(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6419150
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】弾性繊維を含む布地を含む衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/00 20060101AFI20181029BHJP
C08G 69/00 20060101ALI20181029BHJP
A41D 13/12 20060101ALI20181029BHJP
D01F 6/84 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
A41D13/00 115
C08G69/00
A41D13/12 136
D01F6/84 301H
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-503661(P2016-503661)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公表番号】特表2016-520725(P2016-520725A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】EP2014055594
(87)【国際公開番号】WO2014154558
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月13日
(31)【優先権主張番号】13160825.9
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】13170057.7
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】アウッセムス, ヘンドリクス フランシスカス
(72)【発明者】
【氏名】クーレルス, マルティヌス ヨセフ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ビールナト, ヨアンナ
【審査官】
姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−301339(JP,A)
【文献】
特開平07−113007(JP,A)
【文献】
特開昭58−103463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
A41D 13/12
C08G 69/00
D01F 6/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服であって、前記衣服は弾性繊維を含む少なくとも1つの布地を含むことを特徴とし、前記弾性繊維は、20〜80重量%の、二量化脂肪酸又はその誘導体のモノマー単位、並びに、少なくとも1つのジカルボン酸及び少なくとも1つのジオールの更なるモノマー単位を含むコポリマーを含むポリマー組成物から作製される、スポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服。
【請求項2】
前記コポリマーは、20〜70重量%の前記二量化脂肪酸及び/又はその誘導体の前記モノマー単位を含む、請求項1に記載のスポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服。
【請求項3】
前記コポリマーは、30〜50重量%の前記二量化脂肪酸及び/又はその誘導体の前記モノマー単位を含む、請求項1又は2のいずれか一項に記載のスポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服。
【請求項4】
前記少なくとも1つのジカルボン酸は、テレフタル酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服。
【請求項5】
少なくとも1つのジオールは、1,4−ブタンジオールである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服。
【請求項6】
前記コポリマーは、少なくとも98重量%の、二量化脂肪酸及び/又は1つ以上のその誘導体のモノマー単位、1,4−ブタンジオール及びテレフタル酸からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、弾性繊維を含む少なくとも1つの布地を含む、スポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服に関する。
【0002】
こうした布地を含む衣服は周知であり、布地は、例えば、Spandex(商標)又はLycra(商標)繊維から作製される。
【0003】
弾性繊維の布地は、例えば、快適さを提供するために、身体をサポートするために、身体の各部を圧縮するために、且つ、衣服の形状を維持するために、衣服において役割を果たす。こうした衣服の例としては、下着、スポーツ衣服、シェイプウェア(shape wear)、又は更には、例えば、サポート用靴下などの医療的理由により定められた特別なサポート用衣類が挙げられる。
【0004】
衣服が布地の2つ以上の層を含む場合、通常、弾性繊維を含む布地は、衣服の内部に位置し、その結果、ほとんどの場合に、肌に触れ、或いは、着用者の肌に少なくとも近接する。
【0005】
弾性繊維を含む少なくとも1つの布地を含む衣服に関する問題は、ほとんどの場合に蒸散の形態で、衣服を着用している人の身体から放出された水分が、布地に蓄積することである。水分が布地に蓄積される場合、布地は湿潤し、水分は冷却しやすい。このように、冷たい部分が布地に形成され、特に、布地は、肌に位置し又は肌に近接することから、これは着用者にとって非常に不快である。衣服を着用している人が身体的労力を費やした場合、この労力を終えた後に、衣服は、依然として湿潤しており、不必要な冷却効果を有する。
【0006】
米国特許出願公開第2003/0186610号明細書では、疎水性糸条によって覆われた、弾性糸条を含む布地を含む衣服が開示されている。疎水性糸条の存在のため、水分は、着用者の肌から衣服の外層に放出されて、ここで、蒸発することができる。しかしながら、問題は、依然として親水性の弾性糸条が水分を吸収する布地に存在し、その結果、依然として水分は布地に蓄積することである。更には、糸条の構造が複雑である。
【0007】
本発明の目的は、この問題を示さない、スポーツ衣服、防護衣服、体形補整のための衣服、及び医療機能を備えた衣服を提供することである。驚くべきことに、衣服において、弾性繊維を含む少なくとも1つの布地を含む場合、この目的は達成され、この弾性繊維は、20〜80重量%の、二量化脂肪酸又はその誘導体のモノマー単位、並びに、少なくとも1つのジカルボン酸及び少なくとも1つのジオールの更なるモノマー単位を含むコポリマーを含むポリマー組成物から作製される。
【0008】
コポリマーにおける二量化脂肪酸又はその誘導体のモノマー単位の存在のため、コポリマーは、弾性の特徴を示し、その結果、繊維に弾性挙動をもたらす。
【0009】
驚くべきことに、本発明の衣服の布地においては、より少ない水分が蓄積し、且つ、同時に、布地は優れた弾性を示す。更には、布地を作製するために使用される糸条は、簡素で複雑ではない構造を有することができる。
【0010】
二量化脂肪酸は、オリゴマー形成反応によってモノマー不飽和脂肪酸から得られることができる。例えば、蒸留によって、オリゴマー混合物は更に処理されて、高含有量の二量化脂肪酸を有する混合物を産生する。二量化脂肪酸の二重結合は、接触水素化によって飽和することができる。本明細書で使用される二量化脂肪酸という用語は、飽和及び不飽和脂肪酸、これらの二量化脂肪酸の両方のタイプに関する。二量化脂肪酸は飽和であることが好ましい。
【0011】
弾性繊維のポリマー組成物のコポリマーは、二量化脂肪酸の誘導体のモノマー単位を含むことも可能である。例えば、二量化脂肪ジオールは、二量化脂肪酸のカルボン酸基、又は、その形成されたエステル基の水素化によって、二量化脂肪酸の誘導体として得られることができる。更に誘導体は、カルボン酸基、又はそれから形成されたエステル基をアミド基、ニトリル基、アミン基、又はイソシアネート基へと変換することによって得られることができる。
【0012】
二量化脂肪酸は、32個から44個までの炭素原子を含むことができる。好ましくは、二量化脂肪酸は36個の炭素原子を含む。
【0013】
二量化脂肪酸の構造及び特性に関する更なる詳細は、相当するユニケマ社(UNICHEMA)(エンメリヒ(Emmerich)、ドイツ)のリーフレット「Pripol C36−Dimer acid」又はコグニス社(COGNIS)(デュッセルドルフ(Duesseldorf)、ドイツ)の小冊子「Empol Dimer and Poly−basic Acids;Technical Bulletin 114C(1997)」に見られることができる。
【0014】
弾性繊維のコポリマーの生成において、二量化脂肪酸は、モノマーとして、或いは前駆オリゴマー又はポリマーとして使用可能である。一例においては、前駆体ポリマーは、ジオール又はジカルボン酸のいずれかの組み合わせとともに、二量化脂肪酸及び/又は二量化脂肪ジオールから形成されるポリエステルである。別の例においては、前駆体ポリマーは、ポリアミドを形成するジアミン又はジカルボン酸のいずれかの組み合わせとともに、二量化脂肪酸及び/又は二量化脂肪ジアミンから形成されるポリアミドである。前駆体ポリマーは、ポリエステルアミドであることも可能である。
【0015】
ジカルボン酸は、脂肪族又は芳香族であることができる。適切な脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、スベリン酸、セバシン酸、及びシクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。適切な芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルト−フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及びパラーフェニレンジカルボン酸が挙げられる。好ましくは、少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である。好ましくは少なくとも80モル%、より好ましくは少なくとも90モル%、最も好ましくは少なくとも98モル%の更なるモノマー単位のジカルボン酸のモノマー単位は、1つ以上の芳香族ジカルボン酸である。更なるモノマー単位のジカルボン酸の残部は、脂肪族ジカルボン酸を含むことができる。
【0016】
適切なジオールは、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの、脂肪族ジオールである。適切な芳香族ジオールの例は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンである。例えば、イソソルビド、イソマンニット、又はイソイジドなどの、糖系ジオールも使用されることができる。好ましくは50を超える、より好ましくは70を超える、特に90を超える、特に95を超え100モル%までのジオールは、脂肪族グリコール、好ましくはエチレングリコール、及び/又は1,4−ブタンジオールである。
【0017】
本発明の特に好ましい実施形態においては、更なるモノマー単位は、1,4−ブタンジオール及びテレフタル酸、エチレングリコール及びテレフタル酸、エチレングリコール及びナフタレンジカルボン酸、1,4−ブタンジオール及びナフタレンジカルボン酸、又はそれらの混合物である。最も好ましくは、更なるモノマー単位は、1,4−ブタンジオール及びテレフタル酸である。
【0018】
弾性繊維のコポリマーは、例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、更に特にポリ−1,3−プロピレングリコール又はポリ−1,2−プロピレングリコール、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(ヘキサメチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)コポリマー、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)コポリマー等などの、1つ以上のポリエーテルジオールの単位を更に含むことができる。
【0019】
好ましくは、コポリマーは、少なくとも95重量%、より好ましくは98重量%の、二量化脂肪酸及び/又は1つ以上のその誘導体のモノマー単位、1,4−ブタンジオール及びテレフタル酸からなる。
【0020】
好ましくは、コポリマーは、20〜70重量%、より好ましくは30〜50重量%の二量化脂肪酸及び/又はその誘導体のモノマー単位を含む。このことは、コポリマーの高い融点、並びに、高い柔軟性及び良好な低温特性を保証する。
【0021】
こうしたコポリマーの調製の例は、例えば、Handbook of Thermoplastics等、O.Olabishi、第17章、Marcel Dekker Inc.、ニューヨーク 1997年、ISBN 0−8247−9797−3に、Thermoplastic Elastomers、第2版、第8章、Carl Hanser Verlag(1996年)ISBN 1−56990−205−4に、Encyclopaedia of Polymer Science and Engineering、Vol.12、Wiley&Sons、ニューヨーク(1988年)、ISBN 0−471−80944、p.75〜117に、及びそれらに引用された文献に記載されている。
【0022】
コポリマーの生成の間又は後に、添加剤は加えられることができる。これらの添加剤は、抗酸化剤、紫外線吸収剤、核形成剤、染料又は色素、及び帯電防止剤として機能することができる。例えば、使用可能な安定化剤は、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5,−ジ−t−ブチル−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、及び3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシル−1,l−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどのヒンダードフェノール抗酸化剤、或いは、亜リン酸トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)、亜リン酸トリラウリル、亜リン酸2−t−ブチル−アルファ−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−p−クメニル−ビス(p−ノニルフェニル)などの安定化剤である。前述の紫外線吸収剤の例としては、例えば、サリチル酸p−t−ブチルフェニル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシ−ブチルオフェノン等が挙げられる。前述の核形成剤の例は、滑石、安息香酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウムなどのカルボン酸塩、酸化チタン等である。
【0023】
二量化脂肪酸又はその誘導体のモノマー単位を含むコポリマーを含むポリマー組成物は、好ましくは、少なくとも50重量%のコポリマー、より好ましくは少なくとも75重量%のコポリマー、最も好ましくは少なくとも90重量%のコポリマーを含む。
【0024】
弾性繊維は、二量化脂肪酸又はその誘導体のモノマー単位を含むコポリマーを含むポリマー組成物の溶融紡糸によって作製されることができる。紡糸繊維は、撚られて合わされ糸条を形成することができる。又、加工糸条を作製することも可能である。布地は、弾性繊維の糸条を織る又は編むことによって作製されることができる。
【0025】
布地は、100重量%の弾性繊維を含むことができるが、布地は、すべての種類の重量比において、弾性繊維及び1つ以上の更なる繊維を含むことも可能である。更なる繊維の例としては、PET繊維、ナイロン繊維、綿繊維等が挙げられる。例えば、布地は、95重量%のPET繊維及び5重量%の弾性繊維を含むことが可能である。
【0026】
医学的機能を備える衣服の例としては、リンパ管疾患及び静脈障害用の衣類が挙げられる。
【0027】
親水性被覆で弾性繊維を被覆することも可能である。その場合には、水分は、更により急速に皮膚から放出される。
【0028】
[比較実験A及びB、実施例I]
100×100mmの大きさを有する弾性布地を、DIN 53923、version 1978−01に従って、水吸収について試験した。
【0029】
試験を20℃及び65%の相対湿度で実施した。試料を、60秒の期間の間、20℃の水に浸漬し、その後120秒間、垂れ落ちさせた。浸漬の前(W
bef)、及び、浸漬の後(W
af)の布地の重量を測定した。水吸収を、[(W
af−W
bef)/W
bef]×100%によって算出した。
【0030】
それぞれの布地の中で、5つの試料を試験し平均値を得た。比較実験Aの布地は、PET/Elastan糸条からなり、比較実験Bの布地は、PA/Elastan糸条からなる。実施例Iの布地は、二量化脂肪のモノマー単位、1,4−ブタンジオール、及びテレフタル酸を含むポリマー、Arnitel(商標)Ecoの糸条からなる。結果を表1に示す。
【0032】
本発明による布地は、最新技術による布地よりはるかに低い水吸収を明らかに示している。