(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のダイ片を有するダイ部材を用い、該ダイ片の表面を組み合わせて筒状内周表面を形成し、前記筒状内周表面をねじ素材に対して圧接させて変形させる両ねじ体の圧造方法であって、
前記ダイ部材は、
前記筒状内周表面の最内周部間を繋いで得られる仮想表面の展開図における法線方向視において略平行四辺形状を成し、該仮想表面から半径方向外側に凹設される凹部が、前記筒状の軸方向に位置差を有し且つ周方向に位相差を有して軸方向に複数配列される両ねじ部形成領域を備え、
前記ダイ片の前記表面は略半円筒形状となっており、
一対の前記ダイ片の一対の前記表面を組み合わせることで、略円筒形の前記筒状内周表面が形成され、
前記略半円筒形状の前記表面の円弧最奥部に、前記凹部の最深部が位置する状態で、前記ねじ素材に圧接させることを特徴とする両ねじ体圧造方法。
複数のダイ片を有するダイ部材を用い、該ダイ片の表面を組み合わせて筒状内周表面を形成し、前記筒状内周表面をねじ素材に対して圧接させて変形させる両ねじ体の圧造方法であって、
前記ダイ部材は、
前記筒状内周表面の最内周部間を繋いで得られる仮想表面の展開図における法線方向視において略平行四辺形状を成し、該仮想表面から半径方向外側に凹設される凹部が、前記筒状の軸方向に位置差を有し且つ周方向に位相差を有して軸方向に複数配列される両ねじ部形成領域を備えるようにし、
前記ねじ素材の断面形状を、予め、略楕円又は略長円形状にしておき、
前記ダイ片の前記表面は、断面が略半円筒形状となっており、
一対の前記ダイ片の一対の前記表面を組み合わせることで、略円筒形の前記筒状内周表面を形成し、
前記ねじ素材における断面短軸方向の頂点側から、前記ダイ片の前記略半円筒形状の前記表面内に進入させて、
前記ねじ素材に、前記ダイ部材の前記筒状内周表面を圧接させることを特徴とする両ねじ体圧造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の実施形態に係る両ねじ体圧造用ダイス構造について説明する。両ねじ体圧造用ダイス構造は、円柱状のねじ素材Bに対してダイ部材を半径方向に圧接しつつ、このねじ素材Bの表面を変形させて、軸方向における同一領域上に右ねじ部と左ねじ部を有する両ねじ体Dを圧造する。
【0021】
具体的には、
図1に示すように、部分円筒状(ここでは半円筒状)のダイ片10を二つ用いる。各ダイ片10の内周には半円筒状内周表面が形成される。このダイ片10を組み合わせることでダイ部材15が構成され、ダイ部材15の内周には円筒状内周表面16が形成され、この円筒状内周表面16がねじ山の「型」となる。以降、本実施形態では一対のダイ片10を用いる場合を例示するが、三個以上のダイ片を組み合わせてダイ片15を構成してもよい。
【0022】
各ダイ片10の部分円筒状内周表面は剛性表面20となる。
図2(A)に示すように、ダイ片10の剛性表面20は、最内周部(最もねじ素材Bに接近する部分)間を繋いで得られる仮想表面22内に、両ねじ部形成領域Uを備える。
図2(B)に示すように、両ねじ部形成領域Uには、仮想表面22から半径方向外側に向かう凹部30が、周方向及び軸方向共に、複数独立した状態で整列して凹設される。
【0023】
図3に仮想表面22の展開図を示す。実線で示すところが最内周部(製造される両ねじ体Dにとっての谷部)となり、点線で示すところが谷部(製造される両ねじ体Dにとってのねじ山部)となる。この仮想表面22は、一対のダイ片10の各内周面が境界線Iで連なることで構成される。この凹部30は、仮想表面22の展開状態を法線方向視した場合において、略平行四辺形状を成していることがわかる。軸方向に並列配置された複数の凹部30によって、一対の凹部群36A、36Bが構成されており、一対の凹部群36A、36Bが、周方向には180度の位相差で、かつ軸方向には半ピッチの位相差で配置される。
【0024】
各凹部30は、展開状態における外形が好ましくは略菱形状を成す。このように略菱形状に設定すれば、圧造される両ねじ体Dの右ねじ部と左ねじ部におけるそれぞれのねじピッチが互いに等しいものとすることが出来る。
【0025】
これらの凹部30は、それぞれ展開図における法線方向視における略平行四辺形状の四つ角対応部位のうち、二つ以上の角部31,31が、
図3(A)に示すように法線方向視において丸く形成される。本実施形態では、略平行四辺形状の四つ角対応部位の全ての角部31,31,32,32を丸く形成している。なお、これら二つ以上の角部31,31は、互いに対角位置状に設定することが好ましく、特に、二つ以上の角部31,31を、ねじ素材Bの周方向と一致するように設定すれば、圧造の際に、軸方向の応力が均一に打ち消し合うので好ましい。
【0026】
また凹部30は、この開口面を一構成面とするような仮想的な略四角錐形状の穴状を成しており、この略四角錐形状の中央頂部が凹部30の最深部位34を構成する。より好ましくは、凹部30の最深部位34が、略四角錐形状の頂部を除去したような略扁平な底部35(
図3では便宜上、一か所の凹部に図示し他は省略)を有するような形状とする。結果、底部35が広くなり、ねじ素材Bが変形しやすくなる。また、両ねじ体Dのねじ山Mの最高頂部MAが、両ねじ体Dの軸直角方向において鋭角と成らずに済み、両ねじ体Dに対する雌ねじ体の螺合時における安定性を向上させることが出来る。また大量生産によって得られる両ねじ体Dの製品精度を著しく向上させることが出来る。
【0027】
また、一対の凹部群36A、36Bが軸方向に重なり合う領域Xの中心は、交差部位37を構成する。交差部位37は、
図2(B)に示すように、各凹部群36A、36Bに属する各凹部30、30の基底線Y(形成されるねじ山の峰)が徐々に浅くなって、互いの基底線Yが軸方向に交差し始める地点を意味する。
【0028】
図2(C)に示すように、これらの凹部30は、仮想表面22の法線方向に沿う断面形状において、その周縁33部分が、例えばR加工等のように丸く形成され、略平行四辺形状を成す周縁33の周回上に沿って丸く形成される。このように、凹部30の周縁33部分を、周縁33の周回上に亘って丸くすることによって、圧造時にダイ片10表面とねじ素材Bとの不合理な当たりによってねじ素材Bから削り出されて発生する切り子の発生を防止することが可能となる。
【0029】
図3(A)に示すように、仮想表面22の展開図における法線方向視において略平行四辺形状の凹部30は、その対角線のうち少なくとも一方の対角線距離Wを、ねじ素材Bの半径をR0、円周率をπとするとき、2πR0以下となるように設定する。好ましくは、本発明の実施によって得られる両ねじ体Dの谷径をd
R(
図14参照)とするとき、凹部30を成す略平行四辺形の対角線のうち少なくとも一方の対角線距離Wをπd
R以下とする。より好ましくは、凹部30を成す略平行四辺形の対角線のうち少なくとも相対変位方向に平行な対角線の対角線距離をπd
R以下に設定する。このように設定することによって、右ねじ部と左ねじ部のねじピッチを同等に設定可能となる上、高精度な両ねじ体Dを得ることが出来るようになる。
【0030】
また、
図3(A)のように、凹部30の開口は、仮想表面22の法線方向視における略平行四辺形の一方の対角線距離、好ましくは相対変位方向の対角線距離Wを比較的長く設定し、他方の対角線距離、好ましくは相対変位方向に対して直交する方向の対角線距離Fを比較的短く設定する。なお、凹部30は、該凹部30の容積をv、円周率をπ、ダイ片10の相対変位の方向に対する直交方向における凹部30の凹設ピッチをp、両ねじ体Dの谷径をd
R(
図14参照)、凹部30の最深部位34の深さをhとするとき、ここの凹部30の容積vの設定範囲が、πpd
Rh/7≦v≦πpd
Rh/5で規定されるように構成することが好ましい。この範囲よりも小さく設定すると、ねじ山Mが痩せ過ぎたり、小さくなり過ぎて強度不足になったり、或いは、本発明の実施によって得られる雄ねじである両ねじ体Dに雌ねじ体を螺合した際に遊びが大きくなり過ぎてガタ付きが大きくなり過ぎてしまう。逆に、この範囲よりも大きく設定すると、ねじ山Mが太り過ぎたり、大きくなり過ぎて、本発明の実施によって得られる雄ねじである両ねじ体Dに雌ねじ体を螺合した際に遊びが小さくなり過ぎて螺合困難若しくは螺合不能になったり、或いは、ねじ山Mを高精度に圧造することが困難となる。
【0031】
図2(A)及び(B)に戻って、本実施形態の両ねじ体圧造用ダイス構造において、一対のダイ片10が当接する当接面38は、両ねじ部形成領域Uにおける凹部30の最深部位34と一致している。即ち、
図3の展開図では、当接面38に相当する境界線Iによって、全ての凹部30が中央で二分され、一方のダイ片10と他方のダイ片10に分かれる。
【0032】
図2(B)に示すように、対向する一対の凹部30、30の基底線Yが軸方向に交互に重なりあう交差部位37が、各ダイ片10の半円柱状表面の円弧最奥部位(中央)に位置する。凹部30の基底線Y(両ねじ体におけるねじ山の頂部)を基準に考えると、当接面38に位置する基底線Y(凹部30の最深部位34)から軸心までの半径距離R1と比較して、交差部位37から軸心までの半径距離R2の方が小さい。即ち、各ダイ片10に半分ずつ形成される一対の凹部30、30を軸方向から重ね合わせて視た場合、最も外側の輪郭線は、略半楕円又は略半長円形状となり、その長軸径がR1×2となる。この長軸径(R1×2)は、ねじ素材Bが進入するための挿入口38Aの最大幅となる。
【0033】
図4に示すように、半径がR1以下(望ましくはR2以上)となる断面正円形のねじ素材Bに対して、このダイ片10を圧接する場合、ねじ素材Bの直径よりも挿入口38Aの最大幅が大きいので、凹部30の凹凸によってねじ素材Bの表面にねじ山を形成しながら挿入口38A内に進入し、更にねじ素材Bが短軸R2方向に押しつぶされて、長軸R1方向(水平方向)に偏平(楕円)となる。例えば
図5に示すように、ねじ素材Bを予め楕円又は長円に変形させて長軸r1、短軸r2とし、短軸r2側から挿入口38Aへ進入させれば、ねじ素材Bの変形・移動体積をより小さくすることが可能となり、高精度に圧造できる。
【0034】
一方、
図6及び
図7に示すように、ダイ片10に形成する凹部30の交差部位37を、当接面38に合せることも好ましい。この場合、両ねじ部形成領域Uにおける凹部30の最深部位34が、各ダイ片10の半円柱状表面の円弧最奥部位(中央)に位置することになる。凹部30の基底線Y(両ねじ体におけるねじ山の頂部)を基準に考えると、当接面38に位置する基底線Y(凹部30の交差部位37)から軸心までの半径距離R2と比較して、凹部の最深部位34から軸心までの半径距離R1の方が大きい。即ち、各ダイ片10に部分的に形成される凹部30を軸方向から重ね合わせて視た場合、最も外側の輪郭線は、略半楕円又は略半長円形状となり、その短軸径がR2×2となる。この短軸径(R2×2)は、ねじ素材Bが進入するための挿入口38Aの最大幅となる。
【0035】
図8に示すように、半径がR1以下(望ましくはR2以上)となる断面正円形のねじ素材Bに対して、このダイ片10を圧接する場合、ねじ素材Bの直径よりも挿入口38Aの最大幅が小さいので、ねじ素材Bと挿入口38Aが干渉する。従って、ねじ素材Bを、挿入口38Aの幅方向に圧縮変形させながら圧入するが、挿入口38Aのねじ山の高さが小さいことから、ねじ素材Bを滑らかに進入させることができる。特に
図9に示すように、ねじ素材Bを予め楕円又は長円に変形させて、その長軸をr1、短軸をr2とした場合、長軸r1側から挿入口38Aへ進入させれば、一層滑らかに圧造することが可能となり、ねじ素材Bの変形・移動体積も小さくできて高精度に圧造できる。ここでは特に図示しないが、ねじ素材Bを楕円柱又は長円柱にする際の短軸r2方向の頂点を、ダイ片10の仮想表面22と一致又はそれよりも内側に設定しておき、その分だけ長軸r1方向を大きめに設定することが好ましい。このようにすると、例えば
図9に示す手順で圧造する場合、ダイ片10の最内周となる仮想表面22の半径よりも、ねじ素材Bの短軸r2が小さくなるので、ねじ素材Bが挿入口38Aと干渉せずに、極めて容易に進入させることができる。その後は、ダイ片10によるねじ素材Bの長軸r1方向への圧縮動作によって、ねじ素材Bを短軸r2方向に拡張させながら、交差部位37近傍のねじ山の圧造を確実に行うことが出来る。
【0036】
なお
図5及び
図9に示すように、ねじ素材Bを予め楕円柱又は長円柱にする際、例えば、ねじ素材Bの短軸r2方向の頂点が、ダイ片10の仮想表面22から凹部30の交差部位37の間に設定され、ねじ素材Bの長軸r1方向の頂点が、ダイ片10の仮想表面22から凹部30の最深部位34の間に設定されることが好ましい。このようにすると、ねじ素材Bの形状を、両ねじ領域の全体形状に近づけることが出来るので、圧造時の移動体積・変形体積を小さくすることができる。
【0037】
以上のようにして、本実施形態の圧造用ダイス構造のダイ片10を用いて圧造すれば、高精度な両ねじ体Dを効率的に大量生産することが可能となることが分かる。
【0038】
図2(A)及び(C)に戻って、ダイ片10の剛性表面20は、両ねじ部形成領域Uに対してねじ素材Bの軸方向にずれた状態で、片ねじ部形成領域Jが隣接配置される。
図3の展開図の通り、この片ねじ部形成領域Jには、仮想表面22に対して帯状に延在する谷部50が凹設され、この谷部50によって、
図14及び
図15の両ねじ体Dの片ねじ領域のねじ山を圧造する。この谷部50は、ねじ素材Bが相対変位する方向に対してリード角分傾斜配置されていればよい。ねじ素材Bを、両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの双方に跨るように配置して同時に圧造すれば、
図14及び
図15に示すように、片ねじ部形成領域Jによって片ねじ領域が形成され、両ねじ部形成領域Uによって両ねじ領域が形成される両ねじ体Dを得ることが出来る。
【0039】
ダイ片10は、両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの境界で部品として分割可能となっている。両ねじ体Dは、仕様に応じて片ねじ領域の長さを変更する必要がある。ダイ片10を分割可能にしておくと、片ねじ部形成領域Jに相当する部品だけ軸方向の幅が異なるものに交換すれば、簡単に、両ねじ体Dの片ねじ領域の長さを変更できる。また、両ねじ部形成領域Uも部品として簡単に交換できるので、両ねじ部形成領域Uのねじ山Mの形状を変更したり、あるいは、両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの軸方向配置を入れ替えたり、更には、片ねじ部形成領域Jの両脇に両ねじ部形成領域Uを配置するなど、様々なバリエーションに柔軟に対応できる。通常は、両ねじ部形成領域Uの軸方向寸法を、余裕をもって大きく設定しておけば、あらゆる長さの両ねじ領域に対応できることになる。
【0040】
ダイ片10は、片ねじ部形成領域Jにおける軸方向の中間の境界で、ここでは三つの部品片J1、J2、J3に分割可能となっている。このようにすると、例えば5mmの軸方向幅となる部品片を多数個用意しておき、部品片の連結数によって、片ねじ部形成領域Jの軸方向幅を5mm単位で自在に調整できる。この思想を両ねじ部形成領域Uに適用することも可能である。
【0041】
図2(A)に示すように、ダイ片10の剛性表面20は、片ねじ部形成領域Jに対して、ねじ素材Bの軸方向にずれた状態で隣接配置される平面状の円筒(円柱であってもよい)部形成領域Kを備える。この円筒部形成領域Kは、
図14及び
図15の両ねじ体Dの円筒領域を圧造する。円筒部形成領域Kと片ねじ部形成領域Jの境界は分割可能となっている。両ねじ体Dでは、その仕様に応じて円筒領域の長さを変更する必要がある。このように分割可能にしておくと、ダイ片10において、円筒部形成領域Kに相当する部品だけ軸方向の幅が異なるものに交換すれば、簡単に両ねじ体Dの円筒領域の長さを変更できる。
【0042】
なおここでは特に図示しないが、ダイ片10は、円筒部形成領域Kにおける軸方向の中間の境界で、更に部品片として分割可能としてもよい。このようにすると、例えば5mmの軸方向幅となる円筒部形成領域Kの部品片を多数個用意しておき、部品片の連結数によって、円筒部形成領域Kの軸方向幅を5mm単位で自在に調整できる。
【0043】
本実施形態の圧造用ダイス構造を用いた両ねじ体Dの圧造方法は、円柱状のねじ素材Bに対して圧接しつつ、このねじ素材Bの軸方向に直交する方向に相対変位しながら当該ねじ素材B表面を変形させて軸方向における同一領域上に右ねじ部と左ねじ部を有する両ねじ体Dを圧造する。
【0044】
次に、ねじ素材Bを予備加工して楕円柱又は長円柱にする手法について説明する。なお、楕円柱又は長円柱に加工されたねじ素材Bをここでは前駆体と呼ぶ。本実施形態では、前駆体の加工例として、前駆体転造用ダイス構造と前駆体圧造用ダイス構造を紹介する。
【0045】
前駆体転造用ダイス構造は、転造加工によって、例えば、ねじ素材Bの断面形状が楕円形、或いは、長円形等の如くの前駆的な断面形状(以下、略楕円形状という)に加工するためのものである。転造は、転造用ダイ片を円柱状のねじ素材Bに対して圧接しつつ、このねじ素材Bの軸方向に直交する方向に相対変位しながら当該ねじ素材B表面を変形させて前駆的形状を形成する。転造方法としては、
図10(A)に示す、プレート状の転造用ダイ部材110を二つ用いる所謂平ダイス転造や、
図10(B)に示す、円柱状若しくは円筒型の二つ以上の転造用丸ダイ部材112,112を合わせて用いる所謂ローリング転造、
図10(C)に示す、一方が円弧型の転造用ダイ部材113で、他方が円柱若しくは円筒型の転造用丸ダイ部材112を用いて転造する所謂プラネタリ転造などがある。ここでは平ダイス構造の場合を説明する。
【0046】
前駆体転造用ダイス構造は、ねじ素材Bに圧接される二つ以上の転造用ダイ部材110を備えており、各ダイ部材110は剛性表面120を有する。これら二つ以上のダイ部材110は、ねじ素材Bに対して圧接されながら、互いの剛性表面120同士が相対変位すると共にねじ素材Bに対して相対変位する。転造用ダイ部材110はの剛性表面120は、
図11(A)に示すように、仮想表面122において前駆体加工領域Qを有する。
【0047】
この前駆体加工領域Qは、
図11(B)に示すように、ねじ素材Bと相対変位する方向に沿って、仮想表面122自体が面状態を維持したまま、当該ねじ素材Bの軸心E1に次第に接近していく接近領域Q1と、軸心E1から次第に離反していく離反領域Q2を繰り返している。従って、
図12(A)のように、当初は断面正円形状となるねじ素材Bが、接近領域Q1で圧縮される工程が同位相で繰り返されることにより、最終的に、
図12(C)のように、長軸と短軸を有する断面非円形となる。なお、ここでは接近領域Q1及び離反領域Q2が曲面となっている場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図12(D)に示すように、断面が台形となるような凹凸であっても良く、また、鋸刃状の凹凸であっても良い。
【0048】
図14(B)及び
図15(B)に示すように、両ねじ体Dにおいて、右ねじと左ねじが重なって形成される両ねじ領域の特徴として、180度の位相差を有する一対のねじ山M、Mの最高頂部MAのねじ山Mのみの総断面積S1(
図14(B)参照)と、この最高頂部MAに対して周方向に90度ずれて、互いのねじ山M、Mが交差している交差部MXのねじ山Mのみの総断面積S2(
図15(B)参照)が、大幅に異なることが挙げられる。即ち、両ねじ体Dの圧造は、軸部Eを正円に近似させるようにねじ素材Bを変形させつつも、その周囲のねじ山Mは、最高頂部MA近傍の体積と、それに対して90度ずれた交差部MX近傍の体積が異なるように圧造しなければならない。従って、仮に断面正円のねじ素材Bのまま、両ねじ部形成領域Uを用いて圧造する場合、交差部MX近傍のねじ素材Bを減肉し、最高頂部MA近傍のねじ素材Bを増肉しなければならず、ねじ素材Bの材質によっては、そのような材料の流動が困難な場合がある。
【0049】
従って、本実施形態のように、前駆体転造用ダイス構造を用いた事前の転造によって、ねじ素材Bを、将来のねじ山Mの最高頂部MAとなり得る場所を長軸r1とし、将来のねじ山Mの交差部MXとなり得る場所を短軸r2とする略楕円形状に変形させておくことで、下流工程における両ねじ体圧造用ダイス構造を用いた圧造でも、両ねじ部形成領域Uでは、ねじ素材Bの塑性変形量を少なくすることが可能となる。その結果、極めて高精度な両ねじ領域を、極めて高い作業効率で圧造することが可能となる。
【0050】
次いで前駆体圧造用ダイス構造を説明する。前駆体圧造用ダイス構造は、圧造加工によって、ねじ素材Bに前駆的形状を形成するためのものである。
【0051】
図13に示すように、前駆体圧造用ダイス構造は、ねじ素材Bに圧接される二つ以上の前駆体圧造用ダイ片210を備えており、各前駆体圧造用ダイ片210は剛性表面220を有する。これら二つ以上の前駆体圧造用ダイ片210は、ねじ素材Bに対して半径方向に圧接される。結果、ねじ素材Bの表面が変形する。
【0052】
各前駆体圧造用ダイ片210の内周は半円柱状表面となっており、一対の前駆体圧造用ダイ片210を組み合わせることで前駆体圧造用ダイ部材215が構成され、前駆体圧造用ダイ部材215の内周には楕円又は長円柱状表面216が形成される。この前駆体圧造用ダイ部材215によって、ねじ素材Bに対して、長軸と短軸を有する断面非円形となる領域を形成することができる。
【0053】
次に本実施形態の両ねじ体圧造用ダイス構造の利点について説明する。一般的な片ねじ体は、螺旋状のねじ山が途中で途切れないことから、転造手法において、ねじ山が転造用ダイの谷部と常に噛み合い続ける。結果、転造用ダイとねじ素材Bがずれることが無い。一方、本実施形態の両ねじ体Dを製造する場合は、
図14及び
図15に示すように、ねじ山自体が不連続であって、その高さも最高頂部MAから交差部MXまで大きく変化する。結果、転造手法を用いる場合、ねじ素材Bが転動している最中に、ダイとねじ素材Bのスリップ等によって位相がずれやすい。そこで、本実施形態の両ねじ体圧造用ダイス構造によれば、圧造によって両ねじ体Dのねじ山Mを成形するので、ダイ片10とねじ素材Bのズレを考慮する必要が無くなる。
【0054】
また、本実施形態の圧造方法によれば、
図11から
図12に示す前駆体加工工程を有するので、圧造する際の前駆体として、ねじ素材Bを予め楕円形又は長円形加工できる。詳細には、ねじ素材Bを、将来のねじ山Mの最高頂部MAとなり得る場所を長軸r1とし、将来のねじ山Mの交差部MXとなる得る場所を短軸r2とするように略楕円形状に変形する。その結果、圧造の際は、両ねじ部形成領域Uにおける凹部30の最深部位34を、ねじ素材Bの長軸r1に設定し、凹部30が交互に重なり合う交差部位37をねじ素材Bの短軸r2に設定して圧造することができるので、両ねじ部形成領域Uでは、ねじ素材Bの塑性変形量を少なくできる。その結果、極めて高精度な両ねじ領域を、極めて高い作業効率で圧造することが可能となる。
【0055】
更に本実施形態のダイ片10の剛性表面20は、両ねじ部形成領域Uに対して、ねじ素材Bの軸方向にずれた状態で隣接配置される片ねじ部形成領域Jを備える。ねじ素材Bを、両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの双方に跨るように配置して、同時に圧造すれば、
図14及び
図15に示すように、片ねじ領域と両ねじ領域の相対位置がずれないで形成される両ねじ体Dを得ることが出来る。
【0056】
また更に、本実施形態の圧造方法では、ダイ片10が、両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの境界で部品として分割可能としている。ダイ片10を分割可能にしておくと、片ねじ部形成領域Jに相当する部品だけ軸方向の幅が異なるものに交換すれば、簡単に、両ねじ体Dの片ねじ領域の長さを変更できる。また、本実施形態の圧造方法では、円筒部形成領域Kと片ねじ部形成領域Jの境界を分割可能としている。両ねじ体Dでは、その仕様に応じて円筒(円柱であってもよい)領域の長さを変更する必要がある。このように分割可能にしておくと、ダイ片10において、円筒部形成領域Kに相当する部品だけ軸方向の幅が異なるものに交換すれば、簡単に両ねじ体Dの円筒領域の長さを変更できる。
【0057】
以上説明の両ねじ体Dの圧造用ダイス構造及び圧造方法について説明したが、勿論、これらに限らず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、変更例として
図16(A)に示す圧造用ダイス構造が挙げられる。この圧造用ダイス構造は、ダイ片10の剛性表面20において、両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの間にスペーサ領域SPが配置される。このスペーサ領域SPは、圧造される両ねじ体Dの谷径に相当する突出量に設定されることで、両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの境界部に幾分かの遊間を形成する役割を担う。このようにすると、
図16(B)に示されるように、圧造後の両ねじ体Dの両ねじ領域と片ねじ領域の間に、谷径となる微小幅のくびれ部Vが形成されるので、片ねじ領域と両ねじ領域のねじ山の移行が円滑に行われる。
【0059】
なお、ここでは両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域J間にスペーサ領域SPを配置する場合を例示したが、ダイ片10の前駆体加工工程を利用して、ねじ素材B側における両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jに相当する境界にスペーサ領域SPを配置することも好ましい。このようにすると、
図16(C)に示すように、ねじ素材Bが前駆体加工工程を経た状態のいわゆる前駆体にくびれ部Vを形成することができる。結果、その後の両ねじ部形成領域Uと片ねじ部形成領域Jの境界に仮にスペーサ領域が無くても、くびれ部Vの存在によって圧造が円滑となる。ここではねじ素材Bの両ねじ対応領域BUと片ねじ対応領域BJの境界にくびれVを形成する以外に、
図16(D)のように、境界にテーパ面Tを形成することも好ましい。
【0060】
また、本発明の圧造方法は、所謂冷間圧造の他、温間圧造、熱間圧造に適用してもよいことは言うまでもない。