特許第6419683号(P6419683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6419683自動車用ディスクブレーキのディスクローター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6419683
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】自動車用ディスクブレーキのディスクローター
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20181029BHJP
【FI】
   F16D65/12 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-246482(P2015-246482)
(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公開番号】特開2017-110755(P2017-110755A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】391005189
【氏名又は名称】株式会社エンドレスプロジェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100202555
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】花里 功
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−038540(JP,U)
【文献】 特表2011−520080(JP,A)
【文献】 特開昭56−164237(JP,A)
【文献】 特開2008−291877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を空けて対向配置された2枚の環形状のディスク(11)と、
前記2枚のディスク(11)のそれぞれの対向面と一体に繋がりかつ略放射状に延在し多数のフィン(12)と、
前記2枚のディスク(11)及び隣り合う2つの前記フィン(12)に囲まれた多数のベンチレーション空間(15)と、を備える自動車用ディスクブレーキのベンチレーテッドディスクローター(10)であって、
少なくとも一部のフィン(12A)に、前記ディスク(11)の回転方向(X)とは反対側の面にのみ突起(13)が設けられ、
前記突起(13)が設けられた前記フィン(12A)の、該突起(13)のある側に隣接する別のフィン(12B)には、該突起(13)に対向する位置に孔(14)が穿設されていることを特徴とする、
ディスクローター。
【請求項2】
前記突起(13)が、放射方向における前記フィン(12A)の中央の位置よりも内周側寄り及び外周側寄りの少なくとも一方の位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のディスクローター。
【請求項3】
前記突起(13)が、1枚の前記フィン(12A)に対し、1又は2以上設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のディスクローター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転するディスクローターにブレーキパッドを押しつけることでブレーキの制動を行うディスクブレーキ装置に関し、特に制動の際に発生する摩擦熱を冷却するためのディスクローターの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキ装置として、ディスクブレーキ装置がよく知られている。ディスクブレーキ装置は、車輪とともに回転する金属の円盤であるディスクローターを、摩擦材が貼られたブレーキパッドで挟み込むことにより摩擦を発生し、ディスクローターの回転を止めることでブレーキ制動を行う装置である。
【0003】
ブレーキ制動の際に発生する摩擦熱により、ブレーキパッドに貼られた摩擦材が高温になって気化すると、摩擦が小さくなるフェード現象が生じ、ブレーキの効果が低下する。さらにブレーキ本体が過熱するとブレーキオイルが沸騰して液系統内部に気泡が生じ、力の伝達が行えなくなるベーパーロック現象が生じるため、ブレーキを踏んでも全く効かなくなる。
【0004】
このような問題を解決するため、ブレーキ制動により生じた摩擦熱による過熱を防ぐ必要がある。摩擦熱を放熱し、効率よく冷却するための構造として、図5に示すベンチレーテッドディスクローターが知られている。
【0005】
図4は、一般的なディスクローターの基本的な形状を模式的に示した図である。ディスクローター100は、金属製であり、円盤形状を有する。ここでは詳細な構造は示さないが、タイヤ及びホイールの回転軸である車軸20がディスクローター100の中心で一体となっており、ディスクローターは車軸20とともに回転する。
【0006】
図5は、従来のベンチレーテッドディスクローターの一部の切り欠き図であり、図4のI−I断面の一部にほぼ相当する図である。ディスクローター100の回転方向は符号Xで示す。ベンチレーテッドディスクローター100は、所定の間隔を空けて対向配置された環形状の2枚のディスク111と、両ディスク111の間に配置された多数のフィン112とを具備する。さらに、2枚のディスク111と、隣り合う2枚のフィン112によって囲まれた空間である多数のベンチレーション空間115を備える。
【0007】
図5では、ディスクローター100の内部のフィン112の構造を示すために、一方のディスク111を切り欠いた状態で示している。各フィン112の両側縁は、2枚のディスク111のそれぞれの対向面と一体的に繋がっている。各フィン112は、側面断面において、ディスク111の内周縁から外周縁まで略放射方向に延在している。2枚のディスク111と、隣り合う2枚のフィン112によってベンチレーション空間115が形成される。ディスクローター100が回転すると、内周開口部115Aから外部の空気が入り込み、ベンチレーション空間115を通り、外周開口部115Bから排出される。このように、外部の空気を通すことにより、ブレーキパッドとディスクローター100の摩擦により生じた摩擦熱は放熱され、冷却される。
【0008】
フィンの形状に特徴があるものとして、特許文献1に示すディスクローターが知られている。これは、フィンの個数を締結部の個数のn倍とすることにより、ディスクローターの全周に亘って剛性の均一化を図ることができ、ブレーキ制動時に摩擦面に生じるうねりを抑制することができる。
また、ブレーキ制動の際に発生する摩擦熱を効率よく放出するためにフィンの形状と配置に特徴を持たせたものとして、特許文献2に示すベンチレーテッドディスクローターが知られている。これは、ディスクローターのフィンを、外周側接線より内周側接線の方を、よりディスクの中心を指向している曲線形状とし、かつ、内周側先端部を先細りに複数形成することにより、冷却空気の流入を多くし、また取り入れた空気をフィンに効率よく接触させることができ、効率よく熱交換を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014−219091号公報
【特許文献2】特開2000−74109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的には、フィンの数を増やして表面積を増やすことにより、ディスクの冷却性能を高めることができる。しかし、このようなディスクは、高回転で使用するとディスク温度が低くなりすぎてしまい、ブレーキパッドの性能を十分に発揮できないという問題があった。また、そのような過冷却を避けるために冷却性能を低下させると、低回転での冷却が不足し、オーバーヒートするという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、高回転使用時には冷却性能が低く過冷却になりにくく、かつ低回転使用時には充分に冷却性能が高い、自動車用ディスクブレーキのベンチレーテッドディスクローターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を提供する。なお、括弧内の符号は、後述する図面中の符号であり、参考のために付するものである。
本発明の態様は、間隔を空けて対向配置された2枚の環形状のディスク(11)と、
前記2枚のディスク(11)のそれぞれの対向面と一体に繋がりかつ略放射状に延在し多数のフィン(12)と、
前記2枚のディスク(11)及び隣り合う2つの前記フィン(12)に囲まれた多数のベンチレーション空間(15)と、を備える自動車用ディスクブレーキのベンチレーテッドディスクローター(10)であって、
少なくとも一部のフィン(12A)において回転方向(X)とは反対側の面にのみ突起(13)が設けられ、
前記突起(13)が設けられた前記フィン(12A)の、該突起(13)のある側に隣接する別のフィン(12B)には、該突起(13)に対向する位置に孔(14)が穿設されていることを特徴とする。
【0013】
上記の態様において、前記突起(13)が、放射方向における前記フィン(12A)の中央の位置よりも内周側寄り及び外周側寄りの少なくとも一方の位置に設けられていることを特徴とする。
【0014】
上記の態様において、前記突起(13)が、1枚の前記フィン(12A)に対し1又は2以上設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のベンチレーテッドディスクローターによれば、高回転使用時にはフィンの突起と孔により空気の流れを乱し、風量を少なくすることにより冷却効果を低下させることができ、過冷却になりにくい。また、低回転使用時には、突起及び孔による空気の乱れが少ないので冷却性能が従来と同等又は同等以上に確保できる。
【0016】
本発明のベンチレーテッドディスクローターによれば、突起とそれに対向する孔の個数や位置を変更したり、組み合わせたりすることで、表面積と風量を調整することができ、それにより冷却性能をコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明によるベンチレーテッドディスクローターの実施形態における構成例の一方のディスクを切り欠いた部分斜視図である。
図2図2は、図1に示した構成例のベンチレーテッドディスクローターの水平断面図である。
図3図3は、本発明によるベンチレーテッドディスクローターと従来のディスクローターの冷却性能を比較したグラフである。
図4図4は、一般的なディスクローターの基本的な形状を模式的に示した概略斜視図である。
図5図5は、従来のベンチレーテッドディスクローターの構成例の一方のディスクを切り欠いた部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明によるベンチレーテッドディスクローターについて詳細に説明する。なお、各図面において共通又は類似する構成要素については同じ符号を付している。
【0019】
図1は、本発明によるベンチレーテッドディスクローター(以下、「ディスクローター」と略称する場合がある)の実施形態における構成例を概略的に示した部分切り欠き斜視図であり、図4に示した一般的なディスクローターの形状のI−I断面の一部にほぼ相当する図である。ディスクローター10の内部のフィン12の構造を示すために、一方のディスク11を切り欠いた状態で示している。図2は、図1に示したディスクローター10の概略的な水平断面図である。図4に示した一般的なディスクローターの形状のII−II断面の一部に相当する。なお、以下ではディスクローター10の径方向を「放射方向」と称し、厚さ方向を「幅方向」と称する。ディスクローター10の回転方向は符号Xで示す。
【0020】
ディスクローター10は、金属製であり、所定の間隔を空けて対向配置された環形状の2枚のディスク11と、両ディスク11の間において周方向に略等間隔にて配置された多数のフィン12とを有する。各フィン12の幅方向の両側縁は、2枚のディスク11のそれぞれの対向面と一体的に繋がっている。これにより、2枚のディスク11と隣り合う2枚のフィン12とによって囲まれた空間である多数のベンチレーション空間15が形成されている。
【0021】
フィン12の基本的形状について説明する。フィン12は、側面断面において、ディスク11の内周側から外周側に向かって略放射方向に延在している。各フィン12の放射方向の長さ、幅及び厚さ、並びに、フィン12の全数、配置の間隔等は特に限定しないが、本発明の原理に沿う限りにおいて、従来のベンチレーテッドディスクローターの設計思想に基づいて設計可能である。
【0022】
本発明では、少なくとも一部のフィン12Aにおいて、放射方向の中間位置を基点として延在する突起13が設けられている。突起13は、回転方向Xとは反対側の面であるフィン第1面121A側に設けられている。突起13は、フィン12Aから滑らかな曲線に沿うように分岐し、フィン第1面121A側に隣接するフィン12Bの方向に延びている。図1に示すように、フィン12Aの内周側方向と突起13の延在方向とがなす角度αは、鈍角であることが好ましい。突起13の長さは特に限定しない。但し、突起13の先端は、隣接するフィン12Bまで到達せず、その間には隙間がある。
【0023】
さらに、隣接するフィン12Bには、突起13に対向する位置に孔14が穿設されている。図1に示すように、フィン12Aの突起13に沿って延びる仮想的な延長線上に、フィン12Bの孔14の外周側境界が位置することが好適である。
【0024】
突起13は、図示の例ではフィン12Aの外周側寄りに設けられているが、これに限定されることはなく、内周側寄りに設けてもよく、また、中央の位置に設けてもよい。隣接するフィン12Bにおける孔14は、基本的に、フィン12Aの突起13に対向する位置に設けられる。また別の例として、ひとつのフィン12Aに複数の突起13を設けてもよく、その場合は隣接するフィン12Bにも、複数の突起13にそれぞれ対向する複数の孔14を穿設する。さらに別の例として、孔14が穿設されたフィン12Bの、孔14とは別の箇所に突起13を設け、フィン12Aとフィン12Bを兼ねてもよい。さらに別の例として、本発明によるフィン12Aとフィン12Bのみでなく、突起13及び孔14のいずれも具備しない従来のフィンが混在していてもよい。突起13を設けたフィン12Aの数、すべてのフィン12に対する突起を設けたフィン12Aの割合は特に限定しない。
【0025】
2枚のディスク11と、隣り合う2つのフィン12によってベンチレーション空間15が形成される。各ベンチレーション空間15は、内周開口部15Aから外周開口部15Bにそれぞれ貫通している。ディスクローター10が回転すると、内周開口部15Aから外部の空気が入り込み、ベンチレーション空間15内部を通り外周開口部15Bから排出される。このときの、突起13と孔14の作用については、後述する実施例で説明する。
【0026】
ベンチレーション空間15からの空気の排出量は、ディスクローター10の回転の速度、突起13の位置・形状・数、フィン12Aと突起13の角度、14の大きさ等に影響される。
【0027】
以上に述べた本発明の実施形態は一例を示したものであり、これら以外にも種々の公知技術を適用した多様な変形形態が可能であり、それらについても本発明に含まれるものとする。
【実施例】
【0028】
本発明によるディスクローターと、従来のディスクローターを用いて、低回転使用時及び高回転使用時における冷却性能を比較した。冷却性能を示す指標として、ベンチレーション空間から放出される風速(m/s)を測定した。半径0.355mのタイヤを用い、100km/h、125km/h、150km/h、175km/h、200km/h、225km/h、250km/h、275km/h、300km/hにおける風速(m/s)をそれぞれ測定した。
【0029】
図3は測定の結果を示すグラフである。100km/h〜200km/hの低回転使用時では、本発明によるディスクローターの方が従来のディスクローターよりも風速が速く、冷却性能が良いことが示された。一方、225km/h〜300km/hの高回転使用時では、本発明によるディスクローターの方が従来のディスクローターよりも風速が遅く、冷却性能が劣ることが示された。
【0030】
高回転使用時には、ベンチレーション空間の内周側から大量の空気が流入しようとするが、流入した空気は、フィンの突起に衝突するため、スムーズにベンチレーション空間を通り抜けることができない。突起を迂回したり、隣接するフィンの孔を通って隣のベンチレーション空間に流入したりすることにより、空気の流れに乱れが生じる。その結果、ベンチレーション空間の外周側から排出される風量が、突起や孔が無いフィンに比べて少なくなり、冷却性能が落ちる。
【0031】
低回転使用時には、ベンチレーション空間の内周側から流入しようとする空気の量が少ないため、突起及び孔による空気の流れの乱れが生じにくいので、従来と同等又は同等以上の冷却性能を確保できる。
【0032】
この結果から、本発明のディスクローターは低回転使用時には充分な冷却性能を発揮する一方、高回転使用時には過冷却を引き起こし難いことが示された。
【符号の説明】
【0033】
10、100:ベンチレーテッドディスクローター
11、111:ディスク
12、12A、12B、112:フィン
121A:フィン第1面
13:突起
14:
15、115:ベンチレーション
15A、115A:内周側開口部
15B、115B:外周側開口部
20:車軸
X:回転方向
α:フィンと突起の角度
図1
図2
図3
図4
図5