特許第6417821号(P6417821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6417821有機エレクトロルミネッセンス素子及び照明装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6417821
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子及び照明装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/12 20060101AFI20181029BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20181029BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20181029BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   H05B33/12 C
   H05B33/28
   H05B33/26 Z
   H05B33/14 B
【請求項の数】8
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-195592(P2014-195592)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-66542(P2016-66542A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 利彦
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−161071(JP,A)
【文献】 特開2010−129301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/12
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極と、
前記透明電極の対極である金属電極と、
有機発光材料を含有する発光層を有し、前記透明電極と前記金属電極との間に、中間コネクタ層を挟んで直列状に積層された複数の発光ユニットと
を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記複数の発光ユニットのうち、前記金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットは、前記複数の発光ユニットのうちで発光光の波長が最も短い有機発光材料を含有しており、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子中で、波長580nm以上830nm未満の領域に発光極大波長を示す赤色燐光発光材料が2種類以上使用されている
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記有機発光材料が、燐光発光材料のみからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、複数の発光層を有し、
前記複数の発光層のうち、前記金属電極に対して最も近くに配置されている発光層は、前記複数の発光層のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を含有している
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記最も発光光の波長が短い有機発光材料が、波長400nm以上490nm未満の領域に発光極大波長を示す青色燐光発光材料である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記2種類以上の赤色燐光発光材料が、互いに異なる発光ユニットに含まれている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記2種類以上の赤色燐光発光材料のうち、最も発光光の波長が短い赤色燐光発光材料は、前記2種類以上の赤色燐光発光材料のうちで前記金属電極に対して最も近い発光ユニットに含まれている
ことを特徴とする請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記複数の発光ユニットが有する各発光層は、有機発光材料の濃度が28質量%以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光材料のエレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)を利用した電界発光型のデバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(「有機EL素子」ともいう。)が知られている。有機EL素子は、一般に、陽極と、陰極と、これら陽極と陰極との間に積層され、有機発光材料を含有する発光層とを備えている。有機EL素子では、陽極と陰極との間に電界が印加されると、発光層には、陽極から正孔が注入され、陰極から電子が注入される。そして、正孔と電子とが再結合することにより生成された励起子が失活する際に発光が生じる。有機EL素子は、電極間がサブミクロン程度の厚さの薄膜で構成され、数V〜数十V程度の低電圧で発光が可能な薄膜型の全固体素子であり、高輝度、高発光効率、薄型、軽量といった多くの優れた特徴を有している。
【0003】
有機EL素子は、自己発光型の面発光体であるためバックライトや照明光源等としての利用も期待されており、白色光を出射するデバイスの開発も進められている。有機EL素子の光源色を白色化する方法としては、発光色が異なる複数種類の有機発光材料を単一の発光層や複数の発光層に含有させて、複数の発光色の混色によって白色光を得る方法等が利用されている。
【0004】
このような照明用途においては、有機EL素子の性能として、特に発光効率や耐久性が要求され、消費電力が少なく、白色光の色度が経時的にも駆動電流の変動に対しても安定していることが望まれる。しかしながら、一般には、有機EL素子を低電圧駆動させようとすると十分な輝度を確保することが難しくなり、輝度を確保しようとすると素子寿命が低下してしまう傾向がある。そこで、電流密度あたりの輝度を高めて発光効率を向上させる技術として、発光層を有する複数の発光ユニットを直列状に積層したタンデム型(マルチフォトンエミッション型)の有機EL素子が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、幅広い波長領域にスペクトルを有し、白色の色度が経時変化しにくく、発光スペクトルの形状が電流密度に依存しにくい高効率な白色発光素子を提供する技術として、第1の陽極と第1の陰極との間に発光性の有機化合物を含む第1の発光層を有する第1の発光素子と、第2の陽極と第2の陰極との間に発光性の有機化合物を含む第2の発光層を有する第2の発光素子とが直列に積層された発光素子であって、前記第1の陰極と前記第2の陽極は接しており、前記第1の発光素子または前記第2の発光素子のいずれか一方は、少なくとも2つのピークを有する第1の発光スペクトルを示し、他方は前記2つのピークとは異なる位置にピークを有する第2の発光スペクトルを示し、前記第1の発光スペクトルと前記第2の発光スペクトルを合わせた発光スペクトルを示す発光素子が開示されている(請求項1、段落0017等参照)。また、第1の発光素子または第2の発光素子のいずれか一方を、青色〜青緑色の波長領域および黄色〜橙色の波長領域の両方にピークを有する発光スペクトルを示すような構成とする等して、補色の関係にある2種の発光色を示すようにすること(請求項3、請求項5、段落0019、段落0023等参照)が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、優れた発光効率及び耐久性を有し、かつ、色度変化及び色度の角度依存性を抑制することができる白色有機電界発光素子を提供する技術として、陽極と陰極との間に、少なくとも中間層を有する白色有機電界発光素子であって、前記陽極と前記中間層との間に、少なくとも第1の発光層を有する第1のユニットを有し、前記中間層と前記陰極との間に、少なくとも第2の発光層を有する第2のユニットを有し、前記第1の発光層及び前記第2の発光層のうち少なくともいずれかが単層構造であり、前記第1の発光層及び前記第2の発光層のうち少なくともいずれかが、発光材料と、該発光材料の凝集体と、を少なくとも含む白色有機電界発光素子が開示されている(請求項1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−012793号公報
【特許文献2】特開2011−228238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、特許文献1や特許文献2に開示されるような複数の発光ユニットを備えるタンデム型の有機EL素子は、単一の発光ユニットを備える素子と比較して、発光効率が優れている。しかしながら、こうしたタンデム型の有機EL素子の発光効率は、未だ十分なものではなく、消費電力も高い水準にあるため、外部取り出し量子効率(外部量子効率)の更なる向上が望まれている。有機EL素子の外部取り出し量子効率を向上させる上では、有機発光材料の種類に大きく依存しない点で、光取り出し効率に大きな改善の余地がある。
【0009】
有機EL素子では、光取り出しにおける損失として、発光層で生じた発光光が、金属電極の自由電子の集団と相互作用することで表面プラズモン−ポラリトンとして失われることによる損失(以下、プラズモン損失ということがある。)や、発光層で生じた発光光が、透明電極と透明基板との界面等で全反射し、有機EL素子の外部に出射されることなく発光ユニット内に閉じ込められて導波モードを生じることによる損失や、透明電極を透過した発光光が、透明基板と空気との界面で全反射し、透明基板の主面側(出射面側)から出射されなくなることによる損失等が生じる。
【0010】
タンデム型の有機EL素子としては、透明電極である陽極と金属電極である陰極との間に複数の発光ユニットを備えており、金属電極である陰極を反射電極として働かせることによって、複数の発光ユニットで生じた発光光を片側から取り出す構成の素子が主流である。特に、金属電極に起因して生じるプラズモン損失は、発光ユニットの光学的設計によって低減し難く、表面プラズモン−ポラリトンとして閉じ込められた発光光を再び伝播光として取り出すことも容易ではないため、有機EL素子の光取り出し効率が大きく損なわれており、照明用途へ適用した場合にも、高い耐久性と輝度との両立が妨げられている。
【0011】
そこで、本発明は、良好な発光効率と光取り出し効率とを有する有機EL素子及びそれを備える照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
【0013】
1.透明電極と、前記透明電極の対極である金属電極と、有機発光材料を含有する発光層を有し、前記透明電極と前記金属電極との間に、中間コネクタ層を挟んで直列状に積層された複数の発光ユニットとを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記複数の発光ユニットのうち、前記金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットは、前記複数の発光ユニットのうちで発光光の波長が最も短い有機発光材料を含有しており、前記有機エレクトロルミネッセンス素子中で、波長580nm以上830nm未満の領域に発光極大波長を示す赤色燐光発光材料が2種類以上使用されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
2.前記有機発光材料が、燐光発光材料のみからなることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
3.前記金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、複数の発光層を有し、前記複数の発光層のうち、前記金属電極に対して最も近くに配置されている発光層は、前記複数の発光層のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を含有していることを特徴とする前記1又は前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
4.前記最も発光光の波長が短い有機発光材料が、波長400nm以上490nm未満の領域に発光極大波長を示す青色燐光発光材料であることを特徴とする前記1から前記3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
.前記2種類以上の赤色燐光発光材料が、互いに異なる発光ユニットに含まれていることを特徴とする前記1から前記4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
.前記2種類以上の赤色燐光発光材料のうち、最も発光光の波長が短い赤色燐光発光材料は、前記2種類以上の赤色燐光発光材料のうちで前記金属電極に対して最も近い発光ユニットに含まれていることを特徴とする前記に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
.前記複数の発光ユニットが有する各発光層は、有機発光材料の濃度が28質量%以下であることを特徴とする前記1から前記のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
.前記1から前記のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、良好な発光効率と光取り出し効率とを有する有機EL素子及びそれを備える照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の層構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る有機EL素子で使用される有機発光材料の組み合わせの一例における発光スペクトルを示す概念図である。
図3】本発明の実施形態に係る有機EL素子の層構成の他の例を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の実施例に係る有機EL素子の概略を示す斜視図である。
図5】本発明の実施例に係る有機EL素子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る有機EL素子について説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複する部分についての説明は省略する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る有機EL素子の層構成の一例を模式的に示す断面図である。
【0026】
[有機EL素子]
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る有機EL素子(有機EL素子1)は、透明電極20と、透明電極20の対極である金属電極50と、有機発光材料を含有する発光層33を有し、透明電極20と金属電極50との間に、中間コネクタ層40を挟んで直列状に積層された複数の発光ユニット(30A,30B)とを備えるタンデム型(マルチフォトンエミッション型)の有機EL素子となっている。この有機EL素子1では、複数の発光ユニット(30A,30B)のうち、金属電極50に対して最も近くに配置されている発光ユニット(30B)が、複数の発光ユニット(30A,30B)のうちで発光光の波長が最も短い有機発光材料(ドーパント化合物ともいう。)を含有する構成とされることによって、主としてプラズモン損失が低減されるようになっている。なお、図1においては、複数の発光ユニットとして、第1発光ユニット30Aと第2発光ユニット30Bの2個が備えられ、2個の発光ユニット30A,30Bの間に1層の中間コネクタ層40が積層された層構成が例示されている。
【0027】
透明電極20と金属電極50とは、一対の電極対を構成しており、例えば、透明電極20が陽極、金属電極50が陰極とされる。透明電極20及び金属電極50には、それぞれ不図示の取り出し電極部が設けられ、不図示の外部電源等が電気的に接続されるようになっている。透明電極20と金属電極50との間には、このような外部電源を介して所定の電界が印加され、電極間に備えられる各発光ユニット30A,30Bに対する電荷の注入が行われる。
【0028】
図1に示すように、透明電極20は、光透過性を有する基材10上に積層され、透明電極20上には、第1発光ユニット30Aが積層されている。そして、第1発光ユニット30A上には、中間コネクタ層40が積層され、中間コネクタ層40上には、第2発光ユニット30Bが積層され、第2発光ユニット30B上には、金属電極50が積層されている。金属電極50の上側(基材10とは反対側)には、通常、不図示の封止部材が配置され、透明電極20から金属電極50までの構成要素は、基材10と封止部材とによって覆われて封止される。
【0029】
発光ユニット30A,30Bは、有機発光材料を含有する発光層33A,33Bをそれぞれ有している。図1においては、各発光ユニット30A,30Bは、正孔注入層31、正孔輸送層32、発光層33A,33B、電子輸送層34、電子注入層35が、陽極側からこの順に積層された層構成を有しているが、これに代えて、少なくとも1層以上の発光層、又は、少なくとも1層以上の発光層と他の電荷輸送性等を有する層との組み合わせによって構成することも可能である。なお、中間コネクタ層40や発光ユニット30A,30Bの具体的な層構成については後記する。
【0030】
有機EL素子1は、ボトムエミッション型の発光形式とされている。すなわち、第1発光ユニット30Aが有する発光層33Aで発生した発光光は、第1発光ユニット、透明電極20及び基材10を透過して、基材10の一端側の出射面から有機EL素子1の外部に取り出される。また、第2発光ユニット30Bが有する発光層33Bで発生した発光光は、第2発光ユニット、中間コネクタ層40、第1発光ユニット、透明電極20及び基材10を透過して、基材10の一端側の出射面から有機EL素子1の外部に取り出される。また、各発光層33A,33Bで発生した発光光は、金属電極50によって反射され、反射光も基材10の一端側の出射面から有機EL素子1の外部に取り出されるようになっている。有機EL素子1の外部に取り出される出射光は、このようにして各発光ユニット30A,30Bの各発光層33A,33Bで生じた発光光の混色によって所定の光源色を呈することになる。なお、有機EL素子1の発光形式は、トップエミッション型としてもよい。このような場合には、陽極は「金属電極」であり、陰極は仕事関数が比較的小さい金属や合金等が表面に積層されている場合にも「透明電極」であるものとする。
【0031】
有機EL素子1に備えられる発光ユニットは、図1に示す2個の構成に代えて、3個以上が直列に接続された構成としてもよい。発光ユニットの個数が増加すると、所定電流密度に対する出射光の輝度と発光寿命とを共に向上させることができる。但し、発光ユニットの個数が過度に増加すると、有機EL素子の厚さが増して駆動電圧が増大したり、生産性が損なわれてしまう恐れがある。よって、発光ユニットの個数は、2個以上3個以下とすることが好ましい。
【0032】
有機EL素子1では、互いに異なる発光スペクトルを示す2種類以上の有機発光材料が使用される。すなわち、2個の発光ユニット30A,30Bがそれぞれ有している各発光層33A,33Bは、互いに異なる発光スペクトルを示す有機発光材料を含むようにそれぞれ構成される。そのため、各発光層33A,33Bでは、透明電極20と金属電極50との間に電界が印加されると、注入された正孔と電子とが再結合することによって生成された励起子が失活する際に、互いに異なる発光色の発光光を発生する。例えば、有機発光材料として、発光色が互いに補色の関係となる発光光をそれぞれ発する2種類を使用したり、発光色が三原色の関係となる発光光をそれぞれ発する3種類を使用したりすることによって、有機EL素子1の出射光を白色光とすることが可能である。発光色が互いに補色の関係となる有機発光材料の組み合わせとしては、青色から青緑色の発光光と黄色から橙色の発光光との組み合わせが好ましい。なお、発光ユニットが3個以上備えられる場合には、少なくとも2個の発光ユニットの発光層に、互いに異なる発光スペクトルを示す有機発光材料が含まれていればよい。
【0033】
有機EL素子1では、複数の発光ユニット(30A,30B)のうち、金属電極50に対して最も近くに配置されている発光ユニット(30B)は、複数の発光ユニット(30A,30B)のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を含有するように構成される。金属電極50の表面では、金属表面の自由電子の集団振動と反射条件を満たす発光光とがカップリングして、表面プラズモン−ポラリトンが励起され、発光光の一部は金属表面の近傍に局在化する。このようにして生じる光損失(プラズモン損失)は、一般に、30%〜40%程度に及ぶ。プラズモン損失は、発光波長依存性を示し、発光光の波長が短いほど小さく、発光光の波長が長いほど大きくなる傾向がある。また、発光点からの距離にも依存する性質を示し、発光点と金属表面との距離が長いほど小さく、発光点と金属表面との距離が短いほど大きくなる傾向がある。そのため、使用されている有機発光材料のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を、金属電極50に対して最も近くに配置されている発光ユニットに含有させることによって、同種の有機発光材料を異なる発光ユニットに含有させた場合と比較して、光取り出し効率を向上させることができ、高い外部取り出し量子効率を実現することが可能になる。
【0034】
また、有機EL素子1では、複数の発光ユニット(30A,30B)のうち、金属電極50に対して最も遠くに配置されている発光ユニット(30A)は、複数の発光ユニット(30A,30B)のうちで最も発光光の波長が長い有機発光材料を含有するようにすることが好ましい。使用されている有機発光材料のうちで最も発光光の波長が長い有機発光材料を、金属電極50に対して最も遠くに配置されている発光ユニット(30A)に含有させることによって、同種の有機発光材料を異なる発光ユニットに含有させた場合と比較して、光取り出し効率をさらに向上させることができるようになる。これに対して、複数の発光ユニット(30A,30B)のうち、金属電極50に対して最も遠くに配置されている発光ユニット(30A)は、複数の発光ユニット(30A,30B)のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を含有しないようにすることが好ましい。
【0035】
有機EL素子1で使用される2種類以上の有機発光材料は、最も発光光の波長が短い有機発光材料が、波長400nm以上490nm未満の領域に発光極大波長を示す青色発光性の有機発光材料(青色発光材料)となる組み合わせで使用されることが好ましい。最も発光光の波長が短い有機発光材料が青色発光材料となるようにすると、光取り出し効率が向上する度合がより大きくなるため有利である。なお、このような青色発光材料としては、特に、燐光発光性である青色燐光発光材料が好ましい。
【0036】
有機発光材料としては、互いに異なる発光スペクトルを示す3種類以上が使用されることが好ましく、互いに異なる発光スペクトルを示す4種類以上が使用されることがより好ましい。複数種類の有機発光材料を使用すると、各発光光が合成されることでブロードなスペクトルの出射光が得られるようになり、高い演色性(平均演色評価数(Ra))を実現することが可能になる。また、複数種類の有機発光材料のうちで一部の有機発光材料が劣化したり、有機EL素子1への電流密度が変動したりすることがあっても、出射光の色度の変動や、出射面上ないし視野角上の色むらを低度に抑えることができる。なお、このような複数種類の有機発光材料は、1層の発光層あたりにおいて、1種類含まれていても、2種類以上含まれていてもよい。
【0037】
互いに異なる発光スペクトルを示す有機発光材料の組み合わせとしては、有機EL素子の光源色を白色とする場合には、一例として、波長400nm以上490nm未満の領域に発光極大波長を示す青色発光性の有機発光材料(青色発光材料)と、波長550nm以上600nm未満の領域に発光極大波長を示す黄色発光性ないし橙色発光性の有機発光材料(黄色ないし橙色発光材料)との組み合わせや、波長400nm以上490nm未満の領域に発光極大波長を示す青色発光性の有機発光材料(青色発光材料)と、波長510nm以上580nm未満の領域に発光極大波長を示す緑色発光性の有機発光材料(緑色発光材料)と、波長580nm以上830nm未満の領域に発光極大波長を示す赤色発光性の有機発光材料(赤色発光材料)との組み合わせを用いることができる。
【0038】
有機発光材料としては、波長580nm以上830nm未満の領域に発光極大波長を示す2種類以上の有機発光材料(2種類以上の赤色発光材料)が使用されることが好ましい。互いに異なる発光スペクトルを示す2種類以上の赤色発光材料を使用すると、特に赤色の発光色の演色性(試験色No.9における特殊演色評価数(R9))を高めることができる。なお、赤色発光材料としては、蛍光発光性である赤色蛍光発光材料及び燐光発光性である赤色燐光発光材料のいずれか、又は、これらの組み合わせが使用され得るが、燐光発光性である赤色燐光発光材料が2種類以上使用されることがより好ましい。また、視感度を向上させる観点からは、波長580nm以上650nm未満の短波よりの領域に発光極大波長を示す赤色発光材料が使用されることがより好ましい。
【0039】
図2は、本実施形態に係る有機EL素子で使用される有機発光材料の組み合わせの一例における発光スペクトルを示す概念図である。
【0040】
図2に示す例では、波長616nmに発光極大波長を示す赤色発光性の有機発光材料(第1赤色発光材料)と、波長594nmに発光極大波長を示す赤色発光性の有機発光材料(第2赤色発光材料)と、波長560nmに発光極大波長を示す緑色発光性の有機発光材料(緑色発光材料)と、波長475nmに発光極大波長を示す青色発光性の有機発光材料(青色発光材料)との発光スペクトルの一例が示されている。なお、図2に示されるスペクトルは、各有機発光材料を独立に発光させたときの発光スペクトルである。
【0041】
図2に示されるように、青色発光材料、緑色発光材料と共に、互いに異なる発光スペクトルを示す2種類の赤色発光材料を使用すると、有機EL素子の出射光の光源色を、平均演色評価数(Ra)と特殊演色評価数(R9)とが共に高い値を示す演色性に優れた白色光にすることができる。また、このような波長領域において極大発光波長を示す発光スペクトルが合成されると、波長550nm近傍における発光強度が高いスペクトルが生成される。そのため、出射光の視感度が高められ、電球色や温白色を発する照明装置等の用途に好適に利用することができる。
【0042】
図3は、本発明の実施形態に係る有機EL素子の層構成の他の例を模式的に示す断面図である。
【0043】
本発明に係る有機EL素子は、発光ユニットが、図1に示される1層の発光層を有する構成に代えて、複数の発光層を有する構成としてもよい。例えば、図3に示されるように、複数の発光層(30A,30B)のそれぞれが、複数の発光層(33A1,33A2,33B1,33B2)を有する構成としてよいし、複数の発光ユニット(30A,30B)のうち、一部の発光層が複数の発光層を有し、他の発光層が1層の発光層を有する構成としてもよい。このように複数の発光層が積層されていると、注入された電荷の再結合が発光層同士の界面近傍で発生する傾向が強くなる。そのため、電界印加時においても、有機発光材料による発光光の発生位置(発光点)の位置変動が抑制され、出射光の色度変動を低減させることが可能になる。また、発光点の位置変動が抑制されることで、生成された励起子が隣接する他の層に拡散し難くなるため、より高い発光効率を実現することもできる。
【0044】
複数の発光ユニット(30A,30B)のうち、金属電極50に対して最も近くに配置されている発光ユニット(30B)は、複数の発光層(33B1,33B2)を有する構成とされている。このように発光光の波長が短い有機発光材料が含まれることになる発光ユニット(30B)において、発光光の発生位置の位置変動が抑制されるようにすると、短波長の発光光を生じる高エネルギの励起子の閉じ込めが有効になされて発光効率の低下がより抑制される。
【0045】
また、金属電極50に対して最も近くに配置されている発光ユニット(30B)が有する複数の発光層(33B1,33B2)のうち、金属電極50に対して最も近くに配置されている発光層(33B2)は、複数の発光層(33B1,33B2)のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を含有していることが好ましい。使用されている有機発光材料のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を、金属電極50に対して最も近くに配置されている発光層(33B2)に含有させることによって、同種の有機発光材料を異なる発光層に含有させた場合と比較して、光取り出し効率をより向上させることができ、さらに高い外部取り出し量子効率を実現することが可能になる。
【0046】
有機発光材料として、2種類以上の赤色発光材料を使用する場合には、各赤色発光材料は、同一の発光層に含まれていてもよいが、互いに異なる発光層に含まれていることが好ましい。また、各赤色発光材料は、同一の発光ユニットに含まれていてもよいが、互いに異なる発光ユニットに含まれていることが好ましい。一般に赤色発光材料は電荷輸送性能が低い傾向があるが、2種類以上の赤色発光材料を互いに異なる発光層に含ませることで、単一の発光層あたりにおける電荷輸送性を確保することが可能となるため、駆動電圧の上昇や、輝度の低下を防止することができる。
【0047】
2種類以上の赤色発光材料を互いに異なる発光層に含有させて使用する場合には、各赤色発光材料は、同一の発光層あたりにおいて、緑色発光材料又は青色発光材料と共に含まれていることが好ましく、緑色発光材料と共に含まれていることがより好ましい。緑色発光材料や青色発光材料は赤色発光材料よりも電荷輸送性能が高い傾向があるため、赤色発光材料を緑色発光材料や青色発光材料と共に含ませることによって、電荷輸送を補うことが可能である。特に、緑色発光材料は、一般には、赤色発光材料とHOMO準位やLUMO準位が近い傾向があるため、赤色発光材料を緑色発光材料と共に含ませることによって、低電圧に抑えた駆動が可能となる。
【0048】
有機発光材料として、2種類以上の赤色発光材料を使用する場合には、2種類以上の赤色発光材料のうち、最も発光光の波長が短い赤色発光材料は、2種類以上の赤色発光材料のうちで金属電極50に対して最も近い発光ユニットに含まれるようにすることが好ましく、赤色発光材料を含ませる複数の発光層のうちで金属電極50に対して最も近い発光層に含まれるようにすることが好ましい。使用されてい赤色発光材料のうちで最も発光光の波長が短い赤色発光材料を、金属電極50に対してより近い発光ユニットないし発光層に含有させることによって、同種の赤色発光材料を異なる発光ユニットないし発光層に含有させた場合と比較して、光取り出し効率をより向上させることができ、より高い外部取り出し量子効率を実現することが可能になる。これに対して、2種類以上の赤色発光材料のうち、最も発光光の波長が長い赤色発光材料は、赤色発光材料を含ませる複数の発光層のうちで金属電極50に対して最も遠い発光ユニットや発光層に含ませることが好ましい。
【0049】
有機EL素子における各有機発光材料を含有する発光層の配置としては、具体的には、次の構成を例示することができる。なお、以下に例示する構成は、第1発光ユニット30Aと第2発光ユニット30Bの2個が備えられる有機EL素子において、各発光ユニットの発光層に透明電極20側から番号を付したものである。例えば、図1における発光層33A,33Bが順に第1発光層、第2発光層に対応し、図3における発光層33A1,33A2,33B1,33B2が順に第1発光層、第2発光層、第3発光層、第4発光層に対応する。また、第1発光ユニット30Aが、単一の発光層を有し、第2発光ユニットが2個の発光層を有する場合には、順に第1発光層、第2発光層、第3発光層に対応することになる。第1赤色発光材料は、第2赤色発光材料よりも波長が長い赤色発光材料である。
【0050】
(1)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料+緑色発光材料]/第2発光ユニット[第2発光層:第2赤色発光材料+青色発光材料]
(2)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料+第2赤色発光材料]/第2発光ユニット[第2発光層:緑色発光材料+青色発光材料]
(3)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料+緑色発光材料]/第2発光ユニット[第2発光層:青色発光材料/第3発光層:第2赤色発光材料]
(4)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料+緑色発光材料]/第2発光ユニット[第2発光層:第2赤色発光材料/第3発光層:青色発光材料]
(5)第1発光ユニット[発光層:第1赤色発光材料+第2赤色発光材料]/第2発光ユニット[第1発光層:青色発光材料/第2発光層:緑色発光材料]
(6)第1発光ユニット[発光層:第1赤色発光材料+第2赤色発光材料]/第2発光ユニット[第1発光層:緑色発光材料/第2発光層:青色発光材料]
(7)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料/第2発光層:緑色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:青色発光材料/第4発光層:第2赤色発光材料]
(8)第1発光ユニット[第1発光層:緑色発光材料/第2発光層:第1赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:青色発光材料/第4発光層:第2赤色発光材料]
(9)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料/第2発光層:緑色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:第2赤色発光材料/第4発光層:青色発光材料]
(10)第1発光ユニット[第1発光層:緑色発光材料/第2発光層:第1赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:第2赤色発光材料/第4発光層:青色発光材料]
(11)第1発光ユニット[第1発光層:第2赤色発光材料/第2発光層:緑色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:青色発光材料/第4発光層:第1赤色発光材料]
(12)第1発光ユニット[第1発光層:緑色発光材料/第2発光層:第2赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:青色発光材料/第4発光層:第1赤色発光材料]
(13)第1発光ユニット[第1発光層:第2赤色発光材料/第2発光層:緑色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:第1赤色発光材料/第4発光層:青色発光材料]
(14)第1発光ユニット[第1発光層:緑色発光材料/第2発光層:第2赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:第1赤色発光材料/第4発光層:青色発光材料]
(15)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料/第2発光層:第2赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:青色発光材料/第4発光層:緑色発光材料]
(16)第1発光ユニット[第1発光層:第2赤色発光材料/第2発光層:第1赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:青色発光材料/第4発光層:緑色発光材料]
(17)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料/第2発光層/第2赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:緑色発光材料/第4発光層:青色発光材料]
(18)第1発光ユニット[第1発光層:第2赤色発光材料/第2発光層/第1赤色発光材料]/第2発光ユニット[第3発光層:緑色発光材料/第4発光層:青色発光材料]
(19)第1発光ユニット[第1発光層:第1赤色発光材料+緑色発光材料]/第2発光ユニット[第2発光層:第2赤色発光材料+緑色発光材料/第3発光層:青色発光材料]
(20)第1発光ユニット[第1発光層:第2赤色発光材料+緑色発光材料]/第2発光ユニット[第2発光層:第1赤色発光材料+緑色発光材料/第3発光層:青色発光材料]
【0051】
これらの中でも好ましい形態は、第1発光ユニットが、緑色発光材料を含有する第1発光層と赤色発光材料を含有する第2発光層とを透明電極側からこの順に有し、第2発光ユニットが、赤色発光材料を含有する第3発光層と青色発光材料を含有する第4発光層とを透明電極側からこの順に有する(13)である。或いは、第1発光ユニットが、緑色発光材料と赤色発光材料とを含有する第1発光層を有し、第2発光ユニットが、緑色発光材料と赤色発光材料とを含有する第2発光層と青色発光材料を含有する第3発光層とを透明電極側からこの順に有する(22)である。このような形態によると、複数色の有機発光材料が使用されていながら、プラズモン損失が極小化され、高い光取り出し効率を有するものとなる。また、有機EL素子の出射光の光源色を、平均演色評価数(Ra)と特殊演色評価数(R9)とが共に高い白色光にして、色度変動も低減することもできる。特に、第1発光ユニットが第1発光層のみを有する(22)では、発光層の成膜工程が縮減される他、電流密度が変動したとしても電荷の再結合領域が隣接する他の発光層に移動することがないため、電流密度変動に対して出射光の色度をより安定させ易い。
【0052】
複数の発光ユニットが有する各発光層は、有機発光材料の濃度が、発光層に含まれる化合物の総質量あたり、28質量%以下であることが好ましい。発光層に含まれる有機発光材料の濃度を28質量%以下に制限すると、有機発光材料の分子同士の凝集が抑制されて濃度消光が生じ難くなるため、高い量子収率を確保することができる。
【0053】
有機EL素子で使用される有機発光材料としては、可視光線の波長領域(凡そ波長360nm以上830nm以下の波長領域)に発光極大波長を示す発光材料であれば、蛍光発光性の発光材料(蛍光発光材料)及び燐光発光性の発光材料(燐光発光材料)のいずれを用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよいが、使用される有機発光材料の全種類が燐光発光材料のみからなることがより好ましい。燐光発光材料の使用によると量子収率が極大化され得るため、蛍光発光材料を使用する場合と比較して、外部取り出し量子効率を向上させることができ、高い輝度を実現し易くすることが可能である。
【0054】
次に、有機EL素子を構成する各要素の詳細について説明する。
【0055】
≪基材≫
基材としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はない。基材側から光を取り出す場合には、基材は透明であることが好ましい。透明な基材としては、具体的には、例えば、ガラス、石英、透明樹脂フィルム等が挙げられる。特に好ましい基材は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、ポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)或いはアペル(商品名三井化学社製)等のシクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。或いは、基材を不透明とする場合には、例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属板や金属製フィルム、樹脂製基板、セラミック製基板等を用いることができる。
【0056】
基材は、無機物、有機物、又は、これらのハイブリッドによるバリア性の被膜が形成されたものでもよい。具体的には、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、0.01g/(m・24h)以下のバリア性フィルムや、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10−3cm/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、10−5g/(m・24h)以下の高バリア性フィルムが好ましい。
【0057】
バリア性の被膜を形成する材料としては、素子を劣化させる水分や酸素等の浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに、バリア性の被膜には、脆弱性を改良させるために積層構造を持たせることが好ましい。積層構造は、例えば、無機層と有機層を交互に複数回積層することにより形成することができる。
【0058】
バリア性の被膜を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等が挙げられる。これらの中でも、特に、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法により形成するのが好ましい。
【0059】
≪陽極≫
陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物、又は、これらの混合物を電極物質とする電極が挙げられる。このような電極物質としては、具体的には、例えば、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等の非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いることができる。
【0060】
陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法を用いて薄膜として形成させた後、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してよく、パターン精度を要しない場合は(100μm以上程度)、所望の形状のマスクを介して蒸着やスパッタリング等の方法によって製膜してパターンを形成してもよい。或いは、有機導電性化合物のように塗布可能な電極物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等の湿式塗布法を用いることもできる。
【0061】
陽極の膜厚は、材料とする電極物質に応じて適宜のものとすることができるが、10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲とする。陽極側から発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましい。陽極のシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましい。
【0062】
≪陰極≫
陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、又は、これらの混合物を電極物質とする電極が挙げられる。このような電極物質としては、具体的には、例えば、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、銀、銀を主成分とする合金、アルミニウム/銀混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0063】
陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法を用いて薄膜として形成することができる。なお、陰極から発光を取り出す場合は、陰極を光透過性を有する透明電極とする。光透過性の陰極は、1〜20nmの膜厚で陰極を形成した後に、陽極の電極物質として公知の導電性透明材料をその上に覆うことで、透明または半透明の陰極を作製することができる。
【0064】
陰極の膜厚は、材料とする電極物質に応じて適宜のものとすることができるが、10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲とする。陰極のシート抵抗は、数百Ω/□以下であることが好ましい。
【0065】
≪発光ユニット≫
発光ユニットの層構成としては、一般的な有機EL素子において採用される適宜の層構成を採ることが可能である。具体的には、次の構成を例示することができる。
(1)正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層
(2)正孔注入輸送層/第1発光層/第2発光層/電子注入輸送層
(3)正孔注入輸送層/第1発光層/中間層/第2発光層/電子注入輸送層
(4)正孔注入輸送層/発光層/正孔阻止層/電子注入輸送層
(5)正孔注入輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子注入輸送層
(6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層
(7)正孔注入層/正孔輸送層/第1発光層/第2発光層/電子輸送層/電子注入層
(8)正孔注入層/正孔輸送層/第1発光層/中間層/第2発光層/電子輸送層/電子注入層
(9)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層
(10)正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層
【0066】
≪発光層≫
発光層は、電極や中間コネクタ層から注入されてくる電子と正孔とが再結合して発光する層である。発光層は、発光を生じる有機発光材料を含有している。有機発光材料としては、ホスト化合物とドーパント化合物とを含有することが好ましい。なお、発光する部分は、発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0067】
各発光層には複数のホスト化合物及びドーパント化合物が含まれていてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。
【0068】
ドーパント化合物としては、燐光発光性ドーパント化合物や蛍光発光性ドーパント化合物を用いることができる。また、ドーパント化合物は、発光層の膜厚方向に対して、均一な濃度で含有されていてもよく、濃度分布を有していてもよい。
【0069】
<燐光発光性ドーパント化合物>
燐光発光性ドーパント化合物は、励起三重項からの発光が観測される化合物である。具体的には、室温(25℃)にて燐光発光する化合物であり、燐光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義される。燐光発光性ドーパント化合物の燐光量子収率は、好ましくは0.1以上である。
【0070】
燐光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中での燐光量子収率は、種々の溶媒を用いて測定できるが、燐光発光性ドーパント化合物は、任意の溶媒のいずれかにおいて上記燐光量子収率が達成されるものであればよい。
【0071】
燐光発光性ドーパント化合物の発光原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーを燐光発光性ドーパント化合物に移動させることで燐光発光性ドーパント化合物からの発光を得るというエネルギー移動型である。もう一つは、燐光発光性ドーパント化合物がキャリアトラップとなり、燐光発光性ドーパント化合物上でキャリアの再結合が起こり燐光発光性ドーパント化合物からの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、燐光発光性ドーパント化合物の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0072】
燐光発光性ドーパント化合物としては、一般的な有機EL素子の発光層に使用される公知の化合物を用いることができる。例えば、特開2013−4245号公報に記載の一般式(4)〜(6)で表される化合物や、例示化合物(Pt−1〜Pt−3、Os−1、Ir−1〜Ir−45)や、以下の化学式で表される例示化合物(Ir−46、Ir−47、Ir−48)等が好適である。
【0073】
【化1】
【0074】
燐光発光性ドーパント化合物のその他の具体例としては、例えば、Nature 395,151 (1998)、Appl. Phys. Lett. 78, 1622 (2001)、Adv. Mater. 19, 739 (2007)、Chem. Mater. 17, 3532 (2005)、Adv. Mater. 17, 1059 (2005)、国際公開第2009100991号、国際公開第2008101842号、国際公開第2003040257号、米国特許公開第2006835469号、米国特許公開第20060202194号、米国特許公開第20070087321号、米国特許公開第20050244673号に記載されている化合物が挙げられる。
【0075】
また、Inorg. Chem. 40, 1704 (2001)、Chem. Mater. 16, 2480 (2004)、Adv. Mater. 16, 2003 (2004)、Angew. Chem. lnt. Ed. 2006, 45, 7800、Appl. Phys. Lett. 86, 153505 (2005)、Chem. Lett. 34, 592 (2005)、Chem. Commun. 2906 (2005)、Inorg. Chem. 42, 1248 (2003)、国際公開第2009050290号、国際公開第2002015645号、国際公開第2009000673号、米国特許公開第20020034656号、米国特許第7332232号、米国特許公開第20090108737号、米国特許公開第20090039776号、米国特許第6921915号、米国特許第6687266号、米国特許公開第20070190359号、米国特許公開第20060008670号、米国特許公開第20090165846号、米国特許公開第20080015355号、米国特許第7250226号、米国特許第7396598号、米国特許公開第20060263635号、米国特許公開第20030138657号、米国特許公開第20030152802号、米国特許第7090928号に記載されている化合物が挙げられる。
【0076】
また、Angew. Chem. lnt. Ed. 47, 1 (2008)、Chem. Mater. 18, 5119 (2006)、Inorg. Chem. 46, 4308 (2007)、Organometallics 23, 3745 (2004)、Appl. Phys. Lett. 74, 1361 (1999)、国際公開第2002002714号、国際公開第2006009024号、国際公開第2006056418号、国際公開第2005019373号、国際公開第2005123873号、国際公開第2005123873号、国際公開第2007004380号、国際公開第2006082742号、米国特許公開第20060251923号、米国特許公開第20050260441号、米国特許第7393599号、米国特許第7534505号、米国特許第7445855号、米国特許公開第20070190359号、米国特許公開第20080297033号、米国特許第7338722号、米国特許公開第20020134984号、米国特許第7279704号、米国特許公開第2006098120号、米国特許公開第2006103874号に記載されている化合物が挙げられる。
【0077】
また、国際公開第2005076380号、国際公開第2010032663号、国際公開第第2008140115号、国際公開第2007052431号、国際公開第2011134013号、国際公開第2011157339号、国際公開第2010086089号、国際公開第2009113646号、国際公開第2012020327号、国際公開第2011051404号、国際公開第2011004639号、国際公開第2011073149号、米国特許公開第2012228583号、米国特許公開第2012212126号、特開2012−069737号公報、特開2012−195554号公報、特開2009−114086号公報、特開2003−81988号公報、特開2002−302671号公報、特開2002−363552号公報等に記載されている化合物が挙げられる。
【0078】
<蛍光発光性ドーパント化合物>
蛍光発光性ドーパント化合物としては、一般的な有機EL素子の発光層に使用される公知の化合物を用いることができる。具体的には、例えば、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0079】
また、蛍光発光性ドーパント化合物として、遅延蛍光発光性の化合物を用いることもできる。遅延蛍光発光性の蛍光発光性ドーパント化合物としては、例えば、国際公開第2011/156793号、特開2011−213643号公報、特開2010−93181号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0080】
発光層の膜厚は、好ましくは5nm〜200nm、より好ましくは10nm〜100nmである。発光層の膜厚がこのような範囲であると、形成される発光層の均質性が確保され易く、また、駆動電圧が過度に高くなる恐れが低くなる。
【0081】
<ホスト化合物>
ホスト化合物は、発光層において主に電荷の輸送を担う化合物である。ホスト化合物としては、室温(25℃)における燐光発光の燐光量子収率が、0.1未満の化合物が好ましく、0.01未満の化合物がより好ましい。また、ホスト化合物は、発光層に含有される化合物のうちで、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
【0082】
ホスト化合物としては、一般的な有機EL素子の発光層に使用される公知の化合物を用いることができる。具体的には、例えば、カルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有する化合物や、カルボリン誘導体や、ジアザカルバゾール誘導体(カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているもの)等が挙げられる。ホスト化合物は、低分子化合物や、繰り返し単位を有する高分子化合物でもよく、或いは、ビニル基やエポキシ基のような反応性基を有する化合物でもよい。ホスト化合物としては、正孔輸送能又は電子輸送能を有し、且つ、発光の長波長化を防ぎ、高ガラス転移温度(Tg)である化合物が好ましい。ホスト化合物のTgは、好ましくは90℃以上、より好ましくは120℃以上である。なお、Tgは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
【0083】
ホスト化合物は、単一の発光層あたりにおいて、1種類を用いてよく、複数種類を用いてもよい。複数種類のホスト化合物を用いることによって、電荷の移動を調整することができ、有機EL素子の高効率化が可能である。また、複数種類のドーパント化合物を併用する場合に、各発光光を適切に発生させることができる。
【0084】
ホスト化合物の具体例としては、例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等に記載されている化合物が挙げられる。
【0085】
≪正孔輸送層≫
正孔輸送層は、注入された正孔を発光層側に輸送する機能を有する層である。
【0086】
正孔輸送層に適用可能な材料としては、例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、ポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖若しくは側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えば、PEDOT:PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
【0087】
トリアリールアミン誘導体としては、α−NPDに代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。また、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体を用いることができる。
【0088】
正孔輸送材料の具体例としては、その他、 Appl. Phys. Lett. 69, 2160 (1996)、J. Lumin. 72−74, 985 (1997)、Appl. Phys. Lett. 78, 673 (2001)、Appl. Phys. Lett. 90, 183503 (2007)、Appl. Phys. Lett. 90, 183503 (2007)、Appl. Phys. Lett. 51, 913 (1987)、Synth. Met. 87, 171 (1997)、Synth. Met. 91, 209 (1997)、Synth. Met. 111,421 (2000)、SID Symposium Digest, 37, 923 (2006)、J. Mater. Chem. 3, 319 (1993)、Adv. Mater. 6, 677 (1994)、Chem. Mater. 15,3148 (2003)、米国特許公開第20030162053号、米国特許公開第20020158242号、米国特許公開第20060240279号、米国特許公開第20080220265号、米国特許第5061569号、国際公開第2007002683号、国際公開第2009018009号、EP650955、米国特許公開第20080124572号、米国特許公開第20070278938号、米国特許公開第20080106190号、米国特許公開第20080018221号、国際公開第2012115034号、特表2003−519432号公報、特開2006−135145号公報、米国特許出願番号13/585981号等に記載されている化合物が挙げられる。
【0089】
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているようなp型正孔輸送材料を利用することも可能である。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物や、Ir(ppy)に代表されるような中心金属にIrやPt等を有するオルトメタル化有機金属錯体を用いることもできる。
【0090】
正孔輸送層の膜厚は、特に制限されるものではないが、通常5nm〜5μm、好ましくは2nm〜500nm、より好ましくは5nm〜200nmである。
【0091】
≪電子輸送層≫
電子輸送層は、注入された電子を発光層側に輸送する機能を有する層である。電子輸送層は、単層からなるものであっても、複数層からなるものであってもよい。
【0092】
電子輸送層に適用可能な材料としては、例えば、含窒素芳香族複素環誘導体、芳香族炭化水素環誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体等が挙げられる。含窒素芳香族複素環誘導体としては、例えば、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の1つ以上が窒素原子に置換)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等が挙げられる。また、芳香族炭化水素環誘導体としては、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン誘導体等が挙げられる。
【0093】
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等や、これらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体を用いることができる。また、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又は、それらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものを用いることができる。また、n型−Si、n型−SiC等の無機化合物を用いることもできる。
【0094】
電子輸送材料の具体例としては、その他、米国特許第6528187号、米国特許第7230107号、米国特許公開第20050025993号、米国特許公開第20040036077号、米国特許公開第20090115316号、米国特許公開第20090101870号、米国特許公開第20090179554号、国際公開第2003060956号、国際公開第2008132085号、Appl. Phys. Lett. 75, 4 (1999)、Appl. Phys. Lett. 79, 449 (2001)、Appl. Phys. Lett. 81, 162 (2002)、Appl. Phys. Lett. 81, 162 (2002)、Appl. Phys. Lett. 79, 156 (2001)、米国特許第7964293号、米国特許公開第2009030202号、国際公開第2004080975号、国際公開第2004063159号、国際公開第2005085387号、国際公開第2006067931号、国際公開第2007086552号、国際公開第2008114690号、国際公開第2009069442号、国際公開第2009066779号、国際公開第2009054253号、国際公開第2011086935号、国際公開第2010150593号、国際公開第2010047707号、EP2311826号、特開2010−251675号公報、特開2009−209133号公報、特開2009−124114号公報、特開2008−277810号公報、特開2006−156445号公報、特開2005−340122号公報、特開2003−45662号公報、特開2003−31367号公報、特開2003−282270号公報、国際公開第2012115034号等に記載されている化合物が挙げられる。
【0095】
電子輸送層の膜厚は、特に制限されるものではないが、2nm〜5μm、好ましくは2nm〜500nmであり、より好ましくは5nm〜200nmである。また、電子輸送層の電子移動度は、好ましくは10−5cm/Vs以上である。
【0096】
≪正孔注入層≫
正孔注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層である。正孔注入層は、例えば、陽極と発光層との間や、陽極と正孔輸送層との間に介在させることができる。正孔注入層については、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。また、例えば、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されている。
【0097】
正孔注入層に適用可能な材料としては、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が挙げられる。
【0098】
≪電子注入層≫
電子注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層である。電子注入層は、例えば、陰極と発光層との間や、陰極と電子輸送層との間に介在させることができる。電子注入層については、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。また、例えば、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されている。
【0099】
電子注入層に適用可能な材料としては、具体的には、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される酸化物、リチウム8−ヒドロキシキノレート(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。
【0100】
電子注入層の膜厚は、特に制限されるものではないが、好ましくは0.1nm〜5μmである。
【0101】
≪正孔阻止層≫
正孔阻止層は、広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい層とされる。電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0102】
正孔阻止層に適用可能な正孔阻止材料としては、例えば、電子輸送層に適用可能な材料として挙げられた化合物や、ホスト化合物として挙げられた化合物等が挙げられる。
【0103】
正孔阻止層の膜厚は、好ましくは3nm〜100nmであり、より好ましくは5nm〜30nmである。
【0104】
≪電子阻止層≫
電子阻止層は、広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい層とされる。正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0105】
電子阻止層に適用可能な電子阻止材料としては、例えば、正孔輸送材料と同様の種を用いることができる。正孔輸送層に適用可能な材料として挙げられた化合物や、ホスト化合物として挙げられた化合物等が挙げられる。
【0106】
電子阻止層の膜厚は、好ましくは3nm〜100nmであり、より好ましくは5nm〜30nmである。
【0107】
発光ユニットを形成するこれらの各層は、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)、インクジェット法、スプレー法、印刷法、スロット型コータ法等の公知の薄膜形成法によって、各材料を成膜することで形成することができる。
【0108】
有機材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素環類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
【0109】
成膜にあたっては、必要に応じメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよい。
【0110】
≪中間コネクタ層≫
中間コネクタ層は、非発光性の層であり、複数の各発光ユニット同士の間に挟まれるようにして備えられる。中間コネクタ層としては、金属単独層及び電荷発生層のいずれかとすることができる。金属単独層は、金属又は合金からなり、0.1nm〜10nmの厚さの薄い層によって構成される。また、電荷発生層は、電界が印加されたときに、陰極側に正孔を注入し、或いは、陽極側に電子を注入する機能を有する層である。中間コネクタ層としては、プラズモン損失をより低減できる点で、電荷発生層の構成であることが好ましい。
【0111】
<金属単独層>
金属単独層は、陽極や陰極と同様の材料や、陽極や陰極よりも導電率が低い材料を用いて形成することができる。金属単独層は、その一部の微細領域にほとんど金属材料が製膜されていない状態、いわゆるピンホールが形成されていたり、面内方向において網状に形成されていたり、島状(斑状)に分布するように形成されていてもよい。
【0112】
金属単独層に適用可能な材料としては、例えば、カルシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、バリウム、ストロンチウム、アルミニウム、銀等の金属や、これらを主成分とする合金や、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。
【0113】
金属単独層の膜厚は、好ましくは0.6nm〜5nm、より好ましくは0.8nm〜3nm、さらに好ましくは0.8nm〜2nmである。金属単独層の膜厚を0.6nm以上とすると、有機EL素子の性能安定性を確保し易く、特に、製造直後の初期性能の変動を低減することが可能となる。また、金属単独層の膜厚を5nm以下とすると、透過する光の吸収が抑えられるため、発光効率、保存安定性、駆動安定性を高くすることができる。
【0114】
金属単独層に隣接する層は、金属単独層との間で、電荷の授受を容易に行える機能を有していることが好ましい。具体的には、金属単独層に隣接する層は、例えば、電荷輸送性が高い電荷輸送性有機材料と、この電荷輸送性有機材料を酸化ないし還元することができる無機材料若しくは有機金属錯体、又は、この電荷輸送性有機材料と電荷移動錯体を形成し得るような無機材料若しくは有機金属錯体とをドーピングした混合層として形成されることが好ましい。
【0115】
金属単独層は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーディング法、イオンビームスパッタ法等の公知の方法により形成することができる。
【0116】
<電荷発生層>
電荷発生層は、電界が印加されたときに、陰極側に正孔を注入し、陽極側に電子を注入する機能を有する層である。電荷発生の位置は、電荷発生層内であっても、電荷発生層と隣接する他の層との界面であってもよい。或いは、そのような界面の近傍であってもよい。
【0117】
電荷発生層は、単一の層で形成される場合もあるし、複数の層で形成される場合もある。電荷発生層は、バイポーラ層、p型層及びn型層のいずれかを含むことが好ましく、p型層及びn型層のいずれかを含むことがより好ましく、p型層及びn型層の両方を含むことがさらに好ましい。
【0118】
バイポーラ層は、外部電界により、層内部で正孔と電子とを発生且つ輸送し得る層である。また、p型層は、多数キャリアが正孔である電荷輸送層であり、n型層は、多数キャリアが電子である電荷輸送層である。p型層及びn型層は、半導体以上の導電性を有していることが好ましい。
【0119】
電荷発生層の層構成としては、次の構成を例示することができる。
(1)発光ユニット/バイポーラ層(一層)/発光ユニット
(2)発光ユニット/n型層/p型層/発光ユニット
(3)発光ユニット/n型層/中間層/p型層/発光ユニット
なお、この中間層は、例えば、n型層及びp型層の拡散防止層、p−n間の反応抑制層、p型層とn型層との電荷準位を調整する準位調整層等であり、電荷発生能及び長期安定性を向上するために設けられる層である。
【0120】
電荷発生層が、複数の層で形成される場合は、複数の層同士の界面は、界面(ヘテロ界面、ホモ界面)を有していてよく、バルクヘテロ構造、島状、相分離等の多次元的な界面を形成していてもよい。
【0121】
電荷発生層を形成する各層の膜厚は、特に制限されるものではないが、好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは10nm〜50nmである。
【0122】
電荷発生層は、発光層から放出される光に対して高い光透過率を有することが好ましい。具体的には、波長550nmにおける透過率が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0123】
電荷発生層を形成する層としては、より具体的には、次の層を例示することができる。
(1)電子輸送性材料層
(2)電子引抜層(有機アクセプター材料・無機アクセプター材料)
(3)電子輸送性材料とアルカリ(土類)金属塩(若しくはアルカリ(土類)金属前駆体)の混合層
(4)n型半導体層(有機材料、無機材料)
(5)n型導電性ポリマー層
(6)単一の正孔注入・輸送性材料層
(7)複数種の正孔注入・輸送性材料混合層
(8)有機金属錯体層
(9)正孔輸送性材料と金属酸化物の混合層
(10)p型半導体層(有機材料、無機材料)
(11)p型導電性ポリマー層
【0124】
電荷発生層を構成する材料としては、仕事関数が3.0eV以下の無機材料又は有機材料を電子注入性の層(n型層)に用いることができる。また、仕事関数が4.0eV以上の無機材料又は有機材料を正孔注入性の層(p型層)に用いることができる。前記(1)〜(11)に例示されるような層を構成する無機材料や有機材料としては、適宜の材料を利用することができる。前記の正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層に適用可能な材料を用いることも可能である。
【0125】
電子注入性の層は、特に電子供与性材料を含むことが好ましい。また、正孔注入性の層は、特に電子受容性材料を含むことが好ましい。これらの電子供与性材料や電子受容性材料は、単独で層を形成してよく、バインダやその他の電荷輸送性材料との混合によって層を形成してもよい。
【0126】
電子供与性材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、又は、元素周期表における第13族に属する金属や、これらを含有する酸化物、ハロゲン化物、塩等の化合物を用いることができる。具体的には、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、インジウム等や、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、酸化リチウム、炭酸セシウム等が挙げられる。また、特開2012−014905号公報に記載されているようなフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、テトラチアフルバレン(TTF)誘導体、テトラチアテトラセン(TTT)誘導体、メタロセン誘導体、チオフェン誘導体、イミダゾールラジカル誘導体、縮合多環芳香族炭化水素、アリールアミン誘導体、アジン誘導体、遷移金属配位錯塩誘導体等も用いることができる。
【0127】
電子受容性材料としては、例えば、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化タングステン等の金属酸化物や、塩化第2鉄、ヨウ化第2鉄、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、塩化インジウム、ヨウ化インジウム、塩化ガリウム、ヨウ化ガリウム、五塩化アンチモン、三フッ化ホウ素等のハロゲン化物等を用いることができる。また、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)、ジシアノ−ジクロロキノン(DDQ)、トリニトロフルオレノン(TNF)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)等や、その他の電子受容性材料として、特開2011−086442号公報や、特開2012−014905号公報に記載されているようなキノン誘導体、ポリシアノ誘導体、テトラシノアキノジメタン誘導体、DCNQI誘導体、ポリニトロ誘導体、遷移金属配位錯塩誘導体、フェナントロリン誘導体、アザカルバゾール誘導体、キノリノール金属錯体誘導体、複素芳香族炭化水素化合物、フラーレン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、フッ素化複素環誘導体を用いることもできる。
【0128】
電荷発生層を構成する層の形成には、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)、インクジェット法、スプレー法、印刷法、スロット型コータ法等の公知の薄膜形成法を利用することができる。また、その他の方法として、電荷発生層を構成する層を無機材料で形成する場合には、微粒子分散液、前駆体微粒子分散液若しくは前駆体溶液、或いは溶解液を湿式塗布し、必要に応じて外部からエネルギーを供与して形成することもできる。
【0129】
外部エネルギー源としては、熱、光(紫外、可視、赤外など)、電磁波(マイクロ波など)、プラズマ、放電などを選択することができる。外部エネルギーを加えることによって、より導電性の高い膜を形成することができる。また、形成される層の伝導帯、価電子帯、フェルミ準位を外部エネルギーで変化させることが出来る。
【0130】
微粒子分散液としては、微粒子を水又は有機溶剤で分散した分散液が用いられる。微粒子は、好ましくは10μm以下の平均粒径であり、より好ましくは100nm以下の平均粒径であり、さらに好ましくは20nm以下の平均粒径を有する粒子である。
【0131】
無機材料の微粒子分散液としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、亜鉛等の金属やこれらを主成分とする合金の微粒子が分散した微粒子金属分散液や、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ITO、IZO、In−Ga−Zn−Oxide等の微粒子が分散した微粒子無機酸化物分散液や、銅金属塩(CuIなど)、銀金属塩(AgIなど)、鉄塩(FeClなど)、化合物半導体(ガリウム−ヒ素、カドミウム−セレンなど)、チタン酸塩(SrTiO、BaTiOなど)等の微粒子が分散した微粒子無機塩分散液が挙げられる。
【0132】
無機材料の前駆体微粒子分散液若しくは前駆体溶液としては、ゾルゲル反応、酸化還元反応等によって、電荷発生層を構成する層を形成する分散液若しくは溶液が挙げられる。すなわち、ゾルゲル反応の前駆体となるチタン、ジルコニウム、亜鉛、スズ、ニオブ、モリブデン、バナジウム等の金属ハロゲン化塩、金属アルコキシド、金属酢酸塩等が分散若しくは溶解したものや、酸化還元反応の前駆体となるAgI等の還元性金属化合物等が分散若しくは溶解したものである。
【0133】
≪封止≫
有機EL素子の封止には、例えば、封止部材と電極や基材とを接着剤で接着する方法を用いることができる。封止部材は、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されればよく、凹板状でも平板状でもよい。封止部材の透明性や電気絶縁性は、特に問わない。
【0134】
封止部材としては、例えば、ガラス板、ポリマー板、ポリマーフィルム、金属板、金属フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、具体的には、ソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。ポリマー板、ポリマーフィルムとしては、具体的には、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等が挙げられる。金属板、金属フィルムとしては、具体的には、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属又はこれらの合金からなるものが挙げられる。封止部材を凹状に加工するには、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等を用いることができる。
【0135】
ポリマーフィルムは、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3cm3/(m2・24h・atm)以下であることが好ましい。また、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m2・24h)以下であることが好ましい。
【0136】
封止部材を接着させる接着剤としては、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマー等の反応性ビニル基を有する光硬化型又は熱硬化型接着剤や、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型接着剤や、エポキシ系等の熱硬化型又は化学硬化型(二液混合)接着剤や、ホットメルト型のポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系等の接着剤や、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤が挙げられる。
【0137】
接着剤は、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。接着剤の塗布は、市販のディスペンサーを使ってよいし、スクリーン印刷によってもよい。
【0138】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相の場合には、窒素、アルゴン等の不活性気体や、フッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。或いは、真空としてもよい。また、間隙の内部に吸湿性化合物を封入してもよい。吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられる。硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては、無水塩が好適に用いられる。
【0139】
また、有機EL素子の封止には、基材と対向する側の電極の外側に電極と発光ユニットとを被覆し、基材と接するかたちで無機物、有機物、又は、これらのハイブリッドによるバリア性の被膜を形成して封止膜とする方法を用いることもできる。
【0140】
≪保護膜、保護板≫
封止部材や封止膜の外側には、有機EL素子を物理的に保護するための保護膜又は保護板を設けてもよい。特に、封止膜の機械的強度は必ずしも高くないため、有機ELの封止が封止膜によって行われている場合には、保護膜又は保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、封止に用い得るのと同様のガラス板、ポリマー板、ポリマーフィルム、金属板、金属フィルム等が挙げられる。これらの中でも、軽量であり、薄膜化が可能である点でポリマーフィルムが好ましい。
【0141】
≪光取り出し≫
有機EL素子は空気よりも屈折率の高い層(屈折率1.6〜2.1程度の層)の内部で発光し、発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的にいわれている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基材と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基材との間で光が全反射を起こし、光が透明電極や発光ユニット等を導波し、結果として光が素子側面方向に逃げること等にも因っている。
【0142】
このような光損失を低減する手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4,774,435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63−314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1−220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62−172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001−202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11−283751号公報)等を利用することもできる。
【0143】
≪集光≫
有機EL素子の光取り出し側の表面は、例えば、マイクロレンズアレイ状の構造を設けるように加工したり、集光シートを貼付させたりすることもできる。このようにして出射光を特定方向、例えば、素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
【0144】
マイクロレンズアレイ状の構造としては、具体的には、一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する構造を例示することができる。一辺が10μm〜100μmであれば、回折の効果が発生して色付いたり、構造の厚さが過度に厚くなったりする恐れが低い。また、三角形状のストライプが形成された構造であってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状や、ピッチをランダムに変化させた形状等であってもよい。
【0145】
集光シートとしては、例えば、液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを利用することができる。具体的には、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。また、光放射角を制御するために、光拡散板や光拡散フィルムを集光シートと併用してもよい。光拡散フィルムとしては、例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。
【0146】
≪用途≫
以上の本発明に係る有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源としては、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられる。有機EL素子には、共振器構造を持たせてもよく、レーザー発振をさせることによって使用してもよい。本発明に係る有機EL素子の用途としては、表示装置のバックライト、照明装置の光源としての用途が特に好ましく、出射光が白色光とされたデバイスに好適である。
【0147】
有機発光材料の発光の色や有機EL素子の出射光の色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0148】
また、本明細書においては、光色の黒体輻射軌跡からの偏差Duvが、相関色温度が2500〜7500Kの範囲内において、−20〜+20の範囲に含まれる光を白色光と呼ぶものとする。Duv(=1000duv)の定義はJIS Z 8725:1999「光源の分布温度および色温度・相関色温度測定方法」による。
【実施例】
【0149】
以下、本発明の実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0150】
本発明の実施例として、2個の発光ユニットを備える白色発光性の有機EL素子を製造した。なお、実施例に係る有機EL素子としては、複数の発光ユニットのうち、金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、複数の発光ユニットのうちで発光光の波長が最も短い有機発光材料を含有している試料101〜試料109を、発光ユニットにおける発光層の構成と有機発光材料の種類とを変えてそれぞれ製造した。また、対照の試料(比較例に係る有機EL素子)としては、複数の発光ユニットのうち、金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、複数の発光ユニットのうちで発光光の波長が最も短い有機発光材料を含有していない試料110〜試料112をそれぞれ製造した。
【0151】
図4は、本発明の実施例に係る有機EL素子の概略を示す斜視図である。また、図5は、本発明の実施例に係る有機EL素子を模式的に示す断面図である。
【0152】
図4に示すように、実施例に係る有機EL素子100は、ガラス基板101が、ガラスカバー102で覆われた構造となっている。なお、ガラスカバー102での封止作業は、有機EL素子を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。
【0153】
また、図5に示すように、ガラス基板101上には、透明電極である陽極103と、複数の発光ユニットを含む電極間構成要素104と、金属電極である陰極105とが積層されている。なお、ガラスカバー102内には窒素ガスが充填され、捕水剤107が設けられている。
【0154】
≪試料101の作製≫
<透明電極の形成>
有機EL素子の基材として、30mm×30mm、厚さ0.7mmのガラス製透明基板を準備した。この透明基板上に、ITO(インジウムチンオキシド)を150nmの厚さにパターニングして成膜し、透明電極である陽極を形成した。次いで、陽極が形成された透明基板を、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した後、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0155】
<第1発光ユニットの形成>
続いて、真空蒸着装置を使用して、以下の手順で、第1発光ユニットを形成した。はじめに、陽極が形成された透明基板を真空蒸着装置の基板ホルダに固定し、真空蒸着装置の各蒸着用坩堝には、第1発光ユニットを構成する各層の材料を充填した。なお、坩堝としては、モリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用坩堝を用いた。
【0156】
続いて、真空蒸着装置のチャンバを真空度1×10−4Paにまで減圧し、下記構造式で表される化合物M−1(MTDATA)を、蒸着速度0.1nm/秒で陽極上に蒸着し、膜厚15nmの正孔注入層を形成した。
【0157】
【化2】
【0158】
次いで、下記構造式で表される化合物M−2(α−NPD)を、正孔注入層上に蒸着し、膜厚50nmの正孔輸送層を形成した。
【0159】
【化3】
【0160】
続いて、下記構造式で表される化合物GD−1(緑色発光材料)と化合物H−1(ホスト化合物)とを、化合物GD−1が15質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層上に共蒸着し、膜厚30nmの第1発光層を形成した。
【0161】
【化4】
【0162】
次いで、下記構造式で表される化合物RD−1(赤色発光材料)と化合物H−1(ホスト化合物)とを、化合物RD−1が15質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で第1発光層上に共蒸着し、膜厚30nmの第2発光層を形成した。なお、化合物RD−1は、波長620nm付近の領域に発光極大波長を示す燐光発光性の赤色発光材料(赤色燐光発光材料)である。
【0163】
【化5】
【0164】
続いて、下記構造式で表される化合物E−1(ET−100)を、蒸着速度0.1nm/秒で第2発光層上に蒸着し、膜厚20nmの電子輸送層を形成した。
【0165】
【化6】
【0166】
<中間コネクタ層の形成>
続いて、n型ドーパント材料「NDN−26」(Novaled社製)と化合物E−1とを、NDN−26が5質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で第1発光ユニット上に共蒸着し、膜厚20nmのn型層を形成した。
【0167】
次いで、p型ドーパント材料「NDP−9」(Novaled社製)と化合物M−2とを、NDP−9が50体積%となるように蒸着速度0.1nm/秒でn型層上に共蒸着し、膜厚10nmのp型層を形成した。
【0168】
<第2発光ユニットの形成>
続いて、化合物M−2を、蒸着速度0.1nm/秒でp型層上に蒸着し、膜厚50nmの正孔輸送層を形成した。
【0169】
続いて、下記構造式で表される化合物BD−1(青色発光材料)と化合物RD−1と化合物H−1(ホスト化合物)とを、化合物BD−1が15質量%、化合物RD−1が1.5質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層上に共蒸着し、膜厚30nmの第3発光層を形成した。
【0170】
【化7】
【0171】
続いて、化合物E−1を、蒸着速度0.1nm/秒で第3発光層上に蒸着し、膜厚35nmの電子輸送層を形成した。
【0172】
次いで、LiFを、電子輸送層上に蒸着し、膜厚1.5nmの電子注入層を形成した。
【0173】
<金属電極の形成>
この透明基板上に、アルミニウムを110nmの厚さで成膜し、金属電極である陰極を形成した。
【0174】
続いて、陰極の透明電極側とは反対側の非発光面をガラスケースで封止すると共に、透明基板の陽極とは反対側の発光面に集光シートを貼付して、試料101の有機EL素子とした。
【0175】
≪試料102の作製≫
試料102の有機EL素子は、第2発光ユニットの構成を次のように変えた点を除いて、試料101の有機EL素子と同様にして製造した。
【0176】
<第2発光ユニットの形成>
第2発光ユニットの形成においては、化合物M−2を、蒸着速度0.1nm/秒でp型正孔輸送層上に蒸着し、膜厚50nmの正孔輸送層を形成した。
【0177】
続いて、化合物BD−1(青色発光材料)と化合物H−1(ホスト化合物)とを、化合物BD−1が15質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層上に共蒸着し、膜厚30nmの第3発光層を形成した。
【0178】
次いで、化合物RD−1(赤色発光材料)と化合物H−1(ホスト化合物)とを、化合物RD−1が15質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で第3発光層上に共蒸着し、膜厚30nmの第4発光層を形成した。
【0179】
続いて、化合物E−1を、蒸着速度0.1nm/秒で第4発光層上に蒸着し、膜厚35nmの電子輸送層を形成した。
【0180】
次いで、LiFを、電子輸送層上に蒸着し、膜厚1.5nmの電子注入層を形成した。
【0181】
≪試料103の作製≫
試料103の有機EL素子は、各発光層に含有させる有機発光材料の種類を、下表に示すように変えると共に、化合物BD−1(青色発光材料)が30質量%となるように蒸着して発光層を形成した点を除いて、試料102の有機EL素子と同様にして製造した。
【0182】
≪試料104〜試料107の作製≫
試料104〜試料107の有機EL素子は、各発光層に含有させる有機発光材料の種類を、下表に示すように変えた点を除いて、試料102の有機EL素子と同様にして製造した。なお、化合物RD−2は、波長605nm付近の領域に発光極大波長を示す燐光発光性の赤色発光材料(赤色燐光発光材料)である。
【0183】
【化8】
【0184】
≪試料108の作製≫
試料108の有機EL素子は、第1発光ユニット及び第2発光ユニットの構成を次のように変えた点を除いて、試料101の有機EL素子と同様にして製造した。
【0185】
<第1発光ユニットの形成>
第1発光ユニットの形成においては、化合物M−1を、蒸着速度0.1nm/秒で陽極上に蒸着し、膜厚15nmの正孔注入層を形成した。
【0186】
次いで、化合物M−2を、正孔注入層上に蒸着し、膜厚50nmの正孔輸送層を形成した。
【0187】
続いて、化合物GD−1と化合物RD−2と化合物H−1とを、化合物GD−1が15質量%、化合物RD−2が1.5質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層上に共蒸着し、膜厚30nmの第1発光層を形成した。
【0188】
<第2発光ユニットの形成>
第2発光ユニットの形成においては、化合物M−2を、蒸着速度0.1nm/秒でp型正孔輸送層上に蒸着し、膜厚50nmの正孔輸送層を形成した。
【0189】
続いて、化合物GD−1と化合物RD−1と化合物H−1とを、化合物GD−1が15質量%、化合物RD−1が5質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層上に共蒸着し、膜厚30nmの第3発光層を形成した。
【0190】
次いで、化合物BD−1と化合物H−1とを、化合物BD−1が15質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で第3発光層上に共蒸着し、膜厚30nmの第4発光層を形成した。
【0191】
続いて、化合物E−1を、蒸着速度0.1nm/秒で第4発光層上に蒸着し、膜厚35nmの電子輸送層を形成した。
【0192】
次いで、LiFを、電子輸送層上に蒸着し、膜厚1.5nmの電子注入層を形成した。
【0193】
≪試料109の作製≫
試料109の有機EL素子は、各発光層に含有させる有機発光材料の種類を、下表に示すように変えた点を除いて、試料108の有機EL素子と同様にして製造した。
【0194】
≪試料110〜試料111の作製≫
試料110〜試料111の有機EL素子は、各発光層に含有させる有機発光材料の種類を、下表に示すように変えた点を除いて、試料101の有機EL素子と同様にして製造した。
【0195】
≪試料112の作製≫
試料112の有機EL素子は、発光ユニットの構成を次のように変えた点を除いて、試料101の有機EL素子と同様にして製造した。
【0196】
<発光ユニットの形成>
発光ユニットの形成においては、化合物M−1を、蒸着速度0.1nm/秒で陽極上に蒸着し、膜厚15nmの正孔注入層を形成した。
【0197】
次いで、化合物M−2を、正孔注入層上に蒸着し、膜厚50nmの正孔輸送層を形成した。
【0198】
続いて、化合物GD−1と化合物RD−2と化合物H−1とを、化合物GD−1が15質量%、化合物RD−2が1.5質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層上に共蒸着し、膜厚30nmの第1発光層を形成した。
【0199】
次いで、化合物BD−1と化合物H−1とを、化合物BD−1が15質量%となるように蒸着速度0.1nm/秒で第1発光層上に共蒸着し、膜厚30nmの第2発光層を形成した。
【0200】
続いて、化合物E−1を、蒸着速度0.1nm/秒で第2発光層上に蒸着し、膜厚35nmの電子輸送層を形成した。
【0201】
次いで、LiFを、電子輸送層上に蒸着し、膜厚1.5nmの電子注入層を形成した。
【0202】
<金属電極の形成>
この透明基板上に、アルミニウムを110nmの厚さで成膜し、金属電極である陰極を形成した。
【0203】
続いて、陰極の透明電極側とは反対側の非発光面をガラスケースで封止すると共に、透明基板の陽極とは反対側の発光面に集光シートを貼付して、試料112の有機EL素子とした。
【0204】
製造した試料101〜試料112の有機EL素子に使用されている有機発光材料の配置、及び、発光光の波長が最も短い有機発光材料(BD−1)の濃度(質量%)は、次の表のとおりである。なお、金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、第2発光ユニットであり、金属電極に対して最も近くに配置されている発光層が、発光層4である。
【0205】
【表1】
【0206】
≪試料の評価≫
次に、製造した試料101〜試料112の有機EL素子について、外部取り出し量子効率、駆動電圧、電力効率、演色性(平均演色評価数(Ra)及び特殊演色評価数(R9))、電流密度の変動に対する色度安定性、発光寿命、駆動時間に対する色度安定性を評価した。
【0207】
<分光輝度評価>
試料の有機EL素子の外部取り出し量子効率、駆動電圧、電力効率、平均演色評価数(Ra)及び特殊演色評価数(R9)は、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタセンシング社製)を使用して測定した。なお、試料の有機EL素子は、2.5mA/cmの定電流でそれぞれ駆動させた。これらの結果を表2に示す。各試料についての結果は、試料101の測定値を100とする相対値で示したものである。
【0208】
<電流密度の変動に対する色度安定性評価>
試料の有機EL素子の電流密度の変動に対する色度安定性は、各試料の電流密度を1mA/cmから2mA/cmに増加させたときの出射光の色度変動(色度差(ΔE))によって評価した。色度差(ΔE)は、各電流密度における出射光についてCIE1931表色系色度図における色度座標(x,y)をそれぞれ測定し、色度座標の変位(Δx,Δy)から、下記の数式1にしたがって算出した。なお、色度(色度座標)の測定には、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタセンシング社製)を使用した。その結果を表2に示す。
ΔE=(Δx+Δy1/2・・・(数式1)
【0209】
<発光寿命評価>
試料の有機EL素子の発光寿命は、初期輝度の半減期によって評価した。具体的には、試料の有機EL素子を、正面輝度が4000cd/mとなる定電流でそれぞれ連続駆動させて、正面輝度が2000cd/mにまで低下するのに要する時間をそれぞれ計測して発光寿命とした。その結果を表2に示す。各試料についての結果は、試料101の測定値を100とする相対値で示したものである。
【0210】
<駆動時間に対する色度安定性評価>
試料の有機EL素子の駆動時間に対する色度安定性は、各試料を初期輝度の半減期まで連続駆動させたときの出射光の色度変動(色度差(ΔE))によって評価した。色度差(ΔE)は、初期輝度の発光光と半減期の出射光とについてCIE1931表色系色度図における色度座標(x,y)をそれぞれ測定し、色度座標の変位(Δx,Δy)から、数式1にしたがって算出した。その結果を表2に示す。
【0211】
【表2】
【0212】
<評価結果>
表2に示すように、複数の発光ユニットのうち、金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、複数の発光ユニットのうちで発光光の波長が最も短い有機発光材料を含有している試料101〜試料109では、複数の発光ユニットのうち、金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、複数の発光ユニットのうちで発光光の波長が最も短い有機発光材料を含有していない試料110〜試料111や、タンデム型とされていない試料112と比較して、高い外部取り出し量子効率が実現されている。
【0213】
また、複数の発光層のうち、金属電極に対して最も近くに配置されている発光層が、複数の発光層のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を含有している試料103〜試料109では、複数の発光層のうち、金属電極に対して最も近くに配置されている発光層が、複数の発光層のうちで最も発光光の波長が短い有機発光材料を含有していない試料102と比較して、高い外部取り出し量子効率が実現されており、電力効率が優れている。よって、最も発光光の波長が短い有機発光材料を、金属電極の近くに配置されている発光層に含有させることによって、プラズモン損失が低減し、有機EL素子の外部取り出し量子効率が向上することが認められる。
【0214】
また、試料101と試料103や試料104とを比較すると、金属電極に対して最も近くに配置されている発光ユニットが、複数の発光層を有する試料103及び試料104では、複数の発光層を有していない試料101と比較して、電流密度の変動に対する色度安定性や駆動時間に対する色度安定性が優れている。よって、発光ユニットあたりの発光層の層数を複数とすることによって、有機発光材料の発光位置の変動が抑制され、出射光の色度が安定化することが認められる。
【0215】
また、試料103と試料104とを比較すると、有機発光材料の濃度が28質量%以下である試料104では、有機発光材料の濃度が30質量%である試料103と比較して、外部取り出し量子効率や発光寿命が向上している。したがって、有機発光材料の濃度が28質量%以下であれば、濃度消光の発生が抑制され、輝度が改善するといえる。
【0216】
また、試料101〜試料104と試料105〜試料107とを比較すると、2種類の赤色発光材料が使用されている試料105〜試料107では、2種類以上の赤色発光材料が使用されていない試料101〜試料104と比較して、平均演色評価数(Ra)及び特殊演色評価数(R9)が高くなっている。このように、2種類の赤色発光材料を使用することによって、出射光の演色性を高めることができ、低色温度の白色光を実現することも可能になることが分かる。
【0217】
また、試料105と試料106〜試料107とを比較すると、2種類の赤色発光材料が互いに異なる発光ユニットに含まれている試料106〜試料107では、2種類以上の赤色発光材料が同一の発光ユニットに含まれている試料105と比較して、駆動電圧が低く、電力効率が向上している。よって、2種類の赤色発光材料を互いに異なる発光ユニットに含ませることで、電荷輸送性が低い赤色発光材料による影響を低減することが可能であると認められる。
【0218】
また、試料108と試料109とを比較すると、2種類以上の赤色発光材料のうち、最も発光光の波長が短い赤色発光材料が、2種類以上の赤色発光材料のうちで最も金属電極に対して近い発光ユニットに含まれている試料109では、2種類以上の赤色発光材料のうち、最も発光光の波長が短い赤色発光材料が、2種類以上の赤色発光材料のうちで最も金属電極に対して近い発光ユニットに含まれていない試料108と比較して、高い外部取り出し量子効率が実現されており、電力効率が優れている。よって、最も発光光の波長が短い赤色発光材料を、金属電極に対して近くに配置されている発光ユニットに含ませることによって、プラズモン損失が低減し、有機EL素子の外部取り出し量子効率が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0219】
1 有機EL素子
10 基材
20 陽極(透明電極)
30A,30B 発光ユニット
31 正孔注入層
32 正孔輸送層
33A,33B 発光層
34 電子輸送層
35 電子注入層
40 中間コネクタ層
50 陰極(金属電極)
図1
図2
図3
図4
図5