(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6419979
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】シアノアルキルフルオロシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/12 20060101AFI20181029BHJP
【FI】
C07F7/12 D
C07F7/12 T
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-538437(P2017-538437)
(86)(22)【出願日】2016年11月2日
(65)【公表番号】特表2018-502880(P2018-502880A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】EP2016076367
(87)【国際公開番号】WO2017080878
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2017年7月20日
(31)【優先権主張番号】102015222019.2
(32)【優先日】2015年11月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】フランク、ドゥーベル
【審査官】
三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/197609(WO,A2)
【文献】
特開昭56−167693(JP,A)
【文献】
特開平06−080678(JP,A)
【文献】
特開平11−012287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/00− 7/30
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
N≡C−(CH2)n−SiF3−xRx (I)、 のシアノアルキルフルオロシランの製造方法であって、
一般式II:
N≡C−(CH2)n−SiCl3−xRx (II)、 のシアノアルキルクロロシランを、ZnF2、並びにZn及びKの混合フッ化物から選択される金属フッ化物と反応させ、
Rが、アルキル基を表し、
nが、1〜10の整数値を表し、及び
xが、0、1又は2の値を表す、
シアノアルキルフルオロシランの製造方法。
【請求項2】
Rが、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
nが、3、4又は5の値を表す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
xが、2の値を表す、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
3−シアノプロピルジメチルクロロシランを使用し、3−シアノプロピルジメチルフルオロシランを製造する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記シアノアルキルクロロシラン中の塩素のモル当たり、前記フッ化物中のフッ素原子のモル量に基づいて、1.00mol〜2molのフッ化物を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応をバルクで実施する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノアルキルクロロシランと金属フッ化物との反応によるシアノアルキルフルオロシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
より強力なリチウムイオン電池の開発は、出現する新たな要求を満たすために、新電解質材料を絶えず必要としている。より安定なSEI、又はその他の電解質の熱安定化のための目的で、例えば、過充電に対する保護として、新たな成分を基礎電解質に頻繁に添加する。特に熱安定性を有する電解質として、例えば、有機シアン化物が、例として、“Surface Complex Formation between Aliphatic Nitrile Molecules and Transition Metal Atoms for Thermally Stable Lithium−Ion Batteries” (Young−Soo Kim, Hochun Lee and Hyun−Kon Song; ACS Appl. Mater. Interfaces, 2014, 6 (11), pp 8913-8920)において、説明されているように使用される。シアノ基含有フルオロシランに導く塩として、LiPF
6の溶液が、特に熱安定性があるとして、WO2014/0356735 A1にも説明されている。結果的に、リチウムイオン電池が熱負荷を受けた際に、頻繁に観測され、かつ、電解質の分解によって引き起こされるガスの発生を著しく減らすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
米国特許公開公報第2014/0356735 A1号は、3−シアノプロピルジメチルクロロシランと重フッ化アンモニウムとの反応による3−シアノプロピルジメチルフルオロシランの製造を説明している。しかしながら、その腐食性のせいで、重フッ化アンモニウムは、金属容器又はガラス器具の使用が適切でない。その上、ガス状の塩化水素が反応中に化学量論的に形成される。加えて、得られたアンモニウム塩は、その後の検査で問題を引き起こす。KF及び/又はNaFを用いた別のフッ素化は、ゆっくりであり、かつ、反応生成物から分離しなければならない溶液の使用を必要とし、前記分離は費用が掛かり、かつ、不便である。
【0004】
それ故に、米国特許公開公報第2014/0356735 A1号から公知での、例えば、重フッ化アンモニウムを使用する3−シアノプロピルジメチルクロロシランの機能化による、3−シアノプロピルジメチルフルオロシランなどの機能的なシアノアルキルフルオロシランの製造は、工業規模で実行するために困難である。
【0005】
溶媒の存在下で、ヒドリドクロロシランのハロゲン置換のためのフッ素化剤としてフッ化亜鉛が、欧州特許登録公報第0599278 B1号から原理上は公知であるが、最大でも90%未満の変換を達成する。ZnF
2を用いた有機フルオロシランの無溶媒による製造は、収率<50%で唯一引き起こす(A.E. Newkirk, J. Am. Chem. Soc., 1946, 68 (12), pp 2736-2737)。
【0006】
本発明の目的は、腐食性副生成物を防ぎ、高収率かつ高純度で工業的実施を行うシアノアルキルフルオロシランの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、一般式I:
N≡C−(CH
2)
n−SiF
3−xR
x (I)、
のシアノアルキルフルオロシランの製造方法であって、
一般式II:
N≡C−(CH
2)
n−SiCl
3−xR
x (II)、
のシアノアルキルクロロシランを、金属フッ化物と反応させ、前記金属が周期表の元素の第1主族、並びに8つの遷移族、1B及び2Bの軽金属から選択され、
Rは、アルキル基を表し、
nは、1〜10の整数値を表し、及び
xは、0、1又は2の値を表す、
シアノアルキルフルオロシランの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
驚くべきことに、本発明の方法において、溶媒があってもなくても、早く、定量的に、かつ副生成物の問題なく、特に腐食性のHClを形成することなく作用するフッ素化を満たすことが可能である。加えて、反応混合物の検査は、アンモニウム塩の回避によって、大幅に容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
アルキル基Rの例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、1−n−ブチル、2−n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチルの基;n−ヘキシル基などのヘキシル基;n−ヘプチル基などのヘプチル基;n−オクチル基、イソオクチル基、及び2,2,4−トリメチルペンチル基などのオクチル基;n−ノニル基などのノニル基;n−デシル基などのデシル基;n−ドデシル基などのドデシル基;n−オクタデシル基などのオクタデシル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルの基、及びメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基である。
【0010】
好ましい基Rは、アルキル基であり、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である。さらに、メチル、エチル、n−プロピル、及びイソプロピルの基であることが特に好ましい。
【0011】
好ましくは、nは、1〜6の整数値を表し、さらには特に3又は4の値である。
【0013】
特には、3−シアノプロピルジメチルクロロシランを使用し、3−シアノプロピルジメチルフルオロシランを製造する。
【0014】
本方法において、単独の金属の金属フッ化物、2以上の金属の混合フッ化物、又は単独の金属の金属フッ化物、及び2以上の金属の混合フッ化物から選択される2以上の金属フッ化物の混合物を使用することが可能である。
【0015】
Li、Na、K、Rb、Cs、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnの金属のフッ化物であることが好ましい。ZnF
2、並びにZn及びKの混合フッ化物が特に好ましい。
【0016】
ZnF
2及びKZnF
3は、特に反応性が高く、吸湿性が無く、かつ相対的に低い毒性となるので、特に好ましい。
【0017】
合わせて好ましいものとして、シアノアルキルクロロシラン中の塩素のモル当たり、1.00mol〜2molのフッ化物、より好ましくは1.05mol〜1.5molのフッ化物、さらに特別には1.1mol〜1.3molのフッ化物を使用する。
【0018】
本反応は、バルクで実施することができ、言い換えれば、溶媒が無い。その場合、好ましくは、シアノアルキルクロロシランを最初に入れ、そして、金属フッ化物を添加する。
【0019】
本反応は、溶液中で実施することもできる。この場合、好ましくは、溶媒の中に金属フッ化物を最初に入れ、そして、シアノアルキルクロロシランを、その物質だけか、又は溶液として添加する。
【0020】
反応混合物に基づいて、好ましくは少なくとも1%及び最大で200%、より好ましくは少なくとも10%及び最大で100%の量の溶媒を使用することができる。溶媒の例は、非プロトン性溶媒、好ましくは直鎖又は環状、置換型又は非置換型炭化水素、例えば、ペンタン、シクロヘキサン、トルエン、又はメチルtert−ブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、若しくはジオキサンなどのエーテル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、若しくはクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、アセトニトリル若しくはプロピオニトリルなどのニトリル、又はDMSOである。
【0021】
本反応は、好ましくは0〜180℃、より好ましくは20〜150℃の温度、好ましくは100mber〜10ber、より好ましくは800mber〜2berの圧力下で実施する。
【0022】
反応時間は、好ましくは1分〜8時間、より好ましくは10分〜4時間である。
【0023】
前記式中の前記全ての記号は、いずれの場合にも互いに独立してそれらの定義を有する。全ての式においてケイ素原子は四価である。反応混合物の全構成物質の合計は100wt%になる。
【0024】
以下の実施例において、それぞれの場合でその他の指示がない限り、全ての量及びパーセンテージの数字は重量に基づき、全ての圧力は0.10MPa(abs.)である。
【0025】
その他の指示がない限り、以下の実施例は、室温、言い換えれば23℃において実施した。合成において使用される溶媒は、通常の方法で乾燥し、かつ、乾燥アルゴン雰囲気に保った。
【0026】
以下の金属は、商業的供給源から入手し、更なる精製はせずに直接使用する:フッ化亜鉛(無水)(Sigma−Aldrich)、フッ化カリウム(Sigma−Aldrich)、アセトニトリル(無水)(Sigma−Aldrich)、塩化亜鉛(Sigma−Aldrich)である。
【実施例】
【0027】
[実施例1:アセトニトリル中でフッ化亜鉛を用いたフッ素化]
5.0g 3−シアノプロピルジメチルクロロシラン
1.6g フッ化亜鉛、乾燥
10ml アセトニトリル、乾燥
【0028】
手順:アセトニトリル及びフッ化亜鉛を、窒素下で50ml二口フラスコに入れる。この初めに入れた物を、75℃まで加熱し、3−シアノプロピルジメチルクロロシランを撹拌しながら滴下で添加する。これを75℃において4時間撹拌を続ける。
【0029】
クロロシランから所望の3−シアノプロピルジメチルフルオロシランへの変換が完了する。
【0030】
[実施例2:バルクでフッ化亜鉛を用いたフッ素化]
165g 3−シアノプロピルジメチルクロロシラン
68g フッ化亜鉛、無水
【0031】
器具:凝縮器コイルを有する1000ml三口フラスコ、温度計
【0032】
手順:3−シアノプロピルジメチルクロロシランを初めに入れ、フッ化亜鉛を撹拌しながら分割して添加する。反応物は104℃まで温まり、その後に、70℃において4時間撹拌する。
【0033】
3−シアノプロピルジメチルクロロシランから3−シアノプロピルジメチルフルオロシランへのフッ素化が完了する。
【0034】
[実施例3:フッ化亜鉛カリウムの製造]
10g 塩化亜鉛(73mmol)
12.8g フッ化カリウム
50ml 水
【0035】
器具:温度計、還流冷却器、及び25ml滴下漏斗を有する100ml三口フラスコ
【0036】
フッ化カリウムを40mlの水と一緒にフラスコ内に入れ、この初めに入れた物を50℃まで加熱する。塩化亜鉛を10mlの水と一緒にガラスビーカー中で溶解し、得た塩化亜鉛溶液を50℃において、滴下漏斗からゆっくり滴下で添加し、白色沈殿物として生成物が形成する。添加の完了後に続けて、撹拌を室温において5時間超継続する。沈殿物を吸引濾過して、初めに100℃かつ完全真空において乾燥し、180℃かつ完全真空において一晩乾燥し、そして、フッ素化剤として使用する。
【0037】
最終質量:11.3g(理論の95%)
24.6% K; 38% Zn; 36% F; 0.9% Cl; 0.1% H; 1.32% O
【0038】
[実施例4:バルクでフッ化亜鉛カリウムを用いたフッ素化]
4g 3−シアノプロピルジメチルクロロシラン
1.33g フッ化亜鉛、無水
【0039】
器具:還流冷却器を有する25ml二口フラスコ
【0040】
手順:3−シアノプロピルジメチルクロロシランをフラスコ内で80℃まで加熱する。KZnF
3を撹拌しながら分割して添加する。添加の終了後、本バッチをさらに80℃において2時間撹拌する。
【0041】
変換;使用されたクロロシランに基づいて94%である。