特許第6417612号(P6417612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6417612エッチング剤およびその補給液、マグネシウム部品の表面粗化方法、ならびにマグネシウム−樹脂複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6417612
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】エッチング剤およびその補給液、マグネシウム部品の表面粗化方法、ならびにマグネシウム−樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/22 20060101AFI20181029BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20181029BHJP
   B29C 45/02 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   C23F1/22
   B29C45/14
   B29C45/02
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-242948(P2014-242948)
(22)【出願日】2014年12月1日
(65)【公開番号】特開2016-104896(P2016-104896A)
(43)【公開日】2016年6月9日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】秋山 大作
(72)【発明者】
【氏名】来條 未菜
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−315381(JP,A)
【文献】 特開2012−028393(JP,A)
【文献】 特開2013−234385(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0075850(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0346564(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0253567(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/013306(US,A1)
【文献】 英国特許出願公開第1065016(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム部品用のエッチング剤であって、
無機酸(ただし硝酸を除く)および有機酸からなる群から選択される1種以上の酸;ならびに、分子構造にN−OHまたはN−Oを含む有機窒素化合物、を含有する水溶液からなり、
前記酸の濃度が0.05〜3重量%であり、前記有機窒素化合物の濃度が0.005〜5重量%である、エッチング剤。
【請求項2】
前記有機窒素化合物が、ヒドロキシルアミン類、オキシム類およびアミンオキシド類からなる群から選択される1以上である、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項3】
前記酸が、ハロゲン化水素酸または硫酸である、請求項1または2に記載のエッチング剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエッチング剤を連続または繰り返し使用する際に、前記エッチング剤に添加する補給液であって、
分子構造にN−OHまたはN−Oを含む有機窒素化合物を含有する水溶液からなる補給液。
【請求項5】
マグネシウム部品の表面を粗化する方法であって、
マグネシウム部品の表面に請求項1〜3のいずれか1項に記載のエッチング剤を接触させて、前記表面を粗化する粗化処理工程を有する、マグネシウム部品の表面粗化方法。
【請求項6】
マグネシウム部品の深さ方向の合計エッチング量が6μm以上である、請求項5に記載のマグネシウム部品の表面粗化方法。
【請求項7】
前記粗化処理工程は、前記エッチング剤に、請求項4に記載の補給液を添加しながら、前記マグネシウム部品の表面を粗化する工程である、請求項5または6に記載のマグネシウム部品の表面粗化方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法により、マグネシウム部品の表面が粗化される粗化処理工程;および
粗化処理後のマグネシウム部品の表面に樹脂組成物を付着させる樹脂付着工程
を有する、マグネシウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂付着工程において、粗化処理後のマグネシウム部品の表面に樹脂組成物を付着させる方法が、射出成形またはトランスファーモールド成形である、請求項8に記載のマグネシウム−樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム部品の表面を粗化するためのマグネシウム部品用エッチング剤、およびその補給液に関する。さらに、本発明は当該エッチング剤を用いたマグネシウム部品の表面粗化方法、およびマグネシウム−樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車・電気分野を中心に、幅広い産業分野でマグネシウム部品と樹脂とを一体化させる技術が開発されている。従来、マグネシウム部品と樹脂との接合には、接着剤を使用することが一般的であった。しかし、接着剤の使用は、生産工程を煩雑化し、製品のコストアップの要因になっていた。また、接着剤を使用すると、高温下における接合強度が低下するため、耐熱性が要求される用途への適用が困難となる。
【0003】
そのため、接着剤を使用せずにマグネシウム部品と樹脂とを一体化させる技術が研究されている。例えば、特許文献1には、無機酸水溶液への浸漬により、マグネシウム部品の表面に微細な凹凸形状が形成され、接着剤を用いない場合でもマグネシウム部品と樹脂との接合強度が高められることが開示されている。また、特許文献2では、マグネシウム部品の表面を酸処理することにより、表面が梨地調となることが開示されている。
【0004】
マグネシウム部品の成形は、一般的には圧延法、ダイキャスト法や射出成形法により行われ、成形過程で使用される機械油や離型剤等がマグネシウム部品の表面に付着、浸透している。そのため、特許文献1および特許文献2では、脱脂処理によりマグネシウム部品の表面に付着した油分を除去後に、相対的に高濃度の酸でエッチング処理(荒エッチング)を行い、マグネシウム部品の油分が浸透した部分を溶解除去し、その後に相対的に低濃度の酸でエッチング処理を行っている。特許文献3に開示されているように、マグネシウム部品の脱脂処理には、一般に、界面活性剤や脱泡剤を含む水溶液が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−50630号公報
【特許文献2】特開2012−246542号公報
【特許文献3】特開2003−293174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、マグネシウム部品の表面粗化を行うためには、表面に付着あるいは内部に浸透した油分等の汚染物質を除去するための前処理が必要であり、工程が煩雑となる。脱脂処理を行わずに、低濃度の酸でマグネシウム合金の表面処理を行った場合、エッチング深さが3〜5μm程度の場合は、表面に微細な凹凸形状が形成される。しかしながら、マグネシウム部品は、表面から5〜10μm程度の深さまで油分等が浸透しているため、エッチング深さが5μm以下の場合は、汚染物質の除去が不十分であり、エッチング後の表面に油分等の汚染物質が残っている。そのため、エッチング深さが5μm以下の場合は、マグネシウム部品と樹脂との複合体を形成した際の接合強度を高めることが困難である。
【0007】
酸によるエッチング深さを大きくすれば、マグネシウム部品に浸透した油分等の汚染物質を十分に除去できる。しかし、酸によるエッチング深さが大きくなると、マグネシウム部品表面の凹凸形状が粗大化するとともに凹凸形状の面内均一性が低下し、樹脂との接合強度が不十分となる。すなわち、酸によるマグネシウム部品の表面粗化では、エッチング深さが小さい場合は油分等の汚染物質が残存しているために樹脂との接合性が低く、エッチング深さが大きい場合は接合に適した粗化形状が形成されないために樹脂との接合性が低いとの問題がある。
【0008】
これらに鑑み、本発明は、マグネシウム部品に浸透した油分等を除去可能なエッチング深さでエッチングを行った場合でも、マグネシウム部品の表面に、被着材である樹脂との接合性の高い粗化形状を形成可能なエッチング剤、および当該エッチング剤用補給液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエッチング剤は、マグネシウム部品用のエッチング剤であり、酸および特定の有機窒素化合物を含有する水溶液である。なお、マグネシウム部品は、マグネシウムからなるものでもよく、マグネシウム合金からなるものでもよい。以下において、単に「マグネシウム」と記載する場合は、マグネシウムおよびマグネシウム合金を含む。
【0010】
本発明のエッチング剤に含まれる有機窒素化合物は、分子構造にN−OHまたはN−Oを含む。有機窒素化合物としては、ヒドロキシルアミン類、オキシム類、アミンオキシド類等が好ましく用いられる。酸としては、硝酸以外の無機酸または有機酸が用いられる。中でも、ハロゲン化水素酸または硫酸が好ましく用いられる。本発明のエッチング剤は、酸の濃度が0.05〜3重量%であり、有機窒素化合物の濃度が0.005〜5重量%である。
【0011】
さらに、本発明は、上記エッチング剤を連続または繰り返し使用する際に、エッチング剤に添加する補給液に関する。補給液は、上記有機窒素化合物を含有する水溶液である。
【0012】
また、本発明は、マグネシウム部品の表面に上記エッチング剤を接触させて、マグネシウム部品の表面を粗化する表面粗化方法に関する。マグネシウム部品の深さ方向の合計エッチング量は、6μm以上が好ましい。
【0013】
粗化処理後のマグネシウム部品の表面に、樹脂組成物を付着させることにより、マグネシウム−樹脂複合体が得られる。マグネシウム部品の表面に樹脂組成物を付着させる方法としては、射出成形やトランスファーモールド成形等が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエッチング剤を用いてマグネシウム部材を処理すると、マグネシウム部品の表面に付着した油分や、マグネシウム部品に浸透した油分等の汚染物質を除去しながら、エッチングを行うことができる。そのため、エッチング深さが大きい場合でも、マグネシウム部品の表面に、細かい粗化形状が均一に形成され、樹脂との接合性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】接合強度の測定に用いたマグネシウム−樹脂複合体を示す斜視図である。
図2】実施例1のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図3】実施例2のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図4】実施例3のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図5】実施例4のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図6】実施例5のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図7】実施例6のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図8】実施例7のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図9】比較例1のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図10】比較例2のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図11】比較例3のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図12】比較例4のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図13】比較例5のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図14】比較例6のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図15】比較例7のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図16】比較例8のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図17】比較例9のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
図18】比較例10のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[エッチング剤]
本発明のエッチング剤は、マグネシウム部品の表面処理に好適に用いられる、マグネシウム部品用エッチング剤である。本発明のエッチング剤は、特定の有機窒素化合物を含有する酸性水溶液である。以下、本発明のエッチング剤に含まれる各成分について説明する。
【0017】
<酸>
本発明のエッチング剤は、酸性溶液であり、酸成分を含む。酸成分は、マグネシウムを溶解させるとともに、表面に粗化形状を形成する役割を果たす。酸は、無機酸でも有機酸でもよい。無機酸としては、フッ化水素酸、塩化水素酸(塩酸)、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等のハロゲン化水素酸;硫酸;リン酸;過塩素酸、スルファミン酸等が好ましく用いられる。なお、硝酸は、後述の有機窒素化合物による粗化形状形成作用を阻害するため、本発明のエッチング剤に用いられる酸としては適していない。有機酸としては、スルホン酸、カルボン酸等が挙げられる。これらの酸は単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
上記の酸成分の中でも、エッチング剤中の酸濃度を高めてエッチング速度を適切に保つ観点から、無機酸が好ましい。特に、マグネシウム部品の表面に細かい粗化形状を均一に形成する観点、およびコスト低減の観点から、ハロゲン化水素酸および硫酸が好ましい。ハロゲン化水素酸の中では、塩酸および臭化水素酸が好ましく、中でも塩酸が好ましい。有機酸の中では、粗化形状の均一性の観点から、カルボン酸が好ましい。
【0019】
エッチング剤中の酸濃度は、0.05〜3重量%である。酸濃度が低すぎる場合および酸濃度が高すぎる場合は、いずれも表面に細かい粗化形状が形成され難くなる。酸濃度が0.05重量%以上であれば、マグネシウム部品の表面に細かい粗化形状を均一に形成できるとともに、エッチング剤の交換頻度あるいは補給液の補給頻度を低減できるため、生産性に優れる。酸濃度が3重量%以下であれば、マグネシウム部品の表面に細かい粗化形状を均一に形成できるとともに、エッチング量の制御が容易となる。エッチング剤中の酸濃度は、0.08〜2重量%が好ましく、0.1〜1.5重量%がより好ましく、0.2〜1重量%がさらに好ましい。
【0020】
<有機窒素化合物>
本発明のエッチング剤は、上記の酸成分を含む酸性溶液中に、添加剤として、分子構造にN−OHまたはN−Oを含む有機窒素化合物を含有する。これらの有機窒素化合物と酸を併用することにより、マグネシウム部品の表面に付着した油分や、マグネシウム部品に浸透した油分等の汚染物質を除去しながら、エッチングを行うことができる。そのため、エッチング深さが大きい場合でも、マグネシウム部品の表面に、細かい粗化形状が均一に形成され、樹脂との接合性が高められる。
【0021】
有機窒素化合物の具体例としては、ヒドロキシルアミン類(下記化学式(1))、オキシム類(下記化学式(2))、アミンオキシド類(下記化学式(3)および(3’))、ヒドロキシム酸類(下記化学式(4))、アゾキシ類(下記化学式(5))等が挙げられる。これらの有機窒素化合物は単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
【化1】
【0023】
上記各化学式において、RおよびR’は、水素原子、または窒素原子に炭素原子もしくは酸素原子が結合している任意の置換基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよい。式(1)〜(5)において、複数のRは環構造を形成していてもよい。式(3’)において、RとR’は環構造を形成していてもよい。RおよびR’の構造は、有機窒素化合物が水溶性である限り特に限定されない。Rがアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、またはポリオキシアルキレン基である場合、炭素数は20以下が好ましく、18以下がより好ましく、14以下がさらに好ましい。
【0024】
分子構造にN−OHまたはN−Oを含む有機窒素化合物の中でも、マグネシウム部品の表面に細かい粗化形状を均一に形成する観点、およびエッチング剤の保存性や連続使用性の観点から、ヒドロキシルアミン類、オキシム類、およびアミンオキシド類が好ましく、アミンオキシド類が特に好ましい。
【0025】
水溶性のヒドロキシルアミン類としては、ヒドロキシルアミン;メチルヒドロキシルアミン、エチルヒドロキシルアミン、n‐プロピルヒドロキシルアミン、イソプロピルヒドロキシルアミン、n‐ブチルヒドロキシルアミン、tert-ブチルヒドロキシルアミン、シクロヘキシルヒドロキシルアミン等のN‐(C1−6アルキル)‐N‐ヒドロキシルアミン(上記化学式(1)において、一方のRがHであり、他方のRがC1−6アルキルである化合物);N,N‐ジメチルヒドロキシルアミン、N,N‐ジエチルヒドロキシルアミン等のN,N‐ビス(C1−6アルキル)‐N‐ヒドロキシルアミン(上記化学式(1)において、両方のRがC1−6アルキルである化合物);(2‐ヒドロキシエチル)ヒドロキシルアミン、(1,3‐ジヒドロキシ‐n‐プロピル)‐1‐ヒドロキシルアミン等のN‐(ヒドロキシC1−6アルキル)‐N‐ヒドロキシルアミン(上記化学式(1)において、一方のRがHであり、他方のRがC1−6ヒドロキシルアルキルである化合物);ビス(1,2-ジヒドロキシエチル)‐N‐ヒドロキシルアミン等のN,N‐ビス(ヒドロキシC1−6アルキル)‐N‐ヒドロキシルアミン(上記化学式(1)において、両方のRがC1−6ヒドロキシルアルキルである化合物);エチルヒドロキシメチルヒドロキシルアミン、エチル-2-ヒドロキシエチルヒドロキシルアミン、エチル-1,2-ジヒドロキシエチルヒドロキシルアミン等のN‐C1−6アルキル‐N‐(ヒドロキシC1−6アルキル)‐N‐ヒドロキシルアミン(上記化学式(1)において、一方のRがC1−6アルキルであり、他方のRがヒドロキシルC1−6アルキルである化合物)N‐ヒドロキシカルバミン酸およびそのエステル;N‐メチル‐N‐[1‐メチル‐2‐(メチルアミノ)エチル]ヒドロキシルアミン等のN‐アルキル‐N‐アミノアルキル‐N‐ヒドロキシルアミン;ヒドロキシルアミン‐N‐スルホン酸等が挙げられる。
【0026】
水溶性のオキシム類としては、ホルムオキシム、アセトキシム、ピリジン‐2‐アルドキシム、ピリジン‐4‐アルドキシム、イソニトロソアセトフェノン、α‐ベンズアルドキシム、サリチルアルドキシム等のアルドキシム;ジメチルグリオキシム、2‐ブタノンオキシム、イソブチルメチルケトキシム、2,3‐ブタンジオンモノオキシム、1,3−ジヒドロキシアセトンオキシム、ピナコリンオキシム、3‐ヒドロキシ‐3‐メチル‐2‐ブタノンオキシム、ビオルル酸、ジアミノグリオキシム、2−イソニトロソプロピオフェノン、ジ−2−ピリジルケトキシム、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロヘプタノンオキシム、アセトフェノンオキシム、α‐ベンゾインオキシム、β‐イサトキシム、ジアセチルモノオキシム、フタロキシム等のケトキシム;グリオキシムグリオキサルジオキシム、2,3‐ブタンジオンジオキシム、2,4‐ペンタンジオンジオキシム、1,4‐ベンゾキノンジオキシム、1,2‐シクロヘキサンジオンジオキシム、1,4‐シクロヘキサンジオンジオキシム、オキサミドジオキシム、ジクロログリオキシム、ジメドンジオキシム、ニオキシム等のジオキシム;ベンズアミドオキシム;N,N”‐ジヒドロキシエタンジイミドアミド等が挙げられる。
【0027】
水溶性のアミンオキシド類としては、トリメチルアミンオキシド、エチルジメチルアミンオキシド、トリエチルアミンオキシド、ヘキシルジメチルアミンオキシド等の脂肪族アルキルアミンオキシド;デシルジメチルアミンオキシド、ラウリルジメチルアミンオキシド、ヤシアルキルジメチルアミンオキシド;テトラデシルジメチルアミンオキシド;オレイルジメチルアミンオキシド等の脂肪族C10−18アルキルジメチルアミンオキシドや、デシルビス(2‐ヒドロキシエチル)アミンオキシド、ドデシルビス(2‐ヒドロキシエチル)アミンオキシド等の脂肪族C8−16アルコキシエチルジヒドロキシエチルアミンオキシド等の界面活性剤として一般に用いられるアミンオキシド;ピリジンN‐オキシド、N‐メチルモルホリンN‐オキシド等の含窒素複素環オキシド;ベンジルエチルメチルアミンオキシド等の脂肪族芳香族アミンオキシド等が挙げられる。
【0028】
エッチング剤中の上記有機窒素化合物の濃度は、0.005〜5重量%である。有機窒素化合物の濃度が低すぎる場合は、粗化形状が不均一となる傾向がある。一方、有機窒素化合物の濃度が高すぎる場合は、細かい粗化形状が形成され難くなる傾向がある。上記有機窒素化合物の濃度が、0.005〜5重量%であれば、マグネシウム部品の表面に付着した油分や、マグネシウム部品に浸透した油分等の汚染物質を除去しながら、マグネシウム部品に細かい粗化形状を均一に形成できる。エッチング剤中の上記有機窒素化合物の濃度は、0.01〜3重量%が好ましく、0.1〜2重量%がより好ましく、0.2〜1.5重量%がさらに好ましい。
【0029】
後述の実施例と比較例の対比に示されるように、一般的なマグネシウム部品の脱脂に用いられるアミン系界面活性剤や消泡剤と、酸を混合併用しても、本発明のエッチング剤を用いた場合のような細かい粗化形状は形成されない。本発明のエッチング剤を用いた場合に、エッチング深さが大きい場合にも細かい粗化形状が形成される理由としては、有機窒素化合物のN−OHまたはN−Oが、酸の存在下において、マグネシウム部品表面の金属、あるいはエッチング剤中に溶解した金属イオンと相互作用(例えば錯体形成)することが関連していると推定される。
【0030】
<他の成分>
本発明のエッチング剤には、上記本発明の効果を妨げない範囲で他の成分を添加してもよい。例えば、指紋等の表面汚染物による粗化のむら防止等の目的で界面活性剤を添加してもよい。なお、有機窒素化合物がアミンオキシド類である場合、細かい粗化形状を均一に形成可能であるとともに、粗化むらの防止にも寄与する。また、本発明のエッチング剤には、アミンオキシド以外の界面活性剤が含まれていてもよい。本発明のエッチング剤には、その他の成分として、錯化剤、キレート剤、安定化剤、消泡剤等が含まれていてもよい。これら他の成分を添加する場合、その濃度は5重量%以下が好ましい。
【0031】
なお、エッチング剤中に消泡剤が含まれていると、上記の有機窒素化合物による粗化形状形成作用が阻害される場合があり、特に有機窒素化合物がアミンオキシドである場合にその傾向が顕著である。そのため、本発明のエッチング剤には消泡剤が含まれていないか、あるいは消泡剤が含まれている場合でも、その濃度は上記有機窒素化合物の濃度の1/100以下が好ましい。
【0032】
本発明のエッチング剤は、上記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより調製できる。
【0033】
[補給液]
本発明の補給液は、上記のエッチング剤を連続または繰り返し使用する際に、エッチング剤に添加する補給液であり、上記の有機窒素化合物を含む水溶液である。補給液を添加することにより、エッチング剤の各成分比が適正に保たれるため、上述した本発明のエッチング剤の効果を安定して維持できる。
【0034】
エッチング剤の酸濃度の調整、あるいは当該酸濃度の変動を抑制するためには、補給液が酸性水溶液であることが好ましい。補給液中の有機窒素化合物の濃度は、エッチング剤中の有機窒素化合物の濃度に応じて適宜設定されるが、上述した本発明のエッチング剤の効果を安定して維持する観点から、0.01〜5重量%程度が好ましい。補給液には、上記の有機窒素化合物および酸以外に、エッチング剤に添加可能なその他の成分が配合されていてもよい。
【0035】
[マグネシウム部品の粗化処理]
次に、本発明のエッチング剤を用いたマグネシウム部品の粗化処理について説明する。
粗化処理に用いられるマグネシウム部品は、マグネシウム材またはマグネシウム合金材である。マグネシウム合金としては、Mgと、Al、Zn,Mn,Si,Cu,Fe、Ag,Zr,Sr,Pb,Re,Yやミッシュメタル等の希土類等との合金が挙げられる。代表的なマグネシウム合金としては、AZ91,AM60,AM50,AM20,AS41,AS21,AE42等が挙げられる。マグネシウム部品は、アメリカ材料試験協会(ASTM)で規格化されたマグネシウム合金材の他、日本工業規格(JIS)、国際標準化機構(ISO)等で規格化されたマグネシウム合金等、マグネシウムを主金属とするあらゆる合金材が含まれる。マグネシウム部品の加工方法としては、ダイキャスト法、鋳造法、射出成形法、展延加工、切削加工等が挙げられる。
【0036】
マグネシウム部品を本発明のエッチング剤と接触させることにより粗化処理が行われる。この際、マグネシウム部品の全面を粗化処理してもよく、樹脂組成物を付着させる面だけを部分的に粗化処理してもよい
【0037】
粗化処理方法としては、浸漬、スプレー等が挙げられる。処理条件は特に制限されず、所望のエッチング深さとなる条件を選択すればよい。エッチング剤中にマグネシウム部品を浸漬する場合、エッチング剤の温度を20〜60℃とし、10〜900秒間の条件でエッチングすることが好ましい。スプレー法の場合、エッチング剤の温度を20〜60℃とし、スプレー圧0.05〜0.3MPaで、20〜1500秒間の条件でエッチングすることが好ましい。粗化処理後は、通常、水洗および乾燥が行われる。
【0038】
粗化処理によって、マグネシウム部品の表面が凹凸形状に粗化される。マグネシウム部品の深さ方向の合計エッチング量(溶解量)は、6μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。エッチング量は、処理前後のマグネシウム部品の重量変化、比重および表面積から算出される。なお、本発明のエッチング剤を用いた粗化処理の前に、機械研磨、脱脂処理、荒エッチング等の前処理が行われる場合、合計エッチング量は、これらの前処理によるエッチング量と上記の粗化処理によるエッチング量との合計である。前処理を行わずに、マグネシウム部材がそのまま上記の粗化処理に供される場合、合計エッチング量は、粗化処理におけるエッチング量に等しい。
【0039】
エッチング深さを大きくすることにより、マグネシウム部品の成形時に付着・浸漬した機械油や離型剤等の汚染物質が除去されるため、処理後のマグネシウム部品の表面の樹脂との接合性が高められる。深さ方向のエッチング量の上限は特に制限されない。処理コストの低減の観点から、合計エッチング量は、一般には300μm以下であり、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。粗化処理によるエッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0040】
<前処理>
本発明のエッチング剤を用いて粗化処理を行う前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨処理が行われてもよい。また、処理対象物であるマグネシウム部品表面の表面に付着した機械油や離型剤等の汚染物質の除去等を目的として、脱脂処理等の化学処理が行われてもよい。なお、本発明のエッチング剤を用いることにより、マグネシウム部品の表面に付着した油分やマグネシウム部品に浸透した油分等を除去しながら、マグネシウム部品の表面に細かい粗化形状を均一に形成できる。そのため、粗化処理前の脱脂処理を行わずに、成型後のマグネシウム部品をそのまま粗化処理に供した場合でも、樹脂との接合性に優れる表面を形成できる。
【0041】
このように、本発明のエッチング剤を用いた場合、粗化処理前の脱脂処理や酸による荒エッチング等の処理を省略して、単一のエッチング剤による処理のみで粗化処理を行うことができる。そのため、溶液の管理を簡素化できるとともに、工程数を削減できるため、粗化処理の処理効率が高められる。ただし、本発明の表面粗化方法は、前処理を排除するものではない。なお、前処理を行わずにマグネシウム部材の粗化処理を行う場合、粗化処理によるマグネシウム部品の深さ方向のエッチング量は、6μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
【0042】
<後処理>
エッチング剤を用いてマグネシウム部品を粗化処理した後に、酸性水溶液やアルカリ性水溶液を用いて、粗化面を洗浄してもよい。また、粗化処理後のマグネシウム部品の表面に、化成処理や陽極酸化処理を行い、酸化物や炭酸化物等の被膜を形成してもよい。
【0043】
<粗化処理後のマグネシウム部品の使用例>
本発明のエッチング剤により粗化処理されたマグネシウム部品は、後述するマグネシウム−樹脂複合体の材料として使用できる他、各種溶媒に対する濡れ性が付与されたマグネシウム部材としても使用できる。また、粗化処理されたマグネシウム部品は、樹脂だけでなく、ガラス、金属めっき膜、無機半導体、有機半導体、セラミック等の被着材に対する接合性向上効果も期待できる。また、本発明のエッチング剤による処理は、粗化処理だけでなく、マグネシウム部材の脱脂処理等にも適用できる。
【0044】
[マグネシウム−樹脂複合体]
上記の方法により粗化処理後のマグネシウム部品の表面上に樹脂組成物を付着させることにより、マグネシウム−樹脂複合体が得られる。本発明においては、特定のエッチング剤で処理することにより、マグネシウム−樹脂組成物間の接合性向上に適した凹凸がマグネシウム部品の表面に形成されるため、接着剤を使用せずにマグネシウム−樹脂組成物間の接合性確保が可能となる。粗化処理した部品の表面上に樹脂組成物を付着させる方法は、特に限定されず、射出成形、押し出し成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成形方法が採用できる。また、マグネシウム表面に樹脂組成物皮膜をコーティングしたマグネシウム−樹脂組成物皮膜からなる複合体を製造する場合は、溶剤に樹脂組成物を溶解または分散させて塗布するコーティング法や、その他の各種塗装方法が採用できる。その他の塗装方法としては、焼き付け塗装、電着塗装、静電塗装、粉体塗装、紫外線硬化塗装等が例示できる。中でも、樹脂組成物部分の形状の自由度や、生産性等の観点から、射出成形、トランスファーモールド成形が好ましい。上記列挙した成形方法における成形条件は、樹脂組成物に応じて適宜の条件を採用できる。
【0045】
<樹脂組成物>
マグネシウム−樹脂複合体に使用できる樹脂組成物は、上記列挙した成形方法でマグネシウム部品表面に付着可能である限り特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物の中から、用途に応じて選択できる。
【0046】
熱可塑性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6やポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・アクリル酸共重合樹脂、エチレン・メタクリル酸共重合樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等が挙げられる。これらの中でも、成形加工が容易であることから、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましい。マグネシウム−樹脂組成物間の接合性を向上させる観点から、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂がより好ましい。特に、複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させる観点から、ポリアミド樹脂が好ましく、中でもポリアミド6が特に好ましい。
【0047】
樹脂組成物として熱硬化性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、シリコーン樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等が挙げられる。これらの中でも、成形加工が容易であることから、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、マグネシウム−樹脂組成物間の接合性を向上させる観点、および複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させる観点から、フェノール樹脂が特に好ましい。
【0048】
樹脂組成物は、上記列挙した熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂からなる組成物であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、各種無機・有機フィラー、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を含む組成物であってもよい。中でも、マグネシウムと樹脂組成物との線膨張率の差によって生じるマグネシウム−樹脂組成物間の界面剥離を防止するために、樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10〜200質量部含有することが好ましい。また、複合体の放熱性を向上させるためには、樹脂組成物が熱伝導性フィラーを含有することが好ましい。熱伝導性フィラーとしては、絶縁性が求められる場合は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸化窒化アルミニウム等の金属酸窒化物、炭化珪素等の金属炭化物等を含有する熱伝導性フィラーを使用できる。導電性が求められる用途では、アルミニウムや銅等の金属、あるいは黒鉛等の炭素材料等を含有する熱伝導性フィラーを使用できる。熱伝導性フィラーの含有は、成形性と放熱性を両立させる観点から、樹脂100体積部に対して、熱伝導性フィラーが10〜1000体積部が好ましく、10〜500体積部がより好ましく、10〜200体積部が更に好ましい。
【0049】
マグネシウム−樹脂複合体に使用できる樹脂組成物としては、上記列挙した樹脂組成物以外にも、アクリル樹脂、スチレン樹脂等を含む光硬化性樹脂組成物や、ゴム、エラストマー等を含む反応硬化性樹脂組成物等、各種の樹脂組成物が挙げられる。
【0050】
<マグネシウム―樹脂複合体の用途>
本発明により得られるマグネシウム―樹脂複合体は、電子機器用部品、家電機器用部品、あるいは輸送機械用部品等の各種機械用部品等の製造に用いられ、さらに詳しくは、モバイル用途等の各種電子機器用部品、家電製品用部品、医療機器用部品、車両用構造部品、車両搭載用部品、その他の電気部品や放熱用部品等の製造に好適である。放熱用部品の製造に適用した場合、マグネシウム部品の表面を粗化することによって表面積が増加するため、マグネシウム−樹脂組成物間の接触面積が増加し、接触界面の熱抵抗を低減できる。よって、本発明により得られるマグネシウム―樹脂複合体を放熱用部品に用いた場合、接合性や気密・水密性を向上させる効果以外に、放熱性を向上させる効果も得られる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0052】
<エッチングによる粗化処理>
幅40mm、長さ40mm、厚み2.0mmのAZ−91Dマグネシウム合金ダイキャストを、脱脂処理を行わずにそのまま試験基板として使用した。各実施例および比較例では、試験基板を、表1に示す組成のエッチング剤中に浸漬処理してエッチングを行った。エッチング条件(温度、時間、エッチング量)は、表1に示す通りであった。エッチングによる粗化処理後の試験基板は、水洗、超音波水洗を行った後、乾燥した。
【0053】
なお、表1に示すエッチング剤の各成分の濃度は、純物質としての濃度であり、表1に示す各エッチング剤の配合成分の残部はイオン交換水である。深さ方のエッチング量は、60秒間のエッチング処理の前後の重量変化から求めたエッチング速度(μm/分)に基づいて、エッチング時間から算出した値である。各実施例および比較例のエッチング後の試験基板のSEM観察写真(加速電圧20kV、試料傾斜角45°、倍率1500倍)を、図2〜18に示す。
【0054】
<樹脂複合体の形成および引張せん断強度測定試験>
上記処理後の試験基板1の表面に、幅10mm、長さ30mm、厚み5.0mmのナイロン6(東レ製 アミランCM1011)樹脂板2を重ね合せ(重ねしろ:10mm)、ポリイミド耐熱テープで仮固定した後、250℃のホットプレート上で2分間加熱してナイロン樹脂を硬化させ、図1に示すマグネシウム−樹脂複合体10を作製した。この複合体のマグネシウム合金部および樹脂部をクランプし、オートグラフ(島津製作所製 オートグラフAGS−X10kN)により接合部の引張せん断強度を測定した。引張せん断強度の測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、本発明の実施例では、いずれも複合体の引張せん断強度が20MPaを超えていたのに対して、比較例の複合体の引張せん断強度は、いずれも18MPa未満であった。図2〜8(実施例1〜7)と図9〜18(比較例1〜10)とを対比すると、前者では粗化処理後のマグネシウム部材の表面全体に、複雑な形状の細かい凹凸が形成されているのに対して、後者では凹凸形状が粗大であったり、面内の凹凸形状が不均一であることが分かる。これらの結果から、本発明のエッチング液を用いることにより、マグネシウム部材の表面に微細な凹凸形状が均一に形成され、樹脂との接合性が高められると考えられる。
【0057】
硝酸が用いられた比較例3(図11)では、表面形状の凹凸が浅く、かつ面内の凹凸の形成が不均一であるため、接合強度が小さいと考えられる。相対的に高濃度の塩酸あるは硫酸が用いられた比較例1,2(図9,10)では、比較例3に比べると凹凸が深く、面内均一性も高いが、実施例(図2〜8)に比べると、凹凸が粗大で均一性も低いことがわかる。また、相対的に低濃度の酸が用いられた比較例4〜6(図12〜14)では、凹凸が粗大化し、凹凸形状の面内均一性も低下している。
【0058】
比較例7のエッチング剤は有機窒素化合物としてヒドロキシルアミンを含有しているが、酸濃度が高く、細かい凹凸形状が形成されないため(図15)、樹脂との引張せん断強度が小さいと考えられる。一方、比較例8のエッチング剤は酸濃度が低く、細かい凹凸形状が形成されないため(図16)、樹脂との引張せん断強度が小さいと考えられる。マグネシウム用の脱脂剤として用いられるアミン系界面活性剤と脱泡剤の組み合わせと酸とを併用した比較例9では、マグネシウム部材の表面に凹部が形成されたのみで、実施例のような凹凸形状は形成されていなかった。
【0059】
エッチング液中のアミンオキシドの濃度が0.001重量%である比較例10では、図18に示すように、各実施例と同様の細かい特徴的な凹凸形状がマグネシウム部材の表面の一部に形成されたが、面内の凹凸形状が不均一であるため、実施例に比べて引張剪断強度が小さいと考えられる。
【0060】
これらの結果に対して、実施例のエッチング剤を用いた場合、マグネシウム部材の表面の粗化形状は、凸部の表面にさらに微細な凹凸形状や突出部が形成されたものとなっており、このような特徴的な粗化形状が面内に均一に形成されることにより、樹脂との接合性が高められていると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18