【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、手段1として、第1の構造躯体の上下面にそれぞれ金属製の接合金具を固定配置し、前記接合金具を介して垂直方向に第2の構造躯体と第3の構造躯体を連結固定するようにした木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記第1の構造躯体にその上下面から露出する部分を有するように間隔保持部材を埋設し、上下に配置させた前記接合金具を前記間隔保持部材の前記露出する部分に当接させることによって間隔を保持させた状態で前記第1の構造躯体内に配置した連結部材によって互いに引き合うように固定した。
このような構成とすることで、上側の第2の構造躯体内の接合金具からの下方への圧縮力は間隔保持部材を介して下側の第3の構造躯体内の接合金具へと伝達されるため、第1の構造躯体に過大な圧縮力がかかることがなく、第1の構造躯体にめり込み等の変形が生じるおそれがなくなる。
【0006】
ここに「構造躯体」とは、木造建築物を建築する際の骨組み(架構を構成する部材)にあたる部分であって、例えば基礎、壁、柱、横架材(梁、桁等)、土台、母屋等を広くいう。また、ムクの木でも集成材、例えば、CLT(Cross Laminated Timber)と称される直交集成板であってもよい。第2の構造躯体は1つ上の階層の第1の構造躯体を基準とした場合には第3の構造躯体となる。
第1の構造躯体内部に埋設される「間隔保持部材」は、第1の構造躯体内に埋設されて上下面から露出する部分を有するのであれば形状は問わない。間隔保持部材は上方からの圧縮力を受ける圧縮補強部材となる。間隔保持部材は第1の構造躯体にその上下面から露出する部分を有するため、少なくとも間隔保持部材は第1の構造躯体の上下幅(背)よりも長く構成される。
「連結部材」は第1の構造躯体の上下に配置させた接合金具を互い引き付けあうような構成の部材であればよく、例えば雄ネジ部材と雌ネジ部材で構成したり、ワイヤーを接合金具間に緊設するようにしたりしてもよい。つまり、連結部材によって常時上下に配置させた接合金具を互いに接近する方向に引き付けるようにするとともに、両接合金具の間に間隔保持部材を配置させることで、第1の構造躯体に上方の接合金具からの大きな荷重がかかることのないようにしたものである。
「間隔保持部材を埋設する」こととして、例えば前もって形成した間隔保持部材の外形に対応した第1の構造躯体側の透孔に落とし込んだり、前もって形成した案内孔を使用してラグスクリューボルト(木ねじ)でドリル状にねじ込んだり、雄ネジ側の間隔保持部材を雌ネジ側の第1の構造躯体側の内壁の雌ネジに螺合させたり、第1の構造躯体側の透孔に無理嵌めさせたりする等ができる。また、埋設する前提として第1の構造躯体の上下方向に沿って透孔を形成する。
【0007】
また、手段2として、前記間隔保持部材は上端側の縁から外方に張り出す張り出し部を有し、前記張り出し部によって前記第1の構造躯体の上面に載置された状態で前記間隔保持部材は前記第1の構造躯体の上下面から露出する部分を有するようにした。
これによって、間隔保持部材は張り出し部が第1の構造躯体の上面に載置されて第1の構造躯体内で埋設状態で保持されることとなるため、第1の構造躯体内で下動することなく位置が安定し、第1の構造躯体の上下面から露出する部分を確実に露出状態に保持することができる。
ここに「張り出し部」は間隔保持部材は上端側の縁から外方に張り出して間隔保持部材を保持できれば形状は問わず、例えば、円筒の端部全周に張り出したフランジ状の形状でもよく、全周ではなく例えば梁部材が張り出すものでもよい。梁部材が張り出す場合には対向して張り出しても放射状に張り出してもよい。
また「張り出し部」は所定の厚みを有して自身が「上面から露出する部分」を成してもよい。その場合には間隔保持部材の本体部分よりも外側のより広い領域で上側の接合金具の荷重を受けることができるため、荷重を受ける面積が広くなるため耐荷重性がよくなり、また接合金具を支持する領域も広くなって間隔保持部材に支持される接合金具の安定がよくなる。また、間隔保持部材は「張り出し部」とは別に「上面から露出する部分を有する」ように構成してもよい。
「縁」は最も端部だけでなく最も端部を含む端部寄り部分をある程度含む。
【0008】
また、手段3として、前記間隔保持部材は上下位置支持手段によって前記第1の構造躯体に埋設された状態で埋設位置で保持されるようにした。
これによって間隔保持部材は埋設位置で確実に保持されるため、間隔保持部材の第1の構造躯体の上下面から露出する部分の露出量が間隔保持部材が移動して変化してしまうという不具合がない。
また、手段4として、前記上下位置支持手段は、横断面円形の前記間隔保持部材の外周に形成した雄ネジ面が前記第1の構造躯体に形成された透孔の内周の雌ネジ面との間で螺合関係を有して埋設されるものであるようにした。
これによって間隔保持部材は埋設位置で上下に進退せず確実に保持されるため、間隔保持部材の第1の構造躯体の上下面から露出する部分の露出量が間隔保持部材が移動して変化してしまうという不具合がない。
また、手段5として、前記上下位置支持手段は、前記間隔保持部材を前記第1の構造躯体内部に案内孔に対して無理嵌め状態に埋設するものであるようにした。
これによって間隔保持部材は埋設位置で上下に進退せず確実に保持されるため、間隔保持部材の第1の構造躯体の上下面から露出する部分の露出量が間隔保持部材が移動して変化してしまうという不具合がない。
「無理嵌め状態に埋設する」とは、例えば一部(又は全部)に透孔内径より大径部分のある間隔保持部材を叩いて嵌めるようにすることである。例えばドリフトピンのように長手方向の一部が膨出して大径になっているような形状の部材を使用することがよい。
また、手段6として、前記上下位置支持手段は、前記間隔保持部材に形成した第1の差し込み穴と、前記第1の構造躯体の厚み方向に形成した第2の差し込み穴と、連通した前記第1の差し込み穴と前記第2の差し込み穴間に挿通される長尺固定部材とにより構成することである。
これによって間隔保持部材は埋設位置で上下に進退せず確実に保持されるため、間隔保持部材の第1の構造躯体の上下面から露出する部分の露出量が間隔保持部材が移動して変化してしまうという不具合がない。
「長尺固定部材」は例えばドリフトピンであり、第1の差し込み穴と第2の差し込み穴が連通した状態でドリフトピンを打ち込んで、間隔保持部材を保持させる。
【0009】
また、手段7として、前記間隔保持部材は1又は複数の金属製の長尺体であって、長手方向に上下端部が前記露出する部分となるようにした。
これによって、接合金具を連結部材によって互いに引き合うように固定する際に間隔保持部材である金属製の長尺体の両端部を長手方向(軸方向)に圧縮することとなるため、長尺体は容易に変形せず、強い圧縮力にも耐えることとなる。
「長尺体」は、例えば棒状体や筒体の外形がよい。棒状体であれば中実体で構成することがよい。
また、手段8として、1又は複数の前記長尺体は前記第1の構造躯体側に向いた前記接合金具の連結部の背面に形成した凹部内に前記露出する部分を収容させているようにした。
これによって、長尺体の上端の露出する部分が接合金具の連結部の背面に形成した凹部内収容されることとなるため組み立ての際に接合金具の位置決めがしやすく、また、一旦組み付けると長尺体と接合金具が横ずれしにくくなる。
また、手段9として、複数の前記長尺体は前記連結部材を中心に回転対称となる位置に配置されるようにした。
これによって、接合金具を連結している連結部材に対してその周囲に回転対称となるようにバランスよく長尺体が配置されているため、接合金具を連結部材によって互いに引き合った状態で接合金具が長尺体に当接していても、長尺体に対して接合金具がずれたり外れたりすることがなくなる。
また、手段10として、前記長尺体の先端部は前記第1の構造躯体の上下面と面一となる位置に配置されているようにした。
これによって、接合金具を連結部材によって互いに引き合った状態で接合金具が長尺体に当接しる場合に、接合金具は長尺体の先端に当接すると同時にその周囲の第1の構造躯体の面とも接するため、長尺体に対して接合金具がずれたり外れたりすることがなくなる。
【0010】
また、手段11として、前記長尺体は筒体であって、前記連結部材は前記筒体内に配置されているようにした。
これによって、接合金具を引っ張り合っている位置が接合金具が支持される位置、つまり筒体周囲よりも内側にあるため、間隔保持部材である筒体に支持される接合金具の安定がよくなる。
また、手段12として、前記筒体の上下の開口部位置には前記接合金具が当接されるフランジ体が形成され、少なくともいずれか一方の前記フランジ体は前記筒体の外周に雄ネジと雌ネジの関係で螺合されているようにした。
これによって、接合金具がより広い面積で筒体側に支持されることとなり、筒体に支持される接合金具の安定がよくなる。
【0011】
また、手段13として、前記接合金具は挿入プレートを有し、前記挿入プレートは前記第2の構造躯体及び前記第3の構造躯体側に挿入され前記挿入プレートを介して前記第2の構造躯体及び前記第3の構造躯体は前記第1の構造躯体に固定され、前記挿入プレートは前記第2の構造躯体及び前記第3の構造躯体側に挿入された状態で前記長尺体の軸方向に平行な方向に延出されているようにした。
このような挿入プレートが第2の構造躯体又は前記第3の構造躯体側に挿入され、第2の構造躯体及び前記第3の構造躯体と固定手段(例えばドリフトピン)によって固定されることによって引っ張り力(引き抜き力)や圧縮力が上下方向に伝達されることとなる。挿入プレートは1つの接合金具において複数の挿入プレートを設けるようにしてもよく、複数の接合金具それぞれに1枚の挿入プレートを設けるようにしてもよい。
また、手段14として、記第2の構造躯体及び第3の構造躯体は直交集成板であって、前記挿入プレートは前記直交集成板を構成する板層に沿ってその面方向が配設されるようにした。
つまり、第2の構造躯体及び第3の構造躯体が直交集成板の場合には直交集成板を横切って切断しないように挿入プレートは直交集成板を構成する板層に沿って延出させるようにしている。これによって直交集成板の強度が低下しないようにする。
また、手段15として、前記第1の構造躯体は直交集成板であって、前記長尺体は前記直交集成板を構成する板層に沿った方向に対して直交する方向が軸方向となるように埋設されるようにした。
つまり、第1の構造躯体が直交集成板の場合には長尺体は直交集成板を構成する板層に沿った方向に対して直交する方向(強軸層と弱軸層を横切るように)に配置される。これは本発明の構造では第1の構造躯体が寝た状態で配置されることを意味している。
【0012】
また、手段16として、前記連結部材は雄ネジ部材と雌ネジ部材を有し、前記雄ネジ部材を前記第1の構造躯体内の透孔を通じて上下に配置された前記接合金具の連結部と交差させるように配置し、前記雌ネジ部材を前記雄ネジ部材に螺合させて前記雌ネジ部材を前記連結部方向に移動させることによって上下に配置された前記接合金具を前記間隔保持部材を間に介して締め付け固定するようにした。
これは連結部材をより具体的にクレームしたものである。このようにすれば第1の構造躯体の上下に配置された接合金具に任意のテンションを与えて互いに引き合うように固定することができる。
また、手段17として、前記接合金具の連結部は前記第1の構造躯体に接触していないようにした。
これは基本的に接合金具の連結部が間隔保持部材の上下に露出する部分に当接させる構造であるため、接合金具の連結部が第1の構造躯体の外面に配置されればそのような構成になることを確認的にクレームしたものである。尚、第1の構造躯体と面一に間隔保持部材の上下端面が配置される場合に接合金具が第1の構造躯体に接触するケースがあり得ることは手段17より前の手段では排除していない。
また、ここで「接触していない」とは当初全部あるいは一部が接触していても経年使用することで第1の構造躯体が痩せて接合金具の連結部が第1の構造躯体に接触しなくなるケースも含んでいる。
また、手段18として、前記第2の構造躯体及び前記第3の構造躯体を前記接合金具を介して連結固定した際に前記第2の構造躯体は前記第1の構造躯体に接触しないようにした。
これによって第2の構造躯体から第1の構造躯体に圧縮力が伝達されることが防止される。ここでは上方からの荷重と第1の構造躯体に伝達させないために第2の構造躯体を第1の構造躯体に接触しないように構成したが、第3の構造躯体を第1の構造躯体に接触しないようにすることもよい。
【0013】
また、手段1〜18のいずれかの木造建築物の構造躯体の接合構造を使用して前記第1の構造躯体の上面に配置される前記第2の構造躯体が当該階層よりも1つ上層の前記第1の構造躯体の下面に配置される前記第3の構造躯体となるように積層配置されている木造建築物を構築するようにした。
これによって多層階の木造建築物を構築する際に特に下層階の第1の構造躯体に圧縮方向の大きな荷重がかかることがなくなるため、第1の構造躯体に対する材のめり込み等の変形が生じることがなくなり多層階の木造建築物の構築が可能となる。