特許第6418942号(P6418942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6418942
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】液化ガス運搬船
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/16 20060101AFI20181029BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   B63B25/16 D
   B63B25/16 101A
   F17C13/00 302A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-266293(P2014-266293)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-124385(P2016-124385A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広崇
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 英和
(72)【発明者】
【氏名】新村 暢大
(72)【発明者】
【氏名】安藤 明洋
(72)【発明者】
【氏名】田本 英司
(72)【発明者】
【氏名】武田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】青木 一紀
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−196685(JP,A)
【文献】 特開昭53−071365(JP,A)
【文献】 特開昭62−194099(JP,A)
【文献】 特開2014−151820(JP,A)
【文献】 特開2006−063817(JP,A)
【文献】 特開平07−228289(JP,A)
【文献】 特開2007−261539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/16
F17C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯蔵するためのタンクと、
前記タンク内で前記液化ガスが気化して発生したボイルオフガスが燃料として供給されるガス燃料機関と、
前記タンクから前記ガス燃料機関に前記ボイルオフガスを供給するためのガス供給ラインと、
前記ガス供給ラインに配置され、前記ボイルオフガスを前記ガス燃料機関へ圧送するガス圧縮機と、
前記ガス供給ラインから、前記ガス燃料機関に供給されない余剰ガスを前記タンクへ戻すためのガスリターンラインと、
前記ガスリターンラインを開閉するガスリターン弁と、を備え、
前記ガスリターンラインは、前記タンクの高さ方向の中央領域内に位置する余剰ガス噴出口を有し当該余剰ガス噴出口から余剰ガスを前記タンクの前記中央領域内に噴出する余剰ガス噴出部を有することを特徴とする、液化ガス運搬船。
【請求項2】
前記タンクは、前記タンクの上部から下部に延びるパイプタワーを備え、
前記ガスリターンラインの下流側部分は、前記パイプタワーに支持されることを特徴とする、請求項1に記載の液化ガス運搬船。
【請求項3】
前記ガスリターンラインの下流側部分は、前記パイプタワーの内部を挿通し、前記パイプタワーに沿って前記タンクの上部から中央部にかけて延びる余剰ガス供給部を備え、
前記余剰ガス噴出部は、前記余剰ガス供給部の下流側から延びて前記パイプタワーの外部に余剰ガスを噴射することを特徴とする、請求項2に記載の液化ガス運搬船。
【請求項4】
前記余剰ガス噴出部は、前記パイプタワーの外周面に沿って延びていることを特徴とする、請求項3に記載の液化ガス運搬船。
【請求項5】
前記余剰ガス噴出部は、満載時にある前記タンク内の液化ガスの流れが下降流にある領域に位置することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の液化ガス運搬船。
【請求項6】
前記タンクは、モス型タンクであることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の液化ガス運搬船。
【請求項7】
前記ガス燃料機関は、前記液化ガス運搬船における舶用主機であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の液化ガス運搬船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガスを燃料とする機関を備えた液化ガス運搬船に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、LNG(液化天然ガス)を運搬するためのLNG運搬船では、LNG運搬船に設備されたカーゴタンク内に、天然ガスを冷却及び液化し約−162℃に保たれたLNGを大気圧付近で貯蔵して、目的地の荷揚地まで輸送している。LNG運搬船の航海中において、カーゴタンク内では、外部からの入熱によりボイルオフガスが発生し、タンク内部の圧力が上昇することになる。このため、カーゴタンクからボイルオフガスを排出することが必要となるが、排出されたボイルオフガスを焼却処理してしまうのはガスの無駄となるため、排出されたボイルオフガスを該LNG運搬船の主機や補機の燃料として利用することや排出されたボイルオフガスを再液化してカーゴタンク内に戻すことが考えられている。
【0003】
例えば、特開2008−196685号公報(以下、特許文献1という。)には、ボイルオフガスを推進燃料とする燃料ガス推進手段を有するLNG運搬船が開示されている(図4参照)。このLNG運搬船では、カーゴタンク91内で発生したボイルオフガスを燃料ガス推進手段へと圧縮機92を用いて圧送させることで、カーゴタンク91内の圧力上昇を抑え、且つ、圧送されたボイルオフガスを燃料ガス推進手段で利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−196685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボイルオフガスを燃料として利用するLNG運搬船において、LNG運搬船の停泊時、港湾操船時、運河通峡時、エンジン起動時など、エンジン負荷を極めて低くして運転する場合やエンジン負荷を急減するような場合には、エンジンが必要とする以上にタンク内のボイルオフガスがエンジン側に供給されることになってしまう。その結果、タンク内の圧力上昇は回避できる一方で、余剰のボイルオフガスで圧縮機の下流側の圧力が上昇してしまう。特許文献1では、図4に示すように、ボイルオフガスを圧縮した後に、相対的に低温であるカーゴタンク91の下部に供給することが示されているが、カーゴタンク91がLNGで満載である場合に、ボイルオフガスをカーゴタンク91の下部まで供給するには、満載時の大きな圧力ヘッド以上にボイルオフガスを昇圧する必要があり、圧縮機の動力を大きくする必要がある。
【0006】
そこで、本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧縮機の動力を抑えつつ余剰ガスをタンクに戻すことができる液化ガス運搬船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、液化ガスを貯蔵するためのタンクと、前記タンク内で前記液化ガスが気化して発生したボイルオフガスが燃料として供給されるガス燃料機関と、前記タンクから前記ガス燃料機関に前記ボイルオフガスを供給するためのガス供給ラインと、前記ガス供給ラインに配置され、前記ボイルオフガスを前記ガス燃料機関へ圧送するガス圧縮機と、前記ガス供給ラインから、前記ガス燃料機関に供給されない余剰ガスを前記タンクへ戻すためのガスリターンラインと、前記ガスリターンラインを開閉するガスリターン弁と、を備え、前記ガスリターンラインは、前記タンクの高さ方向の中央領域内に位置し、余剰ガスを前記タンクに噴出する余剰ガス噴出部を有することを特徴とする、液化ガス運搬船を提供する。
ここで、「タンクの高さ方向の中央領域」とは、タンク内部の領域について、タンクを高さ方向に4等分した場合に上から1番目の領域、2番目の領域、3番目の領域及び4番目の領域を、それぞれ、「第1領域」、「第2領域」、「第3領域」及び「第4領域」と定義したときの「第2領域」と「第3領域」を合わせた領域をいう。
【0008】
本発明によれば、余剰ガス噴出部は、タンクの高さ方向の中央領域内に位置するので、タンクの満載時であっても、余剰ガス噴出部での圧力ヘッドが小さく、圧縮機の動力を抑えつつ余剰ガスをタンクの液層に噴出することができる。液層に噴出された余剰ガスはLNGの冷熱により凝縮し、タンク内の圧力上昇の問題が生じにくい。また、タンクの空載時においては、余剰ガスは気層に噴出されることになるが、余剰ガスの量は、タンクの容積に対して十分に小さいため、タンク内の圧力上昇の問題が生じない。このため、タンクの満載時及び空載時のいずれの場合においても、タンク圧の急激な上昇を回避しつつ、少ない動力で余剰ガスをタンクに戻すことができる。
【0009】
上記液化ガス運搬船において、前記タンクは、前記タンクの上部から下部に延びるパイプタワーを備え、前記ガスリターンラインの下流側部分は、前記パイプタワーに支持されていてもよい。この構成によれば、ガスリターンラインの下流側部分をパイプタワーで支持することができるので、ガスリターンラインを支持するための設備をタンクに別途備え付ける必要がなく、製造コストを抑えることができる。
【0010】
上記液化ガス運搬船において、前記ガスリターンラインの下流側部分は、前記パイプタワーの内部を挿通し、前記パイプタワーに沿って前記タンクの上部から中央部にかけて延びる余剰ガス供給部を備え、前記余剰ガス噴出部は、前記余剰ガス供給部の下流側から延びて前記パイプタワーの外部に余剰ガスを噴射してもよい。この構成によれば、ガスリターンラインが、パイプタワー内に配置されているため、パイプタワーを通る他の配管と同様に、タンク内の液化ガスの揺れに起因する衝撃からガスリターンラインを保護することができる。また、余剰ガス噴出部が、前記パイプタワーの外部に位置するため、余剰ガスをパイプタワー外部の大量の液化ガスに触れさせて、余剰ガスの凝縮を促進することができる。
【0011】
上記液化ガス運搬船において、前記余剰ガス噴出部は、前記パイプタワーの外周面に沿って延びていてもよい。この構成によれば、タンク内の液化ガスの揺れにより余剰ガス噴出部に発生する曲げモーメントを抑制し、故障リスクを低減することができる。
【0012】
上記液化ガス運搬船において、前記余剰ガス噴出部は、満載時にある前記タンク内の液化ガスの流れが下降流にある領域に位置していてもよい。この構成によれば、余剰ガス噴出部から噴出した余剰ガスは、前記タンク内の下降流に乗るため、浮上して気層に到達することがなく、前記タンク内に戻された余剰ガスの凝縮を促進することができる。
【0013】
上記タンクは、モス(MOSS)型タンクであってもよい。この構成によれば、ガスリターンラインの下流部分を支持するのにパイプタワーを利用することができ、且つ、タンク内の下降流を利用して余剰ガスの凝縮を促進することができるため、特に有用である。
【0014】
これら作用効果は、前記ガス燃料機関が前記液化ガス運搬船における舶用主機である場合には、エンジン極低運転する場合やエンジン負荷急減時の圧縮機の下流側の圧力上昇を回避することができるため、特に有用である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液化ガス運搬船において、圧縮機の動力を抑えつつ余剰ガスをタンクに戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る液化ガス運搬船のガス燃料供給系統の概略構成図である。
図2】(a)及び(b)は、本発明の第1実施形態に係る液化ガス運搬船のモス型タンクの概略断面図であり、(a)は、モス型タンクの満載時にある状態を示し、(b)は、モス型タンクの空載時にある状態を示す。
図3】(a)は、本発明の第1実施形態に係る液化ガス運搬船の余剰ガス噴出部の概略上面断面図であり、(b)は、本発明の第1実施形態に係る液化ガス運搬船の余剰ガス噴出部の概略正面図である。
図4】従来の液化ガス運搬船の燃料供給系統の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の第1実施形態に係る液化ガス運搬船についてのガス燃料供給系統の概略構成図が示されている。LNG運搬船1(本発明の液化ガス運搬船)は、LNGを貯蔵するための複数のタンク5を備えている。また、このLNG運搬船1は、タンク5内でLNGが気化して発生したボイルオフガスが燃料として供給されるガス燃料機関2を2つ備えている。さらに、このLNG運搬船1は、タンク5からガス燃料機関2にボイルオフガスを供給するためのガス供給ライン3と、ボイルオフガスをガス燃料機関2へ圧送するガス圧縮機4とを備えている。
【0018】
本実施形態において、ガス燃料機関2は、LNG運搬船の推進用主機として搭載されたガスエンジンである。ガス燃料機関2は、重油燃料とガス燃料の両方を燃料として利用することができる二元燃料エンジンやボイラを搭載した蒸気タービンエンジンであってもよいし、発電用として搭載されたものであってもよい。また、本実施形態ではガス燃料機関2は2つ備えられているが、ガス燃料機関2は、1つであっても3つ以上であってもよい。
【0019】
タンク5は、LNGを大気圧下の約−162℃の液体状態で保持できるように、極低温状態を保持可能な防熱性能を有するタンクである。この実施形態で、タンク5は、モス型(MOSS)タンクであって、液化天然ガスを運搬する船体に搭載されるタンク形式の一つであり、タンクのみで強度の保証が可能である、船体から独立した球形タンクである。タンク5は、スカートと呼ばれる円筒状の金属製のタンク支持部(図示略)を介して船体に支持されている。
【0020】
タンク5の上端と下端を結ぶ中央部には、パイプタワー52が設けられている。パイプタワー52は、円筒状であって、その内部には、タンク5の内部にLNGを積載又は内部からLNGを排出するための複数本の荷液パイプ、タンクを予冷するための複数本のスプレーパイプ、液面ゲージや電気配線(いずれも図示略)などが設けられている。パイプタワー52は、これらの内部部品をタンク内の液の運動による荷重から保護する目的で設けられている。パイプタワー52の上部及び下部の側壁には、いくつかの開口部(図示略)が設けられており、これらの開口部をLNGやボイルオフガスは通過できるようになっている。LNGがこれら開口部を通過することにより、パイプタワー52の内部と外部とで液面Lを一様にし、パイプタワー52の内部と外部の圧力が均一になる。
【0021】
タンク5は、断熱材に覆われて内部の極低温状態を保持しているが、それでも航行中にタンク5の内部に熱が侵入し、LNGの一部が自然気化してボイルオフガスとなり、タンク5の上部に溜まっている。このタンク上部に溜まっているボイルオフガスは、ガス燃料機関2のガス燃料として利用するために、ガス供給ライン3を介して、ガス燃料機関2に供給される。
【0022】
ガス供給ライン3は、前記タンク5から前記ガス燃料機関2に前記ボイルオフガスを供給するためのものであり、例えばパイプである。ガス供給ライン3は、その上流端に、ガス吸入口32を備えている。ガス吸入口32は、タンク5が満載時である場合にもタンク5上部のボイルオフガスを吸入することができるように、タンク5の上部に配置される。また、ガス吸入口32から下流側に向かうガス供給ライン3の途中には、ガス圧縮機4が配置されており、さらに、ガス圧縮機4の下流側には、ガスヘッダ34が配置されている。ガス燃料機関2が複数である場合、ガス供給ライン3は、ガスヘッダ34から各ガス燃料機関2に至る複数の支流路3cを含む。
【0023】
ガス圧縮機4は、ボイルオフガスを圧縮してガス燃料機関2側に供給する装置である。前記ガス吸入口32から吸入されたボイルオフガスは、ガス供給ライン3の上流部分3aを介してガス圧縮機4に送られた後、当該ガス圧縮機4によって圧縮され、圧縮されたボイルオフガスは、さらにガス圧縮機4からガスヘッダ34までの中間部分3bを介して、ガスヘッダ34に送られる。ガスヘッダ34に送られたボイルオフガスは、2つのガス燃料機関2に送られ、各ガス燃料機関2でガス燃料として使用される。
【0024】
さらに、図1に示すLNG運搬船1は、ガス供給ライン3からガス燃料機関2に供給されなかった余剰ガスをタンク5へ戻すためのガスリターンライン6と、ガスリターンライン6を開閉するガスリターン弁71とを備える。本願明細書において、「余剰ガス」とは、ボイルオフガスがガス圧縮機4の下流側に圧送されたガスであって、ガス燃料機関2に供給されていないガスをいう。
【0025】
ガスリターンライン6は、例えばパイプであって、ガスリターンライン6の上流端は、ガスヘッダ34に連結されている。ガスリターンライン6の下流側部分6bは、タンク5のパイプタワー52に支持されており、パイプタワー52の上部から挿通されて、タンク5の中央まで延びている。本願明細書において、ガスリターンライン6のうち、タンク5内に位置する部分を「ガスリターンライン6の下流側部分6b」とし、それ以外の部分を「ガスリターンライン6の上流側部分6a」として、以下説明する。
【0026】
ガスリターンライン6の下流側部分6bは、図2(a)及び図2(b)に示すように、余剰ガスを供給している余剰ガス供給部62と、余剰ガス噴出口67を有する余剰ガス噴出部66とを有する。
【0027】
余剰ガス供給部62は、パイプタワー52の内部に挿通されており、前記パイプタワー52に沿ってタンク5の上部から中央部にかけて延びている。余剰ガス供給部62の上端は、ガスリターンライン6の上流側部分6aと連続しており、余剰ガス供給部62の下端は、パイプタワー52の外側に向けて湾曲しており、図示略の支持部材により支持されている。余剰ガス供給部62は、ガスリターンライン6の上流側部分6aから供給されてきた余剰ガスを、タンク中央まで供給する。
【0028】
余剰ガス供給部62の下流側は屈曲してパイプタワー52の外側に延び、パイプタワーの外周に形成された孔53を通過してパイプタワー52の側壁を貫通し、余剰ガス噴出部66と連続している。
【0029】
余剰ガス噴出部66は、パイプタワー52の外周面に沿って周方向に延びている。余剰ガス噴出部66は、パイプタワー52の外周面に沿った曲線状のものでよく、また、図3(a)に示すように、いくつかの直線状の部分から構成されていてもよい。また、余剰ガス噴出部66の長さは、図3(a)に示すような長さに限られず、例えば半周以上の長さにして、別の支持部材で固定してもよい。また、余剰ガス噴出部66は、余剰ガス供給部62の下流端と余剰ガス噴出部66の端が連続するものに限られず、例えば、余剰ガス供給部62の下流端が余剰ガス噴出部66の中央で連続しており、当該連続する部分からパイプタワー52の外周面に沿って右回り及び左回りの双方について周方向に延びている形状であってもよい。
【0030】
余剰ガス噴出部66には、図3(a)及び図3(b)に示すように、パイプタワー52の中心軸から半径方向に向かってボイルオフガスを噴出するように、余剰ガス噴出口67が形成されている。余剰ガス噴出口67は、前記パイプタワー52の周方向に沿って所定の間隔で配列された複数の貫通孔68で構成されている。貫通孔68から噴出される余剰ガスの気泡を小さくしてタンク内のLNGに凝縮しやすくするために、貫通孔68の径の大きさは極小であることが好ましい。
【0031】
余剰ガス噴出部66がパイプタワー52の内部に位置すると、パイプタワー52の内部のLNGだけに余剰ガスが触れてパイプタワー52の内部のLNGの温度が上昇して余剰ガスが凝縮しにくくなる。この実施形態では、余剰ガス噴出部66は、パイプタワー52の外部に位置するため、余剰ガスをパイプタワー52外部の大量の液化ガスに触れさせて、余剰ガスの凝縮を促進することができる。
【0032】
余剰ガス噴出部66は、パイプタワー52の近傍に配置されるのが望ましい。余剰ガス噴出部66がパイプタワー52から遠くなるにつれて、前記余剰ガス噴出部66への荷重が大きくなってしまうからである。また、余剰ガス噴出部66が前記パイプタワー52の近傍に配置されることにより、後述するように、タンク5内のLNGの下降流に余剰ガス噴出口67を位置づけることができ、余剰ガスの凝縮を促進させることができる。ここで、パイプタワー52の「近傍」とは、パイプタワー52からの範囲が、余剰ガス噴出部66がそれに加わる荷重に耐え得る範囲内であって、且つ、タンク5内のLNGの下降流が存在する範囲内をいう。
【0033】
ガスリターンライン6の下流端である余剰ガス噴出口67は、図2(a)及び図2(b)に示すように、前記タンク5の高さ方向の中央領域Rm、すなわち、タンク5を高さ方向に4等分した場合の上から2番目の領域である第2領域R2と3番目の領域である第3領域R3とを合わせた領域に位置している。
【0034】
ガスリターン弁71は、制御装置72に接続されており、ガスリターンライン6の開閉を行う。制御装置72は、ガス圧縮機4からの供給圧を測定するためにガスヘッダ34に設けられた圧力計73と接続されている。制御装置72では、圧力値の許容値を予め設定することができるようになっている。通常、ガスリターン弁71は閉じている。圧力計73から制御装置72に送られてきた圧力値が、制御装置72で設定された許容上限値を上回った場合、制御装置72がガスリターン弁71を開き、ガスリターンを開始する。圧力計73から制御装置72に送られてきた圧力値が、制御装置72で設定された許容下限値を下回った場合、制御装置72がガスリターン弁71を閉じ、ガスリターンを停止する。ガスリターン弁71は、圧力調整弁であり、ガスリターン弁71の弁開度はPID制御で決定し、ガスヘッダ圧をあらかじめ設定された値に保つように制御されている。圧力計73が設けられている位置は、ガス圧縮機4からガス燃料機関2までの間の余剰ガスの圧力を測定できる位置に設けられていればよく、ガスヘッダ34に限定されない。
【0035】
ガスリターン弁71は、圧力値以外の信号に基づいて制御されるものであってもよく、例えば、エンジン停止など、ガス流量急変が予想されるような特定の事象が発生したときに、その時の圧力に関係なく、ガスリターン弁71を開くように設定されていてもよい。
【0036】
ガスリターン弁71が開いて、ガスリターンライン6を介して余剰ガスがタンク5へと供給されるが、LNG運搬船1ではタンク5内にLNGを積載している(満載)時とほとんど積載していない(空載)時があり、それによって余剰ガスが液層に噴出される場合と気層に噴出される場合とが存在することになる。タンクの満載時と空載時の各場合のガスリターンについて、図2(a)及び図2(b)を参照して、以下説明する。
【0037】
図2(a)は、タンク5の概略断面図であり、タンク5の満載時にある状態を示している。一般的に、LNG運搬船は、産ガス地からガス消費地へとLNGを運搬する際には、LNG運搬船に搭載されたLNG貯蔵タンクを満載にした状態で運搬する。この実施形態におけるタンク5では、例えばタンク容量の約98.5%をLNGで満たした状態が「満載」である。すなわち、タンク5を満載にした状態では、タンク5内の約98.5%が液層であり、残りの約1.5%が気層である。LNGが自然気化して発生したボイルオフガスは、タンク5内の気層に存在する。
【0038】
満載時のLNGの液面Lは、図2(a)に示すように、タンク5を高さ方向に4等分した場合の上から1番目の領域である第1領域R1にある。この実施形態に係るLNG運搬船1では、ガスリターンライン6の下流端である余剰ガス噴出口67は、タンク5の第2領域R2又は第3領域R3に位置するため、余剰ガスは、満載時のタンク内の液層に噴出され、余剰ガスを凝縮させることができる。満載時には、タンク内の気層の容積が小さいため、タンク内の気層に余剰ガスを噴出すると、タンク圧が上がりすぎてしまうという問題が生じてしまうが、この実施形態では、満載時のタンク内の液層に余剰ガスが噴出され、液層に噴出された余剰ガスは、LNGの冷熱により凝縮するため、タンク圧上昇の問題を回避することができる。さらに、満載時のタンクの底部付近(第4領域R4)に余剰ガス噴出口67がある場合と比べて、圧力ヘッドが小さく、圧縮機の動力を抑えつつ、余剰ガスをタンクに戻すことができる。
【0039】
また、タンク5が満載である場合に、ガスリターンを行うには、ガスリターンライン6中に満たされているLNGを押しのけた後でなければ、余剰ガスをタンク5に供給することができない。そのため、ガスリターン開始のためにガスリターン弁71を開いてから実際に余剰ガスがタンク5に供給されるまでの間に時間遅れが生じる。満載時のタンク5の底部付近(第4領域R4)に余剰ガスを供給する場合は、この時間遅れが長くなり、ガスヘッダ34の圧力制御の障害になることがある。これに対して、タンク5の中央領域Rmにガスを供給する場合は、この時間遅れが軽減される効果がある。
【0040】
また、タンク5では、図2(a)に示すように、LNGが対流しており、タンクの中央には下降流が存在する。この実施形態に係るLNG運搬船1では、余剰ガス噴出部66は、タンク内の下降流が存在する位置に配置されており、余剰ガス噴出部66から噴出した余剰ガスは、前記タンク内の下降流に乗るため、浮上して気層に到達することがなく、余剰ガスの凝縮を促進することができる。
【0041】
図2(b)は、タンク5の概略断面図であり、タンク5の空載時にある状態を示している。一般的に、LNG運搬船は、ガス消費地から産ガス地へと航行する際には、LNG運搬船に搭載されたLNG貯蔵タンクを空載にした状態で航行する。この実施形態におけるタンク5では、例えばタンク容量の約1.5%をLNGで満たした状態が「空載」である。すなわち、タンク5を空載にした状態では、タンク内の約1.5%が液層であり、残りの約98.5%が気層である。満載時と同様に、LNGが自然気化して発生したボイルオフガスは、タンク内の気層に存在する。
【0042】
空載時のLNGの液面Lは、図2(b)に示すように、タンク5を高さ方向に4等分した場合の上から4番目の領域である第4領域R4にある。この実施形態に係るLNG運搬船1では、ガスリターンライン6の下流端である余剰ガス噴出口67は、タンク5の第2領域R2又は第3領域R3に位置するため、余剰ガスは、空載時のタンク内の気層に噴出される。空載時には、余剰ガス噴出口から噴出される余剰ガスの量に対してタンク内の気層の容積が十分に大きいため、タンク内の気層に余剰ガスを噴出しても、タンク圧が上がりすぎてしまうという問題は発生しない。従って、タンク5の満載時及び空載時のいずれの場合においても、タンク圧の急激な上昇を回避しつつ、少ない動力で余剰ガスをタンク5に戻すことができる。
【0043】
(その他の実施形態)
ガスリターンラインの下流側部分は、上記各実施形態のように必ずしもモス型タンクのパイプタワーに支持される必要はないが、パイプタワーで支持されるのがより好ましい。ガスリターンラインの下流側部分をパイプタワーで支持することができれば、ガスリターンラインを支持するための設備をタンクに別途備え付ける必要がなく、製造コストを抑えることができるからである。また、上記実施形態のLNG運搬船が備えるタンクは、モス型タンクであったが、これに限定されず、LNG運搬船が備えるタンクは、例えばメンブレン型タンクであってもよい。
【0044】
上記実施形態において、ガス燃料機関は、液化ガス運搬船の推進用主機として説明されたが、例えば、船舶の補機である発電用ガス燃料機関などでもよい。しかしながら、ガス燃料機関がLNG運搬船における舶用主機である場合には、エンジン極低運転する場合やエンジン負荷急減時の圧縮機の下流側の圧力上昇を回避することができるため、特に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、環境負荷低減のために、運搬するLNGを推進主機の燃料として利用するLNG運搬船として有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 LNG運搬船
2 ガス燃料機関
3 ガス供給ライン
34 ガスヘッダ
4 ガス圧縮機
5 タンク
52 パイプタワー
6 ガスリターンライン
6a ガスリターンラインの上流側部分
6b ガスリターンラインの下流側部分
62 余剰ガス供給部
66 余剰ガス噴出部
68 貫通孔
71 ガスリターン弁
BOG ボイルオフガス
C タンク内液化ガスの対流
L タンク内液化ガスの液面
LNG 液化天然ガス
Rm 中央領域
R1 第1領域
R2 第2領域
R3 第3領域
R4 第4領域
図1
図2
図3
図4