(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
食品の中には、しばしば、ゼラチン臭、菌臭、けもの臭、青臭みなどの不快臭を有するものがある。不快臭があると当該食品の魅力は低減してしまう。また、不快臭を有する食品が、食品素材として他の食品に添加される場合には、添加量によっては、当該他の食品の風味に悪影響を与えてしまうことがある。
そこで、食品の不快臭をマスキングする方法の開発が強く望まれている。
【0003】
従来、ブドウの果実あるいは果皮や種子の抽出物が、食品の不快臭をマスキングする効果を有することが知られている。
ブドウの果実あるいは果皮や種子の抽出物が有する上記効果を利用した技術としては、ぶどうの種子又は皮の抽出物を添加、含有せしめたことを特徴とする蛋白食品(特許文献1参照)、タンニン又はフラボノイドの苦味成分を含有する食品に、苦味をマスキングするに足りる量のぶどうの果実又はその加工物が添加されることにより前記苦味がマスキングされてなることを特徴とする食品(特許文献2参照)、ブドウ種子抽出物等からなる群から選ばれる1種又は2種以上を、1〜1000ppm 濃度添加したことを特徴とする魚の味噌煮用出汁(特許文献3参照)、水だけを溶剤として使用し抽出した、ブドウ果皮抽出物および或いはブドウ種子抽出物添加により風味を改善した食品の製造方法(特許文献4参照)、果実の果汁又は搾汁由来の画分であり、該画分は、ポリフェノールと該画分の酸加水分解後の糖類の物質量比(ポリフェノール/糖類)が、0.1〜10であることを特徴とする風味改善剤(特許文献5参照)が開示されている。しかし、いまだ満足のいくものが得られていないのが実情である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるブドウ果皮のβ−グルコシダーゼ処理物(以下「ブドウ果皮酵素処理物」という)とは、ブドウ果皮をβ−グルコシダーゼ処理して得られるものを指す。ブドウ果皮のブドウの品種としては特に制限はないが、例えば、甲州、シャルドネ、巨峰、デラウェラ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどが挙げられる。
【0009】
上記ブドウ果皮としては、ブドウ果皮が含まれているものであれば良く、果皮の他に果肉、種子などが含まれていても良い。ブドウ果皮を得る方法としては、ブドウの果実を圧搾して得る方法、ブドウの果実から皮を剥いて得る方法などが挙げられる。尚、ブドウ果皮としては、ブドウ果汁やワインの製造工程で多量に排出される搾汁粕を用いることができる。
【0010】
上記β−グルコシダーゼとは、糖のβ−グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。β−グルコシダーゼの由来としては特に制限はなく、微生物由来、植物由来のものなどが挙げられる。当該微生物としては例えば、Asperugillus niger、Trichoderma reesei、Trichoderma virideなどが挙げられる。当該植物としては例えば、アーモンドなどが挙げられる。
【0011】
上記β−グルコシダーゼとしては、スミチームBGA(商品名;新日本化学工業社製)、アロマーゼ(商品名;天野エンザイム社製)、SPEZYME Cp(商品名;ジェネンコア協和社製)、ナリンギナーゼ(商品名;田辺三菱製薬社製)、Y−NC(商品名;ヤクルト薬品工業社製)などが商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0012】
ブドウ果皮をβ−グルコシダーゼ処理する方法としては、ブドウ果皮を十分にβ−グルコシダーゼ処理できる方法であれば特に制限はないが、例えば、ブドウ果皮、β‐グルコシダーゼ及び水を混合し、当該混合物の温度が好ましくは約25〜70℃、さらに好ましくは45〜65℃の状態で、好ましくは約0.5〜12時間、さらに好ましくは約1〜8時間、公知の攪拌機を用いて攪拌し続ける方法などが挙げられる。ブドウ果皮、β−グルコシダーゼ及び水の混合物のpHに特に制限はないが、好ましくは約2.0〜8.0、さらに好ましくは約3.0〜5.5である。
【0013】
β−グルコシダーゼ処理する際の、ブドウ果皮100質量部に対するβ−グルコシダーゼの添加量としては、ブドウ果皮を十分にβ−グルコシダーゼ処理できる量であれば特に制限はないが、例えば、β−グルコシダーゼの酵素活性が2000U/g(40℃、10分間の反応条件下で、基質のpNP−β−GLcからp−nitorophenolを1分間に1μmol生成する酵素活性を1U/gとする)の場合、ブドウ果皮100質量部に対して、好ましくは約0.05〜5.0質量部、さらに好ましくは約0.1〜3.0質量部である。
ブドウ果皮100質量部に対する水の添加量に特に制限はないが、好ましくは約150〜500質量部、さらに好ましくは約200〜400質量部である。
【0014】
β−グルコシダーゼ処理を行う際のブドウ果皮は、植物組織分解酵素により酵素処理されているか、又は物理的に細分化処理されていることが好ましい。これらの処理により、β−グルコシダーゼ処理を効率的に行うことができる。
【0015】
上記植物組織分解酵素とは、植物組織を構成する細胞壁や中葉に存在する、セルロース、ヘミセルロース、ペクチンなどを分解する酵素であり、例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼなどが挙げられ、これらの植物組織分解酵素の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
植物組織分解酵素を用いて酵素処理する方法としては、ブドウ果皮を十分に酵素処理できる方法であれば特に制限はないが、ブドウ果皮、植物組織分解酵素及び水を混合し、当該混合物の温度が好ましくは約40〜70℃、さらに好ましくは約40〜65℃の状態で、好ましくは約0.5〜12時間、さらに好ましくは約1〜8時間公知の攪拌機を用いて攪拌し続ける方法などが挙げられる。ブドウ果皮、植物組織分解酵素及び水の混合物のpHは好ましくは約2.0〜7.0、さらに好ましくは約3.5〜6.0である。
【0017】
植物組織分解酵素によりブドウ果皮を酵素処理する際の、ブドウ果皮100質量部に対する植物組織分解酵素の添加量としては、ブドウ果皮を十分に酵素処理することができる量であれば特に制限はないが、例えば、植物組織分解酵素として、酵素活性が2000U/g(40℃、10分間の反応条件下で、グルコースに相当する還元糖を1分間に1μmol生成する酵素活性を1U/gとする)のセルラーゼを用いる場合、ブドウ果皮100質量部に対して、好ましくは約0.05〜5.0質量部、さらに好ましくは約0.1〜3.0質量部である。
植物組織分解酵素として、酵素活性が600000U/g(pH3.5のリンゴ果汁25mLを基質とし、45℃、1時間の反応条件下で、含まれるペクチンを分解する、すなわちイソプロパノールによるゲル形成が認められなくなる酵素活性を30U/gとする)のペクチナーゼを用いる場合、ブドウ果皮100質量部に対して、好ましくは約0.05〜5.0質量部、さらに好ましくは約0.1〜3.0質量部である。
ブドウ果皮100質量部に対する水の添加量に特に制限はないが、好ましくは約150〜500質量部、さらに好ましくは約200〜300質量部である。
【0018】
植物組織分解酵素による酵素処理は、β−グルコシダーゼ処理と同時に、あるいはβ−グルコシダーゼ処理の前に行うことができるが、β−グルコシダーゼ処理と同時に行うのが、効率的な作業の面から好ましい。
【0019】
物理的に細分化処理する方法としては、フードプロセッサーや摩砕機などの公知の装置を用いて、ブドウ果皮を好ましくは0.5cm以下に細分化処理する方法が挙げられる。
【0020】
ブドウ果皮酵素処理物は、β−グルコシダーゼを失活させることが好ましい。β−グルコシダーゼを失活させる方法に特に制限はないが、例えば、ブドウ果皮酵素処理物を約80〜90℃で、約30〜60分間公知の攪拌機を用いて攪拌し続ける方法などが挙げられる。
【0021】
また、ブドウ果皮酵素処理物は、食品に添加することを考慮して、濾過を行うなどの方法により、不溶性残渣を取り除くことが好ましい。
【0022】
本発明のブドウ果皮酵素処理物の形態に特に制限はなく、β−グルコシダーゼ処理後の固液混合の形態、当該固液混合物を固液分離することにより得られる液状の形態、当該液状物を噴霧乾燥、ドラム乾燥、ベルト乾燥、凍結乾燥する方法などの方法で粉末化して得られる粉末状の形態などが挙げられる。
【0023】
上記粉末化の際には、バインダーとして、デキストリン、加工でん粉などを液状のブドウ果皮酵素処理物に添加した上で粉末化することができる。
【0024】
本発明の食品用マスキング剤は、食品に添加することによって、当該食品の不快臭をマスキングすることができる。不快臭を有する食品としては、例えば、ゼラチン、マッシュルームエキス、野菜類などが挙げられ、これらの食品を食品素材として配合するたれ類、スープ類、ドレシング類、野菜ジュースその他各種加工品も不快臭を有する食品に含まれる。本発明の食品用マスキング剤を含有する食品も本発明の形態の一つである。
【0025】
本発明の食品用マスキング剤の食品への添加量としては、当該食品の形態や、不快臭の程度によっても変わるので一概には言えないが、食品100質量部に対して、例えば、約0.05〜60質量部、好ましくは約0.1〜50質量部である。
【0026】
本発明の食品用マスキング剤を食品に添加することを特徴とする食品のマスキング方法も本発明の形態の一つである。
【0027】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0028】
<食品用マスキング剤の作製>
(1)原材料
ブドウ果皮(株式会社ニッショウより入手した、工業的なブドウ(甲州種)の搾汁工程で排出された搾汁粕)
β−グルコシダーゼ(商品名:スミチームBGA;新日本化学工業社製、酵素活性:2000U/g)
植物組織分解酵素(セルラーゼ)(商品名:スミチームAC;新日本化学工業社製、酵素活性:2000U/g)
植物組織分解酵素(ペクチナーゼ)(商品名:セルロシンPE60;エイチビイアイ社製、酵素活性:600000U/g)
水
【0029】
(2)配合
上記原材料を用いて作製した食品用マスキング剤の配合を表1に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
(3)作製
[実施例1、2、比較例2]
2Lのステンレス容器に、表1に記載の2倍量の原材料を加え、ウォーターバス(型式:FWB−240;Fine社製)を用いて加熱しながら、スリーワンモーター(型式:FBLh600;HEIDON社製)を用いて250rpmで撹拌した。混合物が50℃に達温した後、さらに3時間攪拌して酵素処理を行い、ブドウ果皮酵素処理物を得た。次に、ブドウ果皮酵素処理物をさらに加温し、80℃達温後、30分間攪拌を続け、酵素を失活させた。その後ブドウ果皮酵素処理物を10メッシュの篩(目開き2mm)にかけ、さらに濾紙(商品名:定性濾紙No.2;東洋濾紙社製)を用いて吸引濾過することより、不溶性残渣を除去した。不溶性残渣除去後のブドウ果皮酵素処理物550gを凍結乾燥機(型式:RLE II−103;共和真空凍結技術社製)を用いて粉末化し、食品用マスキング剤(実施例品1、2、比較例品2)約25gを得た。
【0032】
[比較例1]
2Lのステンレス容器に、表1に記載の2倍量の原材料を加え、ウォーターバス(型式:FWB−240;Fine社製)を用いて加熱しながら、スリーワンモーター(型式:FBLh600;HEIDON社製)を用いて250rpmで撹拌した。混合物が50℃に達温した後、さらに3時間攪拌して、ブドウ果皮水抽出物を得た。次に、ブドウ果皮水抽出物をさらに加温し、80℃達温後、30分間攪拌した。その後、ブドウ果皮水抽出物を10メッシュの篩(目開き2mm)にかけ、さらに濾紙(商品名:定性濾紙No.2;東洋濾紙社製)を用いて吸引濾過することより、不溶性残渣を取り除いた。不溶性残渣除去後のブドウ果皮水中抽出物550gを凍結乾燥機(型式:RLE II−103;共和真空凍結技術社製)を用いて粉末化し、食品用マスキング剤(比較例品1)約16gを得た。
【0033】
<ゼラチンでのマスキング効果の確認試験>
ゼラチンの不快臭のマスキング効果を確認するため、以下の方法により評価を行った。
下記表2に記載の等倍量のゼラチン(商品名:100PS30;ユニテックフーズ社製)に、下記表2に記載の等倍量の食品用マスキング剤(実施例品1及び2又は比較例品1及び2のいずれか)及び水を添加し、スリーワンモーター(型式:FBLh600;HEIDON社製)を用いて混合し、当該混合物(試験区1〜6)の香りの官能評価を行った。
【0034】
【表2】
【0035】
官能評価は、下記表3に示す評価基準に従い10名のパネラーでおこなった。また、結果はそれぞれ10名の評価点の平均値として求め、下記基準にて記号化した。結果を表4に示す。
記号化
◎:平均値3.5以上
〇:平均値2.5以上3.5未満
△:平均値1.5以上2.5未満
×:平均値1.5未満
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
結果より、実施例品1及び2を添加した試験区1〜4は、不快臭が十分にマスキングされていた。
一方、比較例品1を添加した試験区5は、不快臭がマスキングされていなかった。また比較例品2を添加した試験区6も、不快臭がほとんどマスキングされていなかった。
【0038】
<マッシュルームエキスでのマスキング効果の確認試験>
マッシュルームエキスの不快臭のマスキング効果を確認するため、以下の方法により評価を行った。
マッシュルームエキス(商品名:マッシュルームエキス;DOINGCOM社製)50gに、食品用マスキング剤(実施例品1及び2又は比較例品1及び2のいずれか)0.25g及び水200gを添加し、スリーワンモーター(型式:FBLh600;HEIDON社製)を用いて混合し、得られた混合物(試験区7〜10)の官能評価を、ゼラチンの不快臭のマスキング効果の確認試験における評価基準及び評価方法と同一の方法及び基準で評価した。結果を表5に示す。
【0039】
【表5】
結果より、実施例品1及び2を添加した試験区7及び8は、不快臭が十分にマスキングされていた。
一方、比較例品1を添加した試験区9は、不快臭がマスキングされていなかった。また比較例品2を添加した試験区10も、不快臭がほとんどマスキングされていなかった。
【0040】
<マッシュルームエキス含有スープの作製>
固形コンソメ(商品名:コンソメ;日本生活協同組合連合会社製)1個5.5gを湯300gに溶いてコンソメスープを得た。次にコンソメスープ240gに、マッシュルームエキス(商品名:マッシュルームエキス;DOINGCOM社製)30g、食品用マスキング剤(実施例品1及び2又は比較例品1及び2のいずれか)0.3gを添加して攪拌し、マッシュルームエキス含有スープ(試作品1〜4)を作製した。
【0041】
<マッシュルームエキス含有スープの評価>
得られたマッシュルームエキス含有スープ(試作品1〜4)の香りの官能評価を、ゼラチンの不快臭のマスキング効果の確認試験における評価基準及び評価方法と同一の方法及び基準で評価した。結果を表6に示す。
【0042】
【表6】
結果より、実施例品1及び2を配合した試作品1及び2は、不快臭が十分にマスキングされていた。
一方、比較例品1を配合した試作品3は、不快臭がマスキングされていなかった。比較例品2を配合した試作品4は、不快臭がほとんどマスキングできていなかった。