特許第6416462号(P6416462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6416462
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】波長可変レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0687 20060101AFI20181022BHJP
【FI】
   H01S5/0687
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-124866(P2013-124866)
(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公開番号】特開2015-2210(P2015-2210A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【審査官】 高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−119482(JP,A)
【文献】 特開2011−249619(JP,A)
【文献】 特開2011−249618(JP,A)
【文献】 特開2009−088015(JP,A)
【文献】 米国特許第04485475(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子を有する波長選択手段と、前記波長選択手段に設けられ前記波長選択手段の屈折率を制御する制御電極と、前記制御電極と別の制御電極との間に利得を制御する利得電極と、を備える半導体レーザと、
前記半導体レーザを搭載し、前記半導体レーザの温度を制御する第1の温度制御装置と、
前記半導体レーザの出力波長を検知する検知手段と、
前記半導体レーザの出力光が光結合されるエタロンと、
前記エタロンを搭載し、前記エタロンの温度を制御する第2の温度制御装置と、
前記制御電極、前記別の制御電極、前記利得電極、前記第1の温度制御装置および前記第2の温度制御装置に所定の制御値を投入する第1ステップと、前記第1ステップの後、前記エタロンの透過光強度に対応した光強度を検知することで、前記半導体レーザの波長情報を取得し、前記波長情報に基づいて、前記第1の温度制御装置の温度を制御することで、前記波長選択手段の屈折率を制御する第2ステップとを実行するコントローラと、を備え
前記第1ステップにおいて、前記コントローラは、前記半導体レーザの各波長チャネルに対応する前記第1の温度制御装置の初期設定値に基づいて前記第1の温度制御装置に前記制御値を投入し、
前記初期設定値は前記各波長チャネルにおいて同じである、波長可変レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波長可変半導体レーザの波長制御方法には、種々の方法が知られている。典型的な波長可変半導体レーザには、周期的な反射(あるいは利得)ピークを有する波長選択手段が複数内蔵されている。これら複数の波長選択手段におけるピーク波長は、相互に異なっており、両者が一致した波長で発振条件が決定される。このような波長選択手段としては、サンプルドグレーティング(SG)が採用される(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−273400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波長可変半導体レーザの波長制御には高い精度が求められるが、波長可変半導体レーザ、またはこれを制御するためのコントローラなどの動作によっては、指定された波長での安定的なレーザ発振を得ることが困難であった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、指定された波長での安定的なレーザ発振を得ることができる波長可変レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る波長可変レーザ装置は、回折格子を有する波長選択手段、前記波長選択手段に設けられ前記波長選択手段の屈折率を制御する制御電極を備える半導体レーザと、前記半導体レーザを搭載し、前記半導体レーザの温度を制御する温度制御装置と、前記制御電極および前記温度制御装置に所定の制御値を投入する第1ステップと、前記第1ステップの後、前記温度制御装置の温度を制御することで、前記波長選択手段の屈折率を制御する第2ステップとを実行するコントローラと、を備える。
【0007】
前記波長可変レーザ装置は、さらに波長検知部を備え、前記第1ステップにおいては、前記温度制御装置の温度が一定に制御され、前記第2ステップにおいては、前記波長検知部による検知結果に基づいて、前記温度制御装置の制御が実行されてもよい。前記波長選択手段を複数備え、前記波長選択手段のそれぞれは、異なる波長特性のピークを有し、前記第1ステップは、前記半導体レーザの前記波長選択手段それぞれに対する制御を実施することで、前記複数の波長特性のピークを一致させてもよい。
【0008】
前記第2ステップは、前記温度制御装置の温度を制御することで、前記複数の波長選択手段の波長特性のピークを一致させた状態で、一致させた波長を変化させる制御をなしてもよい。前記半導体レーザの出力光が結合されるエタロンの温度を制御するための第2の温度制御装置をさらに備え、前記第2ステップは、前記エタロンの透過光強度に対応した光強度を検知することで、前記半導体レーザの波長情報を取得し、前記波長情報に基づいて、前記温度制御装置の温度を制御してもよい。前記制御電極は、前記波長選択手段へ電流を注入する電極、あるいは半導体レーザ上に配置されたヒータの温度を制御する電極であってもよい。
【0009】
本発明に係る他の波長可変レーザ装置は、回折格子を有する波長選択手段、前記波長選択手段に設けられ前記波長選択手段の屈折率を制御する制御電極を備える半導体レーザと、前記半導体レーザを搭載し、前記半導体レーザの温度を制御する温度制御装置と、コントローラと、前記コントローラと接続されたメモリとを備え、前記メモリには、前記制御電極および前記温度制御装置に投入する制御値が、複数の波長チャネル毎に記録されてなることを特徴とする。前記複数の波長チャネルのうち少なくとも1つは、前記温度制御装置に投入する制御値が他の波長チャネルと異なっていてもよい。
【0010】
本発明に係る他の波長可変レーザ装置は、回折格子を有する波長選択手段、前記波長選択手段に設けられ前記波長選択手段の屈折率を制御する制御電極を備える半導体レーザと、前記半導体レーザを搭載し、前記半導体レーザの温度を制御する第1の温度制御装置と、前記半導体レーザと光結合されるエタロンと、前記エタロンを搭載する第2の温度制御装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る波長可変レーザ装置によれば、指定された波長での安定的なレーザ発振を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る半導体レーザの全体構成を示す模式的断面図である。
図2】比較例に係る波長可変レーザ装置のシステム全体構成を示す図である。
図3】実施例1に係る波長可変レーザ装置のシステムを示す図である。
図4】温度制御装置を用いたAFC制御のフローチャートの一例を表す図である。
図5】パラメータを格納するデータテーブルの構造を示す図である。
図6】パラメータを格納するデータテーブルの構造を示す図である。
図7】実施例4に係る波長可変レーザ装置のシステムを示す図である。
図8】温度制御装置を用いたAFC制御のフローチャートの一例を表す図である。
図9】実施例5に係る半導体レーザの全体構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1に係る半導体レーザ100の全体構成を示す模式的断面図である。図1に示すように、半導体レーザ100は、第1SG−DFB(Sampled Grating Distributed Feedback)領域Aと第2SG−DFB領域Bとが互いに連結された構造を有する。半導体レーザ100においては、これらの2つのSG−DFB領域が、レーザ発振のための共振器として機能する。
【0015】
第1SG−DFB領域Aおよび第2SG−DFB領域Bは、基板1上に、下クラッド層2、導波路コア3、上クラッド層4、およびコンタクト層5が形成された構造を有する。導波路コア3は、光伝搬方向において利得領域31と屈折率可変領域32とが交互に形成された構造を有する。コンタクト層5は、利得領域31と屈折率可変領域32との界面の上方でそれぞれ分離されている。コンタクト層5において、分離された箇所には絶縁膜6が形成されている。利得領域31の上方のコンタクト層5上には、利得制御用電極7が形成されている。屈折率可変領域32の上方のコンタクト層5上には、屈折率制御用電極8が形成されている。
【0016】
回折格子(グレーティング)9は、下クラッド層2において、利得領域31下にそれぞれ形成されている。各回折格子9は、所定の間隔を空けて離散的に形成されている。なお、本実施例において回折格子とは、高屈折率の領域と低屈折率の領域とが繰り返し形成された構造を採用している。このほか、高屈折層と低屈折層との界面に凹凸を設けた構造を採用することもできる。また、回折格子9が設けられている領域と、その回折格子9に連結し前後が回折格子9によって挟まれたスペース部の組み合わせ構造をセグメントと称する。
【0017】
本実施例においては、第1SG−DFB領域A側をフロント側とし、第2SG−DFB領域B側をリア側とする。第1SG−DFB領域Aおよび第2SG−DFB領域Bにおいて、基板1、下クラッド層2、導波路コア3、および上クラッド層4は、一体的に形成されている。
【0018】
第1SG−DFB領域A側の基板1、下クラッド層2、導波路コア3および上クラッド層4の端面には、AR(Anti Reflection)膜11が形成されている。すなわち、AR膜11は、半導体レーザ100のフロント側端面に形成されている。第2SG−DFB領域B側の基板1、下クラッド層2、導波路コア3、および上クラッド層4の端面においては、AR膜12が形成されている。すなわち、AR膜12は、半導体レーザ100のリア側端面に形成されている。基板1下には、裏面電極10が形成されている。裏面電極10は、第1SG−DFB領域Aおよび第2SG−DFB領域Bにまたがって形成されている。
【0019】
基板1は、例えば、InPからなる結晶基板である。下クラッド層2および上クラッド層4は、例えばInPからなり、電流狭窄を行うとともに導波路コア3を往復するレーザ光を閉じ込める機能を有する。導波路コア3の利得領域31は、量子井戸活性層であり、例えばGa0.32In0.68As0.920.08からなる井戸層とGa0.22In0.78As0.470.53からなる障壁層とが交互に積層された構造を有する。導波路コア3の屈折率可変領域32は、例えばGa0.28In0.72As0.610.39結晶からなる導波層である。コンタクト層5は、例えばGa0.47In0.53As結晶からなる。
【0020】
これら各半導体は、たとえばMOCVD法などの一般的なエピタキシャル成長法によって形成することができる。また、回折格子およびスペース部を含む構造は、干渉露光法およびフォトリソグラフィー法によって形成することができる。絶縁膜6は、SiN,SiO等の絶縁体からなる保護膜である。利得制御用電極7および屈折率調整用電極8は、Au等の導電性材料からなる。AR膜11,12は、例えば0.3%以下の反射率を有する端面膜であり、例えばMgFおよびTiONからなる誘電体膜からなる。ここで、反射率とは、半導体レーザ内部の導波路を伝播する光に対する反射率を指す。屈折率可変領域32に電流注入することで1.5%程度の等価屈折率を変えることが可能である。
【0021】
第1SG−DFB領域Aを構成する複数のセグメントSG1は、実質的に同一の光学長を有する。第2SG−DFB領域Bを構成する複数のセグメントSG2は、実質的に同一の光学長を有するが、セグメントSG1の光学長とは異なる光学長を有している。第1SG−DFB領域Aの屈折率制御用電極8への屈折率制御信号SG1と、第2SG−DFB領域Bの屈折率制御用電極8への屈折率制御信号SG2とによって、セグメントSG1の波長特性のピークとセグメントSG2の波長特性のピークとが制御される。セグメントSG1の波長特性のピークとセグメントSG2の波長特性のピークとが一致した波長で発振波長が選択される。また、第1SG−DFB領域Aおよび第2SG−DFB領域Bの利得制御用電極7への利得制御信号Gによって、利得が制御される。
【0022】
図2は、比較例に係る波長可変レーザ装置201のシステム全体構成を示す図である。波長可変レーザ装置201は、コントローラ41、温度制御装置42、サーミスタ43、ビームスプリッタ44,45、受光素子46,47、エタロン48、メモリ49などを備える。
【0023】
コントローラ41は、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、電源などを備える。RAMは、中央演算処理装置が実行するプログラム、中央演算処理装置が処理するデータなどを一時的に記憶するメモリである。メモリ49は、書換え可能な記憶装置であり、書き換え可能な記憶装置を用いる。書き換え可能な記憶装置としては、典型的にはフラッシュメモリが挙げられる。メモリ49は、半導体レーザ100の各部の初期設定値およびフィードバック制御目標値を各チャネルに対応させて記憶している。チャネルとは、半導体レーザ100の各発振波長に対応する番号である。例えば、各チャネルは、ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)のグリットに対応している。
【0024】
温度制御装置42は、例えば、半導体レーザ100の全体の温度を制御する装置であり、例えばペルチェ素子を含み、TEC(Thermoelectric cooler)として機能する。サーミスタ43は、温度制御装置42の温度を検出することによって、半導体レーザ100の温度を間接的に検出する。なお、半導体レーザ100、サーミスタ43、ビームスプリッタ44,45、受光素子46,47およびエタロン48は、温度制御装置42上に配置されている。
【0025】
コントローラ41は、サーミスタ43の温度を参照し、温度制御装置42の各部品の搭載面の温度を一定に保持する。コントローラ41は、この状態で、セグメントSG1およびセグメントSG2に対する屈折率制御値(屈折率制御信号SG1および屈折率制御信号SG2)を半導体レーザ100に入力する。また、半導体レーザ100の利得制御用電極7に利得制御信号Gを入力することで、入力されたパラメータに基づいた波長にてレーザ発振がなされる。
【0026】
半導体レーザ100の出力光は、ビームスプリッタ44で分岐される。ビームスプリッタ44の分岐によって得られる一方の分岐光は、受光素子46に入射され、他方の分岐光はビームスプリッタ45でさらに分岐される。ビームスプリッタ45の分岐によって得られる一方の分岐光は、エタロン48を介して受光素子47に入射され、他方の分岐光は、外部に出力される。以上の構成により、受光素子46は、半導体レーザ100の出力光強度を測定する。受光素子47は、エタロン48の透過光強度を測定する。なお、エタロン48は、光学的平面をもつ反射鏡,あるいは半透鏡2枚を,ある間隔で平行配置した光学素子である。
【0027】
コントローラ41は、受光素子46の出力に基づいて、半導体レーザ100の光出力強度を制御する。また、受光素子46が検出する光強度と受光素子47が検出する光強度との比によって示される波長情報に基づき、指定波長を維持する制御(AFC制御:Automatic Frequency Control)を実施する。ここで、コントローラ41が指定波長を維持する制御を行うためには、セグメントSG1あるいはセグメントSG2によって半導体レーザ100の屈折率を制御する動作がなされる。つまり、受光素子46が検出する光強度と受光素子47が検出する光強度との比が指定された値と異なる場合には、指定された値が得られるまで、セグメントSG1およびセグメントSG2の屈折率制御値を変化させる動作が実施される。
【0028】
以上の波長制御動作が完了するまでは、シャッタ(図示せず)によって外部への光出力が遮断されている。以上の動作が実施されることで、セグメントSG1の波長特性のピークとセグメントSG2の波長特性のピークとを一致させることができ、この重なり合った波長特性のピークで発振する。その後、シャッタを開くことで、外部に光出力がなされる。なお、外部への光出力がなされた後もAFC制御は継続される。なお、シャッタとして、半導体レーザ100と集積化されたSOA(Semiconductor Optical Amplifier)などを用いることができる。
【0029】
ところで、セグメントSG1およびセグメントSG2に入力される値(屈折率制御信号SG1および屈折率制御信号SG2)は、コントローラ41に内蔵された、セグメントSG1,SG2それぞれに対応したD/Aコンバータによって制御される。コントローラ41の内部において、各D/Aコンバータの出力値の制御は、非同期あるいはシーケンシャルになされることが典型的である。つまり、セグメントSG1およびセグメントSG2の制御動作が完全に同時に実施されない場合がある。ここでセグメントSG1の波長特性のピークとセグメントSG2の波長特性のピークとが一旦一致した後、AFC制御を実施する場合を考える。
【0030】
上記のように、コントローラ41によるセグメントSG1,SG2の制御が同時に行われない場合、一旦一致したピークがずれる場合がある。これは、出力波長が別の波長にジャンプする可能性を生む。また、たとえセグメントSG1,SG2の屈折率制御が同時になされたとしても、セグメントSG1,SG2の屈折率の制御割合が同一でないと、同じくピークのズレが生じる。屈折率制御のための電流注入は、セグメントSG1,SG2に対して局所的に行われるため、セグメントSG1,SG2への入力電流が同時に変化したとしても、半導体内部での屈折率変化が同時に生じる保証は無い。特に波長制御構造が複雑化した半導体レーザにおいては、これは顕著である。また、屈折率制御をヒータによって行う場合も、ヒータが接地された領域で局所的に加熱が行われることから、屈折率制御層に対する温度変化の割合が揃わず、ピークのズレが生じやすい。
【0031】
図3は、実施例1に係る波長可変レーザ装置200のシステムを示す図である。本実施例では、AFC制御を、半導体レーザ100を搭載した温度制御装置42の温度制御によって実施する。温度制御装置42は半導体レーザ100全体が実装されているため、半導体レーザ100の温度を均等に変化させることができる。このため、屈折率制御信号SG1,SG2を用いてSG2セグメントSG1,SG2に対してAFC制御を行う場合に比べて、コントローラ41による制御のズレが解消される。また、半導体レーザ100全体の温度を制御することから、レーザチップ内における屈折率変化割合のバラツキが小さい。
【0032】
一方、本実施例では半導体レーザ100を搭載した温度制御装置42とは別に、エタロン48が搭載される温度制御装置50を用意している。これは、半導体レーザ100を搭載した温度制御装置42の温度を制御することでAFC制御を実施する場合の弊害を防止するためである。すなわち、本実施例によってAFCを行った場合、エタロン48の温度が同時に変化してしまうと、エタロン48の波長特性が変化してしまう。本実施例においては、これを防止するために、エタロン48の温度制御は、半導体レーザ100の温度制御とは別に実施するのである。なお、波長可変レーザ装置200は、温度制御装置50の温度を検出するサーミスタ51を備えている。
【0033】
なお、エタロン48の温度は、この波長可変レーザ装置200において必要とされる温度に制御される。すなわち、一定に温度保持される制御のほか、エタロン48の特性を制御することで所望の動作を実現する場合には、その温度は変化することも許容される。
【0034】
図4は、温度制御装置42を用いたAFC制御のフローチャートの一例を表す図である。図4に示すように、コントローラ41は、波長指定情報に基づいて、メモリ49に格納された半導体レーザ100の設定値を選択する(ステップS1)。次に、コントローラ41は、選択した設定値を用いて半導体レーザ100を駆動させる。このとき、屈折率制御信号SG1と屈折率制御信号SG2とによって、セグメントSG1の波長特性のピークとセグメントSG2の波長特性のピークとが制御される。(ステップS2)。
【0035】
次に、コントローラ41は、サーミスタ43が検出する温度Th1が設定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3で「No」と判定された場合、ステップS3が再度実行される。コントローラ41は、ステップS3と並行して、サーミスタ43が検出する温度Th2が設定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4で「No」と判定された場合、ステップS4が再度実行される。
【0036】
ステップS3およびステップS4の両方で「Yes」と判定された場合、コントローラ41は、シャッタを開ける(ステップS5)。次に、コントローラ41は、温度制御装置42の温度制御(温度Th1を制御目標とする制御)を終了する(ステップS6)。これに引き続き、コントローラ41は、温度制御装置42によるAFC制御を開始する(ステップS7)。具体的には、コントローラ41は、受光素子46が検出する光強度と受光素子47が検出する光強度との比を制御目標として、温度制御装置42の温度制御を開始する。この制御は、目標値のみを与える方法、所定の許容レンジを目標値として与える方法のいずれであってもかまわない。このようにして温度制御装置42の制御を実行した結果、前記光強度の比が目標値あるいは許容レンジ内に定まったことをもって、コントローラ41は、ロックフラグを出力する(ステップS8)。
【0037】
図5は、以上の動作を実行するためのパラメータを格納するデータテーブルの構造を示す図である。図5において、Iは利得制御用電極7に入力される利得制御信号Gを示す。また、TTEC1およびTTEC2は、それぞれ温度制御装置42,50の温度制御値を示す。また、PSG1とPSG2は、それぞれセグメントSG1およびセグメントSG2の屈折率制御値を示す。また、Imは受光素子46の目標値、Im/Imは受光素子46と受光素子47のそれぞれ検知出力の比の目標値を示している。これらImおよびIm/Imの比は、フィードバック制御目標値に相当する。
【0038】
図5に示すように、これらパラメータは、波長チャネル毎に定められている。波長チャネルは、半導体レーザ100が出力する波長毎に定められている。これらパラメータは、波長計を使ったチューニング作業によって取得され、メモリ49に格納される。なお、図5の例では、温度制御装置42,50の初期設定値は各波長チャネルにおいて一定である。もちろん、制御を実行している間に、メモリ49に格納されたパラメータと異なる値で制御がなされる場合がある。典型的には、温度制御装置42の温度は、本実施例によるAFCが実行されれば、図5に示す値(TTEC1)から変化することがある。
【0039】
実施例1によれば、半導体レーザ100の全体の温度を制御する温度制御装置42を用いてAFC制御を行うため、AFC制御の精度および安定性が向上する。また、本実施例では、温度制御装置42とは別の温度制御装置50を備えている。この温度制御装置50は、エタロン48の温度を制御するためのものである。エタロン48の温度は、エタロン48の波長特性を決める要素である。半導体レーザ100は、屈折率制御用電極8を備えている。これによって、半導体レーザ100の波長選択手段(本実施例では第1SG−DFB領域Aと第2SG-DFB領域Bに相当)の屈折率を制御している。このため、本来的に温度制御装置42の温度は一定に保持することができる。しかしながら、本実施例によって温度制御装置42の温度を制御して、上記波長選択手段の屈折率を変化させる動作が実行されると、温度制御装置42にエタロン48が搭載された場合には、エタロン48の波長特性が温度制御装置42の温度変化に追随してしまう。本実施例では、エタロン48を温度制御装置42とは別の温度制御装置50に搭載しているため、温度制御装置42の温度変化に追随して、エタロン48の波長特性が変化することを防止することができる。
【実施例2】
【0040】
実施例1は、波長チャネルに該当する波長を出力するための動作について説明した。本実施例は、外部ユニット(図示せず)から指示された出力波長が、メモリ49に格納されている波長チャネルに該当する波長に比べて所定の波長差ΔFを持つ場合の動作を説明するものである。
【0041】
本実施例を実行するにあたっては、図4のフローチャートを踏襲する。本実施例では、図4のステップ1において、メモリ49に格納された設定値(図5に示すパラメータ)に基づき、前記波長差ΔFに基づく設定値の変更のための演算が実施される。
【0042】
本実施例では、屈折率制御信号SG1とSG2の制御目標値であるPSG1とPSG2を変更するための演算を実施する。典型的な方法としては、制御目標値PSG1とPSG2を変更するための波長係数があらかじめ定められており、これを利用して、波長差ΔFを実現するための制御目標値が演算される。
【0043】
また、温度制御装置50の制御目標値TTEC2の変更のための演算も実施される。温度制御装置50の温度をメモリ49に格納された目標値から変更することにより、エタロン48の波長特性をシフトできる。これを利用して、波長差ΔFに相当する温度変化を制御目標値TTEC2に与えるための演算を実施する。これにより、外部ユニットから指示される波長、すなわち波長チャネルに対応した波長から波長差ΔFだけ異なる波長が出力された場合に、メモリ49に格納されているフィードバック制御目標値Im/Imの比が実現されるように制御を行えば、上記指示された波長が出力されることになる。
【0044】
本実施例では、このようにして演算された目標値をもって、波長可変レーザ装置200の制御が実行される。そして、本実施例では、実施例1と同様にAFC制御が実行される。この際、実施例1と同様に屈折率制御信号SG1およびSG2に対してAFC制御を実行するのではなく、温度制御装置42に対してAFC制御を実行する。これにより、実施例1と同様、精度および安定性の高いAFC制御が実行できる。
【実施例3】
【0045】
本実施例は、メモリ49に格納されるパラメータにおいて、本発明を実施するものである。図6は、本実施例によるデータテーブルの構造を示す図である。図6のデータテーブルは、図5に示したデータテーブルの構造と類似しているが、温度制御装置42に対する制御目標値であるTTEC1が、波長毎に異なる値を設定可能となっている点で異なる。
【0046】
図6に示すデータテーブルは、実施例1において説明したように、あらかじめ波長計を利用した測定によって、波長チャネルに対応する所定の波長(いわゆるグリット波長)を実現できるようにチューニングによって得られた値が格納される。ここで、チューニングを実施する際には、第1SG−DFB領域Aと第2SG−DFB領域Bの屈折率を制御する動作が実施される。
【0047】
本実施例では、このチューニング動作において、屈折率制御信号SG1およびSG2を制御するのに加え、温度制御装置42を制御する。典型的には、所定の波長チャネルに対応した波長に近い波長が実現されるまでは、屈折率制御信号SG1およびSG2の制御によりチューニングを実施する。そして、最終的に波長を確定させるためのチューニングにおいては、屈折率制御信号SG1およびSG2の制御値を固定して、温度制御装置42の制御を実施する。この方法によれば、高精度かつ安定的に、そして簡便にチューニングを完了することができる。
【0048】
このようにして得られたチューニング値を格納するために、本実施例では図6に示すように、温度制御装置42の制御値TTEC1が、各波長チャネル毎に個別に設定可能とされている。このため、本実施例によって作成されたデータテーブルは、複数の波長チャネルのうち少なくとも1つの温度制御装置42の制御目標値を他の波長チャネルと異ならせることができる。もちろん、温度制御装置42の制御目標値を全ての波長チャネルにおいて異ならせることもできる。
【実施例4】
【0049】
図7は、実施例4に係る波長可変レーザ装置200aのシステムを示す図である。本実施例では、半導体レーザ100を搭載した温度制御装置42とは別に、エタロン48が搭載される温度制御装置50を波長出力(フロント)と反対側(リア側)に用意している。本実施例によって、波長制御動作が完了するまでは、シャッタとしてSOA領域を動作させることによって外部への光出力が遮断することができる。また、本実施例においては、受光素子46は、半導体レーザ100のフロント側の出力がビームスプリッタ44によって分岐された光の一方を受光する。受光素子47は、半導体レーザ100のリア側の出力がビームスプリッタ45によって分岐された光の一方を受光し、受光素子52は、他方の光がエタロン48を透過した後の光を受光する。
【0050】
本実施例によってAFC制御を行った場合、コントローラ41は、受光素子46の出力に基づいて、半導体レーザ100の光出力強度を制御する。また、受光素子47が検出する光強度と受光素子52が検出する光強度との比によって示される波長情報に基づき、指定波長を維持する制御を実施する。ここでコントローラ41が指定波長を維持する制御を行うためには、セグメントSG1あるいはセグメントSG2によって半導体レーザ100の屈折率を制御する動作ではなく、つまり、受光素子47が検出する光強度と受光素子52が検出する光強度との比が指定された値と異なる場合には、指定された値が得られるまで、温度制御装置42を変化させる動作が実施される。
【0051】
すなわち、本実施例によって、エタロン48の温度制御は、半導体レーザ100の温度制御とは別に実施するようなAFC制御を行った場合、エタロン48の温度が同時に変化してしまうと、エタロン48の波長特性が変化してしまうことを防止できる。さらに、シャッタを開く前に所望の波長が発振されているかを確認できるため、精度良く安定した波長を出力することができる。
【0052】
なお、エタロン48の温度は、この波長可変レーザ装置200aにおいて必要とされる温度に制御される。すなわち、一定に温度保持される制御のほか、エタロン48の特性を制御することで所望の動作を実現する場合には、その温度は変化することも許容される。
【0053】
図8は、温度制御装置42を用いたAFC制御のフローチャートの一例を表す図である。図8に示すように、コントローラ41は、設定された波長指定情報に基づいて、半導体レーザ100の設定値を選択する(ステップS11)。次に、コントローラ41は、選択した設定値を用いて半導体レーザ100を駆動させる(ステップS12)。
【0054】
次に、コントローラ41は、サーミスタ43が検出する温度Th1が設定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13で「No」と判定された場合、ステップS13が再度実行される。コントローラ41は、ステップS13と並行して、サーミスタ51が検出する温度Th2が設定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS14)。ステップS14で「No」と判定された場合、ステップS14が再度実行される。
【0055】
ステップS13およびステップS14の両方で「Yes」と判定された場合、コントローラ41は、温度制御装置42の温度制御(温度Th1への制御)を終了する(ステップS15)。次に、コントローラ41は、温度制御装置42によるAFC制御を開始する(ステップS16)。具体的には、コントローラ41は、受光素子47が検出する光強度と受光素子52が検出する光強度との比が所定値または所定範囲に入るように温度制御装置42の温度制御を開始する。次に、コントローラ41は、ロックフラグを出力する(ステップS17)。次に、コントローラ41は、SOAなどのシャッタを開ける(ステップS18)。その後、フローチャートの実行が終了する。
【0056】
実施例4によれば、半導体レーザ100の全体の温度を制御する温度制御装置42を用いてAFC制御を行うため、AFC制御の精度が向上する。また、温度制御装置42とは別の温度制御装置50を用いてエタロン48の温度を制御するため、半導体レーザ100の出力波長の検出精度の低下が抑制される。以上のことから、指定された波長での安定的なレーザ発振を得ることができる。
【実施例5】
【0057】
半導体レーザは、図1のものに限らない。たとえば図9に示すタイプの半導体レーザを用いることもできる。図9は、実施例5に係る半導体レーザ100aの全体構成を示す模式的断面図である。図9に示すように、半導体レーザ100aは、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)領域Cと、SG−DBR(Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)領域Dと、利得領域Eと、位相調整領域Fと、SG−DBR領域Gと、反射防止膜ARとを備える。
【0058】
一例として、半導体レーザ100aにおいて、フロント側からリア側にかけて、反射防止膜AR、SOA領域C、SG−DBR領域D、利得領域E、位相調整領域F、SG−DBR領域G、反射防止膜ARがこの順に配置されている。SOA領域Cは、光増幅器として機能する。SG−DBR領域D,Gは、利得を有さずにサンプルドグレーティングを備える。
【0059】
SG−DBR領域DおよびSG−DBR領域Gは、基板1上に、下クラッド層2、屈折率可変領域32、上クラッド層4、コンタクト層5および屈折率制御用電極8が積層された構造を有する。利得領域Eは、基板1上に、下クラッド層2、利得領域31、上クラッド層4、コンタクト層5および利得制御用電極7が積層された構造を有する。SOA領域Cは、基板1上に、下クラッド層2、光増幅層13、コンタクト層5、および電極14が積層された構造を有する。位相調整領域Fは、基板1上に、下クラッド層2、光導波層15、コンタクト層5、および電極16が積層された構造を有する。SOA領域Cの基板1、下クラッド層2、光増幅層13、上クラッド層4の端面には、AR膜11が形成されている。すなわち、AR膜11は、半導体レーザ100aのフロント側端面に形成されている。SG−DBR領域Gの基板1、下クラッド層2、屈折率可変領域32、および上クラッド層4の端面には、AR膜12が形成されている。すなわち、AR膜11は、半導体レーザ100aのリア側端面に形成されている。
【0060】
SOA領域C、SG−DBR領域D、利得領域E、位相調整領域F、およびSG−DBR領域Gにおいて、基板1、下クラッド層2、および上クラッド層4は、一体的に形成されている。利得領域31、屈折率可変領域32、光増幅層13、および光導波層15は、同一面上に形成されている。
【0061】
本実施例においては、下クラッド層2および上クラッド層4は、利得領域31、屈折率可変領域32、光増幅層13、および光導波層15を上下で光閉じ込めしている。光増幅層13は、電極14からの電流注入によって利得が与えられ、それによって光増幅をなす領域である。光増幅層13は、例えば量子井戸構造で構成することができ、例えばGa0.35In0.65As0.990.01(厚さ5nm)の井戸層とGa0.15In0.85As0.320.68(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造とすることができる。また、他の構造として、例えばGa0.44In0.56As0.950.05からなるバルク半導体を採用することもできる。光導波層15は、例えば、Ga0.28In0.72As0.610.39結晶からなる導波層であり、電極16からの電流注入によって屈折率が変化する。回折格子9は、SG−DBR領域DおよびSG−DBR領域Gの下クラッド層2において、所定の間隔を空けて離散的に形成されている。
【0062】
SG−DBR領域Dを構成する複数のセグメントSG1は、実質的に同一の光学長を有する。SG−DBR領域Gを構成する複数のセグメントSG2は、実質的に同一の光学長を有するが、セグメントSG1の光学長とは異なる光学長を有している。SG−DBR領域Dの屈折率制御用電極8への屈折率制御信号SG1と、SG−DBR領域Gの屈折率制御用電極8への屈折率制御信号SG2とによって、セグメントSG1の波長特性のピークとセグメントSG2の波長特性のピークとが制御される。セグメントSG1の波長特性のピークとセグメントSG2の波長特性のピークとが一致した波長で発振波長が選択される。また、利得領域Eの利得制御用電極7への利得制御信号Gによって、利得が制御される。
【0063】
本実施例に係る半導体レーザ100aを図3の波長可変レーザ装置200に適用した場合においても、半導体レーザ100aの全体の温度を制御する温度制御装置42を用いてAFC制御を行うため、AFC制御の精度が向上する。また、温度制御装置42とは別の温度制御装置40を用いてエタロン38の温度を制御するため、半導体レーザ100aの出力波長の検出精度の低下が抑制される。以上のことから、指定された波長での安定的なレーザ発振を得ることができる。
【0064】
なお、上記各実施例においては、屈折率可変領域32などの光導波層への電流注入によって屈折率を制御していたが、それに限られない。例えば、ヒータなどを用いて光導波層の温度を制御することによって、当該光導波層の屈折率を制御してもよい。
【0065】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 基板
2 下クラッド層
3 光導波層
4 上クラッド層
5 コンタクト層
6 絶縁膜
7 利得制御用電極
8 屈折率制御用電極
9 回折格子
31 利得領域
32 屈折率可変領域
41 コントローラ
42,50 温度制御装置
43,51 サーミスタ
44,45 ビームスプリッタ
46,47,52 受光素子
48 エタロン
49 メモリ
100 半導体レーザ
200 波長可変レーザ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9