(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記変形処理部は、上記求めた辺が上記最近位置の節点を通らない場合は、上記最近位置の節点を通り上記求めた辺に平行な辺を仮想的に設定し、当該設定した仮想辺を回転軸として上記変形対象のメッシュを負角解消位置まで回転させるための移動量を求めることを特徴とする請求項2に記載の金型設計装置。
上記変形処理部は、上記負角領域内のメッシュで、上記金型の移動方向とは異なる方向に並んだ複数のメッシュの中に、最近位置の節点に関して金型移動方向の位置が同じものが複数ある場合、当該位置が同じ複数のメッシュをまとめて変形処理することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の金型設計装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態による金型設計装置の機能構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の金型設計装置10は、その機能構成として、メッシュ作成部1、負角判定部2、変形処理部3、変位量設定部4および固定領域設定部5を備えて構成される。金型設計装置10は、CADデータ記憶部20に記憶されたCADデータに対して以下に説明する処理を行うことにより、CADによる金型の形状の設計を支援する。特に、本実施形態では、負角の存在しない金型の設計を容易に行うことができるようにしている。
【0012】
なお、金型設計装置10が備える各機能ブロック1〜5は、実際にはCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶された金型設計用プログラムが動作することによって実現される。なお、各機能ブロック1〜5の全部または一部は、ハードウェアまたはDSP(Digital Signal Processor)によって構成することも可能である。
【0013】
まず、負角について簡単に説明しておく。
図2は、一例としてプレス加工用の金型(プレス金型という)における負角を示す図である。
図2において、21は上型(可動型)、22は下型(固定型)、23はブランクホルダー、24はクッションピンである。
図2に示すように、ブランクホルダー23の上に鋼板25を設置し、上型21を下型22の方向に移動させて、上下の金型21,22の間に鋼板25を挟んで強く締めつけることで、鋼板25をプレス加工する。
図2の例では、上型21に負角26が生じている。
【0014】
メッシュ作成部1は、CADデータ記憶部20に記憶されたCADデータに基づいて、CADにより設計された金型の形状面に所定形状のメッシュを作成する。例えば、ユーザが負角を解消したい領域を指定すると、メッシュ作成部1は、その指定された領域における金型の形状面に所定形状のメッシュを作成する。本実施形態では、一例として三角形のメッシュを作成する。すなわち、メッシュ作成部1は、金型の形状面を、三角形の複数のメッシュで細分化する。
【0015】
図3は、メッシュ作成部1により作成されたメッシュの一例を示す図である。
図3に示すように、メッシュ作成部1は、上型21のプレス底面31、パーティング面32、および当該プレス底面31とパーティング面32との間で負角を形成しているプレス側面33に対して、三角形から成る複数のメッシュ34を作成する。
【0016】
負角判定部2は、メッシュ作成部1により作成された複数のメッシュ34を解析することにより、CADにより設計された金型の形状に負角があるか否かを判定する。本実施形態では、プレス加工や射出成形などで用いられる上下の金型のうち、上側の可動型(
図2の例では上型21)における負角の有無を判定する。負角の有無の判定は、メッシュ34が上型21の移動方向(プレス方向)に対し負角を持つかどうかで判定する。具体的には、負角判定部2は、メッシュ34の法線方向とプレス方向とが成す角度を算出し、当該角度が所定の条件を満たしている場合に、そのメッシュ34のところに負角が存在すると判定する。なお、この判定法は一例に過ぎず、他の方法を利用することも可能である。
【0017】
変形処理部3は、負角判定部2による負角の判定結果に基づいて、上型21の形状面の中から負角となる領域を特定し、当該特定した負角領域内のメッシュで、上型21の移動方向に並んだ複数のメッシュのうち、上型21の移動元方向(上側)に最も近い位置に節点を有するメッシュについて、当該最近位置の節点を軸として負角解消位置まで回転させるための移動量を求め、当該求めた移動量を用いてメッシュ34を変形させる処理を行う。メッシュ34の変形は、力学的解析などを用いて、周辺のメッシュ34へも移動量が伝播する方法で行う。変形処理部3は、負角領域がなくなるまでメッシュ34の変形処理を繰り返し実行する。
【0018】
図3に示す初期状態、すなわち、メッシュ34の変形処理をまだ行っていない状態では、プレス底面31とパーティング面32との間で負角を形成しているプレス側面33の全体が負角領域となる。枠線35は、この負角領域内のメッシュのうち、上型21の移動方向(上下方向)に一列に並んだ複数のメッシュ34を示している。変形処理部3は、この上下方向に並んだ複数のメッシュ34を、上側から順に1つずつ変形させていく。
【0019】
なお、力学的解析を用いて周辺のメッシュ34へも移動量が伝播するように行う変形処理とは、具体的には以下のような処理をいう。すなわち、変形処理部3は、変形対象として特定したメッシュ34について、3つの節点のうち何れかの節点(これを移動対象節点という。詳細は
図5を用いて後述する)を上記のように求めた移動量に従って強制的に変位させる。さらに、有限要素法の静解析として知られる方法を用いて、移動対象節点の強制的な変位結果から、変形対象ではない他のメッシュ34の節点の変位ベクトルを計算する。そして、計算した変位ベクトルを他のメッシュ34の各節点に適用することにより、当該他のメッシュ34も変位させる。
【0020】
静解析では、エネルギ最小の原理に基づき、以下に示す一次連立方程式(1)が成立する。つまり、各行が個々の節点に対応するn元一次方程式(1)を解くことにより、移動対象節点以外の各節点の未知の変位ベクトルを求める。
[K]{x}= {F}・・・(1)
ここで、[K] はn×nの剛性マトリクス、{x}はn要素の変位ベクトル、{F}はn要素の外力を示すベクトル、nは節点の数である。
【0021】
剛性マトリクス[K]は、板厚、ヤング率、ポアソン比といった材料の特性、要素と節点の関係、節点座標値などから計算する。材料に関するデータは、例えばCADデータ記憶部20にあらかじめ記憶しておく。また、変位ベクトル{x}について、移動対象節点には上記のように求めた移動量の値が入り、それ以外の節点には未知数が入る。この未知数が、変形対象とされていない他のメッシュ34の各節点の変位になる。また、外力を示すベクトル{F}について、移動対象節点には未知数が入り、それ以外の節点にはゼロが入る。ゼロは外力が加わっていないことを意味する。この未知数が、移動対象節点に加わる力を意味する。未知数は全部でn個であり、n元一次連立方程式を解くことにより、n個の未知数の値を決定する。
【0022】
このように、力学的解析を用いてメッシュ34の変形処理を行うことにより、3次元空間上における変形処理において、メッシュ34が伸びてしまい不自然な形状となることを防止することができる。このため、求めた移動量を用いて、メッシュ34の自然な変形を行うことができる。
【0023】
図4は、変形処理部3の処理内容を模式的に示す図である。
図4は、
図3に示すプレス底面31、パーティング面32およびプレス側面33を真横から見た状態を示している。
図4の例では、プレス側面33において上下方向に4つのメッシュ34
−1〜34
−4が一列に並んだ状態を示している。丸印41〜45は、プレス側面33における各メッシュ34
−1〜34
−4の節点(三角形の頂点)を示している。
【0024】
図4(a)は、
図3に示す初期状態に対応するものである(ただし、上下方向に並んだメッシュ34の数は4つに簡略化している)。すなわち、プレス側面33の全体が負角領域となっている状態である。この場合、変形処理部3は、この負角領域内で上下方向に一列に並んだ4つのメッシュ34
−1〜34
−4のうち、上型21の移動元方向(上側)に最も近い位置に節点41を有するメッシュ34
−1を、当該最近位置の節点41を軸として正角側に負角解消位置まで変形させる。
【0025】
負角解消位置とは、最近位置の節点41を含むメッシュ接辺(三角形の一辺)を通り、かつ、上型21の移動方向に平行な面(角度が0度の面)よりも正角側に所定角度変位した位置である。本実施形態では、変位量設定部4により、0度よりも正角側に変位させる所定角度の大きさを、ユーザ操作に応じて任意に設定することができるようにしている。例えば、操作メニューから設定画面を開き、当該設定画面において所定角度を任意に設定することを可能にする。
【0026】
図4(b)は、一番上のメッシュ34
−1を負角解消位置まで変形させた後の状態を示している。一番上のメッシュ34
−1を変形させることにより、上から2番目以降のメッシュ34
−2〜34
−4も、一番上のメッシュ34
−1の変形に引き連れて変位している。この
図4(b)に示す状態では、プレス側面33内で上下方向に一列に並んだ4つのメッシュ34
−1〜34
−4のうち、上から2番目以降の3つのメッシュ34
−2〜34
−4の部分が負角領域となる。この場合、変形処理部3は、この3つのメッシュ34
−2〜34
−4のうち、上型21の移動元方向(上側)に最も近い位置に節点42を有するメッシュ34
−2を、当該最近位置の節点42を軸として正角側に負角解消位置まで変形させる。
【0027】
図4(c)は、上から2番目のメッシュ34
−2を負角解消位置まで変形させた後の状態を示している。2番目のメッシュ34
−2を変形させることにより、上から3番目以降のメッシュ34
−3〜34
−4も、2番上のメッシュ34
−2の変形に引き連れて変位している。この
図4(c)に示す状態では、プレス側面33内で上下方向に一列に並んだ4つのメッシュ34
−1〜34
−4のうち、上から3番目以降の2つのメッシュ34
−3〜34
−4の部分が負角領域となる。この場合、変形処理部3は、この2つのメッシュ34
−3〜34
−4のうち、上型21の移動元方向(上側)に最も近い位置に節点43を有するメッシュ34
−3を、当該最近位置の節点43を軸として正角側に負角解消位置まで変形させる。
【0028】
図4(d)は、上から3番目のメッシュ34
−3を負角解消位置まで変形させた後の状態を示している。3番目のメッシュ34
−3を変形させることにより、上から4番目のメッシュ34
−4も、3番上のメッシュ34
−3の変形に引き連れて変位している。この
図4(d)に示す状態では、プレス側面33内で上下方向に一列に並んだ4つのメッシュ34
−1〜34
−4のうち、上から4番目のメッシュ34
−4の部分のみが負角領域となる。この場合、変形処理部3は、このメッシュ34
−4を、最近位置の節点44を軸として正角側に負角解消位置まで変形させる。これにより、負角領域を完全に解消する。
【0029】
ところで、
図3に示したように、メッシュ34を構成する三角形状は、方向の異なるものが2種類ある。本実施形態では、変形対象として特定したメッシュ34が2種類の三角形のどちらに該当するかによって、変形の方法を変える。
図5は、この2種類の変形方法を説明するための図である。
【0030】
図5に示すように、変形処理部3は、最近位置の節点51を有するものとして変形対象に特定したメッシュ34を構成する3辺の中から、上型21の移動方向に対して最も直交に近い辺52を求める。
図5(a)のように、求めた辺52が最近位置の節点51を通る場合は、当該求めた辺52を回転軸として、変形対象のメッシュ34を負角解消位置まで回転させるための移動量を求め、当該求めた移動量を用いてメッシュ34の変形を行う。この場合、辺52を通らない1つの節点が、上述の移動対象節点ということになる。
【0031】
一方、
図5(b)のように、求めた辺52が最近位置の節点51を通らない場合、変形処理部3は、最近位置の節点51を通り、かつ、求めた辺52に平行な辺53を仮想的に設定し、当該設定した仮想辺53を回転軸として、変形対象のメッシュ34を負角解消位置まで回転させるための移動量を求め、当該求めた移動量を用いてメッシュ34の変形を行う。この場合、辺53を通らない2つの節点が、上述の移動対象節点ということになる。
【0032】
固定領域設定部5は、変形処理部3により特定される負角領域以外の領域の中から、変位させずに固定させる任意の領域をユーザ操作に応じて設定する。例えば、
図3のように金型の形状面が画面上に表示されている状態で、固定させたい任意の領域をマウス操作により指定することにより、固定領域を設定することが可能である。
【0033】
変形処理部2は、固定領域設定部5により設定された固定領域については、負角領域におけるメッシュ34の変形処理に引き連れて変位が起こらないようにして、メッシュ34の変形処理を行う。先に示した
図4は、プレス底面31を固定領域として設定した上で、負角領域における4つのメッシュ34
−1〜34
−4を変形させた例を示すものである。また、
図4の例では、パーティング面32の変位自体は許容しているものの、高さ(プレス底面31からの距離)が固定となるように設定している。
【0034】
図6は、以上のように構成した本実施形態による金型設計装置10の動作例を示すフローチャートである。
図6に示すフローチャートは、CADデータ記憶部20に記憶されたCADデータに基づいてメッシュ作成部1によりメッシュ34を作成した後、ユーザが負角の解消を指示する操作を行ったときに開始する。なお、この指示を行う前に、変位量設定部4による変位量の設定および固定領域設定部5による固定領域の設定を必要に応じて行っておく。
【0035】
まず、負角判定部2は、メッシュ作成部1により作成された複数のメッシュ34を解析することにより、CADにより設計された上型21の形状に負角があるか否かを判定する(ステップS1)。ここで、負角がないと判定された場合は、
図6に示すフローチャートの処理を終了する。
【0036】
一方、負角判定部2により負角があると判定された場合、変形処理部3は、上型21の形状面の中から負角領域を特定する(ステップS2)。そして、当該特定した負角領域内で上下方向に並んだ複数のメッシュ34のうち、上型21の移動元方向(上側)に最も近い位置に節点を有するメッシュ34を変形対象として特定する(ステップS3)。さらに、変形処理部3は、変形対象として特定したメッシュ34について、最近位置の節点を軸として負角解消位置まで回転させるための移動量を求め(ステップS4)、当該求めた移動量を用いてメッシュ34を変形させる(ステップS5)。
【0037】
1つのメッシュ34について変形処理を行った後、負角判定部2は、負角がまだ残っているか否かを判定する(ステップS6)。負角がまだ残っている場合、処理はステップS2に戻り、次のメッシュ34を変形させるための処理を引き続き行う。一方、負角がなくなったと負角判定部2により判定された場合、
図6に示すフローチャートの処理は終了する。
【0038】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、CADにより設計された金型の形状に負角がある場合、当該負角となる領域内のメッシュ34で、金型の移動方向に並んだ複数のメッシュ34のうち、金型の移動元方向に最も近い位置に節点を有するメッシュ34について、当該最近位置の節点を軸として負角解消位置まで回転させるための移動量を求め、当該求めた移動量を用いてメッシュ34を変形させる処理を、負角領域がなくなるまで繰り返し実行するようにしている。
【0039】
このように構成した本実施形態によれば、負角領域がどのような形状をしたものであっても、当該負角領域を細分化したメッシュ34の1つ1つを金型の移動元方向に最も近い方から順に負角解消位置まで変形させることにより、手作業によることなく負角を自動的に解消することができる。これにより、特殊な形状の製品を製造するための金型に限らず、様々な形状の金型に広く適用して、負角の存在しない金型の設計を容易に行うことができる。
【0040】
なお、上記実施形態では、メッシュ34を1つずつ順番に変形させていく例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、変形処理部3は、金型の移動方向とは異なる方向に並んだ複数のメッシュ34の中に、最近位置の節点に関して金型移動方向の位置が同じものが複数ある場合、当該位置が同じ複数のメッシュ34をまとめて負角解消位置まで変形させるようにしてもよい。
【0041】
図7は、複数のメッシュ34をまとめて変形させる例を示す図である。
図7の枠線71で示す複数のメッシュ34は、金型の移動方向とは異なる方向(左右方向)に並んだ複数のメッシュ34であって、各メッシュ34の最近位置の節点に関する上下方向の位置(プレス底面31からの距離)が何れも同じものである。この場合、変形処理部3は、枠線71内にある複数のメッシュ34をまとめて負角解消位置まで変形させるようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、上型21に存在する負角を解消する例について説明したが、下型22に負角が存在する場合には、下型22の負角も同様にして解消することが可能である。
【0043】
また、上記実施形態では、負角を解消するために正角側に変位させる所定角度の大きさを変位量設定部4により任意に設定可能とする例について説明したが、所定角度の大きさをあらかじめ定めた固定値としてもよい。ただし、所定角度の大きさを可変値とすることで、成形品に応じて適切な所定角度を任意に設定することができる点で好ましい。
【0044】
また、上記実施形態では、メッシュ34の形状を三角形とする例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、メッシュ34の形状を四角形としてもよい。
【0045】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。