、高温サイクル特性においても劣る結果となった。
【0119】
比較例5は、正極の結着剤としてニトリル結合を持たないPVdFのみを用いた場合の結果を示すが、ニトリル結合がないため、I
1は観察されず、I
3/I
2の結果のみを表では示すが、I
3/I
2が1.5となり、有機被膜が多く形成されたと推測される。高温サイクル特性が劣ることから、正極にニトリル結合を持つような結着剤を用い、所望の被膜形成を行うことで高温サイクル特性が向上すると考えられる。