(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420050
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】内接歯車ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20181029BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
F04C2/10 341F
F04C2/10 311Z
F04C2/10 341H
F04C15/00 D
F04C15/00 G
F04C15/00 J
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-46858(P2014-46858)
(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2014-173602(P2014-173602A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2017年2月20日
(31)【優先権主張番号】10 2013 204 071.7
(32)【優先日】2013年3月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】マッシミラーノ・アンブロッシ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・アイゼンラウアー
(72)【発明者】
【氏名】レーネ・シェップ
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト・アラーゼ
(72)【発明者】
【氏名】エドガー・クルツ
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−161777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車(2)と、該内歯歯車(2)内に偏心して配置され、該内歯歯車(2)と噛み合っているピニオン(3)と、該ピニオン(3)と前記内歯歯車(2)とを回転駆動するためのポンプ軸(12)と、該ポンプ軸(12)および/または前記ピニオン(3)を回転可能に支持している軸受(6)とを備えた内接歯車ポンプにおいて、前記軸受(6)が前記ピニオン(3)の内部に配置されており、
前記軸受(6)が前記内接歯車ポンプ(1)のケース(5)と一体であることを特徴とする内接歯車ポンプ。
【請求項2】
前記内接歯車ポンプ(1)が、前記ピニオン(3)と前記ポンプ軸(12)とを相対回転不能に結合させている駆動体(16)を有していることを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項3】
前記内接歯車ポンプ(1)の前記ケース(5)がねずみ鋳鉄から成っていることを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項4】
前記ピニオン(3)が前記ポンプ軸(12)上にじかに配置されていないことを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載の構成を備えた液圧式車両ブレーキ装置用内接歯車ポンプに関するものである。このような内接歯車ポンプは、スリップコントロール式および/またはパワー式車両ブレーキ装置において通常使用されるピストンポンプの代わりに使用され、必ずしも適切ではないが、逆送ポンプと呼ばれることがある。
【背景技術】
【0002】
内接歯車ポンプは公知であり、内歯歯車と、該内歯歯車内に偏心して配置されるピニオンとを有し、ピニオンは周部分で内歯歯車と噛み合っている。内歯歯車は内歯の歯車であり、ピニオンは外歯の歯車であり、内歯歯車とピニオンとは内接歯車ポンプの歯車と見なすこともできる。ピニオンという名称と内歯歯車という名称はこれらを区別するために用いられる。これらの歯車が噛み合っている周部分には、内歯歯車とピニオンとの間にある三日月状の自由空間(ここではポンプ室と記す)が対向している。ポンプ室内には仕切り部材が配置され、該仕切り部材は両歯車の歯先に外側と内側から当接し、ポンプ室を吸込み室と加圧室とに分割させている。仕切り部材はその典型的な形状から三日月体または三日月状部材と呼ばれることもある。仕切り部材の他の名称は充填部材である。歯車は回転駆動によって流体を吸込み室から加圧室へ搬送する。仕切り部材を設けていない内接歯車ポンプも知られており、区別のために環状歯車ポンプと呼ばれる。
【0003】
特許文献1は、ピニオンを回転駆動するためと、該ピニオンに噛み合っている内歯歯車をピニオンを介して回転駆動するために設けられたポンプ軸上にピニオンを固設した内接歯車ポンプを開示している。ポンプ軸は、ピニオンの両側で、ポンプケースに圧入されている滑り軸受で回転可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第4322239A1号明細書
【発明の概要】
【0005】
請求項1の構成を備えた本発明による内接歯車ポンプは、内歯歯車と、該内歯歯車と噛み合っているピニオンと、該ピニオンと内歯歯車とを回転駆動するためのポンプ軸とを有している。本発明によれば、ピニオンの内部に、ポンプ軸を回転支持するための軸受が配置されている。すなわち、軸受はピニオンを含んでいる面内にあり、決してピニオンの横にあるのではない。しかしながら、軸受はピニオンの幅よりも軸線方向に長くてよく、片側または両側でピニオンから突出していてよい。たとえば、軸受はピニオンの中央穴を貫通し、特にピニオンおよび/またはポンプ軸は軸受で回転可能に支持され、軸受はたとえば軸受ブシュとして実施されている。ピニオンの内部に軸受を配置することにより、内接歯車ポンプの構成長さが短くなる。更なる利点は、内接歯車ポンプの作動時に内向きの力がピニオンに作用するようなピニオンの面内で軸受によってピニオンを半径方向で支持することであり、前記内向きの力は流体を外側からピニオンに対し作用させ、流体は内接歯車ポンプによって搬送されてピニオンと内歯歯車との間の加圧室内で加圧状態になる。ピニオンに作用する半径方向の力は、ポンプ軸に対し横方向の軸線のまわりでのモーメントなしで、ピニオンの内部に配置されている軸受によって支持される。その結果、ポンプ軸はピニオンに作用する半径方向の力によって曲げ荷重されないという付加的利点が得られ、このことは、ポンプの回転を改善させ、軸受の摩耗を低減させる。ポンプ軸が曲げ荷重を受けないので、駆動歯車(通常は、ポンプ軸を回転駆動するためにポンプ軸上に相対回転不能に配置されている歯車)のオフセット角および/またはラジアルオフセットは必要ない。これは内接歯車ポンプの同心円回転を改善させ、駆動歯車での摩耗、摩擦、騒音発生を減少させる。総じて、本発明によりポンプ軸の支持精度、同心円回転が改善される。本発明は比較的大きな製造公差を可能にする。
【0006】
従属項は、請求項1に記載した発明の有利な構成および更なる構成を対象としている。
【0007】
請求項2によれば、内接歯車ポンプのケースと一体の軸受が設けられ、これによって別個の軸受およびその取り付けが省略される。
【0008】
請求項3の対象は、ピニオンをポンプ軸と相対回転不能に結合させる駆動体である。この構成により、駆動体外面での、および、軸受内に設けたポンプ軸外面でのピニオンの回転支持が可能になる。駆動体はピニオンの側方および軸受の横に配置されていてよい。ポンプ軸は駆動体を貫通していてよく、または、駆動体はポンプ軸の一端に配置されていてよい。
【0009】
軸受を内接歯車ポンプのケースと一体に構成するため、請求項4によれば、ケースは鋳鉄から成り、たとえばねずみ鋳鉄から成る。この素材は初期成形性と切削加工性とに優れ、軸受の素材として優れている。この素材は軸受の領域に永久潤滑部を備えていてよい。
【0010】
請求項5によれば、ピニオンはポンプ軸にじかに配置されておらず、たとえばすでに述べたように、ピニオンは外側配置され、ポンプ軸は軸受内に配置され、その結果軸受はピニオンとポンプ軸との間にある。
【0011】
本発明による内接歯車ポンプは、特に液圧式、スリップコントロール式および/またはパワー式車両ブレーキ装置用ハイドロポンプとして、通常使用されるピストンポンプの代わりに設けられている。スリップコントロール式車両ブレーキ装置では、ハイドロポンプは逆送ポンプとも呼ばれる。この場合には、本発明による内接歯車ポンプのケースは、特にこのために設けられるスリップコントロールシステムのハイドロリックブロックの受容部への組み込み、挿着または圧入のために構成されている。この場合、内接歯車ポンプのケースはカートリッジと見なすこともできる。
【0012】
次に、本発明を図面に図示した1実施形態に関して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による内接歯車ポンプの軸断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面に図示した本発明による内接歯車ポンプ1は、内歯の歯車(ここでは内歯歯車2と記す)と、外歯の歯車(ここではピニオン3と記す)とを有し、ピニオンは、内歯歯車2と噛み合うように内歯歯車2内に偏心して配置されている。両歯車2,3は平行な軸線を有し、同じ幅であり、同じ面内に配置されている。内歯歯車2は、ケース5内に回転可能に滑り支持されている支持リング4に圧入されている。ピニオン3は軸受6で回転可能に滑り支持され、軸受は、図示し説明される本発明の実施形態では中空筒状であり、すなわち管状であり、支持リングまたは軸受ブシュと見なすこともできる。軸受6は内接歯車ポンプ1のケース5の一体の構成部材である。ケース5は、従ってケース5と一体の軸受6も、好適な切削加工性と軸受材料としての適性のためにねずみ鋳鉄から成り、軸受6の内側と外側に永久潤滑部を備えている。本発明による内接歯車ポンプ1のケース5のためのねずみ鋳鉄は強制的なものではなく、軸受6を備えたケース5は他の金属材料または非金属材料から成っていてもよい。
【0015】
歯車2,3が互いに噛み合っている周部分は、図示した軸断面図では切り取られており、従って見えない。見えるのは歯車2,3が互いに噛み合っていない、歯車2,3の周部分である。この周部分には、内歯歯車2とピニオン3との間に三日月状の中間空間があり、この三日月状の中間空間をここではポンプ室7と記す。ポンプ室7内には、該ポンプ室7を吸込み室9と加圧室10とに分割している仕切り部材8が配置されている。仕切り部材8は三日月状であり、それ故三日月体または三日月状部材とも呼ばれ、仕切り部材8に対する他の名称は充填部材である。仕切り部材8は歯車2,3と同じ幅であり、その外面およびその内面は、歯車2,3の歯の歯先が仕切り部材8の外面および内面に当接するように、凸筒状または凹筒状である。歯車2,3の回転駆動の際、歯車2,3の歯の歯先は仕切り部材8の内面および外面に沿って滑動し、歯車2,3は、歯中間空間内にある流体を吸込み室9から仕切り部材8の外面および内面に沿って加圧室10内へ公知の態様で搬送する。内接歯車ポンプ1を液圧式車両ブレーキ装置のハイドロポンプとして使用する場合、流体は液体であり、すなわちブレーキ液である。
【0016】
歯車2,3および仕切り部材8の両側には、相対回転不能で且つ軸線方向に可動な複数のアキシアルディスク11が配置されている。アキシアルディスクは歯車2,3および仕切り部材8の端面に当接し、ポンプ室7を少なくとも加圧室10の領域および仕切り部材8の領域で側方から覆っている。上部アキシアルディスクは、内接歯車ポンプ1の歯車2,3および仕切り部材8を覆っているので、図示していない。このようなアキシアルディスク11は公知であり、制御円板または加圧板とも呼ばれる。
【0017】
内接歯車ポンプ1は、管状の軸受6内で回転可能に滑り支持されているポンプ軸12を有している。ポンプ軸12は、ピニオン3および図示したアキシアルディスク11の近傍の側方で、ケース5内に設けた軸封リング13で密封され、該軸封リング13の、ピニオン3とは逆の側では、他の軸受14により回転可能にケース5内で支持されている。本発明の図示した実施形態では、この他の軸受14は玉軸受であるが、これは本発明にとって必ずしも強制的なものではない。内接歯車ポンプ1を駆動するため、ケース5の端面側で駆動歯車15としての歯車がポンプ軸12の端部に押圧され、または、他の態様でポンプ軸12に相対回転不能に固定されている。
【0018】
軸受6はピニオン3の内部にあり、ピニオン3の中央穴を貫通している。中央穴はここでは支持穴20と記し、ピニオン3を軸受6で回転可能に滑り支持している。なお、滑り支持が有利であるが、本発明にとって強制的なものではない。ピニオン3をピニオン3内部の軸受6を用いて回転支持することにより、すなわちピニオン3を含んでいる1つの面内で回転支持することにより、ピニオン3を設けたこの面内で該ピニオン3は半径方向で支持される。内接歯車ポンプ1の作動時には、加圧室10内では、ピニオン3を半径方向内側へ付勢する圧力が支配する。ピニオン3は、半径方向の圧力付勢に抗して、ピニオン3の内部に配置されている軸受6によって、ピニオンが圧力付勢される面と同じ面内で半径方向に支持される。従ってピニオン3の半径方向支持はモーメントを受けず、特にピニオン3の軸線に対し半径方向の仮想の軸線のまわりでの傾動モーメントは作用しない。同様にポンプ軸12の曲げ応力も回避される。
【0019】
内接歯車ポンプ1の作動を目的としてピニオン3をポンプ軸12により回転駆動させるため、内接歯車ポンプ1は、ピニオン3をポンプ軸12と相対回転不能に結合させている駆動体16を有している。図示してここに説明している本発明の実施形態では、駆動体16はポンプ軸12の、駆動歯車15から離れた端部に配置されている。図示してここに説明している本発明の実施形態では、駆動体16は三角形の、または、三つ又星の形状を有する板打ち抜き部材、曲げ部材または深絞り部材であり、その隅角部に長方形の屈曲連結部材17を有し、該屈曲連結部材はピニオン3の支持穴20に設けたポケットに係合し、これによって駆動体16はピニオン3と相対回転不能に結合されている。前記ポケットはピニオン3の支持穴20に設けた平坦な凹部である。駆動体16は、軸受6の環状端面とオーバーラップし、その中央に、軸線方向に見て略正方形の、深絞りによって形成される平らな湾曲部18を有し、湾曲部はポンプ軸12の端面の中央に設けた正方形の沈降部19に係合している。駆動体16と一体の湾曲部18は、正方形の沈降部19で形状結合により、駆動体16をポンプ軸12と相対回転不能に結合させている。
【0020】
内接歯車ポンプ1は、液圧式車両ブレーキ装置のスリップコントロールで使用するため、カートリッジと見なすこともできるその筒状ケース5でもって、図示していないハイドロリックブロックの補完的な筒状受容部に圧入されている。このようなハイドロリックブロックはそれ自体液圧式車両ブレーキ装置のスリップコントロールから公知であり、典型的には、2つの内接歯車ポンプ1のための2つの受容部と、ソレノイド弁、ハイドロアキュムレータのようなスリップコントロールシステムの液圧構成要素のための他の受容部とを備えた、アルミニウムから成るブロック状部材である。ハイドロリックブロック内のパイロット穴を通じて、前記受容部または該受容部に挿着される液圧構成要素は互いに液圧接続されている。
【符号の説明】
【0021】
1 内接歯車ポンプ
2 内歯歯車
3 ピニオン
5 内接歯車ポンプのケース
6 軸受
12 ポンプ軸