特許第6419627号(P6419627)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6419627
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物及び粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20181029BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20181029BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20181029BHJP
【FI】
   C09J133/04
   C09J11/06
   C09J7/38
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-70272(P2015-70272)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-190903(P2016-190903A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】前田 智也
(72)【発明者】
【氏名】狩野 肇
【審査官】 佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−258545(JP,A)
【文献】 特開2014−224227(JP,A)
【文献】 特開2014−094984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が300000以上1800000以下である(メタ)アクリル系ポリマーと、
カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が70mgKOH/g以上であり、重量平均分子量が1000以上30000以下である(メタ)アクリル系オリゴマーと、
架橋剤と、
テルペンフェノール系タッキファイヤーと、を含み、
前記(メタ)アクリル系ポリマーと前記(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計質量に対する(メタ)アクリル系オリゴマーの割合が1質量%以上40質量%以下であり、
前記(メタ)アクリル系ポリマーと前記(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計100質量部に対する前記テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量が0.1質量部以上5質量部以下であり、
下記の式により算出される酸価の合計が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である、粘着剤組成物。
【数1】

【請求項2】
前記架橋剤の含有量は、前記(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基と前記(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるカルボキシ基との合計1当量に対して、架橋に寄与する官能基が0.5当量以上2.0当量以下となる量である、請求項に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系オリゴマーは、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度(Tg)が−50℃以下であるモノマーに由来する構成単位を、前記(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に対して50質量%以上含む、請求項又は請求項に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−50℃以下である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記架橋剤は、エポキシ化合物及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
基材と、前記基材上に設けられ、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の粘着剤組成物に由来する粘着剤層と、を備える粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物及び粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板、塗装鋼板、合成樹脂板等の物品を加工したり運搬したりする際に、物品の表面を損傷、汚れ等から防止するために粘着フィルムを貼り付けて保護することが行われている。粘着フィルムは、物品の保護が不要になった段階で物品から剥離される。ここで使用される粘着フィルムは、一般に、シート状の基材の片面に、物品(以下、「被着体」ともいう。)に貼り付けるための粘着剤層を有している。
【0003】
粘着フィルムの粘着剤層には、被着体の保護が必要とされる間は被着体の表面上でずれが生じたり被着体の表面から脱落したりすることがない程度の粘着性を有し、かつ、被着体の保護が不要となった段階では被着体から剥離しやすいこと(以下、「剥離性」ともいう。)が求められる。
【0004】
また、被着体は、粘着フィルムによって保護された状態で加熱処理されることがある。一般的に、粘着フィルムは、例えば100℃の加熱処理によって粘着剤層の粘着力が上昇して被着体から剥離し難くなる。このため、粘着フィルムには、加熱処理後であっても、剥離性が良好であることが求められる。
【0005】
これらの要求に対し、特許文献1では、加熱処理後も粘着力の上昇が少ない粘着剤として、アクリル系ポリマーに反応性オリゴマーを加えた粘着剤組成物が開示されている。また、特許文献2では、官能基を有するアクリル系高分子量共重合体と、官能基を有するアクリル系低分子量共重合体とを含む粘着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−277707号公報
【特許文献2】特開2008−38103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、粘着フィルムを被着体から剥離する力(以下、「剥離力」ともいう。)は、剥離速度によって変化すること(以下、「剥離速度依存性」ともいう。)が知られている。また、剥離速度が速いほど大きな剥離力が必要となる傾向がある。加熱処理された粘着フィルムは、粘着剤層の粘着力が上昇しているため、被着体から剥離し難くなることがあり、特に高速での剥離性(以下、「高速剥離性」ともいう。)が悪くなりやすい。
高速剥離性が劣る場合は低速で剥離することが考えられるが、低速での剥離は効率が悪い。
そのため、粘着フィルムには、剥離速度を上げて効率を向上させる観点から、高速剥離性に優れることが求められる。
【0008】
また、粘着フィルムの剥離速度は一定ではないため、剥離速度によっては、被着体から剥離する際に、粘着フィルムが被着体から剥がれ難くなり、被着体が破損する場合がある。
そのため、粘着フィルムには、剥離速度が変わっても剥離力が変化し難いこと、即ち、剥離速度依存性が低いことも求められる。
【0009】
これに対して、上記の特許文献1及び2では、加熱処理後の高速剥離性及び剥離速度依存性について、何ら検討がなされていない。また、上記の特許文献1及び2に記載されているような従来の粘着剤組成物における加熱処理後の高速剥離性及び剥離速度依存性は、近年の要求に対して十分といえる水準にない場合があることがわかった。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低い粘着フィルムを製造し得る粘着剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、当該粘着剤組成物に由来する粘着剤層を備え、加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低い粘着フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が300000以上1800000以下である(メタ)アクリル系ポリマーと、
架橋剤と、
テルペンフェノール系タッキファイヤーと、を含み、
前記(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対する前記テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量が0.1質量部以上5質量部以下である、粘着剤組成物。
【0012】
<2> カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が70mgKOH/g以上であり、重量平均分子量が1000以上30000以下である(メタ)アクリル系オリゴマーを更に含み、
前記(メタ)アクリル系ポリマーと前記(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計質量に対する(メタ)アクリル系オリゴマーの割合が1質量%以上40質量%以下であり、
前記テルペンフェノール系タッキファイヤーの前記含有量が、前記(メタ)アクリル系ポリマーと前記(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計100質量部に対する前記テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量であり、
下記の式により算出される酸価の合計が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である、<1>に記載の粘着剤組成物。
【0013】
【数1】
【0014】
<3> 前記架橋剤の含有量は、前記(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基と前記(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるカルボキシ基との合計1当量に対して、架橋に寄与する官能基が0.5当量以上2.0当量以下となる量である、<2>に記載の粘着剤組成物。
【0015】
<4> 前記(メタ)アクリル系オリゴマーは、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度(Tg)が−50℃以下であるモノマーに由来する構成単位を、前記(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に対して50質量%以上含む、<2>又は<3>に記載の粘着剤組成物。
【0016】
<5> 前記(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−50℃以下である、<1>〜<4>のいずれか1つに記載の粘着剤組成物。
【0017】
<6> 前記架橋剤は、エポキシ化合物及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>〜<5>のいずれか1つに記載の粘着剤組成物。
【0018】
<7> 基材と、前記基材上に設けられ、<1>〜<6>のいずれか1つに記載の粘着剤組成物に由来する粘着剤層と、を備える粘着フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低い粘着フィルムを製造し得る粘着剤組成物を提供できる。
また、本発明によれば、当該粘着剤組成物に由来する粘着剤層を備え、加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低い粘着フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0021】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0022】
本明細書において「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0023】
本明細書において「粘着剤組成物」とは、(メタ)アクリル系ポリマーと、イソシアネート化合物と、テルペンフェノール系タッキファイヤーとを混合した後から、架橋反応が終了する前の、液状又はペースト状の物質を意味する。
本明細書において「粘着剤層」とは、粘着剤組成物の架橋反応が終了した後の物質を意味する。
本明細書において「(メタ)アクリル系ポリマー」又は「(メタ)アクリル系オリゴマー」とは、これらを構成するモノマーのうち、少なくとも主成分であるモノマーが(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであるポリマー又はオリゴマーを意味する。ここでいう主成分であるモノマーとは、ポリマー又はオリゴマーを構成するモノマーの中で最も含有率(質量%)が大きいモノマーを意味する。本発明における(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーのある実施態様では、主成分である(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率が全構成単位の50質量%以上である。
本明細書において「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両方を意味する。
【0024】
[粘着剤組成物]
本発明の粘着剤組成物は、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が300000以上1800000以下である(メタ)アクリル系ポリマーと、架橋剤と、テルペンフェノール系タッキファイヤーと、を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対する前記テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量が0.1質量部以上5質量部以下である。
【0025】
本発明の粘着剤組成物は、上記要件を満たすことで、加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低い粘着フィルムを製造し得る粘着剤組成物となる。
【0026】
一般的に、タッキファイヤー(粘着付与剤)は、粘着力やタック力を上昇させるために、粘着剤組成物に添加されて使用されている。
本発明者は、少量のテルペンフェノール系タッキファイヤーを、カルボキシ基を含有する(メタ)アクリル系ポリマー及び架橋剤とともに含む粘着剤組成物が、予想外にも、加熱による粘着力の上昇を抑えられ、高速剥離時に良好な剥離性を示すとともに、粘着力の剥離速度依存性を低く抑えられることを見出した。
本発明の粘着剤組成物が、このような効果を奏し得る理由については明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。
【0027】
一般的に、粘着フィルムでは、加熱により粘着剤層の粘着力が上昇する。この粘着力の上昇は、加熱により樹脂が柔らかくなり、被着体へ過度に濡れ広がることが原因である。また、粘着フィルムを被着体から剥離する力(剥離力)には、剥離速度依存性があり、剥離速度が速いほど大きな剥離力が必要となる。加熱された粘着フィルムは、粘着剤層の粘着力が上昇しているため、高速剥離性が劣りやすい。
【0028】
本発明の粘着剤組成物では、(メタ)アクリル系ポリマーと、粘着力やタックが上昇しない程度の少量のテルペンフェノール系タッキファイヤーと、が架橋剤を介して架橋され、架橋体が形成される。本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーは、酸価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、架橋性の官能基である酸性基が多く十分な量の架橋点を含んでおり、タッキファイヤーは、架橋剤との反応性が良好なフェノール性水酸基を有していることから、形成される架橋体は密に架橋され、硬い。架橋体が硬いと、(メタ)アクリル系ポリマー部分が加熱により被着体へ過度に濡れ広がり難く、加熱による粘着力の上昇が抑えられるため、高速剥離性が優れたものとなると考えられる。
【0029】
また、一般的に、粘着力の剥離速度依存性は、粘着剤層の粘弾性と被着体への濡れ性とのバランスで決まる。
本発明の粘着剤組成物では、(メタ)アクリル系ポリマーと、テルペンフェノール系タッキファイヤーと、が架橋剤を介して架橋されることで、粘弾性と濡れ性とのバランスがとれるため、剥離速度依存性が低く抑えられると考えられる。
【0030】
なお、本発明の粘着剤組成物では、架橋点となる官能基がカルボキシ基であるため、架橋触媒を使用しなくても架橋することができるという利点を有する。
【0031】
本発明の粘着剤組成物は、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が70mgKOH/g以上であり、重量平均分子量が1000以上30000以下である(メタ)アクリル系オリゴマー(以下、「特定(メタ)アクリル系オリゴマー」ともいう。)を更に含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーと前記(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計質量に対する(メタ)アクリル系オリゴマーの割合が1質量%以上40質量%以下であり、前記テルペンフェノール系タッキファイヤーの前記含有量が、前記(メタ)アクリル系ポリマーと前記(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計100質量部に対する前記テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量であり、下記の式により算出される酸価の合計が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0032】
【数2】
【0033】
本発明の粘着剤組成物では、該粘着剤組成物に含まれるオリゴマーとして、酸価が70mgKOH/g以上と架橋点の多い(メタ)アクリル系オリゴマーを用いることで、オリゴマーを用いない場合よりも、架橋体が硬くなる。このため、オリゴマーを用いない場合より、加熱による被着体への過度の濡れ広がりが抑制され、より優れた高速剥離性及びより低い剥離依存性を示す。
また、一般的に、粘着フィルムを被着体から剥離した際に、被着体を汚染してしまい、被着体を廃棄する必要が生じる場合がある。そのため、粘着フィルムには、被着体を汚染する性質(以下、「汚染性」ともいう。)が低いこと、すなわち、被着体を汚染し難いことが求められる。さらに、オリゴマーを含む粘着剤組成物は、剥離の際にオリゴマーが被着体の表面に残りやすく、被着体を汚染しやすい傾向にある。特に、加熱処理によって粘着剤層の粘着力が上昇して剥離し難くなると、被着体の表面をより汚染しやすくなる。
これに対し、本発明の粘着剤組成物では、該粘着剤組成物に含まれるオリゴマーの架橋点が多く、架橋されていないオリゴマーが少ないため、被着体を汚染し難く、低い汚染性を示す。
【0034】
本明細書において「(メタ)アクリル系ポリマーの酸価」は、以下の計算式によって求められる。なお、以下の計算式において、56.1はKOHの分子量である。
【0035】
【数3】
【0036】
(メタ)アクリル系ポリマーに使用されるカルボキシ基を有するモノマーが2種以上である場合は、それぞれのモノマーについて上記の計算式に準じて酸価を求め、得られた値を合計して酸価を求める。
【0037】
本明細書において「(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価」は、以下の計算式によって求められる。なお、以下の計算式において、56.1はKOHの分子量である。
【0038】
【数4】
【0039】
(メタ)アクリル系オリゴマーに使用されるカルボキシ基を有するモノマーが2種以上である場合は、それぞれのモノマーについて上記の計算式に準じて酸価を求め、得られた値を合計して酸価を求める。
【0040】
本発明の粘着剤組成物が特定(メタ)アクリル系オリゴマーを更に含む場合、粘着剤組成物における上記の式により算出される酸価の合計は、加熱処理後の高速剥離性をより向上させ、かつ、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与する観点から、40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下が好ましく、45mgKOH/g以上80mgKOH/g以下がより好ましく、50mgKOH/g以上75mgKOH/g以下が更に好ましい。
【0041】
<(メタ)アクリル系ポリマー>
本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーは、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が300000以上1800000以下である。
【0042】
(メタ)アクリル系ポリマーがカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含むことで、架橋剤によって架橋される。
また、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であることで、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与しつつ、優れた高速剥離性も保持させ得る。
さらに、(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量が300000以上であることで、粘着剤層の粘弾性を調整しやすく、1800000以下であることで、架橋剤と混合してもゲル化し難くなり、混合後に貯蔵できる期間(以下、「ポットライフ」ともいう。)が長く、粘着フィルムを製造しやすい。
本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーは、1種のみであってもよく、モノマーの組成、重量平均分子量等が異なる2種以上であってもよい。
【0043】
本明細書において「カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位」とは、カルボキシ基を有するモノマーが付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0044】
カルボキシ基を有するモノマーの種類は、特に制限されない。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシ基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、及びω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。カルボキシ基を有するモノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
カルボキシ基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのポリアルキレングリコール部位を構成するアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、並びに、エチレングリコール及びプロピレングリコールの組み合わせが挙げられる。
【0046】
カルボキシ基を有するモノマーは、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与し、加熱処理後の高速剥離性をより向上させ、かつ、剥離速度依存性をより低く抑える観点からは、(メタ)アクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、カルボキシ基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸ダイマーからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、カルボキシ基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、及びω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0047】
さらに、本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリル系ポリマーがアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことで、粘着力を容易に調整できる。
【0048】
本明細書において「アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位」とは、アルキル(メタ)アクリレートが付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0049】
(メタ)アクリル系ポリマーがアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む場合、アルキル(メタ)アクリレートは、無置換のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、その種類は特に制限されない。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。また、アルキル基の炭素数は、1〜18の範囲が好ましく、1〜12の範囲がより好ましい。アルキル基の炭素数が上記の範囲内であると、粘着性及び粘着フィルムとしたときの基材との密着性が優れる。
【0050】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系ポリマーとテルペンフェノール系タッキファイヤーとの相溶性の観点からは、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−ノニルアクリレート、i−ノニルアクリレート、及びラウリルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0052】
(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に占めるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与しつつ、優れた高速剥離性も保持させる観点からは、全構成単位に対して50質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
また、(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に占めるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、汚染性を低く抑える観点からは、全構成単位に対して97質量%以下が好ましく、96質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましい。
【0053】
(メタ)アクリル系ポリマーは、全構成単位に対してアクリロイル基を有するモノマー(以下、「アクリルモノマー」ともいう。)に由来する構成単位を50質量%以上含むことが好ましい。(メタ)アクリル系ポリマーは、全構成単位に対してアクリルモノマーに由来する構成単位を50質量%以上含むことで、共重合性が良好となり、カルボキシ基を(メタ)アクリル系ポリマー中により均一に分布させ得るため、架橋のムラがより抑制され、汚染性をより低く抑えられる。
同様の観点から、(メタ)アクリル系ポリマーは、全構成単位に対してアクリルモノマーに由来する構成単位を60質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。
【0054】
(メタ)アクリル系ポリマーは、本発明の効果が発揮される範囲内において、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位、及び任意の構成単位であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位以外の構成単位(以下、「その他の構成単位」ともいう。)を含んでもよい。この場合、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位との合計の割合は、(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
【0055】
その他の構成単位を構成するモノマーの種類は、特に制限されない。
その他の構成単位を構成するモノマーとしては、具体的には、ベンジル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートに代表される環状基を有する(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、及びエトキシエチル(メタ)アクリレートに代表されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、及びビニルトルエンに代表される芳香族モノビニル、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニルに代表されるビニルエステル、並びにこれらのモノマーの各種誘導体が挙げられる。また、水酸基、グリシジル基、アミド基又はN−置換アミド基、三級アミノ基等の、カルボキシ基以外の官能基を有するモノマーが挙げられる。
【0056】
水酸基を有するモノマーとしては、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
グリシジル基を有するモノマーとしては、具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、及び3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテルが挙げられる。
【0058】
アミド基又はN−置換アミド基を有するモノマーとしては、具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、及びジアセトンアクリルアミドが挙げられる。
【0059】
三級アミノ基を有するモノマーとしては、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0060】
(メタ)アクリル系ポリマーの酸価は、高速剥離性をより向上させる観点からは、42mgKOH/g以上が好ましく、44mgKOH/g以上がより好ましい。
また、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価は、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与しつつ、優れた高速剥離性も保持させる観点から、80mgKOH/g以下が好ましく、75mgKOH/g以下がより好ましい。
【0061】
(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、汚染性を低く抑える観点からは、400000以上が好ましく、500000以上がより好ましい。また、(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量はポットライフを長くする観点からは、1400000以下が好ましく、1000000以下がより好ましい。
【0062】
(メタ)アクリル系ポリマーの数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)は、特に制限されない。例えば、汚染性を低く抑える観点からは、(メタ)アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は、1〜30の範囲が好ましい。
【0063】
(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、下記の方法により測定される値である。具体的には、下記(1)〜(3)に従って測定する。
(1)(メタ)アクリル系ポリマーの溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状の(メタ)アクリル系ポリマーを得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の(メタ)アクリル系ポリマーとテトラヒドロフランとを用いて、固形分濃度が0.2質量%である試料溶液を得る。
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記条件にて、標準ポリスチレン換算値として、(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定する。
【0064】
〜条件〜
測定装置:高速GPC(型番:HLC−8220 GPC、東ソー(株)製)
検出器:示差屈折率計(RI)(HLC−8220に組込、東ソー(株)製)
カラム:TSK−GEL GMHXL(東ソー(株)製)を直列に4本接続
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
注入量:100μL
流量:0.6mL/分
【0065】
(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−50℃以下が好ましい。(メタ)アクリル系ポリマーのTgが−50℃以下であると、(メタ)アクリル系ポリマーの弾性が十分に低いため、加熱処理による粘着力の上昇を抑制でき、高速剥離性がより優れる。また、(メタ)アクリル系ポリマーのTgが−50℃以下であると、(メタ)アクリル系ポリマーとテルペンフェノール系タッキファイヤーとの相溶性が高くなるため、タッキファイヤーとの架橋構造がより均一に形成される。これにより、加熱処理による粘着力の上昇を抑制でき、高速剥離性がより優れる。
【0066】
(メタ)アクリル系ポリマーのTgは、(メタ)アクリル系ポリマーを構成するモノマーの全部又は一部として、ホモポリマーとしたときのTgが−50℃以下であるモノマーを使用することにより、−50℃以下に調整できる。
ホモポリマーとしたときのTgが−50℃以下であるモノマーとしては、具体的には、ブチルアクリレート(−57℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(−76℃)、ラウリルメタクリレート(−65℃)、オクチルアクリレート(−65℃)、イソオクチルアクリレート(−58℃)、イソノニルアクリレート(−58℃)、及びイソミリスチルアクリレート(−56℃)が挙げられる。
【0067】
ホモポリマーとしたときのTgが−50℃を超えるモノマーとしては、具体的には、メチルアクリレート(5℃)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(−39℃)2−ヒドロキシエチルアクリレート(−15℃)、及びアクリル酸(166℃)が挙げられる。
【0068】
なお、「ホモポリマーとしたときのTg」とは、そのモノマーを単独で重合して製造したホモポリマーのTgをいう。ホモポリマーのTgは、そのホモポリマーを示差走査熱量測定装置(DSC)(型番:EXSTAR6000、セイコーインスツル(株)製)を用い、窒素気流中、測定試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定し、得られたDSCカーブの変曲点を、ホモポリマーのTgとしたものである。
【0069】
(メタ)アクリル系ポリマーのTgは、下記式から計算により求められる絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算した値である。
【0070】
【数5】
【0071】
式中、Tg1、Tg2、・・・、Tg(k−1)、Tgkは、(メタ)アクリル系ポリマーを構成する各モノマーの、ホモポリマーとしたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度をそれぞれ表す。w1、w2、・・・、w(k−1)、wkは、(メタ)アクリル系ポリマーを構成する各モノマーの質量分率をそれぞれ表し、w1+w2+・・・+w(k−1)+wk=1である。
なお、絶対温度(K)から273を引くことで絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算でき、セルシウス温度(℃)に273を足すことでセルシウス温度(℃)を絶対温度(K)に換算できる。
【0072】
<(メタ)アクリル系オリゴマー>
本発明の粘着剤組成物は、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、酸価が70mgKOH/g以上であり、重量平均分子量が1000以上30000以下である(メタ)アクリル系オリゴマーを更に含むことが好ましい。
本発明の粘着剤組成物が上記要件を満たす(メタ)アクリル系オリゴマーを更に含むことで、加熱処理による粘着力の上昇がより抑えられる。
【0073】
本発明の粘着剤組成物が(メタ)アクリル系オリゴマーを含む場合、当該(メタ)アクリル系オリゴマーは、1種のみであってもよく、モノマーの組成、重量平均分子量等が異なる2種以上であってもよい。
【0074】
(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位は、高速剥離性の向上、剥離速度依存性の低減、及び汚染性の低減に寄与する。
カルボキシ基を有するモノマーの種類は、特に制限されない。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、既述の(メタ)アクリル系ポリマーにおけるカルボキシ基を有するモノマーを挙げることができ、好ましい例も同様である。
【0075】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、粘着力の調整に寄与する。
アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、既述の(メタ)アクリル系ポリマーにおけるアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができ、好ましい例も同様である。
【0076】
(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に占めるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与しつつ、優れた高速剥離性も保持させる観点から、全構成単位に対して40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に占めるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、汚染性をより低く抑える観点から、全構成単位に対して95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましい。
【0077】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、全構成単位に対してアクリロイル基を有するモノマー(アクリルモノマー)に由来する構成単位を50質量%以上含むことが好ましい。全構成単位に対してアクリルモノマーに由来する構成単位を50質量%以上含むことで、共重合性が良好となり、カルボキシ基を(メタ)アクリル系オリゴマー中により均一に分布させ得るため、架橋のムラがより抑制され、汚染性をより低く抑えられる。
(メタ)アクリル系オリゴマーは、全構成単位に対してアクリルモノマーに由来する構成単位を60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことが更に好ましい。
【0078】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、本発明の効果が発揮される範囲内において、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位、及び任意の構成単位であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位以外の構成単位(その他の構成単位)を含んでもよい。この場合、(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に占めるカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位との合計の割合は、全構成単位に対して50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。
その他の構成単位を構成するモノマーとしては、既述の(メタ)アクリル系ポリマーにおけるその他の構成単位を構成するモノマーが挙げられる。
【0079】
(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価は、(メタ)アクリル系ポリマーと十分に架橋させ、高速剥離性をより向上させ、剥離速度依存性をより低く抑え、かつ、汚染性をより低く抑える観点から、70mgKOH/g以上が好ましく、80mgKOH/g以上がより好ましく、90mgKOH/g以上が更に好ましい。
また、(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価は、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与しつつ、優れた高速剥離性も保持させ、かつ、粘着剤層のヘイズを少なくする観点から、200mgKOH/g以下が好ましく、180mgKOH/g以下がより好ましく、160mgKOH/g以下が更に好ましい。
【0080】
(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量は、汚染性を低く抑える観点からは、1000以上が好ましく、4000以上がより好ましく、7000以上が更に好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量は、粘着剤層のヘイズを低くする観点からは、30000以下が好ましく、25000以下がより好ましく、20000以下が更に好ましい。
【0081】
(メタ)アクリル系オリゴマーの数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)は、特に制限されない。例えば、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与しつつ、優れた高速剥離性も保持させ、かつ、汚染性を低く抑える観点からは、(メタ)アクリル系オリゴマーの分散度(Mw/Mn)は、1〜30の範囲が好ましい。
【0082】
(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、既述の(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法と同様にして測定される。
【0083】
(メタ)アクリル系オリゴマーのガラス転移温度(Tg)は、−20℃以下が好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーのTgが−20℃以下であると、加熱処理による粘着力の上昇を抑制できるため、高速剥離性がより優れる。
【0084】
(メタ)アクリル系オリゴマーのガラス転移温度(Tg)は、既述の(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度の計算方法と同様にして計算される。
【0085】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度(Tg)が−50℃以下であるモノマーに由来する構成単位を、(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に対して50質量%以上含むことが好ましい。例えば、ホモポリマーとしたときのTgが−76℃である2−エチルヘキシルアクリレートを、(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に対して50質量%以上含むことが好ましい。この場合、(メタ)アクリル系オリゴマーのガラス転移温度が十分に低くなり、粘着剤層が被着体によりなじみやすくなるため、被着体の加工中等において粘着フィルムが脱落し難くなる。
ホモポリマーとしたときのTgが−50℃以下であるモノマーとしては、既述の(メタ)アクリル系ポリマーにおけるホモポリマーとしたときのTgが−50℃以下であるモノマーが挙げられる。
【0086】
本発明の粘着剤組成物が(メタ)アクリル系オリゴマーを含む場合、(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計質量に対する(メタ)アクリル系オリゴマーの割合は、1質量%〜40質量%が好ましく、3質量%〜30質量%がより好ましく、3質量%〜20質量%が更に好ましい。
(メタ)アクリル系オリゴマーの割合が1質量%以上であると、(メタ)アクリル系オリゴマーの添加による効果が十分に得られる。(メタ)アクリル系オリゴマーの割合が40質量%以下であると、加熱処理による粘着力の上昇を抑制できるため、高速剥離性がより優れる。また、(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーとが十分に架橋されるため、(メタ)アクリル系オリゴマーが被着体に残り難くなり、汚染性をより低く抑えられる。
【0087】
<架橋剤>
本発明の粘着剤組成物は、架橋剤を含む。架橋剤の種類は、本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマー、後述のテルペンフェノール系タッキファイヤー、及び任意成分である(メタ)アクリル系オリゴマーを架橋できるものであれば、特に制限されない。
架橋剤としては、例えば、エポキシ基を有するエポキシ化合物、及びイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を用いることができる。
【0088】
エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、トリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、及びN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンが挙げられる。これらのエポキシ化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
イソシアネート化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネートに代表される芳香族ポリイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、前記した芳香族ポリイソシアネート化合物の水素添加物に代表される鎖状又は環状の脂肪族ポリイソシアネート化合物、これらのポリイソシアネート化合物のビウレット体、2量体、3量体又は5量体、これらのポリイソシアネート化合物と、トリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体が挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
本発明の粘着剤組成物が透明性を重視する用途に使用される場合、エポキシ化合物は、トリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、及び1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサンがより好ましい。また、イソシアネート化合物は、鎖状若しくは環状の脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び、鎖状若しくは環状の脂肪族ポリイソシアネート化合物のビウレット体、2量体、3量体、5量体又はアダクト体からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体であるイソシアヌレート構造を有するイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体、及びヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。これらのイソシネート化合物は、芳香環に由来する構造を有していないので、加熱処理後の粘着剤層が黄変し難く、透明性により優れる粘着フィルムが得られる。
透明性を重視する用途としては、例えば、光学部材の表面保護フィルム用途が挙げられる。
【0091】
架橋剤は、市販品を使用できる。
架橋剤としてのエポキシ化合物の市販品としては、例えば、三菱ガス化学(株)製の「テトラッド−X」及び「テトラッド−C」の商品名により市販されているものを好適に使用できる。
架橋剤としてのイソシアネート化合物の市販品としては、例えば、日本ポリウレタン(株)製の「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネートL」、「コロネート2031」、「コロネート2030」、「コロネート2234」、「コロネート2785」、「アクアネート200」、及び「アクアネート210」、住化バイエルウレタン(株)製の「スミジュールN3300」、「デスモジュールN3400」、及び「スミジュールN−75」、旭化成工業(株)製の「デュラネートE−405−80T」、「デュラネート24A−100」、及び「デュラネートTSE−100」、並びに、三井武田ケミカル(株)製の「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」及び「MT−オレスターNP1200」の商品名により市販されているものを好適に使用できる。
【0092】
架橋剤の含有量は、例えば、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基〔本発明の粘着剤組成物が既述の(メタ)アクリル系オリゴマーを含む場合には、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基と(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるカルボキシ基との合計〕を1当量としたとき、このカルボキシ基(又は合計したカルボキシ基)1当量に対して、架橋に寄与する官能基(例えば、エポキシ基及びイソシアネート基)が0.5当量以上2.0当量以下となる量が好ましい。
架橋に寄与する官能基の当量が、カルボキシ基(又は合計したカルボキシ基)1当量に対して0.5当量以上であると、粘着剤層が十分に硬くなり、加熱処理による粘着力の上昇を抑制できるため、高速剥離性がより優れる。また、架橋していない(メタ)アクリル系オリゴマーの量が低く抑えられるため、汚染性をより低く抑えられる。架橋に寄与する官能基の当量が、カルボキシ基(又は合計したカルボキシ基)1当量に対して2.0当量以下であると、(メタ)アクリル系ポリマーと反応していない架橋剤の量が低く抑えられるため、汚染性をより低く抑えられる。
架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基〔本発明の粘着剤組成物が既述の(メタ)アクリル系オリゴマーを含む場合には、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基と(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるカルボキシ基との合計〕1当量に対して、架橋に寄与する官能基が0.55当量以上1.6当量以下となる量がより好ましく、0.6当量以上1.2当量以下となる量が更に好ましい。
【0093】
<テルペンフェノール系タッキファイヤー>
本発明の粘着剤組成物は、テルペンフェノール系タッキファイヤーを含む。
テルペンフェノール系タッキファイヤーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
本明細書において「テルペンフェノール系タッキファイヤー」とは、テルペン類とフェノール化合物との共重合体を意味する。
【0095】
テルペンフェノール系タッキファイヤーとしては、例えば、α‐ピネン、β‐ピネン、及びジペンテン(リモネン)に代表される単環式モノテルペン類と、フェノール、クレゾール、及びビスフェノールAに代表されるフェノール化合物との共重合体が挙げられる。
【0096】
テルペンフェノール系タッキファイヤーは、市販品を使用できる。市販品としては、例えば、ヤスハラケミカル(株)製の「YSポリスターU115」、「YSポリスターU130」、「YSポリスターT80」、「YSポリスターT100」、「YSポリスターT115」、「YSポリスターT130」、「YSポリスターTH130」、「YSポリスターT145」、「YSポリスターT160」、「YSポリスターS145」、「YSポリスターG125」、「YSポリスターG150」、「YSポリスターN125」、「YSポリスターK125」、及び「YSポリスターK140」、並びに、荒川化学工業(株)製の「タマノル803L」、及び「タマノル901」の商品名により市販されているものを好適に使用できる。
【0097】
テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量は、(メタ)アクリル系ポリマー〔本発明の粘着剤組成物が既述の(メタ)アクリル系オリゴマーを含む場合には、(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計〕100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下である。
テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量が(メタ)アクリル系ポリマー(又はアクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計)100質量部に対して0.1質量部以上であると、テルペンフェノール系タッキファイヤーの添加による効果が十分に得られる。テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量が(メタ)アクリル系ポリマー(又はアクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計)100質量部に対して5質量部以下であると、タッキファイヤー本来の性質の1つである粘着力を付与する効果が小さく、加熱処理による粘着力の上昇を十分に抑制できるため、高速剥離性がより優れる。
また、同様の観点より、テルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量は、0.3質量部以上4質量部以下が好ましく、0.5質量部以上3質量部以下がより好ましい。
【0098】
<その他の成分>
本発明の粘着剤組成物が、(メタ)アクリル系ポリマー、架橋剤、テルペンフェノール系タッキファイヤー、及び任意成分である(メタ)アクリル系オリゴマー以外に含んでもよい他の成分としては、例えば、架橋触媒、キレート剤、溶剤、耐候性安定剤、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤、酸化防止剤、(メタ)アクリル系ポリマー以外のポリマー、及び(メタ)アクリル系オリゴマー以外のオリゴマーが挙げられる。
なお、本発明の粘着剤組成物では、架橋点となる官能基がカルボキシ基であるため、架橋触媒を含まなくても架橋反応を終了させられる。
粘着剤組成物がこれらの他の成分を含む場合、当該他の成分の含有量は、本発明の効果が発揮される範囲内において、適宜設定できる。
【0099】
<(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの製造方法>
本発明の粘着剤組成物に使用される(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの製造方法は、特に制限されない。例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、及び塊状重合に代表される公知の重合方法で、モノマーを重合して製造できる。これらの中でも、重合方法としては、処理工程が比較的簡単であり、かつ、短時間で行える点で、溶液重合が好ましい。
【0100】
溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、モノマー、重合開始剤、及び必要に応じて連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させる。この場合、有機溶媒、モノマー、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の少なくとも一部を逐次添加してもよい。
【0101】
重合反応時に用いられる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、テトラリン、デカリン、及び芳香族ナフサに代表される芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−デカン、ジペンテン、石油スピリット、石油ナフサ、及びテレピン油に代表される脂肪系又は脂環族系炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、酢酸2−ヒドロキシエチル、酢酸2−ブトキシエチル、酢酸3−メトキシブチル、及び安息香酸メチルに代表されるエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサノンに代表されるケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルに代表されるグリコールエーテル類、並びに、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、及びt−ブチルアルコールに代表されるアルコール類が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの製造に際しては、エステル類、ケトン類等の重合反応中に連鎖移動を生じにくい有機溶媒の使用が好ましい。特に(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの溶解性、重合反応の容易さ等の観点からは、有機溶媒としては、酢酸エチル、メチルエチルケトン、及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0103】
重合開始剤としては、通常の溶液重合で用いられる有機過酸化物、アゾ化合物等を使用できる。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ジ−i−プロピルペルオキシジカルボナト、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカルボナト、t−ブチルペルオキシビバラト、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−アミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−α−クミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)ブタン、及び2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルペルオキシシクロヘキシル)ブタンが挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス−i−ブチルニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル、及び2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)が挙げられる。
【0104】
(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの製造に際しては、重合反応中にグラフト反応を起こさない重合開始剤の使用が好ましく、特にアゾビス系の重合開始剤が好ましい。
【0105】
重合開始剤の使用量は、(メタ)アクリル系ポリマーの製造に際しては、(メタ)アクリル系ポリマーを構成するモノマーの合計量100質量部に対して0.01質量部以上2質量部以下の範囲が好ましく、0.1質量部以上1質量部以下の範囲がより好ましい。
(メタ)アクリル系オリゴマーの製造に際しては、(メタ)アクリル系オリゴマーを構成するモノマーの合計量100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下の範囲が好ましく、1質量部以上10質量部以下の範囲がより好ましい。
【0106】
(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの製造に際しては、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて連鎖移動剤を使用できる。
連鎖移動剤としては、例えば、シアノ酢酸、シアノ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類、ブロモ酢酸、ブロモ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類、α‐メチルスチレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、及び9−フェニルフルオレンに代表される芳香族化合物類、p−ニトロアニリン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、p−ニトロ安息香酸、p−ニトロフェノール、及びp−ニトロトルエンに代表される芳香族ニトロ化合物類、ベンゾキノン及び2,3,5,6−テトラメチル−p−ベンゾキノンに代表されるベンゾキノン誘導体類、トリブチルボランに代表されるボラン誘導体、四臭化炭素、四塩化炭素、1,1,2,2−テトラブロモエタン、トリブロモエチレン、トリクロロエチレン、ブロモトリクロロメタン、トリブロモメタン、及び3−クロロ−1−プロペンに代表されるハロゲン化炭化水素類、クロラール及びフラルデヒドに代表されるアルデヒド類、炭素数1〜18のアルキルメルカプタン類、チオフェノール及びトルエンメルカプタンに代表される芳香族メルカプタン類、メルカプト酢酸、メルカプト酢酸の炭素数1〜10のアルキルエステル類、炭素数1〜12のヒドロキシアルキルメルカプタン類、並びに、ビネン及びターピノレンに代表されるテルペン類が挙げられる。
【0107】
連鎖移動剤の使用量は、例えば、(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーを構成するモノマーの合計量100質量部に対して0.005質量部以上10.0質量部以下の範囲にできる。
【0108】
(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーを製造する場合の重合温度としては、30℃〜180℃の範囲が好ましく、50℃〜150℃の範囲がより好ましく、50℃〜100℃の範囲が更に好ましく、60℃〜90℃の範囲が特に好ましい。
【0109】
<粘着フィルム>
本発明の粘着フィルムは、基材と、前記基材上に設けられ、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層と、を備える。すなわち、本発明の粘着フィルムは、基材と、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層とが、積層されている。本発明の粘着フィルムは、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有することで、加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低くなる。
【0110】
本発明の粘着フィルムを構成する基材の材料は、特に制限されない。基材の材料としては、透視による光学部材の検査及び管理の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びアクリル系樹脂が挙げられる。これらの中でも、基材の材料としては、表面保護性能の観点からは、ポリエステル系樹脂が好ましく、透明性及び耐熱性の観点からは、ポリエチレンテレフタレート樹脂がより好ましい。
【0111】
基材の厚みは、特に制限されず、例えば、500μm以下であり、5μm〜300μmの範囲が好ましく、10μm〜200μmの範囲がより好ましい。
【0112】
基材上に設けられる粘着剤層の形成方法は、特に制限されず、通常用いられる方法を採用できる。基材上への粘着剤層の形成は、例えば、本発明の粘着剤組成物を、そのままの状態で、又は、必要に応じて溶媒で希釈した状態で、ベースフィルムである基材上に直接塗布し、乾燥して溶媒を除去し、養生して架橋反応を終了させる方法により行える。基材上に粘着剤層を形成するその他の方法としては、例えば、シリコーン樹脂等により離型処理が施された紙、ポリエステルフィルム等の剥離シートの上に、本発明の粘着剤組成物を塗布し、乾燥して溶媒を除去し、養生して架橋反応を終了させて粘着剤層を形成し、次いで剥離シートの粘着剤層が形成された側の面を基材に接触させて加圧し、基材側に粘着剤層を転写する方法が挙げられる。このようにして作製された基材上の粘着剤層の表面には、必要に応じて、離型フィルムをラミネートしてもよい。
【0113】
養生は、例えば、23℃、50%RHの環境下で4〜14日間行う。養生することで、粘着剤組成物の架橋反応が終了して粘着剤層が形成される。
【0114】
粘着剤層の厚さは、被着体の種類、被着体の表面粗さ等に応じて、適宜設定できる。一般には、粘着剤層の厚さは、1μm〜100μmの範囲であり、好ましくは5μm〜50μmの範囲であり、更に好ましくは15μm〜30μmの範囲である。
【0115】
本発明の粘着フィルムは、加熱処理した後であっても粘着剤層が被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を有し(即ち、低速で剥離する際に十分に大きい剥離力を必要とする)、かつ、高速で剥離する際には容易に剥離できる(即ち、高速で剥離する際に大きな剥離力を必要としない)ことが好ましい。
【0116】
このような観点から、本発明の粘着フィルムは、150℃で1時間加熱処理した後の、23℃での180度剥離試験における粘着剤層の被着体に対する粘着力(剥離力)が、剥離速度10m/分(高速剥離)において、好ましくは0.45N/25mm以下であり、より好ましくは0.4N/25mm以下であり、更に好ましくは0.35N/25mm以下である。
高速剥離時の粘着力(剥離力)が0.45N/25mm以下であることで、粘着フィルムを被着体から容易に剥離できる。特に、広幅での剥離性が良好となる。
【0117】
本発明の粘着フィルムは、加熱処理により粘着フィルムが被着体から剥がれ難くなることによる被着体の破損防止等の観点から、剥離速度が変わっても剥離力が変化し難い(即ち、剥離速度依存性が低い)ことが好ましい。
【0118】
このような観点から、本発明の粘着フィルムは、150℃で1時間加熱処理した後の、23℃での180度剥離試験における粘着剤層の剥離速度依存率(単位:%)が、好ましくは170%以下であり、より好ましくは155%以下であり、更に好ましくは140%以下である。
剥離速度依存率が170%以下であることで、剥離速度に依存することなく、粘着フィルムを被着体から容易に剥離できる。
本明細書において「剥離速度依存率」とは、剥離速度0.3m/分(低速剥離)における粘着力(以下、「低速剥離力」ともいう。)に対する剥離速度10m/分(高速剥離)における粘着力(以下、「高速剥離力」ともいう。)の割合であり、以下の計算式によって求められる。
剥離速度依存率(%)=(高速剥離力/低速剥離力)×100
【0119】
粘着剤層のゲル分率は、粘着力の観点から、90質量%以上100質量%以下の範囲が好ましく、93質量%以上100質量%以下の範囲がより好ましく、95質量%以上100質量%以下の範囲が更に好ましい。
【0120】
本明細書において、粘着剤層のゲル分率は、酢酸エチルを抽出溶媒に用いて測定される、溶媒不溶分の割合である。具体的には、下記(1)〜(4)に従って測定する。
(1)精密天秤にて質量を正確に測定した250メッシュの金網(100mm×100mm)に、粘着剤層を約0.25g貼付し、ゲル分が漏れないように、貼付した粘着剤層を内側にして、金網を5回折り畳み、試料とする。その後、精密天秤にて質量を正確に測定する。
(2)得られた試料を酢酸エチル80mlに3日間浸漬する。
(3)試料を取り出して少量の酢酸エチルにて洗浄し、120℃で24時間乾燥させる。その後、精密天秤にて質量を正確に測定する。
(4)下式によりゲル分率を算出する。
ゲル分率(質量%)=(Z−X)/(Y−X)×100
但し、Xは金網の質量(g)、Yは粘着剤層を貼付した金網の浸漬前の質量(g)、Zは浸漬後乾燥させた、粘着剤層を貼付した金網の質量(g)である。
【0121】
本発明の粘着フィルムの用途としては、加熱処理される被着体に貼り付ける用途が挙げられる。具体的には、例えば、光学部材の表面保護フィルム、電子部材の製造工程において使用される表面保護フィルム、及び補強フィルムとして使用できる。
すなわち、本発明の粘着フィルムは、加熱処理工程において被着体の表面を保護又は補強し、加熱処理工程後、容易に剥がせる耐熱性の粘着フィルムとして使用可能である。
【0122】
被着体としての光学部材は、例えば、偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、反射フィルム、反射防止フィルム、透明導電性フィルム(ITOフィルム、ITOガラス等)、意匠フィルム、及び装飾フィルムの液晶表示装置に使用される光学部材が挙げられる。
液晶表示装置に使用される光学部材は、液晶表示装置の組み立ての際に、液晶の配向の乱れを解消する目的で、例えば70℃〜90℃で加熱処理される場合がある。
液晶表示装置に使用される光学部材の一種である透明導電性フィルムは、導電性物質の結晶化工程(即ち、アニール工程)において、例えば100℃〜250℃で加熱処理される。透明導電性フィルムの粘着フィルムが貼り付けられる面は、透明電極が形成された面であっても、もう一方の面であってもよい。
【0123】
被着体としての電子部材は、例えば、フレキシブルプリント基板及びリジッドプリント配線基板が挙げられる。
フレキシブルプリント基板及びリジッドプリント配線基板は、ホットプレス工程において、例えば100℃〜250℃で加熱処理される。
【0124】
本発明の粘着フィルムが用いられる加熱処理される被着体としては、100℃〜250℃で加熱処理される被着体が好ましい。本発明の粘着フィルムは、100℃〜250℃の加熱処理工程において、被着体の表面を保護又は補強し、加熱処理工程後、容易に剥がせる。
100℃〜250℃で加熱処理される被着体としては、例えば、透明導電性フィルム、フレキシブルプリント基板、及びリジッドプリント基板が挙げられる。
【0125】
なお、表面保護フィルムは、光学部材や電子部材の表面に積層されて、その光学部材や電子部材の表面が汚染されたり損傷したりしないよう保護するものである。光学部材や電子部材は、表面保護フィルムが光学部材や電子部材に積層された状態のまま、結晶化工程(即ち、アニール工程)、高温乾燥印刷工程、エッチング工程、プレス工程等の加熱処理が施される。その後、表面保護が不要となった段階で、光学部材や電子部材から剥離除去される。
【0126】
本発明の粘着フィルムは、架橋点としてカルボキシ基を用いるため、架橋触媒を使用せずに、架橋反応を起こさせ得る。
【実施例】
【0127】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
【0128】
[(メタ)アクリル系ポリマーの製造]
〔製造例1〕
温度計、攪拌機、還流冷却器、及び逐次滴下装置を備えた反応容器内に、酢酸エチル31.7質量部、アルキルアクリレートとして2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)23.5質量部、カルボキシ基を有するモノマーとしてアクリル酸(AA)1.5質量部、及び重合開始剤として2、2’−アゾビス−i−ブチロニトリル(商品名:V−60、和光純薬工業(株)製))0.013質量部を入れ、撹拌しながら、反応容器内の温度を還流が発生するまで上昇させた。還流開始から20分後、2EHAを70.5質量部と、AAを4.5質量部と、V−60を0.038質量部と、を酢酸エチル9.2質量部に溶解させた溶液を120分かけて滴下し、滴下終了後、更に150分かけて反応を完結させた。反応完結後、固形分が35質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、(メタ)アクリル系ポリマーの溶液を調製した。なお、「固形分」とは(メタ)アクリル系ポリマーの溶液から溶媒等の揮発性成分を除去した残渣量を意味する。
【0129】
得られた(メタ)アクリル系ポリマーのモノマー組成(単位:質量%)、重量平均分子量(Mw、単位:万)、酸価(単位:mgKOH/g)、及びTg(単位:℃)を表1に示す。なお、表1中では、「重量平均分子量」を単に「分子量」と表記する。
重量平均分子量(Mw)は、既述の方法で測定したものである。
酸価及びTgは、既述の方法で計算したものである。製造例1で得られた(メタ)アクリル系ポリマーの酸価は、具体的には、次のようにして計算した。なお、(メタ)アクリル系ポリマーに使用された全モノマー中のAAの含有率は、6.0質量%であり、AAの分子量は、72.1である。また、AA1分子中に含まれるカルボキシ基の数は1である。
製造例1で得られた(メタ)アクリル系ポリマーの酸価(mgKOH/g)={(6.0/100)÷72.1}×56.1×1000×1=46.7
【0130】
〔製造例2〜7〕
各製造例2〜7では、製造例1におけるモノマーの組成を表1に示すように変更するとともに、溶剤の量、重合開始剤の量等を調整することで、表1に示すように、(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量を調整したこと以外は、製造例1と同様の方法により、(メタ)アクリル系ポリマーの溶液を調製した。
得られた(メタ)アクリル系ポリマーのモノマー組成(単位:質量%)、重量平均分子量(Mw、単位:万)、酸価(単位:mgKOH/g)、及びTg(単位:℃)を表1に示す。
重量平均分子量(Mw)は、既述の方法で測定したものである。
酸価及びTgは、既述の方法で計算したものである。
【0131】
表1中の「MA」はメチルアクリレートを表し、「LMA」はラウリルメタクリレートを表す。
表1中の各モノマーについて記載されたTgは、既述の方法で測定した、そのモノマーをホモポリマーとしたときのTgである。
【0132】
【表1】
【0133】
[(メタ)アクリル系オリゴマーの製造]
〔製造例A〕
温度計、撹拌機、還流冷却器、及び逐次滴下装置を備えた反応容器内に、アルキルアクリレートとして2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)5.1質量部、カルボキシ基を有するモノマーとしてアクリル酸(AA)0.9質量部、トルエン19質量部、メチルエチルケトン(MEK)19質量部、及び重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(商品名:V−601、和光純薬工業(株)製)0.4質量部を入れ、撹拌しながら、反応容器内の温度を還流が発生するまで上昇させた。還流開始から10分後、2EHAを45.9質量部、AAを8.1質量部、及びV−601を5.4質量部と、をMEK8.8量部に溶解させた溶液を90分かけて滴下し、滴下終了後、更に230分かけて反応を完結させた。反応完結後、固形分が35質量%となるようにトルエンで希釈し、(メタ)アクリル系オリゴマーの溶液を調製した。なお、「固形分」とは(メタ)アクリル系オリゴマーの溶液から溶媒等の揮発性成分を除去した残渣量を意味する。
【0134】
得られた(メタ)アクリル系オリゴマーのモノマー組成(単位:質量%)、重量平均分子量(Mw、単位:万)、及び酸価(単位:mgKOH/g)を表2に示す。なお、表2中では、「重量平均分子量」を単に「分子量」と表記する。
重量平均分子量(Mw)は、既述の方法で測定したものである。
酸価は、既述の方法で計算したものである。具体的には、製造例Aで得られた(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価は、次のようにして計算した。なお、(メタ)アクリル系オリゴマーに使用された全モノマー中のAAの含有率は、15.0質量%であり、AAの分子量は、72.1である。
製造例Aで得られた(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価(mgKOH/g)={(15.0/100)÷72.1}×56.1×1000=116.7
【0135】
〔製造例B〜D〕
各製造例B〜Dでは、製造例Aにおけるモノマーの組成を表2に示すように変更するとともに、溶剤の量、重合開始剤の量等を調整することで、表2に示すように、(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量を調整したこと以外は、製造例Aと同様の方法により、(メタ)アクリル系オリゴマーの溶液を調製した。
得られた(メタ)アクリル系オリゴマーのモノマー組成(単位:質量%)、重量平均分子量(Mw、単位:万)、及び酸価(単位:mgKOH/g)を表2に示す。
重量平均分子量(Mw)は、既述の方法で測定したものである。
酸価は、既述の方法で計算したものである。
【0136】
表2中の「MA」はメチルアクリレートを表し、「LMA」はラウリルメタクリレートを表す。
表2中の各モノマーについて記載されたTgは、既述の方法で測定した、そのモノマーをホモポリマーとしたときのTgである。
【0137】
【表2】
【0138】
[粘着剤組成物の作製]
<実施例1>
製造例1で調製した(メタ)アクリル系ポリマーの溶液(固形分:35質量%)95質量部と、製造例Aで調製した(メタ)アクリル系オリゴマーの溶液(固形分:35質量%)5質量部と、架橋剤(エポキシ化合物、商品名:テトラッド−C、三菱ガス化学(株)製)3.14質量部((メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基及び(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるカルボキシ基の合計カルボキシ基1当量に対して、エポキシ化合物に含まれるエポキシ基が1.0当量)と、タッキファイヤー(商品名:YSポリスターTH130、テルペンフェノール系タッキファイヤー、ヤスハラケミカル(株)製)1質量部と、を混合し、十分に撹拌して実施例1の粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物の組成等の詳細を表3に示す。
表3中の酸価の合計は、既述の方法で計算したものである。具体的には、実施例1の粘着剤組成物の酸価の合計は、次のようにして計算した。
実施例1の粘着剤組成物の酸価の合計(mgKOH/g)=46.7×{95/(95+5)}+116.7×{5/(95+5)}=50.2
【0139】
[試験用粘着フィルムの作製]
上記で得られた粘着剤組成物を用い、以下のようにして、試験用粘着フィルムを作製した。ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:ルミラーU35、厚さ:125μm、東レ(株)製)の上に、乾燥後の塗布量が20g/mとなるように粘着剤組成物を塗布し、熱風循環式乾燥機にて100℃で60秒間乾燥して粘着剤組成物の層を形成した。次いで、シリコーン系離型剤で表面保護された離型フィルム(商品名:フィルムバイナ(登録商標)100E−0010NO23、藤森工業(株)製)の上に、粘着剤組成物の層が接するようにPETフィルムを載置し、加圧ニップロールで圧着して貼り合わせた。その後、23℃、50%RHの環境下で7日間、架橋反応を終了させるための養生を行い、粘着剤層を有する試験用粘着フィルムを作製した。
得られた粘着剤層のゲル分率を表3に示す。なお、ゲル分率は、既述の方法で測定したものである。
【0140】
(測定及び評価)
1.加熱処理後の高速剥離性
上記で作製した試験用粘着フィルムを25mm×150mmの大きさに切断し、得られた試験用粘着フィルム片から離型フィルムを剥がし、ハードコート処理されたPETフィルム(商品名:KBフィルムG01S、(株)きもと製)のハードコート処理された面に貼り合わせ、2kgのゴムロールを1往復して圧着し、試験片を得た。この試験片を、23℃、50%RH環境下で1時間放置した後、150℃環境下で1時間加熱処理を行い、続いて23℃、50%RH環境下で1時間放置した。
放置後の試験片について、試験用粘着フィルムを長辺(150mm)方向に剥離した場合の180°剥離における粘着力(単位:N/25mm)を、剥離速度10m/分(高速剥離)の条件で測定し、以下の評価基準に従って、加熱処理後の高速剥離性を評価した。結果を表3に示す。
【0141】
−評価基準−
A:0.2N/25mmを超えて0.35N/25mm以下である場合(高速剥離性が非常に優れる)
B:0.1N/25mmを超えて0.2N/25mm以下であるか、又は0.35N/25mmを超えて0.4N/25mm以下である場合(高速剥離性が優れる)
C:0.05/25mmを超えて0.1N/25mm以下であるか、又は0.4N/25mmを超えて0.45N/25mm以下である場合(高速剥離性がやや劣るが許容範囲内)
D:0.05/25mm以下、又は0.45N/25mmを超える場合(高速剥離性が劣り許容範囲外)
【0142】
2.剥離速度依存性
上記の1.加熱処理後の高速剥離性の評価に用いた試験片と同様の方法により作製した試験片について、試験用粘着フィルムを長辺(150mm)方向に剥離した場合の180°剥離における粘着力(単位:N/25mm)を、剥離速度0.3m/分(低速剥離)の条件で測定した。そして、この低速剥離した場合における粘着力の値と、上記の1.加熱処理後の高速剥離性の評価にて測定された高速剥離した場合における粘着力の値とを以下の計算式にあてはめて、剥離速度依存率(%)を算出し、以下の評価基準に従って、剥離速度依存性を評価した。なお、剥離速度依存率の値は高いほど、剥離速度依存性が高いことを示す。
結果を表3に示す。
剥離速度依存率(%)=(高速剥離力/低速剥離力)×100
【0143】
−評価基準−
A:剥離速度依存率が140%以下である場合(剥離速度依存性が非常に低い)
B:剥離速度依存率が140%を超えて155%以下である場合(剥離速度依存性が低い)
C:剥離速度依存率が155%を超えて170%以下である場合(剥離速度依存性がやや高いが許容範囲内)
D:剥離速度依存率が170%を超える場合(剥離速度依存性が高く許容範囲外)
【0144】
3.汚染性
上記の1.加熱処理後の高速剥離性の評価において、試験片から試験用粘着フィルムを高速剥離した後のハードコート処理されたPETフィルムのハードコート処理面上に、2μLの純水を滴下し、滴下から30秒後に、接触角測定装置(装置名:Drop Master DM−701、協和界面科学(株)製)を用いて、水の接触角(θ1)を測定した。
得られた値と、予め測定しておいた、試験用粘着フィルムを貼り付けていないハードコート処理面の水の接触角の値(θ0=84°)との差の絶対値(Δθ=|θ1−θ0|)を算出した。そして、算出した絶対値(Δθ)を汚染性の指標とし、以下の基準に従って評価した。結果を表3に示す。
【0145】
A:Δθが2.0以下である場合(汚染性が非常に低い)
B:Δθが2.0を超え4.5以下である場合(汚染性が低い)
C:Δθが4.5を超え7.5以下である場合(汚染性がやや高い)
D:Δθが7.5を超えている場合(汚染性が高い)
【0146】
<実施例2〜26及び比較例1〜7>
各実施例2〜26及び各比較例1〜7では、実施例1における(メタ)アクリル系ポリマー、(メタ)アクリル系オリゴマー、タッキファイヤー、及び架橋剤の種類、(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの配合比率、並びにタッキファイヤー及び架橋剤の配合量を表3に示すものにするとともに、架橋剤の配合量を、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基及び(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるカルボキシ基の合計カルボキシ基1当量に対して、架橋剤に含まれる架橋に寄与する官能基(例えば、架橋剤がエポキシ化合物の場合にはエポキシ基であり、イソシアネート化合物の場合にはイソシアネート基である。)が表3に示す当量となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、粘着剤組成物を得た。
得られた粘着剤組成物を用い、実施例1と同様にして、試験用粘着フィルムを作製した。そして、作製した試験用粘着フィルムについて、実施例1と同様にして、加熱処理後の高速剥離性、剥離速度依存性、及び汚染性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0147】
表3中の「−」は、該当するものがないことを意味する。
表3中のタッキファイヤーの商品名、種類、及び製造元の詳細は、以下のとおりである。
U115:YSポリスターU115(商品名)、テルペンフェノール系、ヤスハラケミカル(株)製
T100:YSポリスターT100(商品名)、テルペンフェノール系、ヤスハラケミカル(株)製
TH130:YSポリスターTH130(商品名)、テルペンフェノール系、ヤスハラケミカル(株)製
T160:YSポリスターT160(商品名)、テルペンフェノール系、ヤスハラケミカル(株)製
S145:YSポリスターS145(商品名)、テルペンフェノール系、ヤスハラケミカル(株)製
TR105:YSレジンTR105(商品名)、芳香族変性テルペン、ヤスハラケミカル(株)製
SX100:YSレジンSX100(商品名)、スチレン系、ヤスハラケミカル(株)製
【0148】
表3中の架橋剤の商品名、種類、及び製造元の詳細は、以下のとおりである。
エポキシ:TETRAD(登録商標)−C(商品名)、エポキシ化合物、三菱ガス化学(株)製
イソシアネート:スミジュール(登録商標)N3300(商品名)、イソシアネート化合物、住化バイエルウレタン(株)製
【0149】
【表3】
【0150】
表3に示すように、実施例1〜26の粘着剤組成物では、いずれも加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低いという評価が得られた。
テルペンフェノール系タッキファイヤーを含まない比較例1の粘着剤組成物は、加熱処理後の高速剥離性がやや劣り、かつ、剥離速度依存性が高かった。
テルペンフェノール系タッキファイヤー以外のタッキファイヤーを含む比較例2の粘着剤組成物は、加熱処理後の高速剥離性が劣り、かつ、剥離速度依存性が高かった。
テルペンフェノール系タッキファイヤー以外のタッキファイヤーを含む比較例3の粘着剤組成物は、加熱処理後の高速剥離性がやや劣り、かつ、剥離速度依存性が高かった。
(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計100質量部に対するテルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量が0.1質量部よりも少ない比較例4の粘着剤組成物は、加熱処理後の高速剥離性がやや劣り、かつ、剥離速度依存性が高かった。
(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーとの合計100質量部に対するテルペンフェノール系タッキファイヤーの含有量が5質量部よりも多い比較例5の粘着剤組成物は、加熱処理後の高速剥離性が劣り、かつ、剥離速度依存性が高かった。
(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が40mgKOH/gよりも低い比較例6の粘着剤組成物は、加熱処理後の高速剥離性が劣り、かつ、汚染性が高かった。
(メタ)アクリル系ポリマーの酸価及び合計の酸価が90mgKOH/gよりも高い比較例7の粘着剤組成物は、加熱処理後の高速剥離性が劣っていた。
【0151】
(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの両方を含む実施例1の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系オリゴマーを含まない実施例25の粘着剤組成物と比較して、加熱処理後の高速剥離性に優れ、かつ、剥離速度依存性が低かった。
(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価が70mgKOH/g以上の粘着剤組成物(例えば、実施例1、10、11等)では、70mgKOH/gより低い粘着剤組成物(例えば、実施例9)と比較して、加熱処理後の高速剥離性に優れ、剥離速度依存性がより低く、かつ、汚染性がより低くなる傾向が認められた。