(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6418612
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】胸腔鏡下手術用ポート
(51)【国際特許分類】
A61B 17/34 20060101AFI20181029BHJP
A61B 17/02 20060101ALI20181029BHJP
A61B 1/01 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
A61B17/34
A61B17/02
A61B1/01 511
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-5762(P2016-5762)
(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公開番号】特開2017-124068(P2017-124068A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2017年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153823
【氏名又は名称】株式会社八光
(72)【発明者】
【氏名】大泉 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】竹内 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】小松 正義
【審査官】
近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−000456(JP,A)
【文献】
特表2008−538303(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0251192(US,A1)
【文献】
特開2000−060862(JP,A)
【文献】
特開2010−240435(JP,A)
【文献】
特開平04−309333(JP,A)
【文献】
特開平04−224740(JP,A)
【文献】
特開2014−050553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 13/00 − 18/28
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表から胸腔内に至る切開創に装着され、胸腔鏡や手術器具の通路として使用されるポートにおいて、体表側に位置させる薄板リング状のフランジと、胸腔側に位置させる柔軟な薄板リング状の鍔と、フランジと鍔の中間部で体表から胸腔内にかけて位置させる柔軟な筒状のスリーブと、該スリーブの外周面に接してスリーブの軸方向に平行に設ける、体外へ通じる吸引通路を形成する吸引管とを備えて構成し、該吸引管の鍔側の端部であって、該鍔の上面直上の位置にスリーブの周方向に沿って配置される吸引孔を設けることを特徴とする胸腔鏡下手術用ポート。
【請求項2】
前記鍔には、前記吸引管の吸引通路と連通する通孔を備える請求項1の胸腔鏡下手術用ポート。
【請求項3】
前記フランジ、鍔、スリーブ、及び、吸引管は柔軟な樹脂により一体成型で形成される請求項1乃至2のいずれかの胸腔鏡下手術用ポート。
【請求項4】
前記スリーブの内周面は凹凸面に形成されてなる請求項1乃至3のいずれかの胸腔鏡下手術用ポート。
【請求項5】
前記スリーブの外周面には、一周囲にわたりリング状に突起するリブを備える請求項1乃至4のいずれかの胸腔鏡下手術用ポート。
【請求項6】
前記フランジの表面には、前記吸引管の吸引通路と連通する通路を備えた接続部を設け、該接続部により吸引チューブと接続されてなる請求項1乃至5のいずれかの胸腔鏡下手術用ポート。
【請求項7】
前記吸引チューブには、チューブを開閉するクランプを備える請求項6の胸腔鏡下手術用ポート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸腔鏡下手術のさいに、胸腔内に胸腔鏡や鉗子などの手術器具を導入し、操作するための通路となる胸腔鏡下手術用ポートに関する。
【背景技術】
【0002】
胸腔鏡下手術は、肋間隙に設ける2cm程度の切開創に、体表から胸腔内に至る筒状の胸腔ポートを挿着、固定し、該胸腔ポートの通路を通して胸腔鏡を挿入して、該胸腔鏡の映像を観察しながら、別のポートから導入される手術器具を操作して治療や検査を行う手術で、患者への侵襲性が小さく、整容性に優れた手術であることから、自然気胸や肺がんに対する肺葉切除などに広く適用される術式となっている。
【0003】
この胸腔鏡下手術は、腹腔鏡下手術とは異なり気腹ガスを導入する必要が無く、ガス漏れ防止のシールが不要なことから、これに用いる胸腔ポートは、胸腔鏡等が挿入可能で、肋間隙の切開創に固定できる、筒体にフランジ等を備えた比較的単純な構成のポートが用いられる。そして、従来のこのポートとしては硬質なものもあるが、例えば特許文献1のように、筒状のライナーに弾性変形可能な材質を用いることにより、肋間隙との適合を容易にして、ポートの挿入及び除去のさい、ならびに、胸腔内での外科手術器具の操作のさいに切開創組織への負担を小さくするとした、柔軟性を備えた器具が提案されている。
【0004】
また、胸腔鏡下手術に限らず閉塞した空間で行われる鏡視下手術では、電気メスや焼灼子の使用により体腔内に発生してこもる煙により、胸腔鏡や腹腔鏡の視野が悪化するのを防ぐため、手術中に随時この煙を体腔外に排気する必要がある。そして通常、この排煙処理の手段として次のような方法がとられている。
・腹腔内へガスを注入(気腹)するための気腹ポート、あるいは、ポートに導入されるトロカールに備えている気腹通路を排煙通路として代用し、併用する手段。(例えば、特許文献2の腹腔鏡下用デバイス)あるいは、ポートに気腹通路と排煙通路を2ライン設ける手段。
・電気メスに備えられている排気機能により、電気メスによる処置と排気処理を切り替えて排煙する手段。
・別に設けるポートから排気管器具を挿入して排煙する手段。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−99475号公報
【特許文献2】特開2011−31046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1のような胸腔鏡ポートに、特許文献2の腹腔鏡下ポート等で用いられている排気通路を併設することにより、前記のような電気メスの機能による排気切り替え操作や、別のポート(排気ルート)を使用することなく、胸腔鏡の視界を妨げる煙を排除することができる。しかし、胸腔鏡の視界を妨げるものは、術中発生する煙だけではなく、切開創から滲み出し、切開創に接触している胸腔ポートの外周面を伝って流れ、先端に溜まって垂れたり、内周面に回り込んだりして、ポート内に挿着されている胸腔鏡にまで伝わってレンズに付着してしまう血液もまた視界を妨げる要因になることがある。そして、この血液の付着は胸腔鏡や手術器具を汚染する原因にもなっている。
【0007】
そこで、本発明は、胸腔鏡下手術において、切開創から滲み出し、胸腔ポートの外周面を伝う血液を堰き止め、効果的に体外に吸引することで手術視野を良好に保ち、また、挿着される胸腔鏡や手術器具を清潔に保つことができる胸腔鏡下手術用ポートを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の胸腔鏡下手術用ポートは、体表から胸腔内に至る切開創に装着し、胸腔鏡や手術器具の通路として使用するもので、体表側に位置させる薄板リング状のフランジと、胸腔側に位置させる柔軟な薄板リング状の鍔と、フランジと鍔の中間部で体表から胸腔内にかけて位置させる柔軟な筒状のスリーブと、該スリーブの外周面に接してスリーブの軸方向に平行に設ける、体外へ通じる吸引通路を形成する吸引管とを備えて構成し、該吸引管には、吸引管の鍔側の端部であって、該鍔の上面直上の位置に
スリーブの周方向に沿って配置される吸引管と通路を連通する吸引孔を設けて形成した。
【0009】
また、各々の構成部は次のように形成されることが好ましい。
・前記鍔には、前記吸引管の吸引通路と連通する通孔を備える。
・前記フランジ、鍔、スリーブ、及び、吸引管は、柔軟な樹脂により一体成型で形成される
。
・前記スリーブの内周面は凹凸面に形成される。
・前記スリーブの外周面には、一周囲にわたりリング状に突起するリブを備える。
・前記フランジの表面には、前記吸引管の吸引通路と連通する通路を備えた接続部を設け、該接続部により吸引チューブと接続されてなる。
・前記吸引チューブには、チューブを開閉するクランプを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の胸腔鏡下手術用ポートによると、切開創との接触部となるスリーブの下端部に薄板リング状の鍔を備えること、また、吸引管をスリーブの外周面に設け、該吸引管の鍔側の端部に吸引孔を備えていることにより、切開創から滲み出しスリーブ外周面を伝わって流れる血液を鍔により堰き止め、血液がスリーブ内面に回り込むのを防ぐなどして、スリーブ内腔に挿入される胸腔鏡や手術器具に血液が伝わるのを防止している。また、鍔の上面に溜まる血液が吸引孔から吸引管を通して体外に排出されることにより、血液が鍔から溢れて胸腔にこぼれたりすることがなく、前記胸腔鏡や手術器具に付着することが防止される。
【0011】
鍔に吸引管の吸引通路と連通する通孔を備えると、胸腔内と体外が通路でつながることにより、吸引通路を血液の吸引通路としてばかりではなく、胸腔内からの煙の排気通路としても機能させることができる。
また、ポート全体を柔軟な樹脂により形成することにより、外方に広がる鍔があっても小切開創から潰した形態などに変形させての胸腔内への挿入、及び、取り外しが無理なくでき、操作の際にも切開創組織への当りがソフトなことで創部への負担を小さくすることができる。また、全体を一体成型とすることにより製造を容易とし、コストを抑えることができる。
更に、吸引孔をスリーブの周方向に沿って配置することで、切開創組織との接触により吸引孔が塞がれる懸念がない。
また、スリーブ内周面に凹凸面加工を施すことにより、挿入され操作される胸腔鏡や手術器具との摩擦抵抗が低減され、器具の挿入、抜去時や操作時に引っ掛かりがないスムーズな動きができる。
更に、スリーブの外周面に突起するリブを備えると、切開創とのストッパーとして機能しポートの外れを防止することができる。
加えて、吸引通路に接続部を介して吸引チューブを延設し、チューブを開閉するクランプを備えると、手元操作により自在に吸引のオン、オフをすることができる。
【0012】
これらにより、発明が課題とした、切開創から滲み出し、胸腔ポートの外周面を伝う血液を効果的に外部に吸引することで手術視野を良好に保ち、また、胸腔鏡や手術器具を清潔に保つことができる胸腔鏡下手術用ポートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の胸腔鏡下手術用ポートの実施の形態について図面を参考に詳細に説明する。
図1は本実施の形態のポートを示す全体の構成図で、Aが平面図、Bが側面図、Cが底面図を示している。また、
図2はチューブを除いたポート主要部の拡大図で、Aが側面図、Bが正面図を示している。尚、
図1のドットは内面の凹凸面加工を示しており、
図2においては省略された。
本実施の形態の胸腔鏡下手術用ポートは、胸腔鏡下手術のさいに、2cm程度の切開創に体外から胸腔内にかけて装着され、肋間隙に挟むように設置、固定して、ポート内腔を通路として胸腔鏡や手術器具を挿入して用いられる。
【0015】
本ポートは、胸壁にポートを装着するさい、所望位置に固定保持させるため体表に位置させる薄板リング状のフランジ1と、装着時のポートの抜け防止、及び、切開創から滲み出す血液が胸腔鏡等に伝うことを防止するために、胸腔内に位置させる薄板リング状の鍔2と、胸腔鏡等を胸腔内へ導入する通路とするために、フランジ1と鍔2を両端部として、体表から胸腔内にかけて外周面を切開創と接触して配置させる筒状のスリーブ3と、前記滲み出した血液の体外への排出、及び、胸腔内で発生する煙の体外への排気のために、スリーブ3の外周面と接してスリーブ3の軸方向に平行に設けられ、胸腔内から体外まで連通する通路を形成する吸引管4と、該吸引管4と吸引装置(図示せず)を仲介する接続チューブ6、及び、接続チューブ6に設け通路の開閉スイッチとなるクランプ7により基本構成される。そして、この内、フランジ1、鍔2、スリーブ3、及び、吸引管4は、柔軟な樹脂(本例では、シリコーン樹脂)により一体成型して形成された。
【0016】
フランジ1は、前記の通り柔軟なシリコーン樹脂により他の部位と共に一体成型された外方に広がる薄い(本形態においては、厚さ1mm〜2mm)プレートで、リング状(本形態においては、外径40mm、内径20mm)に形成され、切開創に取り付けたさいに、肋間隙となる体表上の所望の位置で開口が維持されるように配置して、フランジ1面に設ける糸通し孔11に縫合糸を通して皮膚と結紮することで体表に固定される。尚、この固定は、肋間隙に肋骨に平行となるように設けた切開創に対して、2つの糸通し孔11を結ぶ線が、直角方向になるように配置すると、開口部を開く方向に縫合糸で固定することができることから開口を維持しやすい。また、フランジ1表面には、後記する吸引管4の内腔の吸引通路40と連通する通路を備えたチューブ接続部42が設けられている。
【0017】
鍔2は、前記フランジ1と同軸に対向して設けられ、前記柔軟なシリコーン樹脂により一体成型された外方に広がる薄い(本形態においては、厚さ1.2mm)プレートで、リング状(本形態においては、外径32mm、内径20mm)に形成され、胸腔内に挿入されて、壁側胸膜への引っ掛かりとなって抜けを防止する。また、幅広い鍔として形成されていることから、切開創から滲み出し、スリーブ3外周面を伝わって垂れる血液を堰き止め、内周面に回り込むのを防ぎ、スリーブ3内に挿入されている胸腔鏡や手術器具への血液の伝わりを防止している。尚、薄く柔軟なことで、スリーブ3から広がる鍔形状であっても、潰すなど柔軟に変形させることで小さな切開創からの挿入や取り出しに支障が生じない。また、鍔2には、後記する吸引管4の内腔となる吸引通路40と連通する胸腔内からの煙の排気口となる排気用通孔21が設けられている。
【0018】
スリーブ3は、前記フランジ1と鍔2の中間に位置する胸腔鏡や手術器具の挿入通路32を形成する筒状の外套管で、前記柔軟なシリコーン樹脂により一体成型された薄い(本形態においては、厚さ1mm)ほぼ円筒状(本形態においては、外径22mm、内径20mm、長さ50mm)の筒として形成され、胸壁に取り付けたさい、体表から胸腔内にかけ切開創と接触して配置され、前記の通り胸腔鏡や手術器具の通路32となると共に、切開創の保護、及び、開創維持の役割を担う。尚、薄く柔軟な素材より形成されていることで押し潰すなど柔軟な変形が可能で切開創への挿入、取り出しに支障はなく、切開創への当りもソフトなことで創部に負担を掛けることがない。また、スリーブ3の内周面31は、全面に亘りシボ加工による凹凸面が形成されており、内視鏡や手術器具を挿入、操作するさいの摩擦抵抗を低減し、器具の挿入や操作がスムーズにできるようにしている。また、外表面にはリング状に突起するリブ5を適当(本形態においては、2か所)に備え、位置の保持及び抜け防止手段としている。
【0019】
吸引管4は、前記スリーブ3の外周面に接して軸方向に沿ってフランジ1から鍔2までスリーブ3と平行に設けられ、前記柔軟なシリコーン樹脂により一体成型された中空管の通路(本形態では、通路外径2.5mm)として形成される。そして、吸引管4の吸引通路40は、フランジ1側は該フランジ1の上面に設けるチューブ接続部42に連通され体外まで通じており、一方、鍔2側は該鍔2に開口される排気用通孔21により胸腔内に通じている。これにより、電気メス等の使用により胸腔内に発生する煙の排煙通路として機能することができる。また、該吸引管4の鍔側端部となる鍔2上面直上には、スリーブ3の周方向に沿って貫通する吸引孔41を設けて、切開創から滲み出し、スリーブ3を伝わって鍔2上面に溜まる血液の体外への排出通路とした。このように、排気用孔21と吸引孔41を設けることで、同一の吸引管を排煙と血液の排出に併用することができる。
【0020】
チューブ6は、本ポートの吸引通路40を吸引装置(図示しない)に接続するもので、一方端部は、前記フランジ1表面に備えたチューブ接続部42に接続し、他端部には適当なコネクタ61を設けて、該コネクタ61により直接、あるいは、延長チューブ(図示せず)を介するなどして吸引装置に接続して吸引ラインを形成する。
【0021】
クランプ7は、前記チューブ6の中途に取り付けられ、該チューブ6の内腔をワンタッチで開放、閉塞するスイッチの役割を果たし、クランプ7をロックすることでチューブ6が閉塞し吸引が止まり、ロックを解除することでチューブ6が開放され煙や血液を吸引することができる。該クランプ7を設けることで、吸引装置本体でスイッチの開閉をすることなく、手元操作による開閉が可能となる。
【0022】
尚、本発明のポートは、一貫して胸腔鏡下手術に適用する器具として記載されているが、腹腔鏡下手術においても切開創とポートとの接触面における血液の伝わりがあることから、また、腹腔内の排煙も必要なことから、胸腔鏡下手術に限らず腹腔鏡手術におけるポートにも適用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1. フランジ
11. 糸通し孔
2. 鍔
21. 排気用通孔
3. スリーブ
31. スリーブ内面(凹凸面)
4. 吸引管
40. 吸引通路
41. 吸引孔
42. チューブ接続部
5. リブ
6. チューブ
61. コネクタ
7. クランプ