(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可動部を介して前記気密室と対向する位置にポンプ室を備え、該ポンプ室が少なくとも1つ以上の吸入口および少なくとも1つ以上の排出口を有することを特徴とする請求項8に記載のポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、図を参照しつつ具体的に説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明の一実施形態であるアクチュエータ100は、筐体1と、ヒーター2と、可動部3と、を備えており、筐体1および可動部3により気密室4が構成されている。気密室4の内部には、多孔性配位高分子5と流体6が封入されている。本実施形態において、気密室4はシリンダ状の凹部と、凹部に挿入されたピストン状の可動部3により形成されており、凹部の内壁と可動部3の側面とはグリスなどの潤滑剤(図示せず)を介して接触している。また、本実施形態においては、ヒーター2が、筐体1の凹部の底面と反対側の面に密着するように配置されている。なお、本発明の説明に用いる図はいずれも、アクチュエータ100の、可動部3が変位する方向に平行な一断面を模式的に示したものである。
【0015】
多孔性配位高分子5はMOF(Metal−Organic Framework)またはPCP(Porous Coordination Polymer)とも呼ばれ、結晶構造に由来する均一なマイクロ孔またはメソ孔領域の細孔を多数有しており、それ自身の体積よりもはるかに大きい体積の流体6を吸着できる。
【0016】
多孔性配位高分子5は、気密室4の内部に存在する流体6のすべてまたは一部を吸着するとともに、加熱により吸着した流体6を脱離できる。
【0017】
本実施形態のアクチュエータ100では、ヒーター2の発熱により、筐体1の底部を介して多孔性配位高分子5が加熱され、多孔性配位高分子5に吸着されていた流体6が脱離する。その結果、気密室4の内部の圧力が上昇し、可動部3が気密室4の体積を大きくする方向に変位する。
【0018】
一方、ヒーター2の発熱を止めると、多孔性配位高分子5が冷却され、流体6が多孔性配位高分子5に吸着される。その結果、気密室4の内部の圧力が低下し、可動部3が気密室4の体積を小さくする方向に変位する。
【0019】
多孔性配位高分子5への流体6の吸着・脱離は可逆的であることから、可動部3の動作も可逆的となり、アクチュエータ100は安定な動作を実現できる。
【0020】
このように、アクチュエータ100は、多孔性配位高分子5に流体6が吸着、脱離することにより、気密室4の内部に存在する流体6の体積が変化し、可動部3を変位させるこ
とにより動作する。多孔性配位高分子5はそれ自身の体積よりもはるかに大きい体積の流体6を吸着できるため、多孔性配位高分子5に吸着した流体6を加熱により脱離させることによって、流体6の体積が大きく膨張し、気密室4の一部を構成する可動部3を大きく変位させることができる。したがって、アクチュエータ100の動作に必要な多孔性配位高分子5の量は少量でよく、容易に小型化を実現できる。
【0021】
また、多孔性配位高分子5は流体6を可逆的に吸着・脱離できるため、本実施形態のアクチュエータ100は、繰り返し使用しても大きな変位量を維持できる。流体6として、分子量が比較的大きく漏出の可能性が低い水や炭化水素等を用いることができる点からも、アクチュエータ100は大きな変位量を維持したまま繰り返し使用できる。
【0022】
また、流体6はアクチュエータ100の動作環境(動作する温度、圧力、以下、単に動作環境という場合もある)において液体または気体であるものを用いる。流体6は、動作環境において気体であるものを用いることが特に望ましい。これにより、アクチュエータ100の動作中に、気体が凝縮(液化)・結露しないことから、より安定した変位量が得られる。
【0023】
ここで、アクチュエータ100の動作環境において、流体6が気密室4内で凝縮する量未満であれば、流体6は気体であるとみなす。すなわち、気密室4内における流体6の蒸気圧が、飽和蒸気圧に到達しない量であれば、流体6は気体である。
【0024】
流体6としては、分子量が17以上の水、二酸化炭素、一酸化炭素、アンモニア、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、ベンゼン、ヘキサンなどが望ましい。分子量が17より小さいものを流体6として用いた場合、気密室4から流体6が漏出しやすく、繰り返し使用すると変位量が小さくなる懸念がある。
【0025】
水、二酸化炭素は極性を有するため、多孔性配位高分子5への吸着量を多くでき、アクチュエータ100の変位を大きくできるため望ましい。さらに、水や二酸化炭素は不燃性で無害であり、安全性が高いため望ましい。
【0026】
流体6の種類は、気密室4内の流体6をマイクロシリンジなどで採取し、ガスクロマトグラフィーなどにより、同定できる。
【0027】
アクチュエータ100に用いる多孔性配位高分子5としては、例えば、
Zn
4O(BDC)
3(以下、MOF−5と記載する。)
Zn(MeIM)
2(以下、ZIF−8と記載する。)
M(OH)(BDC)(MはAl、Cr、Feから選ばれる少なくとも1種。以下、M−MIL−53と記載する。)
Al(OH)(fumarate)
VO(BDC)(以下、V−MIL−47と記載する。)
M
3O(fumarate)
3X(MはFe、Cr、Alから選ばれる少なくとも1種。XはF
−、OH
−などの1価のアニオン。以下M−MIL−88Aと記載する)
M
3O(BDC)
3X(MはFe、Cr、Alから選ばれる少なくとも1種。XはF
−、OH
−などの1価のアニオン。以下M−MIL−88Bと記載する)
M
3O(2,6−NDC)
3X(MはFe、Cr、Alから選ばれる少なくとも1種。XはF
−、OH
−などの1価のアニオン。以下M−MIL−88Cと記載する)
M
3O(BPDC)
3X(MはFe、Cr、Alから選ばれる少なくとも1種。XはF
−、OH
−などの1価のアニオン。以下M−MIL−88Dと記載する)
M’
2(DOBDC)(M’はZn、Fe、Ni、Co、Mg、Cuから選ばれる少なくとも1種。以下、M’−MOF−74と記載する。)
Al(OH)(1,4−NDC)
Cr
3OX(BDC)
3(XはF
−、OH
−などの1価のアニオン。以下、Cr−MIL−101と記載する。)
Al
8(OH)
15(BTC)
3(以下、Al−MIL−110と記載する。)
Cu
3(BTC)
2(以下、HKUST−1と記載する。)
Zr
6O
4(OH)
4(fumarate)
6またはZr
6O
6(fumarate)
6(以下、MOF−801と記載する。)
Zr
6O
4(OH)
4(BDC)
6またはZr
6O
6(BDC)
6(以下、UiO−66と記載する。)
Zr
6O
4(OH)
4(BPDC)
6またはZr
6O
6(BPDC)
6(以下、UiO−67と記載する。)
Zr
6O
4(OH)
4(TPDC)
6またはZr
6O
6(TPDC)
6(以下、UiO−68と記載する。)
ZrO(BDC)(以下、MIL−140と記載する。)
Zn
4O(BTB)
2(以下、MOF−177と記載する。)
などが挙げられる。
【0028】
上記化学式で用いた略号は、
H
2(BDC):テレフタル酸
H(MeIM):2−メチルイミダゾール
H
2(fumarate):フマル酸
H
4(DOBDC):2,5−ジヒドロキシテレフタル酸
H
2(1,4−NDC):1,4−ナフタレンジカルボン酸
H
2(2,6−NDC):2,6−ナフタレンジカルボン酸
H
3(BTC):1,3,5−ベンゼントリカルボン酸
H
2(BPDC):4,4’−ビフェニルジカルボン酸
H
2(TPDC):4,4’’−p−テルフェニルジカルボン酸
H
3(BTB):1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン
において、H
+が解離した残基を表わす。
【0029】
多孔性配位高分子5は、金属イオンに有機配位子が配位結合した主鎖を有する結晶性の物質である。多孔性配位高分子5は、結晶構造に由来するマイクロ孔またはメソ孔領域の細孔を多数有している。細孔が結晶構造のネットワークによって形成されているため、細孔の直径や、吸着分子との相互作用が均一である。つまり、流体6と多孔性配位高分子5の細孔の内壁との相互作用が均一で、細孔1つあたりに吸着する分子数も均一なため、特定の吸着能力を有する多孔性配位高分子5を再現良く製造することができる。
【0030】
多孔性配位高分子5は、金属イオンと有機配位子との組み合わせで構成されており、多くの種類が存在する。例えば、上述のような多孔性配位高分子5において、その構成要素である有機配位子の全部または一部が、他の配位子に置換されていてもよい(例えば、テレフタル酸を2−ヒドロキシテレフタル酸に置換するなど)。また、配位子の一部が欠損した構造を有していてもよい。官能基としては、例えば−CH
3などのアルキル基、−OH、−COOH、−NH
2、−SO
3H、−SO
3Li、−SO
3Naなどが挙げられる。また、例えば上述の多孔性配位高分子5を構成する金属イオンの全部または一部が、他の金属イオンに置換されていてもよい。金属イオンの価数は上述の場合と同じであることが望ましい。
【0031】
このように、多孔性配位高分子5は種類が多く、設計性が高いため、流体6の種類に応じて、適切な相互作用を有する多孔性配位高分子5を選択または設計することが可能である。
【0032】
多孔性配位高分子5の種類は、X線回折(XRD)測定により得られた回折パターンにより同定することができる。また、赤外分光法(IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)などの各種分光法や、元素分析によって、多孔性配位高分子5の種類を同定してもよい。なお、ガス吸着測定によって求めた細孔径分布や、BET法によって求めた比表面積によって同定することもできる。
【0033】
流体6を吸着・脱離可能な多孔質材料としては、多孔性配位高分子5のほか、ゼオライトやメソポーラスシリカなどが挙げられるが、例えば、多孔性配位高分子5に代えてゼオライトを用いた場合、ゼオライトは流体6との相互作用が大きいことから、流体6を脱離させるためにより高温まで加熱する必要がある。したがって、ゼオライトを用いた場合、多孔性配位高分子5を用いたアクチュエータ100と比較して、エネルギー効率が低いものとなる。また、アクチュエータ100の周辺を不必要に加熱してしまう懸念があり、その場合さらにエネルギー効率が低下する。
【0034】
また、メソポーラスシリカは流体6との相互作用が弱く、多孔性配位高分子5と比べて流体6の吸着量が非常に少ない。したがって、メソポーラスシリカを用いた場合、多孔性配位高分子5を用いたアクチュエータ100と比べて、変位量が非常に小さくなる。
【0035】
多孔性配位高分子5と流体6との特に望ましい組み合わせの一例として、吸水性を有する多孔性配位高分子5と、水を含有する流体6との組合せが挙げられる。流体6は、少量ではあるが気密室4から漏出する可能性があり、その結果アクチュエータ100の変位量が時間とともに小さくなる懸念がある。しかし、アクチュエータ100を空気中で使用する場合、空気中には水が多量に含まれているため、水分子が気密室4から漏出したとしても、気密室4の外部に存在する水分子が気密室4の外部から気密室4の内部に供給され、アクチュエータ100の変位量が長期間にわたり安定したものとなる。
【0036】
すなわち、多孔性配位高分子5が吸水性を有し、流体6が水を含有していることによって、長期間にわたり安定した変位量を示すアクチュエータ100とすることができる。
【0037】
吸水性を有する多孔性配位高分子5としては、たとえばM−MIL−53、Al(OH)(fumarate)、V−MIL−47、M−MIL−88A、M−MIL−88B、M−MIL−88C、M−MIL−88D、M’−MOF−74、Al(OH)(1,4−NDC)、Cr−MIL−101、Al−MIL−110、HKUST−1、MOF−801、UiO−66、UiO−67、UiO−68、MIL−140等が挙げられる。特に、M−MIL−53、Al(OH)(fumarate)、MOF−801、UiO−66は吸水性が高く、水に対して安定なため望ましい。
【0038】
流体6に含まれる水分量は、例えば、湿度にして30%以上70%以下、特に40%以上60%以下が望ましい。湿度が低すぎると多孔性配位高分子5への水分の吸着量が少なくなり、アクチュエータ100の変位量が小さくなる。湿度が高すぎると外部温度の変化によって気密室4の内部で水分が結露してしまい、アクチュエータ100の変位量が小さくなる。流体6は水分を含有していれば何でもよいが、気密室4への封入が容易な点から空気であることが最も望ましい。
【0039】
多孔性配位高分子5と流体6との特に望ましい組み合せの他の例としては、疎水性の多孔性配位高分子5と、疎水性の炭化水素を含有する流体6との組合せが挙げられる。炭化水素は水や二酸化炭素よりも分子サイズ(分子量)が大きいため、気密室4から漏出しにくい。また、多孔性配位高分子5が疎水性であるため、気密室4の外部から気密室4に水分が侵入しても、多孔性配位高分子5に対する流体6の吸着挙動は変化せず、アクチュエ
ータ100の変位量が長期間にわたり安定したものとなる。
【0040】
すなわち、多孔性配位高分子5が疎水性であり、流体6が疎水性の炭化水素を含有していることによって、長期間にわたり安定した変位量を示すアクチュエータ100とすることができる。
【0041】
疎水性の多孔性配位高分子5としては、例えばZIF−8が挙げられる。
【0042】
流体6に含まれる炭化水素としては、分子内の炭素数が3以上かつ10以下であるものが望ましく、6以上10以下であるものが特に望ましい。炭化水素の分子内の炭素数が多いと、多孔性配位高分子5への吸着量が多くなり、アクチュエータ100の変位量が大きくなる。また、分子サイズ(分子量)が大きいため気密室4から漏出しにくく、長期間にわたり安定した変位量を示すアクチュエータ100とすることができる。なお、炭素数が多すぎると凝縮して液体になりやすく、アクチュエータ100の変位量が小さくなってしまう。
【0043】
炭化水素は−OH、−COOH、−NH
2、−SO
3Hなどの極性を有する官能基を持たないものが望ましい。C、Hのみで分子が構成される炭化水素は、極性が小さいため特に望ましい。具体的には、トルエン、ベンゼン、ヘキサンなどが望ましい。炭化水素の極性が小さいと凝縮が起こらず、アクチュエータ100が安定して動作する。さらに、疎水性の多孔性配位高分子5に多量に吸着できるため、アクチュエータ100の変位が大きくなる。
【0044】
図1では、ひとつの気密室4に対してひとつの可動部3を有する場合を示したが、ひとつの気密室4に対して2つ以上の可動部3を有していてもよい。この場合、同時に2つ以上の可動部3を動作させることが可能となる。
【0045】
図2は、可動部3をダイアフラムとした場合のアクチュエータ100の断面を模式的に示したものである。可動部3が
図1に示すようなピストン形状の場合、筐体1と可動部3との間に若干の隙間が生じやすく、その隙間を通して流体6が気密室4から漏出し、アクチュエータ100が動作しなくなる場合がある。しかし、可動部3をダイアフラム3aとした場合、気密室4を確実に封止することができる。したがって、可動部3をダイアフラム3aとすることで、流体6の気密室4からの漏出をより確実に抑制でき、アクチュエータ100の変位量が長期間にわたり安定したものとなる。
【0046】
図2ではダイアフラム3aが接着剤7によって筐体1に接合されている場合を示したが、ダイアフラム3aと筐体1とは他の方法によって接合されていてもよい。他の接合方法としては、たとえば、融着、ろう付け、はんだ付け、超音波接合、溶接などが挙げられる。また、ネジ留めなどの方法で圧着するだけでもよい。
【0047】
ダイアフラム3aの材質はゴム、樹脂、金属、ガラス、セラミックスなど、流体6を封止できるものであれば何でもよい。特に、変位量が大きいゴムや樹脂を用いることで、変位量の大きいアクチュエータ100とすることができ望ましい。シリコーンゴムを含むシリコーン樹脂は、変形量の大きさ、および耐久性という観点から特に望ましい。
【0048】
ダイアフラム3aの形状は、
図2のような平板状の他、変位量を大きくするため、蛇腹状や波状等の形状であってもよい。
【0049】
以下、ヒーター2、気密室4および多孔性配位高分子5の配置に関して、可動部3をダイアフラムとした図を用いて詳細を説明するが、これらはピストン形状の可動部3にも適
用可能である。
【0050】
図3に示すように、気密室4の内壁の少なくとも一部が、多孔性配位高分子5の被覆層により被覆されていることが望ましい。気密室4の内壁の少なくとも一部を多孔性配位高分子5が被覆することにより、多孔性配位高分子5に筐体1を介してヒーター2の熱が効率的に伝わる。その結果、ヒーター2の挙動に対して、多孔性配位高分子5における流体6の吸着・脱離が迅速に起こり、アクチュエータ100の変位量が大きくなるとともにヒーター2の挙動に対する応答が速くなる。
【0051】
気密室4の内壁に多孔性配位高分子5の被覆層を形成する方法としては、たとえば溶媒に多孔性配位高分子5とバインダを分散させ、筐体1の凹部に塗布し、溶媒を蒸発させればよい。この場合、被覆層は多孔性配位高分子5の他、バインダを含有している。また、筐体1の凹部の表面に直接多孔性配位高分子5を析出させてもよい。この場合、筐体1の凹部を多孔性配位高分子5の前駆体溶液に接触させたまま放置し、凹部の表面に多孔性配位高分子5を析出させればよい。なお、多孔性配位高分子5の被覆層は、気密室4を形成する可動部3の内壁に形成されていてもよい。
【0052】
このとき、被覆層の多孔性配位高分子5と、被覆層に被覆された気密室4の内壁とが、同じ金属元素を含有していることが望ましい。被覆層の多孔性配位高分子5とそれに被覆された気密室4の内壁とが同じ金属元素を含有することにより、多孔性配位高分子5の被覆層と内壁との間に連続的な界面が形成され、界面の熱伝導性が向上する。その結果、ヒーター2の挙動に対して、多孔性配位高分子5における流体6の吸着・脱離がより迅速に起こり、アクチュエータ100の変位量が大きくなるとともにヒーター2の挙動に対する応答がより速くなる。
【0053】
ヒーター2は、上述の例では筐体1の凹部と反対側の面に密着、または接着剤、粘着テープ、グリス、半田などの層を介して接着されているが、たとえば、
図1に示すような筐体1よりも大きいヒーター2に替えて、筐体1の内部に小型のヒーター2が埋設されていてもよいし、筐体1の表面または内部に、直接ヒーター2の導体配線2aを設けてもよい。また、ヒーター2は可動部3の内部に埋設されていてもよいし、可動部3の表面または内部に直接ヒーター2の導体配線2aを設けてもよい。ヒーター2の導体配線2aを設ける場合、導体配線2aが形成される基材は絶縁性の材料であることが望ましい。
【0054】
なお、ヒーター2により加熱した多孔性配位高分子5の最高温度と、加熱していない場合の温度との差は、100℃以内であることが望ましく、50℃以内であることがさらに望ましい。最高温度が高すぎると、多孔性配位高分子5が冷却されて、流体6を吸着する速度が遅くなり、アクチュエータ100の動作が遅くなる。
【0055】
ヒーター2による加熱を停止した後の、多孔性配位高分子5の冷却を促進するために、筐体1に放熱フィンなどを設けてもよい。また、空冷や水冷などの冷却手段によって筐体1を冷却してもよい。
【0056】
ヒーター2として、加熱だけでなく冷却も可能なペルチェモジュールを用いてもよい。ペルチェモジュールは直流電流の通電方向を変えるだけで、加熱と冷却のどちらも行える。多孔性配位高分子5から流体6を脱離させるときはペルチェモジュールを用いて加熱し、多孔性配位高分子5に流体6を吸着させるときはペルチェモジュールを用いて冷却することによって、より高速にアクチュエータ100を動作させることができる。
【0057】
ヒーター2は、気密室4の内部に配置してもよい。たとえば、ヒーター2本体を気密室4の内部に配置してもよいし、気密室4の内壁にヒーター2として導体配線2a(以下、
単に導体配線2aという)を設けてもよい。
【0058】
気密室4の内壁に導体配線2aを設ける場合、
図4に示すように、導体配線2aの少なくとも一部が、多孔性配位高分子5の被覆層により被覆されていることが望ましい。導体配線2aの少なくとも一部を多孔性配位高分子5が被覆していることにより、多孔性配位高分子5に導体配線2aの熱が効率的に伝わる。その結果、導体配線2aの挙動に対して、多孔性配位高分子5における流体6の吸着・脱離が迅速に起こり、アクチュエータ100の変位量が大きくなるとともに導体配線2aの挙動に対する応答が速くなる。
【0059】
導体配線2aに多孔性配位高分子5の被覆層を形成する方法としては、例えば溶媒に多孔性配位高分子5とバインダを分散させ、導体配線2aに塗布し、溶媒を蒸発させればよい。この場合、被覆層は多孔性配位高分子5の他、バインダを含有している。また、導体配線2aの表面に、直接多孔性配位高分子5を析出させてもよい。この場合、導体配線2aを多孔性配位高分子5の前駆体溶液に接触させたまま放置し、導体配線2a上に多孔性配位高分子5を析出させればよい。
【0060】
このとき、被覆層の多孔性配位高分子5と、被覆層に被覆された導体配線2aとが、同じ金属元素を含有していることが望ましい。多孔性配位高分子5とそれに被覆された導体配線2aとが同じ金属元素を含有することにより、多孔性配位高分子5の被覆層と導体配線2aとの間に連続的な界面が形成され、界面の熱伝導性が向上する。その結果、導体配線2aの挙動に対して、多孔性配位高分子5における流体6の吸着・脱離がより迅速になり、アクチュエータ100の変位量が大きくなるとともに導体配線2aの挙動に対する応答がより速くなる。
【0061】
導体配線2aと多孔性配位高分子5の望ましい組み合わせとしては、たとえば、導体配線2aが銅を含有し、多孔性配位高分子5がHKUST−1である場合である。銅は熱伝導性が高いため、多孔性配位高分子5への熱伝導が極めて良好になる。導体配線2aの材料としては、銅、銅ニッケル合金、銅マンガン合金が特に望ましい。
【0062】
なお、多孔性配位高分子5の被覆層は、
図5に示すように気密室4の内部にヒーター2本体を配置した場合、ヒーター2本体の表面に設けてもよい。
【0063】
そして、
図6に示すように、上述のようなアクチュエータ100を備えるポンプ200では、大きな流量で気体や液体などの移送流体を移送することができる。上述のようなアクチュエータ100は、変位量が大きいため、可動部3の往復運動によって、多量の移送流体を移送できるためである。アクチュエータ100は小型化が容易なため、ポンプ200も小型化が容易となり、液体吐出ヘッドやマイクロポンプなどとして好適に用いることができる。
【0064】
図6に示すポンプ200は、アクチュエータ100と、ポンプ室8とを備えている。アクチュエータ100は、筐体1と、ヒーター2と、ダイアフラム3aとを備えるとともに、筐体1およびダイアフラム3aにより気密室4が構成され、気密室4のヒーター2側の内壁には多孔性配位高分子5の被覆層が設けられ、気密室4の内部には流体6が封入されている。ポンプ室8は吸入口9と排出口10を有しており、ダイアフラム3aを介して気密室4と対向する位置に設けられている。このようなポンプ100では、ダイアフラム3aが大きく変位し、吸入口9と排出口10から効率的に移送流体を移送できるため、移送流体の流量を大きくできる。吸入口9と排出口10は、ひとつのポンプ室8に対してそれぞれ複数設けられていてもよく、いずれも逆止弁を備えていることが特に望ましい。逆止弁を備えることによって、移送流体の逆流を防ぐことができ、効率的に移送流体を移送できる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明のアクチュエータについて、実施例に基づき詳細に説明する。
【0066】
まず、多孔性配位高分子として、親水性のUiO−66、HKUST−1、疎水性のZIF−8を準備した。ZIF−8の粉末として市販のBasolite(登録商標) Z1200(シグマアルドリッチ社製)を用いた。XRD測定を行い、ZIF−8の構造を有していることを確認した。なお、文献(例えばP. Kusgens et al., Microporous Mesoporous Mater., 2009, 120, 325.)に示されているように、ZIF−8はほとんど水を吸
着しない疎水性の多孔性配位高分子である。
【0067】
UiO−66の粉末は以下のようにして合成した。N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)150mlに塩化ジルコニウムを2.1g、H
2(BDC)を1.5g溶解させた。この溶液を耐圧容器に入れて密閉し、120℃で24時間加熱した。冷却後、耐圧容器の内容物を吸引ろ過し、白い粉末を得た。ろ紙上にDMFを注いで洗浄した後、回収した粉末をメタノールに浸漬して24時間放置した。これを再度吸引ろ過し、室温で30分間乾燥させた。さらに150℃で真空引きしながら12時間乾燥させた。空気中の水分(分子量18)を吸着させるため、室温、空気中で24時間放置した。得られた粉末のX線回折(以下、単にXRDという)測定を行い、UiO−66が合成されたことを確認した。なお、文献(例えばH. Furukawa et al., J. Am. Chem. Soc., 2014, 136, 4369.
)に示されているように、UiO−66は吸水性がある親水性の多孔性配位高分子である。
【0068】
HKUST−1の合成方法は後述する。
【0069】
筐体として、厚さ2mm、直径20mmの銅円板を準備し、一方の表面の中央に深さ0.5mm、直径3mmの凹部を設け、他方の表面に、5mm×5mmのセラミックヒーターを、シリコーングリスを介して配置した。ヒーターには、温度測定のため太さ0.5mmのシース熱電対の先端を接着した。
【0070】
可動部としては、アクリル製円柱(直径3mm、厚さ2mm)、シリコーンゴムシート(厚さ0.1mm)、ポリエチレンシート(厚さ0.05mm)を準備した。以下、アクリルをA、シリコーンゴムをSG、ポリエチレンをPEという場合もある。
【0071】
筐体の凹部に所定の多孔性配位高分子の粉末を凹部の深さの半分(0.25mm)まで充填し、可動部を取り付けた。なお、アクリル製円柱(A)はグリスを塗布した外周面が、凹部の内周面と接するように凹部に挿入して気密室を形成し、
図1に示すようなピストン構造(P)のアクチュエータを作製した。シリコーンゴムシート(SG)およびポリエチレンシート(PE)は、凹部を覆うように配置し、凹部の外縁部において接着剤で接着することで凹部を封止して気密室を形成し、
図2に示すようなダイアフラム構造(D)のアクチュエータを作製した。
【0072】
気密室に封入する流体としては、空気、メタン(分子量16)、トルエン(分子量92)を用いた。メタンを封入する場合は、150℃で真空引きしながら12時間乾燥させて吸着している水分等を除去した状態の多孔性配位高分子の粉末を、メタンガスを充填したグローブボックス内に持ち込み、グローブボックス内でアクチュエータを作製した。トルエンを封入する場合は、凹部にトルエンを1滴滴下した後、多孔性配位高分子の粉末を凹部に所定量充填し、液体のトルエンが蒸発または多孔性配位高分子に吸収されたことを確認した後、アクチュエータを作製した。
【0073】
充填した多孔性配向分子、封入した流体および可動部は、表1に示すような組合せとした(試料No.1〜7)。
【0074】
凹部の内壁を多孔性配位高分子で被覆した
図3に示すような試料は、以下のようにして作製した。筐体は上述と同様な銅円板を用いた。
【0075】
UiO−66粉末100mgに、バインダとしてポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)5mgを添加し、エタノールを加えて乳鉢で撹拌し、スラリーを得た。このスラリーを凹部に注入し、空気中で24時間放置して乾燥した。これにより、凹部の底面および内周面(内壁)にUiO−66の被覆層を形成した。得られたUiO−66は、凹部にイオン交換水を注入して12時間放置することで、UiO−66の細孔内に吸着したエタノールを水に置換した。その後、凹部内のイオン交換水を排出し、室温で12時間真空引きして残留水分および残留エタノールを除去したのち、さらに空気中で24時間放置することでUiO−66の細孔内に水分(分子量18)を吸着させた。
【0076】
HKUST−1を合成するため、5mgのH
3(BTC)をエタノール10mLに溶解させた反応溶液を準備した。凹部以外をテープでマスキングした筐体を、反応溶液に浸漬して72時間放置した。なお、多孔性配位高分子のXRD測定用として、1cm×1cm、厚さ0.5mmの銅板を同時に浸漬した。浸漬後、筐体および銅板を取り出してマスキングテープを除去した。筐体および銅板をエタノールで洗浄した後、室温で12時間乾燥させ、さらに80℃で真空引きしながら12時間加熱し、エタノールを除去した。筐体の凹部、測定用銅板ともに、表面が青色であった。測定用銅板のXRD測定により、銅とHKUST−1の回折ピークが確認され、銅表面に銅を中心金属に持つHKUST−1の被覆層が存在することが確認できた。なお、文献(例えばP. Kusgens et al., Microporous
Mesoporous Mater., 2009, 120, 325.)に示されているように、HKUST−1は吸水
性がある親水性の多孔性配位高分子である。筐体は、空気中、室温にて24時間放置し、HKUST−1に水分(分子量18)を吸着させた。
【0077】
また、筐体として直径3mmの貫通孔を有するアクリル円板(厚さ0.5mm、直径20mm)の一方の主面に、表面に銅のヒーター配線を形成したポリイミドシートを接着したものを準備した。なお、ポリイミドシートは、ヒーター配線とアクリル円板とが対向するように配置し、アクリル円板の貫通孔の周縁部で接着剤を介して接着した。言い換えれば、アクリル円板の筐体の凹部の底面はポリイミドシートであり、その凹部の底面には銅のヒーター配線が設けられている。以下、ポリイミドをPIという場合もある。
【0078】
このアクリル円板と銅のヒーター配線付きポリイミドシートからなる筐体(以下、単にアクリル製筐体という場合もある)に、上述と同様な方法でUiO−66またはHKUST−1の被覆層を形成した。このアクリル製筐体の場合、多孔性配位高分子の被覆層はヒーター配線の表面に形成されていた。
【0079】
凹部の内壁またはヒーター配線表面にUiO−66、HKUST−1を形成した筐体の、凹部を覆うようにシリコーンゴムシート(SG)を配置し、凹部の外縁部において接着剤で接着することで凹部を封止し、
図3および
図4に示すようなダイアフラム構造(D)のアクチュエータを作製した(試料No.8〜11)。
【0080】
なお、アクリル製筐体を用いたアクチュエータ(試料No.10、11)は、ポリイミドシート(PI)上にヒーターの導体配線を備えていることからセラミックヒーターは使用しなかった。温度測定用のシース熱電対は、ポリイミドシートの導体配線と対向する部位に接着した。
【0081】
<評価方法>
ヒーターに電圧可変式の直流電源を接続し、ヒーター温度が3秒で80℃に到達し、アクチュエータの変位量が最大に到達した時点でヒーターをオフにするように動作を設定した。可動部の最大変位量(Dmax)は、可動部の横に定規を設置し、変位量をルーペで観察して測定した。また、最高温度である80℃に到達してから可動部の変位量が最大になるまでの時間(T)を計測した。さらに、加熱してから室温まで冷却する操作を50サイクル繰り返し、50サイクル経過後の最大変位量(Dmax(50))を測定した。各試料の初期の最大変位量(Dmax(0))、最大変位量到達時間(T)、および50サイクル経過後の最大変位量(Dmax(50))を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
<結果>
筐体の凹部内に、多孔性配位高分子、および分子量が17以上の気体を含む流体を有するアクチュエータである試料No.2〜4、6〜11は、ヒーターの加熱による可動部の初期の最大変位量(Dmax(0))が0.1mm以上であった。特に、多孔性配位高分子を凹部の内壁に被覆した試料No.7〜11では特に変位量が大きく、最大変位到達時間(T)が短くなった。これは、多孔性配位高分子を凹部の内壁に被覆したことにより、ヒーターによる熱量の多孔性配位高分子に対する伝導性が向上したためと考えられる。
【0084】
一方、凹部内に多孔性配位高分子を有していない試料No.1、および凹部内の流体の分子量が17より小さい試料No.5では、可動部の変位が確認できなかった。試料No.1の場合、自由膨張であれば80℃の加熱によって、気密室内の流体である空気の体積は二割ほど膨張するはずであるが、シリコーンゴム製のダイアフラムの張力により、ダイアフラムが変位しなかったと考えられる。試料No.5の場合、メタンはUiO−66に吸着できる量が少ないため、多孔性配位高分子の流体吸着効果が得られず、メタンの自由膨張の圧力に対してダイアフラムの張力が勝り、ダイアフラムが変位しなかったと考えられる。
【0085】
試料No.2では、50サイクル後には可動部の変位が確認できなかったが、これは凹部とピストンとの間の封止が充分ではなく、凹部内の流体である空気が凹部の外に漏出し、変位しなくなったと考えられる。
【0086】
試料No.6は、疎水性の多孔性配位高分子を用いており、変位に寄与した流体は、たとえば合成に用いた溶媒の残留物等、水以外の分子であったと考えられる。そのため、可動部の変位が比較的小さく、また、溶媒の残留物等が凹部の外に漏出し、50サイクル後には変位しなくなったと考えられる。