(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1乃至
図5はそれぞれ、本発明の第1の実施形態に係る電子制御装置の構成例を示しており、
図6はこの電子制御装置が適用されるEPS装置の概略構成を示している。まず、EPS装置について簡単に説明し、続いてこのEPS装置において操舵力をアシストする多相モータを制御する電子制御装置を説明する。
【0011】
図6に示すように、EPS装置は、ステアリングホイール10、操舵トルク検出センサ11、アシスト用の多相モータ12、及びこの多相モータ12を制御する電子制御装置13などを含んで構成されている。また、ステアリングシャフト14を内包するステアリングコラム15内には、上記操舵トルク検出センサ11及び減速機16が設けられている。
【0012】
そして、運転者がステアリング操作を行う際に、ステアリングシャフト14に発生する操舵トルクを操舵トルク検出センサ11によって検出し、操舵トルク信号S1と車速信号S2などに基づいて、電子制御装置13で多相モータ12を駆動制御することにより、多相モータ12から車両の走行状態に応じた操舵アシスト力を発生させる。これによって、ステアリングシャフト14の先端に設けられたピニオンギア17が回転すると、ラック軸18が進行方向左右に水平移動することで、運転者のステアリング操作が車輪(タイヤ)19に伝達されて車両の向きを変える。
【0013】
次に、本発明の第1の実施形態に係る電子制御装置について
図1乃至
図5により詳しく説明する。
図1に示す如く、多相(本例では3相)モータ12は、第1、第2の巻線組12a,12bを有する。第1の巻線組12aはU相巻線Ua、V相巻線Va及びW相巻線Waを備え、第2の巻線組12bはU相巻線Ub、V相巻線Vb及びW相巻線Wbを備え、それぞれの巻線組12a,12bが電子制御装置13の第1系統の駆動回路21aと第2系統の駆動回路21bで個別に駆動可能に構成されている。3相モータ12のロータ12dには角度センサ12eが設置されており、この角度センサ12eで検出されたロータ12dの回転角に対応する信号(角度検出信号)S13がマイクロコンピュータ20に入力されるようになっている。
【0014】
第1系統の駆動回路21aは、インバータ回路22a、このインバータ回路22aのドライバ23a、コンデンサ24a、電源リレー(半導体リレー)25a、この電源リレー25aのドライバ26a及び電流検出回路27aなどを含んで構成される。この駆動回路21aは、マイクロコンピュータ(CPU)20によって制御される。このマイクロコンピュータ20は、故障を検出する診断装置としても機能する。本例では、駆動回路21aと3相モータ12のU相巻線Ua、V相巻線Va及びW相巻線Waとの間の駆動ライン(通電経路)1U,1V,1Wに、通電遮断素子として働く相リレー28U,28V,28Wが設けられている。
【0015】
インバータ回路22aの電源ライン37aは、電源リレー25aを介してバッテリ(電源)BAに接続される。電源ライン37aと接地点間には、コンデンサ24aが接続されている。コンデンサ24aは、バッテリBAからインバータ回路22aへの電力供給を補助するとともに、サージ電流などのノイズ成分を除去する。電源リレー25aには、寄生ダイオードDaを有するNチャネル型MOSFETを用いている。
【0016】
ドライバ23aは、インバータ回路22aにおけるU相、V相及びW相を駆動する上アームスイッチ素子(上流側駆動素子)にそれぞれ対応するH側ドライバ部と、下アームスイッチ素子(下流側駆動素子)にそれぞれ対応するL側ドライバ部を備えている。各H側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、上アームスイッチ素子の制御端が接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。また、各L側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、下アームスイッチ素子の制御端が接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。更に、ドライバ26aの出力端には、電源リレー25aとして働くNチャネル型MOSFETのゲートが接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。
【0017】
インバータ回路22aの出力は、駆動ライン1U,1V,1Wから、相リレー28U,28V,28Wとして働くNチャネル型MOSFETのドレイン・ソース間を介して、巻線組12aのU相巻線Ua、V相巻線Va及びW相巻線Waにそれぞれ供給される。図示しないが、これら相リレー28U,28V,28Wは、マイクロコンピュータ20によって選択的にオン/オフ制御され、インバータ回路22aと巻線組12a間の通電と遮断を行う。相リレー28U,28V,28Wとして働くMOSFETには、ソースからドレインに向かって順方向の寄生ダイオードが形成されている。
【0018】
上記U相の駆動ライン1UとバッテリBA間には、駆動ライン1Uに中間電位を印加して保持する電位印加回路として働くプルアップ抵抗6aが接続される。プルアップ抵抗6aは、バッテリBAの電圧と接地電位との中間電位をU相の駆動ライン1Uに印加するようになっている。ここでは、U相の駆動ライン1Uにプルアップ抵抗6aを接続する例を代表的に示すが、V相の駆動ライン1VやW相の駆動ライン1Wに接続しても良い。
【0019】
各駆動ライン1U,1V,1Wの相電位は、相電位検出回路4aによって検出され、マイクロコンピュータ20に入力される。また、インバータ回路22aに印加される電源電圧(電源ライン37aの電圧)が、電源電圧モニタ回路5aによってモニタされ、マイクロコンピュータ20に入力されるようになっている。
【0020】
また、第2系統の駆動回路21bも同様であり、インバータ回路22b、このインバータ回路22bのドライバ23b、コンデンサ24b、電源リレー(半導体リレー)25b、この電源リレー25bのドライバ26b及び電流検出回路27bなどを含んで構成される。この駆動回路21bは、マイクロコンピュータ20によって制御される。駆動回路21bと3相モータ12のU相巻線Ub、V相巻線Vb及びW相巻線Wbとの間の駆動ライン(通電経路)2U,2V,2Wには、通電遮断素子として働く相リレー29U,29V,29Wが設けられている。
【0021】
インバータ回路22bの電源ライン37bは、電源リレー25bを介してバッテリBAに接続される。電源ライン37bと接地点間には、コンデンサ24bが接続されている。コンデンサ24bは、バッテリBAからインバータ回路22bへの電力供給を補助するとともに、サージ電流などのノイズ成分を除去する。電源リレー25bには、寄生ダイオードDbを有するNチャネル型MOSFETを用いている。
【0022】
ドライバ23bは、インバータ回路22bにおけるU相、V相及びW相を駆動する上アームスイッチ素子(上流側駆動素子)にそれぞれ対応するH側ドライバ部と、下アームスイッチ素子(下流側駆動素子)にそれぞれ対応するL側ドライバ部を備えている。各H側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、上アームスイッチ素子の制御端が接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。また、各L側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、下アームスイッチ素子の制御端が接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。更に、ドライバ26bの出力端には、電源リレー25bとして働くNチャネル型MOSFETのゲートが接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。
【0023】
インバータ回路22bの出力は、駆動ライン2U,2V,2Wから、相リレー29U,29V,29Wとして働くNチャネル型MOSFETのドレイン・ソース間を介して、巻線組12bのU相巻線Ub、V相巻線Vb及びW相巻線Wbにそれぞれ供給される。図示しないが、これら相リレー29U,29V,29Wは、相リレー28U,28V,28Wと同様にマイクロコンピュータ20によって選択的にオン/オフ制御され、インバータ回路22bと巻線組12b間の通電と遮断を行う。相リレー29U,29V,29Wとして働くMOSFETには、ソースからドレインに向かって順方向の寄生ダイオードが形成されている。
【0024】
上記U相の駆動ライン2UとバッテリBA間には、駆動ライン2Uに中間電位を印加して保持する電位印加回路として働くプルアップ抵抗6bが接続される。プルアップ抵抗6bは、バッテリBAの電圧と接地電位との中間電位をU相の駆動ライン2Uに印加するようになっている。ここでは、U相の駆動ライン2Uにプルアップ抵抗6bを接続する例を代表的に示すが、V相の駆動ライン2VやW相の駆動ライン2Wに接続しても良い。
【0025】
各駆動ライン2U,2V,2Wの相電位は、相電位検出回路4bによって検出され、マイクロコンピュータ20に入力される。また、インバータ回路22bに印加される電源電圧(電源ライン37bの電圧)が、電源電圧モニタ回路5bによってモニタされ、マイクロコンピュータ20に入力される。
【0026】
マイクロコンピュータ20には、EPS装置から操舵トルク信号S1及び車速信号S2が入力される。また、電子制御装置13の電流検出回路27a,27bの検出信号S3〜S8、相電位検出回路4a,4bで検出した相電位に対応する信号S9a〜S11a,S9b〜S11b、及び電源電圧モニタ回路5a,5bでモニタした第1、第2のインバータ回路22a,22bの電源電圧に対応する信号S12a,S12bなどが入力される。更に、3相モータ12に設けられた角度センサ12eから角度検出信号S13が入力される。マイクロコンピュータ20は、上記信号S3〜S8,S9a〜S11a,S9b〜S11b,S12a,S12bなどに基づいて、巻線組12a,12b間やインバータ回路22a,22b間に短絡異常が発生していないか診断を行う。そして、短絡異常が発生していない場合には、信号S1,S2,S13などに基づいて、駆動回路21a,21bを制御して3相モータ12を駆動することにより、車両の走行状態に応じたステアリングアシスト力を発生させる。
【0027】
図2は、
図1におけるインバータ回路22aと電流検出回路27aの構成例を示している。インバータ回路22aは、駆動ライン1U,1V,1Wを介して3相モータ12のU相巻線Ua、V相巻線Va及びW相巻線Waをそれぞれ相毎に駆動する3組のスイッチ素子を備えた3相ブリッジ回路構成である。本例では、各スイッチ素子がNチャネル型MOSFET31〜36で構成されている。電流検出回路27aは、電流検出抵抗38a〜40aとこれら電流検出抵抗38a〜40aで検出した電圧(3相ブリッジ回路を流れる電流にそれぞれ対応する)をそれぞれ増幅するバッファ47a〜49aとで構成されている。
【0028】
MOSFET31,32は、電源ライン37aと電流検出抵抗38aの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン1Uの一端が接続される。MOSFET33,34は、電源ライン37aと電流検出抵抗39aの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン1Vの一端が接続される。また、MOSFET35,36は、電源ライン37aと電流検出抵抗40aの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン1Wの一端が接続されている。
【0029】
各電流検出抵抗38a〜40aの他端は接地され、これら電流検出抵抗38a〜40aで検出された電圧は、バッファ47a〜49aにそれぞれ入力される。各バッファ47a〜49aの出力は、インバータ回路22aを流れる電流に対応する検出信号S3〜S5としてマイクロコンピュータ20に入力される。
なお、各MOSFET31〜36におけるソース・ドレイン間に順方向に接続されているダイオードD1〜D6は寄生ダイオードである。
【0030】
図3は、
図1におけるインバータ回路22bと電流検出回路27bの構成例を示している。インバータ回路22bは、インバータ回路22aと同一回路構成であり、駆動ライン2U,2V,2Wを介して3相モータ12のU相巻線Ub、V相巻線Vb及びW相巻線Wbをそれぞれ相毎に駆動する3組のスイッチ素子を備えた3相ブリッジ回路構成である。ここでも各スイッチ素子はNチャネル型MOSFET41〜46で構成されている。また、電流検出回路27bは、電流検出回路27aと同様に、電流検出抵抗38b〜40bとこれら電流検出抵抗38b〜40bで検出した電圧(3相ブリッジ回路を流れる電流にそれぞれ対応する)をそれぞれ増幅するバッファ47b〜49bとで構成されている。
【0031】
MOSFET41,42は、電源ライン37bと電流検出抵抗38bの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン2Uの一端が接続される。MOSFET43,44は、電源ライン37bと電流検出抵抗39bの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン2Vの一端が接続される。また、MOSFET45,46は、電源ライン37bと電流検出抵抗40bの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン2Wの一端が接続されている。
【0032】
各電流検出抵抗38b〜40bの他端は接地され、これら電流検出抵抗38b〜40bで検出された電圧は、バッファ47b〜49bにそれぞれ供給される。各バッファ47b〜49bの出力は、インバータ回路22bを流れる電流に対応する検出信号S6〜S8としてマイクロコンピュータ20に入力される。
なお、各MOSFET41〜46におけるソース・ドレイン間に順方向に接続されているダイオードD7〜D12は寄生ダイオードである。
【0033】
図4は、
図1における相電位検出回路4a,4bの構成例を示している。この相電位検出回路4a,4bは、インバータ回路22a,22bから巻線組12a,12bへの駆動ライン1U,1V,1W及び2U,2V,2Wの電位を相毎に検出するものである。相電位検出回路4a,4bは、各駆動ラインと接地点間にそれぞれ直列接続された抵抗R1,R2、抵抗R3,R4、抵抗R5,R6、抵抗R7,R8、抵抗R9,R10及び抵抗R11,R12で構成される。
【0034】
そして、抵抗R1とR2との接続点、抵抗R3とR4との接続点及び抵抗R5とR6との接続点の電位が、巻線組12aのU相巻線Ua、V相巻線Va及びW相巻線Waの検出電位に対応する信号S9a〜S11aとしてマイクロコンピュータ20へ入力される。また、抵抗R7とR8との接続点、抵抗R9とR10との接続点及び抵抗R11とR12との接続点の電位が、巻線組12bのU相巻線Ub、V相巻線Vb及びW相巻線Wbの検出電位に対応する信号S9b〜S11bとしてマイクロコンピュータ20へ入力される。
【0035】
図5は、
図1における電源電圧モニタ回路5a,5bの構成例を示している。この電源電圧モニタ回路5a,5bは、インバータ回路22a,22bの動作電源電圧をモニタするものである。電源電圧モニタ回路5a,5bは、インバータ回路22a,22bの電源ライン37a,37bと接地点間にそれぞれ直列接続された抵抗R13,R14及び抵抗R15,R16で構成される。そして、抵抗R13とR14との接続点、及び抵抗R15とR16との接続点の電位が、信号S12a,S12bとしてマイクロコンピュータ20へ入力される。
【0036】
次に、上記
図1乃至
図5に示した電子制御装置の故障診断動作を
図7のフローチャートにより説明する。この故障診断動作は、3相モータ12の制御開始に先立って、所定の時間間隔(例えばmsec単位)で複数回起動して実行する。この診断動作は、概略次のようなものである。すなわち、一方の系統の駆動回路におけるインバータ回路の1相の出力をハイレベルにし、他方の系統の駆動回路におけるインバータ回路の出力を全相ハイインピーダンス(Hi−Z)状態にする。このとき、他方の系統のインバータ回路の駆動ラインの相電位が変化しなければ、当該相には短絡異常はない。相電位が一方の系統のインバータ回路の出力電位相当に変化したときには、短絡異常があると判定する。このような診断動作を実行することにより、巻線や駆動回路に貫通電流を流すことなく短絡異常を検出する。
【0037】
次に、診断動作について詳しく説明する。まず、系統間短絡診断終了フラグがセットされているか判定し(ステップST1)、フラグがセットされていれば終了し、セットされていなければ診断を開始する。
ステップST2では、第1系統のインバータ回路22aのU相上アームスイッチ素子をオン状態にするとともに、対応する相リレー28Uをオン(通電)状態にする。具体的には、マイクロコンピュータ20の制御により、ドライバ23aでインバータ回路22aにおけるU相のMOSFET31をオン状態にする。また、U相の相リレー28Uとして働くMOSFETをオン状態にする。
【0038】
ステップST3では、第1系統のインバータ回路22aのU相下アームスイッチ素子、V相上アームスイッチ素子、V相下アームスイッチ素子、W相上アームスイッチ素子及びW相下アームスイッチ素子であるMOSFET32〜36をそれぞれオフ状態にする。これによって、インバータ回路22aの出力は、U相がハイレベル、V相及びW相がハイインピーダンス状態となる。
【0039】
ステップST4では、第2系統のインバータ回路22bのU相上アームスイッチ素子、U相下アームスイッチ素子、V相上アームスイッチ素子、V相下アームスイッチ素子、W相上アームスイッチ素子及びW相下アームスイッチ素子であるMOSFET41〜46をそれぞれオフ状態にする。これによって、インバータ回路22bの出力は全相ハイインピーダンス状態となる。
【0040】
次のステップST5では、相電位検出回路4aで検出した第1系統のインバータ回路22aのU相電位のモニタ値Uamが、電源電圧モニタ回路5aで検出したインバータ回路22aの電源電圧のモニタ値BAamより大きいか否かを、マイクロコンピュータ20で判定する。本例では、所定電圧XV(1ボルト程度)の余裕を見込んで「Uam>BAam−XV」を判定している。
【0041】
そして、「Uam>BAam−XV」であれば正常であるので、更に第2系統のインバータ回路22bのU相電位のモニタ値Ubm、V相電位のモニタ値Vbm及びW相電位のモニタ値Wbmの和、「Ubm+Vbm+Wbm」が「インバータ回路22bの電源電圧のモニタ値BAbm×3−3XV」から「インバータ回路22bの電源電圧のモニタ値BAbm×3+3XV」の範囲内か否かを判定する(ステップST6)。ここで、「−3XV」と「+3XV」は、モニタ値BAbmに所定電圧XVの余裕を見込んだものである。
【0042】
なお、この相電位の検出は1相、2相でも、任意のN相でも良い。1相検出の場合には、ステップST6において任意の1相(例えばUbm)が「BAbm+XV」から「BAbm−XV」の範囲か否かを判定する。2相検出の場合には、任意の2相(例えばUbm+Vbm)が「BAbm×2+2XV」から「BAbm×2−2XV」の範囲か否かを判定する。更に、N相検出の場合には、任意のN相(例えばN1bm+N2Vbm)が「BAbm×N+NXV」から「BAbm×N−NXV」の範囲か否かを判定すれば良い。
【0043】
ステップST6で範囲内である(正常)と判定されると、第2系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC1の計数値C1bに「+1」する(ステップST7)。
続いて、カウンタC1の計数値C1bが「C1b≧5」か否かを判定し(ステップST8)、「C1b≧5」であれば第1、第2系統間に短絡はないものと判定して、系統間短絡診断終了フラグをセットして(ステップST9)診断を終了する。カウンタC1は、第1、第2系統間に何回か(本例では5回以上)短絡がないと判定されたときに、系統間短絡診断を終了するためのもので、故障の検出精度と信頼性を向上させている。
【0044】
マイクロコンピュータ20は、所定の時間間隔で故障診断動作を起動し、ステップST1で系統間短絡診断終了フラグがセットされたことを検知すると、故障診断を終了し、3相モータ12のアシスト制御を開始して、通常動作に移行する。
ステップST8において「C1b≧5」で無ければ、短絡がないと判定されたのは4回未満であるので、診断を終了し、所定時間後に再び故障診断動作が起動されるのを待機する。
【0045】
一方、ステップST5において、「Uam>BAam−XV」で無い、すなわち異常ありと判定された場合には、第1系統のU相の駆動ライン1Uにハイレベルを印加したときに異常があることを示すカウンタC2の計数値C2aに「+1」する(ステップST10)。
続いて、カウンタC2の計数値C2aが「C2a≧10」か否かを判定し(ステップST11)、「C2a≧10」であれば第1系統に異常があるものと判定(異常確定)して、インバータ回路22aの動作禁止フラグをセットする(ステップST12)。そして、系統間短絡診断終了フラグをセットして診断を終了する(ステップST13)。
ステップST11で、「C2a≧10」で無いと判定された場合には診断を終了し、所定時間後に再び故障診断動作が起動されるのを待機する。
【0046】
更に、ステップST6で範囲外である(異常あり)と判定された場合には、第2系統の系統間短絡があることを示すカウンタC3の計数値C3bに「+1」する(ステップST14)。
続いて、カウンタC3の計数値C3bが「C3b≧10」か否かを判定し(ステップST15)、「C3b≧10」であれば第2系統に異常があるものと判定(異常確定)して、インバータ回路22bの動作禁止フラグをセットする(ステップST16)。そして、ステップST9に移動し、系統間短絡診断終了フラグをセットして診断を終了する。
ステップST15で、「C3b≧10」で無いと判定された場合には、診断を終了し、所定時間後に再び故障診断動作が起動されるのを待機する。
【0047】
マイクロコンピュータ20は、ステップST9,ST13の系統間短絡診断終了フラグがセットされたことを検知すると、通常のモータ制御動作を開始する。通常動作時には、第1系統の駆動回路21aと第2系統の駆動回路21bから3相モータ12に通電電流が供給され、これらの電流を加算したシステムトータルの通電電流値で駆動される。
【0048】
第1、第2の駆動回路21a,21bを用いる通常アシスト状態では、マイクロコンピュータ20は、ドライバ23a,23bに、例えばパルス幅変調信号(PWM信号)を出力する。また、ドライバ26a,26bに、電源リレー25a,25bをオンさせる信号を出力する。ドライバ23a,23b中の各H側ドライバとL側ドライバはそれぞれ、PWM信号に基づいて、第1、第2系統のインバータ回路22a,22b中の各MOSFET31〜36,41〜46のゲートにそれぞれPWM信号に基づく駆動信号を供給して選択的にオン/オフ制御する。
【0049】
そして、3相モータ12を駆動ライン1U,1V,1Wを介して駆動回路21aで3相駆動するとともに、駆動ライン2U,2V,2Wを介して駆動回路21bで3相駆動する。この際、操舵トルク信号S1と車速信号S2などに基づいてPWM信号のデューティを可変し、3相モータ12の出力トルクを制御することでアシスト力を変化させる。
【0050】
また、マイクロコンピュータ20は、ステップST12で第1系統のインバータ回路22aの動作禁止フラグがセットされたことを検知すると、インバータ回路22aのMOSFET31〜36を全てオフ状態にして出力をハイインピーダンス状態に固定し、第2系統の駆動回路21bによるモータ制御動作を実行する。
これに対し、ステップST16で第2系統のインバータ回路22bの動作禁止フラグがセットされたことを検知すると、インバータ回路22bのMOSFET41〜46を全てオフ状態にして出力をハイインピーダンス状態に固定し、第1系統の駆動回路21aによるモータ制御動作を実行する。
一方の駆動回路21aまたは21bによる操舵アシスト力は、両駆動回路による操舵アシスト力に対して半減するもののアシスト動作を継続することができるので、アシストが急停止することによる安全性の低下を抑制できる。
【0051】
なお、
図7に示した制御方法では、第1系統のインバータ回路22aのMOSFET31をオン状態にするとともに相リレー28Uをオン状態にして、駆動ライン1Uの電位を上昇させ、この電位が第2系統のインバータ回路22bに影響を与えるか否かで短絡異常を検出した。しかしながら、第1系統のインバータ回路22aのMOSFET32をオン状態にするとともに相リレー28Uをオフ状態にして、駆動ライン1Uの電位を降下させ、この電位が第2系統のインバータ回路22bに影響を与えるか否かで短絡異常を検出することもできる。短絡していなければ第2系統の駆動ライン2U,2V,2Wは中間電位になり、もし短絡していると第1系統の駆動ライン1Uの相電位の低下に引っ張られてロウレベルになる。これによって、短絡故障の有無が判定できる。
【0052】
上述した一方の系統のインバータ回路22a(または22b)における上アームスイッチ素子と下アームスイッチ素子の一方をオン状態、他方をオフ状態に交互に設定し、他方の系統のインバータ回路22b(または22a)の出力をハイインピーダンス状態にして診断する動作を、U相だけでなくV相とW相に対してそれぞれ繰り返すことで、短絡故障の有無をより正確に判定できる。
【0053】
加えて、第1系統のインバータ回路22aにより第1の巻線組12aのうちの1相に対応する上アームスイッチ素子及び下アームスイッチ素子の一方をオン状態、他方をオフ状態にした状態に応じた電位が第1の相電位検出回路4aで検出できていれば、第1系統のインバータ回路22aは正常であると判断できる。その上で第2系統のインバータ回路22bの出力をハイインピーダンス状態にしたときに、第2の相電位検出回路4bで検出した電位が、第1系統のインバータ回路22aの出力電位相当であれば短絡異常と判定することで、第1系統のインバータ回路22aの通電異常(断線や短絡、素子故障)を検出しつつ短絡異常を検出することができる。これによって、検出精度を向上することができ、信頼性も向上できる。
【0054】
また、相リレー28U,28V,28W,29U,29V,29Wの寄生ダイオードが第1、第2の巻線組12a,12bから第1、第2系統のインバータ回路22a,22bに向かって順方向の場合には、全相の上アームスイッチ素子であるMOSFET31,33,35をオン状態にし、全相の下アームスイッチ素子であるMOSFET32,34,36及び相リレー28U,28V,28Wをオフ状態にして診断を行うようにしても良い。短絡していなければ第2系統の駆動ライン2U,2V,2Wは中間電位になり、もし短絡していると第1系統の駆動ライン1U,1V,1Wの相電位の上昇に引っ張られてハイレベルになる。これによって、短絡故障の有無が判定できる。
【0055】
更に、相リレー28U,28V,28W,29U,29V,29Wの寄生ダイオードが第1、第2系統のインバータ回路22a,22bから第1、第2の巻線組12a,12bに向かって順方向の場合には、全相の上アームスイッチ素子であるMOSFET31,33,35をオフ状態にし、全相の下アームスイッチ素子であるMOSFET32,34,36及び相リレー28U,28V,28Wをオン状態にして診断を行うようにしても良い。短絡していなければ第2系統の駆動ライン2U,2V,2Wは中間電位になり、もし短絡していると第1系統の駆動ライン1U,1V,1Wの相電位の低下に引っ張られてロウレベルになる。
【0056】
更にまた、相リレー28U,28V,28Wがオン状態で診断を実施すれば、相リレー28U,28V,28W自体の診断を一緒にすることができる。相リレー28U,28V,28Wをオン状態にしてインバータ回路22aの出力をハイレベルにすると、正常に相リレーがオンしていれば、相電位検出回路4bの検出値がハイレベルになる。これに対し、相リレーに異常がありオンしないと、この相が中間電位のままになる。よって、相リレーの異常なのか、インバータ回路の異常なのかが推定できる。従って、相間短絡の診断をしつつゲート間短絡の検査もできる。
【0057】
上述したように、本発明の第1の実施形態に係る電子制御装置の制御方法では、一方の系統のインバータ回路の出力をハイインピーダンス状態にして、他方の系統のインバータ回路側の相電位が伝達されるか否かで短絡故障の診断を行う。すなわち、一方の系統のインバータ回路の各相の電位が、他方の系統のインバータ回路の出力電位相当であるときに短絡異常であると判定する。従って、たとえ2つの巻線組間または2つのインバータ回路間に短絡異常が発生していても、電源から接地点へ貫通電流が流れる電流経路は生成されず、大電流が流れることはない。これによって、3相モータの各巻線や駆動回路に異常な通電を発生させることなく短絡異常を検出できる。
【0058】
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態に係る電子制御装置であり、3相モータ12が第1、第2、第3の巻線組12a,12b,12cを有し、電子制御装置13には、これら巻線組に対応する第1、第2、第3の駆動回路21a,21b,21cが設けられている。巻線組12a,12b,12cは、巻線Ua,Va,Wa、巻線Ub,Vb,Wb及び巻線Uc,Vc,Wcを備えている。そして、それぞれの巻線組12a,12b,12cが第1系統、第2系統、第3系統の駆動回路21a,21b,21cで個別に駆動可能に構成されている。
【0059】
各駆動回路21a,21b,21cは、
図1に示した第1の実施形態と同様に、インバータ回路、このインバータ回路のドライバ、コンデンサ、電源リレー、この電源リレーのドライバ及び電流検出回路などを含んで構成される。
各駆動回路21a,21b,21cにおけるインバータ回路の出力は、駆動ライン1U,1V,1W、駆動ライン2U,2V,2W及び駆動ライン3U,3V,3Wから、相リレー28U,28V,28W、相リレー29U,29V,29W及び相リレー30U,30V,30Wを介して巻線組12a,12b,12cに供給される。上記各相リレーとして働くMOSFETにはそれぞれ、ソースからドレインに向かって順方向の寄生ダイオードが形成されている。
【0060】
各巻線Ua,Ub,UcとバッテリBAとの間には、プルアップ抵抗6a,6b,6cがそれぞれ接続される。また、各駆動ライン1U,1V,1W、駆動ライン2U,2V,2W及び駆動ライン3U,3V,3Wの相電位が、系統毎に相電位検出回路4a,4b,4cで検出され、検出結果を示す信号S9a〜S11a、S9b〜S11b、S9c〜S11cがそれぞれマイクロコンピュータ20に入力される。更に、各駆動回路21a,21b,21cにおけるインバータ回路22a,22b,22cの電源電圧は、電源電圧モニタ回路5a,5b,5cでモニタされ、モニタ結果を示す信号S12a、S12b、S12cがそれぞれマイクロコンピュータ20に入力される。
このように、基本的な構成は第1の実施形態と同様であるので、第1、第2系統の駆動回路21a,21bの詳細な説明は省略する。
【0061】
図9は、上記
図8に示した電子制御装置13における第3系統の駆動回路21cの構成例を示している。第3系統の駆動回路21cは、第1、第2系統の駆動回路21a,21bと同様に、インバータ回路22c、このインバータ回路22cのドライバ23c、コンデンサ24c、電源リレー25c、この電源リレー25cのドライバ26c及び電流検出回路27cなどを含んで構成される。
【0062】
インバータ回路22cの電源ライン37cは、電源リレー25cを介してバッテリ(電源)BAに接続される。電源ライン37cと接地点間には、コンデンサ24cが接続されている。コンデンサ24cは、バッテリBAからインバータ回路22cへの電力供給を補助するとともに、サージ電流などのノイズ成分を除去する。電源リレー25cには、寄生ダイオードDcを有するNチャネル型MOSFETを用いている。
【0063】
ドライバ23cは、インバータ回路22cにおけるU相、V相及びW相を駆動する上アームスイッチ素子(上流側駆動素子、
図9ではNチャネル型MOSFET)にそれぞれ対応するH側ドライバ部と、下アームスイッチ素子(下流側駆動素子、
図9ではNチャネル型MOSFET)にそれぞれ対応するL側ドライバ部を備えている。各H側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、上アームスイッチ素子の制御端が接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。また、各L側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、下アームスイッチ素子の制御端が接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。更に、ドライバ26cの出力端には、電源リレー25cとして働くNチャネル型MOSFETのゲートが接続され、マイクロコンピュータ20により選択的にオン/オフ制御される。
【0064】
インバータ回路22cは、駆動ライン(通電経路)3U,3V,3Wを介して多相モータ12のU相,V相及びW相をそれぞれ相毎に駆動する3組のスイッチ素子を備えた3相ブリッジ回路構成である。本例では、各スイッチ素子がNチャネル型MOSFET51〜56で構成されている。電流検出回路27cは、電流検出抵抗38c〜40cとこれら電流検出抵抗38c〜40cで検出した電圧(3相ブリッジ回路を流れる電流にそれぞれ対応する)をそれぞれ増幅するバッファ47c〜49cとで構成されている
【0065】
MOSFET51,52は、電源ライン37cと電流検出抵抗38cの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン3Uの一端が接続される。MOSFET53,54は、電源ライン37cと電流検出抵抗39cの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン3Vの一端が接続される。また、MOSFET55,56は、電源ライン37cと電流検出抵抗40cの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン3Wの一端が接続されている。
【0066】
各電流検出抵抗38c〜40cの他端は接地され、これら電流検出抵抗38c〜40cで検出された電圧は、バッファ47c〜49cにそれぞれ入力される。各バッファ47c〜49cの出力は、インバータ回路22cを流れる電流に対応する検出信号S14〜S16としてマイクロコンピュータ20に入力される。
なお、各MOSFET51〜56におけるソース・ドレイン間に順方向に接続されているダイオードD13〜D18は寄生ダイオードである。
【0067】
次に、上記
図8及び
図9に示した電子制御装置の故障診断動作を
図10乃至
図14のフローチャートにより説明する。本第2の実施形態に係る制御方法による故障診断動作は、第1の実施形態と同様に、3相モータの制御開始に先立って、所定の時間間隔(例えばmsec単位)で複数回起動して実行する。この診断動作は、概略次のようなものである。すなわち、第1系統の駆動回路におけるインバータ回路の1相の出力をハイレベルにし、第2、第3系統の駆動回路におけるインバータ回路の出力を全相ハイインピーダンス状態(Hi−Z)にする。このとき第2、第3系統のインバータ回路の駆動ラインの相電位が変化しなければ、当該相には短絡異常はない。しかし、第2、第3系統のインバータ回路に短絡異常があるか否かは分からないので、第2系統のインバータ回路の1相の出力をハイレベルにし、第3系統のインバータ回路の出力を全相ハイインピーダンス状態にして第2、第3系統のインバータ回路間の短絡異常を診断する。このような診断動作を実行することにより、巻線や駆動回路に貫通電流を流すことなく短絡異常を検出する。
【0068】
次に、診断動作について詳しく説明する。まず、
図10に示すように、系統間短絡診断終了フラグがセットされているか判定し(ステップST21)、フラグがセットされていれば終了し、セットされていなければ診断を開始する。
ステップST22では、第1系統の系統間短絡診断要求があるか否かを判定し、診断要求があると、第1系統のインバータ回路22aのU相上アームスイッチ素子をオン状態にするとともに、相リレー28Uをオン(通電)状態にする。具体的には、マイクロコンピュータ20の制御により、ドライバ23aでインバータ回路22aにおけるU相のMOSFET31をオン状態にする。また、U相の相リレー28Uとして働くMOSFETをオンする(ステップST23)。
【0069】
ステップST24では、第1系統のインバータ回路22aのU相下アームスイッチ素子、V相上アームスイッチ素子、V相下アームスイッチ素子、W相上アームスイッチ素子及びW相下アームスイッチ素子であるMOSFET32〜36をオフ状態にする。これによって、インバータ回路22aの出力は、U相がハイレベル、V相及びW相がハイインピーダンス状態となる。
【0070】
ステップST25では、第2系統のインバータ回路22bのU相上アームスイッチ素子、U相下アームスイッチ素子、V相上アームスイッチ素子、V相下アームスイッチ素子、W相上アームスイッチ素子及びW相下アームスイッチ素子であるMOSFET41〜46をオフ状態にする。これによって、インバータ回路22bの出力は全相ハイインピーダンス状態となる。
【0071】
ステップST26では、第3系統のインバータ回路22cのU相上アームスイッチ素子、U相下アームスイッチ素子、V相上アームスイッチ素子、V相下アームスイッチ素子、W相上アームスイッチ素子及びW相下アームスイッチ素子であるMOSFET51〜56をオフ状態にする。これによって、インバータ回路22cの出力も全相ハイインピーダンス状態となる。
【0072】
次のステップST27では、相電位検出回路4aで検出した第1系統のインバータ回路22aのU相電位のモニタ値Uamが、電源電圧モニタ回路5aで検出したインバータ回路22aの電源電圧のモニタ値BAamより大きいか否かを、マイクロコンピュータ20で判定する。本例では、所定電圧XV(1ボルト程度)の余裕を見込んで「Uam>BAam−XV」を判定している。
【0073】
そして、「Uam>BAam−XV」であれば正常であり、第2系統のインバータ回路22bのU相電位のモニタ値Ubm、V相電位のモニタ値Vbm及びW相電位のモニタ値Wbmの和、「Ubm+Vbm+Wbm」が「インバータ回路22bの電源電圧のモニタ値BAbm×3−3XV」から「インバータ回路22bの電源電圧のモニタ値BAbm×3+3XV」の範囲内か否かを判定する(
図11、ステップST28)。ここで、「−3XV」と「+3XV」は、モニタ値BAbmに所定電圧XVの余裕を見込んだものである。
【0074】
一方、ステップST27で「Uam>BAam−XV」で無い、すなわち異常ありと判定されると、第1系統のU相にハイレベルを印加したときに異常があることを示すカウンタC2の計数値C2aに「+1」する(ステップST29)。
続いて、カウンタC2の計数値C2aが「C2a≧10」か否かを判定し(ステップST30)、「C2a≧10」であれば第1系統に異常があるものと判定(異常確定)して、インバータ回路22aの動作禁止フラグをセットする(ステップST31)。そして、第1系統の系統間短絡診断要求をクリアし、第2系統の系統間診断要求をセットする。また、第3系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC4をクリアするとともに、第3系統の系統間短絡があることを示すカウンタC5をクリアして診断を終了する(ステップST32)。
ステップST30で、「C2a≧10」で無いと判定された場合には診断を終了し、所定時間後に再び故障診断動作が起動されるのを待機する。
【0075】
次に、ステップST28で範囲内である(正常)と判定された場合には、第2系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC1の計数値C1bに「+1」する(ステップST33)。
ステップST28で範囲外である(異常あり)と判定された場合には、第2系統の系統間短絡があることを示すカウンタC3の計数値C3bに「+1」する(ステップST34)。
【0076】
続いて、カウンタC3の計数値C3bが「C3b≧10」か否かを判定し(ステップST35)、「C3b≧10」であれば第2系統に異常があるものと判定(異常確定)して、インバータ回路22bの動作禁止フラグをセットする(ステップST36)。そして、ステップST37に移動し、第3系統の診断を行う。また、ステップST35で、「C3b≧10」で無いと判定された場合には、ステップST37に移動して第3系統の診断を行う。
【0077】
ステップST37では、第3系統のインバータ回路22cのU相電位のモニタ値Ucm、V相電位のモニタ値Vcm及びW相電位のモニタ値Wcmの和、「Ucm+Vcm+Wcm」が「インバータ回路22cの電源電圧のモニタ値BAcm×3−3XV」から「インバータ回路22cの電源電圧のモニタ値BAcm×3+3XV」の範囲内か否かを判定する。ここで、「−3XV」と「+3XV」は、モニタ値BAcmに所定電圧XVの余裕を見込んだものである。
【0078】
ステップST37で範囲内である(正常)と判定されると、第3系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC4の計数値C4cに「+1」する(ステップST38)。
ステップST37で範囲外である(異常あり)と判定されると、第3系統の系統間短絡があることを示すカウンタC5の計数値C5cに「+1」する(ステップST39)。
【0079】
続いて、カウンタC5の計数値C5cが「C5c≧10」か否かを判定し(ステップST40)、「C5c≧10」であれば第3系統に異常があるものと判定(異常確定)して、インバータ回路22cの動作禁止フラグをセットする(ステップST41)。そして、
図12に示すステップST42に移動し、第1、第2系統間と第2、第3系統間の短絡故障の有無の診断を行う。また、ステップST40で、「C5c≧10」で無いと判定された場合にも、ステップST42に移動し、短絡故障の有無の診断を行う。
【0080】
ステップST42では、第2系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC1の計数値C1bが「C1b≧5」で、且つ第3系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC4の計数値C4cが「C4c≧5」か否かを判定する。両カウンタC1,C4の計数値C1b,C4cがともに条件を満たしていれば、第1、第2系統間と第2、第3系統間の短絡故障が無いことを意味する。よって、第1系統の系統間短絡診断要求をクリアし、第2系統の系統間診断要求をセットする。また、第3系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC4をクリアするとともに、第3系統の系統間短絡があることを示すカウンタC5をクリアして診断を終了する(ステップST43)。
【0081】
一方、ステップST42で条件を満たしていないと判定された場合には、ステップST44に移動し、第2系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC1の計数値C1bが「C1b≧5」、且つ第3系統のインバータ回路22cの動作禁止フラグがセットされているか否かを判定する。両条件を満足すると判定された場合には、第1系統と第2系統間に短絡異常はなく、第1系統と第3系統間に短絡異常がある。次のステップST45で系統間短絡終了フラグをセットして診断を終了し、第1系統と第2系統の駆動回路を用いて3相モータ12を駆動して操舵力をアシストする。
【0082】
ステップST44で両条件を満足しないと判定された場合には、第3系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC4の計数値C4cが「C4c≧5」、且つ第2系統のインバータ回路22bの動作禁止フラグがセットされているか否かを判定する(ステップST46)。両条件を満足すると判定された場合には、第1系統と第2系統間に短絡異常があり、第1系統と第3系統間に短絡異常がない。次のステップST45で系統間短絡終了フラグをセットして診断を終了し、第1系統と第3系統の駆動回路を用いて3相モータ12を駆動して操舵力をアシストする。
【0083】
一方、ステップST46で両条件を満足しないと判定された場合には、第1系統と第2系統間に短絡異常があり、第1系統と第3系統間にも短絡異常がある。この場合には、二重故障であるのでアシスト動作は禁止し、故障診断ループに入ったままにする。
【0084】
上述したステップST22で、第1系統の系統間短絡診断要求があるか否かを判定し、診断要求が無い場合には、第2系統の系統間短絡診断要求があるか否かを判定する(
図13、ステップST47)。診断要求があると、第2系統のインバータ回路22bのU相上アームスイッチ素子をオン状態にするとともに、相リレー29Uを通電状態にする。すなわち、マイクロコンピュータ20の制御により、ドライバ23bでインバータ回路22bにおけるU相のMOSFET41をオン状態にするとともに、相リレー29Uとして働くMOSFETをオンする(ステップST48)。第2系統の系統間短絡診断要求がない場合には終了する。
【0085】
ステップST49では、第2系統のインバータ回路22bのU相下アームスイッチ素子、V相上アームスイッチ素子、V相下アームスイッチ素子、W相上アームスイッチ素子及びW相下アームスイッチ素子であるMOSFET42〜46をオフ状態にする。これによって、インバータ回路22bの出力は、U相がハイレベル、V相及びW相がハイインピーダンス状態となる。
【0086】
ステップST50では、第3系統のインバータ回路22cのU相上アームスイッチ素子、U相下アームスイッチ素子、V相上アームスイッチ素子、V相下アームスイッチ素子、W相上アームスイッチ素子及びW相下アームスイッチ素子であるMOSFET51〜56をオフ状態にする。これによって、インバータ回路22cの出力は全相ハイインピーダンス状態となる。
【0087】
次のステップST51では、相電位検出回路4bで検出した第2系統のインバータ回路22bのU相電位のモニタ値Ubmが、電源電圧モニタ回路5bで検出したインバータ回路22bの電源電圧のモニタ値BAbmより大きいか否かを、マイクロコンピュータ20で判定する。本例では、所定電圧XV(1ボルト程度)の余裕を見込んで「Ubm>BAbm−XV」を判定している。
【0088】
そして、「Ubm>BAbm−XV」であれば正常であり、第3系統のインバータ回路22cのU相電位のモニタ値Ucm、V相電位のモニタ値Vcm及びW相電位のモニタ値Wcmの和、「Ucm+Vcm+Wcm」が「インバータ回路22cの電源電圧のモニタ値BAcm×3−3XV」から「インバータ回路22cの電源電圧のモニタ値BAcm×3+3XV」の範囲内か否かを判定する(
図14、ステップST52)。ここで、「−3XV」と「+3XV」は、モニタ値BAcmに所定電圧XVの余裕を見込んだものである。
【0089】
一方、ステップST51で「Ubm>BAbm−XV」で無い、すなわち異常ありと判定されると、第2系統のU相にハイレベルを印加したときの異常を示すカウンタC2の計数値C2bに「+1」する(ステップST53)。
続いて、カウンタC2の計数値C2bが「C2b≧10」か否かを判定し(ステップST54)、「C2b≧10」であれば第2系統に異常があるものと判定(異常確定)して、インバータ回路22bの動作禁止フラグをセットする(ステップST55)。そして、系統間短絡診断終了フラグをセットして診断を終了する(ステップST56)。
ステップST54で、「C2b≧10」で無いと判定された場合には診断を終了する。
【0090】
続いて、ステップST52で範囲内である(正常)と判定されると、第3系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC4の計数値C4cに「+1」する(ステップST57)。
ステップST52で範囲外である(異常あり)と判定されると、第3系統の系統間短絡があることを示すカウンタC5の計数値C5cに「+1」する(ステップST53)。
【0091】
続いて、カウンタC5の計数値C5cが「C5c≧10」か否かを判定し(ステップST59)、「C5c≧10」であれば第3系統に異常があるものと判定(異常確定)して、インバータ回路22cの動作禁止フラグをセットする(ステップST60)。そして、ステップST61に移動し、第3系統の診断を行う。また、ステップST59で、「C5c≧10」で無いと判定された場合にも、ステップST61に移動して第3系統の診断を行う。
【0092】
ステップST61では、第3系統の系統間短絡が無いことを示すカウンタC4の計数値C4cが「C4c≧5」か否かを判定する。「C4c≧5」であれば、第2系統と第3系統間に短絡異常はないので、系統間短絡診断終了フラグをセットして診断を終了する(ステップST62)。
【0093】
一方、ステップST61で「C4c<5」と判定されると、第3系統のインバータ回路22cの動作禁止フラグがセットされているか否かを判定する(ステップST63)。そして、インバータ回路22cの動作禁止フラグがセットされていれば、ステップST62に移動して系統間短絡診断終了フラグをセットして診断を終了する。フラグがセットされていなければ、そのまま終了する。
【0094】
マイクロコンピュータ20は、ステップST45,ST56,ST62の系統間短絡診断終了フラグがセットされたことを検知すると、通常のモータ制御動作を開始する。通常動作時には、3相モータ12は第1乃至第3系統の駆動回路21a,21b,21cから通電電流が供給され、これらの電流を加算したシステムトータルの通電電流値で駆動される。
【0095】
第1乃至第3系統の駆動回路21a,21b,21cを用いる通常アシスト状態では、マイクロコンピュータ20は、ドライバ23a,23b,23cに、例えばパルス幅変調信号(PWM信号)を出力する。また、ドライバ26a,26b,26cに、電源リレー25a,25b,25cをオンさせる信号を出力する。ドライバ23a,23b,23c中の各H側ドライバとL側ドライバはそれぞれ、PWM信号に基づいて、第1乃至第3系統のインバータ回路22a,22b,22c中の各MOSFET31〜36,41〜46,51〜56のゲートにそれぞれPWM信号に基づく駆動信号を供給して選択的にオン/オフ制御する。
【0096】
そして、3相モータ12を駆動ライン1U,1V,1Wを介して駆動回路21aで3相駆動し、駆動ライン2U,2V,2Wを介して駆動回路21bで3相駆動し、駆動ライン3U,3V,3Wを介して駆動回路21cで3相駆動する。この際、操舵トルク信号S1と車速信号S2などに基づいてPWM信号のデューティを可変し、3相モータ12の出力トルクを制御することでアシスト力を変化させる。
更に、マイクロコンピュータ20は、各系統の短絡故障の状態に応じて、短絡していない系統によるモータ制御動作を実行する。この際、短絡故障が発生した系統のインバータ回路の出力をハイインピーダンス状態に固定して、他の系統による駆動に影響を与えないようにする。よって、操舵アシスト力が低下するもののアシスト動作を継続することができ、アシストの急停止による安全性の低下を抑制できる。
【0097】
なお、
図10乃至
図14に示した制御方法では、第1系統のインバータ回路22aのMOSFET31をオン状態にするとともに相リレー28Uをオン状態にして、駆動ライン1Uの電位を上昇させ、この電位が第2、第3系統のインバータ回路22b,22cに影響を与えるか否かで短絡異常を検出した。しかしながら、第1の実施形態と同様に、第1系統のインバータ回路22aのMOSFET32をオン状態にするとともに相リレー28Uをオフ状態にして、駆動ライン1Uの電位を降下させ、この電位が第2、第3系統のインバータ回路22b,22cに影響を与えるか否かで短絡異常を検出することもできる。短絡していなければ第2系統の駆動ライン2U,2V,2Wと第3系統の駆動ライン3U,3V,3Wは中間電位になり、もし短絡していると第1系統の駆動ライン1Uの相電位の低下に引っ張られてロウレベルになる。これによって、短絡故障の有無が判定できる。
【0098】
上述したように本発明の第2の実施形態に係る電子制御装置の制御方法では、1つの系統のインバータ回路の出力をハイインピーダンス状態にして、残りの2系統のインバータ回路側の相電位が伝達されるか否かで短絡故障の診断を行う。更に、同様な動作を行って、第2、第3系統のインバータ回路に対して短絡異常があるか診断する。従って、電源から接地点へ貫通電流が流れる電流経路は生成されず、大電流が流れることはない。これによって、3相モータの各巻線や駆動回路に異常な通電を発生させることなく短絡異常を検出できる。
【0099】
なお、本発明は上述した第1、第2の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。
<変形例1>
例えば、上述した第1、第2の実施形態では、2系統のインバータ回路と3系統のインバータ回路で多相モータを駆動する例について説明したが、同様にしてn系統(n≧4)のインバータ回路で駆動する電子制御装置にも適用できるのはもちろんである。
【0100】
<変形例2>
電子制御装置をEPS装置に適用する場合を例に取って説明したが、EPS装置に限らず、ステアバイワイヤ等の2系統(複数系統)のインバータ回路で多相モータを駆動する他の様々な装置やシステムに用いることができる。
【0101】
<変形例3>
また、1つのマイクロコンピュータで2系統のインバータ回路を制御する場合を説明したが、インバータ回路毎に独立したマイクロコンピュータを設けて制御するようにしても良い。1つのマイクロコンピュータで3系統以上のインバータ回路を制御することもできる。
【0102】
<変形例4>
相リレーと3相モータの巻線との間に相電位検出回路(相電位モニタ)及び電位印加回路(プルアップ抵抗)を設けたが、インバータ回路と相リレーとの間に設けても良い。換言すれば、相電圧モニタ及びプルアップ抵抗は、インバータ回路からモータの巻線間に設置されていれば、相リレーの前段に設けても後段に設けても構わない。
【0103】
<変形例5>
更に、各インバータ回路とモータの巻線との間に相リレーが設けられた電子制御装置を例に取って説明したが、相リレーを持たない電子制御装置にも適用可能である。また、相リレー用の半導体素子が各相に1つ設けられている場合を例に示したが、寄生ダイオードが互いに逆方向となるように2つの半導体素子を配置した相リレーを備える場合にも適用可能である。
【0104】
<変形例6>
また、インバータ回路の出力をハイインピーダンス状態にするために、上アームスイッチ素子と下アームスイッチ素子を共にオフ状態にする例を説明した。しかし、相電位検出回路で巻線組側の電位を検出し、プルアップ抵抗の一端を巻線に接続する場合には、相リレーをオフ状態にすることでインバータ回路の出力をハイインピーダンス状態にして診断することもできる。
【0105】
<変形例7>
更に、相電位検出回路を直列接続した抵抗素子群で形成した場合には、相電位がロウレベルに低下するので、上アームスイッチ素子をオン状態、下アームスイッチ素子をオフ状態、すなわちハイレベルにする場合には、相電位を中間電位に設定するプルアップ抵抗を設けなくても巻線の短絡異常を検出できる。
【0106】
<変形例8>
相電位検出回路を直列接続した抵抗素子群で構成する例を示したが、相電位を検出できれば他の様々な構成を採用できるのはもちろんである。
【0107】
<変形例9>
また、各インバータ回路のスイッチ素子がMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の場合を例に取ったが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの他の半導体素子でも同様に適用可能である。