(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6416901
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】平坦なワークピースを複数の部分に分割する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20181022BHJP
B23K 26/70 20140101ALI20181022BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20181022BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/70
B23K26/08 Z
H01L21/78 B
【請求項の数】23
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-528389(P2016-528389)
(86)(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公表番号】特表2016-525018(P2016-525018A)
(43)【公表日】2016年8月22日
(86)【国際出願番号】EP2014063972
(87)【国際公開番号】WO2015010862
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2017年2月15日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2013/002191
(32)【優先日】2013年7月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516023696
【氏名又は名称】3デー−ミクロマク アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス コイッチュ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク レブケ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー トビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ウルリヒ チュールケ
(72)【発明者】
【氏名】フランク アレンシュタイン
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−23215(JP,A)
【文献】
特開2007−21514(JP,A)
【文献】
特開2012−76093(JP,A)
【文献】
特開2007−14975(JP,A)
【文献】
特開2003−34545(JP,A)
【文献】
特開2006−35710(JP,A)
【文献】
特開2012−28734(JP,A)
【文献】
特開2006−7619(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0068736(US,A1)
【文献】
特開2006−131443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピース(1)を複数の部分(7)に分割する方法であって、
前記ワークピースの表面に対してレーザビーム(5)を用いる局所的な材料加工による第1のステップにおいて、処理された材料の一つ以上のライン(2)を前記ワークピース(1)の一つ以上の予め規定された分割ラインに沿って生成し、その結果、前記分割ラインに沿った前記ワークピース(1)の破壊応力を減少させ、
第2のステップにおいて、前記ワークピース(1)を熱レーザビーム分離によって前記分割ラインに沿って前記部分(7)に分割する方法において、
前記一つ以上のライン(2)を前記ワークピース(1)の表面から所定の距離を以て完全に又は少なくとも一部で生成し、
いずれの場合にも前記一つ以上のライン(2)が前記ワークピース(1)の表面で開始して前記ワークピース(1)の前記分割ラインに沿って前記表面に対して変化する距離を以て延在するように前記一つ以上のライン(2)を生成し、
前記熱レーザビーム分離のためのレーザ照射の前記ワークピース(1)への結合を妨害する前記分割ラインの上の表面構造又は表面金属部分の領域の前記一つ以上のライン(2)を、前記分割ラインの上の前記表面構造又は前記表面金属部分を前記レーザビーム(5)を用いて局所的に除去するために、いずれの場合にも前記表面に案内し、
前記第2のステップにおいて、加熱ゾーン(HZ)を生成するための第2のレーザビーム(60)を、前記ワークピースに向け、前記加熱ゾーンに近接している又は前記加熱ゾーンに部分的に重複する冷却ゾーン(CZ)を生成するために冷却媒体を前記表面に加えることを特徴とする方法。
【請求項2】
いずれの場合にも前記一つ以上のライン(2)が前記表面における各部分(7)の辺縁位置で開始して前記ワークピース(1)の前記分割ラインに沿って前記表面に対して変化する距離を以て延在するように前記一つ以上のライン(2)を生成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
いずれの場合にも前記一つ以上のライン(2)が前記表面における各部分(7)の第1の辺縁位置で開始して前記ワークピース(1)の前記分割ラインに沿って前記表面に対して変化する距離を以て延在するとともに前記部分(7)の前記第1の辺縁位置に対向して位置する第2の辺縁位置で再び表面に到達するように前記一つ以上のライン(2)を生成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記一つ以上のライン(2)を、溶かされた材料及び/又はアモルファス材料及び/又は表面を除去した材料のラインとして生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分割ラインに沿って部分的に上下に存在する前記ライン(2)の少なくとも二つを生成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ライン(2)に沿って変化するレーザビーム(5)のエネルギー入力を用いて前記一つ以上のライン(2)を生成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記一つ以上のライン(2)を、パルスレーザビーム(5)を用いて生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記一つ以上のライン(2)の前記ワークピースの表面からの変化する距離を、前記ワークピース(1)の厚さ方向のレーザビーム(5)の焦点位置の変化によって生成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のステップの前に、前記第1のステップとは別の前処理ステップを実行し、これによって、前記ワークピースの表面の上の一つ以上の想定される予め規定された分割ラインの領域に位置する材料、特に、金属部分及び/又はPCM構造を除去する、及び/又は、前記第1のステップにおいて前記表面を前記レーザビームに結合するのに備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記前処理ステップは、前記表面の上に位置する材料のアブレーションしきい値よりも高いが前記ワークピースの材料のアブレーションしきい値よりも低いビームエネルギーを有する前処理レーザビームによる選択的なレーザアブレーションを備える、及び/又は、前記前処理ステップは、局所的な再溶融による前記基板の表面の平滑化を備えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記表面に最も近接する処理された材料のラインを、前記ワークピース(1)の表面からの30μm〜150μmの距離(D1)、特に、40μm〜60μmの距離を以て長さの主要部分に亘って生成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記分割ラインに沿って部分的に上下に存在する前記ライン(2)の少なくとも二つを生成する領域において、前記ラインの間の深さ距離(D2)は、少なくとも200μmである、及び/又は、前記分割ラインに沿って部分的に上下に存在する前記ライン(2)の少なくとも二つを生成する領域において、先ず、前記表面から更に離間して存在するラインを生成し、次に、前記表面に近接するラインを生成することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記分割ラインに沿った前記加熱ゾーン(HZ)の中心と前記冷却ゾーン(CZ)の中心との間の距離(HC)を、少なくとも一つのワークピースパラメータ及び/又は分割速度に応じて設定することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のステップにおいて、焦点位置が前記ワークピースの内部において前記表面に対して所定の距離(D3)となるように前記第2のビームの集束を設定することを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記距離(D3)は、50μm〜500μmの範囲、特に、100μm〜400μmの範囲にあることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ワークピース(1)を複数の部分(7)に分割する装置であって、
前記ワークピースの表面に対してレーザビーム(5)を用いる局所的な材料加工によって、処理された材料の一つ以上のライン(2)を前記ワークピース(1)の一つ以上の予め規定された分割ラインに沿って生成し、その結果、前記分割ラインに沿った前記ワークピース(1)の破壊応力を減少させる第1のレーザユニットと、
前記分割ラインに沿った前記ワークピース(1)の熱レーザビーム分離を行うように設計されている第2のレーザユニットと、
前記ワークピース(1)に前記一つ以上のライン(2)を生成した後に前記熱レーザビーム分離を実行するための前記第1のレーザユニット及び前記第2のレーザユニットのコントローラと、
を少なくとも備え、
前記第1のレーザユニットは、前記ワークピース(1)の深さにおける前記レーザビーム(5)の焦点位置を変更する手段を備え、前記コントローラは、前記一つ以上のライン(2)を前記ワークピース(1)の表面からの変化する距離を以て生成するために前記焦点位置を変化させるように前記第1のレーザユニットを駆動し、
前記コントローラは、いずれの場合にも前記一つ以上のライン(2)が前記ワークピース(1)の表面で開始して前記ワークピース(1)の前記分割ラインに沿って前記表面に対して変化する距離を以て延在するように前記一つ以上のライン(2)を生成するように前記第1のレーザユニットを駆動し、
前記コントローラは、前記熱レーザビーム分離のためのレーザ照射の前記ワークピース(1)への結合を妨害する前記分割ラインの上の表面構造又は表面金属部分の領域の前記一つ以上のライン(2)を、前記分割ラインの上の前記表面構造又は前記表面金属部分を前記レーザビーム(5)を用いて局所的に除去するために、いずれの場合にも前記表面に案内するように設計され、
前記コントローラは、加熱ゾーン(HZ)を生成するための第2のレーザビーム(60)を、前記ワークピースに向け、前記加熱ゾーンに近接している又は前記加熱ゾーンに部分的に重複する冷却ゾーン(CZ)を生成するために冷却媒体を前記表面に加えるように設計されていることを特徴とする装置。
【請求項17】
前記コントローラによって駆動することができ、前記分割ラインに沿った前記熱レーザビーム分離中に冷却媒体を前記ワークピースの表面に局所的に加えることができる冷却ユニットを設けることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記第1のレーザユニットは、パルスレーザを備え、前記第2のレーザユニットは、CWレーザを備えることを特徴とする請求項16又は17に記載の装置。
【請求項19】
前記コントローラは、前記ライン(2)が前記表面の前記コントローラに対して予め規定された辺縁位置で開始して前記ワークピース(1)の前記分割ラインに沿って前記表面に対して変化する距離を以て延在するように前記一つ以上のライン(2)を生成するために前記コントローラが前記第1のレーザユニットを駆動する動作モードを有することを特徴とする請求項16〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記コントローラは、前記ライン(2)が前記表面の前記コントローラに対して予め規定された第1の辺縁位置で開始して前記ワークピース(1)の前記分割ラインに沿って前記表面に対して変化する距離を以て延在するとともに前記部分(7)の前記第1の辺縁位置に対向して位置する前記コントローラに対して予め規定された第2の辺縁位置で再び表面に到達するように前記一つ以上のライン(2)を生成するために前記コントローラが前記第1のレーザユニットを駆動する動作モードを有することを特徴とする請求項16〜19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記コントローラは、前記ライン(2)に沿って変化するレーザビーム(5)のエネルギー入力を用いて前記一つ以上のライン(2)を生成するために前記コントローラが前記第1のレーザユニットを駆動できるように設計されていることを特徴とする請求項16〜20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記コントローラは、前記分割ラインの領域において前記ワークピースの表面に存在する構造を識別するセンサ配置に接続されており、前記分割ラインの上のそのような構造の検出に応答して、前記構造を前記レーザビーム(5)によって除去するために前記一つ以上のライン(2)の生成中に前記レーザビーム(5)の焦点位置を制御するように設計されている請求項16〜21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
レーザユニット(L0)を有し、処理された材料のラインを生成するための第1のステップの前に、前記ワークピースの表面の上の一つ以上の予め規定された分割ラインの領域に位置する材料を除去することができる、及び/又は、特に局所的な再溶融による前記基板の表面の円滑化によって次の第1のステップにおいて前記表面を前記レーザビームに結合するのに備えることができる少なくとも一つの前処理ステップを実行するように構成されている前処理ユニット(PRE)を設けている請求項16〜22のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平坦なワークピースを複数の部分に分割する方法であって、第1のステップにおいて、ワークピースの表面に対してレーザビームを用いる局所的な材料加工によって、処理された材料の一つ以上のラインをワークピースの一つ以上の予め規定された分割ラインに沿って生成し、その結果、分割ラインに沿ったワークピースの破壊応力を軽減し、第2のステップにおいて、ワークピースを熱レーザビーム分離によって分割ラインに沿って部分に分割する方法に関する。発明は、方法を実施するように設計されている装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
多くの技術分野において、一つの大きなワークピースを一般的には同一形状の部分に分割する又はワークピースから複数の一様な構造に分割することが必要である。一例は、半導体産業又は関連の産業、例えば、MEMS、ソーラー若しくは光学における部品又はチップの分離である。この場合、複数の部品が共通の基板の上に製造される。一旦部品が完全に加工されると、部品を個別に更に加工するために部品を互いに分割する必要がある。この分割プロセスすなわち部品の分離を、提案方法及び提案装置によって実行することができる。
【0003】
分離プロセスの種々の要求、例えば、高スループットの要求、高品質の要求、結果的に得られる部品のエッジの十分に正確な幾何学的経路の要求、異なる材料の積層のきれいな分割の要求、部品の品質を損なわないようにする要求及び分離ステップごとに低コストにする要求が行われている。他の技術分野、例えば、ガラス産業及びセラミック産業において、方法及び装置を同様に用いることもできる。
【0004】
平坦なワークピースを複数の部分に分割するときの問題を、分離プロセスに対して種々の方法及び装置が存在する半導体産業における適用に基づいて以下説明する。現今では、基板の上に製造された部品は、通常、機械的技術又はレーザベースの技術を用いて分離される。
【0005】
さらに、機械的方法及びレーザベースの方法並びにプラズマエッチング法及び研削によるシンニングを用いた分割方法から組み合わせた技術が存在する。
【0006】
上述した最後の二つの方法及び組み合わせた方法は、現今では二次的に重要なものに過ぎない。
【0007】
選択した分割技術とは無関係に、一般的には、分割プロセスの前に、分割すべき基板は、基板が下降中に動かないようにするためにキャリアに固定され、部品を制御して分割することができ、既に分割された部品を損失しない。固定のタイプは、加工すべき基板に応じて選択される。マイクロエレクトロニクスにおいては、例えば、片面の接着フィルム及びキャリアフレームを用いた基板の固定がしばしば選択される。
【0008】
材料を除去するレーザ法において、基板の材料は、全ての部品が分割されるまで一つ以上のパルスレーザビームを用いてスクライビングフレームに沿って除去される。
【0009】
除去のない又は切りみぞのないレーザ方法は、基板に対する割れ目の初期設定及び案内に基づく。除去のないそのような分割方法の例は、いわゆるステルスダイシング(SD)及び熱レーザビーム分離(TLS)である。
【0010】
例えば欧州特許第1924392号明細書におけるワークピースを分割するのに用いられるステルスダイシングにおいて、高パルス強度を有するパルスレーザビームは、ワークピースの非線形的な吸収を用いることによって材料の弱体化が生じ、ワークピースは、その後、そのような材料の弱体化の状態における機械的作用によって割られる。しかしながら、200μm以上の厚さを有する基板の分割は、分割ラインに沿ったレーザビームの複数のパスを必要とする。これによって、処理時間が増え、したがって、スループットが減少する。
【0011】
さらに、この技術において、ワークピースは、ワークピースの十分な深さにおいて非線形的な効果を生じることができるようにするために、レーザ放射を非常に大きく吸収してはいけない。したがって、高ドープ基板を分割することができない。その理由は、レーザ放射の吸収が表面に非常に近いところで生じるからである。
【0012】
熱レーザビーム分離は、ワークピースによって十分に吸収されるレーザビームを用いて大きい熱応力を生じさせることによってワークピースを分割する。上記熱応力による分割は、適切な材料の弱体化によって又はワークピースにおいて割れ目を新たに作ることを必要とする。このために、分割すべきワークピースのエッジにおいて又は分割ラインに沿ってワークピースの表面に刻み目を導入することが知られており、そのような刻み目によって、その後、レーザビームによる局所的な高温の加熱中に割れ目が生じ始める。
【0013】
欧州特許第1924392号明細書は、これに関連して、特許請求の範囲の請求項1の前文による方法を開示する。この方法において、TLSステップの前に、ワークピースの表面にパルスレーザを用いる局所的な材料加工によって、処理された材料のトラックを、分割ラインに沿って生成して、分割ラインに沿った破壊応力を軽減する。そのようなトラックは、従来導入されている刻み目に取って代わり、ワークピースのあり得る厚さの変化を補償するために分割ラインに沿って異なる長さで形成することができる。しかしながら、刻み目又は表面の刻み目の代わりに導入される材料処理は、分割された部分又は部品のエッジの品質を低下させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許第1924392号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明によって対処される問題は、従来の熱レーザビーム分離と比べて部分を高速に分割するとともに結果的に得られるエッジの品質を高くすることができる平坦なワークピースを複数の部分に分割する方法及び装置を詳細に述べるものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
問題は、特許請求の範囲の請求項1に記載した方法及び請求項19に記載した装置によって解決される。方法及び装置の有利な形態は、特許請求の範囲の従属項の対象であり、以下の説明及び例示的な実施の形態から収集することができる。
【0017】
提案方法は、切りみぞなしで動作するレーザベースの分割方法である。方法は、分割ラインに沿ったレーザビーム及び冷却の組合せによって高い熱応力をワークピースに導入してワークピースを分割ラインに沿って分割する熱レーザビーム分割(TLS)を利用する。この場合、レーザ放射のエネルギー及び強度を、ワークピースの材料がレーザビームによって処理されない、特に、溶かされないように選択する。このために、好適には、CWレーザ(CW:連続波)を用いる。提案方法において、TLSで割れ目を導入するのに要求される材料の弱体化を、ワークピースの表面に対して別のレーザビーム、特に、パルスレーザビームを用いる局所的な材料加工によって行う。この場合、処理された材料の一つ以上のラインを、分割ラインに沿って生成する。提案方法は、上述した一つ以上のラインが専ら表面に沿って生成されるのではなくワークピースの表面から所定の距離を以て完全に又は少なくとも部分的に延在することによって区別される。これは、一つの連続的なライン又は複数の個別のラインを伴うことができ、複数の個別のラインは、分割ラインに沿って所定の距離を以て上下に存在することもできる。ラインの厚さ又は直径は、その長さに亘って変化してもよい。
【0018】
特に有利には、ラインがワークピースの表面で開始し、その後、表面から離れてワークピースの表面から所定の距離を以て延在し、当該距離はラインの長さに亘って変化することもできる経路となるように、各ラインを生成する。したがって、分割すべきそれぞれの部分又は部品のエッジの品質は、割れ目の開始位置でしか表面の材料の処理によって影響が及ぼされず、その結果、部品又は部分のエッジ残りの経路を高品質で生成することができる。この場合、「高品質」は、主として凹凸又は剥離なしで所望の分割ラインに沿ったエッジの幾何学的経路が可能な限り正確であることを意味することを理解すべきである。
【0019】
提案方法によって、TLSの技術を用いることによって、部分に分割するときに高スループットを達成することができる。ワークピースの表面に対して所定の距離を以て割れ目を少なくとも一部導入及び案内するのに関与する処理された材料のラインを生成することは、分割された部分又は部品の高品質のエッジを同時に達成する。その理由は、表面に対して所定の距離を以て延在するラインの部分は、部分又は部品のエッジに悪影響を及ぼさないからである。この場合、表面に対する所定の距離のラインの部分又は部品の長さを、できるだけ長くすべきであるが、好適には、表面に延在する一つ以上のラインの部分の長さより長くするべきである。
【0020】
提案方法の他の利点は、TLSに対してワークピースにおいてレーザ放射を十分に吸収できるようにするために又はセキュリティRFIDのようなセキュリティに関連した構造を除去するために、(一つ以上の)ラインを生成する第1のステップを、ワークピースの表面に位置するあり得る金属部分及び/又はスクライビングフレームの領域の広範囲に亘るPCM構造(PCM:プロセス制御モニタ)を局所的に除去するのに最初に事前に利用することもできることである。したがって、方法は、スクライビングフレームの広範囲に亘るPCM構造を有するワークピースの分割及び肉薄の前側金属の存在を伴う分割を可能にする。
【0021】
さらに、方法を、例えば、比較的大きい基板の厚さを有する、例えば、シリコン基板の場合に少なくとも925μmの厚さを有する又はSiC基板の場合に450μmの厚さを有する基板をレーザによる分割ラインの各々に対する1回の通過のみですなわちワンパスによって分割するのに用いることもでき、同時に、分割エッジの良好な直進性を達成する。方法は、高ドープ半導体ウェファの分割も可能にし、同時に、分割エッジの良好な直進性を達成する。異なる材料の積層を提案方法によって分割することもできる。特に、方法によって、積層基板、例えば、ガラス上のシリコンを、完全に分割することができ、同時に、分割エッジの良好な直進性を達成する。
【0022】
方法の第1のステップで生成される分割ラインに沿った処理された材料のラインは、幾何学的な関数又は表面からの距離に対する任意のプロフィールに従うことができる。例示的な幾何学的な関数は、例えば、正弦関数、放物線、線形関数、のこぎり波関数又は三角関数である。この場合、各距離関数を、分割すべき部分の構造又は寸法に関連して、特に、分割すべき各部分の長さに依存して固定することもできる。
【0023】
各ラインが表面の上の分割ラインの開始点及び交点に存在するとともにワークピースの表面に対して変化する距離を以てこれらの点の間に延在する距離プロファイルは、特に有利である。同様にして、ラインは、表面の金属部分及び/又は表面のスクライビングフレームのPCM構造を有する領域に沿って延在することもできる。
【0024】
提案方法において、二つ以上のラインが、予め規定された分割ラインに沿って表面からの変化する距離を以て上下に存在する、すなわち、表面から見て又は表面に対する垂直方向の投影において分割ラインに沿って完全に又は部分的に重複してもよい。
【0025】
表面からのラインの距離の変化を、好適には、ワークピースの深さ方向すなわち分割すべきワークピースの表面に対する焦点のz値の方向にラインを生成するために用いられるレーザビームの焦点位置の適合によって達成する。このような焦点の変化を、種々の技術によって実現することができる。これに関して、焦点位置を、例えば、相対的な焦点位置に影響を及ぼす素子の上のアクチュエータ、例えば、圧電素子又は磁気アクチュエータを用いて実現することができる。これに関して、例えば、ワークピースの表面の前のレーザビームの光集束装置の最後の集束レンズの正弦曲線の移動によって、ワークピースのラインの対応する正弦曲線の距離関数を生成することができる。アクチュエータによって生成される変化がそのような正弦関数に限定されないのは当然であり、そのような変化は、任意の予め規定されたプロファイル又は任意の幾何学的な関数の重畳に従うことができる。
【0026】
別の形状のラインを生成するためにワークピースに亘るレーザビームのパスの間に指向された様式でレーザをオン及びオフに切り替えることもできる。
【0027】
ワークピースの深さ方向の焦点位置を変化させる別の可能性は、移動される光学素子若しくはポリゴンスキャナにおける可変焦点距離のミラー素子のような可変焦点距離の光学素子の使用又は適応ミラーの使用にある。
【0028】
ワークピースそれ自体もレーザ加工ヘッドに対して距離方向に適切に移動させることもでき、逆の場合も同じであることは当然である。
【0029】
提案方法において、ラインを、ラインを生成するために用いられるパルスレーザビームのエネルギー入力を用いて生成し、エネルギー入力は、ラインに沿って変化する。これを、例えば、パルスエネルギー/レーザ出力の変化及び/又はパルス間隔の変化によって実現することができる。変化を、分割すべきワークピースの構造又は分割すべき部分に対して固定するやり方ですることができる。これに関して、いずれの場合にも、高パルスエネルギー/レーザ出力を導入することができる、及び/又は、介在する領域における場合に比べて小さいパルス間隔を、例えば、開始点及び交差点で選択することができる。
【0030】
提案方法の全ての変形に対して、方法の第1のステップにおいてレーザビームの焦点位置のコントローラをセンサシステムとともに用いることができる。センサシステムによって、必要な場合には、ラインの深さ位置すなわち表面に対するラインの距離を、ワークピースの構造又は分割すべき部分の構造に合わせることができる。この場合、センサシステムは、レーザ焦点に対する分割すべきワークピースの表面の相対位置を識別するとともに第2の加工ステップの間にレーザ放射の貫通を可能にするためにパルスレーザ放射を用いて表面付近の除去する必要がある金属部分層のような表面の上に存在しうる構造を識別する役割を果たす。この場合、コントローラは、妨害する構造を除去するために、そのような構造を検出する度に表面に焦点を導く。
【0031】
第1のステップを、個別に前処理されなかった基板の上で実行することができる。しかしながら、一部の方法の変形において、第1のステップの前に、第1のステップとは別の前処理ステップを、ワークピースの表面の上の一つ以上の想定される予め規定された分割ラインの領域に位置する材料、特に、金属部分及び/又はPCM構造を除去する及び/又は第1のステップにおいて表面をレーザビームに結合するのに備えることによって行う。その結果、適切な場合には、次のステップの効率及び精度を向上させることができる。
【0032】
前処理ステップは、例えば、表面の上に位置する材料のアブレーションしきい値より高いがワークピースの材料のアブレーションしきい値より低いビームエネルギーを有する前処理レーザビームによる選択的なレーザアブレーションを備えることができる。これを、例えば、金属部分及び/又はPCM構造を除去するために用いることができる。代替的に又は追加的に、前処理ステップは、レーザ放射による局所的な再溶融による基板の表面の平滑化を備えることができる。これによって、粗い表面を平滑化することができ、例えば、次の第1のステップにおけるレーザビームの結合を、非平滑化基板における結合よりも向上させる。
【0033】
局所的なレーザ加工の第1のステップにおいて、表面に最も近接する処理された材料のラインをワークピースの表面からの30μm〜150μmの距離、特に40μm〜60μmの距離を以て長さの主要部分に亘って生成する場合、多くの場合において有利である。この最上部のトラックが表面に非常に近接する場合、通常達成できることは、表面が割れ目の残りによって品質を落とさないようにその後に生じる割れ目が材料に存在したままとなることである。さらに、割れ目の位置を、割れ目が移動できない又はほとんど移動できなくなるとともに正確なエッジ経路が達成できるように後のTLSステップの応力場において十分正確に予め規定することができる。分割ラインに沿って上下に存在するラインの少なくとも二つが生成される領域において、ラインの間の深さ距離が少なくとも200μmである場合、比較的肉厚の基板にさえも、割れ目の面が正確に規定された状態となるように少数のラインだけで予めダメージを与えることができる。好適には、そのような場合において、レーザビームをダメージのない材料に常に結合するように、最初に、基板から更に離間したラインを生成し、その後、基板に近接したラインを生成する。
【0034】
基板を分割するために、好適には、熱レーザ分離の第2のステップにおいて、加熱ゾーンを生成するための第2のレーザビームを、ワークピースに向け、加熱ゾーンに近接している又は加熱ゾーンに部分的に重複する冷却ゾーンを生成するために冷却媒体を前記表面に加える。この場合、分割ラインに沿った加熱ゾーンの中心と冷却ゾーンの中心との間の距離が少なくとも一つのワークピースパラメータ及び/又は分割速度に応じて設定される場合には有利であることが判明した。これによって、割れ目の配置の改善を促進する。
【0035】
一部の方法の変形では、第2のステップにおいて、焦点位置がワークピースの内部の表面に対して所定の距離となるように第2のレーザビームの集束を設定する。この場合、加熱すべき領域を内側エリアから外側に加熱することができる。これによって、特に、吸収係数が温度に大きく依存する材料の場合において、基板の表面の上に加熱ビームを集束する場合よりも深く加熱することができる。冷却と併せた深い加熱は、正確な割れ目分布を促進する強くて極めて限局した応力場を促進する。表面に対する適切距離を、例えば、50μm〜500μmの範囲、特に、100μm〜400μmの範囲とすることができる。
【0036】
ワークピースの内部を溶かすことのない加熱に適切なレーザビームのこのような集束は、先のステップで分割ラインが表面に生成される方法を含む全てのTLS法に対する依存性のない有用な態様と見なされる。
【0037】
方法を適切に実施する装置は、処理された材料の一つ以上のラインをワークピースに生成することができる第1のレーザユニットと、分割ラインに沿ったワークピースの熱レーザビーム分離のために設計されている第2のレーザユニットと、方法を実施するために第1のレーザユニット及び第2のレーザユニットを駆動するコントローラと、を備える。この場合、第1のレーザユニットは、ワークピースの深さ方向(z方向)におけるレーザビームの焦点位置を変更する手段を有する。コントローラは、ワークピースの表面からの変化する距離で一つ以上のラインを生成するために第1のレーザユニット又は焦点位置を変化させることにより焦点位置を変更する手段を駆動するように設計されている。
【0038】
一形態において、装置は、分割ラインに沿った熱レーザビーム分離中に冷却媒体をワークピースの表面に局所的に加えることができる冷却ユニットも備える。例として、水、水と空気の混合物、空気、CO
2又はN
2を、冷却媒体として用いることができ、レーザビームと組み合わせることによってワークピースの分割に必要な機械的応力をもたらすようにするために噴霧ノズルを介してワークピースの表面に向けることができる。他の冷却媒体も用いることができる。
【0039】
この場合、コントローラは、提案方法の種々の形態に従って種々の経路の分割ラインを生成するように第1のレーザユニットを駆動するために様々な動作モードを有することができる。
【0040】
方法及び装置を、多様な分野における平坦で壊れやすいワークピースに対して、特に、肉薄の基板又はウェファの上に製造される分割部品に対して用いることができる。これに関して、マイクロエレクトロニクス又はナノエレクトロニクスの分野において、基板の材料と異なる組成の半導体ウェファ及び分割すべき積層を分割することができる。従来既知の方法によって処理することもできる全ての基板は、ここでは適切である。例えば、特に太陽光発電に用いられる単結晶半導体、多結晶半導体、化合物半導体及びアモルファス半導体が存在する。統合された電気的な構成要素、機械的な構成要素、化学的な構成要素及び/又は生物的な構成要素を備えるシステム、例えば、電気機械システム(MEMS)又はナノ電気機械システム(NEMS)を、提案方法に従って加工することもできる。ガラス産業において、方法を、例えば、ディスプレイ、タイル等の製造に用いることができる。方法及び装置が例として提示した上記の用途に限定されないのは当然である。
【0041】
提案方法及び関連の装置を、図面に関連する例示的な実施の形態に基づいて後に詳細に再び説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】平面図における部品を有する基板の一部の略図を示す。
【
図2】提案方法による正弦曲線を生成する基板の一部の断面の略図を示す。
【
図3】方法によって生じた処理された材料のラインを有する二つの例示的な部品又は部分の断面の略図を示す。
【
図4】提案方法によって処理された材料の複数のライン部分(この例ではそのうちの二つ)を生じさせた基板の一部の断面の略図を示す。
【
図5】提案方法によって処理された材料の複数のライン部分(この例ではそのうちの二つ)を生じさせた基板の一部の断面の別の略図を示す。
【
図6】平坦なワークピースを部分に分割する装置の一実施の形態の略図を
図6Aに示し、詳細図を
図6B〜6Dに示す。
【
図7】上下にある処理された材料のラインを生成する下降の略図を示す。
【
図8】熱レーザ分離中の加熱のためのワークピースの内部における第2のレーザビームの集束を示す。
【
図9】連続的な時点での熱レーザ分離中の加熱のための第2のレーザ加工の詳細図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、ここに出てくる用語を明瞭にするために、部品として分割すべきチップ101を有する基板1からの抜粋を平面図で示す。この図において、スクライビングフレーム102、スクライビングフレーム幅103、切りみぞ104、切りみぞ幅105及び分割ステップを実行するときの移動方向203,204(x方向及びy方向)もチップ101に加えて説明する。
【0044】
図2は、分離して個別の部分又は部品にすることを意図した対応する基板1の断面を示す。この場合、提案方法は、二つの個別の加工ステップを用いる。第1のステップにおいて、処理された材料の一つ以上のライン2を、分割すべき基板1の上及び/又は内部でのパルスレーザビーム5の適切な集束によってTLSの割れ目の開始を一部に局限するとともにTLSの割れ目を案内するために、規定された分割ラインに沿って生成する。
図2の例において、レーザビーム5によって生成される処理された材料のライン2は、基板1の表面から正弦曲線状に変化する距離及び後側からの対応する距離を有する。基板1の表面に対する最小距離4及び基板1の後側に対する最小距離3を本例では適合させる。距離の変化は、基板1におけるレーザビーム5の焦点6の深さ位置の変更によって生じる。提案方法において、最小距離3,4は、ライン2が基板1の表面及び/又は後側の部分にも延在できるようにゼロになってもよい。提案方法において、好適には、分割された部品の部品エッジの品質がこのような材料処理によって悪影響が及ぼされないようにするために、表面の上の経路を、例えば、割れ目を開始する特定の位置又は分割ラインの交差点にのみ生成する。
【0045】
図3は、表面からの生成されたライン2の距離関数が周期的に延在するとともに分割すべき部品7の寸法に適合される例を示す。このケースにおいて、
図3は、基板の二つの例示的な部品7の断面を示す。この場合、ライン2の経路を、ライン2が部品7の各エッジ又は辺縁ゾーンで表面に存在するとともにそれらの間で深部に延在するように選択する。したがって、部品7の分離中にTLSの割れ目を限局するとともに案内するための各ラインのこれらの開始点及び終了点8を、ここでは表面の上に選択する。
【0046】
最後に、
図4は、基板1のライン2のあり得る経路の他の例を示す。この形態において、分割ラインに沿って互いに続く二つのライン2を、断面で示す基板1の部分に生成し、ライン2は、領域9において特定値だけ重複する。重複は、重複領域9の表面から本例では湾曲した二つのライン2への異なる距離によって実現される。
【0047】
最後に、
図5は、本例では湾曲したライン2の変形の他の例を示し、この場合、ライン2は、重複しないが、分割ラインの各々の方向において互いに対応する距離10だけ間隔がある。
【0048】
ライン2の幾何学的な経路、あり得る重複又はあり得る距離は、ワークピースの材料及びワークピースの厚さに応じた部品の分割の要求及び所望される結果に応じて選択される。第1のステップにおける(一つ以上の)対応するラインの導入後、TLS加工を、基板を完全に分割するために第2のステップで行う(分割ステップ)。これを、分割ラインに沿った別のレーザ及び冷却の組合せによって誘導される熱的に誘導された機械的応力によって行う。
【0049】
これに関連し、例として、400μmの厚さを有するシリコン基板を個別のチップに分割するために、1.2Wの平均出力を有するパルスNd:YAGレーザを、第1のステップでラインを生成するために用いることができる。130WのCWレーザ出力及び250mm/sの供給速度を有するYb:YAG CWレーザを、次のTLSステップに用いることができる。
【0050】
方法及び装置の変形の更なる説明のために、
図6は、補助
図6Aにおいて平坦なワークピース1を複数の部分に分割する装置600の概略図を示す。装置は、製造ラインで構成されており、ワークピースを連続して通過させるとともにいずれの場合にも時間的に連続するように異なる加工ステップがワークピース上で実行される複数の加工ユニットを備える。
【0051】
前処理ユニットPREは、(処理された材料のラインを生成する)上述した第1のステップの前に少なくとも一つの前処理ステップを実行するように構成されており、少なくとも一つの前処理ステップによって、スクライビングフレームの領域の一つ以上の想定される予め規定された分割ラインの領域においてワークピースの表面の上に位置する材料、例えば、金属部分及び/又はPCM構造を除去することができる、及び/又は、適切な場合には、次の第1のステップにおいて表面をレーザビームに結合するのに備えることができる。前処理は、例えば、ここでは「レーザポリッシュ」とも称する局所的な再溶融による基板表面の平滑化を備えることができる。
【0052】
前処理ステップの後、ワークピースは、下流の第1のレーザ加工ユニットDSに移送され、処理された材料の少なくとも一つのラインLMを生成する第1のステップを実行する。上記ラインを、材料内で所定の深さでワークピース1の表面Sより下で少なくとも部分的に所定の距離を以て生成するので、ユニットは、(DSと略される)ディープスクライブユニットと称される。上記ユニットは、第1のレーザユニットL1を含み、第1のレーザユニットL1は、ワークピース1の表面Sに対するレーザビーム5による局所的な材料加工によって、処理された材料の一つ以上のラインLMを、ワークピースの一つ以上の予め規定された分割ラインに沿って生成することができる。処理された材料のラインが分割ラインに沿ったワークピースの破壊応力を減少させるようなレーザ加工がここでは行われる。
【0053】
次に、ワークピースは、熱レーザビーム分離のために構成されるとともにここではTLSユニットTLSとも称される下流のユニットに移送される。TLSユニットは、分割ラインに沿ったワークピースの熱レーザビーム分離のために設計されている第2のレーザユニットL2と、冷却ユニットCLと、を備え、冷却ユニットCLによって、分割ラインに沿った熱レーザビーム分割中に冷却媒体をワークピースの表面に局所的に加えることができ、その結果、熱的に誘導された機械的応力が温度差のためにワークピースにおいて増大し、そのような機械的応力の結果、予め規定された分割ラインに沿ってワークピースの材料の正確な割れ目が生じる。上記ユニットの各々は、加工の規定に従って個別の方法ステップを制御するコントローラSTに接続されている。
【0054】
スクライビングフレーム102の領域においてワークピースの表面Sの上に位置する材料、例えば、PCM構造及び/又は金属部分の選択的なレーザアブレーションがレーザビーム50によって行われるように前処理ユニットPREのレーザユニットL0を設計する。発散変更部DIV0及び下側の集束レンズLS0は、この場合、レーザビーム50を表面の上の除去すべき構造に集束するように構成されている(
図6B)。レーザビームのビーム特性は、表面の上に位置する除去すべき材料のアブレーションしきい値AS2を十分に超えるのと同時にワークピース1の材料のアブレーションしきい値AS1より十分に下となるように設定される(
図6C)。その結果、表面の上に位置する構造の照射された材料は、他の方法で消失又は除去されるが、材料の除去がワークピース1の材料においては実質的には生じない。
【0055】
前処理ユニットPREによって、スクライビングフレーム102、すなわち、部分101の上の所望の構造の間の領域又はサブスクライビングフレームの少なくとも一つの規定された部分を除去することができる。場合によっては、表面を、次の第1のステップにおけるレーザの更に良好な結合を促進するために処理することもできる。好適には、短パルスレーザ、特に、ナノ秒レーザ、ピコ秒レーザ又はフェムト秒レーザを、前処理レーザとして用いることができる。好適には、レーザ波長を、レーザ放射がワークピースの材料に実質的に吸収されないが重複する層又は構造の材料において大きな吸収があるように選択する。
【0056】
代替的に又は追加的に、基板の材料の局所的な再溶融を、例えば、数ナノ秒から数ミリ秒の範囲のパルス長を有するレーザによって行うことができる。ここでは「レーザポリッシュ」との称するこの前処理プロセスは、処理された材料のラインを生成するときの下流のDSステーションでのレーザビームの結合が高い表面粗さによるレーザ光の過度の散乱のために妨害される非常に粗い表面の場合に有利になり得る。再溶融による平滑化によって、短い頻度の粗さを減少させることができ、したがって、良好な結合及び/又は散乱の減少を可能にする。典型的な再溶融の深さを、一部の場合において数μm、例えば、5μm以下とすることができるが、可能な場合には、著しく大きく、例えば、数百μm以上、例えば、200μm以上とすることもできる。
【0057】
第1のレーザユニットを備え、材料の流れ方向において前処理ユニットの下流に配置されているディープスクライブユニットDSは、処理された材料のラインLMを生成するのに役立つ。この場合、予め規定された深さのワークピース1の材料の内部で表面Sより下に所定の距離を以てより大きい又はより小さい程度の長い領域に亘ってラインが延在するようにレーザビームを集束する必要がある。所望する深さでの結合及び集束を実現するために、ワークピースの深さにおけるレーザビームの焦点位置を変更する手段を設ける。本例の場合、上記手段は、可変的に設定可能な発散変更部DIV1及び下側の集束レンズLS1を備える。集束レンズは、固定されており、すなわち、移動させる必要がない。可変の発散変更部DIV1は、コントローラSTの制御信号に従って集束レンズLS1の方向に出現するビームの発散を変更するように構成されている。この場合、発散の増大の結果、小さい発散角又は平行な放射の入射に比べて焦点位置が深くなる。本明細書で説明する焦点位置を変更する他の方法も可能である。
【0058】
一部の方法の変形において、この一部の加工を、処理された材料のラインLM、すなわち、割れ目の案内のためのダメージトラックが(表面Sから見て)ワークピースの上部3分の1に、特に、表面Sからの30μmと150μmの間の距離D1に対応する深さ範囲に生じるように制御する。表面Sに対する距離D1が、例えば、40〜60μmの間である場合、ディープスクライブステップにおいて割れ目が材料内部に存在したままであるとともに表面の方に出ないことが一般的に保証される。それに対し、深さは、次の熱レーザ分離中に割れ目が熱レーザ分離の熱応力場内の正確な位置に生じるとともにそこに存在したままとなることを保証するのに十分小さい。
【0059】
図6を参照しながら説明した方法の変形において、所定の状況の下では、処理された材料の多数のラインLMを、表面の上及び/又は表面の内部に加え、上記ラインは、上から見ると交差点の領域において必ず互いに交差する(
図1参照)。レーザによる加工又は照射がここでは少なくとも2回生じるために交差点は潜在的には更に大きいダメージに耐えうるので、一部の変形において、互いに横断するように延在する一方の方向のライン及び他方の方向のラインが交差点の領域において異なる深さで位置するようにラインの深さ位置を予め規定する。
【0060】
ワークピースの材料の減少した破壊応力を有する処理された材料又は領域のラインを第1のレーザユニットL1を用いて生成した後に、第2のステップ、すなわち、熱レーザビーム分割による分割ラインに沿ったワークピースの分割を、ワークピースをTLSユニットTLSに移送した後に行う。第2のレーザユニットL2は、このためにレーザビーム60を使用し、レーザビーム60の波長、エネルギー及び強度を、ワークピースの材料がレーザビームによって処理されないようにする、特に、溶融されないようにするとともにワークピースの局所的な加熱が加熱ゾーンHZ(ワークピースの表面を上から見た
図6D)に生じるように選択する。同時に、表面付近の領域のワークピースの材料を、冷却ユニットCLを用いて冷却ゾーンCZの領域において局所的に冷却する。このために、冷却ユニットは、ワークピースの表面Sに液体冷却媒体を噴霧する又は吹き付けるのに用いることができる冷却ノズルCDを有する。例として、冷却ガス(例えば、空気)と水滴の混合物を冷媒として用いることができる。
【0061】
特に加熱ゾーンから冷却ゾーンへの遷移において熱的に誘導される大きい応力の結果、表面に垂直な割れ目面において非常に高い精度で延在するとともに熱レーザ分離中のワークピースの供給速度の制御の下で伝播する割れ目Rが生じる。
【0062】
TLSユニットTLSの一つの特別な形態は、加熱ゾーンの中心と冷却ゾーンの中心との間の距離HCを連続的に変化できるように、例えば、約1mm〜5mmの距離範囲で、適切な場合にはその上下で調整できるようなものである。これは、例えば、冷媒ノズルCDをレーザユニットL2に対して線形的に変位させることができるとともに設定ユニットによって異なる位置に固定できるために実現される。その結果、熱応力場の特性を、例えば、ワークピースの供給速度、ワークピースの材料等のような分割加工のパラメータを処理するように最適に適合させることができる。
【0063】
第1のステップ、すなわち、処理されたラインをワークピースの材料内に生成することの他の変形を、
図7を参照しながら説明する。図は、静止した形態で適合した集束レンズL1と、その上流に配置された発散変更部DIV1と、を示し、これによって、ビームの集束を連続的に可変となるように設定することができる。本例の場合、400μmを超える厚さを有するワークピース1において、処理された材料の複数のラインは、後の熱レーザ分離中に表面Sに垂直な分割面の経路を正確に規定するために分割ラインに沿って垂直方向で上下に生成するためのものである。第1の動作モードにおいて、第1のレーザビームユニットを、処理された材料の第1のラインLM1を生成するために表面の下で、例えば、表面Sの下で40〜60μmの距離D1に位置する平面の第1の焦点F1でレーザビームを集束するように設定する。第1のラインLM1は、表面Sに略平行な長さの大部分に亘って延在し、周辺ゾーンにおいて表面からできるだけ遠くなるように延在する。この場合、辺縁ゾーンを、直交方向における分離の結果として後に部分の辺縁ゾーンとなる領域とすることもできる。
【0064】
第2の動作モードにおいて、同一領域のスクライビングフレームを所望の分割ラインに沿って2回横断させ、この場合、レーザビームの第2の焦点F2の面が材料内で更に深くなるように、特に、第1のラインLM1からの深さD2となるように配置されるために、発散変更部DIV1から出現するビームを、発散が更に大きくなるように設定する。200μm以上の大きさの程度の垂直距離D2が次の熱レーザ分離において割れ目が分割ラインに沿って所望の分割面において略正確に延在するのを保証するのに十分であることが知られている。ここでは、ダメージラインの間の比較的長い距離が所望の分割面を予め規定するのに十分となるように材料の助長する割れ目の局限応力場がワークピースの表面に略垂直に進行するということにある熱レーザ分離の一つの利点を利用する。
【0065】
一部の変形において、最初に、更に深いラインLM2を生成し、その後、表面に近接するラインLM1を生成する。更に厚い基板においては、深さ方向で上下に三つ以上のラインを生成することもできる。
【0066】
いずれの場合にも前処理ステップ(PRE)の図示した割当て及び連続する動作、処理された材料のラインの生成(第1のレーザ加工ユニットDSによる第1のレーザ加工ステップ(ディープスクライブ))及びそれに続く基板全体に対する熱レーザ分離(TLS)の代替として、他の方法の実現及びシステム形態も可能である。例として、前処理ステップ(PRE)のモジュール、処理された材料のラインの生成(DS)のモジュール及び熱レーザ分離のモジュールを、いずれの場合にも分離ラインに平行又は垂直な次の分割ラインを処理する前にこれらのステップを分割ラインに沿って次々と実行できるようにするために直接次々と配置することができる。いずれの場合にもダイシングステップ(分割ステップ)の各々の間に動作の全てを直接次々と実行するために、モジュールを組合せモジュールにおいて組み合わせることができる。例えば、組合せユニットを形成するために前処理ユニット(PRE)及び処理された材料のラインを生成するユニットDSを組み合わせることによって、個別のモジュールのみを用いてこれを行うことができる。ここでは、所定の状況の下では、共通のレーザ源から出現するレーザビームをビームスプリッタユニットによって表面の前処理のための第1の部分ビーム及び処理された材料のラインを生成するための第2の部分ビームに分割することによって、レーザ源を省略することができる。ビームの分離を、例えば、前処理中及び/又は第1のレーザ加工ステップ中に二つ以上の部分ビームを生成するために個別のモジュール内で行うことができ、部分ビームは、互いに平行な分割ラインに沿って基板を同時に加工する。
【0067】
多くの場合において先のステップ、特に、第1のレーザ加工ステップよりも遅く又は低い供給速度で熱レーザ分離のステップを実行する必要があるという事実の観点において、第1のレーザ処理ユニットの下流に、時間的に並列して動作することができる二つ以上の第2のレーザ加工ユニット及び冷却ユニットを配置するとともに、第1のレーザ加工ステップの終了後に分配ユニットによって下流のTLSステーションに沿って基板を分配することができる。
【0068】
熱レーザ分離中すなわち第2のステップにおいてレーザビームベースの加熱の特別な形態を、
図8及び
図9を参照しながら説明する。加熱のためにレーザビームの焦点領域をワークピースの表面Sの上に又はそれに近接して配置するように第2のレーザビームユニットの集束を行うことができる。しかしながら、材料の内部にすなわちワークピース1の表面Sに対して所定の垂直距離に焦点領域F3を配置するのが有利となり得るという検証を示す。焦点位置と表面との間の最適距離D3は、材料に応じて変化することができ、例えば、100μm〜500μmの範囲とすることができる。さらに、第2のレーザビームの波長を、材料を加熱するために十分な吸収が材料に生じるようワークピースの材料に適合するように選択すべきである。シリコンの加工のためには、例えば、1070nm付近の波長が特に適切であることが知られている。一般的に、半導体材料を加熱するためには、エネルギーが各材料のバンドギャップより幾分低いレーザ波長を選択するのが適切であると思われる。好適には、部分の隣接する構造STRがレーザビームによって影響が及ぼされないようにするために、レーザビームと表面Sとの間の交差のエリアが、部分の隣接する構造STRに対して横方向の安全距離を以てサブスクライビングフレーム内に完全に存在するように、第2のレーザビーム60を集束する。
【0069】
最高のエネルギー密度の領域すなわち焦点領域をワークピースの材料内で移動させる場合、加熱されるゾーンは、表面で集束を行う場合よりも深くなる。その結果、得ようとする熱的に誘導された応力場は、表面で集束を行う場合よりも材料内で深く延在する。これによって、表面付近でのみ加熱する場合よりも(理想的には表面に垂直な)割れ目の面の経路を良好に制御することができる。
【0070】
第2のステップでワークピース内でレーザビームを集束することによって、表面の方向においてワークピースの内部から所望の加熱を生成することができる。ワークピースの材料内の集束による表面からの距離が更に長くなる更に深いゾーンでの加熱は、第2のステップにおいてワークピースの材料がレーザビームに対して温度依存性の大きい吸収係数を有するワークピースに対して可能である。この場合、レーザビームの侵入深さは、温度の上昇又は照射の持続時間の増大とともに変化する。これに関して、
図9は、ワークピースの材料の加熱のための照射中の異なる時間でのワークピースの一部を、説明のために線形的に示す。加熱段階の開始時である時点t
1において、加熱の大部分は、表面からの長い距離で材料内に位置する焦点の領域に生じる。加熱が増大するに従って、ワークピースの材料の吸収が増大し、レーザビームの侵入深さは、後の時点t
2>t
1において既に減少している。更に後のt
3>t
2の時点では、レーザビームは、再び増大した吸収のために材料にほとんど侵入しない。このようにして、焦点位置のマシンベースの調整がなくても、ワークピースは、予測される分割領域において、材料の所定の深さまで延在する応力場を生成するのに十分大きい深さまで加熱される。このために、円形、楕円形、方形又は非方形の細長い矩形のビーム断面を用いることができる。
【0071】
この変形は、本願で説明した発明の他の形態と関係なく熱レーザ分離の他の方法においても有利となることができ、独立した発明と見なされる。特に、加熱中のこの手順を、先行する第1のステップの処理された材料のラインをワークピースの表面に沿ってのみ生成する場合にも用いることができる。
【0072】
特に詳細に示さない次のクリーニングステップにおいて、互いに分割された部分を有する処理されたワークピースを、クリーニング動作中にクリーニングすることができる。このために、例として、あり得る残留物を除去するために表面に圧縮空気又は他の圧縮ガスを吹き付けることができる。遠心力を用いて表面をクリーニングするために、ワークピース全体を迅速に回転することもできる。これらの手段を組み合わせることができる。
【0073】
提案方法は、以下の表から収集できるように、スクライビングエッジ又はワークピースの表面に沿ったラインについてのステルスダイシング(SD)の既知の方法及び従来既知の熱レーザビーム分離(TLS)より優れた多数の利点を有する。