(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大深度トンネルの壁体構築が目的である場合、後行トンネルを発進地点からラップさせることが、連結した小断面トンネルの総延長の短縮となり有利である。ここで、後行トンネルの安定した掘進開始と止水性確保のために、先行トンネルの完成時には、
図1に示すように先にその部分だけ最終目的物の壁体10を構築しておき、その周囲はコンクリートやモルタル等の充填材11で充填し、先行トンネル12全体を閉塞させた上で、破線で示す後行トンネル13を掘削し、構築することが望ましい。
【0006】
先行トンネル12は、シールドマシンを発進させるために設けられた坑口壁(エントランス壁)14を貫通して一方向に延びるように構築されるため、エントランス壁14と先行トンネル12との間の隙間を介して土壌15に含まれる地下水16が漏水する。このため、止水対策が必要となり、従来においては、エントランス金物と呼ばれる、金属フレームと可塑性素材のパッキンとで構成される止水具が不可欠となっている。
【0007】
しかしながら、同じ発進地点からシールドマシンを発進させ、後行トンネル13をラップさせて構築する場合、先行トンネル12のために設置した止水具が後行トンネル13の発進の支障となる。このため、その発進前に止水具を取り除くことができるが、取り除くと、止水性が損なわれ、発進基地側へ地下水が漏水してしまう。
【0008】
そこで、止水性を損なわず、後行トンネル13の発進時に止水具を撤去することができるシステムや方法の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、坑口壁と該坑口壁を貫通して構築されたシールドトンネルとの間を止水するための止水システムであって、シールドトンネルの内壁に沿ってトンネル軸方向に延び、内部を冷却液が流通される1以上の凍結管を含み、1以上の凍結管内へ冷却液を流通させることにより、坑口壁とシールドトンネルの外壁とに隣接する土壌に含まれる地下水を凍結させて凍結改良体を構築し、該凍結改良体により止水する、止水システムが提供される。
【0010】
また、坑口壁と該坑口壁を貫通して構築されたシールドトンネルとの間を止水する止水方法であって、内部を冷却液が流通される1以上の凍結管を、シールドトンネルの内壁に沿ってトンネル軸方向に延びるように設置する工程と、1以上の凍結管内へ冷却液を流通させ、坑口壁とシールドトンネルの外壁とに隣接する土壌に含まれる地下水を凍結させて凍結改良体を構築し、該凍結改良体により止水する工程とを含む、止水方法も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、止水性を損なうことなく、後行トンネルに干渉する先行トンネル用の止水具を撤去することができ、これにより、シールドトンネルを発進地点からラップ施工することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の止水システムについて説明する前に、トンネルの分岐合流部や大深度トンネルの壁体を、連結した複数の小断面のシールドトンネルにより構築することについて説明する。この壁体を構築するにあたって、
図1に示すエントランス壁14が構築される。エントランス壁14は、所定の厚さを有するコンクリート壁である。そして、このエントランス壁14を貫通するようにシールドマシンを発進させるが、その前に、先行トンネル用の止水具がエントランス壁14の所定位置に取り付けられる。
【0014】
シールドマシンは、円筒状とされ、その進行方向側(地山側)にあるトンネルの切羽(掘削面)に対向する面板に、カッタービットと呼ばれる複数の刃を備え、そのカッタービットが円周状あるいは放射状に設置された機械である。シールドマシンは、その面板を切羽に押し付け、回転させることによりトンネルを掘削する。カッタービットは、硬い岩盤等を砕き、トンネルを掘削できるように、鉄製の母材に超硬合金製のチップを取り付けたものが採用される。
【0015】
止水具は、地山側とは反対方向の発進基地側に向いたエントランス壁14の壁面に取り付けられる。止水具18は、例えば
図2に示すように、略中央で自在に折り曲がるフラップ金物といった複数の金属フレーム20と、可塑性素材のリング状のパッキン21とから構成される。止水具18は、アンカーボルトやナット等の締結手段22によりエントランス壁14に締結される。シールドマシン23が発進する前、止水具18は、
図2(a)に示すように金属フレーム20およびパッキン21が、リング状のパッキン21の中心に向けて突出した状態になっている。
【0016】
これが、シールドマシン23が発進し、エントランス壁14を貫通し、セグメント24が設置されると、金属フレーム20は、
図2(b)に示すようにセグメント24の外壁に当接し、地山側へ折り曲がった状態となる。金属フレーム20の地山側には、パッキン21が配設されており、金属フレーム20に従ってパッキン21も折り曲がり、一端がセグメント24の外壁に隣接した状態となる。金属フレーム20およびパッキン21は、先行トンネル12の一周に渡って設けられており、これらにより密閉された空間が形成される。
【0017】
このため、リング状のパッキン21の内側の径は、シールドマシン23の径より小さく、外側の径は、シールドマシン23の径より大きいものとされる。また、金属フレーム20も、シールドマシン23が通過した際に適切に折り曲がる長さ、パッキン21を隙間なく適切に折り曲げることができる幅、適切に水圧に耐え得る厚さのものとされる。
【0018】
土壌15に含まれる地下水16は、上記の空間へ流れ込み、発進基地側へ流れ出そうとするが、金属フレーム20が発進基地側へは折れ曲がらないので、パッキン21に水圧がかかった状態で維持され、その結果、地下水16の漏水が防止される。なお、
図2に示す止水具18は一例を示したものであり、漏水を防止することができれば、これ以外の構成であってもよい。
【0019】
再び
図1を参照して、先行トンネル12を、シールドマシン23で掘削およびセグメント24の設置を繰り返してトンネル軸方向に延ばし、構築する。先行トンネル12を構築した後、その先行トンネル12の一部にラップさせ、後行トンネル13を、シールドマシン23を使用して構築する。先行トンネル12は、シールドマシン23により切削可能な補強材および樹脂繊維を使用したセグメント24を用いて構築されており、このため、シールドマシン23を、先行トンネル12の一部を削るように発進させ、同様にセグメント24を設置することにより、後行トンネル13をラップさせて構築することができる。
【0020】
後行トンネル13は、先行トンネル12を構築する場合と同様、止水具18を設置した後にシールドマシン23を発進させて構築される。ラップさせる割合は、トンネルの壁体として機能するのに充分な強度が得られるのであれば、いかなる割合であってもよい。
【0021】
なお、後行トンネル13を構築する際に、先行トンネル12内が空洞であると、後行トンネル13を安定して掘削し、止水性を確保することができない。このため、先行トンネル12が完成した後は、後行トンネル13の構築前に、先行トンネル12内に最終目的物の壁体10を構築し、その周囲をコンクリートやモルタル等の充填材11で充填して、先行トンネル12内の全体を閉塞しておく。このように閉塞しておくことで、シールドマシン23の面板が均一に切羽に当たり、安定してシールドマシン23により掘削することができ、また、その空洞を通して地下水16が流れ出すことがなくなるので、止水性も確保することができる。
【0022】
先行トンネル12内を閉塞した段階では、先行トンネル12とエントランス壁14との間の隙間は、止水具18により閉鎖されている。このため、地下水16の漏水を止水具18で防止している。止水具18は、金属フレーム20を含んで構成され、金属フレーム20は、シールドマシン23により切削されず、先端に設けられたカッタービットの破損等につながることから、シールドマシン23の発進に支障となる。このため、後行トンネル13を掘削する前に予め取り除いておかなければならない。
【0023】
図1は、止水具18を取り除き、後行トンネル13を掘進開始しようとしているところを示した図で、止水具18が取り除かれた結果、エントランス壁14と先行トンネル12との間に水みちが形成され、そこを漏水箇所17として地下水16が漏水している。これでは、漏水とともに土砂等も流入し、トンネル変形等を起こすおそれがある。
【0024】
そこで、止水性を損なわず、かつ後行トンネル13の構築に干渉することなく先行トンネル用の止水具18を撤去するため、本発明の止水システムが使用される。
図3は、本発明の止水システムの構成例を示した図である。この止水システムは、先行トンネル12の構築途中、あるいは完成後に設置することができる。
【0025】
止水システムは、シールドマシン23により切削可能な材質からなり、先行トンネル12の内壁に沿ってトンネル軸方向に延び、内部を冷却液が流通される1以上の凍結管30を含んで構成される。シールドマシン23により切削可能な材質としては、上述した炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等を挙げることができる。これらは一例であり、シールドマシン23のカッタービットにより切削可能なものであれば、その他のいかなる材質で作製されたものであってもよい。
【0026】
1以上の凍結管30は、
図3(a)に示すように、先行トンネル12の断面において略30°間隔で配置され、先行トンネル12の内壁に接着や溶着等により取り付けられる。なお、先行トンネル12を構成するセグメント24も、シールドマシン23により切削可能な材質からなるため、使用後は、そのセグメント24とともに凍結管30もシールドマシン23により切削することができる。セグメント24は、上述した補強筋と樹脂繊維が混合されたコンクリートから形成されたものを採用することができる。
図3(a)では、略30°間隔で12本の凍結管30が配置された例が示されているが、この配置、本数に限定されるものではなく、適切に凍結させることができれば、略45°間隔で8本や、略60°間隔で6本等であってもよい。
【0027】
凍結管30は、例えば、一方が先端へ冷却液を供給する側で、他方が先端から冷却液を戻す側とされたU字管とすることができる。凍結管30は二重管としてもよい。このような構造の凍結管30を用いることで、内部を流通する冷却液により、それに接するセグメント24を冷却し、そのセグメント24に隣接する土壌15を冷却することができる。そして、土壌15の冷却により、内部に含まれる地下水16を凍結させ、
図3(b)に示すような凍結改良体31を構築することができる。
【0028】
凍結管30は、トンネル軸方向への長さが、エントランス壁14の厚さを超え、そのエントランス壁14の背面に隣接する土壌15の一部にまで達する長さであることが好ましい。これは、エントランス壁14の背後にある土壌15を適切に冷却し、凍結改良体31を構築させることができるからである。凍結管30内を流通させる冷却液は、ブラインと呼ばれる、塩化カルシウム水溶液等の不凍液を使用することができる。ブラインは、−30℃でも凍らない液である。冷却液は0℃より低い温度で供給され、これにより、土壌中の地下水を凍結させることができる。
【0029】
止水システムは、複数の凍結管30に加え、ブラインを貯留する冷却液貯留槽であるブラインタンク、ブラインをブラインタンクから複数の凍結管30へ供給する供給手段としてのブラインポンプ、ブラインタンク内のブラインを冷却する冷凍機を備えることができる。冷凍機は、例えばアンモニアを冷媒として使用したヒートポンプを用いることができる。なお、冷媒は、炭化水素、二酸化炭素、フロン等であってもよい。
【0030】
土壌中の地下水は、セグメント24に近い部分から凍結していき、それが土粒子間の隙間を塞いで凍土となり、それがセグメント24から離れる方向へと成長していく。これにより、凍土からなる凍結改良体31が構築され、この凍結改良体31が止水壁として機能し、セグメント24とエントランス壁14との間の隙間を通して地下水16が流れようとするのを阻止する。
【0031】
凍結改良体31が構築され、止水壁として機能している間は、地下水16が漏水することはないので、その間に止水具18を撤去し、後行トンネル用の止水具18を設置した後、シールドマシン23で後行トンネル13を構築することができる。このとき、凍結改良体31、セグメント24および1以上の凍結管30は、いずれも切削可能な材質であるため、シールドマシン23でそのまま切削することができる。
【0032】
図4を参照して、止水システムを使用した止水方法について説明する。ステップ400から開始し、ステップ410で、構築された先行トンネル12のセグメント24の内壁に1以上の凍結管30を設置する。設置する凍結管30の本数は、いかなる数であってもよいが、多いほうが望ましい。所望の凍結改良体31を早く構築できるからである。凍結管30は、断面円形の先行トンネル12内に等間隔で、トンネル軸方向に延びるように設置される。
【0033】
ステップ420では、先行トンネル12の内部に最終目的物の壁体10を構築し、その周囲にコンクリートやモルタル等の充填材11を充填し、内部を閉塞させる。これは、後行トンネル13の安定した発進開始と止水性確保のためである。ステップ430では、ブラインポンプおよび冷凍機を起動し、1以上の凍結管30内にブラインを供給する。そして、セグメント24に隣接する土壌15中の地下水16を凍結させて凍土とし、それを成長させて凍結改良体31を構築する。凍結改良体31は、
図3(b)に示すようにセグメント24およびエントランス壁14に隣接し、セグメント24とエントランス壁14との間の隙間を完全に覆うように形成される。この凍結改良体31により止水し、ステップ440で止水作業を終了する。
【0034】
分岐合流部や大深度トンネルの壁体を、複数の連結した小断面シールドトンネルにより構築する作業の流れを、
図5〜
図7を参照して説明する。ステップ500から開始し、ステップ505では、トンネルの入口にシールドマシン23が発進するエントランス壁14を、コンクリートを打設して構築する。ステップ510では、先行トンネル用の止水具18をエントランス壁14の所定位置に設置する。ステップ515では、シールドマシン23を、リング状に形成された止水具18の略円形の開口を通るように発進させ、先行トンネル12を構築する。
【0035】
ステップ520〜ステップ530は、
図4のステップ410〜ステップ430と同様の作業である。ステップ535では、凍結改良体31により止水している間、先行トンネル用の止水具18を撤去する。ブラインは、所定の凍結改良体31を構築したところで供給を停止してもよいし、シールドマシン23による後行トンネル13の掘削を開始するまでその供給を継続してもよい。
【0036】
ステップ540では、
図6(a)、(b)に示すように、エントランス壁14から発進基地側に突出したセグメント24を覆うための坑口増打ち壁(エントランス増打ち壁)32を構築する。エントランス増打ち壁32の構築により、凍結改良体31が解凍しても止水状態を維持することができる。
【0037】
ステップ545では、
図7(b)に示すように後行トンネル用の止水具18を設置する。そして、ステップ550で、シールドマシン23を発進させ、エントランス増打ち壁32およびエントランス壁14を貫通して後行トンネル13を、
図7(a)に示すように先行トンネル12にラップさせて構築し、ステップ555で、後行トンネル13内に壁体10を構築し、先行トンネル12内の壁体10と連結して、最終的に1つの大きな円弧状の壁体を構築する。円弧状の壁体を構築したところで、ステップ560へ進み、この作業を終了する。
【0038】
図7では、1つの先行トンネル12に2つの後行トンネル13をラップさせて構築しているが、これに限られるものではなく、一定間隔で離間して2以上の先行トンネル12を構築し、各先行トンネル12間に各後行トンネル13をラップさせて構築することもできる。
【0039】
以上のように、本発明の止水システムおよび止水方法を提供することで、エントランス壁14とセグメント24との間を塞ぐ凍結改良体31を構築することができるので、止水性を損なわずに、後行トンネル13に干渉する先行トンネル用の止水具18を撤去することができる。また、シールドトンネルをラップさせて構築する掘削工法において、シールドトンネルを発進地点からラップ施工とすることが実施可能となる。
【0040】
凍結管30は、シールドマシンで切削可能な材質で作製されるため、後行トンネル13の掘削断面内にあったとしても、掘削の邪魔になることはなく、撤去する必要もない。凍結管30の撤去作業は、地山を乱して新たな水みちを形成するおそれがある作業であるため、本発明のシステムや方法を提供することで、その解消を図ることができる。
【0041】
これまで本発明の止水システム、止水方法および壁体の構築方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。