特許第6416946号(P6416946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6416946
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】眼科手術システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20181022BHJP
【FI】
   A61F9/007 130G
   A61F9/007 130B
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-8276(P2017-8276)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2017-131649(P2017-131649A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年3月23日
(31)【優先権主張番号】10 2016 201 297.5
(32)【優先日】2016年1月28日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506085066
【氏名又は名称】カール・ツアイス・メディテック・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・キューブラー
(72)【発明者】
【氏名】フリーデリケ・モール
(72)【発明者】
【氏名】ナディーネ・ゲラー
(72)【発明者】
【氏名】メラニー・シュ―フ
【審査官】 白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−064934(JP,A)
【文献】 特開2002−153499(JP,A)
【文献】 特開平05−115502(JP,A)
【文献】 特表2014−507972(JP,A)
【文献】 特開平01−151455(JP,A)
【文献】 国際公開第93/018802(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/161149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術システム(100)において、
− 潅流流体(3)を収容した潅流流体容器(2)を受けるコンソール(1)と、
− 前記コンソール(1)に挿入可能な、前記潅流流体(3)を治療対象眼(6)のための手術器具(5)に誘導するカセット(4)と、
− 前記潅流流体容器(2)から前記カセット(4)および前記手術器具(5)までの潅流流体流路(8)と、
− 第一の容積を有する第一のポンプ室(11)と、そこから第一の弾性仕切り要素(12)によって分離され、第二の容積を有する第一の駆動室(13)とを含む第一の流体ポンプ(10)であって、前記第一の弾性仕切り要素(12)はその縁(14)によって前記第一の流体ポンプ(10)内に永久的に取り付けられており、前記潅流流体流路(8)を介した前記潅流流体容器(2)からの潅流流体(3)は前記第一のポンプ室(11)へと供給可能であり、前記第一の弾性仕切り要素(12)の弾性変形を実現することを可能にする第一の駆動流体(17)は、所定の圧力に基づいて前記第一の駆動室(13)へと供給可能であり、その結果、前記第一の容積をより小さくすることができ、それと同時に、前記第二の容積をより大きくすることが可能である、第一の流体ポンプ(10)と、
− 前記第一の流体ポンプ(10)に並列に配置され、第三の容積を有する第二のポンプ室(21)と、そこから第二の弾性仕切り要素(22)により分離され、第四の容積を有する第二の駆動室(23)とを含む第二の流体ポンプ(20)であって、前記第二の弾性仕切り要素(22)はその縁(24)によって前記第二の流体ポンプ(20)内に永久的に取り付けられており、前記潅流流体流路(8)を介した前記潅流流体容器(2)からの潅流流体(3)は前記第二のポンプ室(21)へと供給可能であり、前記第二の弾性仕切り要素(22)の弾性変形を実現することを可能にする第二の駆動流体(27)は、所定の圧力に基づいて前記第二の駆動室(23)へと供給可能であり、その結果、前記第三の容積をより小さくすることができ、それと同時に前記第四の容積をより大きくすることが可能である、第二の流体ポンプ(20)と、
を含み、
前記潅流流体容器(2)から前記第一のポンプ室(11)及び前記第二のポンプ室(21)に供給された潅流流体(3)は、前記潅流流体流路(8)を介して、前記手術器具(5)に供給され、
前記第一の容積または前記第三の容積は、1〜25cm3の範囲内で増減する、眼科手術システム(100)。
【請求項2】
− 前記治療対象眼(6)から吸引流体回収容器(50)へと吸引流体を供給するための吸引流体流路(9)と、
− 第五の容積を有する第三のポンプ室(31)と、そこから第三の弾性仕切り要素(32)により分離され、第六の容積を有する第三の駆動室(33)とを有する第三の流体ポンプ(30)であって、前記第三の弾性仕切り要素(32)はその縁(34)によって前記第三の流体ポンプ(30)内に永久的に取り付けられており、前記吸引流体流路(9)を介した前記手術器具(5)からの吸引流体は前記第三のポンプ室(31)に供給可能であり、前記第三の弾性仕切り要素(32)の弾性変形を実現することを可能にする第三の駆動流体(37)は、所定の圧力に基づいて前記第三の駆動室(33)へと供給可能であり、その結果、前記第五の容積をより大きくすることができ、それと同時に前記第六の容積をより小さくすることが可能である、第三の流体ポンプ(30)と、
− 前記第三の流体ポンプ(30)に並列に配置され、第七の容積を有する第四のポンプ室(41)と、そこから第四の弾性仕切り要素(42)によって分離され、第八の容積を有する第四の駆動室(43)とを有する第四の流体ポンプ(40)であって、前記第四の弾性仕切り要素(42)はその縁(44)によって前記第四の流体ポンプ(40)内に永久的に取り付けられており、前記吸引流体流路(9)を介した前記手術器具(5)からの吸引流体は前記第四のポンプ室(41)に供給可能であり、前記第四の弾性仕切り要素(42)の弾性変形を実現することを可能にする第四の駆動流体(47)は、所定の圧力に基づいて前記第四の駆動室(43)へと供給可能であり、その結果、前記第七の容積をより大きくすることができ、それと同時に前記第八の容積をより小さくすることが可能である、第四の流体ポンプ(40)と、
をさらに含み、
前記手術器具(5)から前記第三のポンプ室(31)及び前記第四のポンプ室(41)に供給された吸引流体は、前記吸引流体流路(9)を介して、前記吸引流体回収容器(50)に供給され、
前記第五の容積または前記第七の容積は、1〜25cm3の範囲内で増減する、請求項1に記載のシステム(100)。
【請求項3】
前記第一の弾性仕切り要素(12)および前記第二の弾性仕切り要素(22)のそれぞれの位置は、それぞれ第一のセンサ(19)および第二のセンサ(29)によって非接触式に検出可能である、請求項1に記載のシステム(100)。
【請求項4】
前記第三の弾性仕切り要素(32)および前記第四の弾性仕切り要素(42)のそれぞれの位置は、それぞれ第三のセンサ(39)および第四のセンサ(49)によって非接触式に検出可能である、請求項2に記載のシステム(100)。
【請求項5】
前記潅流流体(3)は前記第一のポンプ室(11)および前記第二のポンプ室(21)から同時に第一の圧力(pIRR1)で前記潅流流体流路(8)を介して前記手術器具(5)に供給可能である、請求項1〜4の何れか1項に記載のシステム(100)。
【請求項6】
前記吸引流体は、前記第三のポンプ室(31)および前記第四のポンプ室(41)の中に同時に第二の圧力(pASP1)で供給可能である、請求項に記載のシステム(100)。
【請求項7】
前記潅流流体(3)のための前記第一のポンプ室(11)および前記第二のポンプ室(21)ならびに/または前記吸引流体のための前記第三のポンプ室(31)および前記第四のポンプ室(41)は、それぞれ入口弁(15、25;35、45)および出口弁(16、26;36、46)を有し、それぞれの前記出口弁(16、26;36、46)がそれぞれの前記入口弁(15、25;35、45)の上方に空間的に配置される、請求項に記載のシステム(100)。
【請求項8】
前記第一のポンプ室(11)および前記第二のポンプ室(21)は前記カセット(4)の中に配置され、前記第一の駆動室(13)および前記第二の駆動室(23)は前記コンソール(1)の中に配置される、請求項1〜7の何れか1項に記載のシステム(100)。
【請求項9】
前記第三のポンプ室(31)および前記第四のポンプ室(41)は前記カセット(4)の中に配置され、前記第三の駆動室(33)および前記第四の駆動室(43)は前記コンソール(1)の中に配置される、請求項に記載のシステム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科手術システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医学的に白内障と呼ばれる水晶体の曇りの治療には様々な手術法がある。最も広く採用されている手法は、水晶体超音波乳化吸引術であり、細い中空針が眼の水晶体の中に刺入され、超音波振動を誘発する。そのすぐ周囲で、振動する中空針により水晶体が乳化し、その結果、水晶体の小片をポンプによってラインを通じて吸引できる。この工程中、潅流流体(洗浄流体)が供給され、水晶体小片および流体の吸引は吸引ラインを通じて行われる。水晶体が完全に乳化し、除去された後、空になった水晶体嚢に新しい人工水晶体を挿入でき、そのため、このようにして治療された患者は良好な視力を取り戻すことができる。
【0003】
手術中、眼の水晶体を超音波で振動する中空針により破砕している間に、比較的大きい水晶体小片が中空針の先端に到達するのは不可避であり、前記針先端またはその吸引口が詰まる。この状態を閉塞と呼ぶ。このような場合、吸引ラインで典型的に使用される蠕動ポンプにより、閉塞していない動作と比較して、はるかに強力な吸引圧を発生させる。それに加えて、中空針を移動させるために高エネルギーを投入でき、それによって中空針を詰まらせている水晶体小片が細かく壊される。あるいは、蠕動ポンプの移動方向を逆転させることによってもまた、水晶体小片を針の先端から除去でき、それによって、流体と細かい水晶体小片の通常の吸引を再び進めることができる。したがって、このような瞬間に閉塞が解消され、それ以前に存在していた高い負圧が急速に低下する。その結果として行われる吸引により、小さい水晶体小片と流体が吸引ラインに吸い込まれるだけでなく、水晶体嚢の一部が中空針と接触することにもなりうる。水晶体嚢に穴が開くと、これは患者にとって重大な合併症の原因となり、この合併症を絶対的に回避しなければならない。さらに、吸引中、大量の流体が眼球前部から吸引される可能性があり、そのため眼球虚脱の危険性がある。これもまた、患者にとって重大な合併症の原因となりえ、この合併症は絶対的に回避しなければならない。
【0004】
流体を誘導するための別のシステムは、(特許文献1)、(特許文献2)、および(特許文献3)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0164690A1号明細書
【特許文献2】国際公開第93/18802A1号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2015/0297405A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、手術時間中ずっと、眼圧を50mmHg未満の低い数値に保持する眼科手術システムを提供することである。手術中、眼圧を事実上一定に保持することが意図され、これはまた、閉塞の開始時および解消後にも達成される。これが短時間の手術中にも長時間の手術中にも可能であるようにすることが意図される。さらに、システムは費用対効果が高いものとすることが意図される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
目的は、特許請求項の独立項の主旨により達成される。本発明の有利な発展形は、従属項の主旨である。
【0008】
本発明による眼科手術システムは、
− 潅流流体を収容した潅流流体容器を受けるコンソールと、
− コンソールに挿入可能な、潅流流体を治療対象眼のための手術器具に誘導するカセットと、
− 潅流流体容器からカセットおよび手術器具までの潅流流体流路と、
− 第一の容積を有する第一のポンプ室と、そこから第一の弾性仕切り要素によって分離され、第二の容積を有する第一の駆動室とを含む第一の流体ポンプであって、第一の弾性仕切り要素はその縁によって第一の流体ポンプ内に永久的に取り付けられており、潅流流体流路からの潅流流体は第一のポンプ室へと供給可能であり、第一の弾性仕切り要素の弾性変形を実現することを可能にする第一の駆動流体は、所定の圧力に基づいて第一の駆動室へと供給可能であり、その結果、第一の容積をより小さくすることができ、それと同時に、第二の容積をより大きくすることが可能である、第一の流体ポンプと、
− 第一の流体ポンプに並列に配置され、第三の容積を有する第二のポンプ室と、そこから第二の弾性仕切り要素により分離され、第四の容積を有する第二の駆動室とを含む第二の流体ポンプであって、第二の弾性仕切り要素はその縁によって第二の流体ポンプ内に永久的に取り付けられており、潅流流体流路からの潅流流体は第二のポンプ室へと供給可能であり、第二の弾性仕切り要素の弾性変形を実現することを可能にする第二の駆動流体は、所定の圧力に基づいて第二の駆動室へと供給可能であり、その結果、第三の容積をより小さくすることができ、それと同時に第四の容積をより大きくすることが可能である、第二の流体ポンプと、
を含み、
第一の容積または第三の容積は、1〜25cm3の範囲内の大きさを有する。
【0009】
したがって、システムは第一の流体ポンプと、それに並列に接続された第二の流体ポンプとを含む。例えば、第一のポンプの場合、第一のポンプ室がほとんど空になると、第二の流体ポンプを接続できる。第二の流体ポンプがその第二のポンプ室で潅流流体を潅流流体流路に放出している間に、第一の流体ポンプを再充填することができ、したがって、第二のポンプ室が空になったら、第一の流体ポンプを再び接続できる。これは、第一の流体ポンプおよび第二の流体ポンプの交互動作が可能であることを意味する。それによって、手術中に、非常に変動の小さい体積流れを実現できる。これは、事実上一定の眼圧を保持できることを意味する。並列に接続された第一および第二の流体ポンプの交互動作は、潅流流体容器の中に潅流流体がなくなるまで行うことができる。これは、短時間の手術中および長時間の手術中に、潅流流体の流れを中断することなく、システムを動作させることが可能であることを意味する。
【0010】
流体ポンプは各々、その縁によってそれぞれの流体ポンプ内に永久的に取り付けられている弾性仕切り要素を含む。弾性仕切り要素の移動は駆動流体によって実現され、これはそれぞれの流体ポンプの、それに関係する駆動室の中に提供される。したがって、弾性仕切り要素は、ピストンの場合のようにプランジャまたはロッドではなく、駆動流体によって移動される。これによって、ガクンとならない非常に急速な移動が可能となり、すなわち、ピストンの場合のような初期の引っ掛かりとその後の滑り(「スティックスリップ効果」と呼ばれる)がない。このような弾性仕切り要素はまた、小さい質量にも製作でき、この要素により、動的移動、およびしたがって潅流流体流路の中の動的流体変化が可能となる。弾性仕切り要素は特定の流体ポンプの縁に取り付けられているため、良好なシールを実現できる。したがって、流体ポンプの縁では弾性仕切り要素は移動しない。したがって、ピストンポンプの場合に必要となる、良好な滑りのための潤滑剤を省くことができる。これは特に有利であり、それは本発明によるシステムでは、上記のことから潅流流体が汚染されるリスクがないからである。反対に、流体ポンプの作動中に潅流流体を確実に滅菌状態に保つことができる。それに加えて、弾性仕切り要素による良好なシーリング効果により、何れの所望の駆動流体でも使用できる。前記流体が同様に潅流流体であることも想定可能である。しかしながら、定常的に圧縮された空気ラインからの圧縮空気を関係させることも可能である。弾性仕切り要素による良好なシーリング効果によって、ポンプ室の潅流流体と駆動室の駆動流体との間の接触が確実になくなる。
【0011】
第一のポンプ室の第一の容積または第二のポンプ室の第三の容積は、1〜25cm3の範囲内の大きさ、好ましくは1〜15cm3の範囲内の大きさ、特に好ましくは1〜10cm3の範囲内の大きさである。これは比較的小さい容積を表す。しかしながら、流体ポンプの交互動作を提供できることから、長時間の手術が中断せずに可能となる。さらに、小さい第一および第三の容積は有利であり、これは、潅流流体流路の中の体積流れの比較的小さい変化によって、第一および第三の容積がそれに比例して比較的大きく変化するからである。これは、体積流れの変化の記録の感度が比較的高いことを意味する。さらに、小さい第一の容積および/または第三の容積は、小さい質量だけが運ばれ、したがって、システム全体を小さく、コンパクトにし、それゆえ、費用対効果の高い方法で実現できることを意味する。
【0012】
好ましくは、第一の容積は第三の容積と同じ大きさである。これによって、関係する弁と事実上同じ切換え周期の対称の構成を実現することができる。
【0013】
1つの発展形によれば、本発明によるシステムは、
− 治療対象眼から吸引流体回収容器へと吸引流体を供給するための吸引流体流路と、
− 第五の容積を有する第三のポンプ室と、そこから第三の弾性仕切り要素により分離され、第六の容積を有する第三の駆動室とを有する第三の流体ポンプであって、第三の弾性仕切り要素はその縁によって第三の流体ポンプ内に永久的に取り付けられており、吸引流体流路からの吸引流体は第三のポンプ室に供給可能であり、第三の弾性仕切り要素の弾性変形を実現することを可能にする第三の駆動流体は、所定の圧力に基づいて第三の駆動室へと供給可能であり、その結果、第五の容積をより大きくすることができ、それと同時に第六の容積をより小さくすることが可能である、第三の流体ポンプと、
− 第三の流体ポンプに並列に配置され、第七の容積を有する第四のポンプ室と、そこから第四の弾性仕切り要素によって分離され、第八の容積を有する第四の駆動室とを有する第四の流体ポンプであって、第四の弾性仕切り要素はその縁において第四の流体ポンプ内に永久的に取り付けられており、吸引流体流路からの吸引流体は第四のポンプ室に供給可能であり、第四の弾性仕切り要素の弾性変形を実現することを可能にする第四の駆動流体は、所定の圧力に基づいて第四の駆動室へと供給可能であり、その結果、第七の容積をより大きくすることができ、それと同時に第八の容積をより小さくすることが可能である、第四の流体ポンプと、
をさらに含み、
第五の容積または第七の容積は、1〜25cm3の範囲内の大きさを有する。
【0014】
したがって、吸引流体流路の中で、潅流流体流路と同様の構成が提供される。第三の流体ポンプは第四の流体ポンプに並列に配置されて、吸引流体を眼から吸引流体回収容器へと送出する。ポンプは交互に動作可能であり、各々が弾性仕切り要素を含み、それによってそれぞれのポンプ室とそれに関連する駆動室との間を密閉状態に仕切ることができる。1〜25cm3の範囲内の大きさ、好ましくは1〜15cm3の範囲内の大きさ、および特に好ましくは1〜10cm3の範囲の大きさである比較的小さい第五の容積または第七の容積によって、吸引ライン内の圧力の変化に対する急速で動的な応答が可能となる。例えば、手術器具の針が水晶体小片で詰まる、すなわち閉塞すると、吸引流体は吸引流体流路内に流れ込まなくなる。詰まりが解消されると、この状態は、流体が眼からほとんど突然吸引されることにより、非常に急速に変化する。このことが特定されると、この変化は、非常に動的に動作可能な第三および第四の流体ポンプによって有効に取り扱うことができ、それによって事実上一定の眼圧を実現することが可能となる。
【0015】
この実施形態の別の利点は、手術時間中ずっと、脈動しない吸引が可能となる点である。これは、蠕動ポンプによって吸引流体を搬送するシステムと比較して顕著な改善を示す。脈動しない動作は有利であり、これは、上記のことから治療対象眼が手術終了するまで動かないようにすることができ、顕微鏡で観察中の外科医に安定した画像が提示されるからである。
【0016】
好ましくは、第五の容積は第七の容積と同じ大きさである。これによって、関係する弁と事実上同じ切換え周期の対称の構造を実現できる。
【0017】
別の実施形態によれば、第一の弾性仕切り要素および第二の弾性仕切り要素のそれぞれの位置は、それぞれ第一および第二のセンサによって非接触式に検出可能である。第一および第二の弾性仕切り要素の位置が分かっていることによって、潅流流体用流路内の体積流れを間接的に確立できる。したがって、第一および第二の駆動流体によって、潅流流体流路内の体積流れに直接影響を与えることが可能となる。これは、閉塞の打開が起こり、潅流流体の体積流の急速で動的な変化が事実上一定の眼圧を達成するために必要である場合に特に重要である。
【0018】
別の利点は、このように体積流れを間接的に確立する場合、潅流流体中の気泡がわずかであることである。しかしながら、先行技術による眼科手術システムにおいて慣例的に行われる圧力測定または体積流れ測定においては、気泡、特に泡が測定結果に大きな障害となる影響を及ぼし、それを大幅に歪める可能性がある。それゆえ、潅流流体中の気泡が避けられない場合でも、この実施形態によれば、潅流流体流路内の体積流れの正確な調整と、それゆえ、その後に発生する眼内の圧力調整を実現できる。
【0019】
さらに、第三の弾性仕切り要素および第四の弾性仕切り要素のそれぞれの位置を、それぞれ第三および第四のセンサによって非接触式に検出可能とすることができる。これは、第一の弾性仕切り要素および第二の弾性仕切り要素の位置を記録することに関する上述の利点をはるかによく実現できることを意味する。したがって、吸引流体流路の中に体積流れを間接的に確立することも可能であり、それによって、吸引流体流路内の体積流れの急速で動的な調整を実現できる。
【0020】
別の実施形態によれば、潅流流体は、第一および第二のポンプ室から同時に第一の圧力で潅流流体流路へと手術器具の方向に供給できる。例えば、第一のポンプ室がほとんど空であるとき、第一のポンプ室が空の状態になる直前に、潅流流体を第二のポンプ室から潅流流体流路へと供給することが可能となる。2つのポンプ室が相互に並列に接続されているため、2つのポンプ室のそれぞれの出口には同じ圧力がある。このような実施形態は有利であり、それは、上記のことから、供給された潅流流体の連続的な通常の動作を実現でき、ポンプ室が交互動作する場合に、潅流流体流路内の体積流れおよび圧力の変動が起こらないからである。
【0021】
さらに、吸引流体を第三および第四のポンプ室に同時に第二の圧力で供給できる。これは、上述の実施形態の場合と同じ利点を、吸引流体流路の中でも実現できることを意味する。
【0022】
別の実施形態において、潅流流体のための第一および第二のポンプ室および/または吸引流体のための第三および第四のポンプ室は、各々の場合で、入口弁と出口弁を有し、特定の出口弁は特定の入口弁の上方に空間的に配置される。これは、潅流流体または吸引流体内に存在しうる気泡が急速に上方に漏出でき、ポンプ室の一方に比較的大量に堆積しえないため、有利である。
【0023】
好ましくは、第一および第二のポンプ室はカセット内に配置され、第一および第二の駆動室はコンソール内に配置される。第一の容積を有する第一のポンプ室および第三の容積を有する第二のポンプ室は各々、比較的小さい容積を有し、そのため、カセットを小さく、コンパクトな設計にすることができる。カセットは使い捨ての物品であるため、消費コストも削減できる。それゆえ、本発明によるシステムのこのような実施形態により、費用対効果の高い動作が可能となる。
【0024】
それに加えて、またはその代わりに、第三および第四のポンプ室はカセット内に配置でき、第三および第四の駆動室はコンソール内に配置できる。これは、小さくコンパクトなカセットの構成と、それゆえ費用対効果の高い構成が同様に可能であることを意味する。
【0025】
本発明の別の利点および特徴を、下記のような図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明によるシステムの第一の実施形態の概略図を示す。
図2】本発明によるシステムの第一および第二のポンプ室の入口および出口弁の切換え状態の概略図を示す。
図3】本発明によるシステムの第三および第四のポンプ室の入口および出口弁の切換え状態の概略図を示す。
図4】本発明によるシステムの時間に応じた圧力プロファイルと体積流れプロファイルの概略的なグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明による1つの実施形態による眼科手術システム100の概略図を示す。システム100はコンソール1を含み、コンソール1に潅流流体3の入っている潅流流体容器2を連結できる。それに加えて、システム100はカセット4を含み、カセット4はコンソール1に挿入できる。カセット4は、潅流流体3を治療対象眼6のための手術器具5に誘導する役割を果たす。手術器具5は、例えば超音波水晶体乳化手術によって眼6の水晶体7を破砕するのに適しており、その結果できる水晶体小片および潅流流体3を吸引することが可能である。
【0028】
システム100は潅流流体流路8をさらに含み、これは潅流流体容器2からカセット4に、またそこから手術器具5へと延びる。それに加えて、システム100は第一の流体ポンプ10を含み、これは第一の容積を有する第一のポンプ室11と、そこから第一の弾性仕切り要素12により分離され、第二の容積を有する第一の駆動室13とを含む。第一の弾性仕切り要素12は、その縁14によって流体ポンプ10の中に永久的に取り付けられている。
【0029】
潅流流体3は、潅流流体流路8によって第一のポンプ室11に供給可能である。潅流流体3は第一の入口弁15へと流れることができ、入口弁15が開位置にあるときには第一のポンプ室11に到達でき、出口弁16が開くと再び第一のポンプ室11から出ることができる。第一の駆動流体17は、比例弁18によって、第一のポンプ室11に隣接して配置された第一の駆動室13に供給できる。第一の駆動室13内の第一の駆動流体17と第一のポンプ室11の潅流流体3との間の圧力差に応じて、第一の弾性仕切り要素12の弾性変形が起こる。第一の駆動室13内の圧力が第一のポンプ室11内の圧力より高いと、第一のポンプ室11の第一の容積がより小さくなり、それと同時に、第一の駆動室13の第二の容積がより大きくなる。したがって、入口弁15が閉じ、出口弁16が開いていると、潅流流体3を第一のポンプ室11から外に誘導できる。第一の弾性仕切り要素12の位置は、第一のセンサ19によって記録でき、これは第一の流体ポンプ10の外側に取り付けられている。好ましくは、第一のセンサ19は誘導性または容量式位置センサである。
【0030】
潅流流体流路8は、カセット4の中で第一の分枝流路81および第二の分枝流路82に分かれ、これらは相互に平行に接続されている。潅流流体3はしたがって、第二の分枝流路82と、そこから第二の流体ポンプ20にも到達できる。第二の入口弁25を通過した後に、これは第二の流体ポンプ20の第二のポンプ室21に入り、第二の出口弁26が開くと第二のポンプ室21から再び流出できる。
【0031】
第一の出口弁16を通過後に、潅流流体は分枝流路83に流れ込むことができ、また、第二の出口弁26を通過後に、潅流流体は分枝流路84に流れ込むことができる。分枝流路83および84は相互に出会い、合流し、したがって、潅流流体は1本の潅流流体流路8の中のみを流れる。
【0032】
第三の容積を有する第二のポンプ室21に隣接して第二の駆動室23が配置され、これは第四の容積を有し、第二のポンプ室21および第二の駆動室23は相互から、第二の弾性仕切り要素22によって分離されている。第二の弾性仕切り要素22は、その縁24によって第二の流体ポンプ20の中に永久的に取り付けられている。第二の駆動流体27は比例弁28によって、所定の圧力に基づいて第二の駆動室23に供給できる。
【0033】
第二のポンプ室21と第二の駆動室23との間の圧力差に応じて、それらの間に配置された第二の弾性仕切り要素22は弾性変形できる。例えば、第二の駆動室23内の圧力が第二のポンプ室21内より高いと、第二の駆動室23の第四の容積はより大きくなり、それと同時に、第二のポンプ室21の第三の容積はより小さくなる。その結果、潅流流体3を第二のポンプ室21から潅流流体流路8の分枝流路84の中に誘導できる。第二の弾性仕切り要素22の位置は第二のセンサ29によって、好ましくは非接触的に、例えば誘導または容量方式で記録できる。
【0034】
潅流流体が、出口弁16および/または26を通過後に第一の流体ポンプ10および/または第二の流体ポンプ20によって潅流流体流路8の中へとさらに案内されると、それは手術器具5に到達する。前記器具5は例えば、眼6の水晶体7を小さい水晶体小片に破砕できる超音波水晶体乳化吸引用ハンドピースとすることができる。
【0035】
眼の水晶体7の破砕中、小片は供給された潅流流体と共に吸引される。本発明によれば、これは第三の流体ポンプ30とそれに並列に接続された第四の流体ポンプ40によって行われる。水晶体小片と水晶体の破砕中に汚染された潅流流体は、以下、まとめて吸引流体と呼ぶが、入口弁35が開いていると、第一の分枝流路91および第二の分枝流路92に分岐する吸引流体流路9に沿って、第三の流体ポンプ30に到達する。
【0036】
第三の流体ポンプ30は、第三のポンプ室31と、それに隣接して配置された第三の駆動室33とを含み、これらの室は相互から第三の弾性仕切り要素32によって分離されている。第三の弾性仕切り要素32は、その縁34によって第三の流体ポンプ30に永久的に結合されている。第三の駆動流体37は、比例弁38によって第三の駆動室33に誘導できる。入口弁35が開いているときに吸引流体が第三のポンプ室31に流れ込むと、前記流体は、第三の駆動室33内の圧力が適切に高いために、第三のポンプ室31の外へと運ぶことができ、それによって、入口弁35が閉じ、出口弁36が開くと、第三の仕切り要素32が弾性変形する。第三の弾力仕切り要素32の位置は、第三のセンサ39によって記録できる。送出された吸引流体は分枝流路93に、またそこから吸引流体回収容器50に到達する。
【0037】
これらの相互関係はまた、第四の流体ポンプ40にも同様に当てはまる。吸引流体は、入口弁45が開いていると、分枝流路92に沿って第七の容積を有する第四のポンプ室41に流れ込むことができる。第四のポンプ室41に隣接して、第八の容積を有する第四の駆動室43があり、その中に第四の駆動流体47が比例弁48によって流れ込むことができる。第四の駆動室43の中の圧力が第四のポンプ室41内より高いと、第四の弾性仕切り要素42は相応に変形し、したがって、第七の容積がより小さくなり、第八の容積はより大きくなる。第四の弾性仕切り要素42の位置の変化は、センサ49によって記録できる。入口弁45が閉じ、出口弁46が開いている場合、吸引流体はすると、第四の流体ポンプ40から出て、分枝流路94の中に流れ込むことができる。2つの分枝流路93および94はその後合流し、すると、吸引流体が吸引流体回収容器50へと誘導される。
【0038】
入口弁15および25は、出口弁16および26の下方に空間的に位置付けられる。これはまた、入口弁35および45にも当てはまり、これらは出口弁36および46の下方に位置付けられる。これにより、潅流流体または吸引流体中の気泡が急速に上方に放出され、ポンプ室の中に泡が溜まりえない状況を容易に達成できることを意味する。
【0039】
図1の表現は非常に概略的であり、ポンプ室10、20、30、および40は長方形の断面で示されている。現実には、前記ポンプ室10、20、30、および40は円または楕円の断面を有することができ、それによってそれぞれの弾性仕切り要素12、22、32、および42は、弾性変形しても、それぞれのポンプ室10、20、30、および40の内壁に対する所定の位置に保持しやすく、それによってその中に収容された流体を容易に押し出すことができる。
【0040】
図2は、第一の流体ポンプ10の第一のポンプ室11のための入口弁15および出口弁16の切換え状態、ならびに第二の流体ポンプ20の第二のポンプ室21のための入口弁25およびそれに関連する出口弁26の切換え状態の概略図を示す。ポンプ室11および21はどちらも、潅流流体で満たされている。潅流流体の充満レベルは、それぞれのポンプ室の中の水平の影線の一番上の影線の高さによって示されている。それぞれのポンプ室の中に潅流流体が低圧で収容されているとき、特定のポンプ室の中の水平の影線間の距離は比較的大きい。それぞれのポンプ室の中に潅流流体が高圧で収容されているとき、特定のポンプ室の中の水平の影線間の距離は比較的小さい。
【0041】
第一の切換え状態IZ1で、第一のポンプ室11には所定の圧力p(IRR1)で潅流流体が満たされていると仮定する。第一の入口弁15は閉じ、第一の出口弁16は開いている。第一の駆動室13(図2には示されていない)には、所定の圧力があり、したがって、圧力p(IRR1)の潅流流体は潅流流体流路の分枝流路83に、またそこから手術用ハンドピースへと流れ込むことができる。第二のポンプ室21にはほとんど潅流流体3が入っていない。第二の入口弁25が閉じ、第二の出口弁26も同じく閉じている。切換え状態IZ2で、第二の入口弁25は開き、したがって、潅流流体が潅流流体容器2から第二のポンプ室21へと流れることができる。このために、第二の駆動室23内の圧力は、それが第二のポンプ室21内の圧力より低くなるように調整される。したがって、第二のポンプ室21内に負圧が発生し、潅流流体が吸い込まれる。所定の量の潅流流体が流れ込むと、これは第二のセンサ29によって弾性仕切り要素22の位置に基づいて記録され、第二の入口弁25が閉じ、これは切換え状態IZ3を参照のこと。その後、第二の駆動室23内の圧力が上昇し、それによって所定の潅流圧力p(IRR1)が第二のポンプ室21内に発生し、これについては切換え状態IZ4を参照のこと。切換え状態IZ5で、第二の出口弁26が開き、したがって、圧力p(IRR1)を受けた潅流流体は、分枝流路84に流れ込むことができる。したがって、例えば20ミリ秒間などの短時間にわたり、同じ圧力p(IRR1)を受けた潅流流体は第三の分枝流路83および第四の分枝流路84に流れ込む。切換え状態IZ1からIZ5の間に、第一のポンプ室11内に収容された潅流流体が流れ出る。
【0042】
その後、第一の出口弁16が閉じ(切換え状態IZ6参照)、したがって、それ以上潅流流体が第一のポンプ室11から分枝流路83に流れ込むことができない。これは、第一のポンプ室11の中の潅流流体がほとんど完全に流出した瞬間に行われる。しかしながら、潅流流体は引き続き、圧力p(IRR1)を受けて第二のポンプ室21から潅流流体流路の分枝流路84の中に、またそこから手術用ハンドピース5へと流れる。
【0043】
切換え状態IZ7では、第一の入口弁15が開き、第一の駆動室13の中に第一のポンプ室11より低い圧力が付与され、そのため、潅流流体は、吸引によって潅流流体容器2から第一のポンプ室11に流れ込むことができる。第一のポンプ室11に十分な潅流流体が入っていると、これは第一のセンサ19によって第一の弾性仕切り要素12の位置に基づいて記録できるが、第一の入口弁15が切換え状態IZ8で閉じる。その後、切換え状態IZ9で、第一の駆動室13には、第一のポンプ室11内が所定の圧力p(IRR1)となるような圧力が付与される。切換え状態IZ10で、第一の出口弁16が開き、そのため、潅流流体は第三の分枝流路83に流れ込むことができる。
【0044】
切換え状態IZ5からIZ10の間に、第二の出口弁26が開き、そのため、潅流流体は圧力p(IRR1)を受けて第四の分枝流路84に流れ込む。切換え状態IZ10で、第一の出口弁16は、潅流流体が第二のポンプ室21の中からほとんどなくなった瞬間に開く。これは、第二のセンサ29によって、第二の弾性仕切り要素22の位置を介して記録できる。
【0045】
切換え状態IZ10は短時間のみ存在し、これは例えば20ミリ秒間である。その後、再び第一の切換え状態IZ1が続き、そこで第二の出口弁26が閉じる。
【0046】
切換えサイクルIZ1からIZ10は、潅流流体容器2が空になるまで繰り返すことができる。
【0047】
図3は、第三の流体ポンプ30の第三のポンプ室31の入口弁35および出口弁36の切換え状態、ならびに第四の流体ポンプ40の第四のポンプ室41の入口弁45およびそれに関連する出口弁46の切換え状態の概略図を示す。ポンプ室31および41のどちらにも、吸引流体が充填されている。吸引流体の充填レベルは、それぞれのポンプ室の水平の影線の一番上の影線の高さによって示されている。それぞれのポンプ室内に吸引流体が低圧で収容されているとき、それぞれのポンプ室内の水平の影線間の距離は比較的大きい。それぞれのポンプ室内に吸引流体が高圧で収容されているとき、それぞれのポンプ室内の水平の影線間の距離は比較的小さい。
【0048】
切換え状態AZ1では、第三の入口弁35が開き、第三の出口弁36が閉じている。第三の駆動室33内の圧力は第三のポンプ室31内より低く、そのため、吸引流体は眼6から手術用ハンドピース5へと、またそこから吸引流体流路9に沿って第三のポンプ室31へと吸引される。切換え状態AZ1では、第四のポンプ室41には吸引流体が充填され、第四の入口弁45および第四の出口弁46が閉じている。
【0049】
次の切換え状態AZ2では、第四の出口弁46が開き、所定の圧力が第四の駆動室43に付与され、したがって吸引流体が第四の出口弁46を通って第四のポンプ室43から流れ出て、そこから吸引流体回収容器50までの分枝流路94に流れ込むことができる。それと同時に、第三のポンプ室31にはますます多くの吸引流体が満たされる。第四のポンプ室41がほとんど空であると、第三の切換え状態AZ3で、第四の出口弁46が閉じる。第三のポンプ室31には依然として吸引流体が満たされているか、またはほとんど満たされている。第四のポンプ室41にはほとんど吸引流体が入っておらず、これについては切換え状態AZ4を参照されたい。第三のポンプ室31が完全に、またはほとんど完全に潅流流体で満たされているとき、これは第三のセンサ39によって判断でき、第五の切換え状態AZ5で第四の入口弁45が開き、そのため、吸引流体は分枝流路91に沿ってだけでなく、分枝流路92に沿っても流れることができる。第三の入口弁35および第四の入口弁45が同時に開き、吸引流体が所定の圧力p(ASP1)を受けて吸い込まれるこの状態は、約20ミリ秒間だけ存在する。その後、切換え状態AZ6で第三の入口弁35は閉じたままであり、第四の入口弁45は引き続き開いたままで、吸引流体を吸い込む。第三のポンプ室31では、その中にある吸引流体のために、より高い圧力が付与される。
【0050】
切換え状態AZ7では、第三の出口弁36が開き、吸引流体が第三のポンプ室31から出て分枝流路93の中に、またそこから吸引流体回収容器50へと流れることが可能となる。第三のポンプ室31がほとんど空になると、切換え状態AZ8で第三の出口弁36が閉じる。第四のポンプ室41は依然として吸引流体で満たされており、これについては切換え状態AZ9を参照のこと。切換え状態AZ10で、第三の入口弁35が開き、第四の入口弁45は約20ミリ秒間だけ開いたままとなる。前記切換え状態AZ10では、それゆえ、吸引流体が第三のポンプ室31および第四のポンプ室41によって吸い込まれる。このように同時に吸い込まれることにより、その後の切換え状態AZ1への移行が吸引流体流路内に脈動または圧力衝撃を生じることなく行われる。
【0051】
切換え状態AZ10の後、再び上述のような切換え状態AZ1が続く。
【0052】
図4は、潅流流体流路と吸引流体流路の時間に応じた圧力プロファイルと体積流れのプロファイルの概略的なグラフを示す。グラフ200は潅流流体流路の中の圧力のプロファイルを示す。グラフ300は眼圧のプロファイルを示す。グラフ400は吸引流体流路内の圧力のプロファイルを示す。グラフ500は潅流流体流路の中の体積流れのプロファイルを示す。グラフ600は吸引流体流路内の体積流れの分布を示す。以下の説明の中で、グラフ内に示されている参照符号はその都度明示される。
【0053】
まず、例えば、第一の流体ポンプ10の第一のポンプ室11の中では一定の圧力であり(201参照)、潅流流体はまだ流れていない(501参照)と仮定する。眼圧は一定の静止値を有し(301参照)、吸引流体流路内には正圧があり(401参照)、そのため、まだ何も吸引されていない。吸引流体流路の中では、まだ体積流れがない(601参照)。
【0054】
時間T1で、出口弁16が開き、駆動室13に、対応する体積流れにより圧力が発生し(202および502参照)、潅流流体が所定の圧力p(IRR1)を受けて流れ出ることができるようになる(203および503参照)。第三の入口弁35が開き、そのため、吸引流体が第三のポンプ室31によって吸い込まれ(602参照)、そこで吸引流体流路内の負圧が増大し(402参照)、所定の数値p(ASP1)に到達して(403参照)、その後、対応する体積流れが発生する(603参照)。
【0055】
潅流流体が潅流流体容器の静水圧によってのみ提供される先行技術によるシステムの場合、眼圧は吸引のための吸気圧力を利用して低下する(グラフ300の中では破線とその中の302参照)。圧力は数値303だけ低下し、これは眼までの潅流ホースラインの水圧耐性と潅流ライン内の体積流れからの積に対応する。しかしながら、本発明によるシステムの場合、潅流流体流路内の圧力は時間T1にこの数値だけ上昇し(202および203参照)、そのため、眼圧は吸引中に変化しないままである(参照符号304参照)。
【0056】
水晶体小片による詰まり(閉塞)が吸引流体流路内、例えば手術器具5の針内で発生すると、吸引流体流路内の体積流れが急速にゼロに低下する(604参照)。閉塞を解消するために、吸引流体流路内の負圧が増大し(404参照)、潅流流体流路内の体積流れがゼロに低下する(504参照)。
【0057】
先行技術によるシステムの場合、眼圧は閉塞の開始と共に上昇し、さらには短時間にわたり静止状態より高い数値まで上昇する(305参照)が、これは患者にとって非常に危険となりうる。しかしながら、本発明によるシステムの場合、この時点で動作中の第一または第二の流体ポンプの駆動室の中で、このような圧力は、隣接するポンプ室内で、圧力が305による過去において既知のプロファイルと逆に低下する(204参照)。したがって、潅流圧力は、慣例的に吊り下げられる潅流流体容器に関する静水圧より低い数値まで短時間だけ低下し、その後、前記静水圧に保持される。その結果として実現されるのは、閉塞開始時であっても眼圧が一定に保持されることである(306参照)。
【0058】
その後、閉塞が存在する間に、潅流流体流路および吸引流体流路内の体積流れはゼロで変化しない(505および605参照)。次に閉塞が再び解消すると(405参照)、吸引流体が吸引流体流路の中に再び流れ込み(606参照)、第三のポンプ室31または第四のポンプ室41に到達でき、これは開いているのが入口弁35か入口弁45の何れかによって異なる。この時点で、現在充填可能なポンプ室内の負圧が減少し、そのため、ポンプ室と駆動室との間の圧力差が小さくなる。これは、関連する弾性仕切り要素を移動させ、この移動は流体ポンプの、それに関連するセンサによって記録される。その後、潅流流体流路の中で、その時点で動作中の流体ポンプの駆動室は、潅流流体流路内の圧力が所定のプロファイルに応じて上昇する(205と、体積流れに関しては506参照)。これによって眼圧は低下しないか、わずかしか低下しない(307参照)。前記低下は、先行技術によるシステムの場合より大幅に弱い(308参照)。
【0059】
このような閉塞の解消後、駆動室は、閉塞前と同様に再び制御される。
【符号の説明】
【0060】
1 コンソール
2 潅流流体容器
3 潅流流体
4 カセット
5 手術器具
6 治療対象眼
8 潅流流体流路
10 第一の流体ポンプ
11 第一のポンプ室
12 第一の弾性仕切り要素
13 第一の駆動室
14 第一の弾性仕切り要素の縁
15 入口弁
16 出口弁
17 第一の駆動流体
19 第一のセンサ
20 第二の流体ポンプ
21 第二のポンプ室
22 第二の弾性仕切り要素
23 第二の駆動室
24 第二の弾性仕切り要素の縁
25 入口弁
26 出口弁
27 第二の駆動流体
29 第二のセンサ
30 第三の流体ポンプ
31 第三のポンプ室
32 第三の弾性仕切り要素
33 第三の駆動室
34 第三の弾性仕切り要素の縁
35 入口弁
36 出口弁
37 第三の駆動流体
39 第三のセンサ
40 第四の流体ポンプ
41 第四のポンプ室
42 第四の弾性仕切り要素
43 第四の駆動室
44 第四の弾性仕切り要素の縁
45 入口弁
46 出口弁
47 第四の駆動流体
49 第四のセンサ
50 吸引流体回収容器
100 システム
図1
図2
図3
図4