特許第6417877号(P6417877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6417877
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20181029BHJP
   B60T 8/48 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   B60T7/12 C
   B60T8/48
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-231615(P2014-231615)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2016-94106(P2016-94106A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 隆
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−306136(JP,A)
【文献】 特開2005−132299(JP,A)
【文献】 特表2008−525254(JP,A)
【文献】 特開平04−372442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(60)を駆動することによって液圧回路内に備えられたポンプ(19、39)を作動させ、該ポンプにてブレーキ液を吸入吐出させると共に、マスタシリンダ(13)とホイールシリンダ(14、15、34、35)との間に備えられた差圧制御弁(16、36)を差圧状態に制御することでホイールシリンダ圧を発生させて自動ブレーキを掛ける車両用ブレーキ制御装置であって、
自車両が障害物に衝突することを予測し、衝突すると予測されたときに衝突するまでの時間となる衝突予測時間が第1時間に至ったか否かを判定する第1衝突予測手段(S110)と、
前記衝突予測手段にて、前記衝突予測時間が前記第1時間に至ったと判定されると、ドライバに対して前記自車両が前記障害物に衝突する可能性があることを報知する報知手段(S115)と、
前記自動ブレーキを掛けて前記自車両と前記障害物との衝突を回避するのに掛かる最小時間である回避限界時間を算出し、該回避限界時間を前記第1時間よりも短い第2時間として設定する第2時間算出時間(S120)と、
前記モータが回転開始から定常状態に至るまでに掛かる時間であるモータ回転到達時間を算出する到達時間算出手段(S130)と、
前記衝突予測時間が前記第2時間に対して前記モータ回転到達時間を足した時間に至ると、前記モータの回転開始を指示する回転指示手段(S135)と、
前記衝突予測時間が前記第2時間に至ると、前記自動ブレーキを掛けるブレーキ開始手段(S145〜S155)と、を備えていることを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記衝突予測時間が前記第2時間に至るときに、前記自車両が前記障害物に衝突するか否かを予測する第2衝突予測手段(S145)と、
前記第2衝突予測手段にて、前記自車両が前記障害物に衝突しないと判定されると、前記ブレーキ開始手段にて前記自動ブレーキを掛けることなく、前記モータの回転停止を指示する停止指示手段(S170)と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記モータの駆動用の電源(61)の電圧を測定する電圧測定手段(S125)を有し、
前記到達時間算出手段は、前記電圧測定手段で測定された前記電源の電圧に基づいて前記モータ回転到達時間を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物との衝突を回避するために自動的にブレーキを掛ける自動ブレーキ制御を実行する車両用ブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、走行中の自車両の進行方向に存在する障害物を検知し、その障害物と自車両との衝突を回避するために、自動的にブレーキを掛ける自動ブレーキ制御を実行する車両用ブレーキ制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この車両用ブレーキ制御装置では、自車両から障害物までの距離を算出し、その距離が第1の閾値になるとドライバに対して警報を行っている。これにより、ドライバに適切に障害物を回避するための運転操作を行わせる。さらに、ドライバが適切な運転操作を行わずに自車両から障害物までの距離が第1の閾値よりも小さな第2の閾値になると、自動ブレーキを掛ける。
【0004】
具体的には、自車両から障害物までの距離が第2の閾値になると同時にモータを駆動し、ポンプによるブレーキ液の吸入吐出動作を行わせている。また、マスタシリンダ(以下、M/Cという)とホイールシリンダ(以下、W/Cという)との間に備えられる差圧制御弁を差圧状態としている。これにより、差圧制御弁が発生させる差圧に基づいて所望のW/C圧を発生させることができ、自動ブレーキを掛けることができる。このようにして、自車両と障害物との衝突の回避を支援している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−525254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、安全に対する要求が高まり、より早期から、つまり速い車速のときからの自動ブレーキの成立が求められている。
【0007】
しかしながら、上記した従来の車両用ブレーキ制御装置では、自車両から障害物までの距離が第2の閾値になってからモータを駆動し、ポンプによるブレーキ液の吸入吐出動作を行わせている。このため、モータ回転が立ち上がってから所望の回転数に至るまでに時間が掛かり、所望のW/C圧を発生させるまでに時間が必要になるという問題がある。
【0008】
これに対して、自車両から障害物までの距離が第1の閾値になったときからモータ駆動を開始しておき、第2の閾値になったときに素早くW/C圧が発生させられるようにすることも考えられる。しかしながら、自車両から障害物までの距離が第1の閾値から第2の閾値に至るまでモータを駆動し続けると、モータ駆動時間が長くなり、消費電力の増加が発生する。また、差圧制御弁を差圧状態としていなくても差圧制御弁の内部の絞りに起因してW/C圧が発生し、ドライバに対して、ブレーキの引き間摺り感を与える可能性もある。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、自動ブレーキを掛けることが必要になったときに、より早いタイミングで制動力を発生させられるようにしつつ、モータ駆動時間が長くなり過ぎないようにできる車両用ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、自車両が障害物に衝突することを予測し、衝突すると予測されたときに衝突するまでの時間となる衝突予測時間が第1時間に至ったか否かを判定する第1衝突予測手段(S110)と、衝突予測手段にて、衝突予測時間が第1時間に至ったと判定されると、ドライバに対して自車両が障害物に衝突する可能性があることを報知する報知手段(S115)と、自動ブレーキを掛けて自車両と障害物との衝突を回避するのに掛かる最小時間である回避限界時間を算出し、該回避限界時間を第1時間よりも短い第2時間として設定する第2時間算出時間(S120)と、モータ(60)が回転開始から定常状態に至るまでに掛かる時間であるモータ回転到達時間を算出する到達時間算出手段(S130)と、衝突予測時間が第2時間に対してモータ回転到達時間を足した時間に至ると、モータの回転開始を指示する回転指示手段(S135)と、衝突予測時間が第2時間に至ると、自動ブレーキを掛けるブレーキ開始手段(S145〜S155)と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
このように、衝突猶予時間が第1時間になるとドライバに対して衝突する可能性があることを報知している。これによりドライバに対して衝突を回避するための操作を促すことができる。また、ドライバが衝突を回避するために適切な操作を行わなかったとしても、衝突猶予時間が第2時間になると、自動ブレーキを掛けることで自車両と障害物とが衝突することを回避している。
【0012】
そして、このような回避を行う際に、衝突猶予時間が第2時間になる前に前もってモータ駆動を開始しつつ、モータ駆動の開始を衝突猶予時間が第1時間となったタイミングではなく、第2時間となるタイミングから逆算して決めている。したがって、モータ駆動時間が長くなり過ぎないようにしつつ、より早いタイミングで制動力を発生させることが可能となる。
【0013】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用ブレーキ装置1の基本構成を示した液圧回路図である。
図2】ブレーキECU70に対する入出力の関係を示したブロック図である。
図3】ブレーキECU70が実行する自動ブレーキ制御のフローチャートである。
図4】モータ60の回転状態の経時変化を示したタイムチャートである。
図5】電源61の電圧に対応するモータトルクとモータ回転数との関係を示した図である。
図6】第1実施形態と従来の自動ブレーキ制御時のモータ回転数とW/C圧の変化の様子を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。本発明の一実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置が適用されるブレーキシステムについて説明する。図1は、本実施形態にかかるブレーキシステム1の基本構成を示した液圧回路図である。ここでは前後配管の液圧回路を構成する車両を例に挙げて説明するが、X配管などの車両であっても良い。
【0017】
図1に示すように、ドライバが操作するブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11が倍力装置12を介してブレーキ液圧の発生源となるM/C13に接続されている。ブレーキペダル11が踏み込まれると、倍力装置12にて踏み込み力が倍力され、それに基づいてM/C13に配設されたマスタピストン13a、13bが押圧される。これにより、マスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。このM/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eが備えられている。
【0018】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを備えた構成とされ、ブレーキ配管を形成した図示しないアルミ製などのブロックに各種部品が組み付けられることで一体化されている。第1配管系統50aは、左後輪RLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御するリア系統、第2配管系統50bは、左前輪FLと右前輪FRに加えられるブレーキ液圧を制御するフロント系統とされる。
【0019】
なお、各系統50a、50bの基本構成は同様であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0020】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左後輪RLに備えられたW/C14および右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0021】
管路Aには、管路Aを連通状態と差圧状態に制御することで、上流側となるM/C13側の第1管路と下流側となるW/C14、15側の第2管路との間の差圧を制御する第1差圧制御弁16が備えられている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(衝突回避などの自動ブレーキ制御や横滑り防止制御などの車両運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されている。そして、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、第1差圧制御弁16は、流された電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0022】
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。また、第1差圧制御弁16に対して並列に逆止弁16aが備えられている。
【0023】
管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0024】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できるノーマルオープン型の2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態に制御される。また、第1、第2増圧制御弁17、18は、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御される。
【0025】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。これら第1、第2減圧制御弁21、22は、連通・遮断状態を制御できるノーマルクローズ型の2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2減圧制御弁21、22は、第1、第2減圧制御弁21、22に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態に制御される。また、第1、第2減圧制御弁21、22は、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御される。
【0026】
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60は、バッテリなどの電源61からの電力供給に基づいて駆動され、スイッチ62がオンされることで駆動される。このスイッチ62を例えばPWM制御などの周波数制御することでモータ回転数を制御することが可能となっている。
【0027】
調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、車両運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。
【0028】
なお、ここでは第1配管系統50aについて説明したが、第2配管系統50bも同様の構成であり、第1配管系統50aに備えられた各構成と同様の構成を第2配管系統50bも備えている。具体的には、第1差圧制御弁16および逆止弁16aと対応する第2差圧制御弁36および逆止弁36a、第1、第2増圧制御弁17、18と対応する第3、第4増圧制御弁37、38がある。また、第1、第2減圧制御弁21、22と対応する第3、第4減圧制御弁41、42、ポンプ19と対応するポンプ39、調圧リザーバ20と対応する調圧リザーバ40がある。さらに、管路A〜Dと対応する管路E〜Hがある。ただし、各系統50a、50bがブレーキ液を供給するW/C14、15、34、35については、リア系統となる第1配管系統50aよりもフロント系統となる第2配管系統50bの方が大きくなるように容量に差があっても良い。このような構成とされる場合、フロント側においてより大きな制動力を発生させることができる。
【0029】
また、ブレーキシステム1には、車両用ブレーキ制御装置に相当するブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)70が備えられている。ブレーキECU70は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、自動ブレーキ制御や各種車両運動制御を含むブレーキ制御を実行する。
【0030】
例えば、ブレーキECU70は、各種センサ類の検出信号などを入力し、自車両に対する障害物の相対位置や両者間の距離、自車両の速度、進行方向を検出して、自車両と障害物との衝突の可能性の有無や衝突を回避するために必要な減速度などを演算する。そして、その演算結果に基づき、所定の条件を満たしたときに、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50に備えられた各種部品が制御され、制御対象輪に対して所望の減速度となる制動力を発生させるという自動ブレーキ制御が実行される。また、ブレーキECU70は、必要に応じて、電源61の電圧に応じて自動ブレーキ制御におけるモータ回転数の制御も行っている。
【0031】
具体的には、図2に示すように、ブレーキECU70には、車輪毎に備えられた車輪速度センサ71〜74や電源61の電圧を検出する電圧センサ75、舵角センサ76の検出信号が入力されている。これらの検出信号に基づいて、ブレーキECU70は、自車両の速度や進行方向および電源61の電圧を検出している。また、ブレーキECU70には、障害物センサや前方監視カメラなどで構成される障害物検知部77から、障害物センサの検出信号や前方監視カメラの画像データなどの障害物情報も入力されている。この障害物情報に基づいて、ブレーキECU70は、障害物を認識すると共に、自車両に対する障害物の相対位置や相対速度、両者の距離および障害物の方向を求めている。また、ブレーキECU70は、自車両の速度や進行方向と自車両に対する障害物の相対位置や相対速度および両者の距離に基づいて、障害物との衝突の可能性の有無や衝突を回避するために必要な減速度や回避するのに掛かる最小時間などを演算している。
【0032】
そして、自動ブレーキ制御や各種車両運動制御などの各種ブレーキ液圧制御を実行する際には、ブレーキECU70は、実行されたブレーキ液圧制御からの要求に基づいて、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50に備えられた各部を制御する。すなわち、各種制御弁を駆動したり、モータ60を駆動することでポンプ19、39を作動させ、ポンプ19、39によるブレーキ液の吸入・吐出動作を行わせる。これにより、例えば、第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にしつつ、ポンプ19、39を動作させると、第1、第2差圧制御弁16、36が発生させる差圧に応じたW/C圧を発生させることができる。これに基づき、ブレーキ液圧制御からの要求にしたがった所望の制動力を発生させることができる。
【0033】
また、自動ブレーキ制御時には、実際に自動ブレーキを掛ける前に、ドライバへの衝突予測アナウンスを行う。このため、ブレーキECU70は、音声案内やディスプレイでの表示案内を行う警報部78に対してアナウンス指令信号を出力し、警報部78にて衝突予測アナウンスが行われるようになっている。
【0034】
以上のようにして、本実施形態にかかるブレーキシステム1が構成されている。続いて、このように構成されたブレーキシステム1の動作の一例について説明する。なお、本実施形態のブレーキシステム11では、自車両と障害物との衝突を回避するための自動ブレーキ制御の他、ドライバのブレーキペダル踏込みに基づく通常のブレーキ動作や横滑り防止制御などの車両安定化のための各種車両運動制御を実行できる。しかしながら、本実施形態では、自動ブレーキ制御を特徴としており、他の車両運動制御については従来と同様であるため、ここでは自動ブレーキ制御についてのみ説明する。
【0035】
図3に、ブレーキECU70が実行する自動ブレーキ制御のフローチャートを示し、この図を参照して自動ブレーキ制御の作動について説明する。なお、図3に示す自動ブレーキ制御の各処理は、例えばドライバが図示しない自動ブレーキ制御の実行スイッチを押下したときに、所定の制御周期毎に実行される。
【0036】
まず、ステップ100では、自車両の進行方向に回避すべき対象物となる障害物、つまり人や物体などが存在するか否かを判定する。この判定は、各種センサ類の検出信号や障害物検知部77からの障害物情報に基づいて行われている。例えば、舵角センサ76の検出信号から得られる舵角と車輪速度センサ71〜74の検出信号から得られる自車両の速度より、車両の進行方向が検出される。このため、障害物検知部77の障害物情報から障害物の有無を判定し、障害物が存在する場合には、その障害物が進行方向に存在するか否かを、障害物が将来的に進行方向に侵入してくるかを含めて判定している。
【0037】
ここで肯定判定されると自動ブレーキを掛ける可能性があることからステップ105に進み、否定判定されると自動ブレーキを掛ける必要がないことから再びステップ100に戻って上記処理を繰り返す。
【0038】
続くステップ105では、自車両に対する障害物の相対位置や相対速度、両者の距離をおよび障害物の方向を周知の手法によって演算している。そして、ステップ110に進み、ステップ105の演算結果に基づいて、衝突予測を行う。具体的には、今現在から自車両と障害物とが衝突するまでに掛かる時間(以下、衝突猶予時間という)が第1の閾値となる第1時間以下であるか否かを判定する。衝突猶予時間は、ステップ105で演算した自車両に対する障害物の相対位置や相対速度、両者の距離をおよび障害物の方向から周知の手法により演算する。
【0039】
ここで、第1時間とは、ドライバが適切な回避操作を行うことによって自車両と障害物との衝突を回避することが可能な時間に設定される。第1時間は、少なくとも、モータ60の駆動を開始してモータ回転が立ち上がってから所望の回転数に至るまでの時間と、更に自動ブレーキを掛けることで自車両と障害物との衝突を回避するまでに掛かる時間とを合わせた時間よりも長い時間に設定されている。
【0040】
そして、ステップ110で肯定判定されると、ステップ115に進んで衝突予測アナウンスを行うべく、警報部78に対してアナウンス指令信号を出力する。これに基づき、ドライバに自車両が障害物に衝突する可能性があることを認識させ、障害物との衝突を回避するための適切な操作を行わせる。
【0041】
この後、ステップ120に進み、回避限界時間を算出する。回避限界時間は、自動ブレーキを掛けて車両と障害物との衝突を回避する際に要する最小時間を意味している。この回避限界時間は、第2の閾値に相当する第2時間として用いられ、上記した第1時間よりも短い時間となる。
【0042】
また、ステップ125に進み、電圧センサ75の検出信号よりモータ60の電源61の電圧を測定する。そして、ステップ130において、測定した電源61の電圧に基づいて、モータ回転到達時間を算出する。
【0043】
モータ回転到達時間とは、モータ60が回転し始めてから所望の回転数(定常回転数に対して所定割合の回転数)となり、ポンプ19、39による吸入吐出動作が回転初期時の過渡状態から定常状態に遷移するまでに掛かる時間を言う。すなわち、図4に示すように、モータ回転数は、回転の立ち上がりから徐々に回転数が増加し、所定時間掛けて一定回転の定常回転数となる。モータ回転数がこの定常回転数に対して所定割合となれば、W/C圧を応答性良く上昇させることができると想定される。したがって、定常回転数に対して所定割合、例えば90%の回転数となる時間をモータ回転到達時間としている。
【0044】
また、電源61の電圧に応じてポンプ19、39を回転させるために必要なトルク(以下、モータ必要トルクという)が異なっている。具体的には、図5に示すように、電源61の電圧が高いほどモータ必要トルクを得るために必要な目標回転数が高くなる。このため、図5に示すマップなどに基づいて、必要なモータトルクに対応するモータ60の目標回転数を求め、この目標回転数を定常回転数として設定している。そして、スイッチ62を周波数制御してモータ回転数を定常回転数(目標回転数)とするときに、その定常回転数に対して所定割合となるまでの時間をモータ回転到達時間として求めている。モータ回転開始からの経過時間が回転到達時間に達してから第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にすると、応答性良くW/C圧を発生させることができる。
【0045】
この後、ステップ135に進み、モータ回転指示を行うタイミングに至ったか否かを判定する。モータ回転指示を行うタイミングとは、上記した第2時間に対してモータ回転到達時間を加算した時間から求められるタイミングである。つまり、本ステップでは、衝突猶予時間が第2時間に対してモータ回転到達時間を加算した時間以下になったか否かを判定している。
【0046】
本ステップで肯定判定されれば、ステップ140に進んでモータ回転指示を出し、モータ60の回転を開始させる。この後、ステップ145に進み、再び衝突予測を行う。具体的には、ステップ110で肯定判定されたタイミング、すなわち衝突猶予時間が第1時間以下になったタイミングからの経過時間に基づいて、衝突猶予時間が第2時間以下であるか否かを判定する。また、この判定が肯定判定されるまでの間に、ドライバが回避のための操作を行ったか否かを判定する。例えば、ステアリング操作によって自車両の進行方向から障害物が外れたり、ブレーキ操作によって自車両と障害物との衝突が回避された場合に、ドライバが回避のための操作を行ったと判定している。ステアリング操作が行われたことは舵角センサ76の検出信号で確認でき、ブレーキ操作が行われたことはM/Cセンサを備えて、M/C圧センサの検出信号をブレーキECU70に入力することで確認できる。
【0047】
ここで、衝突猶予時間が第2時間に達するまでの間に、ドライバが回避のための操作を行っていなければ自車両が障害物に衝突し得ると判定し、操作を行っていれば自車両が障害物に衝突しないと判定する。
【0048】
そして、ステップ145で肯定判定された場合には、ステップ150に進んで自動ブレーキ開始判定を行い、ステップ155に進んで自車両が障害物に衝突することを回避すべく、自動ブレーキの開始を指示する。これにより、第1、第2差圧制御弁16、36が差圧状態に制御され、ポンプ駆動に基づいてW/C圧が発生させられる。このとき、既にモータ60の回転が開始されていて所望の回転数に至っていることから、ポンプ19、39の吸入吐出動作も定常状態に遷移しており、応答性良くW/C圧が発生させられる。したがって、直ぐに所望の制動力を得ることができ、所望の減速度を発生させることが可能となる。
【0049】
この後、ステップ160において、衝突が回避されたか否かが判定される。例えば、自車両が停止したり、ステップ100と同様の処理を行って自車両の進行方向から障害物が存在しなくなったことが判定されたりすると、衝突が回避されたと判定している。そして、ここで肯定判定されるまでの間は自動ブレーキが継続され、肯定判定されるとステップ165に進んでモータ60の回転を終了させて処理を終了する。
【0050】
一方、ステップ145で否定判定された場合には、既にドライバの操作によって自車両と障害物との衝突が回避されたことから、モータ60の駆動を停止する指示を出して処理を終了する。
【0051】
このようにして、自動ブレーキ制御が実行される。図6は、このような自動ブレーキ制御が実行されたときのモータ回転数の変化とW/C圧の変化を従来の場合と比較したタイムチャートである。
【0052】
この図に示すように、従来は衝突猶予時間が第1の閾値となったときにドライバに対して衝突する可能性があることを報告し、その後、その時間が第2の閾値となってからモータ駆動を開始していた。このため、衝突猶予時間が第2の閾値に至ってから、さらにモータ駆動が開始されてからモータ回転が所望の回転数となるまでの時間経過しないと、W/C圧が上昇していかない。したがって、所望の制動力を発生させるまでに時間が掛かる。
【0053】
これに対して、本実施形態の場合、従来は衝突猶予時間が第1の閾値(第1時間)になったときにドライバに対して衝突する可能性があることを報告し、その後、その時間が第2の閾値(第2時間)となる前からモータ駆動を開始している。つまり、衝突猶予時間が第2の閾値に至るときに、モータ60が所望の回転数になっている。このため、衝突猶予時間が第2の閾値に至ってから直ぐにW/C圧を上昇させられる。したがって、所望の制動力を発生させるまでの時間を短くできる。
【0054】
そして、モータ駆動の開始を衝突猶予時間が第1の閾値となったタイミングではなく、第2の閾値となる時間から逆算して決めることでモータ駆動時間を短くしている。このため、消費電力の低減を図れる。また、第1、第2差圧制御弁16、36の内部の絞りに起因してW/C圧が発生させられた場合、ドライバに対してブレーキの引き摺り感を与えることになるが、このような引き摺り感を与えないようにすることも可能となる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、衝突猶予時間が第1の閾値となる第1時間になるとドライバに対して衝突予測アナウンスをしている。これによりドライバに対して衝突を回避するための操作を促すことができる。また、ドライバが衝突を回避するために適切な操作を行わなかったとしても、衝突猶予時間が第2の閾値となる第2時間になると、自動ブレーキを掛けることで自車両と障害物とが衝突することを回避している。
【0056】
そして、このような回避を行う際に、衝突猶予時間が第2時間になる前に前もってモータ駆動を開始しつつ、モータ駆動の開始を衝突猶予時間が第1の閾値となったタイミングではなく、第2の閾値となるタイミングから逆算して決めている。したがって、モータ駆動時間が長くなり過ぎないようにでき、消費電力の低減を図れる。また、引き摺り感をドライバに与えないようにすることも可能となる。
【0057】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、ドライバが自車両と障害物との衝突を回避する操作の一例として、ステアリング操作やブレーキ操作を例に挙げて説明したが、自車両と障害物との衝突が実際に避けられたか否かを判定して、モータ60を停止しても良い。具体的には、衝突猶予時間が第2時間に達するまでの間に自車両が停止したときや、図3のステップ100、105のように自車両と障害物との衝突可能性を再度測定し、自車両の進行方向から障害物が外れていれば、モータ60を停止して良い。
【0059】
また、ドライバが適切な操作を行った場合のモータ60の停止は必ずしも必要ではない。ただし、消費電力低減のためにモータ60を停止するのが好ましい。
【0060】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、ステップ110の処理を実行する部分が第1衝突予測手段、ステップ115の処理を実行する部分が報知手段、ステップ120の処理を実行する部分が第2時間算出手段、ステップ125の処理を実行する部分が電圧測定手段に相当する。また、ステップ130の処理を実行する部分が到達時間算出手段、ステップ135の処理を実行する部分が回転指示手段、ステップ145〜155の処理を実行する部分がブレーキ開始手段、ステップ170の処理を実行する部分が停止指示手段に相当する。さらに、ステップ145の処理を実行する部分は第2衝突予測手段にも相当する。
【符号の説明】
【0061】
1…車両用ブレーキ装置、19、39…ポンプ、60…モータ、61…電源、62…スイッチ、70…ブレーキECU、71〜74…車輪速度センサ、75…電圧センサ、76…舵角センサ、77…障害物検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6