特許第6417963号(P6417963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6417963回収ボイラ捕集灰の処理方法及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6417963
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】回収ボイラ捕集灰の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   D21C 11/00 20060101AFI20181029BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20181029BHJP
   F23J 1/00 20060101ALI20181029BHJP
   B01D 61/02 20060101ALN20181029BHJP
   C02F 1/44 20060101ALN20181029BHJP
   C02F 1/04 20060101ALN20181029BHJP
【FI】
   D21C11/00 CZAB
   B09B3/00 304G
   F23J1/00 A
   !B01D61/02 500
   !C02F1/44 D
   !C02F1/04 G
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-11315(P2015-11315)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-135931(P2016-135931A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2017年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元
(72)【発明者】
【氏名】山本 学
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−264089(JP,A)
【文献】 特開2002−331202(JP,A)
【文献】 特開2006−110508(JP,A)
【文献】 特開2007−105692(JP,A)
【文献】 特開2007−054801(JP,A)
【文献】 特表平7−509284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
B09B3/00
F23J1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程と、
前記溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を得る工程と、
前記水溶液から水分を分離する工程と、
前記水分を分離する工程で得られた水分を回収ボイラの捕集灰と混合するためにスラリ化槽に送る工程とを含むことを特徴とする回収ボイラ捕集灰の処理方法。
【請求項2】
前記水分を分離する工程では、水分を蒸発法又は逆浸透膜法により分離する請求項1に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
【請求項3】
前記水溶液から水分を分離する工程の前に、さらに固形分を析出させる工程を含む請求項1又は2に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
【請求項4】
前記溶解スラリを得る工程では、前記回収ボイラ捕集灰と水分の混合質量比率が1:0.2〜50となるように混合する請求項1〜3のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
【請求項5】
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを作成するスラリ化槽と、
前記溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を分離する第1の分離装置と、
前記水溶液から水分を分離する第2の分離装置と、
前記第2の分離装置で分離された水分を前記スラリ化槽に送る流路とを備える回収ボイラ捕集灰の処理装置。
【請求項6】
前記第2の分離装置は、蒸発晶析装置又は逆浸透膜含有装置である請求項5に記載の回収ボイラ捕集灰の処理装置。
【請求項7】
前記第1の分離装置は、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液と固形分を分離する装置である請求項5又は6に記載の回収ボイラ捕集灰の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回収ボイラ捕集灰の処理方法及び処理装置に関する。具体的には、本発明は、回収ボイラの捕集灰からカリウムと塩素を溶解除去する処理方法であって、カリウムと塩素が溶解した水溶液の水分を再利用する工程を含む処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回収ボイラは、クラフトパルプ製造工程で排出される廃液(黒液)を燃料とするボイラである。クラフトパルプ製造工程で排出された黒液は、蒸留器等を用いて濃縮され、ボイラの燃料として使用される。この濃縮黒液は、ボイラで燃焼されることで、有機分はエネルギーとして使用され、無機分はクラフトパルプ製造工程の薬品として回収される。クラフトパルプ製造工程では回収した無機分が繰り返し循環利用されることで、原料の木材チップ等に含まれる塩素やカリウムが濃縮され、腐食等の障害の原因となるため、ボイラ捕集灰等から塩素とカリウムを一定比率除去することが必要である。
【0003】
ボイラ捕集灰とは、回収ボイラの煙道中に設置した電機集塵機で捕集された飛灰であり、硫酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを主成分とするものである。このように、ボイラ捕集灰には、多量のナトリウムが含まれており、絶乾重量の30%程度がナトリウムである。ボイラ捕集灰中のナトリウムは黒液に戻され、クラフトパルプ製造用薬品のナトリウム源として利用される。なお、ボイラ捕集灰には、硫酸ナトリウムや炭酸ナトリウムの他に、不純物として塩化ナトリウム及び硫酸カリウムも含まれている。
【0004】
塩化ナトリウム及び硫酸カリウム中の塩素やカリウムは、除去されることが必要である。カリウム及び塩素の除去方法としては、ボイラ捕集灰を水に溶解することで、ボイラ捕集灰中の塩素及びカリウムが溶解した溶液と、硫酸ナトリウムなどの固形分を分離回収する方法が挙げられる(特許文献1及び2)。また、ボイラ捕集灰を水分に溶解した溶解スラリを冷却し、冷却により再結晶化したナトリウム分を溶解スラリから分離(ろ過)する方法も知られている(特許文献3〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−264089号公報
【特許文献2】特開平4−153386号公報
【特許文献3】特開平11−12973号公報
【特許文献4】特開平9−29201号公報
【特許文献5】特開平10−118611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の処理方法では、塩素及びカリウムを除去する際には、塩素及びカリウムは水溶液の状態で除去されており、この水溶液は排水として処理されていた。このため、塩素及びカリウムを除去する際には大量の水溶液が排水となり、環境への悪影響が懸念されていた。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、塩素及びカリウムを除去する際に排出される排水を大幅に低減させる処理方法及び処理装置を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは塩素及びカリウムを含む水溶液から水分を分離し、得られた水分を回収ボイラ捕集灰の溶解工程に戻すことにより、塩素及びカリウムを除去する際に排出される排水の量を大幅に低減し得ることを見出した。さらに、本発明者らは、このような工程を設けることで、ゼロ排水システムを構築し得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1]回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程と、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を得る工程と、水溶液から水分を分離する工程と、水分を分離する工程で得られた水分を回収ボイラの捕集灰と混合するためにスラリ化槽に送る工程とを含むことを特徴とする回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[2]水分を分離する工程では、水分を蒸発法又は逆浸透膜法により分離する[1]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[3]水溶液から水分を分離する工程の前に、さらに固形分を析出させる工程を含む[1]又は[2]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[4]溶解スラリを得る工程では、回収ボイラ捕集灰と水分の混合質量比率が1:0.2〜50となるように混合する[1]〜[3]のいずれかに記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[5]回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを作成するスラリ化槽と、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を分離する第1の分離装置と、水溶液から水分を分離する第2の分離装置と、第2の分離装置で分離された水分をスラリ化槽に送る流路とを備える回収ボイラ捕集灰の処理装置。
[6]第2の分離装置は、蒸発晶析装置又は逆浸透膜含有装置である[5]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理装置。
[7]第1の分離装置は、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液と固形分を分離する装置である[5]又は[6]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の処理方法によれば、塩素及びカリウムを除去する際に排出される排水の量を大幅に低減することができる。これにより、環境汚染等の環境負荷を低減することが可能となる。さらに、本発明の処理方法は、ゼロ排水システムを構築し得ることに寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法を説明する概略図である。
図2図2は、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法の他の態様を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(回収ボイラ捕集灰の処理方法)
本発明は、回収ボイラ捕集灰(以下、EP灰ともいう)の処理方法に関する。本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法は、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程と、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を得る工程と、水溶液から水分を分離する工程と、水分を分離する工程で得られた水分を回収ボイラの捕集灰と混合するためにスラリ化槽に送る工程を含む。本発明では、上記の工程によって回収ボイラ捕集灰を処理することにより、塩素及びカリウムを除去する際に、系外に排出される塩素及びカリウムを含有する水溶液量を大幅に低減することができる。さらに、本発明の処理方法は、ゼロ排水システムを構築することを可能にする。なお、ここでゼロ排水システムとは、回収ボイラ捕集灰を処理する際に、除去された塩素とカリウムを含有する水溶液を実質的に系外に排出しないことを意味する。
【0014】
図1に示すように、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法は、回収ボイラ5において黒液を燃焼させた際に出る捕集灰の少なくとも一部をスラリ化槽10において溶解スラリを得る工程を有する。スラリ化槽10には、水分が投入され、回収ボイラ捕集灰が溶解される。
【0015】
スラリ化槽10において得られた溶解スラリは、第1の分離装置20に送液される。第1の分離装置20では、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を分離する。また、第1の分離装置20では、溶解スラリ中の固形分を沈殿物として分離することもできる。沈殿物には、硫酸ナトリウム(Na2SO4)や炭酸ナトリウム(Na2CO3)が含まれる。
第1の分離装置20は、スラリ化槽10に直結するように設けられてもよいが、スラリ化槽10と第1の分離装置20の間には、析出槽15が設けられてもよい。例えば、図1に示すように析出槽15において、固形分を析出させる工程を含んでいてもよい。ここで、固形分を析出させる工程は、水溶液から水分を分離する工程の前に設けられる。析出槽15には、冷却システム(例えば、製氷機17から氷を送るシステム)が備えつけられており、析出槽15及び析出槽中の溶解スラリを冷却することにより、固形分を析出させる。
析出槽15で析出された固形分は、第1の分離装置20において沈殿物として分離され、パルプ製造工程に回収される。なお、第1の分離装置20において回収された固形分は回収ボイラにおいて再利用することもできる。
【0016】
第1の分離装置20で得られた塩素及びカリウムを含む水溶液は、第2の分離装置30に送液され、第2の分離装置30では、水溶液から水分が分離される。第2の分離装置30において、分離された水分は、さらに別の溶解スラリを得るためにスラリ化槽に送液される。ここで、第2の分離装置30には、水溶液から分離された水分をスラリ化槽に送液するための機構が備えつけられている。例えば、第2の分離装置30には、水分をスラリ化槽に送液するための配管が備えつけられていることが好ましく、送液量や送液速度を調節する送液システムが備えつけられていることがより好ましい。図1においては、第2の分離装置30で分離された水分の流れは、点線で示されている。
第2の分離装置30で分離された水分は、図1の点線で示すように、溶解スラリを得る工程で用いられたスラリ化槽に送液されてもよく、他のスラリ化槽に送液されてもよい。
【0017】
上記のような工程を経ることにより、捕集灰からカリウムや塩素を除去することが可能となる。このようにして、捕集灰からカリウムや塩素を除去することにより、回収ボイラの装置の腐食等を抑制することができる。なお、このように捕集灰からカリウムや塩素を除去することを、各々脱カリ(脱K)、脱塩(脱Cl)と呼ぶ場合がある。
【0018】
図2には、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理工程の他の態様の概略図を示している。本発明では、図2に示すように、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理工程においては、析出槽を有していなくてもよい。例えば、図2では、スラリ化槽10において固形分等の溶解度を調節することができる。このように固形分等の溶解度が調節された溶解スラリは、第1の分離装置20に直接送液され、第1の分離装置20では、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液が分離される。その後、塩素及びカリウムを含む水溶液は、第2の分離装置30に送液され、第2の分離装置30では、水溶液から水分を分離する。図2に示した第2の分離装置30にも、水溶液から分離された水分をスラリ化槽に送液するための機構が備えつけられている。例えば、第2の分離装置30には、水分をスラリ化槽に送液するための配管が備えつけられていることが好ましく、送液量や送液速度を調節する送液システムが備えつけられていることがより好ましい。
【0019】
このように、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理工程は、図1及び図2に示すような工程を有することが好ましく、特に図2に示すような工程を有することが好ましい。図2に示すような工程において回収ボイラ捕集灰の処理を行う場合は、回収ボイラ捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を特定の範囲内とすることが好ましい。ナトリウムの溶解率を特定の範囲内とすることにより、図1に示すような析出槽15を設置する必要がなくなり、処理装置を簡略化することができる。さらに、設備投資等にかかるコストを抑制することも可能となる。また、図1に示すような析出槽15には、冷却システム(例えば、製氷機17から氷を送るシステム)が必要であり、析出槽15を設置しない処理工程とすることで、冷却システムに使われる冷却エネルギーの消費を抑えることも可能になる。
【0020】
(溶解スラリを得る工程)
図2のように、析出槽を設けない処理工程では、スラリ化槽で溶解スラリを得る工程において、固形分の溶解度を以下のように調節することが重要となる。
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を90質量%以下とすればよく、60質量%以下とすることが好ましく、50質量%以下とすることがより好ましく、35質量%以下とすることが特に好ましい。溶解スラリを得る工程において、捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を上記範囲内とすることにより、カリウムや塩素を捕集灰から分離するために行われる溶解スラリの冷却負荷を低減することができる。すなわち、溶解スラリの冷却にかかるエネルギーを低減することができる。このため、エネルギー効率よく、捕集灰からカリウム及び塩素を除去することが可能となる。また、捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を上記範囲内とすることにより、溶解スラリを別途冷却する工程を省略することが可能となり、処理工程を簡略化することが可能となる。
【0021】
ここで、ナトリウム溶解率とは、100質量%から、捕集灰に含まれるナトリウムの質量に対する黒液に戻されるナトリウムの質量百分率を引いたものである。具体的には、以下の式で算出される。
溶解率(質量%)=100−(黒液に戻される質量数/捕集灰に含まれる質量)×100
【0022】
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、捕集灰に含まれるカリウムの溶解率を50質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましく、70質量%以上とすることが特に好ましい。溶解スラリのカリウムの溶解率を上記範囲以上とすることにより、捕集灰からカリウムを十分に除去することが可能となる。すなわち、カリウムの除去率を高めることができる。
【0023】
また、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、捕集灰に含まれる塩素の溶解率を65質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましく、80質量%以上とすることがさらに好ましい。溶解スラリの塩素の溶解率を上記範囲以上とすることにより、捕集灰から塩素を十分に除去することが可能となる。すなわち、塩素の除去率を高めることができる。
【0024】
図2に示すような工程では、スラリ化槽10における溶解スラリの水温は25℃未満であることが好ましく、20℃未満であることがより好ましい。水温を上記範囲内とする場合、混合時間は5〜70分であることが好ましく、10〜60分であることがより好ましく、20〜50分であることが最も好ましい。
【0025】
一方、スラリ化槽10における溶解スラリの水温は40〜100℃としてもよい。水温を高温にする場合、50〜85℃とすることがより好ましい。水温を上記範囲内とする場合、硫酸ナトリウムの水和反応は生じず、長時間の撹拌によるデメリットを小さくすることができる。一方で、炭酸ナトリウムの1水和物が生じる傾向となるため、捕集灰と水分との混合時間は10〜120分であることが好ましく、20〜90分であることがより好ましく、30〜80分であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、混合時間は、回分方式(バッチ方式)および連続方式のそれぞれに対し、下記のように定義される。回分方式においては、混合時間は、撹拌下にある所定量の水分に捕集灰を投入してから、スラリを分離機に送るまでの時間をいう。捕集灰の投入には設備規模等に応じた時間を要するが、投入時間は可能な限り速やかであることが望ましい。一方、連続方式においては、スラリ化槽の滞留時間が混合時間に相当する。すなわち、連続方式においては、混合時間は下記の関係式で表される。
(混合時間)=(滞留時間)=(スラリ化槽容積[m3])/(スラリ処理量[m3/h])
【0027】
スラリ化槽では、捕集灰の量に応じて必要量の水分が添加される。捕集灰と水分の混合質量比率は特に限定されるものではないが、1:0.2〜50であることがより好ましく、1:0.3〜30であることがさらに好ましく、1:0.5〜10であることが特に好ましい。捕集灰と水分の混合質量比率を上記範囲内とすることにより、ナトリウム、カリウム及び塩素の各々の溶解率を調節することが可能となり、捕集灰からカリウム及び塩素を効率よく除去することができる。
【0028】
さらにスラリ化槽に硫酸を加え、分離した固形分中の硫酸比率やナトリウム回収率を調整することができる。溶解スラリのpHは7〜12であることが好ましく、7〜10であることがより好ましい。
【0029】
スラリ化槽において溶解スラリを作成する工程は、回分式(バッチ方式)でも連続方式でも良い。特に、スラリ化槽の温度を25℃未満とする場合、捕集灰と水分との混合時間に比例して捕集灰中の硫酸ナトリウムが水和熱を発しながら10水和物に変化するため、混合時間の管理は重要である。
【0030】
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、溶解スラリに塩化物イオンを含む水溶液を添加してもよい。溶解スラリには、塩化物イオンは、5〜100g/l添加されることが好ましく、10〜60g/l添加されることがよい好ましく、20〜40g/l添加されることがさらに好ましい。溶解スラリに上記範囲内となるように塩化物イオンを添加することにより、ナトリウムの溶解率をより低く抑えることが可能となる。
【0031】
(水溶液を得る工程)
溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を得る工程は、溶解スラリに含まれる固形分を一定以上析出させた後に、第1の分離装置において塩素及びカリウムを含む水溶液を得る工程である。固形分を一定以上析出させるためには、図1に示した工程で冷却等により固形分を析出させてもよく、図2に示した工程で固形分の溶解度をあらかじめ調節してもよい。固形分を析出槽で析出させずに、塩素及びカリウムを含む水溶液を得る場合は、上述したように、スラリ化槽で各成分の溶解度を調節することが好ましい。
【0032】
また、図1のように固形分を析出槽15で析出させる場合は、溶解スラリの液温を25℃以下とすることが好ましく、20℃以下がさらに好ましく、15℃以下とすることが最も好ましい。
【0033】
第1の分離装置では、溶解スラリに含まれる固形分と塩素及びカリウムを含む水溶液を分離する。分離する方法としては、例えば、遠心分離法、フィルターによるろ過等が挙げられる。
【0034】
(水溶液から水分を分離する工程)
水溶液から水分を分離する工程は、塩素及びカリウムを含む水溶液から水分を分離する工程である。このような水分の分離は、第2の分離装置において行われる。水分を分離する工程では、水溶液を蒸発法又は逆浸透膜法により水分を分離することが好ましく、第2の分離装置は、蒸発晶析装置又は逆浸透膜含有装置であることが好ましい。
【0035】
蒸発法は、塩素及びカリウムを含む水溶液に含まれる水分を蒸発させ、蒸発させた蒸気を冷却することによって水分を分離する方法である。
逆浸透膜法は水を通し、イオンや塩類など水以外の不純物が透過しない性質を持つ逆浸透膜を利用する方法である。
【0036】
(スラリ化槽に送る工程)
スラリ化槽に送る工程は、水溶液から水分を分離する工程で得られた水分をスラリ化槽に送液する工程である。ここで、スラリ化槽に送液された水分は、他のバッチの回収ボイラ捕集灰と混合される水分として再利用される。なお、スラリ化槽が連続方式の場合は、他の時間単位において回収ボイラ捕集灰と混合される水分として再利用される。本明細書では、バッチ方式の場合は、水分と他のバッチの回収ボイラ捕集灰を混合して得られる溶解スラリのことを第2の溶解スラリと表現してもよい。また、連続方式の場合は、水分と他の時間単位において得られる回収ボイラ捕集灰を混合して得られる溶解スラリを第2の溶解スラリと表現してもよい。なお、第2の溶解スラリは、溶解スラリを得る工程で用いたスラリ化槽と同じスラリ化槽で作成されてもよく、異なるスラリ化槽で作成されてもよい。
【0037】
また、スラリ化槽に送る工程では、水溶液から水分を分離する工程で得られた水分を1つのスラリ化槽に送液してもよく、2以上の異なるスラリ化槽に送液してもよい。水分を2以上の異なるスラリ化槽に送液する場合、同時に異なるスラリ化槽に送液をしてもよいし、異なる時間に、各々のスラリ化槽に送液をしてもよい。
【0038】
スラリ化槽に送る工程では、塩素及びカリウムを含む水溶液から分離された水分をスラリ化槽に送るための機構を利用して送液が行われる。例えば、第2の分離装置30には、水分をスラリ化槽に送液するための配管が備えつけられていることが好ましく、送液量や送液速度を調節する送液システムが備えつけられていることがより好ましい。
【0039】
(回収ボイラ捕集灰の処理装置)
本発明は、回収ボイラ捕集灰の処理装置に関するものでもある。本発明の回収ボイラ捕集灰の処理装置は、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを作成するスラリ化槽と、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液を分離する第1の分離装置と、水溶液から水分を分離する第2の分離装置と、第2の分離装置で分離された水分をスラリ化槽に送る流路とを備える。
【0040】
スラリ化槽は、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部と水分とを混合する槽である。スラリ化槽には、水分を注入するための配管及び注入口が設けられていることが好ましい。また、スラリ化槽には、濃硫酸を注入するための配管及び注入口が設けられていることが好ましい。さらに、スラリ化槽には、回収ボイラ捕集灰を注入するための配管及び注入口が設けられていることが好ましい。
【0041】
スラリ化槽には、撹拌システムが設けられていることが好ましい。例えば、図1及び図2に示すようにスラリ化槽10には、撹拌ペラが備えつけられていることが好ましく、撹拌ペラによって、スラリ化槽内の溶液が均一になるように撹拌されることが好ましい。
【0042】
スラリ化槽には、回収ボイラ捕集灰のナトリウム、カリウム及び塩素の各々の溶解率を測定する機構を備えていてもよい。さらに、その測定結果を制御装置にフィードバックし、冷却温度や混合時間を適宜調節することとしてもよい。このような測定機構を備えることにより、回収ボイラ捕集灰から、効率良くカリウム及び塩素を除去することが可能となる。
【0043】
回収ボイラ捕集灰の処理装置が図1に示すような析出槽15を有する場合、析出槽には、冷却システムが備え付けられていることが好ましい。例えば、析出槽15には、図1に示されているような製氷機17が連結されていることが好ましく、製氷機17から氷が投入されることが好ましい。その他、析出槽15を外側から冷却するシステムを備えていてもよい。
【0044】
第1の分離装置は、溶解スラリから塩素及びカリウムを含む水溶液と固形分を分離する装置である。第1の分離装置は遠心分離装置、フィルターによるろ過装置などが挙げられる。特に遠心分離装置が好ましい。
【0045】
また、第1の分離装置には、固形分を回収し、回収ボイラに送るシステムが備えつけられていてもよい。
【0046】
第2の分離装置は、水溶液から水分を分離する装置である。第2に分離装置としては、例えば、蒸発晶析装置及び逆浸透膜含有装置を挙げることができる。
蒸発晶析装置は、塩素及びカリウムを含む水溶液に含まれる水分を蒸発させ、蒸発させた蒸気を冷却することによって水分を分離する装置である。一般市販の蒸発晶析装置や蒸発装置と晶析装置を組み合せた装置のいずれでもよく、適宜選択使用できる。
逆浸透膜含有装置に備えつけられた逆浸透膜は、適宜交換されることが好ましく、所定時間毎に逆浸透膜を交換するシステムを有していてもよく、逆浸透膜を通過する液量が所定値以下となった際に逆浸透膜を交換するシステムを有していてもよい。
【0047】
スラリ化槽に送る流路は、第2の分離装置とスラリ化槽を連結する配管で構成される。スラリ化槽に送る流路は、溶解スラリを得る工程で用いられたスラリ化槽に連結されていてもよく、上記のスラリ化槽とは別のスラリ化槽に連結されていてもよい。
また、配管はステンレス製であることが好ましい。
【符号の説明】
【0048】
5 回収ボイラ
10 スラリ化槽
15 析出槽
17 製氷機
20 第1の分離装置
30 第2の分離装置
図1
図2