特許第6419654号(P6419654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6419654発毛の状態及び頭皮の圧縮応力の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6419654
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】発毛の状態及び頭皮の圧縮応力の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20181029BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20181029BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   G01N33/50 Q
   G01N33/68
   A61B5/00 M
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-124662(P2015-124662)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-9426(P2017-9426A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和人
(72)【発明者】
【氏名】石渡 潮路
(72)【発明者】
【氏名】大石 奈帆子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智恵
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/046463(WO,A1)
【文献】 特開2014−163749(JP,A)
【文献】 特開2014−163715(JP,A)
【文献】 特開平03−218735(JP,A)
【文献】 特開2015−089869(JP,A)
【文献】 特開2000−262547(JP,A)
【文献】 浜田和人,育毛・脱毛・白髪のメカニズム ヒト頭皮角層バイオマーカーとしてのDJ−1に関する研究,Fragr J,2016年 1月15日,Vol.44 No.1,Page.44-49
【文献】 Cavusoglu Nukhet,iTRAQ-based quantitative proteomics of stratum corneum of dandruff scalp reveals new insights into its aetiology and similarities with atopic dermatitis,Archives of Dermatological Research,2016年,Vol.308 No.9,Page.631-642
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
A61B 5/00
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚角層のDJ−1の発現量を測定し、その多寡を指標とする、発毛の状態の評価方法。
【請求項2】
発毛の状態が頭髪の毛群あたりの平均毛髪数である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
皮膚角層のDJ−1の発現量を測定し、その多寡を指標とする、頭皮をつまんだときの圧縮応力の評価方法。
【請求項4】
被験者の評価対象部位の角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるDJ−1の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたDJ−1の発現量をあらかじめ測定した無作為に選択された標本集団の前記評価対象部位の角層のDJ−1の発現量分布と比較する比較工程と、を備えた請求項1〜3のいづれかに記載の評価方法。
【請求項5】
被験者の評価対象部位が頭皮または顔面である請求項4に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛の状態及び頭皮の圧縮応力の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
女性の毛髪は40代を過ぎると、1つの毛群から生えている平均毛髪数の減少が認められ、頭頂部の薄毛化が進行することが確認されている(非特許文献1)。また、頭皮に弾力性があるほど、発毛状態が良くなると言われており、頭皮をつまんだときの圧縮応力が大きいほど、発毛状態が良いと考えられる。ところで、発毛の状態及び頭皮の圧縮応力を評価するためには、専用機器を用いた手間のかかる測定が必要であった。1つの毛群から生えている平均毛髪数を測定するためには、ビデオマイクロスコープにて頭皮画像を取り込み、毛髪の数、毛群の数を数え上げて記録することが必要である。また、頭皮の圧縮応力を測定するためには、専用の粘弾性計を用いる必要があった。
しかしながら、店舗や通信販売において、多数の被験者に対して頭皮ケアのアドバイスを行うために、前記の測定を行うことは困難である。そこで、被験者を拘束せず、簡便に発毛の状態及び頭皮の圧縮応力を評価できる方法が求められている。
【0003】
本出願人は、抗酸化作用を有するDJ−1タンパク質(別名PARK-7タンパク質)がアトピー性皮膚炎マーカーとして有用であること(特許文献1)、皮膚のストレス蓄積の指標となること(特許文献2)、紫外線障害の抵抗性の指標となること(特許文献3)を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/046463号公報
【特許文献2】特開2014−163729号公報
【特許文献3】特開2014−163715号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】皮膚 第37巻 第6号 平成7年12月 722−732ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被験者に負担を与えることなく、発毛の状態及び頭皮をつまんだときの圧縮応力を評価できる生化学的指標を用いた新規な評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成である。
(1)皮膚角層のDJ−1の発現量を測定し、その多寡を指標とする、発毛の状態の評価方法。
(2)発毛の状態が頭髪の毛群あたりの平均毛髪数である(1)に記載の方法。
(3)皮膚角層のDJ−1の発現量を測定し、その多寡を指標とする、頭皮をつまんだときの圧縮応力の評価方法。
(4)被験者の評価対象部位の角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるDJ−1の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたDJ−1の発現量をあらかじめ測定した無作為に選択された標本集団の前記評価対象部位の角層のDJ−1の発現量分布と比較する比較工程と、を備えた(1)〜(3)のいづれかに記載の評価方法。
(5)被験者の評価対象部位が頭皮または顔面である(4)に記載の評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の評価方法によれば、発毛の状態、具体的には、頭髪の毛群あたりの平均毛髪数を、角層におけるDJ−1の発現量を測定することで評価できる。また、頭皮の圧縮応力を、角層におけるDJ−1の発現量を測定することで評価できる。さらに、本発明の評価方法は、テープストリッピング法など簡便な操作方法で評価試料を採取するため、被験者の負担が少なく、だれでも簡単に評価することが可能となる。また生化学的な試験方法であり、誰が測定しても同一の結果が得られるため、従来のような専門家による画像解析を必要としない発毛状態の評価が可能になる。テープストリッピング法による角層採取は、被験者が自宅で行うことが可能であるため、通信販売の手法によって発毛の状態、頭皮の圧縮応力の評価結果を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】角層中のDJ−1の発現量と毛群あたりの平均毛髪数の関係を示すグラフである。
図2】角層中のDJ−1の発現量と頭皮をつまんだときの圧縮応力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の評価方法は、皮膚角層におけるDJ−1の存在量を指標とすることを特徴としている。
【0011】
DJ−1は、分子質量21kDaの細胞内タンパク質である。パーキンソン病に関係したタンパク質として同定されたが、その後皮膚の創傷治癒過程での再上皮化(re−epithelialization)に関与することが明らかになった。また、その立体構造からプロテアーゼとしても働いている可能性が示唆されている。
【0012】
本発明では、毛群、毛群あたりの平均毛髪数という用語を使用する。
【0013】
毛群とは、いくつかの毛嚢が集まって形成している1つの毛髪グループのことをいう。
【0014】
毛群あたりの平均毛髪数は、頭皮の観察画像中の毛髪の数/毛群の数で表される。
【0015】
また、角層は、皮膚の一番上にある組織をいう。角層は、体の外からの異物や刺激から皮膚を守る働きを有している。
【0016】
本発明における評価対象部位は、角層が入手できる部分であれば、いかなる部位をも包含しうるが、主な部位としては頭皮、顔面が挙げられ、従来の方法に従い、これらの部位から皮膚由来の角層を得ることができる。しかし、外科的に皮膚を摘出する等の方法は、被験者に負担を与えるため、テープストリッピング、擦過等の非侵襲的に角層を得る方法を用いる。
【0017】
こうして用意した各試料におけるDJ−1の発現量は、従来から知られている方法で測定することができる。例えば、DJ−1に対する抗体との反応に基づくエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロッティング等の方法を用いることができる。
【0018】
各試料からDJ−1をそれ自体既知の生化学的方法、たとえば凍結融解法、超音波破砕法、ホモジュネート法等を介して可溶性画分を調製し、抽出後、速やかに測定する。
【0019】
毛群あたりの平均毛髪数が大きい、発毛状態の良い被験者の角層中のDJ−1の発現量は高い傾向にあるため、角層におけるDJ−1の発現量の多寡を指標として、簡便に発毛状態(毛群あたりの平均毛髪数)を評価できる。また、頭皮をつまんだときの圧縮応力が大きい被験者の角層中のDJ−1の発現量は高い傾向にあるため、角層におけるDJ−1の発現量の多寡を指標として、簡便に頭皮をつまんだときの圧縮応力を評価できる。
本発明に用いる角層は、テープストリッピング等により角層の表層部分のみを角質テープで採取する簡単な方法で採取することができる。このため、被験者に負担を与えることなく、被験者の発毛状態や被験者の頭皮の圧縮応力を評価することができる。特に、被験者の頭皮に、より適した化粧品や洗浄剤を簡単に選択することができ、それによって、脱毛の改善が期待できる。
【0020】
本発明の評価方法は、角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるDJ−1の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたDJ−1の発現量を標本集団の角層におけるDJ−1の発現量の分布と比較する比較工程から構成される。
以下にこの評価方法について説明する。
【0021】
まず、被験者のある評価対象部位の角層におけるDJ−1の発現量を測定し、測定されたDJ−1の発現量を、標本集団の同一評価対象部位の角層におけるDJ−1の発現量の分布と比較し、DJ−1の発現量の多寡を判定する。標本集団のDJ−1の発現量の分布を使用することによって、客観的にDJ−1の発現量の多寡を評価できる。
【0022】
このように比較した結果、測定されたDJ−1の発現量が、標本集団のDJ−1の発現量分布と比較して、DJ−1の発現量が大きいと評価される場合には、発毛状態が良く、頭皮の圧縮応力が大きいと評価できる。標本集団は、統計的に有効な規模で、無作為に抽出することが好ましいが、目的に応じて、例えば、性別、年齢別に標本集団を抽出することも好ましい。
【0023】
角層の採取部位は身体のどこの部位でも構わないが、顔面又は頭皮が好ましく、頭皮が特に好ましい。
【0024】
本発明を試験例、実施例によって説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
試験例1
角層中のDJ−1の発現量と毛群あたりの平均毛髪数との関係を調べた。
(1)試験方法
<角層採取>
被験者:髪の悩み(薄毛、軟毛化)が顕在化するとされる35歳以上の女性 103名(30代(29名)、40代(56名)、50代(15名)、60代(3名))
角層採取部位:頭皮
角層採取方法:頭皮を70%アルコールで拭いた。毛を分けて地肌を露出させ、角層採取用テープ(アサヒバイオメッド社製 角層チェッカー 2.2cm×2.2cm)を縦に3分割し、3分割した部分それぞれに、3カ所の地肌の角層を付着させた。さらに、その角層採取用テープを横に3分割し、3分割した部分それぞれに、新たな3カ所の地肌の角層を付着させた。すなわち、被験部位は0.7cm×2.2cmの範囲を6カ所であり、3カ所は角層採取用テープに直接付着させ、残りの3カ所は先の3カ所の角層が付着したテープに方向を変えて重ねて付着させた。
【0026】
<角層中DJ−1測定>
ガラスビーズとT-PERバッファー(Thermo scientific社)500μlの入ったチューブに角層を採取した角層採取用テープを入れ、25分ボルテックスミキサーにて振とうし、角層タンパクを抽出した。各サンプルのタンパク濃度はBCA protein Assay Kit (Thermo Scientific社)で測定した。測定には角層サンプルを10μlに reagentA: reagentB=50:1で混和した液200μlを加え、60℃30分でインキュベーションしたのち、562nmの吸光度で測定した。同時にウシ血清アルブミン(BSA)で検量線を作成した。この検量線と吸光度の値からタンパク濃度を算出した。
角層抽出液中に含まれるDJ−1濃度はHuman Park7/DJ−1 DuoSet (R&D systems社)を用いて定量した。
角層抽出液中に含まれるDJ−1濃度を角層抽出液に含まれるタンパク濃度で割って、角層中のDJ−1発現量とした。
【0027】
<毛群あたりの平均毛髪数の測定>
マイクロスコープ(スカラ社 ビデオルーペVL-7EX)を用いて、観察視野 縦7mm×横9.6mm 67.2mmの頭皮画像を記録した。記録した頭皮画像を、縦2×横2の4分野に分割し、毛髪数を数え易い2分野を選択し、その2分野(33.6mm)について毛髪の数と毛群の数を目視で計測した。
毛群あたりの平均毛髪数は[毛髪の数]/[毛群の数]で求めた。
【0028】
(2)結果
角層中のDJ−1の発現量と毛群あたりの平均毛髪数の関係を図1に示す。角層中のDJ−1の発現量と毛群あたりの平均毛髪数は正の相関関係を示した(R=0.0576)。今回の被験者を標本集団とすれば、毛群あたりの平均毛髪数は、[毛群あたりの平均毛髪数]=0.0609×[角層中のDJ−1の発現量]+ 1.6318の計算式で評価できる。
【0029】
試験例2
角層中のDJ−1の発現量と頭皮をつまんだときの圧縮応力との関係を調べた。
(1)試験方法
<角層採取>
被験者:髪の悩み(薄毛、軟毛化)が顕在化するとされる40歳以上の女性 74名(40代(56名)、50代(15名)、60代(3名))
角層採取部位:頬
角層採取方法:洗顔し、頬の角層を角層採取用テープ(アサヒバイオメッド社製 角層チェッカー 2.2cm×2.2cm)に付着させ、採取した。
【0030】
<角層中DJ−1測定>
試験例1と同様に、角層中のDJ−1の発現量を測定した。
【0031】
<頭皮をつまんだときの圧縮応力の測定>
頭皮粘弾性計(スキングリップメータ アサヒバイオメッド社製 AS-GP1)を用いて、頭皮をつまんで幅7mmから6mmに圧縮し、その際の圧縮応力を測定した。
【0032】
(2)結果
角層中のDJ−1の発現量と頭皮をつまんだときの圧縮応力の関係を図2に示す。角層中のDJ−1の発現量と頭皮をつまんだときの圧縮応力は正の相関関係を示した(R=0.0652)。今回の被験者を標本集団とすれば、頭皮をつまんだときの圧縮応力は、[頭皮をつまんだときの圧縮応力]=17.744×[角層中のDJ−1の発現量]+ 94.353の計算式で評価できる。
図1
図2