特許第6420138号(P6420138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6420138ミリ波を透過する樹脂部品並びにこれを備えるミリ波用レドーム及びミリ波レーダー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420138
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】ミリ波を透過する樹脂部品並びにこれを備えるミリ波用レドーム及びミリ波レーダー
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20181029BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20181029BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20181029BHJP
   C08L 33/20 20060101ALI20181029BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20181029BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20181029BHJP
   H01Q 1/42 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   C08L25/04
   C08L51/04
   C08L23/00
   C08L33/20
   C08L33/08
   C08L33/10
   H01Q1/42
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-263516(P2014-263516)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-121307(P2016-121307A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠太郎
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−312696(JP,A)
【文献】 特開平04−127702(JP,A)
【文献】 特開2001−274615(JP,A)
【文献】 特開2012−112660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00−23/36
C08L 25/00−25/18
C08L 33/00−33/26
C08L 51/00−51/10
C08L 55/00−55/04
H01Q 1/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕ゴム質重合体強化樹脂、及び、〔B〕ポリオレフィン樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる、ミリ波を透過する樹脂部品であって、
前記ゴム質重合体強化樹脂〔A〕が、(A1)ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、(A2)(共)重合樹脂とからなり、
前記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)はエチレン・α−オレフィン系ゴム、水添ジエン系ゴム及びシリコーンゴムから選ばれた少なくとも一種のゴム質重合体に由来する重合体部、ビニル系樹脂部とが化学的に結合しているグラフト樹脂であり
前記(共)重合樹脂(A2)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位から選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする樹脂部品。
【請求項2】
前記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)におけるビニル系樹脂部は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位とを含み、
前記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、前記シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の合計量が、前記ビニル系樹脂部の全量に対して70〜100質量%である請求項1に記載の樹脂部品。
【請求項3】
前記ゴム質重合体強化樹脂〔A〕及び前記ポリオレフィン樹脂〔B〕の含有割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、30〜95質量%及び5〜70質量%である請求項1又は2に記載の樹脂部品。
【請求項4】
前記エチレン・α−オレフィン系ゴムが、エチレン・α−オレフィン共重合体である請求項1乃至のいずれか一項に記載の樹脂部品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の樹脂部品を備えるミリ波用レドーム。
【請求項6】
請求項5に記載のミリ波用レドームを備えるミリ波レーダー。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率及び低誘電正接であってミリ波の透過性を有し、耐衝撃性、形状安定性等にも優れる樹脂部品、並びに、これを備え、ミリ波を送信若しくは受信するアンテナモジュールを格納又は保護するミリ波用レドーム(アンテナカバー)、及び、このレドームを備えるミリ波レーダーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、30GHz〜300GHzの電波であるミリ波を送受信するミリ波レーダーを備える無線通信や、センサー等の開発が活発になされ、その応用例も広く提案されている。中には、動きのある人、物体等の位置及び速度を瞬時に検知するセンサー、セキュリティチェック用イメージング装置等のように、既に実用化されたものもある。
ミリ波レーダーは、通常、ミリ波を送信若しくは受信するアンテナモジュールと、これを格納又は保護するレドームとを備える。このうち、レドームは、通常、樹脂成形体であり、用途により、種々の形状を有するが、その全体を、電波を透過しやすい材料により形成したものや、電波の経路に相当する特定部分のみを、電波を透過しやすい材料により形成したものがある。
【0003】
ミリ波用レーダーを構成するレドームの成形材料は、下記の特許文献1〜3等に開示されている。
【0004】
特許文献1には、送受信アンテナ(アンテナモジュール)を有するアンテナベースと、アンテナベースを固定するハウジングと、アンテナベースを覆うレドーム又はレーダーカバーの少なくとも一方とを備えたミリ波レーダーであって、レドーム又はレーダーカバーは、送受信アンテナの前方部分の比誘電率よりも送受信アンテナの側面方向にある部分の比誘電率が大きいミリ波レーダーが開示されている。そして、送受信アンテナの前方部分のレドーム又はレーダーカバーが、ポリカーボネート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリプロピレン、若しくは、これらの樹脂を主成分としたABS樹脂との混成材を主として含む旨の記載がある。
【0005】
特許文献2には、基材層と透明樹脂層との間に加飾体層を有し、電波レーダー装置のビーム経路に配置される成形品において、ビームの周波数における誘電正接が0.0005以下、比誘電率が3以下である熱可塑性樹脂から形成された樹脂成形品が開示されている。そして、この熱可塑性樹脂としては、従来、公知のポリプロピレン樹脂よりもシクロポリオレフィンが好ましいと記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、回路基材、レドーム等の低誘電率が求められる部品用の材料として好適なポリブチレンテレフタレート樹脂と、ガラス転移温度が100℃以上の環状オレフィン樹脂とを含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−312696号公報
【特許文献2】特開2007−13722号公報
【特許文献3】特開2013−43942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ミリ波レーダーとしては、電波の経路に相当する特定部分のみが、電波を透過しやすい材料により形成されたレドームを備えるものや、その全体が電波を透過しやすい材料により形成されたレドームを備えるものがある。いずれにおいても、電波の経路に相当する部分は、少なくとも、優れた誘電特性、機械特性及び形状安定性を備えることが必要である。
【0009】
本発明の目的は、ミリ波の透過性、耐衝撃性、形状安定性等に優れた樹脂部品並びにこれを備えるミリ波用レドーム及びミリ波レーダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ミリ波レーダー、並びに、これを構成する部材であるレドーム又はレドームの構成部材として好適な樹脂部品(以下、「ミリ波透過樹脂部品」ともいう。)であり、以下に示される。
1.〔A〕ゴム質重合体強化樹脂、及び、〔B〕ポリオレフィン樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる、ミリ波を透過する樹脂部品。
2.上記ゴム質重合体強化樹脂〔A〕が、(A1)ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、(A2)(共)重合樹脂とからなり、ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)は、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン・α−オレフィン系ゴム、水添ジエン系ゴム及びシリコーンゴムから選ばれた少なくとも一種のゴム質重合体に由来する重合体部、並びに、ビニル系樹脂部を備え、(共)重合樹脂(A2)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位から選ばれた少なくとも一種からなる上記1又は2に記載の樹脂部品。
3.上記ゴム質重合体強化樹脂〔A〕及び上記ポリオレフィン樹脂〔B〕の含有割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、30〜95質量%及び5〜70質量%である上記1又は2に記載の樹脂部品。
4.上記エチレン・α−オレフィン系ゴムが、エチレン・α−オレフィン共重合体である上記2又は3に記載の樹脂部品。
5.上記1乃至4のいずれか一項に記載の樹脂部品を備えるミリ波用レドーム。
6.上記5に記載のミリ波用レドームを備えるミリ波レーダー。
本明細書において、「ミリ波を透過する」とは、JIS R1660−1に基づいて測定される、約77GHzの周波数における比誘電率が2.8未満であり、誘電正接(tanδ)が9.0×10−3未満である性能を有することを意味する。また、「形状安定性に優れる」とは、JIS K7152−4に基づいて測定される、試験片のMD方向及びTD方向における成形収縮率が、いずれも、1.1%未満である性能を有することを意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のミリ波透過樹脂部品は、比誘電率が低く且つ誘電正接(tanδ)が小さい樹脂材料からなるのでミリ波を反射又は吸収することなく透過することができ、また、耐衝撃性、形状安定性等に優れるので、ミリ波用レドーム又はミリ波レーダーの構成部品として好適である。
本発明のミリ波用レドームは、ミリ波を送信若しくは受信するアンテナモジュールの格納又は保護に好適である。本発明のミリ波用レドームは、その全体が、本発明のミリ波透過樹脂部品からなるものとすることができるし、特に、ミリ波の送信又は受信に係る経路に相当する部分のみを、本発明のミリ波透過樹脂部品からなるようにしたものとすることができる。
本発明のミリ波レーダーは、ミリ波を送信又は受信する装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のミリ波透過樹脂部品並びにこれを備えるミリ波用レドーム及びミリ波レーダーの一例を示す概略断面図である。
図2】本発明のミリ波透過樹脂部品並びにこれを備えるミリ波用レドーム及びミリ波レーダーの他の例を示す概略断面図である。
図3】本発明のミリ波透過樹脂部品並びにこれを備えるミリ波用レドーム及びミリ波レーダーの他の例を示す概略断面図である。
図4】本発明のミリ波透過樹脂部品並びにこれを備えるミリ波用レドーム及びミリ波レーダーの他の例を示す概略断面図である。
図5】本発明のミリ波透過樹脂部品及びミリ波用レドームの他の例を示す概略断面図である。
図6図5のミリ波透過樹脂部品及びミリ波用レドームを備える本発明のミリ波レーダーの他の例を示す概略断面図である。
図7】本発明のミリ波レーダーの他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ゴム質重合体強化樹脂〔A〕(以下、「成分〔A〕」ともいう。)と、ポリオレフィン系樹脂〔B〕(以下、「成分〔B〕」ともいう。)とを含有する、特定の熱可塑性樹脂組成物からなるミリ波透過樹脂部品、この樹脂部品を備えるミリ波用レドーム(以下、「レドーム」ともいう。)、並びに、このレドームと、アンテナモジュールとを備えるミリ波レーダーに関し、図1図7に例示される。
図1図7において、本発明のミリ波透過樹脂部品は、符号60で示す樹脂部品である。また、本発明のレドームは、符号70で示す、ミリ波を送信若しくは受信するアンテナモジュールを格納又は保護する部品であり、図1及び図2に示すように、ミリ波透過樹脂部品60のみからなる物品であってもよいし、図3に示すように、ミリ波透過樹脂部品60と、他の部品62とからなる複合物品であってもよい。本発明のミリ波透過樹脂部品及びレドームにより、無線通信、センサー等に好適な、本発明のミリ波レーダーを構成することができる。
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基を、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
また、JIS K 7121に準ずる熱可塑性樹脂の融点(以下、「Tm」と表記する)は、示差走査熱量計(DSC)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値である。
【0015】
以下、本発明のミリ波透過樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂組成物について、説明する。この熱可塑性樹脂組成物は、成分〔A〕及び〔B〕を必須とするが、更に、他の熱可塑性樹脂や添加剤(いずれも後述)を含有してもよい。
【0016】
上記成分〔A〕は、ゴム質重合体部と、ビニル系樹脂部とが化学的に結合しているゴム質重合体強化ビニル系樹脂を含む成分であり、好ましくは、上記成分〔A〕の全体に対して25質量%以上(100質量%でもよい)含む樹脂成分である。本発明において、上記成分〔A〕は、ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、ゴム質重合体部を含まず、ビニル系単量体に由来する構造単位の一種又は二種以上からなるビニル系樹脂との組み合わせであってもよい。
【0017】
上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂は、好ましくは、ゴム質重合体の存在下、ビニル系単量体を重合して得られたゴム質重合体部と、ビニル系樹脂部とが化学的に結合しているグラフト樹脂であり、特に好ましくは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン・α−オレフィン系ゴム、水添ジエン系ゴム及びシリコーンゴムから選ばれた少なくとも一種のゴム質重合体に由来する重合体部(以下、「ゴム質重合体部」ともいう)と、ビニル系樹脂部とが化学的に結合しているゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)である。
【0018】
上記ゴム質重合体部を構成するゴム質重合体は、25℃でゴム質であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。また、このゴム質重合体は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。
【0019】
上記ジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。
【0020】
上記アクリル系ゴムとしては、好ましくは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系化合物を含む単量体を(共)重合して得られたゴムである。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステル系化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記単量体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系化合物以外に、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;メタクリル酸変性シリコーン、フッ素含有ビニル化合物等の各種のビニル系単量体を30質量%以下の範囲で含んでいてもよい。
【0021】
上記エチレン・α−オレフィン系ゴムは、エチレンに由来する構造単位と、α−オレフィンに由来する構造単位とからなる共重合ゴム、又は、これらの構造単位に加えて、更に、非共役ジエンに由来する構造単位を含む共重合ゴムである。尚、上記成分〔A〕が、エチレン・α−オレフィン系ゴムに由来するゴム質重合体部を含む場合、このエチレン・α−オレフィン系ゴムを構成するエチレン単位量は、本発明のミリ波透過樹脂部品における機械特性、成形外観性の観点から、好ましくは30〜85質量%、より好ましくは40〜80質量%、更に好ましくは45〜75質量%である。
【0022】
上記α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。α−オレフィンの炭素原子数は、本発明のミリ波透過樹脂部品における機械特性、成形外観性の観点から、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜12、更に好ましくは3〜8である。
【0023】
上記非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン、環状ジエン、脂肪族ジエン等が挙げられる。これらの非共役ジエンは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
上記エチレン・α−オレフィン系ゴムが、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合ゴムである場合、非共役ジエンに由来する構造単位の含有割合の上限は、上記エチレン・α−オレフィン系ゴムを構成する構造単位の全量を100質量%とした場合に、好ましくは15質量%、より好ましくは10質量%、更に好ましくは5質量%である。
【0024】
上記エチレン・α−オレフィン系ゴムは、ミリ波透過性の観点から、Tmが好ましくは0℃〜120℃、より好ましくは10℃〜100℃、更に好ましくは30℃〜80℃の範囲にあるエチレン・α−オレフィン共重合体である。このようなエチレン・α−オレフィン系ゴムは、より好ましくは、エチレンに由来する構造単位と、炭素原子数が3〜8のα−オレフィンに由来する構造単位とからなる共重合体であり、更に好ましくは、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体及びエチレン・1−オクテン共重合体であり、特に好ましくは、エチレン・プロピレン共重合体である。
【0025】
上記水添ジエン系ゴムは、1,3−ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチル−1、3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等の共役ジエン系化合物に由来する構造単位を有する単独重合体又は共重合体が、水素添加されてなるもの(以下、「水素添加ジエン系(共)重合ゴム」という。)である。
上記水素添加ジエン系(共)重合ゴムとしては、下記の構造を有するブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。即ち、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロックP;1,2−ビニル結合含量が25モル%を超える共役ジエン系化合物に由来する構造単位からなる重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックQ;1,2−ビニル結合含量が25モル%以下の共役ジエン系化合物に由来する構造単位からなる重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックR;並びに、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と共役ジエン系化合物に由来する構造単位とからなる共重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックSのうち、二種以上を組み合わせたものからなるブロック共重合体である。
【0026】
上記ブロック共重合体の分子構造は、分岐状、放射状又はこれらの組み合わせでもよい。また、ブロック構造は、ジブロック、トリブロックもしくはマルチブロック又はこれらの組み合わせでもよい。
上記ブロック共重合体の構造としては、P−(Q−P)n、(P−Q)n、P−(Q−R)n、R−(Q−R)n、(Q−R)n、P−(S−P)n、(P−S)n、P−(S−R)n、R−(S−R)n、(S−R)n、P−(Q−R−S)n、(P−Q−R−S)n〔但し、nは1以上の整数である。〕等が挙げられ、好ましくは、P−Q−P、P−Q−P−Q、P−Q−R、P−S−R、R−Q−Rである。
【0027】
上記ブロック共重合体を構成する重合体ブロックP及びSの形成に用いられる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレンが好ましい。
上記ブロック共重合体を構成する重合体ブロックPの含有割合は、重合体の全体に対して、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
【0028】
上記重合体ブロックQ、R及びSは、共役ジエン系化合物及び芳香族ビニル化合物を用いて得られた水素添加前ブロック共重合体を水素添加することにより形成される。上記重合体ブロックQ、R及びSの形成に用いられる共役ジエン系化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、クロロプレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、工業的に利用でき、物性に優れることから、1,3−ブタジエン及びイソプレンが好ましい。
【0029】
上記重合体ブロックQ、R及びSの水素添加率は、いずれも95モル%以上であり、好ましくは96モル%以上である。
上記重合体ブロックQにおける1,2−ビニル結合含量は、好ましくは25モル%を超え90モル%以下、より好ましくは30〜80モル%である。
また、上記重合体ブロックRにおける1,2−ビニル結合含量は、好ましくは25%モル以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0030】
上記重合体ブロックSにおける1,2−ビニル結合含量は、好ましくは25〜90モル%、より好ましくは30〜80モル%である。
また、上記重合体ブロックSにおける、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0031】
上記水素添加ジエン系(共)重合ゴムとしては、水添ポリブタジエン、水添スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックポリマー、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体の水素添加物等が挙げられる。
尚、上記水素添加ジエン系(共)重合ゴムにおいて、水素添加前のジエン系(共)重合体に対する水素添加率は、好ましくは10〜95%、より好ましくは20〜70%、更に好ましくは30〜65%である。
【0032】
上記水素添加ジエン系(共)重合ゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1万〜100万、より好ましくは3万〜80万、更に好ましくは5万〜50万である。
【0033】
上記シリコーンゴムは、好ましくは、重合性不飽和結合(炭素−炭素二重結合)を有するポリオルガノシロキサン系重合体であり、特に好ましくは、下記一般式(1)で表される構造単位を有するオルガノシロキサン(i)の一種以上と、グラフト交叉剤(ii)とを共縮合して得られた変性ポリオルガノシロキサンゴムである。
〔RSiO〕(4−n)/2 (1)
(式中、Rは置換又は非置換の1価炭化水素基であり、nは0〜3の整数を示す。Rが複数ある場合、互いに同一であっても異なってもよい。)
【0034】
上記一般式(1)におけるR、即ち、1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;及び、これら炭化水素基における炭素原子に結合した水素原子の一部がハロゲン原子、シアノ基等で置換された基;並びにアルキル基の水素原子の少なくとも一つがメルカプト基で置換された基等が挙げられる。
【0035】
上記オルガノシロキサン(i)は、直鎖状、分岐状又は環状であり、環状構造を有することが好ましい。具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。これらは、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
尚、上記オルガノシロキサン(i)は、上記一般式(1)で表される化合物の一種以上を用いて、予め縮合された、例えば、重量平均分子量(Mw)が500〜10,000程度のポリオルガノシロキサンであってもよい。そして、このポリオルガノシロキサンにおいて、その分子鎖末端が、ヒドロキシル基、アルコキシ基、トリメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基等の官能基で封止されたポリオルガノシロキサンであってもよい。
【0036】
上記グラフト交叉剤(ii)としては、ビニルメチルジメトキシシラン、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、1−(p−ビニルフェニル)メチルジメチルイソプロポキシシラン、2−(p−ビニルフェニル)エチレンメチルジメトキシシラン、3−(p−ビニルフェノキシ)プロピルメチルジエトキシシラン、1−(o−ビニルフェニル)−1,1,2−トリメチル−2,2−ジメトキシジシラン、アリルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の、炭素−炭素不飽和結合とアルコキシシリル基とを有する化合物;γ−メルカプトプロピルメチルメチルジメトキシシラン等の、メルカプト基(チオール基)を有するシラン化合物;アミノ基を有するシラン化合物;テトラビニルテトラメチルシクロシロキサン等が挙げられる。
上記オルガノシロキサン(i)が、重合性不飽和結合を含む場合、使用するグラフト交叉剤(ii)は、重合性不飽和結合を有しても有さなくてもよい。
【0037】
上記変性ポリオルガノシロキサンゴムを製造する場合には、オルガノシロキサン(i)とグラフト交叉剤(ii)とを、アルキルベンゼンスルホン酸等の乳化剤の存在下、ホモミキサー等を用いて剪断混合し、縮合させる方法等とすることができる。上記グラフト交叉剤(ii)の使用量の上限は、上記オルガノシロキサン(i)との合計量を100質量%とした場合に、好ましくは50質量%、より好ましくは10質量%、更に好ましくは5質量%である。
上記変性ポリオルガノシロキサンゴムの製造に際して、耐衝撃性を改良するために、架橋剤を添加することもできる。架橋剤としては、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等の3官能性架橋剤、テトラエトキシシラン等の4官能性架橋剤等が挙げられる。架橋剤を用いる場合、その使用量の上限は、オルガノシロキサン(i)及びグラフト交叉剤(ii)の合計量を100質量部とした場合に、通常、10質量部、好ましくは5質量部である。
上記変性ポリオルガノシロキサンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000〜1,000,000である。
【0038】
一方、上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)を構成するビニル系樹脂部は、ビニル系単量体に由来する構造単位を含むビニル系樹脂に由来する部分である。このビニル系樹脂部は、ビニル系単量体に由来する構造単位の一種のみを含むものであってよいし、ビニル系単量体に由来する構造単位の二種以上を含むものであってもよい。
【0039】
上記ビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、本発明のミリ波透過樹脂部品における成形外観性及び形状安定性の観点から、上記ビニル系樹脂部は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。上記ビニル系樹脂部に含まれる、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の下限は、上記観点から、好ましくは50質量%、より好ましくは60質量%、更に好ましくは70質量%である。
【0040】
上記芳香族ビニル化合物は、少なくとも一つのビニル結合と、少なくとも一つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されない。但し、官能基等の置換基を有さないものとする。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0041】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0042】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらのうち、N−フェニルマレイミドが好ましい。また、これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。尚、重合体鎖に、マレイミド系化合物に由来する構造単位を導入する場合、例えば、無水マレイン酸を共重合させた後、イミド化する方法を適用することができる。
【0044】
上記不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、2,3−ジメチル無水マレイン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
上記アミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジエチルアミノメチル、アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、メタクリル酸ジエチルアミノメチル、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、p−アミノスチレン、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N−メチルアクリルアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アミド基含有不飽和化合物としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、2−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、3−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、4−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、p−ビニルベンジルアルコール、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
上記エポキシ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p−スチレンカルボン酸グリシジル、2−メチルプロペニルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
上記オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン、4−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4−メチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0049】
上記ビニル系樹脂部が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の一種又は二種以上からなるビニル系樹脂部であってよいし、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、他のビニル系単量体に由来する構造単位とからなるビニル系共重合体部であってもよい。後者の場合、他のビニル系単量体としては、本発明のミリ波透過樹脂部品における成形外観性等の観点から、シアン化ビニル化合物又は(メタ)アクリル酸エステル化合物が好ましい。
本発明において、上記ビニル系樹脂部が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位とを含む場合、これらの構造単位の合計量は、本発明のミリ波透過樹脂部品における成形外観性、形状安定性、耐薬品性等の観点から、ビニル系樹脂部の全量に対して、好ましくは70〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは85〜100質量%である。また、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は、上記の観点から、これらの合計を100質量%とした場合、それぞれ、好ましくは55〜95質量%及び5〜45質量%、より好ましくは60〜90質量%及び10〜40質量%、更に好ましくは65〜80質量%及び20〜35質量%である。
【0050】
上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)を構成する、ゴム質重合体部及びビニル系樹脂部の含有割合は、本発明のミリ波透過樹脂部品における機械特性、成形外観性の観点から、これらの合計を100質量%とした場合、それぞれ、好ましくは40〜85質量%及び15〜60質量%、より好ましくは50〜80質量%及び20〜50質量%、更に好ましくは55〜75質量%及び25〜45質量%である。
【0051】
グラフト樹脂である上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)のグラフト率は、機械特性、成形外観性の観点から、好ましくは20%以上であり、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35〜65%である。
上記グラフト率は、下記式により求めることができる。
グラフト率(%)={(S−T)/T}×100
上記式中、Sはゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tはゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)1グラムに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0052】
上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)としては、ジエン系ゴムに由来する重合体部と、ビニル系樹脂部とを有するゴム質重合体強化ビニル系樹脂(ジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂)、アクリル系ゴムに由来する重合体部と、ビニル系樹脂部とを有するゴム質重合体強化ビニル系樹脂(アクリル系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂)、エチレン・α−オレフィン系ゴムに由来する重合体部と、ビニル系樹脂部とを有するゴム質重合体強化ビニル系樹脂(エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂)、水添ジエン系ゴムに由来する重合体部と、ビニル系樹脂部とを有するゴム質重合体強化ビニル系樹脂(水添ジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂)、及び、シリコーンゴムに由来する重合体部と、ビニル系樹脂部とを有するゴム質重合体強化ビニル系樹脂(シリコーンゴム質重合体強化ビニル系樹脂)が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。即ち、上記熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)を一種のみ含んでよいし、二種以上の組み合わせで含んでもよい。
【0053】
本発明に係る成分〔A〕は、上記のように、ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、ゴム質重合体部を含まないビニル系樹脂とからなるものであってもよい。この場合、両者の含有割合は、ゴム質重合体強化ビニル系樹脂を構成するゴム質重合体部の含有割合が、成分〔A〕の全体に対して、15〜65質量%となるように設定される。
また、上記態様の場合、ゴム質重合体強化ビニル系樹脂は、好ましくは、上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)である。一方、ビニル系樹脂は、好ましくは、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物から選ばれた少なくとも一種を用いて得られた(共)重合樹脂である。中でも、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位から選ばれた少なくとも一種からなる(共)重合樹脂(A2)であることが特に好ましい。
【0054】
上記(共)重合樹脂(A2)としては、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン・メタクリル酸メチル共重合体、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
次に、上記成分〔B〕は、好ましくは、炭素原子数が2以上のα−オレフィンに由来する構造単位の少なくとも一種からなる非変性の(共)重合体である。本発明において、特に好ましい成分〔B〕は、炭素原子数2〜10のα−オレフィンに由来する構造単位の少なくとも一種からなるポリオレフィン系樹脂である。
【0056】
上記α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、3−メチルヘキセン−1等が挙げられる。これらは、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1及び4−メチルペンテン−1が好ましく、プロピレンが特に好ましい。
【0057】
α−オレフィンに由来する構造単位のみからなるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン・ブテン−1共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体が好ましく、機械特性、成形外観性、ミリ波透過性の観点から、プロピレン単位を全構造単位に対して、85質量%以上含むポリプロピレン系樹脂、即ち、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体がより好ましい。上記エチレン・プロピレン共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体等があるが、ランダム共重合体が特に好ましい。
【0058】
上記成分〔B〕は、結晶性であってよいし、非晶性であってもよい。好ましくは、室温下、X線回折により、20%以上の結晶化度を有するものである。
上記成分〔B〕のTmは、好ましくは40℃以上である。
また、上記成分〔B〕の分子量は、特に限定されないが、機械特性、成形外観性の観点から、JIS K7210に準ずるメルトマスフローレート(以下、「MFR」ともいう。)は、好ましくは0.01〜500g/10分、より好ましくは0.05〜100g/10分であり、各値に相当する分子量を有するものが好ましい。
【0059】
上記熱可塑性樹脂組成物は、成分〔B〕を一種のみ含んでよいし、二種以上の組み合わせで含んでもよい。
【0060】
上記熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分〔A〕及び〔B〕の含有割合は、ミリ波透過性、形状安定性、機械特性の観点から、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは35〜95質量%及び5〜65質量%、より好ましくは50〜90質量%及び10〜50質量%、更に好ましくは65〜85質量%及び15〜35質量%である。
【0061】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記のように、成分〔A〕及び〔B〕以外に、他の熱可塑性樹脂を含有してもよい。他の熱可塑性樹脂を含有する場合、その含有割合の上限は、上記成分〔A〕及び〔B〕の合計100質量部に対して、好ましくは30質量部、より好ましくは20質量部である。
他の熱可塑性樹脂としては、変性ポリオレフィン系樹脂、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、共役ジエン系化合物に由来する構造単位とを含む共重合体を水素添加させてなる樹脂(以下、「水素添加スチレン・ジエン系樹脂」という)、スチレン・ジエン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。尚、変性ポリオレフィン系樹脂及び水素添加スチレン・ジエン系樹脂の中には、成分〔A〕の種類により、成分〔A〕及び〔B〕の相溶性を向上させるものがある。
【0062】
上記変性ポリオレフィン系樹脂としては、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、シラン基等の官能基を有する樹脂;非変性ポリオレフィン系樹脂の存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合樹脂等を用いることができる。変性前の(非変性)ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンに由来する構造単位と、エチレン及び/又は1−ブテンに由来する構造単位とからなるランダム共重合体若しくはブロック共重合体、エチレンに由来する構造単位と、プロピレンに由来する構造単位と、非共役ジエンに由来する構造単位(50質量%以下)とからなるエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、ポリメチルペンテン、シクロペンタジエンに由来する構造単位と、エチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位とからなる共重合体、エチレン又はプロピレンに由来する構造単位と、他のビニル系単量体に由来する構造単位(50質量%以下)とからなるランダム共重合体若しくはブロック共重合体等が挙げられる。
【0063】
上記変性ポリオレフィン系樹脂のうち、カルボン酸基又は酸無水物基を有する樹脂は、相溶化剤として、特に、成分〔A〕がジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂又はエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂を含む場合に好適である。
【0064】
また、上記変性ポリオレフィン系樹脂として用いることができるグラフト共重合樹脂は、好ましくはプロピレン系樹脂の存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合樹脂である。このビニル系単量体は、芳香族ビニル化合物又はシアン化ビニル化合物と共重合可能な他の単量体を含んでもよい。上記グラフト共重合樹脂におけるグラフト率は、好ましくは20〜200%、より好ましくは30〜150%、更に好ましくは40〜120%である。
【0065】
上記プロピレン系樹脂の性質は、特に限定されないが、温度230℃、及び、荷重2.16kgの条件で測定したメルトマスフローレート(MFR)は、好ましくは1〜100g/10分、より好ましくは5〜50g/10分、更に好ましくは5〜30g/10分である。また、GPCで測定した分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは1.2〜10、より好ましくは1.5〜8、更に好ましくは2〜6であり、Tmは、好ましくは150℃〜170℃、より好ましくは155℃〜167℃である。上記プロピレン系樹脂は、好ましくはプロピレンの単独重合体である。
【0066】
上記グラフト共重合樹脂の形成に用いられるビニル系単量体については、上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)におけるビニル系樹脂部の形成に用いられるビニル系単量体として例示された各単量体の説明が適用される。
【0067】
上記グラフト共重合樹脂におけるプロピレン系樹脂の含有割合は、グラフト共重合樹脂を100質量%とした場合に、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%である。
【0068】
上記変性ポリオレフィン系樹脂のうち、上記グラフト共重合樹脂は、相溶化剤として、特に、成分〔A〕がエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂を含む場合に好適である。
【0069】
次に、上記水素添加スチレン・ジエン系樹脂は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び、共役ジエン系化合物に由来する構造単位の含有割合が、それぞれ、好ましくは10〜90質量%及び10〜90質量%、より好ましくは30〜90質量%及び10〜70質量%、更に好ましくは50〜80質量%及び20〜50質量%である共重合体(以下、「前駆体」という)を水素添加して得られた樹脂である。
【0070】
上記前駆体は、ジエン部分のミクロ構造である1,2−及び3,4−ビニル結合含有量が、ビニル結合量の合計を100%とした場合に、10〜80%であるブロック共重合体であることが好ましく、Xを芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロック、Yを共役ジエン系化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロック、X/Yを芳香族ビニル化合物及び共役ジエン系化合物の両方に由来する構造単位からなるランダム共重合体ブロック、Zを芳香族ビニル化合物及び共役ジエン系化合物の両方に由来する構造単位からなる重合体ブロックであって、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が漸増するテーパーブロックとした場合、下記(1)〜(10)に例示される。
(1)X−Y
(2)X−Y−X
(3)X−Y−Z
(4)X−Y1−Y2(Y1のビニル結合は好ましくは20%以上、Y2のビニル結合は好ましくは20%未満)
(5)X/Y
(6)X−X/Y
(7)X−X/Y−Z
(8)X−X/Y−X
(9)Z−X/Y−Z
(10)Z−X−Y
【0071】
上記芳香族ビニル化合物は、ビニル系樹脂部の形成に用いられる芳香族ビニル化合物として例示された化合物の説明が適用され、スチレンが好ましい。
また、上記共役ジエン系化合物は、上記ゴム質重合体強化ビニル系樹脂(A1)におけるゴム質重合体部が水添ジエン系ゴムに由来する場合であって、この水添ジエン系ゴムの形成に用いられる共役ジエン系化合物として例示された化合物の説明が適用され、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0072】
上記水素添加スチレン・ジエン系樹脂は、上記前駆体に含まれる二重結合部分の、好ましくは10〜95%、より好ましくは20〜70%、更に好ましくは30〜65%が水素添加された樹脂であることが好ましい。
【0073】
上記水素添加スチレン・ジエン系樹脂は、相溶化剤として、特に、成分〔A〕がエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂、アクリル系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂又はシリコーンゴム質重合体強化ビニル系樹脂を含む場合に好適である。
【0074】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記のように、添加剤を含有してもよい。この添加剤としては、樹脂部品の機械特性を向上させる充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、安定剤、耐候剤、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤、撥水剤、撥油剤、消泡剤、抗菌剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)等が挙げられる。
【0075】
上記熱可塑性樹脂組成物によれば、周波数77GHzにおける誘電正接を、好ましくは3.0×10−3〜10.0×10−3、より好ましくは3.3×10−3〜8.0×10−3、更に好ましくは3.5×10−3〜7.0×10−3とすることができる。また、比誘電率を、好ましくは2.4〜2.8、より好ましくは2.5〜2.7、更に好ましくは2.5〜2.6とすることができる。
【0076】
本発明のミリ波透過樹脂部品又はミリ波用レドームは、上記熱可塑性樹脂組成物又はその原料成分の混合物を溶融した後、射出成形等の、従来、公知の成形方法に供することにより得られたものとすることができる。
本発明のミリ波透過樹脂部品60は、その形状によって、単独でミリ波用レドーム70として用いることができる(図1図2図5及び図6参照)。また、本発明のミリ波透過樹脂部品60は、他の樹脂部品62,66等と組み合わせて、ミリ波用レドーム70を構成することができる(図3図4及び図7参照)。
【0077】
本発明のミリ波透過樹脂部品及びミリ波用レドームの形状は、特に限定されず、図1図7に示すように、曲面部、角部等を有することができ、アンテナモジュール、ミリ波レーダー等の形状に応じたものとすることができる。
【0078】
図1図2図3図4及び図7は、いずれも、1体で送受信可能なアンテナモジュール12が、ミリ波用レドーム70により格納又は保護されたミリ波レーダーを示し、図6は、2体、例えば、送信用アンテナモジュール12A及び受信用アンテナモジュール12Bが、ミリ波を吸収又は反射する仕切部64を備えるミリ波用レドーム70(図5)により格納又は保護されたミリ波レーダーを示す。アンテナモジュール12,12A,12Bは、例えば、樹脂又は無機材料(金属、セラミックス等)からなるアンテナベース14に配設されたものとすることができる。ミリ波用レドーム70は、アンテナベース14に、直接、又は、他の部材を介して配設されたものとすることができる。また、図1図2図3図4図6及び図7において、アンテナベース14は、平板としているが、これに限定されず、曲面板、凹凸断面又はジグザグ状断面を有するものであってもよい。
【0079】
図1及び図2のミリ波レーダー10は、その全体に渡って同じ肉厚とした半球型のミリ波透過樹脂部品60からなるミリ波用レドーム70を備える態様であり、アンテナベース14に対して図面の右側全体におけるミリ波の送受信を可能としている。アンテナモジュール12から特定の方向のみにミリ波の送受信を可能とするため、同じ熱可塑性樹脂組成物からなるにも関わらず、一部に上記好ましい長さより厚すぎる又は薄すぎる肉厚部を有することで、特定波長のミリ波の透過性を異なるようにしたミリ波透過樹脂部品60を備える態様とすることができる。
【0080】
図3のミリ波レーダー20は、ミリ波透過樹脂部品60、及び、ミリ波を吸収又は反射する他の樹脂部品62を組み合わせて、半球型のミリ波用レドーム70とした態様であり、アンテナモジュール12から特定の方向のみにミリ波の送受信を可能としている。
図4のミリ波レーダー30は、ミリ波透過樹脂部品60、及び、他のミリ波透過樹脂部品66からなるミリ波用レドーム70を備える態様であり、アンテナベース14に対して図面の右側全体におけるミリ波の送受信を可能としている。他のミリ波透過樹脂部品66は、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物からなるものであってよいし、従来、公知の樹脂組成物からなるものであってもよい。
【0081】
図5は、仕切部64の肉厚を大きくして、他部とのミリ波の透過性を異なるようにした以外は、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物からなる、直方体状のミリ波透過樹脂部品60又はミリ波用レドーム70を示し、これを備える図6のミリ波レーダー40は、送信用アンテナモジュール12A及び受信用アンテナモジュール12Bを、仕切部64によって、別々に格納する態様である。このような構成のミリ波レーダー40の場合、送信アンテナ部から受信アンテナ部へのミリ波の回り込みが、仕切部64により抑制される。尚、図5は、仕切部64を備え、一体化されたミリ波透過樹脂部品60又はミリ波用レドーム70としたが、他の態様として、仕切部64を、ミリ波を吸収又は反射する材料からなる部材により形成したミリ波用レドーム70を備えるミリ波レーダーとすることもできる。
【0082】
図7は、車両の渋滞緩和や事故減少を目指す高度道路交通システム(ITS)の中核技術として注目されているA.C.C.(アダプティブクルーズコントロール)に好適なセンサー等の構成部品としてのミリ波レーダー50の概略図である。
図7の基本構造は、図3及び図4を組み合わせたものであり、アンテナベース14に配設されたアンテナモジュール12を、ミリ波透過樹脂部品60、他のミリ波透過樹脂部品66、及び、ミリ波を吸収又は反射する他の樹脂部品62からなるミリ波用レドームにより格納するものである。そして、ミリ波透過樹脂部品60と、他のミリ波透過樹脂部品66との間に、ミリ波の透過性を問わない層であって、車両の前面における意匠を形成する加飾層68を備え、他のミリ波透過樹脂部品66の側から、加飾層68により描出される意匠が認識できるようになっている。加飾層68は、印刷、塗装、蒸着等により形成されたものとすることができる。
図示していないが、図7における他のミリ波透過樹脂部品66を排除した態様のミリ波レーダーとすることもできる。
【実施例】
【0083】
以下、表1〜表3に示す原料からなる熱可塑性樹脂組成物を用いて、図1に示す半球型の樹脂成形品(60,70)を製造した例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0084】
1.樹脂成形品の製造原料
実施例1〜19及び比較例1〜4で用いた原料は、以下の通りである。尚、グラフト率の測定は、上記記載の方法に準じて行った。
【0085】
1−1.原料(A)
各種ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂とを組み合わせたゴム質重合体強化樹脂を用いた。
【0086】
1−1−1.ABS
ゲル分率86%、平均粒子径290nmのポリブタジエンゴムの存在下、スチレン及びアクリロニトリルを乳化重合して得られた、グラフト率が55%のジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂とからなるゴム質重合体強化樹脂である。ジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂におけるグラフト率は55%であり、ゴム質重合体強化樹脂に含まれるポリブタジエンゴムの含量は40.5%、アクリロニトリル単位量は17.0%、スチレン単位量は42.5%であった。また、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(アセトン可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.45dl/gであった。
【0087】
1−1−2.AES(EPR)
トルエン溶媒中、エチレン単位量が78%であり、プロピレン単位量が22%であり、Tmが40℃であるエチレン・プロピレン共重合ゴムの存在下、スチレン及びアクリロニトリルを溶液重合して得られた、エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂とからなるゴム質重合体強化樹脂である。エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂におけるグラフト率は55%であり、ゴム質重合体強化樹脂に含まれるエチレン・プロピレン共重合ゴムの含量は30%、アクリロニトリル単位量は24%、スチレン単位量は46%であった。また、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(アセトン可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.5dl/gであった。
【0088】
1−1−3.AES(EPDM)
トルエン溶媒中、エチレン単位量が63%であり、プロピレン単位量が32%であり、ジシクロペンタジエン単位量が5%であり、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が33であるエチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合ゴムの存在下、スチレン及びアクリロニトリルを重合して得られた、エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂とからなるゴム質重合体強化樹脂である。エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂におけるグラフト率は60%であり、ゴム質重合体強化樹脂に含まれるエチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合ゴムの含量は30%、アクリロニトリル単位量は23%、スチレン単位量は47%であった。また、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(アセトン可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.45dl/gであった。
【0089】
1−1−4.PX(DR)
トルエン溶媒中、JSR社製水素添加スチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体「ダイナロン4600P」(商品名)の存在下、メタクリル酸メチル、スチレン及びアクリロニトリルを重合して得られた、水添ジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂と、未グラフトのメタクリル酸メチル・アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂とからなるゴム質重合体強化樹脂である。水添ジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂におけるグラフト率は45%であり、ゴム質重合体強化樹脂に含まれる水添ジエン系ゴムの含量は30%、メタクリル酸メチル単位量は50%、アクリロニトリル単位量は10%、スチレン単位量は10%であった。また、未グラフトのメタクリル酸メチル・アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(アセトン可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.48dl/gであった。
【0090】
1−1−5.ASA
攪拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水85部、ロジン酸カリウム0.7部、炭酸水素ナトリウム0.45部、炭酸ナトリウム0.15部、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合のナトリウム塩0.5部及び亜二チオン酸ナトリウム0.03部を添加した。単量体として、n−ブチルアクリレート5部を加え、攪拌しながら昇温した。内温が75℃に達したところで、過硫酸カリウム0.12部を添加し、重合を開始した。1時間重合させた後、過硫酸カリウム0.06部、n−ブチルアクリレート44.5部及びアリルメタクリレート0.5部を3時間かけて連続的に添加し、更に1時間重合を継続した。その後、65℃まで冷却し、イオン交換水33部、ロジン酸カリウム0.8部及びtert−ブチルハイドロパーオキサイド0.07部を加え、更にピロリン酸ナトリウム0.4部、硫酸第一鉄7水和物0.01部、ブドウ糖0.3部をイオン交換水15部に溶解した溶液と、スチレン10.95部と、アクリロニトリル4.05部とを加え、75℃まで昇温した。1時間重合させた後、スチレン25.55部、アクリロニトリル9.45部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部及びtert−ブチルハイドロパーオキサイド0.2部を4時間かけて連続的に添加し、更に1時間重合を継続した。硫酸マグネシウム溶液で凝固、水洗した後、乾燥し、ゴム質重合体強化樹脂を得た。このゴム質重合体強化樹脂に含まれるアクリル系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂におけるグラフト率は40%、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(アセトン可溶分)の含有率は30%であり、このアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.43dl/gであった。
【0091】
1−1−6.SX
p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン1.5部及びオクタメチルシクロテトラシロキサン98.5部の混合物を、ドデシルベンゼンスルホン酸2.0部を蒸留水に溶解させた水溶液300部に投入し、ホモミキサーにより3分間攪拌して乳化分散させた。乳化分散液を、コンデンサー、窒素ガス導入口及び攪拌機を備えたセパラブルフラスコに移し、攪拌下、90℃で6時間加熱して縮合反応させ、5℃で24時間冷却することで反応を完了させた。これにより、縮合率92.8%で変性ポリオルガノシロキサンゴムを含むラテックスを得た。その後、このラテックスに、炭酸ナトリウム水溶液を添加してpH7に中和した。尚、変性ポリオルガノシロキサンゴムの体積平均粒子径は280nmであった。
次に、攪拌機を備えたガラス製フラスコに、上記変性ポリオルガノシロキサンゴム40部、イオン交換水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を収容し、攪拌しながら45℃まで昇温した。その後、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート・2水和物0.2部及びイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液、並びに、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.1部を添加し、重合を開始した。そして、1時間後、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルハイドロパーオキサイド0.2部、スチレン30部及びアクリロニトリル10部からなるインクレメンタル重合成分を3時間に渡って連続的に添加し、重合を続けた。添加終了後、更に攪拌を1時間続けた。
その後、2,2−メチレン−ビス(4−エチレン−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を停止し、ゴム質重合体強化樹脂を含むラテックスを得た。次いで、ラテックスに塩化カルシウム2部を添加して、樹脂成分を凝固し、水洗及び乾燥(75℃、24時間)を行い、白色粉末(ゴム質重合体強化樹脂)を回収した。重合転化率は97.2%、このゴム質重合体強化樹脂に含まれるシリコーン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂におけるグラフト率は90%、アセトン可溶分(アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.47dl/gであった。
【0092】
1−1−7.AS(アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂)
スチレン単位量が70%、アクリロニトリル単位量が30%のアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂を用いた。極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.40dl/gであった。
【0093】
1−2.原料(B)
日本ポリプロ社製ブロックタイプポリプロピレン「ノバテックBC6C」(商品名)を用いた。
【0094】
1−3.原料(C)
相溶化剤として、下記のSBC、PP−g−AS及びmPOを用いた。
【0095】
1−3−1.SBC
旭化成ケミカルズ社製水素添加スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレンブロック共重合体「タフテックP2000」(商品名)を用いた。MFR(温度190℃、荷重2.16kg)は3g/10分である。
【0096】
1−3−2.PP−g−AS
トルエン溶媒中、MFR(温度230℃、荷重2.16kg)が10g/10分のポリプロピレンの存在下、スチレン及びアクリロニトリルを重合して得られた、グラフト樹脂混合物である。グラフト樹脂組成物に含まれるグラフト樹脂におけるグラフト率は43.3%であり、グラフト樹脂組成物に含まれるポリプロピレンの含量は41%、アクリロニトリル単位量は17%、スチレン単位量は42%であった。
【0097】
1−3−3.mPO
三洋化成工業社製酸変性低分子量ポリプロピレン系樹脂「ユーメックス1001」(商品名)を用いた。酸価は26である。
【0098】
2.レドーム用樹脂部品の製造及び物性評価
実施例1〜20及び比較例1〜4
原料(A)、(B)及び(C)を、表1〜表3に記載の割合で、ヘンシェルミキサーにて混合した後、この混合物を、日本製鋼社製2軸押出機「TEX44αII」(型式名)に供給して溶融混練(シリンダー設定温度:180℃〜220℃)し、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを得た。そして、このペレットを射出成形に供し、外径50mm、肉厚2mmの半球型成形品(図1の符号60,70)を得た。このうち、実施例3、6、12、15、16及び20について、表面にブツ又はシルバーの有無を目視観察し、成形外観性の評価を行った。また、ペレットから所定形状の試験片を作製し、下記の評価に供した。その結果を表1〜表3に併記した。
【0099】
2−1.比誘電率及び誘電正接(tanδ)
アジレントテクノロジー社製装置を用い、遮断円筒導波管法(JIS R1660−1)により、周波数約77GHzにおける比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0100】
2−2.耐衝撃性
ISO 179に準じて、シャルピー衝撃強さを、温度23℃で測定した。単位は「kJ/m」である。
2−3.成形収縮性
JIS K7152−4に準じて、試験片の成形収縮率を、MD方向及びTD方向について、それぞれ、温度23℃で測定した。
○:0.8%未満
△:0.8%〜1.2%
×:1.2%超過
2−4.流動性
ISO 1133に準じて、メルトマスフローレートを、温度220℃及び荷重98Nの条件で測定した。単位は「g/10分」である。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
表1〜表3より、以下のことが分かる。
比較例1は、原料(A)のみからなる熱可塑性樹脂組成物を用いた例であり、耐衝撃性及び形状安定性に劣る。比較例2〜4は、原料(B)のみからなる熱可塑性樹脂組成物を用いた例であり、耐衝撃性は得られたが、ミリ波透過性が十分ではなかった。
一方、実施例1〜20によれば、ミリ波透過性、耐衝撃性及び形状安定性の全てに優れる。特に、原料(C)を更に含む熱可塑性樹脂組成物を用いた実施例11〜20によれば、低誘電正接が更に低下し、ミリ波透過性がより優れることが分かる。尚、実施例3、6、12、15、16及び20においては、半球型成形品の表面にブツ又はシルバーが見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のミリ波透過樹脂部品、ミリ波用レドーム及びミリ波レーダーは、車両の渋滞緩和や事故減少を目指す高度道路交通システム(ITS)の中核技術として注目されているA.C.C.(アダプティブクルーズコントロール)に好適なセンサー等の構成部品として用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
10,20,30,40,50:ミリ波レーダー
12,12A,12B:アンテナモジュール
14:アンテナベース
60:ミリ波透過樹脂部品
62:ミリ波の吸収用又は反射用樹脂部品
64:仕切部
66:他のミリ波透過樹脂部品
68:加飾層
70:ミリ波用レドーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7