特許第6417870号(P6417870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6417870
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】溶湯供給装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/04 20060101AFI20181029BHJP
   B22C 9/08 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   B22D18/04 W
   B22D18/04 U
   B22C9/08 A
   B22C9/08 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-228545(P2014-228545)
(22)【出願日】2014年11月11日
(65)【公開番号】特開2016-87680(P2016-87680A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】増田 達也
(72)【発明者】
【氏名】林 憲司
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−050883(JP,A)
【文献】 特開2010−240732(JP,A)
【文献】 特開2010−167430(JP,A)
【文献】 実開平02−123359(JP,U)
【文献】 特開平05−192759(JP,A)
【文献】 特開2012−096284(JP,A)
【文献】 米国特許第04736788(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00− 9/08
B22D 18/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯をキャビティに供給する溶湯供給装置であって、
キャビティと湯口とを連通させるゲートが湯口の側壁に接続され、
上記湯口とゲートとの接続箇所よりも上位側の湯口上部に湯面上の不純物を捕らえるトラップを有し、
上記トラップが通気部を有し、この通気部から吸引を行い、該吸引を保持炉への加圧停止後も継続することを特徴とする溶湯供給装置。
【請求項2】
溶湯をキャビティに供給する溶湯供給装置であって、
キャビティと湯口とを連通させるゲートが湯口の側壁に接続され、
上記湯口とゲートとの接続箇所よりも上位側の湯口上部に湯面上の不純物を捕らえるトラップを有し、
上記トラップが通気部を有し、この通気部から吸引を行い、該吸引を型開け後も継続することを特徴とする溶湯供給装置。
【請求項3】
キャビティ内に溶湯が流入する以前にトラップの通気部からの吸引を開始することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶湯供給装置。」を要旨とするものであります。
【請求項4】
トラップの通気部からの吸引を、保持炉への加圧停止後も継続することを特徴とする請求項に記載の溶湯供給装置。
【請求項5】
トラップの通気部からの吸引を、型開け後も継続することを特徴とする請求項に記載の溶湯供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯供給装置に関し、更に詳細には、酸化物等の不純物がキャビティ内に流入することを防止できる溶湯供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低圧鋳造法は、一般的に、溶湯を収容する保持炉と該保持炉上の鋳型内に形成されたキャビティとをストークで連通させ、保持炉内を加圧することで上記ストークを介してキャビティに溶湯を供給し、凝固させることで成形品を得る。
このような低圧鋳造法は、中子(中空部の鋳型)を用いることで、中空部品の製作が可能であり、シリンダヘッド等の複雑な形状を有する部品の作製に好適である。
【0003】
しかし、低圧鋳造法においては、溶湯を供給するための保持炉内の加圧を、ガスによって行うことが多い。また、鋳型開けによって、ストーク内の溶湯と空気とが接触するため、溶湯表面の酸化が不可避であり、ストーク内の溶湯面(先湯)には、酸化物や前ショットの凝固殻等の不純物が浮遊する。
これらの不純物は、ピンホールや引け巣の増加、湯流れ性の低下による湯廻り不良等、鋳造品の品質低下の原因となる。このため、湯口に不純物を除去する金網等のフィルターを設け、鋳型内に不純物が流入することを防止している(例えば、特許文献1)。
【0004】
上記フィルターによれば、酸化物等の不純物を除去することが可能である。しかし、フィルターの目詰まりによって溶湯を供給する湯口の有効径が変化するため、同じ条件で加圧して溶湯を供給しても、同じように湯廻りすることはない。
特に、薄肉品の作製においては溶湯が凝固しながら湯廻りするため、湯廻り挙動のバラツキが、成形品の品質に顕著な影響を及ぼし、成形品間での均一性を担保することが困難である。
また、ショットごとにフィルターを交換するのは煩雑で生産性が低下してしまう。
【0005】
特許文献2には、キャビティに連通するファンゲートを湯口の側壁に設け、該ファンゲートと湯口との接続部よりも上位側にトラップ空間を設けた低圧鋳造装置が記載されている。そして、上記トラップ空間で、溶湯表面の酸化皮膜や前ショットの凝固殻等の不純物を捕らえ、キャビティに不純物のない溶湯を送り込むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−263789号公報
【特許文献2】特開2014−050883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に記載の低圧鋳造装置においては、トラップ空間にガスが溜まり、不純物を充分捕らえられないことがある。また、中子等が加熱されることで生じるガスを排出し、溶湯の流れを滑らかにして、溶湯中への気泡の巻き込みを防止するために、キャビティ内を吸引する場合には、溶湯面の精緻な制御が困難であるため、キャビティ内に不純物を吸引してしまうことがある。
【0008】
すなわち、保持炉内を加圧することで溶湯をキャビティに供給する低圧鋳造法は、保持炉内に気体を圧送することで行う。上記気体は、固体や液体に比して膨張収縮が大きく体積が変化しやすいものであるため、気体の圧送量によって湯面を高精度で制御することが困難であり、キャビティ内の吸引とトラップでの不純物の捕捉とのタイミングにズレが生じ易い。
【0009】
したがって、本発明は、溶湯面に浮遊する不純物をトラップで確実に捕らえることができ、成形品間でのバラツキがなく均一で高品質な成形品を、効率よく製造できる溶湯供給装置を提供することを目的とする。
さらに、キャビティ内を吸引しても、不純物やガスをキャビティ内に吸引することがない溶湯供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、湯口上部のトラップ部に通気部を設けることで、溶湯の上昇に伴ってトラップ空間のガスが排出されて、湯面上の不純物等をトラップで確実に捕らえられることを見出した。
また、上記通気部を設けることによって背圧がかからず、保持炉内の加圧に伴って溶湯が滑らかに上昇する。したがって、溶湯面制御の精度が向上し、トラップで不純物を捕捉する前にキャビティを吸引することを防止でき、キャビティ内への不純物の流入を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、上記知見に基づくものであって、本発明の溶湯供給装置は、キャビティと湯口とを連通させるゲートが湯口の側壁に接続し、該接続部よりも上位側に形成されたトラップを有する。
そして、上記トラップが通気部を有し、この通気部から吸引を行い、該吸引を保持炉への加圧停止後も継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不純物等を捕らえる湯口の上部に設けられたトラップに、通気部を設けることとしたため、トラップ内にガスが滞留せず、湯面上の不純物を確実に捕らえることができ、ガスや不純物のキャビティ内への流入を防止できる。
すなわち、本発明の溶湯供給装置によれば、トラップで確実に不純物等を捕らえることができ、キャビティ内への流入が防止されると共に、金網等のフィルターを設ける必要がなく、湯口の有効径が変化しない。
したがって、各ショット間のバラツキがなく、鋳造品間での均一性が担保された高品質の鋳造品が得られると共に、生産効率を向上できる溶湯供給装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の溶湯供給装置が用いられる低圧鋳造装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の溶湯供給装置一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の溶湯供給装置の使用状態の一例を示す概略断面図である。
図4】本発明の溶湯供給装置の吸引のタイミングの一例を示す概略断面図である。
図5】本発明の溶湯供給装置における溶湯充填時の一例を示す概略断面図である。
図6】本発明の溶湯供給装置における凝固殻が形成された状態の一例を示す概略断面図である。
図7】本発明の溶湯供給装置における型開けの状態の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の溶湯供給装置が用いられる低圧鋳造装置について説明する。
図1に低圧鋳造装置の一例の断面図を示す。低圧鋳造装置1は、気密に密閉された保持炉2に二酸化炭素等の不活性ガスを圧送するガス注入口3を有し、保持炉2内の溶湯にはストーク4の下端が浸漬されている。
保持炉2の上部には、下鋳型5Aと上鋳型5Bとからなる鋳型5が配置されている。下鋳型5Aと上鋳型5Bとの合わせ面にそれぞれ空間部が形成されており、この下鋳型5A上鋳型5Bとを重ね合わせることで、鋳造品の形状のキャビティ6が形成される。
前記ストーク4の上端には湯口7が設けられ、該湯口7の側壁にはキャビティ6に連通するゲート8が設けられる。
なお、上鋳型5Bには、必要に応じて吸引経路9を設けてもよく、キャビティ6の中には必要に応じて中子10を収納してもよい。
【0015】
このような、低圧鋳造装置においては、ガス注入口3から保持炉2内にガスを注入する。このガス圧力により、保持炉2内の溶湯の湯面が押されて、ストーク4内の溶湯が押上げられ、湯口7に設けられたゲート8を介して、鋳型5のキャビティ6内に溶湯が充填される。キャビティ6内に溶湯を充填する際には、上鋳型5Bに設けられた吸引経路9からキャビティ6内を吸引してもよい。
【0016】
キャビティ6に充填した溶湯が冷却されて凝固した後、上鋳型5Bを上昇させてキャビティ6を開き、下鋳型5Aから成形品を取り出す。
【実施例】
【0017】
本発明の溶湯供給装置は、上記のような低圧鋳造装置に用いられるものである。図2に本発明の溶湯供給装置の一例を示す断面図を示す。
【0018】
本発明の溶湯供給装置は、ストークと鋳型との間に設けられるものであり、上下に分割可能な湯口ピース7A、7Bで形成され、ストーク4に接続する湯口7と、キャビティ6と湯口7とを連通させるゲート8とを有し、該ゲート8は湯口7の側壁に設けられる。上記湯口7には、上記ゲート8の接続箇所よりも上位側の湯口上部に、溶湯表面の不純物を捕らえるトラップ11空間が設けられる。
上記トラップ11の上部には、多孔質金属や多孔質セラミック等から成る通気部12が設けられ、該通気部12には必要に応じて、図示しない吸引ポンプに接続する吸引経路13が接続される。
【0019】
次に、本発明の溶湯供給装置における溶湯供給の動きを説明する。
保持炉への一段目の加圧により、保持炉内の溶湯14がストーク内を上昇して、図3に示すように湯口7に達する。このときの湯面や湯面近傍の先湯には、溶湯と空気等とが接触して生じた酸化物等の不純物が存在する。
【0020】
図4に示すように、湯口7に設けられたゲート8の入口に溶湯14が達したところで、充填速度が制御されたキャビティ6内に溶湯を供給するための二段目の加圧に切り替え、キャビティ6内に溶湯を充填する。
【0021】
低圧鋳造法においては、体積の変化が大きい気体を圧送することで湯面を制御するため、厳密な湯面の制御が困難であり、数センチメートル程度のバラツキが生じてしまう。このとき、湯面近傍の先湯に含まれる不純物やガスをトラップ11で捕らえる前に、二段目の加圧に切り替えたり、キャビティ6内の吸引を開始したりすると、不純物やガスがゲート8を通ってキャビティ6内に侵入し、成形品の品質が低下する。
【0022】
本発明においては、トラップ11に通気部12が設けられているため、溶湯がストーク4内を上昇するのに伴ってストーク4内のガスが通気部12から排出される。したがって、背圧がかからず、速やかに先湯がトラップ11部に達し、トラップ11で不純物等を捕らえられるので、不純物やガス等がキャビティ6内に流入することが防止される。
【0023】
また、キャビティ6内への溶湯の流入と同時、又はキャビティ6内への溶湯の流入より前にトラップ11内を吸引することが好ましい。
【0024】
キャビティ6内に溶湯が流入する以前にトラップ11内を吸引することで、図5に示すように、不純物等を含む先湯がトラップ部に吸い寄せられ、湯面制御の精度が低い場合であっても、トラップ11で確実に不純物を捕らえることができる。したがって、清浄度の高い溶湯がキャビティ6に充填されるため、不純物等の混入が防止された高品質の成形品を得ることができる。
【0025】
また、溶湯がトラップ11の上端に達すると吸引抵抗が変化するため、トラップ11内を吸引することで、先湯がトラップに達し、不純物を捕捉したことを検知できる。
不純物を捕捉した後に、二段目の加圧に切り替えたり、キャビティ6内の吸引を開始したりすることで、湯廻りの挙動を均一にすることができ、バラツキのない高品質な成形品を得ることができる。
【0026】
キャビティ6内への溶湯の充填が終了し、溶湯が冷却されて凝固殻が形成されると、図6に示すように、先湯に含まれる不純物等もトラップ11に捕らえられたまま、凝固殻となってトラップ11に固定される。
保持炉2の加圧を停止すると、不純物を含まない清浄度の高い溶湯のみが保持炉2内に戻り、先湯に含まれていた不純物等が凝固殻となって除去されるため、ストーク4内の湯面(先湯)に酸化物等の不純物が蓄積されることがない。また、金網等のフィルターを設ける必要がないため、湯口7の有効径も変化することがなく、ショット間での充填条件が変化せずに、均一な成形品を得ることができる。
【0027】
トラップ11の吸引は、保持炉2の加圧停止後も継続することが好ましい。トラップ11を吸引し続けることで、トラップ11で捕らえた不純物等を含む凝固殻が剥がれて保持炉2内に落下し、溶湯が汚染されることを防止できる。
【0028】
凝固殻の形成後、キャビティ6の型開けに伴い湯口ピースを上下に分割して凝固殻を取り出す。このとき、ストーク4内の溶湯表面が空気と接し酸化物が生じるが、本発明では、次のショットにおいて酸化物等の不純物をトラップ11で捕らえるため、該不純物がキャビティ6に充填されることが防止される。
【0029】
トラップ11からの吸引は、型開け後も継続することがさらに好ましい。トラップ11を型開け後まで吸引し続けることで、図7に示すように、成形品と共に凝固殻が上側の湯口ピースに張り付いた凝固殻がストーク内に落ちて溶湯が汚れることを防止できる。
【符号の説明】
【0030】
1 低圧鋳造装置
2 保持炉
3 ガス注入口
4 ストーク
5A 下鋳型
5B 上鋳型
5 鋳型
6 キャビティ
7 湯口
7A 湯口ピース
7B 湯口ピース
8 ゲート
9 吸引経路
10 中子
11 トラップ
12 通気部
13 吸引経路
14 溶湯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7