(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6417908
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】酸化触媒劣化診断装置及び酸化触媒劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20181029BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20181029BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20181029BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20181029BHJP
B01J 38/00 20060101ALI20181029BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20181029BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20181029BHJP
B01J 38/04 20060101ALI20181029BHJP
B01D 53/90 20060101ALI20181029BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N3/20 E
F01N3/36 B
F01N3/28 301E
F01N3/08 B
B01J38/00 ZZAB
B01J37/00 Z
B01D53/86
B01J38/04 Z
B01D53/90
B01D53/96 500
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-248601(P2014-248601)
(22)【出願日】2014年12月9日
(65)【公開番号】特開2016-109070(P2016-109070A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】野田 久仁男
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0156075(US,A1)
【文献】
特開2012−036762(JP,A)
【文献】
特開2008−038737(JP,A)
【文献】
特開2007−315233(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0158716(US,A1)
【文献】
特開2010−031697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/36
B01J 38/00
B01J 37/00
B01D 53/86
B01D 53/90
B01D 53/96
B01J 38/04
F01N 3/08
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の筒内から排出された排気ガスが通過する排気通路に配置された還元触媒の上流に、排気ガス中の粒子状物質を捕集する捕集装置を介設せずに配置された一つ又は複数の酸化触媒の劣化を診断する酸化触媒劣化診断装置において、
前記還元触媒の入口に配置されて、該還元触媒を通過する前の排気ガスの入口温度を取得する入口温度取得手段と、
いずれかの前記酸化触媒の出口に配置されて、該酸化触媒を通過した後の排気ガスの出口温度を取得する出口温度取得手段と、
前記筒内から排出された排気ガスに未燃燃料を供給して、前記酸化触媒及び前記還元触媒の機能を回復する機能回復制御が行われている間に、前記入口温度が、前記出口温度よりも予め定められた劣化温度以上に高くなるか否かを判定する判定手段と、を備え、
前記判定手段で前記入口温度が前記出口温度よりも前記劣化温度以上に高くなったと判定したときに、前記出口温度取得手段よりも上流に配置された前記酸化触媒が劣化していると判定する構成にしたことを特徴とする酸化触媒劣化診断装置。
【請求項2】
前記出口温度取得手段を、複数の前記酸化触媒のうちの最上流に配置された前記酸化触媒の出口に配置し、
前記判定手段で前記入口温度が前記出口温度よりも前記劣化温度以上に高くなったと判定したときに、最上流に配置された前記酸化触媒が劣化していると判定する構成にした請求項1に記載の酸化触媒劣化診断装置。
【請求項3】
前記劣化温度を、100℃以上、250℃以下に設定した請求項1又は2に記載の酸化触媒劣化診断装置。
【請求項4】
還元触媒の上流に排気ガス中の粒子状物質を捕集する捕集装置を介設せずに配置された一つ又は複数の酸化触媒の劣化を診断する方法において、
前記筒内から排出された排気ガスに未燃燃料を供給して、前記酸化触媒及び前記還元触媒の機能を回復する機能回復制御が行われている間に、
前記還元触媒の入口で、該還元触媒を通過する前の排気ガスの入口温度を取得すると共に、いずれかの前記酸化触媒の出口で、該酸化触媒を通過した後の排気ガスの出口温度を取得し、
前記入口温度が、前記出口温度よりも予め定められた劣化温度以上に高くなるか否かを判定し、
前記入口温度が前記出口温度よりも前記劣化温度以上に高くなった場合には、前記出口温度を取得した位置よりも上流に配置された前記酸化触媒が劣化していると判定することを特徴とする酸化触媒劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化触媒劣化診断装置及び酸化触媒劣化診断方法に関し、より詳細には、還元触媒の上流に捕集装置を介設せずに配置された酸化触媒における還元触媒への熱害に影響する劣化を早期に診断できる酸化触媒劣化診断装置及び酸化触媒劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスに含有される浄化対象成分(窒素酸化物、炭素酸化物、炭化水素)を後処理する排気ガス後処理装置においては、上流側に配置された酸化触媒(DOC)の硫黄被毒に起因する劣化や、下流側に配置された還元触媒の還元剤成分による被毒に起因する劣化が生じると、その劣化により低下した機能を回復するために機能回復制御が行われている。
【0003】
この機能回復制御においては、酸化触媒の出口に配置された温度センサの検出値に基づいて、ポスト噴射などによって未燃燃料を排気ガスに供給し、この未燃燃料を酸化触媒で燃焼して排気ガスの温度を所定温度に上昇させて、酸化触媒に付着した硫黄成分及び還元触媒に付着した還元剤成分を燃焼除去している。
【0004】
この酸化触媒の被毒は硫黄以外にエンジンオイルに含まれるリンなどの成分が排気ガス中に混入し、それが酸化触媒の表面に付着することによっても発生する。但し、この酸化触媒に堆積したリン成分などは高温環境下でも燃焼、除去できない。つまり前述したように排気ガスに未燃燃料を供給して排気ガスの温度を上昇させても酸化触媒の機能を回復することができない。
【0005】
この酸化触媒における劣化には、触媒性の劣化だけでなく、酸化触媒における排気ガスが通過できる有効面積の減少に伴う排気ガスの流速の増加によって、当該酸化触媒だけでなく直後の酸化触媒において、未燃燃料が十分に酸化触媒の触媒作用を受けずに酸化触媒を通過することも含まれる。
【0006】
これに関して、還元剤供給手段からの還元剤の供給中に酸化触媒に流入する排気ガスの温度が、高温側領域にあるときの酸化触媒から流出する出口温度と、還元剤供給手段からの還元剤の供給中に酸化触媒に流入する排気ガスの温度が、低温側領域にあるときの酸化触媒から流出する出口温度とに基づいて酸化触媒の劣化を診断する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかし、この装置のように酸化触媒の入口と出口における排気ガスの温度差にのみに基づいて酸化触媒の劣化を判定しても、下流側の還元触媒における未燃燃料の燃焼による影響の大小までは判定できないという問題がある。
【0008】
排気ガス後処理装置には、還元触媒の上流に捕集装置を介設せずに酸化触媒を配置したものがある。このような排気ガス後処理装置においては、上流側に配置した酸化触媒が劣化した状態で、機能回復制御を行うと、酸化触媒では燃焼しきれなかった未燃燃料が下流に配置された還元触媒まで到達してから燃焼する。その結果、還元触媒が高温になり許容されている温度を超えてしまうという現象が起きる。
【0009】
特許文献1の装置のように酸化触媒の出口における排気ガスの温度にのみに基づいて酸化触媒の劣化を判定しているだけでは、下流側の還元触媒が許容されている温度を超える
ような酸化触媒の劣化を早期に判定できない。
【0010】
そのため、還元触媒の上流に捕集装置を介設せずに酸化触媒を配置した排気ガス後処理装置においては、その還元触媒への熱害の影響が生じる酸化触媒の劣化を早期に診断することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−31697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その課題は、還元触媒の上流に捕集装置を介設せずに配置された酸化触媒における還元触媒への熱害に影響する劣化を早期に診断できる酸化触媒劣化診断装置及び酸化触媒劣化診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決する本発明の酸化触媒劣化診断装置は、内燃機関の筒内から排出された排気ガスが通過する排気通路に配置された還元触媒の上流に、排気ガス中の粒子状物質を捕集する捕集装置を介設せずに配置された一つ又は複数の酸化触媒の劣化を診断する酸化触媒劣化診断装置において、前記還元触媒の入口に配置されて、該還元触媒を通過する前の排気ガスの入口温度を取得する入口温度取得手段と、いずれかの前記酸化触媒の出口に配置されて、該酸化触媒を通過した後の排気ガスの出口温度を取得する出口温度取得手段と、前記筒内から排出された排気ガスに未燃燃料を供給して、前記酸化触媒及び前記還元触媒の機能を回復する機能回復制御が行われている間に、前記入口温度が、前記出口温度よりも予め定められた劣化温度以上に高くなるか否かを判定する判定手段と、を備え、前記判定手段で前記入口温度が前記出口温度よりも前記劣化温度以上に高くなったと判定したときに、前記出口温度取得手段よりも上流に配置された前記酸化触媒が劣化していると判定する構成にしたことを特徴とするものである。
【0014】
また、上記の課題を解決する本発明の酸化触媒劣化診断方法は、還元触媒の上流に排気ガス中の粒子状物質を捕集する捕集装置を介設せずに配置された一つ又は複数の酸化触媒の劣化を診断する方法において、前記筒内から排出された排気ガスに未燃燃料を供給して、前記酸化触媒及び前記還元触媒の機能を回復する機能回復制御が行われている間に、前記還元触媒の入口で、該還元触媒を通過する前の排気ガスの入口温度を取得すると共に、いずれかの前記酸化触媒の出口で、該酸化触媒を通過した後の排気ガスの出口温度を取得し、前記入口温度が、前記出口温度よりも予め定められた劣化温度以上に高くなるか否かを判定し、前記入口温度が前記出口温度よりも前記劣化温度以上に高くなった場合には、前記出口温度を取得した位置よりも上流に配置された前記酸化触媒が劣化していると判定することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化触媒劣化診断装置及び酸化触媒劣化診断方法によれば、還元触媒の入口における排気ガスの入口温度と、いずれかの酸化触媒の出口における排気ガスの出口温度とを比較して、入口温度が出口温度よりも予め定められた劣化温度以上に高くなったときに、出口温度を取得した位置よりも上流に配置された酸化触媒が劣化していると判定する。つまり、入口温度と出口温度との差分により、酸化触媒及び還元触媒の機能を回復するための機能回復制御中に、排気ガスに供給された未燃燃料が酸化触媒を通過して還元触媒まで到達して燃焼する可能性がある状況を、すなわち、未燃燃料を酸化触媒で十分に酸化しきれない状況を、酸化触媒が劣化している状況として判定するので、還元触媒への熱害を考慮した酸化触媒の劣化を早期に診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下、本発明の酸化触媒劣化診断装置及び酸化触媒劣化診断方法について説明する。
なお、本開示において温度は摂氏(℃)を示すものとする。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の酸化触媒劣化診断装置及び酸化触媒劣化診断方法について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の酸化触媒劣化診断装置40の構成を例示する。この酸化触媒劣化診断装置40は、エンジン10の筒内13から排出された排気ガスを処理する排気ガス後処理装置30に配置された第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33のうちの出口温度センサ42よりも上流に配置された酸化触媒の劣化を診断するものである。
【0019】
図1に示すように、運転中のエンジン10においては、吸気バルブ11からピストン12が往復する筒内13に吸入された吸入空気と、燃料噴射弁14から筒内13に噴射された燃料とが混合されて燃焼して、排気ガスとなって排気バルブ15から排気されている。
【0020】
吸入空気は、外部から吸気通路16へ吸入されて、ターボチャージャ17のコンプレッサ18により圧縮されて高温になり、インタークーラー19で冷却されている。その後に、吸気スロットル20により流量が調節されて、インテークマニホールド21を経て吸気バルブ11から筒内13に吸入されている。
【0021】
排気ガスは、筒内13から排気バルブ15を経由してエキゾーストマニホールド22から排気通路23へ排気されて、ターボチャージャ17のタービン24を駆動させている。その後に、排気ガス後処理装置30で処理されて大気へと放出されている。
【0022】
また、排気ガスの一部はEGRガスとして、排気通路23から分岐して吸気通路16に接続されたEGR通路25に設けられたEGRクーラー26で冷却された後に、EGRバルブ27により吸気通路16に供給されて吸入空気に混合されている。
【0023】
排気ガス後処理装置30は上流側から下流側に向って順に、第一酸化触媒31、第二酸化触媒32、第三酸化触媒33、尿素水噴射弁34、第一還元触媒35、第二還元触媒36、及び第三還元触媒37が配置されている。つまり、この排気ガス後処理装置30は、第三酸化触媒33と第一還元触媒35との間に排気ガス中の粒子状物質を捕集する捕集装置が介設されていない後処理装置である。
【0024】
この第一還元触媒35の上流に捕集装置を介設せずに配置された複数の第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33を有する排気ガス後処理装置30を備えたエンジン10は、油圧ショベル、クレーンなどの産業機械や農業機械に適用される産業用エンジンを例示できる。
【0025】
第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33は貴金属触媒を有して構成され、それぞれ異なる酸化触媒を用いてもよい。例えば、第一酸化触媒31を窒素酸化物の浄化に優れている酸化吸蔵能力(OSC)を有する酸化物と酸化物半導体が混在した触媒を担持させて構成し、第二酸化触媒32や第三酸化触媒33にはHCの浄化に優れている金属触媒又は炭化水素吸着材と貴金属触媒が混在した触媒を担持させて構成してもよい。また、複数の第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33を一つの酸化触媒に置き換えてもよいが、酸化触媒を複数にすることで、排気ガスの浄化性能は向上するので、実施形態の第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33のように複数とすることが好ましい。
【0026】
第一還元触媒35〜第三還元触媒37においても、それぞれ異なる還元触媒を用いてもよく、例えば、第三還元触媒37は、第一還元触媒35及び第二還元触媒36で消費されなかったアンモニアを分解して、アンモニアがスリップするのを防止する触媒としてもよい。また、複数の第一還元触媒35〜第三還元触媒37を一つの還元触媒に置き換えてもよい。
【0027】
なお、エンジン10には、制御装置28が設けられており、それぞれ各種センサと接続されて、燃料噴射弁14や尿素水噴射弁34を制御している。
【0028】
このような排気ガス後処理装置30においては、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33のそれぞれ触媒上で複雑な反応を経て排気ガス成分である窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素を酸化除去し、第一還元触媒35〜第三還元触媒37で尿素水噴射弁34から噴射された尿素水が加水分解して生じたアンモニアを還元剤として排気ガス中の窒素酸化物を浄化している。代表的な還元反応としては、「4NO+4NH
3+O
2→4N
2+6H
2O」、「6NO
2+8NH
3→7N
2+12H
2O」、「NO+NO
2+2NH
3→2N
2+3H
2O」を例示できる。
【0029】
この排気ガス後処理装置30における排気ガスの浄化が進むと、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33は排気ガス中の硫黄成分により被毒して、排気ガス中のガス成分の酸化機能が低下する。また、第一還元触媒35〜第三還元触媒37は排気ガス中に噴霧される尿素水の成分により白色生成物が堆積して、窒素酸化物の還元機能が低下する。
【0030】
そこで、このエンジン10においては、車両の走行中には、制御装置28により所定の運転時間毎に定期的に機能回復制御を行っている。この所定の運転時間は、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33、及び第一還元触媒35〜第三還元触媒37の劣化が進行する時間に設定され、例えば30時間程度である。この走行中に行われる機能回復制御は5分〜10分程度に渡って行われる。また、車両の停車中には、運転者により手動で行われる手動機能回復制御を行っている。この手動機能回復制御は数時間に渡って行われる。
【0031】
機能回復制御においては、第一酸化触媒31の入口に配置されて、第一酸化触媒31を通過する前の排気ガスの最上流温度T1を取得する最上流温度センサ41が予め設定される開始温度Tcになったときに、制御装置28が燃料噴射弁14を制御してポスト噴射を行う。なお、この燃料噴射弁14からのポスト噴射に代えて、排気通路23に噴射弁を設けて直接排気ガスに未燃燃料を供給してもよい。
【0032】
開始温度Tcは少なくとも各触媒が活性化する温度、例えば、200度以上の値に設定されている。
【0033】
このポスト噴射によって排気ガスに未燃燃料が供給されて、その未燃燃料が第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33で燃焼することによって排気ガスの温度が上昇する。このとき、排気ガスに供給される未燃燃料の供給量は、第一酸化触媒31の出口に配置されて、第一酸化触媒31を通過した後の排気ガスの出口温度T2を取得する出口温度センサ42、及び第一還元触媒35の入口に配置されて、第一還元触媒35を通過する前の排気ガスの入口温度T3を取得する入口温度センサ43のそれぞれの検出値に基づいて調節される。具体的には、排気ガスに供給される未燃燃料の供給量は、出口温度センサ42及び入口温度センサ43のそれぞれの検出値を機能回復温度Ta以上に上昇させる量に調節される。そして、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33に堆積した硫黄分を燃焼、除去すると共に、第一還元触媒35〜第三還元触媒37に堆積した尿素水の成分による白色生成物を燃焼、除去する。
【0034】
なお、このとき、出口温度T2及び入口温度T3のそれぞれが、機能回復温度Ta以上、許容温度Tb以下となるように、ポスト噴射による噴射量を調節することが望ましい。機能回復温度Taは、硫黄成分や白色生成物が燃焼する値に、例えば、450度〜550度に設定さている。許容温度Tbは、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33、及び第一還元触媒35〜第三還元触媒37の耐性に基づいた値に、例えば、650度〜750度に設定されている。また、出口温度T2及び入口温度T3はそれぞれが異なる温度でもよく、同等の温度でもよい。
【0035】
しかし、硫黄以外の成分が堆積して第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33が劣化していると、上記の機能回復制御中に、ポスト噴射などにより供給された未燃燃料の全てが第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33では燃焼しきれずに、下流に配置された第一還元触媒35〜第三還元触媒37まで到達してから燃焼し、第一還元触媒35〜第三還元触媒37が許容温度Tbを超える、すなわち入口温度T3が許容温度Tbを超える虞がある。
【0036】
そこで、エンジン10の制御装置28に本発明の酸化触媒劣化診断装置40を備えて、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33の劣化を診断することで、機能回復制御の停止を促したり、運転者に第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33の劣化を知らせて、該当酸化触媒の交換を促したりして、機能回復制御の際の第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害を防止する。この酸化触媒劣化診断装置40としては、制御装置28に記憶されたプログラムを例示できるが、制御装置28とは異なる電子計算機としてもよい。
【0037】
この酸化触媒劣化診断装置40においては、入口温度取得手段として、第一還元触媒35の入口に配置されて、第一還元触媒35を通過する前の排気ガスの入口温度T3を取得する入口温度センサ43と、出口温度取得手段として、第一酸化触媒31の出口に配置され、第一酸化触媒31を通過した後の排気ガスの出口温度T2を取得する出口温度センサ42と、上記の機能回復制御中に、入口温度T3が、出口温度T2よりも予め定められた劣化温度ΔT以上に高くなるか否かを判定する判定手段44と、を備えて構成される。
【0038】
そして、この酸化触媒劣化診断装置40は、判定手段44で入口温度T3が出口温度T2よりも劣化温度ΔT以上に高くなったと判定したときに、入口温度センサ43よりも上流に配置された第一酸化触媒31が劣化していると判定するように構成される。
【0039】
図2に示すように、入口温度センサ43は、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33を通過して、第一還元触媒35〜第三還元触媒37のうちの最も上流側に配置される第一還元触媒35を通過する前の排気ガスの温度である入口温度T3を取得するセンサであり、制御装置28に接続されている。
【0040】
出口温度センサ42は、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33のうちの最上流に配置される第一酸化触媒31を通過後で、且つ第二酸化触媒32を通過する前の排気ガスの温度である出口温度T2を取得するセンサである。この出口温度センサ42も制御装置28に接続されている。
【0041】
判定手段44は、例えば、酸化触媒劣化診断装置40と共に制御装置28に記憶されたプログラムを例示できる。この判定手段44は、入口温度T3と出口温度T2とを逐次比較して、入口温度T3が、出口温度T2よりも劣化温度ΔT以上に高くなるか否か、すなわち入口温度T3及び出口温度T2の差分が劣化温度ΔT以上になるか否かを判定している。
【0042】
劣化温度ΔTは、機能回復制御中に第一酸化触媒31で酸化されずに通過した未燃燃料が、第二酸化触媒32及び第三酸化触媒33を通過して、第一還元触媒35に至ってから燃焼する状態、すなわち第一酸化触媒31が劣化して通過する未燃燃料を十分に酸化できずに、第一酸化触媒31を通過する未燃燃料が多くなり、第一還元触媒35に熱害の影響が出る虞のある状態を判定できる値に設定される。この劣化温度ΔTは、予め実験や試験により第一酸化触媒31が劣化した状態で機能回復制御を行い、その場合に第一還元触媒35〜第三還元触媒37のいずれかが許容温度Tbを超える可能性が生じたときの入口温度T3及び出口温度T2の差分から設定される。
【0043】
次に、酸化触媒劣化診断装置40における酸化触媒劣化診断方法について、
図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0044】
まず、ステップS10では、機能回復制御中か否かを判定する。このステップS10では、制御装置28の噴射モードがパージモードになったか否か、あるいは出口温度T2と入口温度T3とが機能回復温度Ta以上になったか否かで判定している。
【0045】
なお、この機能回復制御中か否かの判定においては、運転者による手動機能回復制御は除外してもよい。手動機能回復制御中は車両が走行していない状況で行われるため、エンジン10の回転数が低いことに伴って筒内13から排出される排気ガスの流量も少量となる。つまり、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33を通過する未燃燃料の量が少量となるため、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33が劣化していても、第一還元触媒35〜第三還元触媒37が許容温度Tbを超える状況になり難い。従って、ステップS10での機能回復制御中か否かの判定には、この手動機能回復制御を含める必要はない。
【0046】
ステップS10で機能回復制御中でないと判定されると、この劣化診断方法は完了する。一方、ステップS10で機能回復制御中と判定されると、ステップS20へ進む。次いで、ステップS20では、入口温度センサ43から入口温度T3を取得する。次いで、ステップS30では、出口温度センサ42から出口温度T2を取得する。
【0047】
次いで、ステップS40では、取得した入口温度T3が、取得した出口温度T2よりも劣化温度ΔT以上に高くなるか否かを判定する。なお、このステップS40では、入口温度T3と出口温度T2との差分が、劣化温度ΔT以上か否かを判定してもよい。
【0048】
ステップS40で、入口温度T3が出口温度T2よりも劣化温度ΔT以上に高くならない、つまり、入口温度T3と出口温度T2の差分が劣化温度ΔT未満の場合には、この劣化診断方法は完了する。
【0049】
一方、ステップS40で、入口温度T3が出口温度T2よりも劣化温度ΔT以上に高くなる、つまり、入口温度T3と出口温度T2の差分が劣化温度ΔT以上の場合には、ステップS50へ進む。
【0050】
次いで、ステップS50では、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33のうちの出口温度センサ42の上流に配置された第一酸化触媒31の劣化が第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害に影響する劣化であると判定して、この劣化診断方法は完了する。
【0051】
上記の酸化触媒劣化診断装置40及びその劣化診断方法によれば、入口温度T3と出口温度T2とを比較して、入口温度T3が出口温度T2よりも劣化温度ΔT以上に高くなったときに、第一酸化触媒31の劣化度合いが、第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害に影響する劣化であると判定する。つまり、機能回復制御中に排気ガスに供給された
未燃燃料が第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33を十分に酸化されない状態で通過して、第一還元触媒35〜第三還元触媒37まで到達して燃焼し、第一還元触媒35〜第三還元触媒37が許容温度Tbを超える可能性が生じた場合には、第一酸化触媒31が第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害に影響する程度に劣化していると判定するので、第一還元触媒35の上流に捕集装置を介設せずに配置された第一酸化触媒31の第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害に影響する劣化を早期に診断できる。
【0052】
そして、この第一酸化触媒31の早期の劣化診断により、制御装置28により機能回復制御の停止を促したり、運転者に第一酸化触媒31の劣化を知らせて第一酸化触媒31の交換を促したりできるので、機能回復制御中の第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害を早期に防止できる。
【0053】
図4は、第一酸化触媒31の入口であるI地点、第一酸化触媒31の出口であるII地点、第一還元触媒35の入口であるIII地点の温度変化を示している。なお、III地点においては、第一酸化触媒31が劣化した状態を点線で示し、第一酸化触媒31が劣化していない状態を二点鎖線で示している。
【0054】
機能回復制御が行われると、排気ガスに供給された未燃燃料は第一酸化触媒31で燃焼して排気ガスの温度は
図4のIから
図4のIIに示すように上昇する。また、排気ガスに供給された未燃燃料は、第一酸化触媒31が劣化してその有効面積が減少していることにより、排気ガスの流速が速くなり第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33を通過して第一還元触媒35に到達して燃焼する。これによって、
図4のIIIに示すように、時間t1で第一還元触媒35の温度が許容温度Tbまで上昇する。
【0055】
このような状態において、酸化触媒劣化診断装置40で劣化診断を行うと、時間t2で、II地点の温度とIII地点の温度との差分が劣化温度ΔT以上、すなわち入口温度T3と出口温度T2との差分が劣化温度ΔT以上となる。つまり、時間t1になる前に第一酸化触媒31の劣化が第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害に影響する劣化であると判定できる。
【0056】
そして、この第一酸化触媒31の早期の劣化診断により、第一還元触媒35の温度が許容温度Tbを超える時間t1の前に機能回復制御を停止させることを促して、第一還元触媒35が許容温度Tbを超えることを回避できる。また、運転者に第一酸化触媒31の劣化を知らせて第一酸化触媒31の交換を促して、劣化していない第一酸化触媒31により、機能回復制御中の第一還元触媒35の温度を低減できる。
【0057】
なお、上記の酸化触媒劣化診断装置40においては、第一酸化触媒31の出口に出口温度センサ42を配置して、判定手段44では、出口温度センサ42の上流に配置された第一酸化触媒31の劣化を診断する構成にしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33のそれぞれの特性やエンジン10の運転状況によっては、出口温度センサ42を第二酸化触媒32の出口や第三酸化触媒33の出口に配置してもよい。
【0058】
例えば、
図2において、IVの位置に出口温度センサ42を配置すると、酸化触媒劣化診断装置40の診断の対象は、第一酸化触媒31及び第二酸化触媒32となる。また、Vの位置に出口温度センサ42を配置すると、酸化触媒劣化診断装置40の診断の対象は、第一酸化触媒31〜第三酸化触媒33となる。
【0059】
但し、複数の酸化触媒を第一還元触媒35の上流側に配置する構成においては、最上流に配置された第一酸化触媒31が最も劣化の進行が早く、第一還元触媒35〜第三還元触
媒37への熱害の影響も大きい。
【0060】
そのため、上記の酸化触媒劣化診断装置40においては、出口温度センサ42を、複数の酸化触媒のうちの最上流に配置された第一酸化触媒31の出口に配置し、判定手段44で入口温度T3が出口温度T2よりも劣化温度ΔT以上に高くなったと判定したときに、最上流に配置された第一酸化触媒31が劣化していると判定することが望ましい。
【0061】
また、上記の酸化触媒劣化診断装置40においては、劣化温度ΔTを、100度以上、250度以下の値に設定することが望ましい。
【0062】
劣化温度ΔTを100度未満の値に設定すると、第一酸化触媒31が劣化していないにも関わらずに判定手段44で頻繁に劣化が判定されてしまう。一方、劣化温度ΔTを250度超の値に設定すると、判定手段44で劣化が判定されたときには、第一還元触媒35〜第三還元触媒37を通過する排気ガスの温度が許容温度Tbを超えており、第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害が防止できない場合がある。そのため、劣化温度ΔTを100度以上、250度以下の値に設定することで、第一還元触媒35〜第三還元触媒37への熱害を考慮しながら、第一酸化触媒31の劣化を精度よく診断することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 エンジン
13 筒内
23 排気通路
30 排気ガス後処理装置
31〜33 第一酸化触媒〜第三酸化触媒
34 尿素水噴射弁
35〜37 第一還元触媒〜第三還元触媒
40 酸化触媒劣化診断装置
43 入口温度センサ
42 出口温度センサ
44 判定手段
T3 入口温度
T2 出口温度
ΔT 劣化温度