(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1にガス分析装置(ガス分析システム)の一例を示している。この分析装置1は、四重極型質量センサーを内蔵した質量分析装置であり、キャピラリ9により導かれたガス5の成分(分子)を定量的に分析しようとするものである。この分析システム1は、四重極型質量センサー(以降ではセンサー)10と、センサー10を駆動し、センサー10から得られたデータを解析するコントロールボックス20と、センサー10を収納したチャンバ30と、チャンバ30と連絡管38で繋がり、チャンバ30の内部を減圧するユニット(減圧ユニット)であるターボポンプ(ターボモレキュラポンプ)31およびダイアフラムポンプ(粗引きポンプ)32と、チャンバ30の内圧をモニタするプレッシャゲージ33と、装置内外の配線を接続するためのターミナルブロック35と、電源ユニット36とを含み、これらが長方形のハウジング(ハウジングユニット)50に収納されている。ハウジングユニット50のサイズは300mm×150mm×150mm程度であり、従来のメートル単位の大きさの質量分析器が、コンパクトで持ち運びができる程度のハンディタイプと称されるサイズにまとめられている。
【0010】
センサー10は、ガス5の分子をイオン化するイオン化ユニット11と、イオンレンズ12と、四重極フィルタ13と、イオンディテクタであるファラデーカップ14と、これらを順番に収納した筒状(チューブ状)のセンサーハウジング19とを含む。イオン化ユニット11は、イオン源となるフィラメントを含み、フィラメントから放出された熱電子と分析対象の分子とが衝突してイオン化される。四重極フィルタ13は、イオンを選択的に通過させる場(フィールド)を形成するフィルタユニットであり、本例では、選択的に通過させる場として四重極電場を形成する。すなわち、四重極フィルタ13は4本の電極を1組として、それらに囲まれた空間に直流成分と高周波成分とを有する四重極電場を形成する。四重極電場の中心軸に沿ってイオンが通過すると、イオンはその速度と直交する方向に収束力と発散力とを繰り返し受ける。このため、四重極フィルタ13においては、フィルタ13に形成される四重極電場の高周波の周波数、直流と高周波の電圧および質量電荷比が所定の条件になったときに、その質量電荷比のイオンが選択的に四重極電場を通過し、イオンディテクタ14に到達し、到達したイオン量がイオン電流として測定される。
【0011】
センサー10は、センサーハウジング19が、立方体状のチャンバ30の一方の壁面を貫通し、チャンバ30にセンサーハウジング19のほぼ全体が収納されるように取り付けられている。センサーハウジング19の先端(イオン化ユニット11の側)にはキャピラリ9が接続されており、キャピラリ9により導入されるガス5は、センサーハウジング19を介してチャンバ30に流出するようになっている。センサーハウジング19には、例えば、イオン化ユニット11のフィラメントの取付用の隙間、イオンディテクタ14またはフィルタユニット13の付近に設けられた開口15などがあり、それらを介してチャンバ30と連通しており、ハウジング19の内部は基本的にチャンバ30と同じ減圧雰囲気に保持されている。
【0012】
キャピラリ9を介して導入されたガス5は、先ず、センサーハウジング19に導入され、チャンバ30に放出された後、ターボポンプ31などによりシステム外に放出される。したがって、チャンバ30内を循環したガスがセンサーハウジング19に入ったりすることはなく、キャピラリ9を介して供給されるガス5の成分をリアルタイムで精度よく分析できる。
【0013】
センサーハウジング19の後方は、配線を収納した取付パイプ28を介してコントロールボックス20に取り付けられている。コントロールボックス20には、プレッシャゲージ(プレッシャモニタ)33を制御するピラニボード23と、イオン化ユニット11を電気的に駆動するイオンドライブ回路61が搭載されたイオンドライブボード24と、四重極フィルタ13を電気的に駆動するRFドライブユニット(RFユニット)62rを含むフィールドドライブ回路62が搭載されたフィールドドライブボード25と、イオンディテクタ14の出力感度(ゲイン)を制御するディテクタ回路63が搭載されたディテクタボード26と、全体の制御を行うCPU21と、CPU21と上記の各ボードを接続するとともにターボポンプ31などの他の機器を制御するマイクロコントローラボード22と、コントロールボックス20の内部を冷却するファン29と、各ボードの温度を検出する温度センサー27とが収納されている。
【0014】
温度センサー27の一例は赤外線サーモパイルセンサーであり、コントロールボックス20内の温度を代表値(各回路の周辺温度)として検出しているが、各ボードからの赤外線を検出して各ボードの温度を各回路の周辺温度として検出してもよい。また、各ボード、例えば、イオンドライブボード24、フィールドドライブボード25、ディテクタボード26に赤外線センサー、熱電対、測温抵抗体素子などの温度センサーを装着し、各ボードに搭載されている回路の周囲の温度を取得してもよい。
【0015】
分析システム1は、さらに、チャンバ30の内圧を制御するとともに、チャンバ30、チャンバ30とターボポンプ(ターボモレキュラポンプ)31とを接続する配管38などの真空系を加温するヒーター39の温度制御を行う真空・温度制御インターフェイスユニット55と、ハウジング50の内部を換気して温度制御するファン53とを含む。真空・温度制御インターフェイスユニット55は、チャンバ30の内部の温度を測定するように設けられた温度センサー、典型的には、赤外線サーモパイルセンサー34によりチャンバ30の温度をモニタリングする機能を含む。
【0016】
図2に、分析装置1の電気的なシステム構成を示している。マイクロコントローラ(制御ユニット)22は、CPUサブシステム21と協同してセンサー10の測定対象や、環境条件などに応じて、各回路61、62および63の出力を制御し分析装置1の動作を管理するユニット(機能)22xを含む。動作管理ユニット22xは、フィルタユニット13を通過する質量電荷比を順番に変えて分析装置1をスキャンモードで作動させる機能(ユニット)を含む。CPUサブシステム21およびマイクロコントローラ22に付随して、分析装置1は、USB、SDカード、HDMI(登録商標)、イーサネット(登録商標)、RS485などの様々な規格の通信インターフェイス21yおよび22yを含む。
【0017】
マイクロコントローラ22は、プレッシャモニタ33と、真空・温度制御インターフェイスユニット55とから得られた情報に基づいて、チャンバ30の真空度および温度をフィードバック制御する圧力・温度制御ユニット(圧力・温度制御機能)22aを含む。圧力・温度制御ユニット22aは、真空度を制御するために、ポンプ31および32の能力を制御するが、主には高真空側のターボモレキュラポンプ31を回転数制御することにより、所定の真空度が保たれるように制御する。圧力・温度制御ユニット22aは、同時に、チャンバ30の温度を一定に保つようにヒーター39の出力を制御する。
【0018】
センサー10の性能を一定に保つためにチャンバ30内の真空度を制御する場合、チャンバ30の容量が大きい方が真空度の変動が小さく、従来はチャンバ30の容量を、例えば、センサー10の20倍あるいはそれ以上にすることが通例であった。しかしながら、チャンバ30内のガスが入れ替わらないとセンサー10(ディテクタ14)の出力は変わらないため、チャンバ30の容量が大きいと時間的な感度が鈍く、また、チャンバ30内のガスの平均値がセンサー10で検出されるだけなので成分の変動に対する感度も低いという欠点があった。また、温度などの要因で、いったんチャンバ30の真空度が変動すると、それを所望の状態に戻すために多くの時間を要するという問題もあった。
【0019】
これに対し、本システム1においては、チャンバ30の容量を小さくすることにより、測定条件を安定させるとともに、上記の問題を解決するようにしている。すなわち、まず、チャンバ30の容量を小さくすることにより、チャンバ30の内部の条件の変動が圧力モニタ33および/または温度センサー34により、より敏感に捉えられるようにしている。減圧ユニットである真空ポンプ31および32の制御における、チャンバ30の真空度および温度によるフィードバック制御の精度を向上することにより、チャンバ30内の条件を安定させることができる。さらに、チャンバ30の容量を小さくすることにより、ガス成分の変動をリアルタイムに、より精度よく測定することが可能となる。また、チャンバ30の容量を減らすことにより、分析システム1を携帯可能な程度にコンパクトに纏めることができるというメリットもある。チャンバ30の容量Vcとセンサーハウジング19の容量Vhとは以下の条件を満たすことが望ましい。
1.5 < Vc/Vh < 10・・・(1)
【0020】
条件(1)の上限は、8であることが望ましく、5であることがさらに望ましく、3であることがいっそう好ましい。
【0021】
また、チャンバ30の内圧をモニタリングするプレッシャモニタ33は、チャンバ30の中のセンサーハウジング19の外の領域の圧力をモニタリングするように構成されている。キャピラリ9から供給されるガス5の圧力に変動があった場合、その影響は、センサーハウジング19を経てチャンバ30に流出した後に表れ、チャンバ30は小容量ではあるが、キャピラリ9に対して容量は大きく、急激な圧力変動は抑制される。したがって、モニタリングされる圧力変動は抑制され、それに呼応して減圧ユニットである真空ポンプ31および32のうち、特にチャンバ30の内圧を制御するターボポンプ31が急激に制御されることを抑制でき、キャピラリ9から供給されるガス5の圧力変動に対してもスムーズに対応できる。
【0022】
マイクロコントローラ22は、さらに、イオンドライブ回路61およびフィールドドライブ回路62の出力設定と、ディテクタ回路63の感度設定(ゲイン設定)とを温度検出ユニット(温度センサー)27により検出された回路周辺の温度に基づいてそれぞれ補正(補償、調整)する補正ユニット(補正機能、補償機能、調整ユニット)22bを含む。この例では、補正ユニット22bは、イオンドライブ回路61およびフィールドドライブ回路62のそれぞれの出力設定と、ディテクタ回路63のゲイン設定とを、0℃から80℃の範囲で、10℃毎に、予めそれらの設定値の補正量が格納されたルックアップテーブル69を参照して補正する。ルックアップテーブル69の代わりに関数など他の補正値を算出または出力する方式を採用してもよい。
【0023】
たとえば、フィールドドライブ回路62の中の、四重極フィルタ13に四重極電場を形成するRFドライブユニット62rにおいては、RF電圧、DC+電圧、DC−電圧をAMU単位でリニアに出力する必要がある。これに対し、RFドライブユニット62rの出力(電圧および/または電流)は、RFドライブユニット62rを含むフィールドドライブ回路62が設置されている環境温度で微小ながら変動し、AMUに対するリニアリティが低下することがある。この誤差は測定誤差の要因となり得る。
【0024】
ガス5に含まれる成分を定性的に求める場合は、RFドライブユニット62rの出力の変動は定性的な測定にほとんど影響しない。一方、ガス5に含まれる成分を定量的に求める場合は、RF電圧等のAMUに対するリニアリティが保証されていないと、イオン電流の測定結果を濃度に換算することの意味がなくなる可能性がある。したがって、補正ユニット22bは、RFドライブユニット62rの環境温度(周辺温度)により、予め求められているルックアップテーブル69の補償値(出力設定値、補正値、あるいは差分)を参照し、RFドライブユニット62rの出力設定(ベース値、ベースカーブ)を、この例であればAMUに対する出力設定値を所定の範囲内で温度に依存して変えることにより、環境温度が変動しても、RFドライブユニット62rから出力されるRF電圧、DC+電圧、DC−電圧のAMUに対するリニアリティを保持するようにしている。
【0025】
したがって、この分析装置1においては、四重極型の質量分析器でありながら、従来不可能とされていた定量分析を可能としている。四重極電場に限らず、イオンを選択的に通過させたり、保持したりする電場、磁場または電磁場といったフィールド(場)を形成する(ドライブする)電圧または電流を、AMU、質量電荷比、イオン移動度などのイオンまたは分子の特性により制御する際に、回路の周囲の温度により、そのドライブする電圧または電流を制御する信号または情報を、温度または温度差により相対的に制御することにより、フィールドをドライブする電圧または電流の温度依存性を抑制でき、より精度の高いフィールドをフィルタユニット13に形成できる。
【0026】
イオンドライブ回路61においても、フィールドドライブ回路62とは環境温度(周辺温度)に対する感度および傾向が異なることがあるが、出力が変動する可能性がある。イオンドライブ回路61では、例えば、イオン化ユニット11のフィラメント電圧および/フィラメント電流が変動する可能性があり、補正ユニット22bによりそれらの電圧および電流値の設定、例えばベースカーブあるいはベース値を、温度により補正または補償できる。ディテクタ回路63ではディテクタ14であるファラデーカップおよび/またはエレクトロンマルチプライヤーの利得や出力信号の増幅量(ゲイン)を温度により補正または補償できる。補償ユニット22bは、これらの回路61および63に対してもフィールドドライブ回路62と同様の方法により、設定値を補償し、リニアリティを確保するようにしている。
【0027】
マイクロコントローラ(制御ユニット)22は、さらに、イオンドライブ回路61を介して、イオン化ユニット11のイオン化能力を示すエミッション電流Eaを安定化させる安定化ユニット22cを含む。本例においては、エミッション電流Eaを0.1%、すなわち、nAレベルに制御する。イオン化ユニット11のエミッション電流Eaの変動を1%以下、さらに望ましくは0.1%以下に制御することにより、フィルタユニット13に入力されるイオン量を実質的に一定に保つことができる。このため、フィルタユニット13において分離され、ディテクタユニット14において検出される各種イオンの量、すなわち、ガス5中の含有量(含有比)を、高い精度で、定量的に求めることができる。
【0028】
本例のイオン化ユニット11は、フィラメントを用いて、熱電子を出力する方式であり、安定化ユニット22cは、エミッション電流Eaとして、例えば、イオンボックス電流を測定し、エミッション電流Eaがターゲット電流Etの±1%以内になるようにフィラメント電圧Fvを予め設定されたルックアップテーブルなどに従って段階的に制御する第1の安定化ユニット(収束ユニット)22dと、エミッション電流Eaがターゲット電流Etの±0.1%以内になるように、フィラメント電圧Fvをフィードバック制御により微小量(Δf)動かす第2の安定化ユニット(フィードバック制御ユニット)22eとを含む。フィードバック制御の一例はPID(比例−積分−微分制御)である。
【0029】
図3に、イオンドライブ回路61およびディテクタ回路63のさらに詳細な構成をブロックダイアグラムで示している。イオン化ユニット11は、イオンボックス11bに配置されたフィラメント11fと、リペラー電極11rとを含む。キャピラリ9によりセンサー10に入力されたガス5は、イオン化ユニット11でイオン化され、生成されたイオン流(イオン化されたガス)3がイオンレンズ12によりフィルタユニット13のフィールド(四重極電磁場)13fに導かれる。フィールド13fにより分離あるいは選択されたイオンがディテクタユニット14に到来し、コレクタ14cとの間に流れるイオン電流として観測される。
【0030】
イオンドライブ回路61は、イオン化ユニット11を構成するエレメントに対してパワーを供給するドライバユニット61aと、イオン化ユニット11をモニタリングおよび制御するモニタ・コントロールユニット61bとを含む。ドライバユニット61aは、例えば、2つのフィラメント11fのそれぞれにフィラメント出力制御ユニット71aおよび71bを介してフィラメント駆動電力を供給し、リペラー電極11rのリペラー電圧を設定し、さらに、イオンボックス11bおよびイオンレンズ12の電圧を設定する。フィラメント出力制御ユニット71aおよび71bは、各フィラメントパワーをそれぞれ、即座にシャットダウンするためのMOSFETスイッチを含む。
【0031】
イオンドライブ回路61は、フィラメント電圧Vfおよびフィラメント電流Ifを測定する回路72を含み、この例ではモニタ・コントロールユニット61bを介してマイクロコントローラ22にフィードバックする。イオンドライバ回路61は、イオンボックス電流I1とイオンレンズ電流I2とをそれぞれ測定する回路73および74を含み、この例ではモニタ・コントロールユニット61bを介してマイクロコントローラ22にフィードバックする。
【0032】
フィラメント出力制御ユニット71aおよび71bは、出力としてそれぞれのフィラメント11fに供給される電圧Vfを制御し、フィラメント電流Ifをモニタする。フィラメント電圧Vfは、例えば、分析装置1の起動および停止時には段階的に増減されるように制御され、定常時においては、測定対象の分子をイオン化できる熱電子を放出できる電圧に制御されるとともに、エミッション電流Eaが一定になるように制御される。エミッション電流Eaとしては、イオンボックス電流I1および/またはイオンレンズ電流I2を参照できる。イオンボックス電流I1はフィラメント11fに近いために電流値が大きく、エミッション電流Eaとしての変化を捉えやすい。その反面、イオンボックス電流I1の場合、フィラメント11fから放出された電子による影響が考えられる。このため、本例においては、イオンボックス電流I1と、イオンレンズ電流I2とを比較することにより、イオンボックス電流I1から熱電子の影響を除いたエミッション電流Eaを求めている。
【0033】
フィラメント電圧Vfは、エミッション電流Eaが一定になる、例えば、ターゲット電流Etに対して誤差が0.1%以下、あるいは0.1%未満、すなわち、誤差がnAレベルになるように、制御される。このようなエミッション電流制御は、上述したようにマイクロコントローラ22の安定化ユニット22cで実現してもよく、イオンドライバ回路61のモニタ・コントロールユニット61bで実現してもよい。
【0034】
イオンドライブ回路61を構成する回路素子の特性が周囲温度により微小に変動するために、イオンドライブ回路61の出力であるフィラメント電圧Vfも周囲温度により微小に上下する。このため、モニタ・コントロールユニット61bは、補正ユニット22bから、イオンドライブ回路61自身またはその周囲の温度に基づく補正信号S1を受け入れて、フィラメント電圧Vfの基準となる電圧を補正する。
【0035】
同様に、フィールドドライブ回路62においては、RFユニット(RFパワーアンプリファイヤ)62rが補正信号S1を受け入れて、RF出力の基準となる電圧、周波数などの出力設定を補正し、フィールドドライブ回路62を含む基板周囲の温度による変動を抑制する。ディテクタ回路63は、ディテクタ14で得られるイオン電流I3を増幅するアンプ75と、アンプ75のゲインを制御するゲインコントローラ76とを含み、ゲインコントローラ76が補正信号S1を受け入れて、アンプ75のゲインの設定を、ディテクタ回路63を含む回路基板の周囲の温度で補正し、アンプ75の出力に対する、回路基板周囲の温度による影響を抑制する。アンプ75は、例えば、ゲイン調整が可能でリニアリティも高いTIA(トランスインピーダンスアンプ)とVGA(可変ゲインアンプ)との組み合わせを採用できる。
【0036】
図4に、分析装置1のマイクロコントローラ(制御ユニット)22が行う制御(処理)の概要をフローチャートにより示している。分析装置1によりガス5の成分をモニタする場合は、ステップ81において、動作管理ユニット22xにより、分析装置1をスキャンモードで作動させ、質量電荷比の異なる分子(成分)を順番に検出する。この処理においては、質量電荷比の異なるイオンがフィルタユニット13を順番に通過してディテクタユニット14に到達するように、フィールドドライブ回路62により、フィルタユニット13の四重極電場13fを制御する。
【0037】
ステップ81においては、ガス5の成分の時間的な変化をモニタしたり、成分の平均値を適当な時間間隔で取得することが多く、スキャンが繰り返し行われる。その際、スキャン中、スキャンを繰り返す都度、あるいはスキャンを適当な回数繰り返した後に、ステップ82において、補正ユニット22bが、それぞれの回路61〜63の周囲の温度により設定値の補正を行う処理を行い、ステップ83において、安定化ユニット22cが、エミッション電流Eaを一定に維持するための処理を行う。
【0038】
図5に、回路(ボード)の周囲温度により、回路の出力設定(設定値、基本パラメータ、ベースカーブなど)を補正する処理82を、さらに詳しく示している。ステップ85において、それぞれの回路61〜63が搭載されているボードまたは周囲の温度を検出する。ステップ86において、補正ユニット22bは、ルックアップテーブル69を参照し、検出された温度に対して、イオンドライブ回路61の出力設定値、例えば、フィラメント電圧Vfを算出するための基本的な設定値を変える必要があれば、ステップ86aで、イオンドライブ回路61に補正指示(補正信号)S1を出力する。
【0039】
同様に、ステップ87において、検出された回路周囲温度により、フィールドドライブ回路62、本例においてはRFユニット62rの設定値を補正または変更する必要があれば、ステップ87aで、フィールドドライブ回路62に補正指示を出す。また、ステップ88において、検出された回路周囲温度により、ディテクタ回路63の感度(ゲイン)を補正または変更する必要があれば、ステップ88aで、ディテクタ回路63に補正指示を出す。
【0040】
このように、各回路61〜63の出力設定あるいは感度設定を、それらの回路の周囲温度により補正することにより、各回路61〜63の周囲温度が変動した場合であっても、イオン化ユニット11のイオン化能力を一定に保ち、フィルタユニット13のイオン選択性能を一定に保ち、また、ディテクタユニット14における感度を一定に保つことができる。したがって、各回路61〜63を搭載したボード24〜26およびその他のボード21〜23などを、温度条件が変わりやすいコンパクトなハウジング50に、真空用のポンプ31、32や、ヒーター39などと一緒に収納しても、分析性能を維持することができる。このため、ハンディタイプのようなコンパクトなサイズで、高性能の分析装置1を提供できる。補正ユニット22bは、これらの回路61〜63のうち、周辺温度により出力あるいは感度が大きく影響を受ける1または2つの回路の出力または感度のみを補正するものであってもよい。
【0041】
図6に、イオン化ユニット11のエミッション電流Eaを安定化する処理83を、さらに詳しく示している。ステップ91において、動作管理ユニット22xが、フィラメント電圧Vfをターゲット値にセットし、イオンドライブ回路61は、設定されたフィラメント電圧Vfでイオン化ユニット11を駆動(ドライブ)する。ターゲット値は、分析装置1が起動中あるいは停止準備中であれば、フィラメント電圧Vfを段階的に上げ下げするシーケンスによってセットされる。定常運転中は、フィラメント11fの寿命管理スケジュールにしたがい、所定のエミッション電流Eaが得られる予定の電圧にセットされる。
【0042】
ステップ92において、安定化ユニット22cは、ターゲットのエミッション電流値Etと実際のエミッション電流値Eaとの差分ΔEを計算する。ステップ93において、差分ΔEが1%以下に収まらなければ、ステップ94において、フィラメント電圧Vfを予め設定された間隔で、段階的に増減する(収束処理)。
【0043】
ステップ93において、差分ΔEが1%未満であると判断されると、収束処理を終了し、ステップ95のフィードバック制御に移行し、本例ではPIDループを実行する。ステップ96において、PID制御の出力であるフィラメント電圧Vfの差分ΔVfを取得して、フィラメント電圧Vfを補正する。ステップ97において、エミッション電流Eaの差分ΔEを再計算し、ステップ98において差分ΔEが0.1%未満であれば、イオンドライブ回路61により、設定されたフィラメント電圧Vfでイオン化ユニット11を駆動(ドライブ)する。
【0044】
ステップ98において、差分ΔEが0.1%以上であると判断されると、ステップ99において、差分ΔEが1%未満であれば、ステップ95に移動してフィードバック制御によりフィラメント電圧Vfを補正する。一方、差分ΔEが1%以上であると、ステップ92に戻って、フィラメント電圧Vfを段階的に補正する収束処理でエミッション電流Eaがターゲット値Etに短時間に収束するようにする。これらの処理により、定常的な測定では、分析装置1のエミッション電流Eaの誤差を0.1%未満にすることができ、ほぼnAレベルでエミッション電流Eaを管理できる。したがって、フィルタユニット13に形成されるイオン選別用のフィールド13fに、一定量のイオン流3を精度よくコンスタントに供給することが可能となり、ガス成分をイオン化して測定するタイプの分析装置であって、定量分析が可能な分析装置1を提供できる。
【0045】
上記においては、分析装置1のフィルタユニット13として、四重極電場をイオン分離あるいは選択用のフィールド13fとして形成する例に基づき説明しているが、フィールド13fは、扇型磁場型、電場磁場二重収束型、飛行時間型などの電場あるいは磁場であってもよい。また、フィルタユニット13は、ウィーンフィルタのように電場および磁場(電磁場)をイオン選択用のフィールド13fとして形成するものであってもよい。さらに、フィルタユニット13は、質量電荷比の代わりにイオン移動度によりイオンを選別するタイプの電場をフィールド13fとして形成するものであってもよく、例えば、FAIMSなどの非真空タイプのフィルタユニット13であってもよい。さらに、複数のタイプの異なるフィールド13rを組み合わせて形成するフィルタユニット13であってもよい。
【0046】
また、上記の分析装置1は、センサー10、コントロールボックス20、真空ポンプ31および32などを一体でハンディタイプのサイズにまとめたハウジング(ハウジングユニット)50を備えているが、センサー10および真空系と、コントロールボックス20とを分離して、それぞれのさらにコンパクトなハウジングに収納することも可能であり、回路群が周辺温度の変動に対して精度を維持できるので様々なアレンジに対応できる。また、センサー10の一例は、サイズが数cm程度のコンパクトなものであるが、センサー10はMEMSタイプのさらに小型なものであってもよい。また、分析装置1はハンディタイプであってもよく、さらに、携帯端末あるいはウェアラブルなサイズにまとめられたものであってもよい。
【0047】
上記に記載された一態様は、分析対象の分子をイオン化するイオン化ユニットと、イオン化ユニットにより生成されたイオンを選択的に通過させる場を形成するフィルタユニットと、フィルタユニットを通過したイオンを検出するディテクタユニットと、イオン化ユニットを電気的に駆動するイオンドライブ回路と、フィルタユニットを電気的に駆動するフィールドドライブ回路と、ディテクタユニットの感度を制御するディテクタ回路と、イオンドライブ回路およびフィールドドライブ回路の出力を制御する制御ユニットと、イオンドライブ回路およびフィールドドライブ回路の少なくとも一方の回路の周辺の温度を検出する温度検出ユニットと、イオンドライブ回路およびフィールドドライブ回路の少なくとも一方の回路の出力設定を温度検出ユニットにより検出された温度に基づいて補正する補正ユニットとを有する分析装置である。補正ユニットは、制御ユニットの一機能として実装されてもよく、独立したユニットとして実装されてもよい。補正ユニットは、イオンドライブ回路およびフィールドドライブ回路の全ての出力設定をそれぞれ、検出された温度に基づいて補正(補償、調整)してもよい。イオンを選択的に通過させる場の典型的なものは、電場、磁場、および電磁場であり、イオンを選択的に通過させる場は、これらの少なくともいずれかを含んでもよい。
【0048】
イオンドライブ回路およびフィールドドライブ回路のそれぞれの出力は、それらの回路が搭載された基板の温度あるいは周囲温度により微妙に変動し、本発明者らは、それらを補償することにより、それぞれの回路によりドライブされるユニットのリニアリティを改善でき、検出精度を向上できることを見出した。また、これらの回路の出力を温度補償する機能を付加することにより、イオンドライブ回路と、フィールドドライブ回路と、制御ユニットとを含む分析装置の全体または一部を、ハンディタイプのコンパクトなハウジングユニットに収納することができる。
【0049】
分析装置は、ディテクタユニットの出力感度(ゲイン)を制御するディテクタ回路を有し、温度検出ユニットはディテクタ回路の周辺の温度を検出する機能を含み、補正ユニットは、ディテクタ回路の感度設定を温度検出ユニットにより検出された温度に基づいて補正するユニット(機能)を含んでいてもよい。
【0050】
上記に記載された異なる形態の1つは、さらに、イオンドライブ回路を介して、イオン化ユニットのエミッション電流を安定化させるユニットを有する分析装置である。制御ユニットが安定化させるユニットとしての機能を含んでいてもよく、独立したユニットであってもよい。フィルタユニットに入力されるイオン量を安定化、すなわち、実質的に一定にすることにより、定量的な測定を精度よく行える分析装置を提供できる。
【0051】
上記に記載された異なる形態の1つは、分析装置の制御方法である。分析装置は、分析対象の分子をイオン化するイオン化ユニットと、イオン化ユニットにより生成されたイオンを選択的に通過させる場を形成するフィルタユニットと、フィルタユニットを通過したイオンを検出するディテクタユニットと、イオン化ユニットを電気的に駆動するイオンドライブ回路と、フィルタユニットを電気的に駆動するフィールドドライブ回路と、イオンドライブ回路およびフィールドドライブ回路の出力を制御する制御ユニットと、イオンドライブ回路およびフィールドドライブ回路の少なくとも一方の回路の周辺の温度を検出する温度検出ユニットとを有し、制御方法は、制御ユニットが、少なくとも一方の回路の出力設定を温度検出ユニットにより検出された温度に基づいて補正することを含む。
【0052】
上記には、分析対象の分子をイオン化するイオン化ユニットと、前記イオン化ユニットにより生成されたイオンを選択的に通過させる場を形成するフィルタユニットと、前記フィルタユニットを通過したイオンを検出するディテクタユニットと、前記イオン化ユニットを電気的に駆動するイオンドライブ回路と、前記フィルタユニットを電気的に駆動するフィールドドライブ回路と、前記イオンドライブ回路および前記フィールドドライブ回路の出力を制御する制御ユニットと、前記イオンドライブ回路および前記フィールドドライブ回路の少なくとも一方の回路の周辺の温度を検出する温度検出ユニットと、前記少なくとも一方の回路の出力設定を前記温度検出ユニットにより検出された温度に基づいて補正する補正ユニットとを有する分析装置が記載されている。前記イオンドライブ回路と、前記フィールドドライブ回路と、前記制御ユニットと、前記補正ユニットとを少なくとも収納するハンディタイプのハウジングユニットを有してもよい。前記ディテクタユニットの出力感度を制御するディテクタ回路を有し、前記温度検出ユニットは前記ディテクタ回路の周辺の温度を検出する機能を含み、前記補正ユニットは、前記ディテクタ回路の感度設定を前記温度検出ユニットにより検出された温度に基づいて補正するユニットを含んでもよい。前記イオン化ユニット、前記フィルタユニットおよび前記ディテクタユニットが順番に収納されたセンサーハウジングと、前記センサーハウジングを収納したチャンバと、前記チャンバ内を減圧する減圧ユニットと、前記センサーハウジングの前記イオン化ユニットまたはその近傍に、前記分析対象の分子を含むガスを流入するキャピラリとを有してもよい。前記センサーハウジングは、前記フィルタユニットおよび前記ディテクタユニットの少なくとも一方の近傍で、前記チャンバと連通する開口部を含み、前記減圧ユニットを、前記センサーハウジング外の前記チャンバ内圧力および温度によりフィードバック制御するユニットを有してもよい。前記チャンバの容積Vcと前記センサーハウジングの容積Vhとの比Vc/Vhは、1.5から10であってもよい。前記イオンドライブ回路と、前記フィールドドライブ回路と、前記制御ユニットと、前記チャンバとを収納するハンディタイプのハウジングユニットを有してもよい。
【0053】
前記イオンドライブ回路を介して、前記イオン化ユニットのエミッション電流を安定化させるユニットをさらに有してもよい。前記イオンを選択的に通過させる場は、電場、磁場および電磁場の少なくともいずれかを含んでもよい。前記フィールドドライブ回路は、前記フィルタユニットに振動場を形成するRF出力を供給する回路を含んでもよい。
【0054】
また、上記には、分析装置の制御方法が開示されている。前記分析装置は、分析対象の分子をイオン化するイオン化ユニットと、前記イオン化ユニットにより生成されたイオンを選択的に通過させる場を形成するフィルタユニットと、前記フィルタユニットを通過したイオンを検出するディテクタユニットと、前記イオン化ユニットを電気的に駆動するイオンドライブ回路と、前記フィルタユニットを電気的に駆動するフィールドドライブ回路と、前記イオンドライブ回路および前記フィールドドライブ回路の出力を制御する制御ユニットと、前記イオンドライブ回路および前記フィールドドライブ回路の少なくとも一方の回路の周辺の温度を検出する温度検出ユニットとを有し、当該制御方法は、前記制御ユニットが、前記少なくとも一方の回路の出力設定を前記温度検出ユニットにより検出された温度に基づいて補正することを含む。
【0055】
前記分析装置は、前記ディテクタユニットの出力感度を制御するディテクタ回路を有し、前記温度検出ユニットは前記ディテクタ回路の周辺の温度を検出する機能を含んでもよく、前記補正することは、前記ディテクタ回路の感度設定を前記温度検出ユニットにより検出された温度に基づいて補正することを含んでもよい。前記制御ユニットが、前記イオンドライブ回路を介して、前記イオン化ユニットのエミッション電流を安定化することをさらに有してもよい。