(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪と一体回転する回転体と、摩擦材と、モータと、同モータの駆動によって軸方向に移動して前記摩擦材を前記回転体に押し付ける軸部材と、前記モータの駆動によって前記軸部材を移動させることで前記摩擦材を前記回転体に押し付けて押圧力を発生させる制御装置と、を備えた電動駐車制動装置であって、
前記制御装置は、車両の停止を保持可能な押圧力の下限値を下限押圧力とした場合、前記モータを駆動させることにより同下限押圧力よりも大きい初期押圧力まで押圧力を増大させる駐車処理と、前記駐車処理の実施の終了時点から規定時間が経過した時点である再駆動時点で前記モータを駆動させることにより押圧力を増大させる再駆動処理と、を実施するようになっており、
前記制御装置は、前記駐車処理を実施するときには、前記再駆動時点で押圧力が前記下限押圧力以下となるように、前記初期押圧力及び前記規定時間のうち一方と演算用として設定されている想定温度に応じた押圧力の減少特性とに基づいて前記初期押圧力及び前記規定時間のうち他方を演算するものであり、
前記制御装置は、
前記駐車処理の実施の終了時点からの経過時間が前記規定時間未満である状況下で前記車輪の回転を検出したときには、
前記再駆動時点で押圧力が前記下限押圧力以下となるように、前記車輪の回転を検出した時点から前記再駆動時点までの時間と、前記想定温度に応じた押圧力の減少特性とに基づいて再設定押圧力を演算し、その上で前記モータを駆動させることにより、押圧力を前記再設定押圧力まで増大させる
電動駐車制動装置。
車輪と一体回転する回転体と、摩擦材と、モータと、同モータの駆動によって軸方向に移動して前記摩擦材を前記回転体に押し付ける軸部材と、前記モータの駆動によって前記軸部材を移動させることで前記摩擦材を前記回転体に押し付けて押圧力を発生させる制御装置と、を備えた電動駐車制動装置であって、
前記制御装置は、車両の停止を保持可能な押圧力の下限値を下限押圧力とした場合、前記モータを駆動させることにより同下限押圧力よりも大きい初期押圧力まで押圧力を増大させる駐車処理と、前記駐車処理の実施の終了時点から規定時間が経過した時点である再駆動時点で前記モータを駆動させることにより押圧力を増大させる再駆動処理と、を実施するようになっており、
前記制御装置は、前記駐車処理を実施するときには、前記再駆動時点で押圧力が前記下限押圧力以下となるように、前記初期押圧力及び前記規定時間のうち一方と演算用として設定されている想定温度に応じた押圧力の減少特性とに基づいて前記初期押圧力及び前記規定時間のうち他方を演算するものであり、
前記下限押圧力と余裕増大量との和を停止保持押圧力とした場合、前記制御装置は、前記再駆動処理では、前記モータを駆動させることにより押圧力を前記停止保持押圧力まで増大させるようになっており、
前記制御装置は、
前記駐車処理の実施の終了時点からの経過時間が前記規定時間未満である状況下で前記車輪の回転を検出したときには、前記再駆動時点で前記押圧力が前記停止保持押圧力以上となるように、前記車輪の回転を検出した時点から前記再駆動時点までの時間と、前記想定温度に応じた押圧力の減少特性と、前記停止保持押圧力とに基づいて再設定押圧力を演算し、その上で前記モータを駆動させることにより、押圧力を前記再設定押圧力まで増大させ、
前記再駆動時点よりも以前に前記車輪の回転を検出したために前記モータを駆動させたときには、同再駆動時点に達しても前記再駆動処理を実施しない
電動駐車制動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ブレーキパッドの温度が高い状況下で駐車処理が実施された場合、その後のブレーキパッドの温度低下に伴って同ブレーキパッドが大きく収縮するため、上記押圧力が減少しやすい。一方、ブレーキパッドの温度が高くない状況下で駐車処理が実施された場合、ブレーキパッドの温度がそれほど減少しないため、ブレーキパッドがあまり収縮せず、上記押圧力も減少しにくい。
【0007】
しかしながら、上記の電動駐車制動装置では、駐車処理の実施の終了時点から所定時間が経過すると、上記押圧力の減少量によらず、モータが再駆動されることとなる。すなわち、車両の停止を維持できる上記押圧力の下限値を下限押圧力とした場合、上記押圧力が下限押圧力を十分に上回っているときでも、駐車処理の実施の終了時点から所定時間が経過すると、モータが再駆動されてしまう。
【0008】
本発明の目的は、駐車時における消費電力の増大を抑制することができる電動駐車制動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための電動駐車制動装置は、車輪と一体回転する回転体と、摩擦材と、モータと、同モータの駆動によって軸方向に移動して摩擦材を回転体に押し付ける軸部材と、モータの駆動によって軸部材を移動させることで摩擦材を回転体に押し付けて押圧力を発生させる制御装置と、を備えた装置である。この電動駐車制動装置において、制御装置は、車両の停止を保持可能な押圧力の下限値を下限押圧力とした場合、モータを駆動させることにより下限押圧力よりも大きい初期押圧力まで押圧力を増大させる駐車処理と、駐車処理の実施の終了時点から規定時間が経過した時点である再駆動時点でモータを駆動させることにより押圧力を増大させる再駆動処理と、を実施するようになっている。そして、制御装置は、駐車処理を実施するときには、再駆動時点で押圧力が下限押圧力以下となるように、初期押圧力及び規定時間のうち一方と演算用として設定されている想定温度に応じた押圧力の減少特性とに基づいて初期押圧力及び規定時間のうち他方を演算する。
【0010】
摩擦材及び回転体を有するユニットの特性を予め把握することができるのであれば、特定条件下での摩擦材の冷却特性、すなわち摩擦材の収縮特性を把握することができる。そして、回転体に摩擦材を押し付けている状況下にあっては、摩擦材が収縮するにつれて押圧力が減少される。したがって、摩擦材の収縮特性を予め把握することで、駐車処理の実施の終了時点から上記再駆動時点までの押圧力の減少量を推定することができる。
【0011】
そのため、例えば、規定時間及び上記の想定温度が設定されている場合、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの期間内での押圧力の減少量を推定することができるため、再駆動時点で押圧力が下限押圧力以下となるような初期押圧力を演算することができる。また、例えば、初期押圧力及び上記の想定温度が設定されている場合、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの期間内での押圧力の減少量を推定することができるため、再駆動時点で押圧力が下限押圧力以下となるような規定時間を演算することができる。
【0012】
なお、温度低下に起因する摩擦材の収縮によって押圧力が下限押圧力未満になると、車輪に付与する制動力の減少に起因し、車輪が回転し始める可能性がある。
上記構成では、再駆動時点で押圧力が下限押圧力以下となるように、初期押圧力及び規定時間のうち一方と想定温度に応じた押圧力の減少特性とに基づき、初期押圧力及び規定時間のうち他方が演算される。これにより、初期押圧力と規定時間との間に関係性を持たせることができる。すなわち、駐車処理が実施されると、再駆動時点では押圧力が下限押圧力以下になっている可能性がある。そのため、再駆動時点では、車輪が回転し始める可能性があるために再駆動処理が実施されることとなる。その結果、押圧力が下限押圧力よりも十分に大きく、車輪が回転し始める可能性が限りなく低い状況下で再駆動処理が実施される事象が生じにくくなる。したがって、駐車時における消費電力の増大を抑制することができるようになる。
【0013】
ところで、上記の特定条件下よりも摩擦材が冷却されやすい条件下で電動駐車制動装置が使用されたり、摩擦材の温度と外気温との差が想定温度よりも十分に大きかったりすることがある。こうした場合、単位時間あたりの押圧力の減少量を押圧力の減少速度としたとき、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの期間内では、押圧力の減少速度が、上記の特定条件下での押圧力の減少速度である押圧力の予測減少速度よりも大きくなりやすい。このように押圧力の減少速度が予測減少速度よりも大きいと、再駆動時点よりも以前に押圧力が下限押圧力を下回り、車輪が回転し始めることがある。そこで、上記電動駐車制動装置において、制御装置は、駐車処理の実施の終了時点からの経過時間が規定時間未満である状況下で車輪の回転を検出したときには、再駆動時点で押圧力が下限押圧力以下となるように、車輪の回転を検出した時点から再駆動時点までの時間と、想定温度に応じた押圧力の減少特性とに基づいて再設定押圧力を演算し、その上でモータを駆動させることにより、押圧力を再設定押圧力まで増大させることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、再駆動時点よりも以前に車輪の回転が検出されると、モータの再駆動によって押圧力が増大されるため、車輪に付与する制動力の減少に起因する車両の発進を抑制することができる。しかも、回転体に摩擦材を押し付けることで発生する押圧力は、こうしたモータの再駆動によって再設定押圧力まで増大される。そして、こうしたモータの再駆動の終了後にあっては、摩擦材の温度低下に起因して押圧力が徐々に減少し、再駆動時点では押圧力が下限押圧力以下になっている可能性がある。そのため、再駆動時点では、車輪が回転し始める可能性があるために再駆動処理が実施されることとなる。つまり、車輪の回転が検出されたためにモータが再駆動された場合であっても当該再駆動によって押圧力が過大になることが抑制される。したがって、駐車処理の実施の終了後に車輪の回転が検出された場合であってもモータの再駆動によって押圧力が過大になることを抑制できる分、同モータによる消費電力の増大を抑制することができるようになる。
【0015】
また、下限押圧力と余裕増大量との和を停止保持押圧力とした場合、制御装置は、再駆動処理では、モータを駆動させることにより押圧力を停止保持押圧力まで増大させるようにしてもよい。このように再駆動時点で押圧力を停止保持押圧力以上とすることにより、その後の摩擦材の収縮などによって押圧力が減少されたとしても、車両の停止を維持することができる。そこで、上記電動駐車制動装置において、制御装置は、駐車処理の実施の終了時点からの経過時間が規定時間未満である状況下で車輪の回転を検出したときには、再駆動時点で押圧力が停止保持押圧力以上となるように、車輪の回転を検出した時点から再駆動時点までの時間と、想定温度に応じた押圧力の減少特性と、停止保持押圧力とに基づいて再設定押圧力を演算し、その上でモータを駆動させることにより、押圧力を再設定押圧力まで増大させるようにしてもよい。
【0016】
この場合、再駆動時点よりも以前に車輪の回転が検出されると、モータの再駆動によって押圧力が再設定押圧力まで増大され、車輪に付与する制動力の減少に起因する車両の発進を抑制することができる。しかも、その後の再駆動時点では押圧力が停止保持押圧力以上となり、同再駆動時点以降では車輪が回転し始める可能性が限りなく低い。そのため、再駆動時点よりも以前に車輪の回転を検出したためにモータを駆動させたときには、再駆動時点に達しても再駆動処理を実施しないようにしてもよい。これにより、再駆動時点でもモータを駆動させる場合と比較し、モータの駆動回数の増大を抑制することができる。
【0017】
なお、押圧力の減少速度は、摩擦材の温度が低くなるにつれて、すなわち摩擦材の温度と外気温との差が小さくなるにつれて小さくなる。そのため、想定温度を、摩擦材が達しうる温度の最大値と等しくした場合、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの期間内での押圧力の減少量が多めに見積もられることとなる。その結果、当該想定温度に応じた押圧力の減少特性に基づいて初期押圧力を演算した場合には同初期押圧力が大きくなりやすく、当該想定温度に応じた押圧力の減少特性に基づいて規定時間を演算した場合には同規定時間が短くなりやすい。
【0018】
そこで、上記電動駐車制動装置において、想定温度を、摩擦材が達しうる温度の最大値よりも小さい値に設定することが好ましい。この構成によれば、駐車処理の実施時における摩擦材の実際の温度と外気温との差と想定温度との乖離が抑えられる。その結果、当該想定温度に応じた押圧力の減少特性に基づいて初期押圧力を演算する場合、同初期押圧力が大きくなりすぎることを抑制することができる。また、当該想定温度に応じた押圧力の減少特性に基づいて規定時間を演算する場合、同規定時間が短くなりすぎることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、電動駐車制動装置を具体化した第1の実施形態を
図1〜
図6に従って説明する。
図1に示すように、電動駐車制動装置10は、車輪100と一体に回転する回転体の一例であるブレーキディスク11と、ブレーキディスク11の車両幅方向の両側に配置される一対のブレーキパッド12,13とを備えている。ブレーキパッド12,13は、裏板14と、裏板14に固定される摩擦材15とを有している。そして、ブレーキパッド12,13がブレーキディスク11に接近し、摩擦材15がブレーキディスク11に押し付けられているときには、摩擦材15をブレーキディスク11に押し付ける力である押圧力に相当する制動力が、車輪100に付与される。すなわち、押圧力を大きくすることで車輪100に付与する制動力を大きくすることができる。
【0021】
また、電動駐車制動装置10には、ブレーキディスク11に近づく方向及び離れる方向に移動可能な状態で両ブレーキパッド12,13を支持するキャリパ16が設けられている。両ブレーキパッド12,13のうち、ブレーキパッド12はブレーキディスク11よりも車両幅方向内側に位置しており、キャリパ16には、同ブレーキパッド12よりも車両幅方向内側に位置するシリンダ本体17が設けられている。このシリンダ本体17は、車両幅方向内側が閉塞され、車両幅方向外側が開口する有底略円筒形状をなしている。こうしたシリンダ本体17は、軸部材の一例であるピストン18を車両幅方向に摺動可能な状態で支持している。すなわち、本明細書では、車両幅方向が、軸部材の移動方向である軸方向に相当する。
【0022】
ピストン18は、車両幅方向外側が閉塞され、車両幅方向内側が開口する有底略筒状をなしている。そして、ピストン18がシリンダ本体17の開口を閉塞しており、ピストン18及びシリンダ本体17によってシリンダ室19が区画形成されている。こうしたピストン18が図中左側である車両幅方向外側に摺動すると、ピストン18に押されることで両ブレーキパッド12,13がブレーキディスク11に近づく。一方、ピストン18が図中右側である車両幅方向内側に摺動すると、ピストン18による両ブレーキパッド12,13の押圧が解消され、両ブレーキパッド12,13がブレーキディスク11から離れる。すなわち、本明細書では、車両幅方向外側となる図中左方が「前進方向」に相当し、車両幅方向内側となる図中右方が「後退方向」に相当する。
【0023】
なお、シリンダ本体17内のシリンダ室19には、外部からブレーキ液が供給されるようになっている。そして、シリンダ室19内の液圧が増大されているときにはピストン18が前進方向に摺動し、シリンダ室19内の液圧が減少されているときにはピストン18が後退方向に摺動する。すなわち、シリンダ室19内の液圧を調整することにより、車輪100に付与する制動力、すなわち常用制動力を制御することが可能である。ちなみに、シリンダ室19内の液圧は、ポンプを備えるブレーキアクチュエータの作動、及び、運転者によるブレーキペダルの操作量などによって調整することができる。
【0024】
また、電動駐車制動装置10には、出力軸311を正逆両方向に回転させることのできるモータ31と、モータ31の出力軸311の回転速度を減速して出力する減速機構32と、減速機構32に連結され、前進方向又は後退方向に移動するナット部材33とが設けられている。本明細書では、モータ31、減速機構32及びナット部材33を含むユニットを、「駐車用ユニット30」というものとする。
【0025】
減速機構32は、シリンダ本体17の外部に配置されている複数のギヤ321を有している。そして、モータ31の出力軸311が回転すると、各ギヤ321は、出力軸311の回転方向に準じた方向にそれぞれ回転する。また、シリンダ本体17の底壁171の中央には車両幅方向に貫通する貫通孔172が設けられており、減速機構32には、底壁171の貫通孔172内に挿通されているロッド部材322が設けられている。このロッド部材322は、ギヤ321の回転に応じて回転するとともに、シリンダ本体17の底壁171に回転可能に支持されている。そして、ロッド部材322においてシリンダ本体17内に位置する部位の周面には雄ねじ加工が施されている。
【0026】
ナット部材33は、シリンダ室19内、より具体的にはピストン18の内側に配置されている。このナット部材33の内周面には雌ねじ加工が施されており、ナット部材33はロッド部材322に螺合されている。そのため、モータ31の駆動によってロッド部材322が回転することで、ナット部材33が前進方向又は後退方向に移動する。すなわち、ロッド部材322及びナット部材33により、モータ31の回転運動を直線運動に変換してピストン18に伝達する変換機構が構成されている。
【0027】
なお、本明細書では、ナット部材33を前進方向に移動させる際のモータ31の駆動を正駆動といい、ナット部材33を後退方向に移動させる際のモータ31の駆動を逆駆動という。そして、モータ31の正駆動時における出力軸311の回転方向が「正方向」に相当し、モータ31の逆駆動時における出力軸311の回転方向が「逆方向」に相当する。
【0028】
図1に示すように、電動駐車制動装置10の制御装置200には、操作部51、外気温センサ211、車輪速度センサ212及びレンジ検出センサ213などが電気的に接続されている。操作部51は、車室内に設けられており、駐車制動を行わせる際や駐車制動を解除させる際に車両の乗員に操作される。外気温センサ211は、電動駐車制動装置10を備える車両の外気温TMPOSを検出する。この外気温TMPOSが、電動駐車制動装置10の使用環境の温度に相当する。車輪速度センサ212は、車輪100の回転速度である車輪速度VWを検出する。レンジ検出センサ213は、車両に設けられているシフト装置52によって選択されているレンジを検出する。そして、制御装置200は、これら各種の検出系によって検出される情報に基づき、駐車用ユニット30を制御する。
【0029】
こうした制御装置200は、CPU及びメモリなどで構成されるマイクロコンピュータを備えている。そして、メモリに書き込まれているプログラムをCPUが実行することで、駐車用ユニット30が制御される。
【0030】
すなわち、操作部51がオン操作されると、制御装置200で駐車処理が実施される。これにより、モータ31が正駆動し、ナット部材33が前進方向に移動する。すると、ピストン18の底壁181がナット部材33に押され、同ピストン18が前進方向に摺動する。これにより、両ブレーキパッド12,13がブレーキディスク11に近づき、両ブレーキパッド12,13の摩擦材15がブレーキディスク11に押し付けられる。その結果、摩擦材15をブレーキディスク11に押し付ける力である押圧力(「軸力」と言い換えてもよい。)に応じた制動力、すなわち駐車制動力が、車輪100に付与される。そして、押圧力が後述する初期押圧力と等しくなったと判断されると、モータ31の正駆動が停止される。このようにモータ31の正駆動が停止されているときには、ピストン18の軸方向位置が保持される。
【0031】
一方、車輪100に駐車制動力が付与されている状況下で操作部51がオフ操作されると、モータ31が逆駆動し、ナット部材33が後退方向に移動する。そして、ナット部材33によってピストン18の底壁181が押されなくなると、各部品の弾性復帰力などを利用し、ピストン18もまた後退方向に摺動される。すると、押圧力が徐々に減少し、やがて両ブレーキパッド12,13がブレーキディスク11から離れる。その結果、車輪100に駐車制動力が付与されている状態が解消される。
【0032】
上述したように、ブレーキパッド12,13の摩擦材15は、駐車制動時だけではなく常用制動時でもブレーキディスク11に押し付けられる。そのため、駐車処理が実施される前での常用制動の実施状況によっては、摩擦材15の温度が高く、摩擦材15が膨張していることがある。こうした状況下で駐車処理が実施された場合、摩擦材15の温度低下に起因する摩擦材15の収縮によって押圧力Nbpが減少することがある。このように押圧力Nbpが減少すると、車輪100に付与する駐車制動力が減少することがある。
【0033】
そのため、本実施形態の電動駐車制動装置10では、駐車処理の実施の終了時点から規定時間TTHが経過した時点である再駆動時点で、押圧力を増大させる再駆動処理が実施されるようになっている。そして、再駆動処理の実施が終了された時点で車両のイグニッションスイッチがオフになっているときには、制御装置200の機能が停止される。このように制御装置200の機能が停止されると、車輪速度センサ212を用いた車輪100の回転を制御装置200で監視することができなくなるものの、電動駐車制動装置10での電力消費量が、制御装置200の機能が停止されていないときよりも少なくなる。
【0034】
ちなみに、本実施形態の電動駐車制動装置10では、規定時間TTHが予め設定された値であるのに対し、駐車処理時に用いられる初期押圧力NbpFが可変となっている。すなわち、車両の停止を保持することのできる押圧力の下限値を下限押圧力NbpLとした場合、再駆動時点で押圧力Nbpが下限押圧力NbpLと等しくなるように、初期押圧力NbpFが演算される。
【0035】
次に、
図2〜
図4を参照し、初期押圧力NbpFの演算方法について説明する。
まず、下限押圧力NbpLが演算される。車輪100に付与する駐車制動力は押圧力Nbpと相関している。そのため、
図2に示すように、車両の位置している路面の勾配である路面勾配の絶対値|θ|が大きいほど、下限押圧力NbpLが大きくされる。ただし、実際の下限押圧力は、路面勾配の絶対値|θ|だけではなく、路面のμ値やそのときの車両重量などによっても変化しうる。そのため、路面勾配の絶対値|θ|に応じて決定した下限押圧力NbpLを、路面のμ値や車両重量などに基づいて補正するようにしてもよい。そして、初期押圧力NbpFは、このように演算した下限押圧力NbpLよりも大きい値に設定される。
【0036】
ブレーキパッド12,13の摩擦材15の特性は、予め把握することができる。そのため、特定条件下(例えば、電動駐車制動装置10の設置環境の風速が0(零)m/s)での摩擦材15の冷却特性、すなわち収縮特性を把握することができる。そして、ブレーキディスク11に摩擦材15を押し付けている状況下にあっては、摩擦材15が収縮するにつれて押圧力Nbpが減少される。したがって、摩擦材15の収縮特性を予め把握することで、駐車処理の実施時点から再駆動時点までの期間内での押圧力Nbpの減少量を推定することができる。
【0037】
図3には、摩擦材15の温度(具体的には、外気温TMPOSと摩擦材15の温度との差)に応じた押圧力Nbpの減少特性が図示されている。すなわち、時間が経過するにつれて温度低下に起因して摩擦材15が収縮するために押圧力Nbpが次第に減少される。このとき、単位時間あたりの押圧力Nbpの減少量である押圧力の減少速度は、時間が経過するにつれて小さくなる。そして、摩擦材15の温度が外気温TMPOSとほぼ同等となると、摩擦材15が収縮しなくなるため、押圧力Nbpがほとんど変化しなくなる。
【0038】
なお、
図3には、3つの線L1,L2,L3が図示されている。二点鎖線で示す第1の線L1は、摩擦材15の温度と外気温TMPOSとの差が比較的大きい場合の押圧力Nbpの減少特性を示す線である。また、破線で示す第3の線L3は、摩擦材15の温度と外気温TMPOSとの差が比較的小さい場合の押圧力Nbpの減少特性を示す線である。そして、実線で示す第2の線L2は、摩擦材15の温度と外気温TMPOSとの差が中程度である場合の押圧力Nbpの減少特性を示す線である。すなわち、駐車処理の実施時点での摩擦材15の温度と外気温TMPOSとの差が大きい場合ほど、同時点から再駆動時点までの期間内での押圧力Nbpの減少量が多くなると予測することができる。
【0039】
図4に示すように、本実施形態の電動駐車制動装置10では、駐車処理の実施時点での摩擦材15の温度と外気温TMPOSとの差を、演算用として予め設定されている想定温度TMPASと仮定し、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性と規定時間TTHとに基づいて初期押圧力NbpFが演算される。具体的には、制御装置200には、
図4に実線で示すマップが予め用意されている。このマップは、上記の特定条件下であって且つ摩擦材15の温度と外気温TMPOSとの差が想定温度TMPASと等しいときの押圧力Nbpの推移を示すマップであり、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性を示すマップである。
【0040】
図4にあっては、押圧力Nbpの減少態様が実線で示されるとともに、下限押圧力NbpLが破線で示されている。そのため、実線と破線とが交差するタイミングが、押圧力Nbpが下限押圧力NbpLと等しい再駆動時点に相当する。そして、このように再駆動時点に相当するタイミングよりも規定時間TTHだけ前のタイミングでの押圧力Nbpが初期押圧力NbpFに相当することとなる。なお、初期押圧力NbpFから下限押圧力NbpLを減じた差である押圧力増大量ΔNbpは、そのときの下限押圧力NbpLが大きいほど大きくなるとともに、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの期間内での押圧力の予想減少量に相当する。
【0041】
ちなみに、想定温度TMPASは、摩擦材15が設計上で達しうる温度の最大値よりも低い温度に設定されている。これは、車両の制動に際し摩擦材15の温度が最大値に達することはほとんどないためである。例えば、想定温度TMPASは、摩擦材15が設定上で達しうる温度の最大値の半分程度の値に設定されている。そのため、駐車制動を行う際の摩擦材15の実際の温度と外気温TMPOSとの差と、想定温度TMPASとの乖離が抑えられる。
【0042】
次に、
図5に示すフローチャートを参照し、駐車制動を行う際に制御装置200が実行する処理ルーチンについて説明する。例えば、この処理ルーチンは、操作部51のオン操作によって駐車制動が要求されたときに実行される。なお、この処理ルーチンの実行途中に車両のイグニッションスイッチがオフにされたとしても、処理ルーチンの実行が継続される。
【0043】
図5に示すように、制御装置200は、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性を示す
図4に示すマップと規定時間TTHとに基づいて初期押圧力NbpFを演算する(ステップS11)。そして、制御装置200は、モータ31の正駆動によって押圧力Nbpを初期押圧力NbpFまで増大させる駐車処理を実施する(ステップS12)。例えば、駐車処理では、モータ31に流れる電流が、初期押圧力NbpFに応じた電流判定値に達するまでモータ31が正駆動される。
【0044】
駐車処理の実施を終了すると、制御装置200は、車輪速度センサ212によって検出される車輪100の車輪速度VWが回転判定速度VWTH以上であるか否かを判定する(ステップS13)。回転判定速度VWTHは、駐車制動力の付与されている車輪100の回転を検出するための判定値である。そのため、車輪速度VWが回転判定速度VWTH未満であるときには車輪100の回転が検出されない一方、車輪速度VWが回転判定速度VWTH以上であるときには車輪100の回転が検出される。
【0045】
そして、車輪速度VWが回転判定速度VWTH未満である場合(ステップS13:NO)、制御装置200は、駐車処理の実施の終了時点からの経過時間Tを取得し、この経過時間Tが規定時間TTH以上になったか否かを判定する(ステップS14)。この場合、制御装置200は、経過時間Tが規定時間TTH未満の状態から経過時間Tが規定時間TTH以上の状態に移行した時点を再駆動時点と見なすことができる。そして、経過時間Tが規定時間TTH未満である場合(ステップS14:NO)、制御装置200は、その処理を前述したステップS13に移行する。一方、経過時間Tが規定時間TTH以上である場合(ステップS14:YES)、制御装置200は、その処理を後述するステップS17に移行する。すなわち、本実施形態の電動駐車制動装置10にあっては、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの間の期間内では、車輪100が回転し始めるか否かを監視している。
【0046】
その一方で、ステップS13において、車輪速度VWが回転判定速度VWTH以上である場合(YES)、制御装置200は、再設定押圧力NbpSを演算する(ステップS15)。この再設定押圧力NbpSは、再駆動時点で押圧力Nbpが下限押圧力NbpLと等しくなるような値にされる。すなわち、制御装置200は、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性を示す
図4に示すマップと、規定時間TTHから現時点の経過時間Tを減じた差に応じた残り時間(=TTH−T)とに基づいて再設定押圧力NbpSを演算する。より具体的には、
図4に示すマップにおいて再駆動時点に相当するタイミングよりも上記の残り時間だけ前のタイミングでの押圧力Nbpが再設定押圧力NbpSとされる。そのため、再設定押圧力NbpSは、下限押圧力NbpLよりも大きい値であって、且つ当該残り時間が長いほど大きい値に設定される。
【0047】
続いて、制御装置200は、モータ31の正駆動によって押圧力Nbpを再設定押圧力NbpSまで増大させる補正駆動処理を実施する(ステップS16)。例えば、補正駆動処理では、モータ31に流れる電流が、再設定押圧力NbpSに応じた電流判定値に達するまでモータ31が正駆動される。そして、補正駆動処理の実施を終了すると、制御装置200は、その処理を前述したステップS14に移行する。
【0048】
ステップS17において、制御装置200は、モータ31の正駆動によって下限押圧力NbpLと余裕増大量ΔNbp1との和である停止保持押圧力NbpHまで押圧力Nbpを増大させる再駆動処理を実施する。例えば、再駆動処理では、モータ31に流れる電流が、停止保持押圧力NbpHに応じた電流判定値に達するまでモータ31が正駆動される。余裕増大量ΔNbp1は、再駆動処理の実施の終了後での摩擦材15の温度低下によって押圧力Nbpが低下したとしても、車両の停止状態を維持できるような値に設定されている。
【0049】
そして、再駆動処理の実施を終了すると、制御装置200は、機能停止を許可し(ステップS18)、本処理ルーチンを終了する。なお、このように機能停止が許可された時点で、車両のイグニッションスイッチがオフになっているときには、制御装置200の機能が停止され、車輪100が回転しているか否かの監視が不能となる。
【0050】
次に、
図6に示すタイミングチャートを参照し、本実施形態の電動駐車制動装置10の作用について説明する。なお、前提として、第3のタイミングt13の以前に車両のイグニッションスイッチがオフにされるものとする。
【0051】
図6に示すように、第1のタイミングt11で操作部51がオン操作されると、駐車処理の実施によって、駐車処理の実施に先立って演算された初期押圧力NbpFまで押圧力Nbpが増大される(ステップS12)。その後にあっては、ブレーキパッド12,13の摩擦材15の温度低下に起因する摩擦材15の収縮によって、押圧力Nbpが低下される。
【0052】
このとき、駐車処理の実施時点での摩擦材15の実際の温度と外気温TMPOSとの差が想定温度TMPASとほぼ等しいとともに、電動駐車制動装置10の使用環境の条件が上記の特定条件とほぼ等しい場合、押圧力Nbpは、
図6に実線で示すような態様で減少される。そのため、第1のタイミングt11から規定時間TTHが経過した第3のタイミングt13(ステップS14:YES)では、押圧力Nbpが下限押圧力NbpLとほぼ等しくなっている。すると、再駆動時点である第3のタイミングt13では、駐車制動力の付与されている車輪100が回転し始める可能性があるため、再駆動処理の実施によって押圧力Nbpが再設定押圧力NbpSまで増大される(ステップS17)。その後、制御装置200の機能が停止される(ステップS18)。したがって、規定時間TTHが固定されている場合であっても初期押圧力NbpFを適切な値に設定することにより、駐車時における消費電力の増大を抑制することができる。
【0053】
一方、上記の特定条件下よりもブレーキパッド12,13が冷却されやすい条件下で電動駐車制動装置10が使用されたり、駐車処理の実施時点での摩擦材15の実際の温度と外気温TMPOSとの差が想定温度TMPASよりも非常に大きかったりすることがある。この場合、
図6に二点鎖線で示すように、押圧力Nbpの減少速度が、想定される減少速度(すなわち、
図6に実線で示す減少速度)よりも大きくなる。このように押圧力Nbpの減少速度が大きいと、再駆動時点である第3のタイミングt13よりも以前で押圧力Nbpが下限押圧力NbpLを下回り、第3のタイミングt13よりも以前の第2のタイミングt12で車輪100が回転し始めることがある(ステップS13:YES)。
【0054】
すると、第2のタイミングt12で、再設定押圧力NbpSを演算した上で(ステップS15)、補正駆動処理が実施される(ステップS16)。駐車処理の実施時点で想定していた第2のタイミングt12での押圧力Nbpを押圧力Nbp12とした場合、再設定押圧力NbpSは、押圧力Nbp12と等しい値にされる。そして、モータ31の正駆動によって、こうした再設定押圧力NbpSまで押圧力Nbpが増大される。これにより、駐車制動が行われている車両の発進を抑制することができる。そして、補正駆動処理の実施後であっても、摩擦材15の温度の低下に起因して押圧力Nbpが低下される。すなわち、押圧力Nbpが下限押圧力NbpLに近づく。
【0055】
このように補正駆動処理が実施されても、再駆動時点で押圧力Nbpが下限押圧力NbpLよりも大きい状態にはなりにくい。そのため、再駆動時点である第3のタイミングt13になると、押圧力Nbpが下限押圧力NbpL以下であると予測されるため、再駆動処理の実施によって押圧力Nbpが増大される(ステップS17)。その後、制御装置200の機能が停止される(ステップS18)。
【0056】
なお、駐車処理の実施の終了後からの押圧力Nbpの実際の減少速度が、想定している押圧力Nbpの減少速度よりも大きく、再駆動時点である第3のタイミングt13よりも以前に、実際の押圧力が下限押圧力NbpL未満になったとしても、車輪100の回転が検出されないことがある。この場合、第3のタイミングt13までモータ31の再駆動が行われない。すなわち、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの間で車輪100の回転が検出されないときには、再駆動時点でモータ31の再駆動が始めて行われることになる。
【0057】
(第2の実施形態)
次に、電動駐車制動装置10を具体化した第2の実施形態を
図7及び
図8に従って説明する。本実施形態の電動駐車制動装置10では、規定時間TTHが可変である点、及び、再設定押圧力NbpSの演算方法などが第1の実施形態と相違している。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0058】
本実施形態の電動駐車制動装置10では、押圧力増大量ΔNbpを規定値に固定し、押圧力増大量ΔNbpと下限押圧力NbpLとの和である初期押圧力NbpFと、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性とに基づき、規定時間TTHが演算される。具体的には、制御装置200には、
図4に実線で示すマップが予め用意されている。そして、同マップで示す押圧力Nbpが、下限押圧力NbpLと押圧力増大量ΔNbpとの和(すなわち、初期押圧力NbpF)と等しくなるタイミングから、同マップで示す押圧力Nbpが下限押圧力NbpLと等しくなるタイミングまでの長さが規定時間TTHとされる。そのため、このように演算される規定時間TTHは、押圧力Nbpの減少量が押圧力増大量ΔNbpと等しくなるまでの予測時間に相当し、そのときの下限押圧力NbpLが大きいほど短くなる。
【0059】
ただし、上記の第1の実施形態の場合と同様に、駐車処理の実施終了後において再駆動時点に達する以前に、車輪100の回転が検出されることがある。本実施形態の電動駐車制動装置10でも、車輪100の回転の検出を契機に補正駆動処理を実施するようにしている。この際、補正駆動処理の実施に先立って再設定押圧力NbpSを演算することとなるが、再駆動時点で再駆動処理を実施しなくてもよいように、再設定押圧力NbpSは十分に大きい値に設定される。
【0060】
次に、
図7に示すフローチャートを参照し、駐車制動を行う際に制御装置200が実行する処理ルーチンについて説明する。
図7に示すように、制御装置200は、予め設定されている押圧力増大量ΔNbpに下限押圧力NbpLを加算することで初期押圧力NbpFを求める(ステップS111)。続いて、制御装置200は、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性を示す
図4に示すマップと初期押圧力NbpFとに基づいて規定時間TTHを演算する(ステップS112)。そして、制御装置200は、モータ31の正駆動によって押圧力Nbpを初期押圧力NbpFまで増大させる駐車処理を実施する(ステップS12)。駐車処理の実施を終了すると、制御装置200は、車輪速度センサ212によって検出される車輪100の車輪速度VWが回転判定速度VWTH以上であるか否かを判定する(ステップS13)。車輪速度VWが回転判定速度VWTH未満である場合(ステップS13:NO)、制御装置200は、駐車処理の実施の終了時点からの経過時間Tが規定時間TTH以上になったか否かを判定する(ステップS14)。経過時間Tが規定時間TTH未満である場合(ステップS14:NO)、制御装置200は、その処理を前述したステップS13に移行する。
【0061】
一方、経過時間Tが規定時間TTH以上である場合(ステップS14:YES)、制御装置200は、モータ31の正駆動によって下限押圧力NbpLと余裕増大量ΔNbp1との和である停止保持押圧力NbpHまで押圧力Nbpを増大させる再駆動処理を実施する(ステップS17)。そして、再駆動処理の実施を終了すると、制御装置200は、機能停止を許可し(ステップS18)、本処理ルーチンを終了する。
【0062】
その一方で、ステップS13において、車輪速度VWが回転判定速度VWTH以上である場合(YES)、制御装置200は、再駆動時点で押圧力Nbpが停止保持押圧力NbpH以上となるように再設定押圧力NbpSを演算する(ステップS151)。すなわち、制御装置200は、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性を示す
図4に示すマップと、規定時間TTHから現時点の経過時間Tを減じた差に応じた残り時間(=TTH−T)とに基づいた基準補正押圧力を演算する。この基準補正押圧力は、当該残り時間が長いほど大きくなるとともに、上記第1の実施形態での再設定押圧力NbpSに相当する値である。続いて、制御装置200は、余裕増大量ΔNbp1又は余裕増大量ΔNbp1よりも大きい値をこの基準補正押圧力に加算し、その和を再設定押圧力NbpSとする。
【0063】
そして、制御装置200は、モータ31の正駆動によって押圧力Nbpを再設定押圧力NbpSまで増大させる補正駆動処理を実施する(ステップS161)。そして、補正駆動処理の実施を終了すると、制御装置200は、駐車処理の実施の終了時点からの経過時間Tが規定時間TTH以上になったか否かを判定する(ステップS162)。経過時間Tが規定時間TTH以上である場合(ステップS162:YES)、制御装置200は、その処理を前述したステップS18に移行する。
【0064】
一方、経過時間Tが規定時間TTH未満である場合(ステップS162:NO)、制御装置200は、車輪速度センサ212によって検出される車輪100の車輪速度VWが回転判定速度VWTH以上であるか否かを判定する(ステップS163)。車輪速度VWが回転判定速度VWTH以上である場合(ステップS163:YES)、制御装置200は、その処理を前述したステップS151に移行する。一方、車輪速度VWが回転判定速度VWTH未満である場合(ステップS163:NO)、制御装置200は、その処理を前述したステップS162に移行する。
【0065】
次に、
図8に示すタイミングチャートを参照し、本実施形態の電動駐車制動装置10の作用を説明する。
図8に示すように、第1のタイミングt21で操作部51がオン操作されると、駐車処理の実施によって、駐車処理の実施に先立って演算された初期押圧力NbpFまで押圧力Nbpが増大される(ステップS12)。このとき、駐車処理の実施時点での摩擦材15の実際の温度と外気温TMPOSとの差が想定温度TMPASとほぼ等しいとともに、電動駐車制動装置10の使用環境の条件が上記の特定条件とほぼ等しい場合、押圧力Nbpは、
図8に実線で示すような態様で減少される。そのため、第1のタイミングt21から規定時間TTHが経過した第3のタイミングt23(ステップS14:YES)では、押圧力Nbpが下限押圧力NbpLとほぼ等しくなっている。そして、再駆動時点である第3のタイミングt23では、駐車制動力の付与されている車輪100が回転し始める可能性があるため、再駆動処理の実施によって押圧力Nbpが増大される(ステップS17)。その後、制御装置200の機能が停止される(ステップS18)。したがって、押圧力増大量ΔNbpが固定される場合であっても規定時間TTHを適切に設定することで、駐車時における消費電力の増大を抑制することができる。
【0066】
一方、上記の特定条件下よりもブレーキパッド12,13が冷却されやすい条件下で電動駐車制動装置10が使用されたり、駐車処理の実施時点での摩擦材15の実際の温度と外気温TMPOSとの差が想定温度TMPASよりも非常に大きかったりすることがある。この場合、
図8に二点鎖線で示すように、押圧力Nbpの減少速度が、想定される減少速度(すなわち、
図8に実線で示す減少速度)よりも大きくなる。このように押圧力Nbpの減少速度が大きいと、再駆動時点である第3のタイミングt23よりも以前で押圧力Nbpが下限押圧力NbpLを下回り、第3のタイミングt23よりも以前の第2のタイミングt22で車輪100が回転し始める(ステップS13:YES)。すると、第2のタイミングt22で、補正駆動処理の実施によって押圧力Nbpが増大される(ステップS161)。
【0067】
なお、再設定押圧力NbpSは、再駆動時点である第3のタイミングt23で押圧力Nbpが停止保持押圧力NbpH以上となるように演算される(ステップS151)。そして、このように補正駆動処理を実施した場合、第3のタイミングt23では、再駆動処理を実施することなく、制御装置200の機能が停止される(ステップS18)。すなわち、補正駆動処理の実施の有無に拘わらず再駆動時点で再駆動処理を必ず実施する場合と比較し、モータ31の駆動回数の増大が抑制される。
【0068】
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・想定温度TMPASは、摩擦材15が設計上で達しうる温度の最大値よりも低い値に設定されるのであれば任意の温度であってもよい。例えば、車両制動に際して摩擦材15が使用される際の摩擦材15の平均温度又は同平均温度に準じた値を想定温度TMPASとしてもよい。
【0069】
・想定温度TMPASを、摩擦材15の設計上で達しうる温度の最大値と等しくしてもよい。特に、摩擦材15として、設計上で達しうる温度の最大値がそれほど高くならない摩擦材が使用される場合、想定温度TMPASを上記最大値と等しくしても、駐車処理の実施時における摩擦材15の実際の温度と外気温TMPOSとの差と、想定温度TMPASとが乖離しにくい。つまり、当該想定温度TMPAS(=最大値)に基づいて演算した初期押圧力NbpFが過度に大きくなりすぎることはない。
【0070】
・上記各実施形態では、ブレーキパッド12,13の摩擦材15の温度低下に起因する押圧力Nbpの減少を加味し、初期押圧力NbpF又は規定時間TTHを演算するようにしている。しかし、摩擦材15をブレーキディスク11に押し付けた場合、摩擦材15だけではなくブレーキディスク11の温度もまた上昇する。さらには、摩擦材15を支持する裏板14やキャリパ16の温度も上昇することがある。そして、こうした摩擦材15以外の他のディスクブレーキの構成部品の温度低下によっても押圧力Nbpが低下しうる。
【0071】
なお、摩擦材15、裏板14、ブレーキディスク11及びキャリパ16などを含めたブレーキユニットの特定条件下での冷却特性、すなわち収縮特性は、予め把握することができる。そこで、こうしたブレーキユニットの各種の構成部品の温度低下に起因する押圧力Nbpの減少成分も加味し、初期押圧力NbpF又は規定時間TTHを演算してもよい。
【0072】
・上記各実施形態では、初期押圧力NbpFの演算をマップを用いて行っているが、想定温度TMPASに応じた押圧力の減少特性を示す演算式を用いて初期押圧力NbpFを演算するようにしてもよい。
【0073】
・駐車処理の実施後であって再駆動時点よりも以前での車輪100の回転の検出を契機に補正駆動処理が実施される場合、特定条件下よりも温度が低下しやすい条件下で電動駐車制動装置10が使用されていたり、駐車処理の実施時点での摩擦材15の実際の温度と外気温TMPOSとの差が想定温度TMPASよりも大きかったりすることとなる。そのため、第1の実施形態では、
図4に示すマップを参照して設定した再設定押圧力NbpSに基づいて補正駆動処理を実施したとしても、再駆動時点に達する前に、実際の押圧力Nbpが下限押圧力NbpLを再度下回る可能性がある。そこで、
図4に示すマップを参照して設定した再設定押圧力NbpSにオフセット値を加算し、その和を補正後の再設定押圧力とし、補正駆動処理では、押圧力Nbpを補正後の再設定押圧力まで増大させるようにしてもよい。この場合、オフセット値を、規定時間TTHからその時点の経過時間Tを減じた差である残り時間が長いほど大きい値にしてもよい。これにより、駐車処理の実施の終了時点から再駆動時点までの期間内で、補正駆動処理が複数回実施されることが抑制され、モータ31の駆動機会の増大を抑制することができる。
【0074】
・第1の実施形態では、車輪100の回転を止めることができるのであれば、再設定押圧力NbpSを任意の値に設定してもよい。例えば、
図4に示すマップを参照して設定する値よりも再設定押圧力NbpSを小さい値としてもよい。この場合、予想される再駆動時点での押圧力が下限押圧力NbpLよりも小さくなる。
【0075】
・上述したように、駐車処理の実施後であって再駆動時点よりも以前での車輪100の回転の検出を契機に補正駆動処理が実施される場合、特定条件下よりも温度が低下しやすい条件下で電動駐車制動装置10が使用されていたり、駐車処理の実施時点での摩擦材15の実際の温度が想定温度TMPASよりも大きかったりすることとなる。そのため、第2の実施形態では、補正駆動処理を実施した場合には、押圧力Nbpの減少量が想定よりも多くなると判断できるため、再駆動時点になるまで補正駆動処理が実施されなかった場合よりも余裕増大量ΔNbp1を大きい値としてもよい。
【0076】
・第1の実施形態では、再駆動時点で押圧力Nbpが下限押圧力NbpLと等しくなるように、初期押圧力NbpFを演算している。しかし、再駆動時点で車輪100が回転し始める可能性を高くすることができればよいため、再駆動時点では押圧力Nbpが下限押圧力NbpLよりも少しだけ小さくなるような値に初期押圧力NbpFを演算してもよい。
【0077】
・第2の実施形態では、再駆動時点で押圧力Nbpが下限押圧力NbpLと等しくなるように、規定時間TTHを演算している。しかし、再駆動時点で車輪100が回転し始める可能性を高くすることができればよいため、再駆動時点では押圧力Nbpが下限押圧力NbpLよりも少しだけ小さくなるような値に規定時間TTHを設定してもよい。
【0078】
・第2の実施形態において、駐車処理の実施が終了してから規定時間TTHを演算するようにしてもよい。例えば、
図7に示す処理ルーチンにおいては、規定時間TTHを演算するためのステップS112と、駐車処理を実施するステップS12との実行の順番を入れ替えてもよい。
【0079】
・第2の実施形態において、再駆動時点よりも以前に車輪100の回転が検出されたときには、再駆動時点で押圧力Nbpが下限押圧力NbpL以下となるような再設定押圧力NbpSを設定し、その上で補正駆動処理を実施するようにしてもよい。この場合、再設定時点で再駆動処理を実施することとなる。
【0080】
・第1の実施形態において、再駆動時点よりも以前に車輪100の回転が検出されたときには、再駆動時点で再駆動処理を実施しなくてもよいように再設定押圧力NbpSを非常に大きい値としてもよい。この場合、再駆動時点では、再駆動処理を実施しなくてもよい。
【0081】
・電動駐車制動装置は、車輪100と一体回転する回転体に押し付けられる摩擦材の温度低下によって押圧力が低下するような構成の装置であれば、上記各実施形態で説明した電動駐車制動装置10以外の他の構成の装置であってもよい。