特許第6417621号(P6417621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6417621
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】インク用組成物及び透明電極
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/52 20140101AFI20181029BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20181029BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   C09D11/52
   H01B1/20 Z
   H01B5/14 A
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-12459(P2015-12459)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2015-166447(P2015-166447A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-24541(P2014-24541)
(32)【優先日】2014年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大堀 達也
(72)【発明者】
【氏名】久留島 康功
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 隆裕
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/058119(WO,A1)
【文献】 特開2008−300063(JP,A)
【文献】 特表2002−500408(JP,A)
【文献】 特開2003−213148(JP,A)
【文献】 特開2012−172024(JP,A)
【文献】 特開2009−235127(JP,A)
【文献】 特表2011−505059(JP,A)
【文献】 特開2012−069316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/52
H01B 1/20
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性高分子、(B)バインダー、及び(C)導電性向上剤を含有する組成物であって、
25℃における粘度が5〜500dPa・sであり、固形分率が10〜80重量%であり、ウェット膜厚15μmで塗工した際の表面抵抗率が2000Ω/□以下、かつ、全光線透過率が70%以上であることを特徴とするインク用組成物。
【請求項2】
固形分率は20〜70重量%である、請求項1記載のインク用組成物。
【請求項3】
表面張力は50mN/m以下である、請求項1又は2記載のインク用組成物。
【請求項4】
(A)導電性高分子はポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項5】
(B)バインダーは反応性官能基を有し、水又はアルコールに溶解又は分散可能である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項6】
ポリアクリル酸系樹脂、セルロースエーテル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、カルボキシビニルポリマー及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの増粘剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項7】
シロキサン系化合物、フッ素系化合物及びアクリル系化合物からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤及び/又はレベリング剤をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項8】
2個の水酸基で置換されたラクトン環を有する化合物又はフェノール性水酸基を2個以上有する化合物である水溶性酸化防止剤をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項9】
(A)導電性高分子は、モノマー濃度が0.5〜2.5重量%の条件下で重合する工程、又は、濃縮工程を経て得られた分散体である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項10】
オフセット印刷に用いられる請求項1〜9のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項11】
グラビアオフセット印刷又はパッド印刷に用いられる請求項1〜9のいずれか1項に記載のインク用組成物。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のインク用組成物を用いて得られたことを特徴とする透明電極。
【請求項13】
静電容量タッチセンサーである、請求項12に記載の透明電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク用組成物及び透明電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器のタッチパネルや静電容量スイッチに必須の構成要素である透明電極として用いられる透明導電積層体の需要が高まっている。透明導電積層体は、透明基材上に導電性高分子を含有するインク用組成物を用いて透明導電膜が積層された構造を有する。上記透明導電膜の製造方法としては、オフセット印刷、スクリーン印刷などが知られている。これらの印刷方法は複雑な工程を必要としないため、低コストでかつ簡便にパターニングすることができ、生産性に極めて優れた方法である。
【0003】
中でも、オフセット印刷は、立体形状へも印刷が可能な方法として注目を浴びている。特に、グラビアオフセット印刷は、細線パターンが描画でき、細線パターンが必要とされる静電容量タッチパネル・タッチセンサーの透明電極配線形成に適しているが、一方で、工程上、塗布膜厚が制限されており厚塗りすることができないという欠点を有している。そのため、通常の固形分率の低いインク用組成物を用いた場合、透明導電膜の乾燥膜厚が薄くなり、表面抵抗率が高くなってしまうという問題があった。また、通常のインク用組成物は水性のため、ブランケットに対する濡れ性が低いという問題もあった。
また、パッド印刷は、複雑な立体形状へも印刷が出来る利点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、グラビアオフセット印刷やパッド印刷に用いた場合であっても膜厚が厚く表面抵抗率の低い透明導電膜を得ることができ、また、印刷性に優れたインク用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、グラビアオフセット印刷やパッド印刷に用いるインク用組成物の固形分率を高くすることにより、透明導電膜の乾燥膜厚を厚くすることができ表面抵抗率の上昇を抑えられるとともに、印刷性が向上することを見出した。そして、特定の工程を経て得られた導電性高分子と、高固形分率のバインダーとを用いることにより、インク用組成物の固形分率を最大80重量%まで上昇させることができることを見出し、本発明を完成した。なお、通常のインク用組成物の固形分率は、およそ1〜5重量%である。
【0006】
すなわち、本発明のインク用組成物は、
(A)導電性高分子、(B)バインダー、及び(C)導電性向上剤を含有する組成物であって、
25℃における粘度が5〜500dPa・sであり、固形分率が10〜80重量%であり、ウェット膜厚15μmで塗工した際の表面抵抗率が2000Ω/□以下、かつ、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明のインク用組成物において、固形分率は20〜70重量%であることが好ましい。
【0008】
本発明のインク用組成物において、表面張力は50mN/m以下であることが好ましい。
【0009】
本発明のインク用組成物において、(A)導電性高分子はポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体であることが好ましい。
【0010】
本発明のインク用組成物において、(B)バインダーは反応性官能基を有し、水又はアルコールに溶解又は分散可能であることが好ましい。
【0011】
本発明のインク用組成物は、ポリアクリル酸系樹脂、セルロースエーテル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、カルボキシビニルポリマー及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの増粘剤をさらに含むことが好ましい。
【0012】
本発明のインク用組成物は、シロキサン系化合物、フッ素系化合物及びアクリル系化合物からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤及び/又はレベリング剤をさらに含むことが好ましい。
【0013】
本発明のインク用組成物は、2個の水酸基で置換されたラクトン環を有する化合物又はフェノール性水酸基を2個以上有する化合物である水溶性酸化防止剤をさらに含むことが好ましい。
【0014】
本発明のインク用組成物において、(A)導電性高分子は、モノマー濃度が0.5〜2.5重量%の条件下で重合する工程、又は、濃縮工程を経て得られた分散体であることが好ましい。
【0015】
本発明のインク用組成物は、オフセット印刷に用いられることが好ましく、グラビアオフセット印刷又はパッド印刷に用いられることがより好ましい。
【0016】
本発明の透明電極は、本発明のインク用組成物を用いて得られたことを特徴とする。
【0017】
本発明の透明電極は、静電容量タッチセンサーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のインク用組成物は、高い固形分率を有するため、グラビアオフセット印刷やパッド印刷のように塗布膜厚が制限される方法で印刷された場合であっても、透明導電膜の乾燥膜厚を厚くすることができ表面抵抗率の上昇を抑えることができる。また、転写の際の被膜形成や増粘が容易であるため、印刷性に優れる。
本発明の透明電極は、本発明のインク用組成物を用いて得られたものであるため、導電性及び透明性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<<インク用組成物>>
まず、本発明のインク用組成物について説明する。
本発明のインク用組成物は、(A)導電性高分子、(B)バインダー、及び(C)導電性向上剤を含有する組成物であって、
25℃における粘度が5〜500dPa・sであり、固形分率が10〜80重量%であり、ウェット膜厚15μmで塗工した際の表面抵抗率が2000Ω/□以下、かつ、全光線透過率が70%以上であることを特徴とするインク用組成物である。
【0020】
<(A)導電性高分子>
(A)導電性高分子は、透明導電膜に導電性を付与するための配合物である。(A)導電性高分子としては特に限定されず、従来公知の導電性高分子を用いることができ、具体例としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。中でも、チオフェン環を分子内に含むことで導電性が高い分子ができやすい点で、分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子が好ましい。(A)導電性高分子は、ポリ陰イオン等のドーパントと複合体を形成していてもよい。
【0021】
分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子の中でも、導電性や化学的安定性に極めて優れている点で、ポリ(3,4−二置換チオフェン)がより好ましい。また、インク用組成物が、ポリ(3,4−二置換チオフェン)、又は、ポリ(3,4−二置換チオフェン)とポリ陰イオン(ドーパント)との複合体を含有する場合、低温かつ短時間で透明導電膜を形成することができ、生産性にも優れることとなる。なお、ポリ陰イオンは導電性高分子のドーパントであり、その内容については後述する。
【0022】
ポリ(3,4−二置換チオフェン)としては、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)としては、以下の式(I):
【0023】
【化1】
【0024】
で示される反復構造単位からなる陽イオン形態のポリチオフェンが好ましい。
ここで、R及びRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、又は、R及びRが結合している場合にはC1−4のアルキレン基を表す。C1−4のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
また、R及びRが結合している場合、C1−4のアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基等が挙げられる。これらの中では、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基が好ましく、1,2−エチレン基がより好ましい。C1−4のアルキル基、及び、C1−4のアルキレン基は、その水素の一部が置換されていても良い。C1−4のアルキレン基を有するポリチオフェンとしては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
【0025】
(A)導電性高分子の重量平均分子量は、500〜100000の範囲であることが好ましく、1000〜50000の範囲であることがより好ましく、1500〜20000の範囲であることが最も好ましい。500未満の重量平均分子量では、インク用組成物の粘度を確保することができないことや、透明導電膜とした場合の導電性が低下することがある。
【0026】
ドーパントは特に限定されないが、ポリ陰イオンが好ましい。ポリ陰イオンは、ポリチオフェン(誘導体)とイオン対をなすことにより複合体を形成し、ポリチオフェン(誘導体)を水中に安定に分散させることができる。ポリ陰イオンとしては、特に限定されないが、例えば、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸等)、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等)等が挙げられる。これらのカルボン酸ポリマー類及びスルホン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類及びビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物との共重合体であっても良い。これらの中では、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0027】
ポリスチレンスルホン酸は、重量平均分子量が20000〜500000が好ましく、40000〜200000がより好ましい。分子量がこの範囲外のポリスチレンスルホン酸を使用すると、ポリチオフェン系導電性高分子の水に対する分散安定性が低下する場合がある。なお、重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
【0028】
(A)導電性高分子は、透明導電膜の透明性及び導電性が特に優れることから、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体であることが好ましい。
【0029】
(A)導電性高分子の導電率は、特に限定されないが、透明電導膜に十分な導電性を付与する観点からは、0.01S/cm以上であることが好ましく、0.05S/cm以上であることがより好ましい。
【0030】
インク用組成物における(A)導電性高分子の含有量は特に限定されず、透明導電積層体とした際に、0.01〜50.0mg/mとなる量が好ましく、0.1〜10.0mg/mとなる量がより好ましい。0.01mg/m未満では、透明導電膜中の(A)導電性高分子の存在割合が少なくなり、透明導電膜の導電性を十分に確保することができない場合があり、一方、50.0mg/mを超えると、透明導電膜中の(A)導電性高分子の存在割合が多くなり、塗布膜の強度、成膜性に悪影響を与える原因となる場合があるからである。
【0031】
(A)導電性高分子の粘度は、特に限定されないが、25℃の1〜5%水分散体、好ましくは2〜5%水分散体において、5〜500dPa・sであることが好ましく、10〜500dPa・sがより好ましい。5dPa・s未満では、インク用組成物の粘度を確保することができないこと、500dPa・sを超えると、配合時に発泡が生じる、均一に混和できない等の問題が起こりやすくなる。本明細書において、粘度はB型粘度計を使用して測定した値である。
【0032】
(A)導電性高分子のチクソトロピー指数(Ti)は、特に限定されないが、25℃の1〜5%水分散体、好ましくは2〜5%水分散体において、0.1〜10であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。(A)導電性高分子が上記範囲のチクソトロピー指数を有することで、インク用組成物とした場合に後述のチクソトロピー指数を達成することができ好ましい。本明細書において、チクソトロピー指数はレオメーターを使用し、25℃において、せん断速度1(1/s)における粘度ηと、せん断速度10(1/s)における粘度η10との比(Ti値=η/η10)で定義されるものである。
【0033】
(A)導電性高分子の降伏値は、特に限定されないが、25℃の1〜5%水分散体、好ましくは2〜5%水分散体において、1〜100Paであることが好ましく、2〜100Paであることがより好ましい。(A)導電性高分子が上記範囲の降伏値を有することで、インク用組成物とした場合に後述の降伏値を達成することができ好ましい。降伏値は、レオメーターを使用し、25℃において、せん断速度を0.01(1/s)〜100(1/s)の範囲で変化させて応力を測定し、Cassonの近似式(√応力=√粘性速度×√せん断速度+√降伏値)から算出される値をいう。
【0034】
(A)導電性高分子の製造方法の一例として、式(I)で表されるポリチオフェンとドーパントとの複合体の水分散体の製造方法について説明する。下記式(II)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0035】
【化2】
【0036】
(式中、R及びRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、又は、R及びRが結合している場合にはC1−4のアルキレン基を表す。C1−4のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。また、R及びRが結合している場合、C1−4のアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基等が挙げられる。これらの中では、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基が好ましく、1,2−エチレン基がより好ましい。C1−4のアルキル基、及び、C1−4のアルキレン基は、その水素の一部が置換されていても良い。)
を、ドーパントの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で酸化重合させる工程を経て製造される。
【0037】
ポリチオフェンの製造では、単量体を、各種酸化剤を用いた化学重合法により、酸化重合する。化学重合法は、簡便で大量生産が可能なため、従来の電解重合法と比べ工業的製法に適した方法である。
【0038】
化学重合法に用いる酸化剤としては特に限定されないが、例えば、スルホン酸化合物をアニオンとし、高価数の遷移金属をカチオンとする酸化剤等が挙げられる。この酸化剤を構成する高価数の遷移金属イオンとしては、Cu2+、Fe3+、Al3+、Ce4+、W6+、Mo6+、Cr6+、Mn7+及びSn4+が挙げられる。これらのなかでは、Fe3+およびCu2+が好ましい。遷移金属をカチオンとする酸化剤の具体例としては、例えば、FeCl、Fe(ClO、KCrO、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム、四フッ化ホウ酸銅等が挙げられる。また、遷移金属をカチオンとする酸化剤以外の酸化剤としては、過硫酸アルカリ、過硫酸アンモニウム、H等が挙げられる。さらに、超原子価ヨウ素反応剤に代表される超原子価化合物が挙げられる。
【0039】
ポリ陰イオンなどのドーパントの使用量は、3,4−ジアルコキシチオフェン100重量部に対して、50〜2000重量部の範囲が好ましく、より好ましくは100〜1000重量部の範囲である。
【0040】
溶媒は水系溶媒であり、特に好ましくは水である。メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノールなどのアルコール;アセトン、アセトニトリル等の水溶性の溶媒を水に添加して用いてもよい。
【0041】
上記粘度を有する(A)導電性高分子は、広く一般に行われる導電性高分子の製造条件に比べ、反応温度を高くする、反応系のpHを低くする、撹拌速度を遅くする、溶存酸素濃度を低くする、反応濃度を高くするといった点で条件を制御することによって、製造することができる。これらの条件を制御することによって、得られる導電性高分子が高分子量化または凝集することで上述の粘度、さらにはチクソトロピー指数/降伏値を達成することができるものと考える。
【0042】
酸化重合反応の温度は、0〜40℃が好ましく、5〜35℃がより好ましい。0℃未満では、導電性高分子の重合反応が十分に進まず、導電性が不十分となる場合があり、40℃を超えると、重合反応が過剰に進み、分散安定性が悪くなる傾向がある。
【0043】
重合時のpHは、0.1〜5.0が好ましく、0.1〜3.0がより好ましい。0.1未満では、重合反応が過剰に進み、分散安定性が悪くなる場合があり、5.0を超えると、導電性高分子の重合反応が十分に進まず、導電性が不十分となる傾向がある。
【0044】
重合時の反応混合液の撹拌速度は、100〜1000rpmが好ましく、200〜500rpmがより好ましい。100rpm未満では、重合反応が過剰に進み、分散安定性が悪くなる場合があり、1000rpmを超えると、導電性高分子の重合反応が十分に進まず、導電性が不十分となる傾向がある。
【0045】
重合時の反応混合液の反応濃度は、1〜10%が好ましく、1〜6%がより好ましい。1%未満では、導電性高分子の重合反応が十分に進まず、導電性が不十分となる場合があり、10%を超えると、重合反応が過剰に進み、分散安定性が悪くなる傾向がある。
【0046】
上述の製造方法により得られた(A)導電性高分子は、高分子量化または二次凝集により、60〜10000nm、好ましくは70〜5000nmの平均粒子径を有する。
ここで、平均粒子径とは、動的光散乱法(DLS)によって測定されるものをいう。
【0047】
本発明において、上記の工程で製造された(A)導電性高分子の水分散体は、濃縮工程を経ずに配合原料として使用することができる。
【0048】
(A)導電性高分子は、モノマー濃度が0.5〜2.5重量%の条件下で重合する工程、又は、濃縮工程を経て得られた分散体であることが、インク用組成物を高固形分率にできるため好ましい。
モノマー濃度が0.5〜2.5重量%の条件下で重合する工程では、例えば上述の式(I)で表されるポリチオフェンとドーパントとの複合体の水分散体の製造方法において、式(II)で表される3,4−ジアルコキシチオフェンの濃度を広く一般に行われる導電性高分子の製造条件での反応濃度より高い濃度(0.5〜2.5重量%)に保ちながら重合を行う。
濃縮工程では、例えば、一般に用いられる製造条件で得られた導電性高分子の水分散体を減圧条件下、20〜50℃で加熱することにより、水を蒸発させて濃縮する。濃縮工程には、ヘレウス株式会社製Clevios(登録商標)等の市販の分散体を用いることも出来る。
また、別の濃縮工程として、特許第4095894号に記載されるような凍結乾燥を行ってもよく、これにより得られた固体も、本発明のインク用組成物に使用することが出来る。
【0049】
<(B)バインダー>
(B)バインダーは、本発明のインク用組成物中の配合物同士を結合させ、より確実に透明導電膜(導電性パターンを含む)を形成させる目的で添加される。(B)バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルコキシシランオリゴマー、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0050】
ポリエステル系樹脂としては、2つ以上のカルボキシル基を分子内に有する化合物と2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物とを重縮合して得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0051】
ポリアクリル酸系樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル,ポリアクリル酸エチル等のポリアクリレート、ポリ−α−ハロアクリレート、ポリ−α−シアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0052】
ポリウレタンとしては、イソシアネート基を有する化合物とヒドロキシル基を有する化合物を共重合させて得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、エステル・エーテル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン、アクリル系ポリウレタン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0053】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、ベンゼン環を多数有した多官能型であるテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、ビフェニル型、トリフェノールメタン型、ナフタレン型、オルソノボラック型、ジシクロペンタジエン型、アミノフェノール型、脂環式等のエポキシ樹脂、シリコーンエポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0054】
アクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂等が挙げられる。これらのアクリル樹脂としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、燐酸基などの酸基を有する重合性単量体を構成モノマーとして含む重合体であればよく、例えば、上記酸基を有する重合性単量体の単独又は共重合体、上記酸基を有する重合性単量体と共重合性単量体との共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0055】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体を主たる構成モノマー(例えば、50モル%以上)として含んでいれば共重合性単量体と重合していてもよく、この場合、(メタ)アクリル系単量体及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、上記酸基を有する(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド等]又はその共重合体、上記酸基を有していてもよい(メタ)アクリル系単量体と、酸基を有する他の重合性単量体[他の重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニル芳香族スルホン酸等]及び/又は上記共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル単量体等]との共重合体、上記酸基を有する他の重合体単量体と(メタ)アクリル系共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等]との共重合体、ロジン変性ウレタンアクリレート、特殊変性アクリル樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートエマルジョン等が挙げられる。
【0056】
これらの(メタ)アクリル系樹脂の中では、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体等)、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等)等が好ましい。
【0057】
アルコキシシランオリゴマーは、下記式(III)で表されるアルコキシシランのモノマー同士が縮合することで形成される高分子量化されたアルコキシシランであり、シロキサン結合(Si−O−Si)を1分子内に1個以上有するオリゴマーのことをいう。その構造は特に限定されず、直鎖状であっても良く、分岐状でも良い。重量平均分子量は特に限定されないが、152より大きく、4000以下であることが好ましい。より好ましくは、500〜2500であり、さらに好ましくは、500〜1500である。尚、オリゴマーの重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
【0058】
SiR (III)
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いフェニル基である。但し、Rの少なくとも1個は、炭素数1〜4のアルコキシ基又は水酸基である。)
【0059】
アルコキシシランオリゴマーは、式(III)により表される化合物を単独で用いて形成しても良いし、2種以上を併用して形成しても良い。
【0060】
ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、塩素化ポリプロピレン、非塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、非塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0061】
(B)バインダーは、速乾性や基材との密着性に優れることから、反応性官能基を有し、水又はアルコールに溶解又は分散可能であることが好ましい。
【0062】
(B)バインダーの含有量は、特に限定されないが、(A)導電性高分子の固形分100重量部に対して0.1〜1000重量部が好ましく、5〜500重量部がより好ましい。0.1重量部未満であると、透明導電積層体としたときの強度が弱くなることがあり、1000重量部を超えると、インク用組成物中の(A)導電性高分子の含有量が相対的に少なくなり、透明導電膜とした際に十分な導電性を確保することができないことがある。
【0063】
<(C)導電性向上剤>
(C)導電性向上剤は、本発明のインク用組成物を用いて形成した透明導電膜の導電性を向上させる目的で添加される。(C)導電性向上剤は、透明導電膜を形成する際に加熱により蒸散するが、その際に(A)導電性高分子の配向を制御することで透明導電膜の導電性を向上させるものと推定される。また、(C)導電性向上剤を使用する場合、(C)導電性向上剤を使用しない場合と比較して、表面抵抗率を維持しつつ(A)導電性高分子の配合量を少なく出来る結果、透明性を改善できる利点がある。
【0064】
(C)導電性向上剤は、透明導電膜の用途に必要な導電性を確実に確保するとの観点から、以下(i)〜(vii)からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
(i)沸点が60℃以上で分子内に少なくとも1つのケトン基を有する化合物
(ii)沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのエーテル基を有する化合物
(iii)沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのスルフィニル基を有する化合

(iv)沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのアミド基を有する化合物
(v)沸点が50℃以上で分子内に少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物
(vi)沸点が100℃以上で分子内に2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物
(vii)沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのラクタム基を有する化合物
【0065】
沸点が60℃以上で分子内に少なくとも1つのケトン基を有する化合物(i)としては、例えば、イソホロン、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0066】
沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのエーテル基を有する化合物(ii)としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−フェノキシエタノール、ジオキサン、モルホリン、4−アクリロイルモルホリン、N−メチルモルホリンN−オキシド、4−エチルモルホリン、2−メトキシフラン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0067】
沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのスルフィニル基を有する化合物(iii)としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0068】
沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのアミド基を有する化合物(iv)としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−エチルアセトアミド、N−フェニル−N−プロピルアセトアミド、ベンズアミド等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0069】
沸点が50℃以上で分子内に少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物(v)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、安息香酸、p−トルイル酸、p−クロロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、フタル酸、イソフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0070】
沸点が100℃以上で分子内に2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物(vi)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、β−チオジグリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、エリトリトール、グリセリン、インマトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0071】
沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのラクタム基を有する化合物(vii)としては、例えば、N−メチルピロリドン、β−ラクタム、γ−ラクタム、δ−ラクタム、ε−カプロラクタム、ラウロラクタム等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0072】
(C)導電性向上剤の沸点が特定温度以上であると、透明導電膜形成時の加熱によって(C)電性向上剤が徐々に揮発していくことになるが、その過程で、(A)導電性高分子の配向を導電性にとって有利な配向に制御することになり、その結果、導電性が向上するものと考えられる。一方、(C)導電性向上剤の沸点が特定温度に満たないものであると、急激に(C)導電性向上剤が蒸発してしまうため、上記(A)導電性高分子の配向が十分に制御されず導電性の向上につながらないものと考えられる。
【0073】
また、(C)導電性向上剤としては、特に限定されないが、δD=12〜30、δH=3〜30、δP=5〜30、且つ、δD+δH+δP=35〜70のSP値を有するものであることが好ましく、δD=15〜25、δH=10〜25、δP=10〜25、且つ、δD+δH+δP=35〜70のSP値を有するものであることがより好ましい。
【0074】
本明細書において、SP値とはハンセンの溶解パラメーターのことをいい、物質の溶解性を分散項δD、極性項δH、水素結合項δPの3つのパラメーターで表現する。上記範囲内のSP値を有する(C)導電性向上剤を添加することで、(A)導電性高分子を疑似的に溶解し、蒸発過程で配列を促進させると考えられる。一方、上記範囲外のSP値を有する(C)導電性向上剤は、(A)導電性高分子との相互作用が生じにくいため、配列の制御による十分な導電性向上効果を得ることが出来ないことがある。
加えて、上記範囲内のSP値を有する(C)導電性向上剤は、(A)導電性高分子との親和性が高いため、(A)導電性高分子の分散液の安定性が向上され得る。
【0075】
SP値がδD=12〜30、δH=3〜30、δP=5〜30、且つ、δD+δH+δP=35〜70である(C)導電性向上剤としては、特に限定されないが、例えば、イソシアナート(δD=15.8、δH=10.5、δP=13.6)、イソチオシアン酸メチル(δD=17.3、δH=16.2、δP=10.1)、リン酸トリメチル(δD=15.7、δH=10.5、δP=10.2)、2−メチルラクトニトリル(δD=16.6、δH=12.2、δP=15.5)、エフェドリン(δD=18.0、δH=10.7、δP=24.1)、チオ尿素(δD=20.0、δH=19.4、δP=14.8)、カルバモニトリル(δD=15.5、δH=27.6、δP=16.8)、エチレンシアノヒドリン(δD=17.2、δH=18.8、δP=17.6)、ピラゾール(δD=20.2、δH=10.4、δP=12.4)等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0076】
また、(C)導電性向上剤として、上記(i)〜(vii)であり、且つ、上記範囲内のSP値を有するものも用いることが出来る。
【0077】
(C)導電性向上剤の含有量は、特に限定されないが、(A)導電性高分子の固形分100重量部に対して5〜2000重量部が好ましく、10〜1500重量部がより好ましい。5重量部未満であると、(C)導電性向上剤添加による導電性改善効果を充分に享受することができないことがある。一方、2000重量部を超えると、本発明のインク用組成物中の(A)導電性高分子の含有量が相対的に少なくなり、透明導電膜とした際に十分な導電性が得られなくなることがある。
【0078】
本発明のインク用組成物は、(A)導電性高分子、(B)バインダー及び(C)導電性向上剤以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、任意に他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、増粘剤、溶媒、架橋剤、触媒、界面活性剤及び/又はレベリング剤、水溶性酸化防止剤、金属ナノワイヤ、消泡剤、中和剤等が挙げられる。
【0079】
<増粘剤>
増粘剤は、インク用組成物の粘度やレオロジー特性を調整する目的で添加される。増粘剤を使用することによって、(A)導電性高分子の高粘度化では達成できないインク用組成物のさらなる高粘度化が可能となる。
【0080】
増粘剤としては、特に限定されず公知の増粘剤を用いることができるが、ポリアクリル酸系樹脂、セルロースエーテル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、カルボキシビニルポリマー、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。このような増粘剤の市販品としては、例えば、例えば、CARBOPOL ETD−2623(架橋性ポリアクリル酸、BF Goodrichi社製)、GE−167(N−ビニルアセトアミドとアクリル酸の共重合体、昭和電工株式会社製)、ジュリマー(ポリアクリル酸、日本純薬株式会社製)、ポリビニルピロリドンK−90(ポリビニルピロリドン、株式会社日本触媒製)等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0081】
増粘剤として上記化合物が好ましい理由は、これらの増粘剤は、(A)導電性高分子との相溶性に極めて優れるからであり、相溶性が優れることにより下記の効果を享受することができる。
(1)(A)導電性高分子の分散安定性に優れ、そのため、貯蔵安定性に優れる、
(2)ヘイズが低下し透明性が向上する、
(3)印刷基材への密着性が向上する、
(4)微細な導電性パターンをより高精度に形成できる、
(5)(A)導電性高分子・増粘剤を配合したインク用組成物の耐湿熱性が向上する、及び、
(6)上記(1)〜(5)の理由により、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、又は、パッド印刷用インキとして好適である。
【0082】
増粘剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、(A)導電性高分子の固形分100重量部に対して、0.01〜250重量部が好ましく、0.1〜100重量部がより好ましい。これらの範囲で用いると、適度な粘度が得られるからである。0.01重量部未満では、要求される粘度特性を満足できなくなる場合があり、250重量部を超えると、沈殿物が発生し、版詰まり、ヘイズの上昇の原因となる傾向がある。
【0083】
<界面活性剤及び/又はレベリング剤>
界面活性剤及び/又はレベリング剤を配合することにより、インク用組成物の濡れ性やレベリング性を向上させることができ、インク用組成物を用いて透明導電膜を形成することで均一な透明導電膜を得ることができる。なお、本発明においては、一の化合物が界面活性剤にもレベリング剤にも相当することがある。
【0084】
界面活性剤としては、レベリング性向上効果を有するものであれば特に限定されず、その具体例としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン等のシロキサン系化合物;パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系化合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体などのポリエーテル系化合物;ヤシ油脂肪酸アミン塩、ガムロジン等のカルボン酸;ヒマシ油硫酸エステル類、リン酸エステル、アルキルエーテル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、スルホン酸エステル、コハク酸エステル等のエステル系化合物;アルキルアリールスルホン酸アミン塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等のスルホン酸塩化合物;ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸塩化合物;ヤシ油脂肪酸エタノールアマイド等のアミド化合物;アクリル系化合物等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、シロキサン系化合物及びフッ素系化合物が好ましく、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンがより好ましい。その理由は、シロキサン系化合物及びフッ素系化合物は(A)導電性高分子との相溶性が良好であり、組成物とした際に分散安定性に優れ、容易に均一な塗膜とすることができるためである。
【0085】
界面活性剤としては市販品も使用することができ、その具体例としては、例えば、BYK−301、BYK−302、BYK−307、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−341、BYK−375、BYK−378、BYK−380N、BYK−340、BYK−DYNWET800(いずれもビックケミー・ジャパン株式会社製)、NIKKOL AM−101、NIKKOL AM−301、NIKKOL AM−3130N(いずれも日本サーファクタント工業株式会社製)、アサヒガードAG−8025、アサヒガードMA−91(ともに明成化学工業株式会社製)、アミポールAS−8(日華化学株式会社製)、アモーゲンAOL、アモーゲンCB−C、アモーゲンCB−H、アモーゲンLB−C、アモーゲンNo.8、アモーゲンS、アモーゲンS−H(いずれも第一工業製薬株式会社製)、アンヒトールシリーズ(花王株式会社製)、アンホレックス35N、アンホレックス50、アンホレックス50−SF(いずれもミヨシ油脂株式会社製)、プラスコートRY−2(互応化学工業株式会社製)、エナジーコールC−30 B(ライオン株式会社製)、オバゾリン662N、カチナールAOC(いずれも東邦化学工業株式会社製)、オフノンD(ユシロ化学工業株式会社製)、クリンクA−27(吉村油化学株式会社製)、ゲナゲンB 1566(クラリアントジャパン株式会社製)、CAPSTONE FS−3100(デュポン株式会社製)等が挙げられる。
【0086】
レベリング剤としては、特に限定されず、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン等のシロキサン系化合物;パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系化合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体等のポリエーテル系化合物;ヤシ油脂肪酸アミン塩、ガムロジン等のカルボン酸;ヒマシ油硫酸エステル類、リン酸エステル、アルキルエーテル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、スルホン酸エステル、コハク酸エステル等のエステル系化合物;アルキルアリールスルホン酸アミン塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等のスルホン酸塩化合物;ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸塩化合物;ヤシ油脂肪酸エタノールアマイド等のアミド化合物;アクリル系化合物等が挙げられる。これらのレベリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのレベリング剤の中では、汎用されるシリコーン製ブランケットへの親和性に優れることから、シロキサン系化合物、フッ素系化合物、アクリル系化合物が好ましい。
【0087】
レベリング剤としては市販品も使用することができ、その具体例としては、例えば、BYK−325、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−UV3500、BYK−380N、BYK−381、BYKETOL−AQ、BYKETOL−WS(いずれもビックケミー・ジャパン株式会社製)、ポリフローWS、ポリフローWS−30、ポリフローWS−314(いずれも共栄社化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0088】
<水溶性酸化防止剤>
水溶性酸化防止剤を配合することにより、インク用組成物を用いて形成した透明電極の耐熱性、耐湿熱性を向上させることができる。
【0089】
水溶性酸化防止剤としては、特に限定されず、還元性の水溶性酸化防止剤、非還元性の水溶性酸化防止剤等が挙げられる。
還元性の水溶性酸化防止剤としては、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸カリウム、D(−)−イソアスコルビン酸(エリソルビン酸)、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム等の2個の水酸基で置換されたラクトン環を有する化合物;マルトース、ラクトース、セロビオース、キシロース、アラビノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類又は二糖類(但し、スクロースを除く);カテキン、ルチン、ミリセチン、クエルセチン、ケンフェロール、サンメリン(登録商標)Y−AF等のフラボノイド;クルクミン、ロズマリン酸、クロロゲン酸、ヒドロキノン、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、タンニン酸等のフェノール性水酸基を2個以上有する化合物;システイン、グルタチオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等のチオール基を有する化合物等が挙げられる。
非還元性の水溶性酸化防止剤としては、例えば、フェニルイミダゾールスルホン酸、フェニルトリアゾールスルホン酸、2−ヒドロキシピリミジン、サリチル酸フェニル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸ナトリウム等の酸化劣化の原因となる紫外線を吸収する化合物が挙げられる。
これらの水溶性酸化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
これらの中では、2個の水酸基で置換されたラクトン環を有する化合物又はフェノール性水酸基を2個以上有する化合物が好ましく、L−アスコルビン酸、D(−)−イソアスコルビン酸、又は、サンメリン(登録商標)Y−AF、タンニン酸がより好ましい。
【0091】
本発明のインク用組成物が水溶性酸化防止剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、(A)導電性高分子の固形分100重量部に対して0.001〜500重量部が好ましく、0.01〜250重量部がより好ましく、0.05〜100重量部がさらに好ましい。
水溶性酸化防止剤の含有量が0.001重量部未満であると、インク用組成物を用いて形成した透明電極の耐熱性及び耐湿熱性を十分に向上させることができない場合があり、一方、500重量部を超えると、インク用組成物を用いて形成した透明電極中の(A)導電性高分子の存在割合が少なくなり、透明電極の導電性を十分に確保することができないことがある。
【0092】
<金属ナノワイヤ>
金属ナノワイヤを配合することで、本発明のインク用組成物を透明導電膜とした場合の導電性を向上させることができる。
金属ナノワイヤとしては、金属単体や金属含有化合物からなるものが挙げられる。
金属単体としては、特に限定されないが、例えば、銀、銅、銀、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウム、白金等が挙げられ、金属含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、これらの金属を含むものが挙げられる。これらの金属ナノワイヤは、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0093】
金属ナノワイヤは、銀ナノワイヤ、銅ナノワイヤ及び金ナノワイヤからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。その理由は、他の金属ナノワイヤと比べて自由電子濃度が高く、導電性が高いためである。
【0094】
金属ナノワイヤの径は、特に限定されないが、1〜1000nmであることが好ましく、1〜100nmであることがより好ましい。金属ナノワイヤの径が1nm未満であるとワイヤー自体が切断されやすくなることがあり、1000nmを超えると、塗布膜のヘイズが高くなることがある。
金属ナノワイヤの長さは、特に限定されないが、1〜1000μmであることが好ましく、1〜100μmであることがより好ましい。金属ナノワイヤの長さが1μm未満であると塗布膜の導電性の低下の原因となることがあり、1000μmを超えると、金属ナノワイヤ分散体の安定性が悪くなることがある。
【0095】
金属ナノワイヤのアスペクト比は、特に限定されないが、50〜10000であることが好ましく、70〜7000であることがより好ましい。
金属ナノワイヤのアスペクト比が50未満であると塗布膜の導電性低下の原因になり、10000を超えると金属ナノワイヤ分散体の安定性が悪くなる原因となるからである。
なお、本発明において、アスペクト比とは、金属ナノワイヤの径に対する長さの比を表す。
【0096】
<中和剤>
本発明のインク用組成物は(A)導電性高分子を含有するため酸性となるが、中和剤を用いて中性としてもよい。インク用組成物の液性を中性とすることで、印刷機や版に錆を生じることを防止できるからである。中和剤としては塩基性化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩、アンモニア等のアンモニウム化合物、アミン類等が挙げられる。
【0097】
本発明のインク用組成物は、(A)導電性高分子、(B)バインダー及び(C)導電性向上剤に加えて、必要に応じて、その他の任意成分をさらに混合することにより作製することができる。作製後のインク用組成物は、適当な孔径を有するフィルターでろ過した上で使用してもよい。この理由は、高固形分率の導電性高分子を製造する過程で生じた凝集物を取り除くことができ、透明性の高い透明導電膜が得られるからである。
【0098】
本発明のインク用組成物は、25℃における粘度が5〜500dPa・sである。粘度が5dPa・s未満であると、流動性が高くなりすぎるため、ブランケットやパッド上に留まることができず転写率が悪くなり、また、画線・文字ににじみが生じてしまうことがある。一方、500dPa・sを超えると、ハンドリング性が悪くなることがある。
インク用組成物の25℃における粘度は、10〜400dPa・sであることが好ましく、15〜300dPa・sであることがより好ましい。
なお、粘度の測定条件は前述の通りである。
【0099】
本発明のインク用組成物は、固形分率が10〜80重量%である。固形分率が10重量%未満であると、乾燥膜厚が薄くなるため、十分な導電性を得られず、また、溶媒の含有比率が過多となる結果、印刷に適したレオロジーに調整することが困難となることがある。一方、80重量%を超えると、インク用組成物の分散性が低下し、ヘイズの上昇や膜荒れを生じることがある。
インク用組成物の固形分率は、安定した印刷性を示すことから、15〜70重量%であることが好ましく、20〜70重量%であることがより好ましく、20〜60重量%であることがさらに好ましい。
【0100】
本発明のインク用組成物において、表面張力は、特に限定されないが、濡れ性が良好であることから、50mN/m以下であることが好ましく、48mN/m以下であることがより好ましく、45mN/m以下であることがさらに好ましい。表面張力の下限は、特に限定されないが、例えば、20mN/mである。
表面張力は全自動表面張力計(協和界面科学株式会社製、CBVP−Z)により測定することができる。
【0101】
本発明のインク用組成物は、ウェット膜厚15μmで塗工した際の表面抵抗率が2000Ω/□以下である。表面抵抗率が2000Ω/□を超えると、タッチパネルや静電容量スイッチの透明電極として十分な導電性を確保することができないことがある。表面抵抗率は、1500Ω/□以下であることが好ましく、1200Ω/□以下であることがより好ましい。なお、表面抵抗率は小さければ小さい程好ましいため、その下限は特に限定されないが、例えば、0.1Ω/□である。
表面抵抗率は、抵抗率計を用いて測定することができる。
【0102】
本発明のインク用組成物は、ウェット膜厚15μmで塗工した際の全光線透過率が70%以上である。全光線透過率が70%未満であると、透明電極としたときの透明性が不十分となることがある。全光線透過率は、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0103】
本発明のインク用組成物の、ウェット膜厚15μmで塗工した際のヘイズは特に限定されない。
【0104】
本発明のインク用組成物において、25℃におけるチクソトロピー指数(Ti)は特に限定されないが、0.5〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましい。0.5未満では、液ダレのため画線・文字のにじみが起こりやすく、印刷インキといった用途での使用が困難となる。20を超えるとレベリング不良が生じ、印刷インキの用途で使用した場合、印刷パターン表面に凹凸が生じやすくなり好ましくない。
なお、チクソトロピー指数の測定条件は前述のとおりである。
【0105】
本発明のインク用組成物において、25℃における降伏値は特に限定されないが、5〜1000Paであることが好ましく、10〜500Paであることがより好ましい。5Pa未満では、静置時にも流動性を示し、版上に留まることができないため、印刷ができない。一方、1000Paを超えると、力を加えられても流動性を示さないため、印刷ができない。
なお、降伏値の測定条件は前述の通りである。
【0106】
本発明のインク用組成物は、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、パッド印刷といった印刷手段に好適に用いられる。これらの印刷手段は複雑な工程を必要としないため、低コストでかつ簡便にパターニングすることが可能である。また、得られる塗膜は、外観が良好で、かつ透明性にも優れている。
本発明のインク用組成物は、高い固形分率を有するため、塗布膜厚が制限される方法での印刷であっても、透明導電膜の乾燥膜厚を厚くすることができることから、オフセット印刷に用いられることが好ましく、グラビアオフセット印刷又はパッド印刷に用いられることがより好ましい。
【0107】
<<透明電極>>
次に、本発明の透明電極について説明する。
本発明の透明電極は、本発明のインク用組成物を用いて得られた透明電極であり、本発明のインク用組成物を基材上に印刷することで基材上に透明導電膜が形成された透明導電積層体からなる。
【0108】
基材としては透明基材が好ましい。透明基材の材質としては、透明である限り特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。
【0109】
透明基材の厚みは、特に限定されないが、10〜10000μmであることが好ましく、25〜5000μmであることがより好ましい。また、透明基材の全光線透過率は、特に限定されないが、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0110】
本発明の透明電極は、本発明のインク用組成物を基材上に印刷する工程を経て製造される。具体的には、例えば、後述する(I)印刷による塗布工程及び(II)形成工程により得ることができる。印刷することによって、パターニングを行うことができ、非導電部分と導電部分とを備え、導電部分を導体パターンとすることができる。
【0111】
(I)印刷による塗布工程では、本発明のインク用組成物を基材に直接塗布しても良いし、予め基材上に形成されたプライマー層上に塗布しても良いが、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷といった印刷手段によって基材上に塗布することが好ましい。また、必要に応じて、予め基材の表面に表面処理を施した後に(I)印刷による塗布工程を行っても良い。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、イトロ処理、火炎処理等が挙げられる。
【0112】
(II)形成工程では、基材上に塗布された本発明のインク用組成物を、150℃以下の温度で加熱処理することで、基材の少なくとも1面に透明導電膜を形成する。加熱処理は、特に限定されず公知の方法により行えば良く、例えば、送風オーブン、赤外線オーブン、真空オーブン等を用いて行えば良い。なお、(I)印刷による塗布工程で用いるインク用組成物が溶媒を含有する場合、溶媒は、加熱処理により除去される。
【0113】
加熱処理は、150℃以下の温度条件で行う。加熱処理の温度が150℃を超えると、用いる基材の種類が限定され、例えば、PETフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム等の一般に透明電極フィルムに用いられる基材を用いることが出来なくなる。本発明では、150℃以下の温度条件での加熱処理であっても、十分な透明性及び導電性を有する透明導電積層体を得ることが出来る利点を有する。加熱処理の温度は、50〜140℃であることが好ましく、60〜130℃であることがより好ましい。加熱処理の処理時間は、特に限定されないが、0.1〜60分間であることが好ましく、0.5〜30分間であることがより好ましい。
【0114】
本発明の透明電極の用途としては、透明性及び導電性が要求される用途であれば特に限定されないが、例えば、液晶、プラズマ、フィールドエミッション等の各種ディスプレイ方式のテレビ、携帯電話等の各種電子機器のタッチパネルやタッチセンサー、表示素子における透明電極、太陽電池、電磁波シールド材、電子ペーパー、エレクトロルミネッセンス調光素子等における透明電極等の用途が挙げられる。これらの用途の中では、静電容量タッチパネルや静電容量スイッチ、静電容量タッチセンサーの用途に用いられることが好ましい。その理由は、本発明のインク用組成物を用いて得られた塗膜が示す透明性及び導電性のバランスがタッチパネルや静電容量スイッチといった用途に好適だからである。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0116】
1.使用原料
下記の実施例及び比較例において、以下の原料を使用した。
(A)導電性高分子
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を含む水分散液(ヘレウス株式会社製、Clevios PH1000、固形分1.1%)
PEDOT/PSSペレット(アグファ株式会社製、Orgacon DRY、固形分100%)
(B)バインダー
ポリウレタンバインダー(DIC株式会社製、ハイドラン APX101H、固形分45%)
ポリウレタンバインダー(DIC株式会社製、ハイドラン WLS−202、固形分35%)
ポリエステルバインダー(ナガセケムテックス株式会社製、ガブセンES−210、固形分25%)
メチルシリケートオリゴマー(三菱化学株式会社製、MS−51)
(C)導電性向上剤
2−メトキシフラン(ナカライテスク株式会社製、試薬)
エチレンシアノヒドリン(東京化成工業株式会社製、δD=17.2、δH=18.8、δP=17.6)
増粘剤
ポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、ジュンロン PW−160、固形分100%)
界面活性剤/レベリング剤
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYK−348、不揮発分>96%)
フッ素系界面活性剤(デュポン株式会社製、CAPSTONE FS−3100、不揮発分100%)
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(第一工業製薬株式会社製、アモーゲンCB−H、不揮発分29%)
金属ナノワイヤ
銀ナノワイヤ(星光PMC株式会社製、T−YP808、アスペクト比230、固形分1.0%)
中和剤
アンモニア水(和光純薬工業株式会社製、10%アンモニア水)
水溶性酸化防止剤
タンニン酸(和光純薬工業株式会社製)
L−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)
【0117】
2.(A)導電性高分子の製造
(製造例1)PEDOT/PSS濃縮品1の製造
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を含む水分散液(ヘレウス株式会社製、Clevios PH1000、固形分率1.1%)を減圧条件下、35℃で120分間加熱することにより、固形分4%の高固形分PEDOT/PSSを調製した。
【0118】
(製造例2)PEDOT/PSS濃縮品2の製造
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を含む水分散液(ヘレウス株式会社製、Clevios PH1000、固形分率1.1%)を減圧条件下、35℃で240分間加熱することにより、固形分10%の高固形分PEDOT/PSSを調製した。
【0119】
(製造例3)PEDOT/PSS重合品の製造
スターラー及び窒素入り口を装備した10Lの反応容器中に、1400gのイオン交換水、492gの12.8重量%ポリスチレンスルホン酸(PSS)(Mw=56000)水溶液を入れ、窒素を吹き込みながら25℃に保って1時間撹拌した。この時の溶液中の温度は25℃、酸素濃度は0.5mg/L、pHは0.8、撹拌速度は300rpmであった(酸素濃度はインプロ6000シリーズOセンサーを用いるニック・プロセス・ユニット73O(メトラー・トレド株式会社製)を用いて測定した)。次に、25.4g(179ミリモル)の3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(モノマー濃度は1.0重量%)、0.45gのFe(SO・3HO、450gの10.9重量%H水溶液を加え、重合反応を開始させた。25℃において12時間反応させた後、さらに30gのNaを加えた。12時間の追加反応時間後に、イオン交換樹脂LewatitS100H、LewatitMP62を用いて処理することにより、濃青色の高粘度PEDOT/PSSを2200g得た(固形分 5.0%)。
【0120】
3.評価方法
下記の実施例及び比較例における測定・評価は以下の方法により行った。
【0121】
固形分率
各実施例及び比較例で得られたインク用組成物の重量と、インク用組成物を送風オーブンにて120℃2時間加熱・乾燥させた後の重量とを計量し、下記式に基づき固形分率を算出した。
固形分率(重量%)=乾燥後のインク用組成物の重量/乾燥前のインク用組成物の重量
【0122】
粘度
恒温槽に入れて25℃に保ち、B型粘度計にて粘度を測定した。
【0123】
表面張力
インク用組成物の25℃における表面張力を、Wilhelmy法により全自動表面張力計(協和界面科学株式会社製、CBVP−Z)を用いて測定した。
【0124】
分散性
製造直後のインク用組成物を恒温槽に入れて25℃に保ち、1時間静置した後のインク用組成物の液状態を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:沈殿物は観察されない。
△:わずかに沈殿物が観測される。
×:沈殿物が観察される。
【0125】
グラビアオフセット印刷性
各実施例及び比較例で得たインク用組成物を用いて、パッド印刷機(株式会社ミノグループ製、MGO−F1010)により印刷を行った。L/S=30um/30umの多数平行線パターンを描き、パターン再現性を目視により確認した。
(パターン再現性)
○:全ての平行線パターンにおいて、欠陥なく描かれている。
×:欠陥のある平行線パターンがある。
(ハジキ・ヨレ)
○:平行線パターンに凹凸がなく、ズレがない。
×:平行線パターンに凹凸があり、ズレやしわが存在する。
【0126】
パッド印刷性
各実施例及び比較例で得たインク用組成物を用いて、パッド印刷機(株式会社ミノグループ製、TURBO−90)により印刷を行った。印刷用の原版としては、横15mm×縦35mmの長方形パターンを15μmの深さでエッチングした金属版を用いた。印刷物のパターンの再現性とハジキ・ヨレは、パッド印刷機による連続印刷を20回繰り返して目視により観察し、以下の基準で評価した。
(パターン再現性)
○:全ての印刷物において、欠陥なく長方形パターンが描かれている。
×:欠陥のある長方形パターンが描かれている印刷物がある。
(ハジキ・ヨレ)
○:長方形パターンが鏡面のように滑らかで、均一である。
×:長方形パターンの表面が凹凸で、不均一である。
【0127】
表面抵抗率(SR)
抵抗率計(三菱化学株式会社製、ロレスターGP MCP−T600)を用いて測定した。
【0128】
全光線透過率(Tt)/ヘイズ
JIS K 7150に従い、スガ試験機株式会社製ヘイズコンピュータHGM−2Bを用いて測定した。
【0129】
耐熱性
塗膜について、上述の表面抵抗率の測定方法により、初期の表面抵抗率と、80℃で240時間保存した後の表面抵抗率とを測定し、保存後の表面抵抗率上昇倍率(保存後の表面抵抗率/初期の表面抵抗率)を算出し、下記2段階で評価した。
○:表面抵抗率上昇倍率が1.5未満である
△:表面抵抗率上昇倍率が1.5以上で、2.0未満である
【0130】
(実施例1〜14、比較例1、2)
下記表1に示す重量比で各成分を混合し、ろ紙(Seitz社製、T5500)を用いてフィルターろ過することにより、インク用組成物を調製した。得られたインク用組成物について、固形分率、粘度、表面張力、分散性、グラビアオフセット印刷性、パッド印刷性を上述の方法により評価した。また、得られたインク用組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製、ルミラーT−60)上にバーコーターを用いてウェット膜厚が15μmとなるよう塗布し、120℃で10分間加熱乾燥して塗膜を得た。得られた塗膜について、表面抵抗率、全光線透過率、ヘイズ、耐熱性を上述の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
(考察)
表1より、高い固形分率を有する本発明のインク用組成物は、固形分率の低い従来のインク用組成物と比較して、グラビアオフセット印刷性及びパッド印刷性に優れ、表面抵抗率の上昇を抑制することができることが分かった。また、本発明のインク用組成物は、高い固形分率を有するにもかかわらず、分散性にも優れていることが分かった、さらに、塗膜の全光線透過率及びヘイズも優れており、透明電極を形成するためのインク用組成物として用途に好適に用いることができることが分かった。