特許第6416512号(P6416512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6416512
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】中空状たばこフィルター部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A24D 3/02 20060101AFI20181022BHJP
   A24D 3/10 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   A24D3/02
   A24D3/10
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-126303(P2014-126303)
(22)【出願日】2014年6月19日
(65)【公開番号】特開2016-2064(P2016-2064A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】唐金 博樹
【審査官】 豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭63−065367(JP,B2)
【文献】 特許第2604419(JP,B2)
【文献】 特開昭59−063179(JP,A)
【文献】 特開昭61−088868(JP,A)
【文献】 特許第4959342(JP,B2)
【文献】 特開平07−313871(JP,A)
【文献】 特公昭60−020986(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24D 1/00 − 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルとエステル系可塑剤とを含むペレットから、繊維形状を経ずに、溶融押出成形によって中空状たばこフィルター部材を形成することを特徴とする、内部の空洞領域に繊維断片がみられない中空状たばこフィルター部材の製造方法。
【請求項2】
エステル系可塑剤はトリアセチンを含み、リン酸エステルを含まない、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空状たばこフィルター部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙巻きたばこの吸い口側に配置するたばこフィルターとして、近年、チューブ形状のフィルター等、軸方向に伸長した空洞領域を内部に有するフィルターが用いられている。
【0003】
このような中空状フィルターは、一般に、内部に空洞領域を有しない中実のフィルターと同様、セルロースアセテート繊維と可塑剤から製造されている。また、セルロースアセテート繊維以外の材料、例えばポリプロピレン繊維から製造されたたばこフィルターも知られている。
【0004】
中空状フィルターを製造する方法として、特許文献1では、熱可塑性繊維からなる不織布のウェブを円筒形状に成形する方法が記載されている(第6頁から第7頁)。この文献では、たばこ巻き上げ機に内側コーンと外側コーンからなる二重コーンを用いることで、繊維のウェブを内側コーンの外周面に巻くことで、中空状フィルターを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−71470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の中空状たばこフィルターは、熱可塑性繊維を成形して製造しているため、内部の空洞領域に、フィルターを構成する繊維の断片が突出することがあり、外観の点で問題があった。また、熱可塑性繊維の紡糸、及び、熱可塑性繊維から中空状の形状への成形を含めて製造過程に時間がかかり、製造コストの上昇につながる問題もあった。
【0007】
また、セルロースアセテート以外の材料から製造されたフィルターでは、たばこの喫味や健康面に影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、材料としてセルロースアセテートを使用しながら、内部の空洞領域に繊維断片がみられることのない中空状たばこフィルターを迅速に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、セルロースアセテート繊維を使用することなく、セルロースアセテートを含む材料の熱成形によって中空状たばこフィルターを形成する方法を採用した。
【0010】
すなわち、本発明は、セルロースエステルとエステル系可塑剤とを含む原料から、繊維形状を経ずに、熱成形によって中空状たばこフィルター部材を形成することを特徴とする、中空状たばこフィルター部材の製造方法に関する。
【0011】
本発明の一実施形態によると、セルロースエステルとエステル系可塑剤とを含むペレットから、溶融押出成形によって、中空状たばこフィルター部材を形成することができる。
【0012】
本発明の別の実施形態によると、セルロースエステルのフレークにエステル系可塑剤を付着させて、加熱下で圧縮成形を行うことにより中空状たばこフィルター部材を形成することができる。
【0013】
本発明において、エステル系可塑剤はトリアセチンを含み、リン酸エステルを含まないものが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によると、内部の空洞領域に繊維断片がみられることのない中空状たばこフィルターを迅速に製造することができる。また、材料としてセルロースアセテートを使用しているので、たばこの喫味を害する恐れがなく、健康面での懸念もない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】紙巻きたばこの吸い口側の、軸方向に沿った断面図
図2】中空状たばこフィルターの、軸方向に垂直な断面図。(a)は円筒状のたばこフィルター部材を用いた場合、(b)及び(c)は外周に凹部を設けたたばこフィルター部材を用いた場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1では、紙巻きたばこの吸い口側の、軸方向に沿った断面図を示す。紙巻きたばこ1は、刻みたばこ葉から構成されるたばこロッド2と、その一端に接続されたたばこフィルター3とから構成される。たばこロッド2は巻紙で巻かれているが、その図示は省略している。たばこフィルター3は、内部に空洞領域を有しない中実のたばこフィルター部材5と、部材5の下流に連結され、軸方向に貫通した孔7を有する中空状たばこフィルター部材6と、部材5及び6の外側を包囲する先端巻紙4とから構成される。
【0018】
本発明でいう中空状たばこフィルター部材とは、巻紙で巻かれた際に、軸方向に貫通した空洞部を有するたばこフィルターを構成するフィルター部材をいう。該中空状たばこフィルター部材は、円柱の内部に、軸方向に貫通した空洞を有する円筒状か、または、円柱の外曲面に、軸方向に連続した凹部が形成された形状を有する。図1では、円筒状のたばこフィルター部材6の、軸方向に沿った断面図を示している。
【0019】
中空状たばこフィルター部材を巻紙で巻くことによって形成された中空状たばこフィルターの断面図(軸方向に垂直な断面図)を図2(a)〜図2(c)に示す。図2(a)では、図1と同様、部材の中央部に貫通孔7を有する円筒状のたばこフィルター部材である。図2(b)及び図2(c)では、たばこフィルター部材の外周に凹部8が設けられている。凹部8は、軸方向に連続して形成されており、外側に巻紙が配されることで、たばこフィルター部材と巻紙とのあいだに、軸方向に貫通した空洞部が形成される。図2(b)では、フィルター部材の外曲面が波状に形成されることで凹部が設けられ、図2(c)では、円柱の外曲面に断続的に凹部が形成された形状を有しているが、これらに限定されない。いずれの形態であっても、外側に巻紙が配されることで、たばこフィルターの軸方向に貫通した空洞部を有することになる。
【0020】
本発明は、以上で説明した中空状たばこフィルター部材を製造する方法である。従来、そのような製造方法としては、熱可塑性繊維から中空状の部材に成形する方法が行われていたところ、本発明では、繊維形状を経ることなく、熱成形によって、中空状たばこフィルター部材を製造することを特徴とする。本発明において熱成形とは、加熱下で中空状たばこフィルター部材の形状を形成することをいう。
【0021】
繊維形状を経ることなく、熱成形を行うことによって、中空状たばこフィルターの内部の空洞領域に、繊維の断片が突出することで生じる外観上の不都合を回避することができる。また、紡糸工程等を実施する必要がなくなるので、中空状たばこフィルターの製造を迅速に行うことができる。
【0022】
さらに本発明では、中空状たばこフィルター部材を構成する原料として、セルロースエステルとエステル系可塑剤とを含む原料を使用し、好ましくはエステル系可塑剤としてトリアセチンを使用し、リン酸エステルを使用しないため、たばこの喫味を害する恐れがなく、健康面での懸念を生じることがない。
【0023】
本発明で用いるセルロースエステルは公知のものであり、具体例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを挙げることができる。その他、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロース等も挙げることができる。
【0024】
前記セルロースエステルは、平均置換度が2.7以下のセルロースアセテートが好ましく、平均置換度が1.7〜2.7のものがさらに好ましい。前記セルロースエステルの重合度は、粘度平均重合度が100〜1000、好ましくは100〜500程度である。
【0025】
本発明で用いるエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族カルボン酸エステル[フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルなどのフタル酸ジC1-12アルキルエステル、フタル酸ジメトキシエチルなどのフタル酸C1-6アルコキシC1-12アルキルエステル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸C1-12アルキル・アリール−C1-3アルキルエステル、エチルフタリルエチレングリコレート、ブチルフタリルブチレングリコレートなどのC1-6アルキルフタリルC2-4アルキレングリコレート、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシルなどのトリメリット酸トリC1-12アルキルエステル、ピロメリット酸テトラオクチルなどのピロメリット酸テトラC1-12アルキルエステルなど]、
脂肪酸エステル[アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ブトキシエトキシエチル・ベンジル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルなどのアジピン酸エステル、アゼライン酸ジエチル、アゼライン酸ジブチル、アゼライン酸ジオクチルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチルなどのセバシン酸エステル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチルなど]、
多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなど)の低級脂肪酸エステル[トリアセチン、ジグリセリンテトラアセテートなど]、
グリコールエステル(ジプロピレングリコールジベンゾエートなど)、
クエン酸エステル[クエン酸アセチルトリブチルなど]、
エステルオリゴマー(カプロラクトンオリゴマーなど)、
リン酸エステル等を挙げることができる。
【0026】
好ましくは、トリアセチン(グリセロールトリスアセタート)、クエン酸エステル、リン酸エステルである。なかでも、エステル系可塑剤としてトリアセチンを使用し、リン酸エステルを使用しないことが好ましい。トリアセチンはたばこフィルターにおいて可塑剤として長年使用されているので、エステル系可塑剤としてトリアセチンのみを使用すれば健康面での心配がなく、また、たばこの喫味を害する恐れもない。
【0027】
本発明で用いることができるトリアセチンは、化学構造的に純粋なトリアセチンのみから構成されるものの他、トリアセチン純度が例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上であり、残部としてモノアセチン及び/又はジアセチンが含まれているものであってもよい。
【0028】
本発明で用いることができるリン酸エステルは公知のものであり、例えば、特開2003−261711号公報において難燃剤として記載されているものを使用することができる。
【0029】
本発明において、エステル系可塑剤の配合量は、セルロースアセテート100重量部に対して10〜30重量%程度であってよく、好ましくは20〜30重量%である。エステル系可塑剤の配合量がこれらの範囲内にあると、繊維形状を経ることなく、熱成形により中空状たばこフィルター部材を製造することができる。
【0030】
本発明で用いられる原料は、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、流動化剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤等を含んでいてもよい。白色の顔料としては酸化チタンを用いることができる。
【0031】
本発明において、繊維形状を経ずに、熱成形によって中空状たばこフィルター部材を形成する一手法として、本発明の一実施形態では、セルロースエステルとエステル系可塑剤を含む原料からペレットを製造し、当該ペレットから、溶融押出成形によって、中空状たばこフィルター部材を形成することができる。
【0032】
ペレットを製造するための具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、まず、前記原料の各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式又は湿式で予備混合して調製し、次に、一軸又は二軸押出機などの押出機で溶融混練して、ペレット状に調製する方法が挙げられる。
【0033】
ペレットから溶融押出成形によって中空状たばこフィルター部材を形成するための具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、射出成形、押出成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形等を用いることができる。
【0034】
本発明の別の実施形態では、セルロースエステルのフレーク表面にエステル系可塑剤を付着させたものを、加熱化、圧縮成形を行うことにより中空状たばこフィルター部材を形成する。圧縮成形は、市販の圧縮成形機を用いて、温度は150℃から240℃、望ましくは230℃、圧力は0.01MPa以上、望ましくは0.5MPaで、30秒以上望ましくは2分間程度加工すればよい。セルロースエステルのフレークとは、セルロースをアセチル化した後、平均置換度を調整するために加水分解反応を行い、精製・乾燥して得られたフレーク状のセルロースエステルのことをいう。
【0035】
本発明により得られる中空状たばこフィルター部材は、図1に示す中空状たばこフィルター部材7としてそのまま用いることができるものであってもよいし、また、軸方向に垂直に切り出すことで中空状たばこフィルター部材7を得ることができる切断前の長尺の部材であってもよい。この中空状たばこフィルター部材は、中実たばこフィルター部材5と連結され巻紙4で巻かれることにより、たばこフィルター3を構成することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1〜3)
表1に示す各成分をヘンシェルミキサーに投入し、撹拌混合したものを、二軸押出機(シリンダー温度:C1/C2−C6=180℃/200℃、ダイス温度:230℃、スクリュー回転数:250rpm)に供給し、ペレット化した。得られたペレットを射出成形機に供給して、シリンダー温度200℃、金型温度50℃、成形サイクル30秒(射出15秒、冷却時間15秒)の条件で射出成形し、外径7.7mm、内径5.0mmの中空状の試験片を作成した。
【0038】
なお、表1に示す成分としては、以下のものを使用した。
セルロースアセテート:(株)ダイセル製、商品名「L40」、置換度2.5、6%粘度83×10mPa・s
トリアセチン:(株)ダイセル製、商品名「DRA150」
リン酸エステル:特開2003−261711号公報の合成例1(表2)記載
酸化チタン:市販の酸化チタン(純度98%以上)を使用した。
【0039】
表1に示す評価は以下の基準により行った。
【0040】
(熱可塑性)
上記条件で作成したペレットの状態を目視で観察して、ペレットが均一な塊状になっている場合を「○」(熱可塑性良好)と評価し、混練物が塊状になっておらず、セルロースアセテートが粉体のままである場合を「×」(熱可塑性不良)と評価する。
【0041】
(成形性)
上記条件で作成した中空状の試験片を目視で観察して、試験片が金型の形状を維持できている場合を「○」(成形性良好)と評価し、維持できていない場合を「×」(成形性不良)と評価する。
【0042】
(たばこ用利用実績)
たばこフィルターを構成する材料として過去利用された実績があるもののみを使用している場合を「○」と評価し、実績がないものを含んでいる場合を「×」と評価した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から分かるように、実施例1〜3において、セルロースエステルとエステル系可塑剤から、繊維形状を経ることなく、熱成形によって中空状たばこフィルター部材を製造することに成功した。いずれの実施例でも熱可塑性及び成形性が良好であった。なかでも実施例1は、たばこフィルターとして過去利用実績がある材料のみを用いて中空状たばこフィルター部材を製造することができた。
【符号の説明】
【0045】
1 紙巻きたばこ
2 たばこロッド
3 たばこフィルター
4 巻紙
5 中実たばこフィルター部材
6 中空状たばこフィルター部材
7 貫通孔
8 凹部
図1
図2