(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は本発明の一の実施形態に係る面ファスナーを用いて固定した表皮材が装着されている自動車用シートの斜視図であり、
図1(b)は、シートクッションに荷重がかかっていない無負荷時の(a)のA−A線断面図であり、
図1(c)は、シートクッションに荷重がかかっている負荷時の(a)のA−A線断面図である。
【
図2】
図2(a)は、上記実施形態に係る面ファスナーを示した斜視図であり、
図2(b)は、(a)のA部拡大図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2に示した面ファスナーの平面図であり、
図3(b)は、(a)の側面図であり、
図3(c)は、(a)の端面図であり、
図3(d)は、(c)のB部拡大図である。
【
図4】
図4(a)〜(c)は、引き布に上記実施形態に係る面ファスナーを取り付け、その後、係合対象部位に接合するまでの過程を示した図である。
【
図5】
図5(a),(b)は、上記実施形態に係る面ファスナーの作用を説明するための図である。
【
図6】
図6(a),(b)は、上記実施形態に係る面ファスナーのミシン目の作用を説明するための図である。
【
図7】
図7(a)は、ミシン目の寸法(直径)、ミシン目間の間隔の例を示した図であり、
図7(b)は(a)のC部拡大図である。
【
図9】
図9は、静荷重特性の試験結果を示した図である。
【
図10】
図10(a)は、係合力試験で用いた試料のサイズを示した図であり、
図10(b)は、係合力試験の試験結果を示した図である。
【
図11】
図11(a)は、本発明の面ファスナーをフロアマットの固定に用いる態様を示した平面図であり、
図11(b)は、
図11(a)のA矢視図であり、
図11(c)は、分解斜視図であり、
図11(d)は、フロアカーペットにフロアマットを固定した状態を示す斜視図である。
【0021】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の一の実施形態に係るクッション構造体1を用いた自動車用シートSの外観構成を示し、本実施形態ではクッション構造体1を、自動車用シートSのシートクッション部SCに用いている。このクッション構造体1は、クッション部材10を被覆材としての表皮材20により面ファスナー100を介して被覆されて構成される。
【0022】
クッション部材10は、例えば、ウレタンフォームから形成され、所定の大きさ厚さを備え、シートクッション部SCのフレームに支持される。表皮材20は、本革、合成皮革、ファブリック等が用いられ、それらが面ファスナー100を介して上記クッション部材10を被覆している。
【0023】
面ファスナー100は、
図2及び
図3に示すように、基板110に、垂直係合素子群120と、第1傾斜係合素子群130と、第2傾斜係合素子群140とを備えて構成されている。面ファスナー100は、合成樹脂材料として熱可塑性樹脂を用い、押出成形により、基板110と各係合素子群120〜140とが一体成形される。すなわち、
図3(c)に示したような基板110及び各係合素子群120〜140の端面形状(断面形状と同じ)に対応する形状のスリットが形成された押出ノズル(図示せず)から合成樹脂材料を押し出して一体成形される。
【0024】
本実施形態の面ファスナー100は極めて薄く成形されると共に、シートクッション部SCという常に人の荷重がかかっている部位に使用されるため、合成樹脂としては、薄くても強度が高く寸法安定性に優れ、耐衝撃性、耐熱性等に優れる点で、熱可塑性エラストマーが好ましく、ポリエステル系エラストマー(PES)樹脂がより好ましい。そして、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート系ブロックで、ソフトセグメントがポリエーテル系ブロックのブロック共重合体からなる樹脂がさらに好ましい。基板110は厚さ0.1〜0.9mmの薄板状に形成され、その片面に各係合素子群120〜140が形成される。本実施形態では、
図2及び
図3に示したように、図の右側8列を垂直係合素子群120とし、その左側4列を第1傾斜係合素子群130とし、そのさらに左側3列を第2傾斜係合素子群140としている。なお、各係合素子群120〜140の列数等は任意であることはもちろんである。また、各係合素子群120〜140の配置順序も図に示したものに限定されるものではない。
【0025】
垂直係合素子群120は、
図3(d)に示したように端面から見て、上部が左右に突出する略キノコ状の多数の垂直係合素子121aを列方向に沿って備えた8列の垂直係合素子列121からなる。垂直係合素子121aは、例えば、基板110の表面からの高さ0.2〜0.8mmで形成される。上記のようにPES樹脂は強度が高く寸法安定性に優れ、低くても倒れにくく、接合対象と所定の係合力を発揮できる。
【0026】
第1傾斜係合素子群130は、
図3(c),(d)に示したように、基板110の表面から図の左方に傾斜するようにすなわち第2傾斜係合素子群140に向かって立ち上がる多数の第1傾斜係合素子131aを列方向に沿って備えた4列の第1傾斜係合素子列131からなる。第1傾斜係合素子131aの傾斜角度は任意であるが、接合対象への係合のしやすさを考慮すると30〜80度の範囲とすることが好ましい。また、基板110の表面からの第1傾斜係合素子131aの垂直方向の高さは、上記垂直係合素子121aと同様に0.2〜0.8mmとすることが好ましい。
【0027】
第2傾斜係合素子群140は、
図3(c),(d)に示したように、基板110の表面から図の右方に傾斜するようにすなわち第1傾斜係合素子群130に向かって立ち上がる多数の第2傾斜係合素子141aを列方向に沿って備えた3列の第2傾斜係合素子列141からなる。なお、第2傾斜係合素子141aの好ましい傾斜角度、垂直方向高さは、第1傾斜係合素子131aと同様である。
【0028】
ここで、垂直係合素子121a、第1傾斜係合素子131a、及び第2傾斜係合素子141aはいずれも列方向に多数形成されているが、列方向に隣接する一つ一つの間には、それぞれ隙間121b,131b,141bが形成され独立した素子となっている。これにより、面ファスナー100全体の列方向に沿った可撓性が確保される。
【0029】
垂直係合素子群120を構成する垂直係合素子列121、第1傾斜係合素子群130を構成する第1傾斜係合素子列131、及び第2傾斜係合素子群140を構成する第2傾斜係合素子列141の列数や列間の間隔は上記のように任意であり、必要な係合力等を考慮して適宜に決定される。但し、本実施形態では、
図3に示したように、垂直係合素子列121の最も右の列から第1傾斜係合素子列131の最も左の列に至るまでの隣接する列間の間隔は等間隔であり、第2傾斜係合素子列141の3列同士も等間隔であるが、第1傾斜係合素子列131の最も左の列と第2傾斜係合素子列141の最も右の列の間隔は、他の列間の間隔よりも広くなっている。つまり、第1傾斜係合素子列131の最も左の列と第2傾斜係合素子列141の最も右の列の間の基板110の表面が露出している範囲が、係合素子が形成されていない素子非形成部150となっている。
【0030】
上記構成の面ファスナー100は、その素子非形成部150が、接合対象物の所定位置に、本実施形態では、クッション部材10を被覆する被覆材である表皮材20の所定位置に連結される。より具体的には、本実施形態では、表皮材20の端縁にシートフレームに両サイドからクッション部材10の裏面側に引き回して、クッション部材10の裏面側の中央方向に引き込むための第1及び第2の引き布21,22が取り付けられており、面ファスナー100の基板110の裏面に第1の引き布21が積層され、素子非形成部150の部位において該第1の引き布21の端部が縫製により連結される。
【0031】
基板110の表面側に位置する各係合素子群120〜140は、係合対象部位に接合される。ここでいう係合対象部位は、各係合素子群120〜140の各係合素子列121〜141を構成する各係合素子121a〜141aが係合する相手方の部位であり、係合素子121a〜141aを備えた本実施形態のフック側の面ファスナー100と対をなすループ側の面ファスナーの場合もあれば、特定のループが形成されていない不織布の場合もある。本実施形態では、クッション部材10の裏面側に引き回された上記の第2の引き布22を不織布から構成し、この第2の引き布22を係合対象部位とし、上記の面ファスナー100の各係合素子群120〜140の各係合素子列121〜141を構成する係合素子121a〜141aが係合する構成となっている。
【0032】
ここで、面ファスナー100と第1の引き布21との連結は、縫製手段を用いることが好ましい。
図6(a),(b)に示したように、縫製するとミシン目(穴)が形成される。このミシン目(穴)により、当該部位における断面係数が低下する。断面係数が低下することにより、縫製による連結部である素子非形成部150のミシン目(穴)に沿って折れ曲がりやすくなる。そのため、第1の引き布21が引っ張られると、素子非形成部150のミシン目(穴)に沿って確実に折れ曲がり、その結果、互いに対向方向に傾斜する第1傾斜係合素子群130に属する第1傾斜係合素子131a及び第2傾斜係合素子群140に属する第2傾斜合素子141aの第2の引き布22への食い込み係合力がより高まる。
【0033】
断面係数は、
図7に示したように、ミシン目(穴)が形成されるラインに沿って、ミシン目(穴)の幅(直径)と面ファスナー100のミシン目(穴)のラインに沿った長さとにより取り囲まれた範囲の断面係数を100として、縫製前の50〜95%の範囲となっていることが好ましく、さらには70〜90%の範囲となっていることがより好ましい。断面係数が低くなりすぎると素子非形成部150が引っ張られた際の強度が低下しすぎ、あまり高い場合には、ミシン目(穴)に沿った折れ曲がり作用が小さくなる。例えば、ミシン目(穴)1mm±0.5とした場合で、例えば、3mmの縫いピッチでは断面係数が縫製前の50〜83%となり、5mmの縫いピッチでは断面係数が縫製前の70〜90%となり、7mmの縫いピッチでは断面係数が縫製前の78.6〜92.9%となる。
【0034】
縫製手段を用いると、面ファスナー100と第1の引き布21との連結と、断面係数を低下させて曲がりやすい部位を形成する手段とを同時にかつ容易に実現できるため好ましい。その一方、素子非形成部150に折れ曲がりやすい部位を形成するには、素子非形成部150の断面係数が形状的に小さくなるように予め成形しておく手段、あるいは、第1の引き布21と素子非形成部150とを振動溶着等により接合し、その際に、素子非形成部150を薄くなるように加工する手段等を用いることもできる。
【0035】
本実施形態によれば、上記の構成からなるため、シートクッション部SCを構成するクッション構造体1に人が着座すると、クッション部材10は沈み込み、
図1(c)に示したように、表皮材20の両サイドから裏面側に引き回されている第1及び第2の引き布21,22を中央から外方に引っ張る方向に張力が働く。この張力が働くと、
図5(a)から
図5(b)に示したように、第1の引き布21との連結位置である素子非形成部150が人の荷重による押圧方向である下方に変位する。その結果、素子非形成部150を挟んで対向し、かつ、互いに対向方向に傾斜する第1傾斜係合素子群130に属する第1傾斜係合素子列131の第1傾斜係合素子131a及び第2傾斜係合素子群140に属する第2傾斜係合素子列141の第2傾斜合素子141aが、さらに、第2の引き布22に食い込んで係合力が高まる。すなわち、人が着座することによって、第1及び第2の引き布21,22にせん断方向に力が作用しても、各傾斜係合素子131a,141aがさらに食い込むため、せん断方向に対する係合力が高くなる。
【0036】
なお、傾斜係合素子131a,141aは、このように連結部である素子非形成部150に張力が働くことにより係合力が高まるように食い込む。従って、第1傾斜係合素子131aを有する第1傾斜係合素子列131(第1傾斜係合素子群130)及び第2傾斜係合素子141aを有する第2傾斜係合素子列141(第2傾斜係合素子群140)は必須である。一方、垂直係合素子群121aを有する垂直係合素子列121(垂直係合素子群120)は、このような張力による係合力の上昇作用は小さいが、せん断方向のいずれにも係合力が作用するため、本実施形態のように設けることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態の面ファスナー100は、上記のように、基板110は厚さ0.1〜0.9mm、各係合素子121a〜141aは基板110の表面からの高さ0.2〜0.8mmで形成される。
図1では、面ファスナー100をクッション部材10の裏面側に配置しており、人が着座しても基本的に面ファスナー100の存在は感じないが、面ファスナー100をクッション部材10の表面側に配置して表皮材20を接合した場合には、人が着座した際に面ファスナー100の存在を感じるおそれがある。しかし、本実施形態では、上記のように、基板110の厚さが薄く、各係合素子121a〜141aの突出高さが低いため、面ファスナー100の全体の厚さも0.3〜1.7mmの範囲であり、好ましくは0.5〜1.2mmの範囲である。このように非常に薄い面ファスナー100であるため、クッション部材10の表面側に配置して表皮材20と接合しても、着座者は面ファスナー100の存在を感じることはまずない。
【0038】
また、面ファスナー100の存在を感じないようにするには、上記の厚さの要件に加え、クッション部材10への追従性が高いことが必要である。クッション部材10と同様に変形することにより、面ファスナー100の異物感が小さくなる。その一方、面ファスナー100の各係合素子121a〜141aは、人が着座することによってせん断方向に大きな引きはがす力がかかる自動車用シートの被覆材の固定等に用いる場合、せん断方向に高い係合力が必要である。従って、クッション部材10への高い追従性と、各係合素子121a〜141aの高い係合力(特にせん断方向(面方向)の係合力)との両立のために、面ファスナー100単体では所定の面剛性を維持し、クッション部材10に積層した状態では局部的な変形が生じないことが求められ、上記の厚さの条件と、使用する合成樹脂材料(好ましくはPES樹脂)の条件に加え、次の特性を備えていることが好ましい。
【0039】
まず第1に、面ファスナー100単体で、JIS L 1096 E法に準拠したハンドルオメーター法による抵抗値が、80〜150gの範囲となるように製作する。この範囲で製作することにより、所定の面剛性が確保され、各係合素子121a〜141aに面方向に引きはがす力がかかっても倒れがなく、高い係合力を確保できる。また、クッション部材10に積層した際には、集中荷重による部分的に大きな変形が生じることが抑制され、クッション部材10の変形に沿って変形し、異物感を生じさせない。
【0040】
(剛性試験)
本実施形態に係る面ファスナー100(実施例1)、織物製の面ファスナー(比較例1)、及び、本実施形態において面ファスナー100に接合する係合対象部位に採用した第2の引き布22を構成する不織布(比較例2)の剛性を比較した。
【0041】
(試験片の構成)
実施例1の面ファスナー100は、標準PES樹脂を用いて押出成形により製作した。構造は、
図2及び
図3に示したとおりであり、8列の垂直係合素子列121と、4列の第1傾斜係合素子列131と、及び3列の第2傾斜係合素子列141とを有し、第1傾斜係合素子列131と第2傾斜係合素子列141との間に素子非形成部150が形成されている。また、各素子列121〜141の直交する方向の幅が30mmで形成され、基板110の厚さは0.32mm、垂直係合素子121aの基板11からの突出高さ(垂直高さ)は0.62mm、第1傾斜係合素子131a及び第2傾斜係合素子141aの基板11からの突出高さ(垂直高さ)は0.51mmであった。
【0042】
比較例1の面ファスナーは、クラレファスニング(株)、織製面ファスナー、商品名「マジタッチ」(登録商標)、品番:M32643、基板:ナイロン(厚さ0.3mm)、フック:ポリプロピレン(基板表面からの突出高さ1.5mmのループ状フック)、幅30mmであった。
【0043】
比較例2の不織布は、
構成素材:ウェブ・・・6.6dtex ポリエステル 95%、
4.4dtex ポリエチレンテレフタレート 5%、
ラテックス:難燃リン含有アクリル100%、
厚さ:1.7mm、
幅:50mm
目付:195g/m
2
であった。
【0044】
(試験方法)
(1)カンチレバー法
試験片の長さを150mmとして測定した。フック(係合素子)の形成面を上向きにした場合(フック上向)と下向きにした場合(フック下向)について、試験片の長さ方向の剛性をカンチレバー法により測定した。
【0045】
(2)ハートループ法
試験片の長さを250mm(有効長200mm)として、治具で固定し、その1分後に測定した。フック(係合素子)の形成面を内向きにした場合(フック内向)と外向きにした場合(フック外向)についてそれぞれハートループを形成して、試験片の長さ方向の剛性をハートループ法により測定した。
【0046】
(3)ハンドルオメーター法
JIS L 1096 E法に準拠して、所定間隔をおいてセットされる一対のプレート間に試験片を掛け渡し、その間にブレードを試験台表面より8mm下降させ、そのときに該ブレードにかかる抵抗値(g)を測定した。プレート幅を30mmとして、その間隙の長手方向に直交する方向に試験片の長さ方向が沿うように配置した場合について、試験片の長さ方向の剛性をハンドルオメーター法により測定した。また、プレート幅を16mmとして、プレート間の間隙の長手方向に試験片の長さ方向を沿わせて配置し、試験片の幅方向の剛性をハンドルオメーター法により測定した。なお、いずれも、フック(係合素子)の形成面を内向きにした場合(フック内向)と外向きにした場合(フック外向)について測定した。
【0047】
図8は、剛性試験の試験結果を示す。
まず、カンチレバー法では、実施例1はフック下向のときの剛性が高く、値が求められなかったが、フック上向の場合の平均値で99mmであった。比較例1では、逆に、フック上向のときの剛性が高く、値が求められなかったが、フック下向の場合の平均値で97mmであった。従って、向きの違いはあるものの、カンチレバー法による剛性試験では実施例1と試験例1の実質的な差は認められなかった。
【0048】
ハートループ法では、実施例1及び試験例1は、いずれもほぼ同じ値となり、実質的な差は認められなかった。
【0049】
これに対し、ハンドルオメーター法の場合、試験片の長さ方向の剛性において、実施例1は、フック上向の平均値で119g、フック下向の平均値で132gであるのに対し、比較例1は、フック上向の平均値で43g、フック下向の平均値で49gであった。従って、実施例1は、試験例1の約2.5倍〜3倍近い剛性を有していた。試験片の幅方向の剛性では、実施例1は、フック上向の平均値で99g、フック下向の平均値で120gであるのに対し、比較例1は、フック上向の平均値で30g、フック下向の平均値で36gであった。従って、実施例1は、試験例1の約3倍〜4倍近い剛性を有していた。
【0050】
上記剛性試験より明らかなように、ハンドルオメーター法による剛性試験において実施例1の面ファスナーは、比較例1よりも顕著に高い剛性を示した。実施例1のハンドルオメーター法による抵抗値は、上記平均値では99〜132gの値であるが、最も小さい測定値が87g、最も高い測定値が141gであることから、80〜150gの範囲が好ましい。
【0051】
ハンドルオメーター法による抵抗値は、ブレードによって加圧する試験であるため、局部的な集中荷重による試験片の曲げ剛性を示す。従って、実施例1の面ファスナーは、カンチレバー法やハートループ法で測定される試験片全体の剛性は比較例1と実質的な差がないものの、局部的な集中荷重による曲げ剛性が、比較例1と比較して高いと言える。これにより、実施例1の面ファスナー100が係合対象部位に係合している状態で、せん断方向(面方向)に引っ張られても、局部的にゆがんだりすることがなく、係合対象部位から剥がれにくいことを示すものである。
【0052】
(静荷重特性に関する試験)
次に、クッション部材10に実施例1の面ファスナー100を積層した状態で直径30mmの加圧板で加圧した際の荷重−たわみ線図から静荷重特性を測定した。クッション部材は、ポリウレタンフォームからなる。結果を
図9に示す。なお、
図9では、クッション部材10単独の特性、クッション部材10に実施例1の面ファスナー100を積層して得たデータから計算により求めた実施例1の面ファスナー100単独の特性を併せて掲載した。また、クッション部材10に、比較例1の面ファスナー、比較例2の不織布、厚さ1mmのポリプロピレン製のプレート部材(比較例3)、比較例3のプレート部材より硬い厚さ2mmの断面U字状に折り曲げたプレート部材(比較例4)をそれぞれ積層した状態で直径30mmの加圧板で加圧した際の荷重−たわみ線図から静荷重特性を測定し、その後、計算により求めた比較例1単独、比較例2単独、比較例3単独及び比較例4単独の特性を併せて掲載した。さらに、人の臀部筋肉を直径30mmの加圧板で100Nまで加圧した際の静荷重特性の代表例(筋肉特性)を掲載した。
【0053】
この結果、クッション部材10に実施例1の面ファスナー100を積層した状態での荷重−たわみ線図の履歴特性は、クッション部材10単独の荷重−たわみ線図の履歴特性と、荷重値40N以上の範囲で比較すると、±5%以内で推移しており、ほぼ同じ軌道である。その一方、面ファスナー単独でのばね定数は、いずれの変位量範囲で区切っても0.5N/mm以下であり、種々の変位量範囲で区切って計算したところでは、低い方の値で0N/mm、0.05N/mm、0.1N/mm等であった。人の臀部筋肉のばね定数は、大体0.2〜1N/mmの範囲であり、その値と同等かそれ以下であることがわかった。実施例1の面ファスナー100は、上記のように曲げ剛性が高いにも拘わらず、クッション部材10に積層した場合には、クッション部材10の変形への追従性が高く、単独では筋肉特性のばね定数よりも小さいという条件を満たしている。これにより、人は、実施例1の面ファスナー100が配置されていても、その存在を感じることは極めて小さい。その一方で、上記のような曲げ剛性を有することでせん断方向に高い係合力を発揮できる。
【0054】
(係合力試験)
図10(a)に示したように、実施例1の面ファスナー100に、第1の引き布21に相当する布を縫製により連結し、第2の引き布22に相当する不織布A、Bを接合し、係合力を測定した。面ファスナー100は長さ50mm、幅30mmで、第1の引き布21に相当する布は長さ60mm、幅60mmで、第2の引き布22に相当する不織布は、長さ80mm、幅100mmであった。第2の引き布22に相当する不織布Aは、上記比較例2の不織布であり、不織布Bは、不織布Aよりも目付量が低い130(125±13)g/m
2で、厚みが薄いもの1.35mmであった。
【0055】
測定は、JIS L 3416に準じて実施し、面ファスナー100の各係合素子列121,131,141の列方向に直交する幅方向に引っ張って測定した。面ファスナー100の引張り方向が、不織布A,Bの流れ方向となる場合、それに直交する幅方向となる場合についてそれぞれ測定した。面ファスナー100と、第2の引き布22に相当する不織布A,Bとを積層した後、不織布の流れ方向に2kgの重さのローラを2往復させて転圧して接合して、引取速度300mm/minで引っ張った。結果を
図10(b)に示す。
図10(b)から、不織布Aの場合、せん断強力、5°剥離強力、10°剥離強力において、10N/cm
2以上の高い値を示した。45°剥離強力は、せん断強力、5°剥離強力又は10°剥離強力の1/2程度であり、剥離強力及び面直強力は、せん断強力、5°剥離強力又は10°剥離強力の1/4程度であった。なお、面直強力は、各試料を粘着テープでSUS板に貼り合わせて測定した。面直挿入圧は50N/係合面積あたりとした。
【0056】
不織布Bの場合、せん断強力が8N/cm
2程度であり、不織布Aの場合よりも低かった。従って、実施例1の面ファスナー100に係合させる相手方の部材(第2の引き布22)としては不織布Aを用いることが好ましい。しかしながら、剥離強力及び面直強力と比較するとせん断強力は約4倍であり、不織布Bが相手方の部材であっても、せん断方向には高い係合力を発揮できる。
【0057】
以上のことから10°以下(計算上は15°以下)のせん断方向に引っ張られるように用いることにより、本発明の面ファスナーは高い係合力を発揮する。
【0058】
(本発明の応用例)
本発明の面ファスナーは、上記のように高い係合力を発揮する。そのため、クッション部材に被覆材を固定する用途以外に、例えば、
図11(a)〜(d)に示したように、自動車などの乗物のフロアに敷設されるフロアマット1000を固定する手段として用いることができる。乗物、特に自動車のフロア表面は金属面がそのまま露出しているのではなくフロアカーペット1100で被覆されているため、面ファスナー100の各係合素子121a,131a,141aが係合可能である。具体的には、
図2及び
図3に示した面ファスナー100の基板110の裏面をフロアマットの裏面に積層して縫製、接着などにより、好ましくは縫製により固定し、各係合素子121a,131a,141aをフロアカーペット1100に係合させる。なお、図示しないが、面ファスナー100をフロアカーペット1100側に固定しておき、各係合素子121a,131a,141aをフロアマット100の裏面に係合させる構成とすることも可能である。
【0059】
運転席におけるフロアマット1000のずれは、アクセルペダルやブレーキペダルへの干渉要因となるが、本発明の面ファスナー100によれば、上記のようにせん断方向に対して高い係合力を有しているため、フロアマット1000のずれの抑制に効果的である。
【0060】
なお、フロアマット1000のずれ抑制のための面ファスナー100は、フロアマット1000裏面に設けた場合に人に異物感を与えることはあまりなく、せん断方向への係合力が高いことにより重点がおかれる。このため、上記した面ファスナー100の構成中、次の構成を有する態様の面ファスナー100とすることがフロアマット1000のずれ抑制用として適する。
【0061】
すなわち、フロアマット1000のずれ抑制用として適する第1の態様に係る面ファスナー100は、基板に設けられる係合素子が、前記基板から傾斜して立ち上がる傾斜係合素子からなり、列状に配置された複数の前記傾斜係合素子により構成される前記係合素子列としての傾斜係合素子列を少なくとも1列備えてなる、前記係合素子群を構成する傾斜係合素子群を有する態様である。
【0062】
第2の態様に係る面ファスナー100は、基板に設けられる係合素子が、前記基板から略垂直に立ち上がる垂直係合素子からなり、列状に配置された複数の前記垂直係合素子により構成される前記係合素子列としての垂直係合素子列を少なくとも1列備えてなる、前記係合素子群を構成する垂直係合素子群を有すると共に、前記基板から傾斜して立ち上がる傾斜係合素子からなり、列状に配置された複数の前記傾斜係合素子により構成される前記係合素子列としての傾斜係合素子列を少なくとも1列備えてなる、前記係合素子群を構成する傾斜係合素子群を有する態様である。
【0063】
第1の態様及び第2の態様に係る面ファスナー100のいずれの場合も、前記傾斜係合素子群は、前記傾斜係合素子列をそれぞれ少なくとも1列ずつ有する第1傾斜係合素子群と第2傾斜係合素子群とを有してなり、前記第1傾斜係合素子群に属する第1傾斜係合素子及び前記第2傾斜係合素子群に属する第2傾斜合素子が相互に対向方向に傾斜していることが好ましい。
【0064】
但し、フロアマット1000のずれ抑制用であっても、係合素子121a,131a,141aの高さが高すぎたりすると異物感を与える場合もあるため、上記実施形態と同様の基板110の厚さ、係合素子121a,131a,141aの突出高さ、ハンドルオメーター法による抵抗値、荷重−たわみ線図の履歴特性、ばね定数等の物性を有していることが好ましいことはもちろんである。また、面ファスナー100が厚過ぎると、フロアマット1000が高くなる(面ファスナー100を含んだフロアマット1000全体の厚さが厚くなる)という問題があるため可能な限り薄いものが望ましく、また、スライダーのブラケットのカバー周辺等のように多少の凹凸がある部分に固定する場合には、その形状に沿って変形する可撓性ないし柔軟性のあるものが接合強度を高めるために望ましい。この点、上記実施形態の物性を備えたものは薄く、可撓性があって、かつせん断方向への係合力が高いため特に好ましい。また、フロアマットとしては、乗物用に限らず、玄関、風呂、キッチンなどの建物内で用いられるもの、あるいは、屋外で用いられるもの等であってもよく、対応する床面に面ファスナーの係合素子が係合可能な素材が設けられていれば、それらのフロアマットの滑り止め用としても有用である。