(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態にかかる中空糸膜モジュールを図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明において、「上」、「下」は、図面に示す状態に基づいており、便宜的なものであって、原水が流入する側を「下」方向、ろ過液が流出する側を「上」方向とする。通常、中空糸膜モジュールの使用時の姿勢において、上下方向は、図面における上下方向と一致するが、横に倒して使用するモジュールの場合は、「上」は第1端部側を指し、「下端」「下側」はそれぞれ、各部材における他端に相当することになる。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる中空糸膜モジュールの構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュールの概略縦断面図である。なお、筐体と中空糸膜束とが分離可能なカートリッジ式を例に説明するが、本発明を実施するための形態はこの限りではなく、第1集束固定部と整流筒、筐体と整流筒の間を接着固定により液密に固定していても構わない。
【0018】
なお、整流筒を接着固定しない場合は、整流筒を容易に再利用でき、また接着面が無くシール材で保持するので、接着面の剥離などの懸念がない、などのメリットがある。
【0019】
本実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュール101は、筐体30(
図3参照)と、整流筒9と、複数の中空糸膜1(
図2参照)を束ね前記整流筒9内に収容した中空糸膜束2と、前記中空糸膜束2の第1端部を開口した状態で束ねる第1集束固定部11と、前記中空糸膜束2の第2端部を封止した状態で束ねる第2集束固定部12と、前記筐体30と前記整流筒9との間を液密に封止する第1シール材15と、前記整流筒9と前記第1集束固定部11との間を液密に封止する第2シール材16と、を備えている。
【0020】
<モジュール構造>
カートリッジ式中空糸膜モジュール101の構造を
図1に示す。
カートリッジ式中空糸膜モジュール101は、筐体30と、整流筒9と、整流筒9内に収容された
図2に示す中空糸膜カートリッジ100とを備える。
【0021】
<筐体>
筐体30について
図3を用いて説明する。
筐体30は、複数の径を有する段付き略筒状の筐体本体3と、筐体本体3の上端側開口部に覆い被せて設置する上部キャップ4と、筐体本体3の下端側開口を下から覆うように設置する下部キャップ5とで構成されている。上部キャップ4と筐体本体3および筐体本体3と下部キャップ5は、それぞれガスケットとクランプにより液密に接続(以降、シールと呼ぶ)する。
【0022】
筐体本体3は、上方を大径部3A、下方を小径部3Bとする複数径を有する形状とした。大径部3Aと小径部3Bは、筐体長手方向軸を共有する配置とし、大径部3Aの内周面と小径部3Bの内周面とをテーパー状に接続した。
大径部3Aの側面には原液流出口8(ノズル)を設けた。また、筐体本体3のその上端には鍔部3Cを、下端には鍔部3Dを、それぞれ筐体本体3の全周に亘って設けた。
【0023】
上部キャップ4は、下方に筐体本体3上端の内径と略等しい内径を有し、筐体本体3上端の鍔部3Cと同じ断面形状である鍔部4Cを有す。上端側に向かい縮径し、上端に濾過液出口7を形成している。上部キャップ4の下端側内周には、段部4Aが全周に亘って形成されている。また段部4Aには、筐体本体3の長手方向軸と垂直になる平面4Fを全周に亘って形成した。中空糸膜カートリッジ100を組み立てた際、平面4Fは、
図1のように第1集束固定部11上端のガスケット18(後述)を圧縮する。
【0024】
下部キャップ5は下方に筐体本体3下端の内径と略等しい内径を有し、筐体本体3下端の鍔部3Dと同形状の鍔部5Dを有す。下端側に向かい縮径して原液流入口6を形成している。
【0025】
<整流筒>
整流筒9について、
図4および
図5を用いて説明する。
整流筒9は筒状形状であり、側周面に複数の整流孔10を有する。上端には鍔部9Cを設け、鍔部9Cを筐体本体3の上端面と上部キャップ4の下端面との間に挟み込み装着する。鍔部9C、筐体本体3の上端面、上部キャップ4の下端面は、整流筒9を筐体30(筐体本体3)に対して着脱可能に固定する第1固定部として機能する。装着後、整流筒9bの下端は、筐体本体3の原液流出口8よりも下方に位置する。中央より上方の外周側面には第1シール材15(シール部材)を嵌め込むためのOリング溝31を設けた。整流孔10は、Oリング溝31より下側に形成される。Oリング溝31に第1シール材15を嵌めた状態で整流筒9を筐体本体3に挿入することで、筐体本体3内周面と整流筒9外周面とが第1シール材15によってシールされる。整流筒9の中央より上方の内周面の全周に亘って、略直角三角形の断面形状を有する凸部9Eを設けた。凸部9Eの断面は、筐体本体3の長手方向軸に平行な辺と、筐体本体3の長手方向軸を通り長手方向軸に垂直な辺との2辺を有し、かつ、筐体本体3の径方向中心軸に向かって、下向きに傾斜する辺を有する略直角三角形状を有する。
【0026】
整流筒に設けられている整流孔の形状は、モジュール内の流れを整流する効果があれば特に制限はなく、円形、楕円形、多角形、またスリット状などの形状が好ましく使用され、幾つかの形状の孔を混合して使用しても良い。
【0027】
また整流孔の配置に特に限定は無い。整流筒内面に均等に配置しても良いし、筐体側面のノズル付近において、モジュールから排出される液量が多くなることが予想される場合は、筐体側面のノズル付近の整流孔の開口を少なくしても良い。
【0028】
<カートリッジ>
図2に示すように、中空糸膜カートリッジ100は、複数の中空糸膜1を含む中空糸膜束2と、中空糸膜束2の上端側で中空糸膜束2を接着固定する第1集束固定部11と、中空糸膜束2の下端側で中空糸膜束2を接着固定する第2集束固定部12とを備える。
【0029】
<第1集束固定部>
第1集束固定部11について
図6を用いて説明する。
中空糸膜束2の上端部において、中空糸膜カートリッジ100の上端側に配置される第1集束固定部11は、中空糸膜束2を構成する複数の中空糸膜1同士の間隙を樹脂で接着固定することで形成される。中空糸膜束2の上端は、中空糸膜1が開口された状態で束ねられている。第1集束固定部11は段付きの略円柱状であり、第1集束固定部11の中央より下方の側面には、全周に亘って、段部11Eが設けられている。段部11Eよりも上方の外径が段部11Eよりも下方にあたる外径よりも大きくなるよう形成されている。
【0030】
中空糸膜束2は、第1集束固定部11の径方向の中央寄りに位置するよう形成される。中空糸膜束2の存在領域32の略外径Dfは、第1集束固定部11の最外径Duよりも小さく、かつ第1集束固定部11の下側小径部の外径Ddよりも小さくした。これにより第1集束固定部11の下端における中空糸膜束2の存在領域を第1集束固定部11の下側小径部の外径Dd同等以下とでき、整流孔10への中空糸膜束2の張り付き予防効果を高めることができる。中空糸膜束2は第1集束固定部を形成する型枠にて規制して樹脂注入を行い、中央に配置したが、中空糸膜束2を事前に着脱可能なテープなどで結束することによって中央に寄せる方法でも良い。
【0031】
なお、中空糸膜束2が開口状態となるように樹脂で接着固定してなる第1集束固定部は以下方法にて作製した。中空糸膜束2を、少量の樹脂などで中空部の目止めを行った状態で型枠に設置し、第1集束固定部11を形成する樹脂を流し込んで、中空糸膜1間を接着し集束する。集束された中空糸膜束2とその周囲に形成された型枠形状の樹脂を型枠から取り出し、目止めを施した中空糸膜束2の先端側を樹脂ごと切断することで第1集束固定部を作製する。
【0032】
<第2集束固定部>
図1、
図2に示すように、筐体本体3の下方、原液流入口6側には、中空糸膜カートリッジ100の下端側である第2集束固定部12を配置した。第2集束固定部12は、第2集束固定部ケース13内に樹脂を注入せしめ、多数本の中空糸膜1から成る中空糸膜束2の第2端部を埋没かつ中空糸膜1の中空部33(
図8および
図9参照)を閉塞させてなる。第2集束固定部ケース13は下方に底部を有する円筒形状であり、その外径は筐体本体3の内径よりも小さく構成した。また、第2集束固定部12は、中空糸膜束2と略平行で、かつ、第2集束固定部ケース13とその内部に充填した樹脂とを貫通する貫通孔14を、複数有している。
【0033】
<クロスフロー>
本発明におけるカートリッジ式中空糸膜モジュール101はクロスフロー濾過運転にも用いる。本実施形態におけるクロスフローの流れ方(循環経路)を、
図7を用いて説明する。
【0034】
クロスフローでは、濾過前の原液は筐体本体3下方の原液流入口6から入り、第2集束固定部12の貫通孔14および第2集束固定部12と筐体本体3の間のいずれかを通過し、中空糸膜の濾過部110に入る。濾過部110とは、第2集束固定部12の上端よりも上方かつ第1集束固定部11の下端よりも下方にあたる空間のことを指す。原液は、濾過部110で、中空糸膜束2の側を通過し、第1集束固定部11の下で、整流筒9の内周側から整流筒9側面に設けた整流孔10を通って整流筒9の外周側へ流出、または整流筒9の下端と筐体本体3との隙間を通過する。その後、整流筒9外周と筐体本体3の内周との間の環状流路35を原液流出口8に向かって流れ、原液流出口8からカートリッジ式中空糸膜モジュール101外へ流出する。原液流出口8から流出した原液は、配管に接続されたポンプなどを介して、再び原液流入口6から筐体本体3内へ流入する。このように、膜表面に対して原液を平行に流しながら濾過する方式をクロスフロー濾過と呼び、その流れをクロスフロー流と呼ぶ。膜面上を原液が平行に流れることにより、膜面上に付着した懸濁物質は原液の流れによってふるい落とされ、カートリッジ式中空糸膜モジュール101外に排出されるため、原液中の懸濁物質等が膜面に堆積するのを抑制する効果がある。
【0035】
<濾過液の流れ>
本実施形態における濾過液の流れを、
図8および
図9を用いて説明する。
濾過部110に入った原液は、中空糸膜束2側を通過する「濃縮液」と、外圧により中空糸膜束2を構成する中空糸膜1の中空部33に圧入されつつ濾過される「濾過液」とに分けられる。
図8、
図9の矢印に示すように、濾過液は中空糸膜1の中空部33を上昇し、第1集束固定部11内部を通過し、第1集束固定部11の上端で開口している中空糸膜1の開口部を経て貯液部34に入る。貯液部34とは第1集束固定部11の上端と上部キャップ4内面とで包囲される空間であり、貯液部34に流入した濾過液は、上部キャップ4上端の濾過液出口7を経てカートリッジ式中空糸膜モジュール101から流出する。
【0036】
<カートリッジ式中空糸膜モジュールの組み立て方法>
筐体本体3の上端開口から整流筒9(
図4、
図5)を筐体本体3(
図3)の内側に配し、整流筒9の上端開口部から中空糸膜カートリッジ100を挿入する。このとき整流筒9には第1シール材15を、第1集束固定部11には第2シール材16およびガスケット18を装着しておく。挿入した中空糸膜カートリッジ100の下端に位置する第2集束固定部ケース13を下部キャップ5に係合し、筐体本体3下端の鍔部3Dと下部キャップ5の鍔部5Dを、シール材を介してクランプで締め付けシールする。中空糸膜束2に緩みを持たせることで、中空糸膜カートリッジ100の下端は筐体本体3下端よりはみ出しており、下部キャップ5の装着作業性も向上する利点がある。下部キャップ5をシール固定した後、筐体本体3上端の鍔部3Cと上部キャップ4の鍔部4Cを、シール材を介してクランプで締め付けシールする。このとき第1シール材15は筐体本体3と整流筒9との間で圧縮され、第2シール材16は整流筒9と第1集束固定部11との間で同時に圧縮される。クランプの締め付けにより、筐体本体3と整流筒9の間および整流筒9と第1集束固定部11との間も同時にシールし、カートリッジ式中空糸膜モジュール101の組み立てが完了する。
【0037】
<カートリッジ式中空糸膜モジュールの組み立て状態>
上記組み立て方法により、筐体本体3の内側に整流筒9を配する。筐体本体3は上方に大径部3A、大径部3Aの下方に小径部3Bを有するが、大径部3Aと小径部3Bとは筐体本体3の長手方向に同軸であり、大径部3Aと小径部3Bをテーパー状の側面により接続する形状であることが好ましい。整流筒9は、大径部3Aと小径部3Bとのテーパー状接続部から上方の範囲に収容されるように配され、整流筒9の下方には、筐体本体3の小径部3Bが位置する。整流筒9の鍔部9Cは、筐体本体3の鍔部3Cと上部キャップ4の下端の鍔部4Cとに狭圧固定される。
【0038】
本実施の形態は
図10のように、小径部3Bの内径Diを、整流孔の存在する部分における整流筒9の内径D1よりも小さく、かつ、中空糸膜束2の存在領域32の外径Dfと近しい大きさとした。
【0039】
従来技術で説明した通り、中空糸膜束2は、緩みを持つ状態で、第1集束固定部11と第2集束固定部12を介して筐体本体3内に装着されている。
【0040】
中空糸膜1の緩みは原液に随伴されやすく、整流孔10を閉塞させ、原液のクロスフロー流の圧力損失の上昇と、濾過運転時におけるポンプなどの運転駆動力の上昇を引き起こす。また、整流孔10のエッジに押し付けられるため、中空糸膜1が損傷するなどの問題もある。
【0041】
本発明におけるカートリッジ式中空糸膜モジュール101は、上方にて、中空糸膜束2が第1集束固定部11の中央に位置するため、
図10のように中空糸膜1の存在領域32の外径Dfと整流筒9の内壁との間隙を設けることができ、結果、中空糸膜1による整流孔10の閉塞を回避することができる。ノズル8を設けた部分の筐体本体3の内径すなわち大径部3Aの内径Doと、ノズル8を設けた部分の整流筒9の内径すなわち整流孔の存在する範囲における整流筒の内径D1と、小径部3Bの内径Diとが、Di<D1<Doの関係を満たすとき、中空糸膜1による整流孔10の閉塞を回避することができる。
【0042】
特に、中空糸膜1の存在領域32の外径Dfと整流筒9の内壁との間隙を中空糸膜1の緩み長さよりも大きくすることは、中空糸膜1が整流孔10を塞ぐことを確実に防止できるため好ましい。具体的には、整流筒9の内径D1と、中空糸膜1の存在領域32の外径Dfと、第1集束固定部11下端から第2集束固定部12上端までの直線距離Lと、第1集束固定部11下端から第2集束固定部12上端までの中空糸膜1の平均長さLmの関係が、D1−Df>(Lm−L)/2を満たすと良い。上記関係式は、本実施の形態に近しい他の構造において、鋭意検討の結果見出したものである。また、より好ましくは、整流筒9の内径D1と、中空糸膜1の存在領域32の外径Dfと、第1集束固定部11下端から第2集束固定部12上端までの直線距離Lと、第1集束固定部11下端から第2集束固定部12上端までの中空糸膜1の平均長さLmの関係が、D1−Df>Lm−Lを満たす構造である。上記関係式を満たす構造であれば、
図20のように仮に中空糸膜1の緩みが整流孔10の存在する範囲のみに偏り、整流孔10に局所的に引き込まれた場合も、中空糸膜1が整流筒9の内壁に接触することがない確実な関係だからである。
【0043】
さらに、カートリッジ式中空糸膜モジュール101は、筐体本体3の小径部3Bの内径Diと中空糸膜1の存在領域32の外径Dfを、第2集束固定部ケース13と近しい大きさとした。下方に第2集束固定部ケース13が装着された中空糸膜カートリッジ100を筐体本体3の上端開口部から下端開口部まで挿入可能な範囲において、中空糸膜1の随伴範囲を極力小さくする効果がある。さらにこの構成によれば、整流筒9の上方と整流筒9の下方さらに第2集束固定部ケース13にて中空糸膜束2を拘束し、中空糸膜束2の略外径を維持しているため、筐体本体3が大径部3Aのみで構成されて内径が一定である従来の構造(
図11)に比べ、中空糸膜束2の外径拘束効果が高まり中空糸膜1の原液流れへの随伴を抑制する効果を高めることができる。なお、
図12に示すように、筐体本体3が内径一定に、小径部3Bのみで形成されることで筐体本体3内側面と整流筒9外側面との環状流路35が小さい場合は、環状流路35におけるクロスフロー流の圧力損失が増大し、濾過性能が低下する問題があることが従来技術において分かっており、好ましくない。
【0044】
また、整流筒9が多段で複数の内径を有する場合、上記整流筒9の内径とは、第1集束固定部11より下方における最小内径を指す。
【0045】
大径部3Aと小径部3Bをテーパー状に接続したため、例えば濾過部110を蒸気滅菌した後に発生するスチームドレンを筐体本体3に滞留させることなく流下せしめる効果がある。
【0046】
大径部3Aや小径部3Bは一体で作製する必要はなく、運転または加工方法に合わせ適宜別部材に分割することで、筐体本体3の作製効率や、カートリッジ式中空糸膜モジュール101のハンドリング性を高めることができる。
【0047】
<シール部組み立て状態>
第1シール材15および第2シール材16を用いたシールについて、
図13を用いて説明する。
【0048】
まず、筐体本体3に整流筒9を上方より挿入し装着する。整流筒9の下方外周の溝に配した第1シール材15が筐体本体3の内周側面と整流筒9の外周側面とに当接し、筐体本体3と整流筒9とをシールする。第1シール材15は、整流筒9と筐体30(筐体本体3)との間を液密に封止する第1シール部として機能する。
【0049】
次に、中空糸膜カートリッジ100の第1集束固定部11の段部11E下に第2シール材16を装着し、筐体本体3に装着した整流筒9の上方開口部より挿入する。中空糸膜カートリッジ100を上方から挿入した際、第1集束固定部11に配した第2シール材16が整流筒9の内周全周に亘り設けた凸部9Eに当接し、筐体本体3の軸方向(
図1でいう上下方向)に第2シール材16が圧縮されることで、整流筒9と第1集束固定部11とをシールする。第2シール材16は、第1集束固定部11と整流筒9との間を液密に封止する第2シール部として機能する。また、第1集束固定部11の段部11Eと、整流筒9の凸部9Eは、第1集束固定部11を整流筒9に対して着脱可能に固定する第2固定部として機能する。
【0050】
筐体本体3と整流筒9は、本実施形態のように筐体30の径方向(
図1でいう水平方向)に第1シール材15を潰してシールしても良く(第1シール材15が筐体30の径方向に圧縮される状態)、筐体30の軸方向(
図1でいう上下方向)にシール材を潰してシールしても良い(少なくとも第1シール材15が筐体30の軸方向に圧縮される状態)。筐体本体3と整流筒9の間がシールできていれば良く、第1シール材15の潰す向きおよび潰す構造は上記に限定されるものではない。また部材同士の嵌合などでシールできれば第1シール材15は必ずしもなくても良い。同様に整流筒9と第1集束固定部11も、本実施形態のように整流筒9(または筐体30)の軸方向に第2シール材16を潰してシールしても良く(少なくとも第2シール材16が筐体30の軸方向に圧縮される状態)、整流筒9(または筐体30)の径方向に第2シール材16を潰してシールしても良い(第2シール材16が筐体30の径方向に圧縮される状態)。整流筒9と第1集束固定部11の間がシールできていれば良く、第2シール材16の潰す向きおよび潰す構造は上記に限定されるものではない。また、整流筒9内面に第1集束固定部を接着する、また、部材同士の嵌合などでシールできれば第2シール材16は必ずしも必要では無い。
【0051】
カートリッジ式中空糸膜モジュール101は、中空糸膜カートリッジ100を筐体本体3の仮想軸方向に動かして整流筒(筒状ケース)9に着脱する。本例では、筐体本体3と整流筒9との間の第1シール材15を筐体本体3の径方向に圧縮し、整流筒9と第1集束固定部11との間の第2シール材16を少なくとも筐体本体3の軸方向に圧縮する構造を採用している。したがって、中空糸膜カートリッジ100を筐体本体3の軸方向に抜き出す操作において、第2シール材16には摺動抵抗がほぼ作用せず、中空糸膜カートリッジ100のみを容易に取り出すことができる。中空糸膜カートリッジ100を筐体本体3の仮想軸方向に抜き出す際、筐体本体3と整流筒9との間の第1シール材15には筐体本体3と整流筒9との間に配した第1シール材15に摺動抵抗である摩擦力が発生して、筐体本体3に対して整流筒9が動き難いのに対し、整流筒9と第1集束固定部11との間の第2シール材16では、摩擦力が相対的に小さいためである。
【0052】
尚、本発明において、第1シール材15または第2シール材16の如きシール材が、「筐体の径方向に圧縮される」とは、筐体30の仮想軸を中心とした円筒面にシール材が押し付けられ、当該円周面に沿って圧縮され固定されることを意味する。また、「少なくとも筐体の軸方向に圧縮される」とは、シール材が径方向にのみ圧縮される上記の構造以外を指す。具体的には、中空糸膜カートリッジ100や整流筒9の如き筒状ケースなどを筐体本体3に装填した際に、シール材が少なくとも装填方向に圧縮される構造を意味し、第2シール材16についての
図22〜
図25のような場合も含む。例えば
図22のように装填方向に垂直な面同士での圧縮でも良い。
図23のように、第2シール材16を受ける整流筒9の面が斜面であっても良い。
図24のように第2シール材16を受ける整流筒9の面が水平で、第2シール材16を押圧する第1集束固定部11の面が斜面であっても良い。
図25のように、第2シール材16を押圧する第1集束固定部11の面および第2シール材16を受ける整流筒9の面の双方が斜面であっても良く、それぞれの傾斜が一致していても異なっていても良い。筐体30が複数の軸を有する場合は筐体本体3の仮想軸を筐体30の仮想軸とみなす。このような条件は、第1シール材15にも適用される。
【0053】
本実施形態では、整流筒9に、
図13のように内周面上方に略三角の断面形状を有する凸部9Eを全周に渡って設け、凸部9Eの断面形状は筐体本体3の長手方向軸に平行な向きE1と筐体本体3の長手方向軸に垂直な向きE2の2辺を有する、鋭角が約30°の略直角三角形状とした(
図23に対応)。筐体本体3の中心軸側に向かって下向きに傾斜する三角形の断面形状としているため、蒸気滅菌時に発生するスチームドレンが凸部9Eの三角形断面形状を流下し、ドレンによる昇温が遅い箇所の発生を予防することができる。スチームドレンの滞留を予防することでカートリッジ式中空糸膜モジュール101の内部を昇温させやすい効果がある。
【0054】
整流筒9と第1集束固定部11との間の第2シール材16を少なくとも筐体30の仮想軸方向に圧縮する構造であれば、本実施形態の目的を達成することができるため、整流筒9の内周面に設ける凸部9Eは、
図26のように水平の矩形形状であっても良い(
図22に対応)。また、凸部9Eの断面形状は略直角三角形、矩形形状に限定するものではなく、たとえば台形などの多角形や半円状、扇形など、スチームドレンが溜まらず流下しやすい形状であれば良い。特に、略直角三角形や台形などはシール材を受ける面が平面であるためシール性が良好であり、さらに台形であれば筐体本体3の上下方向の力に対し凸部9Eの強度を確保しやすく、なお好ましい。
【0055】
従来より、中空糸膜モジュールは、膜ろ過性能を維持するため、一定期間運転後の定期的な膜洗浄を実施することが一般的である。あわせて、膜洗浄後に再度滅菌を実施し、コンタミネーションを防ぐことで発酵生産効率の維持を行う。そして、従来のカートリッジ式中空糸膜モジュールは、中空糸膜と筐体または中空糸膜と整流筒(筒状ケース)がポッティング剤によって接着される構造が主流であった。
【0056】
本実施形態におけるカートリッジ式中空糸膜モジュール101は、筐体本体3と整流筒9との間を第1シール材15でシールし、整流筒9と第1集束固定部11との間を接着ではなく第2シール材16を介してシールする構造を採用した。従来形状の整流筒9と第1集束固定部11の間の接着部において、熱膨張と収縮との繰り返しで材質の異なる整流筒9と第1集束固定部11が剥離を起こし得るような過酷な条件下での使用の際も、本実施形態は接着を不要とするシール構造であるため剥離が起こる心配がない。特に各部材の常温時の形状および熱膨張時の形状においても第1シール材15と第2シール材16がそれぞれシール可能となるように各部材寸法を決定した。熱膨張と収縮を繰り返しても、第1集束固定部11と整流筒9の間の剥離を予防することができ、原水リークや洗浄性が悪い隙間の発生を防止できる効果がある。また、従来のように整流筒9を第1集束固定部11で接着固定していないため、中空糸膜カートリッジ100を交換した際も、整流筒9を再利用できる利点がある。
【0057】
また、カートリッジ式中空糸膜モジュール101を組み立てた際、整流筒9の内周面に設けた凸部9Eと、第1集束固定部11の縮径部11Bは
図13のようにほぼ同じ高さとなるよう設計した。
図27のように縮径部11Bを設けない場合に比べ、凸部9Eと第1集束固定部11との隙間空間Aを大きくできるため、高温滅菌時に、例えば蒸気滅菌であれば蒸気が、温水滅菌であれば温水が、第2シール材16まで到達しやすく滅菌効率を高めることができる。同様に、凸部9Eと第1集束固定部11との隙間空間Aを大きくできるため、運転時の原液や滅菌後のスチームドレンの排出性も高く、原液やスチームドレンによって昇温不十分となることを予防でき、滅菌効率の高い形状とすることができる。
【0058】
<筐体のシール方法>
上部キャップ4と筐体本体3、および、筐体本体3と下部キャップ5のシールは、
図1に示す通りシール部材19を挟みこんだ状態で、接続部の外側からクランプ等で締め付ける方法でも良いし、フランジ部を複数本のボルトで締め付ける方法などでも良い。特にカートリッジ式中空糸膜モジュール101の使用期間が短い場合は手軽に着脱できるクランプによる締め付けの方が好ましい。一方で、高圧力下での運転や、運転が長期間であり中空糸膜カートリッジの交換頻度が低い場合などは、複数本のボルトによる締め付けの方が緩みづらく好ましい。なお、筐体に対し中空糸膜カートリッジ100が着脱可能であればよく、上部キャップ4と下部キャップ5のいずれかが筐体本体3に溶接されているなど
図14のように筐体本体3と一体物であっても良い。また、筐体本体3を有さず、
図15のように上部キャップ4と下部キャップ5のそれぞれが筒状部を有する形状であっても良い。
【0059】
<貯液部のシール方法>
第1集束固定部11の上端面にガスケット用溝17を形成し、貯液部をシールするためのガスケット18をガスケット用溝17に対し内嵌めで装着した。ガスケット用溝17は中空糸膜1の存在領域32よりも外周に設け、ガスケット用溝17の内径を、上部キャップ4の平面4F(
図3参照)の内径と同等の寸法とした。
図3のように上部キャップ4の鍔部4Cと筐体本体3の鍔部3Cをクランプで締め付ける際に、上部キャップ4の平面4Fによりガスケット18が圧縮され貯液部34をシールする。ガスケット用溝17の内径を中空糸膜1の存在領域32よりも外周に設けたため、中空糸膜束2の開口している第1端部がすべてガスケット用溝17より内側にあり、中空糸膜1をすべて有効に使用できる利点がある。
【0060】
<中空糸膜>
本実施形態のカートリッジ式中空糸膜モジュール101は、分離膜として、中空糸膜を備える。中空糸膜は一般的に平膜よりも比表面積が大きく、単位時間当たりに濾過できる液量が多いため有利である。中空糸膜の構造としては全体的に孔径が一様な対称膜や、膜の厚み方向で孔径が変化する非対称膜、強度を保持するための支持層と対象物質の分離を行うための分離機能層を有する複合膜などが存在する。
【0061】
中空糸膜の平均孔径は分離対象によって適宜選択すれば良いが、細菌類や真菌類などの微生物や、動物細胞の分離などを目的とする場合、10nm以上、220nm以下であることが好ましい。平均孔径が10nm未満だと透水性が低くなり、220nmを超えると微生物等が漏洩する可能性がある。本発明での平均孔径とは最も孔径の小さい緻密層の孔径とする。
【0062】
分離膜の材質は特に限定されないが、分離膜は、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体などのフッ素系樹脂、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリプロピレンなどの樹脂を含有することができる。特にフッ素系樹脂やポリスルホン系樹脂からなる分離膜は耐熱性、物理的強度、化学的耐久性が高いことから、カートリッジ式中空糸膜モジュールに好適に用いることができる。
【0063】
また、中空糸膜は、フッ素系樹脂やポリスルホン系樹脂に加えて、親水性樹脂をさらに含有してもよい。親水性樹脂によって、分離膜の親水性を高め、膜の透水性を向上させることができる。親水性樹脂は、分離膜に親水性を付与することができる樹脂であればよく、具体的な化合物に限定されるものではないが、例えば、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、及びポリアクリル酸エステル系樹脂などが好適に用いられる。
【0064】
中空糸膜カートリッジを作製する際は、キャップに中空糸膜を充填し、樹脂を注入して固定する。この注入固定作業をポッティングと称し、ポッティングに用いる樹脂をポッティング材と称すが、ポッティング前には、ハンドリングや接着の問題から中空糸膜を乾燥させておく。しかし中空糸膜の多くは乾燥により収縮が起こり、透水性が低下するという問題があるため、グリセリン水溶液に浸漬した後で乾燥させたものを用いる。グリセリン水溶液に浸漬した後で乾燥すると、グリセリンが細孔内に残留することで乾燥による収縮を防止することができ、その後エタノールなどの溶媒で浸漬処理を行うことで透水性を回復させることができる。
【0065】
カートリッジ式中空糸膜モジュールは、蒸気滅菌してから使用することも可能だが、中空糸膜の材質によっては蒸気滅菌により収縮が起こるものがある。そのためモジュール作製後に蒸気滅菌を行うと中空糸膜の収縮により中空糸膜が損傷したり、中空糸膜とポッティング樹脂とが剥離したりする可能性がある。従って予め中空糸膜を蒸気処理し、収縮させてからポッティングを行ってモジュールを製作することが望ましい。収縮させるための前処理温度は、実際に行う蒸気滅菌温度よりも高くしておくことが好ましい。
【0066】
なお、上述の中空糸膜は膜の外側から圧力をかけろ過を行う外圧式中空糸膜モジュールおよび膜の内側から圧力をかけろ過を行う内圧式中空糸膜モジュールの何れの中空糸膜にも適用できるものである。本実施の形態に適用する場合は外圧式中空糸膜が好ましい。
【0067】
<筐体、整流筒の材質>
カートリッジ式中空糸膜モジュールで使用する筐体の材質は耐熱性、化学的耐久性などを満たせば特に限定されないが、例えばポリスルホン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂などのフッ素系樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ステンレス、アルミニウムなどを挙げることができる。またカートリッジ式中空糸膜モジュールで使用する整流筒および第2集束固定部ケース13の材質は特に限定されないが、例えば筐体と同様の材料から選択することができる。
【0068】
<集束固定部の材質>
カートリッジ式中空糸膜モジュール101の第1集束固定部11および第2集束固定部を形成するポッティング樹脂の種類は、接着対象部材との接着強度、耐熱性、化学的耐久性などを満たせば特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂やポリウレタン樹脂などを使用することができる。エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂は中空糸膜との接着性、耐熱性、化学的耐久性に優れているものが多く、本実施形態のカートリッジ式中空糸膜モジュールの中空糸膜同士を集束固定するポッティング樹脂として好適に使用することができる。
【0069】
<シール材>
カートリッジ式中空糸膜モジュールで使用するOリングやガスケットなどのシール材の材質は耐熱性、化学的耐久性などを満たせば特に限定されないが、例えばフッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などを使用することができる。
【0070】
特に第1シール材15および第2シール材16にはOリングを用いたため、つぶし率は一般的に8%以上30%以下とすることが好ましい。
【0071】
本実施の形態では、
図1のように第1集束固定部11を整流筒(筒状ケース)9と直接接着せず、第1シール材15を用いてシールした。そのため従来のカートリッジ式中空糸膜モジュールのように、熱処理によって整流筒9と第1集束固定部11が剥離し、原水のろ過液側へのリークおよび雑菌汚染等の問題が発生することはない。第1集束固定部11は蒸気滅菌時や発酵培養液の濾過などの連続運転時、洗浄時など、使用温度によって膨張と収縮を繰り返すことが分かっている。同様に整流筒9や筐体本体3も使用温度によって膨張と収縮を繰り返す。筐体本体3と整流筒9の間をシールする第1シール材15と、整流筒9と第1集束固定部11との間をシールする第2シール材16は、カートリッジ式中空糸膜モジュール101の使用温度範囲全域においてつぶし率8%以上30%以下となるよう設計されることが好ましい。同理由により筐体本体3と整流筒9と第1集束固定部11の線膨張係数の差は小さいほど好ましく、例えば、筐体本体3と整流筒9を同原料で作製すると良い。整流筒9と第1集束固定部11のようにシールする複数の部材が同原料で作製することは困難である場合も、つぶし代8〜30%の範囲に該当するOリングつぶし量(単位:mmなど)の絶対値の範囲が大きくなるように、第1シール材15と第2シール材16の線径は大きい方が好ましい。ただし、Oリングの線径が大きいとシール性能は向上するが、シールする複数の部材に当接する面の面積が大きくなるため摩擦力が大きくなり、組立や分解などの操作性が低下する懸念がある。
【0072】
<カートリッジ式中空糸膜モジュールの濾過運転方法>
本実施の形態はクロスフロー濾過を採用したが、原液を全て濾過する全量濾過に用いても良い。本実施の形態であれば、原液流出口8を閉止することで、原液を全て濾過する全量濾過を行うこともできる利点がある。また、原液流入口6からエアを供給することでエアスクラビングを行い、中空糸膜を揺動させながら洗浄を行うことも可能であり、中空糸膜カートリッジの再生効率が良い。この場合、流入したエアは原液流出口8から排出される。さらに、濾過液出口7から逆圧洗浄液を供給し、中空糸膜の内側から外側に液を透過させることで、中空糸膜の逆圧洗浄を行うこともできる。
【0073】
<カートリッジ式中空糸膜モジュールの蒸気滅菌方法>
カートリッジ式中空糸膜モジュールを発酵等の用途に使用する場合、蒸気滅菌が必要となる。蒸気滅菌で発生するスチームドレンの排出のため、通常配管の上方向から下方向に向かって蒸気を供給する。カートリッジ式中空糸膜モジュール101の原水側の領域を蒸気滅菌する場合、原液流出口8から蒸気を供給し、原液流入口6からスチームドレンを排出すれば良い。またカートリッジ式中空糸膜モジュール101の濾過液側の領域を蒸気滅菌する場合、濾過液出口7から蒸気を供給しても良いし、原液流出口8から蒸気を供給して中空糸膜1を透過させ、モジュールの濾過液側に蒸気を供給しても良い。発生したスチームドレンは原液流入口6から排出される。このとき第2集束固定部に設けられた貫通孔14はスチームドレンの排出口の役割も果たす。
【0074】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュール101Bの構成について、
図28および
図29を参照しながら説明する。
【0075】
図28は、第2実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュール101Bの第1集束固定部11付近の概略縦断面図である。第1の実施の形態と異なり、整流筒(筒状ケース)9Bの内周と第1集束固定部11の外周とが接着固定される形態である。第1実施形態と異なり、温水殺菌やガス滅菌など、原液側と濾過液側とにリークが発生するような過度の剥離が発生しない範囲での使用環境下に用いることができる。尚、以下で言及しないカートリッジ式中空糸膜モジュール101Bの構成については、第1実施形態のカートリッジ式中空糸膜モジュール101と同様の構造を適用可能である。第1実施形態で説明した部材と同様の機能を有する部材については、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0076】
第2実施形態では、整流筒9Bと第1集束固定部11とが接着しているため、中空糸膜カートリッジ100B(
図29)に整流筒9Bを含む。したがって、着脱する中空糸膜カートリッジ100Bの最外部を有する整流筒9Bとハウジングである筐体本体3との間を、シール材36を少なくとも筐体本体3の軸方向に圧縮する構造とした。シール材36を筐体本体3の径方向に圧縮する構造では中空糸膜カートリッジ100Bを着脱する際に摺動摩擦抵抗が発生するが、本実施形態では筐体本体3の仮想軸方向に圧縮する構造としたため、中空糸膜カートリッジ100Bを着脱する際に発生する摺動摩擦抵抗が小さく、容易に操作できる利点がある。この場合、シール材36を受ける面に傾斜を設ければ、スチームドレンの排出性を高めることができる。
【0077】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュール101Cの構成について、
図30および
図31を参照しながら説明する。
【0078】
図30は、第3実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュール101Cの第1集束固定部11C付近の概略縦断面図である。第1の実施の形態と異なり、整流筒9を備えない形態である。以下で言及しないカートリッジ式中空糸膜モジュール101Cの構成については、第1実施形態のカートリッジ式中空糸膜モジュール101と同様の構造を適用可能である。第1実施形態で説明した部材と同様の機能を有する部材については、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0079】
第3実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュール101Cは、整流筒9を備えない以外は、第1実施形態のモジュール101とほぼ同一の構成である。したがって、着脱する中空糸膜カートリッジ100Cの最外部を有する第1集束固定部11Cとハウジングである筐体本体3との間を、シール材37を少なくとも筐体本体3の仮想軸方向に圧縮する構造とした。シール材37を筐体本体3の径方向に圧縮する構造では中空糸膜カートリッジ100Cを着脱する際に摺動摩擦抵抗が発生するが、本実施形態では筐体本体3の軸方向に圧縮する構造としたため、中空糸膜カートリッジ100Cを着脱する際に発生する摺動摩擦抵抗が小さく、容易に操作できる利点がある。第1実施形態および第2実施形態同様に、シール材37を受ける面に傾斜を設ければ、スチームドレンの排出性を高めることができる。
【0080】
(第4実施形態)
第4実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュールの構成について、図面を参照しながら説明する。
図34は、本発明の第1実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュールの概略縦断面図であり、
図35は、中空糸膜カートリッジの概略断面図である。
【0081】
本発明の第1実施形態にかかるカートリッジ式中空糸膜モジュールは、筐体と、前記筐体内に収容された複数の中空糸膜と、前記中空糸膜の第1端部を開口した状態で束ねる第1ポッティング部と、前記中空糸膜の第2端部を封止した状態で束ねる第2ポッティング部と、前記第1ポッティング部を前記筐体に対して着脱可能に固定する固定部と、前記第1ポッティング部と前記筐体との間を液密に封止するシール部と、前記第2ポッティング部を前記筐体に対して、着脱可能に、かつ前記第2ポッティング部と前記筐体との間を通液可能に保持する保持部と、を備えている。
【0082】
この様な構造の中空糸膜モジュールを採用することにより、前記第2ポッティング部において、蒸気滅菌時のスチームドレンの排出性がさらに良好となること、濁質の堆積が抑制されること、また中空糸膜束自体が揺れることにより中空糸膜束にも濁質が堆積しにくい、などのメリットがある。ここで、前記第2ポッティング部がクロスフロー濾過時に浮上する際、中空糸膜束2は、緩みを持つ状態から、さらに緩みが大きくなるが、本願の様に、整流筒内面と中空糸膜束の存在領域の最外径との間隙を有することにより、中空糸膜1が整流孔10を塞ぐなどの問題を防止することができる。
【0083】
以下、実施形態として示す中空糸膜モジュールは、全て外圧式である。ここで外圧式とは中空糸膜の外側から原水を供給し、中空糸膜の内側(中空部側)に向かってろ過を行うろ過方式のことである。
【0084】
<筐体>
筐体は中空糸膜カートリッジ100を内部に設置させるものであり、中空状の筐体本体3と、筐体本体3の両端部に設けられた上部キャップ4と下部キャップ5とで構成されている。
【0085】
図34に示したように、筐体本体3の上部には、ろ過液出口211を有する上部キャップ4が、筐体本体3の下部には、原液流入口210を有する下部キャップ5がそれぞれ、液密かつ気密に接続されている。上部キャップ4と下部キャップ5を筐体本体3に接続する方法としては、例えば
図34に示したようにガスケット216を使用し、クランプ等で固定する方法が挙げられる。
【0086】
筐体本体3は、その上端および下端に筐体本体3の全周に亘って鍔部3C、3Dを有している。また、筐体本体3の側部には、ろ過液出口211寄りに原水出口212が設けられている。
【0087】
上部キャップ4は筐体本体3の内径と略等しい内径を有し、その上端側が縮径してろ過液出口211を形成している。上部キャップ4の下端側には、筐体本体3と接続したときに溝を形成するための段部204Aが上部キャップ4の全周に亘って形成されている。筐体本体3と上部キャップ4を接続した際に上部キャップ4の下端部が筐体本体3の鍔部3Cと当接して溝(固定部)が形成され、この溝(固定部)により後述する第1ポッティング部25の鍔部207Aを固定する。
【0088】
下部キャップ5は筐体本体3の内径と略等しい内径を有し、その下端側が縮径して原液流入口210を形成している。下部キャップ5の上端側には、筐体本体3と接続したときに窪みを形成するための段部205Aが複数箇所(第1実施形態では4箇所)に間隔を有して形成されている。筐体本体3と下部キャップ5とが接続されると、下部キャップ5の上端部が筐体本体3の鍔部3Dと当接することで、下部キャップ5の上面と筐体本体3の鍔部3Dの下面との間に第1保持溝217が形成される。この第1保持溝217には、ピン(保持部)218が挿入される。
【0089】
<中空糸膜モジュール>
カートリッジ式中空糸膜モジュール101Dは、筐体内に
図35に示す中空糸膜カートリッジ100を装着する。中空糸膜カートリッジ100は複数の中空糸膜1を備え、筐体のろ過液出口211側に配置される第1ポッティング部25と筐体の原液流入口210側に配置される第2ポッティング部26とを有している。第1ポッティング部25、第2ポッティング部26は、それぞれ第1〜第3実施形態の集束固定部11、第2集束固定部12に相当する。
【0090】
<第1ポッティング部>
筐体のろ過液出口211側に配置される中空糸膜カートリッジ100の上端側である第1ポッティング部25は、多数本の中空糸膜1からなる中空糸膜束2の第1端部を接着剤等で接着して第1接着部206を形成し、第1接着部206を第1端部ケース207に収納して構成されている。ここで、中空糸膜束2は、中空糸膜1の上方の端面が開口された状態で束ねられている。第1端部ケース207は円筒状であり、その上端部には第1端部ケース207の全周に亘って鍔部207Aを有している。第1端部ケース207の鍔部207Aを筐体本体3と上部キャップ4とを接続させた際に形成された溝(固定部)に挿入することで、第1ポッティング部25は、筐体本体3の上端部に液密かつ気密に固定される。
【0091】
中空糸膜1の外側から供給された原水は中空糸膜1を透過し、透過したろ過液は中空糸膜1の中空部を通過して該中空糸膜1の開口部から排出される。
【0092】
<整流筒>
第1端部ケース207には、その下側(すなわち、原液流入口210側)に軸方向に延びる複数のスリットを有する筒状の整流筒214が設けられている。整流筒214は、スリット部分から通液することができる。整流筒214は、処理原水の偏流を防ぐ目的で、筐体の原水出口212周辺に設けられる。カートリッジ式中空糸膜モジュール101Dを蒸気滅菌する場合、整流筒についてもスチームドレンの滞留を防止するため、筐体本体3との間にスチームドレン排出のための間隙を設けることが好ましい。
【0093】
<第2ポッティング部>
筐体の原液流入口210側には、中空糸膜カートリッジ100の下端側である第2ポッティング部26が配置されている。中空糸膜1の第2端部が位置する第2ポッティング部26は、多数本の中空糸膜1からなる中空糸膜束2を接着剤等で接着して第2接着部208を形成し、第2接着部208を第2端部ケース209に収納して構成されている。ここで、中空糸膜1の中空部は接着剤で封止されて開口しない状態となっている。第2端部ケース209は下方に底部を有する円筒状であり、その外径は筐体の内径よりも小さく構成されている。また、第2端部ケース209の底部には貫通孔213を有しており、原水の流路の役割を担っている。第2端部ケース209は、第1〜第3実施形態の第2集束部固定ケース13に相当する。
【0094】
本実施形態のカートリッジ式中空糸膜モジュールは、保持部により第2ポッティング部26を保持し、クロスフローろ過時やエアスクラビング時に中空糸膜の浮上を抑制することができる。
【0095】
第2端部ケース209には、その外周面に、筐体に形成された第1保持溝217に対向する位置に凹状の第2保持溝219が形成されている(
図37参照)。筐体には第1保持溝217が設けられているので、第2保持溝219を第1保持溝217と対向させた際に形成される空間に保持部としてピン218を挿入することができる(
図38参照)。このように構成することにより、ピン218が第2端部ケース209の位置を一定の範囲内に保持するため、クロスフローろ過時やエアスクラビング時に中空糸膜の浮上を抑制することができる。
【0096】
本実施形態では第2端部ケース209を使用しているが、必ずしも第2端部ケース209を使用する必要はなく、第2接着部208のみで第2ポッティング部26を形成させることもできる。この場合、第2接着部208の外周面に第2保持溝219を形成させる。
【0097】
<ピンの構成>
ピン218は、
図38に示したように、中空糸膜カートリッジ100側に配置されるピン内側上面218Aとピン内側下面218Bと、筐体側に配置されるピン外側上面218Cとピン外側下面218Dとを有している。
【0098】
ピン内側上面218Aは、先端部に向けて下降する傾斜面を有している。ピン内側下面218Bとピン外側上面218Cは、第2保持溝219の底面(底部)219Bと第1保持溝217の天井面(天井部)217Aとそれぞれ平行な平坦面を有している。そして、ピン外側下面218Dは、先端が縮径した鋭角状に形成されている。
【0099】
<中空糸膜カートリッジ100の筐体への取り付け>
中空糸膜カートリッジ100を筐体に装着する際は、まず中空糸膜カートリッジ100を筐体本体3に挿入し、筐体本体3の鍔部3Cの上面に第1ポッティング部25の第1端部ケース207の鍔部207Aを保持させる。次に、上部キャップ4の下端部を、ガスケット216を介して筐体本体3の鍔部3Cに当接させ、クランプ等で固定する。
【0100】
続いて中空糸膜カートリッジ100の第2ポッティング部26の第2端部ケース209の第2保持溝219にピン218を挿入し、下部キャップ5を接続する。接続方法は上部キャップ4と同様であり、下部キャップ5の上端部を、ガスケット216を介して筐体本体3の鍔部3Dに当接させ、クランプ等で固定する。
【0101】
このようにして組み立てられたカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dは、ピン218が筐体の第1保持溝217と第2ポッティング部26の第2端部ケース209の第2保持溝219とで形成した空間に挿入されるため、第2ポッティング部26を保持することができる(
図38参照)。保持箇所が1箇所のみであると、クロスフローろ過時やエアスクラビング時の水圧によってピン218が脱落しやすくなるため、ピン218は2箇所以上設置されることが好ましい(本実施形態では4箇所)。
【0102】
<シール部>
カートリッジ式中空糸膜モジュール101Dでは、第1ポッティング部25と筐体との間にシール部が設けられていることで、原水側とろ過液側が液密かつ気密に分離される。
図34に示したように、第1ポッティング部25と筐体本体3の間にOリング215またはガスケットなどのシール材を設置することで原水側とろ過液側を液密かつ気密に分離することができる。Oリングやガスケットの材料は特に限定されないが、耐熱性に優れ、酸、アルカリ、塩素などへの耐性も強い材料であればより好ましく用いられる。材料の例としては、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などを挙げることができる。
【0103】
またカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dを蒸気滅菌する場合、原水出口212から蒸気が供給され、発生したスチームドレンは原液流入口210から排出されるが、モジュール上部に上向きの空間があると、空気が滞留して十分に昇温せず、滅菌不良となることがある。そのため図に示したように第1ポッティング部25と筐体本体3の間にOリング215を設置し、蒸気の供給部よりも上向きの空間を少なくすることが好ましい。
【0104】
<第2ポッティング部と筐体との間隙>
図36は、
図1のA−A線断面図である。
カートリッジ式中空糸膜モジュール101Dを蒸気滅菌する場合、
図34、
図36に示したように、第2ポッティング部26と筐体(すなわち、筐体本体3と下部キャップ5)の間に間隙224を設けることが好ましい。間隙224を設けることで第2ポッティング部26と筐体の間を通液可能とすることができ、蒸気滅菌時に発生したスチームドレンはこの間隙224から排出することができる。間隙224は、第2端部ケース209の外径と筐体の内径を調整することにより所望の間隔とすることができる。スチームドレンの排出性を向上させるため、間隙224は、モジュールの径方向に1mm以上設けることが好ましく、2mm以上がさらに好ましい。また、間隙224が大きいと、クロスフローろ過時に間隙224を通る流量が多くなり、中空糸膜モジュールの径方向の中央部付近を通る流量が少なくなるため、クロスフローによる膜の洗浄効率が低下する。従って間隙は10mm以下であることが好ましく、5mm以下がより好ましい。第2ポッティング部26と下部キャップ5の間にOリングなどのシール材を設置して、第2ポッティング部26と下部キャップ5の間を液密にシールすると、シール材の上部にスチームドレンが滞留して十分に昇温せず、滅菌不良となることがあるため、好ましくない。
【0105】
<カートリッジ式中空糸膜モジュールのクロスフローろ過方法>
原水は下部キャップ5の原液流入口210よりカートリッジ式中空糸膜モジュール101D内に流入し、中空糸膜1を透過しなかった原水は、原水出口212よりカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dの外部に排出される。中空糸膜1の外側から内側に透過したろ過液は、中空糸膜1の中空部を通過して、上部キャップ4のろ過液出口211よりカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dの外部に排出される。
【0106】
このように膜面に対して原水を平行に流しながらろ過する方式をクロスフローろ過と呼び、原水中の懸濁物質等が膜面に堆積するのを抑制する効果がある。また、原水出口212を閉止すれば、原水を全てろ過する全量ろ過を行うこともできる。また原液流入口210からエアを供給することでエアスクラビングを行い、中空糸膜の洗浄を行うこともできる。流入したエアは原水出口212から排出される。
【0107】
<カートリッジ式中空糸膜モジュールの蒸気滅菌方法>
また、カートリッジ式中空糸膜モジュールを発酵等の用途に使用する場合、蒸気滅菌が必要となる。蒸気滅菌では発生するスチームドレンの排出のため、通常配管の上方向から下方向に向かって蒸気を供給する。カートリッジ式中空糸膜モジュール101Dの原水側の領域を蒸気滅菌する場合、原水出口212から蒸気を供給し、原液流入口210からスチームドレンを排出すれば良い。またカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dのろ過液側の領域を蒸気滅菌する場合、ろ過液出口211から蒸気を供給し、原液流入口210からスチームドレンを排出すれば良い。このとき第2端部に設けられた貫通孔213はスチームドレンの排出口の役割も果たす。
【0108】
<第2ポッティング部浮上時の面接触による保持>
図39はカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dの第2端部ケース209付近の拡大図である。
図39ではクロスフローろ過時やエアスクラビング時に第2ポッティング部26が浮上した場合(上方移動した場合)の構造を示している。
【0109】
クロスフローろ過時やエアスクラビング時に筐体の原液流入口210から原水またはエアが流入すると、第2ポッティング部26は、
図39に示したように、上方向(X方向)に浮上する。このとき、ピン218のピン内側下面218Bと第2端部ケース209の第2保持溝219の底面(底部)219Bが互いに面接触し、ピン218のピン外側上面218Cと筐体の第1保持溝217の天井面(天井部)217Aが面接触する。これにより、第2ポッティング部26の上方向への移動が規制される。
【0110】
線接触と比較すると面接触の方が部材にかかる負担が軽減されるため、クロスフローろ過時やエアスクラビング時に第2ポッティング部26が浮上した際は、ピン内側下面218Bと第2保持溝219の底面219B、およびピン外側上面218Cと第1保持溝217の天井面217Aをそれぞれ面接触させて第2ポッティング部26を保持することが好ましい。ここで面接触とは、2つの物体の接触部分が平面になる接触のことである。一方線接触とは、2つの物体の接触部分が1本の線になる接触のことである。
【0111】
このように構成することにより、第1保持溝217の天井面217Aに接触したピン218が、一方では第2保持溝219の底面219Bに係止するので、第2ポッティング部26の移動が止まり、膜の浮上を抑えることができる。
【0112】
<線接触による蒸気滅菌性向上>
図40はカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dの第2端部ケース209付近の拡大図である。
図40では、蒸気滅菌時に第2ポッティング部26が下降した場合(下方移動した場合)にピン218で第2ポッティング部26を支持する場合の構造を示している。第2ポッティング部26が下降すると中空糸膜が引っ張られて破断する場合があるため、第2ポッティング部26を支持して、下降を防止することが望ましい。
【0113】
蒸気滅菌時、筐体の原水出口212から蒸気が供給されると、第2ポッティング部26は、
図40に示したように下方向(Y方向)に移動する。このとき、ピン218のピン内側上面218Aが、第2端部ケース209の第2保持溝219の天井面(天井部)219Aと線接触し、ピン218のピン外側下面218Dが、筐体の第1保持溝217の底面(底部)217Bと線接触する。これにより、第2ポッティング部26の下方向への移動が規制される。
【0114】
カートリッジ式中空糸膜モジュール101Dを蒸気滅菌する際は滅菌性を向上させるため接触面を少なくし、蒸気が進入するための間隙を設けることが好ましい。
図40のようにピン内側上面218Aと第2保持溝219の天井面219A、またピン外側下面218Dと第1保持溝217の底面217Bが線接触可能な構造とすれば、接触面を少なくし、蒸気が進入するための間隙を確保することができる。
【0115】
このように構成することにより、第2保持溝219の天井面219Aに接触したピン218が、一方では第1保持溝217の底面217Bに係止するので、第2ポッティング部26の移動が止まり、膜の下降を抑えることができる。
【0116】
図40の構造の他、第2保持溝219の天井面219Aに傾斜を設けることでピン内側上面218Aと線接触させることもできる。また第1保持溝217の底面217Bに傾斜を設けることでピン外側下面218Dと線接触させることもできる。
【0117】
また
図41、
図42は、カートリッジ式中空糸膜モジュール101の第2端部ケース209付近の別の形態の拡大図である。
図41ではクロスフローろ過時やエアスクラビング時に第2ポッティング部26が浮上した場合(上方移動した場合)の構造を示している。クロスフローろ過時やエアスクラビング時に筐体の原液流入口210から原水またはエアが流入すると、第2ポッティング部26は、
図41に示したように、上方向(X方向)に浮上する。このとき、ピン218のピン内側下面218Bと第2端部ケース209の一部の面が互いに面接触し、ピン218のピン外側上面218Cと筐体の第1保持溝217の天井面(天井部)217Aが面接触する。これにより、第2ポッティング部26の上方向への移動が規制される。
【0118】
図42はカートリッジ式中空糸膜モジュール101の第2端部ケース209付近の別の形態の拡大図である。
図42では、蒸気滅菌時に第2ポッティング部26が下降した場合(下方移動した場合)、第1ポッティング部25で中空糸膜および第2ポッティング部を支える状態となる。中空糸膜が、中空糸膜自体と第2ポッティング部を支える強度を有している場合は、この様な形態を採用することもできる。
【0119】
<保持溝の長さ、間隙>
本発明において、第1保持溝217および第2保持溝219のモジュール径方向の長さは、1mm以上、20mm以下とすることが好ましい。長さが1mm未満であると第2ポッティング部の保持が困難になる。また長さが20mmより大きいと、モジュールの蒸気滅菌時にスチームドレンが滞留しやすくなるため好ましくない。
【0120】
本発明のカートリッジ式中空糸膜モジュールを蒸気滅菌する場合、保持部部分の構造は、蒸気が侵入しやすく、スチームドレンが滞留しにくい構造とすることが好ましい。例えばカートリッジ式中空糸膜モジュール101Dを蒸気滅菌する場合、ピン218と第2端部ケース209の間、ピン218と下部キャップ205の間、またピン218とガスケット216の間に間隙を設けることが好ましい。モジュールの径方向および軸方向に間隙を設けることで蒸気が進入しやすくなり、滅菌性を向上させることができる。
【0121】
<中空糸膜湾曲>
またモジュール内が液体で満たされていない場合、中空糸膜の強度が低いと第2接着部208や第2端部ケース209の荷重により中空糸膜1が破断する場合がある。従ってろ過運転に使用するとき以外は、保持部で第2ポッティング部26を支持することが好ましい。
【0122】
第2ポッティング部26を支持するためには、ピン218のピン内側上面218Aが第2保持溝219の天井面219Aに接触し、さらにピン218のピン外側下面218Dが第1保持溝217の底面217Bに接触している必要がある。予め中空糸膜を長めにして中空糸膜カートリッジ100を製作し、下部キャップ5を接続する際に中空糸膜を押し込み、中空糸膜が湾曲した状態で固定すれば、中空糸膜1の弾性により第2ポッティング部26がモジュール下方向に押され、ピン内側上面218Aが第2保持溝219の天井面219Aに接触し、さらにピン外側下面218Dが第1保持溝217の底面217Bに接触するため、第2ポッティング部26を支持することができる。ここで中空糸膜1を押し込む長さは、中空糸膜の元の長さの0.3%以上、5%以下とすることが好ましい。0.3%未満であると押し込み長さが不足し、第2ポッティング部26を支持することができない可能性がある。また5%を超えると膜が折れ曲がって損傷する可能性がある。
【0123】
(その他実施の形態)
第1実施形態では、整流筒9を筐体本体3に装着したまま中空糸膜カートリッジ100のみを交換する頻度が高いことを前提に、筐体本体3と整流筒9の間は、第1シール材15を筐体本体3の径方向(
図1でいう水平方向)に圧縮して中空糸膜カートリッジ100の着脱時に摺動摩擦が発生するシール構造とし、整流筒9と第1集束固定部11の間は、第2シール材16を少なくとも筐体本体3の仮想軸方向(
図1でいう上下方向)に圧縮し、中空糸膜カートリッジ100の着脱時に発生する摺動摩擦抵抗が小さく容易に着脱可能なシール構造とした。
【0124】
第1実施形態において、中空糸膜カートリッジ100を交換する際、中空糸膜カートリッジ100と同時に整流筒9を取り出すことが好ましい中空糸膜モジュールであれば、
図32のように筐体本体3と整流筒9の間は、第1シール材15を少なくとも筐体本体3の仮想軸方向に圧縮する容易に着脱可能なシール構造とし、整流筒9と第1集束固定部11の間は、第2シール材16を筐体本体3の径方向に圧縮して中空糸膜カートリッジ100の着脱時に摺動摩擦が発生するシール構造すると良い。
【0125】
また、第1実施形態において、中空糸膜カートリッジ100と整流筒9の双方を同じ頻度で着脱する場合は、第1シール材15と第2シール材16の双方を筐体本体3の軸方向に圧縮してシールする構造とすると、中空糸膜カートリッジ100と整流筒9がそれぞれ容易に着脱できる利点がある。この場合も、
図33のように第1シール材15を受ける面の水平方向との傾斜αと、第2シール材16を受ける面の水平方向との傾斜βとを変えることで、中空糸膜カートリッジ100のみを取り出しやすい構造、または中空糸膜カートリッジ100と同時に整流筒9を取り出しやすい構造を作ることができる。例えば第1シール材15と第2シール材16が同じ線径の断面を持つ同じ材質で同じ硬度のシール材であり、同じ潰し率でシールを行う場合には、
図33のようにシール材を受ける面の角度がα<βの関係にあれば、中空糸膜カートリッジ100の着脱時に第1シール材15に発生する摺動摩擦力Aと第2シール材16に発生する摺動摩擦力Bとの関係がA<Bとなり、中空糸膜カートリッジ100のみよりも優先的に、中空糸膜カートリッジ100と整流筒9を同時に取り出しやすい形状とすることができる。
【0126】
上記のように、着脱する部材や頻度に合わせ、シール材の圧縮方向やシール材を受ける面の傾斜角度を選定することで、着脱の操作性を高めることができる。シール材を受ける面に傾斜をつけることで、濾過液や、滅菌時および洗浄時のドレンも抜けやすく、カートリッジ式中空糸モジュールの内部をより衛生的に維持することができる。
【0127】
上述した実施形態によれば、Oリング溝31の位置を整流筒9の外周における上方としたが、中央よりも下方に配置しても良く、高さに制限はない。筐体本体3と整流筒9とを第1シール材15でシールしているため、第1シール材15よりも上方の整流孔10は機能せず、Oリング溝31は上方にある方が、整流筒9を効率よく使用できるため好ましい。
【0128】
上述した実施形態によれば、整流筒9の外周にOリング溝31を設け、第1シール材15を整流筒9に内嵌めで装着し、カートリッジ式中空糸膜モジュール101を組み立てたが、筐体本体3の内周側に第1シール材15を外嵌めで装着しても良い。整流筒9に内嵌めで第1シール材15を装着しているため、筐体本体3に外嵌め用Oリング溝31を設けた場合と比較し、整流筒9を筐体本体3から引き抜くことで、Oリング溝31を筐体30の外に露出させて清掃や洗浄を容易に実施できるという利点がある。
【0129】
上述した実施形態によれば、第1集束固定部11に第2シール材16を装着しカートリッジ式中空糸膜モジュール101を組み立てたが、第2シール材16を整流筒9に先に装着し、しかる後にカートリッジ式中空糸膜モジュール101を挿入することで第2シール材16によるシールを形成しても良い。中空糸膜カートリッジ100の交換作業時に、第1集束固定部11に内嵌めで第2シール材16を装着しているため、中空糸膜カートリッジ100を筐体30から引き抜けば第2シール材16を筐体30の内部に落とすことなく確実に取り出すことができ、筐体30の外に第2シール材16を露出させて清掃や洗浄を容易に実施できる利点がある。
【0130】
上述した実施形態によれば、筐体30を筐体本体3と上部キャップ4と下部キャップ5の3部材で構成したが、例えば筐体本体3を複数の部材で構成するなど適宜分割した構成としても良い。上述した実施形態の筐体本体3における小径部を
図16のように分割すると、筐体本体3の側面に設ける原液流出口8の形成加工性を向上させることができ、また大型材料が不要、かつ、汎用パイプ材料を使用して加工できるなど安価に製作できる利点があり好ましい。
【0131】
上述した実施形態によれば、第1集束固定部11上端面のガスケット用溝17に対し、溝の内周に沿ってガスケット18を装着したが、溝の外周に沿う装着構造を採用しても良い。例えばOリングの場合、上述した実施形態のように貯液部34に内圧がかかる際は、溝の外周に沿う装着構造を採用する。上から上部キャップ4を押し当てガスケット18を圧縮することで貯液部34を液密にしているが、貯液部34の蒸気滅菌後、貯液部34の下方に位置するガスケット用溝17に蒸気が冷えたスチームドレンが滞留する懸念がある。ガスケット18をガスケット用溝17の内周に沿って装着した場合、スチームドレンが滞留する溝幅を小さくできる。ガスケット用溝17の幅はガスケット18の幅の約1.1倍とした。貯液部34の内圧によりガスケット18がガスケット用溝17の外周側に押された場合も溝幅に余裕がないため、スチームドレンの滞留量を小さく維持することができる。
【0132】
上述した実施形態によれば、筐体本体3と整流筒9との間、ならびに、整流筒9と第1集束固定部11との間はOリングで、第1集束固定部11と上部キャップ4との間を平ガスケットでシールしたが、シール可能な構造であれば良く、リング状にしたVパッキンや甲山ガスケット、甲丸ガスケットなどを用いても良い。また、弾性を有する成形品をもちいるなどして、部材の嵌合で代用しても良い。さらには筐体本体3と整流筒9と第1集束固定部11を
図17のように接着しても良く、カートリッジ式に限定するものではない。また、第1集束固定部11と整流筒9との間をOリングやガスケットなど第2シール材でシールし、整流筒9と筐体本体3との間を接着固定や一体物で形成するなど、シール材を用いず液密に固定する構造としても良い。この場合、中空糸膜束2と第1集束固定部11のみを容易に取り出せるため、高頻度で中空糸膜を交換する場合に好ましい。また、上述した実施の形態のように整流筒9と筐体本体3との間を第1シール材で、整流筒9と第1集束固定部11との間を第2シール材で液密にする構造は、中空糸膜束2と第1集束固定部11の交換作業が容易であるほか、整流筒9と筐体本体3との間の清掃が容易であるなど衛生的に使用できる利点がある。
【0133】
第1実施形態によれば、整流筒9の整流孔10が存在する範囲の内径D1よりも内径の小さい小径部を筐体本体3に設けたが、小径部が整流孔10の存在する範囲よりも下にあれば中空糸膜1による整流孔10の閉塞を回避できる。本実施形態のように小径部を筐体本体3に設け、整流筒9を短く、大径部3Aだけに収容される長さで構成しても良いし、
図18のように整流筒9の整流孔10の存在する範囲よりも下に小径部9Gを設けても良い。この場合、
図19の様に、筐体本体3の径を小さくして小径部3Bを設け、筐体本体3の流路面積を低減しても良い。特にクロスフローろ過では、流路面積が大きいとクロスフロー流量が多くなるなどの課題があるため、
図19よりもさらに整流筒9より下の位置で、筐体本体3の径を、整流筒9の小径部9Gと同じ、またはさらに径を小さくして小径部3Bを設けても良い。
【0134】
ここで小径部9Gには、中空糸膜1の目視観察を容易にするため、中空糸膜1の損傷リスクに留意の上で、孔やスリット(図示せず)を設けても良い。
【0135】
上述した実施形態によれば、中空糸膜束2は下方を第2集束固定部にて封止したが、中空部の開口状態を排除できれば良く、例えば中空糸膜の全開口にシリコーン樹脂やエポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの流動性が良く硬化する樹脂を注入閉塞すれば、第2集束固定部として、中空糸膜1同士を固定する必要は無い。同じ理由により、
図17、
図18、
図19のように中空糸膜束2をU字状に折り返し、全開口を第1集束固定部に形成する構成でも良い。したがって、中空糸膜束の少なくとも一方の端部、すなわち少なくとも第1端部が開口した状態で中空糸膜束が集束固定されるとは、次の二つの状態(i)、(ii)を含む。(i)第1実施形態等のように中空糸膜束2がストレートである場合であって、一方は中空糸膜束2の端部が開口した状態で集束固定され、もう一方は中空糸膜束の他端が閉じた状態で集束固定された状態。(ii)
図17〜
図19のように中空糸膜束2をU字に折り返して使用する場合であって、一方は中空糸膜束2の両端が開口した状態で集束固定され、もう一方は中空糸膜のU字折り返し部に該当する状態。
【0136】
第1実施形態によれば、小径部3Bの内径Diを第2集束固定部ケース13の外径と近しい構造としたが、小径部3Bが軸方向に分割およびシール可能な構造などであれば、第2集束固定部ケース13の外径より小さくすることも可能である。
【0137】
図21のように、中空糸膜存在領域の最外径と整流筒内面の間隔L1、筐体に設置した側面のノズルが設置されている位置における筐体内面と整流筒外面との間隔L2、筐体に設置した側面のノズルの内径L3について、各々の長さは自由に設定できるが、モジュール内部の流れ性、圧力損失などを考慮し、以下の関係を満たすことが好ましい。
【0138】
・L1≧3mm。さらに好ましくは、L1≧10mm
・L2≧3mm。さらに好ましくは、L2≧7mm。さらには、L2≧10mm
・L3≧8mm。さらに好ましくは、L3≧10mm。さらには、L3≧20mm
・10≧L2/L1≧0.5。さらに好ましくは、4≧L2/L1≧1
・100≧L3/L2≧2。さらに好ましくは、20≧L3/L2≧4
【0139】
ここで、中空糸膜存在領域の最外径と整流筒内面の間の長さL1については、クロスフローなどの流れにより、中空糸膜が整流筒の孔などに接触し、膜が損傷、さらには切断することを回避するため、また一方で、L1が長すぎると、筐体径が大きくなる、または中空糸膜束径が小さくなるため中空糸膜本数が少なくなるなどの課題があり、L1が適切な長さを有する必要がある。
【0140】
筐体に設置した側面のノズルが設置されている位置における筐体内面と整流筒外面との間隔L2については、クロスフローなどの流れによる圧力損失が大きくなると、送液動力が大きくなることに加え、整流筒外周部の通液で、側面のノズルから近い方が流れ易く、側面のノズルから遠い方は流れにくくなり偏流が発生する要因となる。そのため、L2が適切な長さを有する必要がある。
【0141】
筐体に設置した側面のノズルの内径L3については、クロスフローなどの流れが偏流等なく、モジュール外に排出すること、送液動力が過大にならない様に、送液圧力損失を小さくするため、L3が適切な長さを有する必要がある。また、接続する配管等との関係から、規格サイズであることが好ましい。
【0142】
L2/L1については、実際にモジュールを製作する場合、できるだけ規格品を使用することがコスト面からも好ましく、そのため、筐体外径も所定の長さを選択することになり、限られたスペースの中で整流筒の位置を決める必要がある。L1とL2については各々前述の長さの範囲で決定することができるが、中空糸膜を損傷せずに、また送液圧力損失を小さくするため、また特にL2/L1の値が小さい場合には、側面のノズルからのクロスフロー流れの排出などで、側面のノズル近傍の流れが大きくなり、モジュール内の偏流が発生する懸念もあり、L2/L1の値については、適切な値である必要がある。
【0143】
L3/L2については、側面のノズル径を大きくすると、整流筒外周部の流路面積を大きくすることもできるが、側面のノズルからのクロスフロー流れの排出などで、側面のノズル近傍の流れが大きくなり、モジュール内の偏流が発生する懸念もあり、L3/L2の値についても、適切な値である必要がある。
【0144】
上述した実施形態では、筐体本体3の原液流出口8からはろ過前の原水が流出する例を挙げたが、本発明は筐体本体3側面に設けたノズルから原水などが流出する際に効果を発揮するものであり、流出対象はろ過前の状態であってもろ過後の状態であっても良く、さらには液体、気体、または気液混合物など特に限定するものではない。したがって、クロスフローに限定することはなく全量ろ過運転に用いても良いし、中空糸膜の外側から圧力をかけろ過を行う外圧式中空糸膜モジュールに限定せず、中空糸膜の内側から圧力をかけろ過を行う内圧式中空糸膜モジュールに用いても良い。
【0145】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0146】
本出願は、2013年12月27日出願の日本特許出願、特願2013−271328、2014年3月31日出願の日本特許出願、特願2014−071767に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。