特許第6420170号(P6420170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420170
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】エネルギ吸収部材の保持構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/24 20060101AFI20181029BHJP
   B60R 19/34 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   B60R19/24 N
   B60R19/34
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-30777(P2015-30777)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-150727(P2016-150727A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100128587
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 一騎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 航
(72)【発明者】
【氏名】池田 聡
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】 梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−137129(JP,A)
【文献】 特開2005−273872(JP,A)
【文献】 特開2006−143087(JP,A)
【文献】 特開2015−030295(JP,A)
【文献】 特開2008−024084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/24
B60R 19/34
F16F 7/00
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突荷重入力時に軸方向に圧壊して衝突エネルギを吸収する繊維強化樹脂製の筒状のエネルギ吸収部材と、
前記エネルギ吸収部材のうちの荷重入力予定側の端部を保持する第1の保持部材と、
前記エネルギ吸収部材のうちの前記荷重入力予定側とは反対側の端部を保持する第2の保持部材と、
前記第2の保持部材に設けられ、前記エネルギ吸収部材の軸方向に延在し、前記エネルギ吸収部材の内周面に接合される立上り接合部と、
前記第2の保持部材に設けられ、前記エネルギ吸収部材の内部空間に対応する位置に設けられた開口部と、
前記開口部に向かって傾斜する傾斜面を有し、圧壊した前記エネルギ吸収部材を前記開口部へとガイドするガイド部と、
を備えるエネルギ吸収部材の保持構造。
【請求項2】
前記ガイド部は、前記立上り接合部の一部である、請求項1に記載のエネルギ吸収部材の保持構造。
【請求項3】
前記ガイド部は前記立上り接合部の一部であり、前記立上り接合部は、前記衝突荷重入力時に前記エネルギ吸収部材のうちの前記荷重入力予定側とは反対側の端部を支持する基部に接合され、前記エネルギ吸収部材のうちの前記荷重入力予定側とは反対側の端部と前記立上り接合部との間に間隙を有する、請求項1又は2に記載のエネルギ吸収部材の保持構造。
【請求項4】
前記第1の保持部材は、前記エネルギ吸収部材の軸方向に延在し、前記エネルギ吸収部材の外周部に配置される立上り部を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエネルギ吸収部材の保持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突発生時に圧壊して衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部材を保持するためのエネルギ吸収部材の保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、衝突発生時に圧壊し、衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部材が備えられている。エネルギ吸収部材の代表的な例として、バンパビームとフロントフレームとの間に配置されるクラッシュボックスが挙げられる。従来、エネルギ吸収部材は、鉄等の金属材料により構成されていたが、近年、車体の軽量化のために、炭素繊維等の強化繊維が混合された繊維強化樹脂(FRP)によりエネルギ吸収部材を構成することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素繊維を添加したポリマ材製エネルギアブソーバにおいて、アブソーバの車両前方側がバンパビームと一体化され、車両後方側にガイドスリーブを備えた構造が開示されている。かかる特許文献1の構造では、衝突発生時にアブソーバが後方に軸方向移動し、削り取りエレメントがアブソーバの外周部を削り取ることによって衝撃エネルギが吸収される。
【0004】
また、特許文献2には、円筒状のCFRP製クラッシュボックスのフロントバンパ側の端部が、その内部に、バンパビームに連結されたブラケットを挿入することによってバンパビームに取り付けられたクラッシュボックスの保持構造が開示されている。かかる特許文献2の構造では、衝突発生時にクラッシュボックスが圧壊することによって、衝撃エネルギが吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−538897号公報
【特許文献2】特開2008−024084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造は、CFRP製のアブソーバを、圧壊させるのではなくスライドさせる構造となっており、エネルギ吸収効率の高いCFRP製のアブソーバの特性を活かしきれていない。また、特許文献2の構造は、CFRP製のクラッシュボックスの圧壊時に、円筒状のクラッシュボックスが外側に開きながら潰れていく構造である。したがって、クラッシュボックスの破片や粉塵が周囲に飛散して、その後の修理交換時に作業者に怪我をさせたり、車載されている電気製品の故障を招いたりするおそれがある。
【0007】
他方、FRP製のエネルギ吸収部材において、衝撃エネルギ吸収量をできる限り大きくするには、筒状のエネルギ吸収部材の潰れ残りを少なくすることが有効である。したがって、FRP製のエネルギ吸収部材を使用する際には、圧壊時の破片や粉塵を飛散させないことと併せて、潰れ残りを極力少なくすることが望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、繊維強化樹脂製のエネルギ吸収部材の圧壊時に破片や粉塵を飛散させることがなく、かつ、潰れ残りを低減して、衝撃エネルギ吸収量を増加させることが可能な、エネルギ吸収部材の保持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、衝突荷重入力時に軸方向に圧壊して衝突エネルギを吸収する繊維強化樹脂製の筒状のエネルギ吸収部材と、前記エネルギ吸収部材のうちの荷重入力予定側の端部を保持する第1の保持部材と、前記エネルギ吸収部材のうちの前記荷重入力予定側とは反対側の端部を保持する第2の保持部材と、前記第2の保持部材に設けられ、前記エネルギ吸収部材の軸方向に延在し、前記エネルギ吸収部材の内周面に接合される立上り接合部と、前記第2の保持部材に設けられ、前記エネルギ吸収部材の内部空間に対応する位置に設けられた開口部と、前記開口部に向かって傾斜する傾斜面を有し、圧壊した前記エネルギ吸収部材を前記開口部へとガイドするガイド部と、を備えるエネルギ吸収部材の保持構造が提供される。
【0010】
前記ガイド部は、前記立上り接合部の一部であってもよい。
【0011】
前記ガイド部は前記立上り接合部の一部であり、前記立上り接合部は、前記衝突荷重入力時に前記エネルギ吸収部材のうちの前記荷重入力予定側とは反対側の端部を支持する基部に接合され、前記エネルギ吸収部材のうちの前記荷重入力予定側とは反対側の端部と前記立上り接合部との間に間隙を有してもよい。
【0012】
前記第1の保持部材は、前記エネルギ吸収部材の軸方向に延在し、前記エネルギ吸収部材の外周部に配置される立上り部を備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、繊維強化樹脂製のエネルギ吸収部材の圧壊時に破片や粉塵を飛散させることがなく、かつ、潰れ残りを低減して、衝撃エネルギ吸収量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施の形態にかかるエネルギ吸収部材の保持構造を示す断面図である。
図2】ガイド部を備えない場合にエネルギ吸収部材が圧壊する様子を示す説明図である。
図3】ガイド部を備える場合にエネルギ吸収部材が圧壊する様子を示す説明図である。
図4】ガイド部を備える場合にエネルギ吸収部材が圧壊する様子を示す説明図である。
図5】ガイド部の変形例を示す説明図である。
図6】ガイド部の変形例を示す説明図である。
図7】ガイド部の変形例を示す説明図である。
図8】第2の実施の形態にかかるエネルギ吸収部材の保持構造を示す断面図である。
図9】立上り接合部とは別体のガイド部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。
【0016】
<1.第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかるエネルギ吸収部材の保持構造100の一例を示す。図1は、繊維強化樹脂(FRP)製のエネルギ吸収部材10が車両に取り付けられ、保持される様子を車両の上方側から見た断面図である。図1において、上方が車両の前方側であり、下方が車両の後方側である。以下の説明において、車両の前方側を先端側といい、車両の後方側を後端側という場合がある。
【0017】
図1において、エネルギ吸収部材10は、先端側が第1の保持部材20によって保持され、後端側が第2の保持部材40によって保持されている。第1の保持部材20は、車両の衝突時に、衝突荷重を受け得る部位の近傍に固定されている。本実施形態では、第1の保持部材20はバンパビーム2に接合されている。また、第2の保持部材40は、フロントフレーム4の先端側に接合されている。エネルギ吸収部材10は、バンパビーム2とフロントフレーム4との間に配置され、バンパビーム2に接続された先端側が、荷重入力予定側である。
【0018】
(1−1.エネルギ吸収部材)
エネルギ吸収部材10は、車両が、先行車両や障害物その他の対象物に衝突したときに衝突荷重を受けて圧壊し、衝突エネルギを吸収する部材である。また、エネルギ吸収部材10は、衝突荷重が大きい場合には、荷重をフロントフレーム4に適切に伝達する役割も担う。かかるエネルギ吸収部材10は、繊維強化樹脂により形成される。本実施形態では、エネルギ吸収部材10は、熱硬化性樹脂と炭素繊維とを用いた炭素繊維強化樹脂(CFRP)により形成され、高強度、かつ、軽量化を実現可能になっている。
【0019】
FRP製のエネルギ吸収部材10は、衝突時に、連続的に破壊されながら潰れることにより荷重が発現し、荷重変動の少ない安定した衝撃エネルギ吸収を実現することができる。また、FRP製のエネルギ吸収部材10は、潰れ残りが比較的少なく、単位重量当たりの衝撃エネルギ吸収量が大きいという特性を有する。かかるFRP製のエネルギ吸収部材10は、例えば、組紐と縦紐とによって構成される組み物を用いた複合材料としてもよい。
【0020】
エネルギ吸収部材10を構成する繊維強化樹脂に使用される強化繊維は、特に限定されない。例えば、炭素繊維やガラス繊維等のセラミックス繊維、アラミド繊維等の有機繊維、さらにはこれらを組み合わせた強化繊維を使用することができる。中でも、高い機械特性や強度設計の行いやすさ等の観点から、炭素繊維を含むことが好ましい。
【0021】
また、エネルギ吸収部材10を構成する繊維強化樹脂のマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂の場合、その主材としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂などが例示され、このうちの1種類、あるいは2種類以上の混合物を使用してもよい。これらの熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂に採用する場合、熱硬化性樹脂に適切な硬化剤や反応促進剤を添加することが可能である。
【0022】
熱可塑性樹脂の場合、その主材としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂などが例示され、このうちの1種類、あるいは2種類以上の混合物を使用してもよい。これら熱可塑性樹脂は単独でも、混合物でも、また共重合体であってもよい。混合物の場合には相溶化剤を併用してもよい。さらに、難燃剤として臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤、赤燐などを加えてもよい。比較的大量生産することが求められる自動車用の部材には、成形のしやすさ、量産性の面から、熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0023】
この場合、使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、芳香族ポリアミド等の樹脂が挙げられる。
【0024】
また、エネルギ吸収部材10は中空の筒形状をなし、軸方向が、車両の前後方向に沿うように配置される。エネルギ吸収部材10の先端側の端部は、端部に向けて縮径するテーパ部12を有している。かかるテーパ形状を有することにより、エネルギ吸収部材10が衝突荷重を受けたときに、エネルギ吸収部材10の先端が内側空間に向けて潰れながら進展しやすくなる。かかるエネルギ吸収部材10の寸法は、車両の大きさや、得ようとする衝撃エネルギ吸収量、エネルギ吸収部材10の重量等によって適宜設計可能である。例えば、エネルギ吸収部材10の軸方向長さは130〜200mmであり、内側空間の直径は40〜60mmであり、厚さは3mmである。
【0025】
(1−2.第1の保持部材)
エネルギ吸収部材10の先端側の端部は、第1の保持部材20に対して、接着剤等により接合される。第1の保持部材20は、鉄等に代表される金属からなる。第1の保持部材20は、第1の基部21と、第1の基部21からエネルギ吸収部材10側に向けて立ち上げられた立上り部22とを有する。第1の基部21には、エネルギ吸収部材10の先端側の端部が当接する。
【0026】
立上り部22は、円筒形状を有し、エネルギ吸収部材10の先端側の端部の外周部に配置される。立上り部22は、エネルギ吸収部材10に接していてもよいし、所定の間隙を介して配置されてもよい。立上り部22は、エネルギ吸収部材10の圧壊の初期において、エネルギ吸収部材10の先端側の端部が外側に拡がりながら潰れることを抑制する。これにより、エネルギ吸収部材10が衝突荷重を受けたときに、エネルギ吸収部材10は内側空間に向けて潰れながら進展しやすくなる。
【0027】
立上り部22の高さH1は、例えば5〜20mmとすることができる。ただし、立上り部22の高さH1が低いと、エネルギ吸収部材10が外側に拡がることを防ぐことができない場合がある。また、立上り部22の高さH1が高すぎると、エネルギ吸収部材10の圧壊時において、第1の基部21と第2の基部41との間に形成される間隔が大きくなって、エネルギ吸収部材10の潰れ残り量を増加させることになる。したがって、立上り部22の高さH1は、8〜15mm程度であることが好ましい。
【0028】
(1−3.第2の保持部材)
第2の保持部材40は、鉄等に代表される金属からなる。第2の保持部材40は、第2の基部41と、第2の基部41からエネルギ吸収部材10側に立ち上げられた立上り接合部42と、第2の基部41の中央に設けられた開口部44とを有する。本実施形態において、第2の保持部材40はプレス成形によって形成され、第2の基部41と立上り接合部42とは一体成形されている。
【0029】
第2の基部41には、エネルギ吸収部材10の後端側の端部が当接する。立上り接合部42は、全体として円筒形状を有し、エネルギ吸収部材10の後端側の端部の内側空間に配置される。立上り接合部42の外周面はエネルギ吸収部材10の内周面に対向して軸方向に延在し、エネルギ吸収部材10の後端側の端部の内周面が立上り接合部42に対して接着剤により接合されている。また、本実施形態では、立上り接合部42が第2の基部41から折り曲げて立ち上げられることによって、円筒形状の立上り接合部42の内側に開口部44が形成されている。
【0030】
エネルギ吸収部材10を製造する際には、型等によって形状が定められる内周面の形状精度が比較的高い。例えば、エネルギ吸収部材10は、棒状の型の周囲に、組紐及び縦紐を巻き付けながら製造される。そうすると、成形面が型の表面形状に応じて成形される内周面の形状精度が高くなる。また、プレス成形によって成形される第2の保持部材40の立上り接合部42の外周面も、形状精度を出しやすい。したがって、エネルギ吸収部材10の内周面に第2の保持部材40を接合することによって、保持状態の安定性を高めることができる。
【0031】
また、立上り接合部42が、エネルギ吸収部材10の内側に設けられていることから、エネルギ吸収部材10が内側空間に向けて潰れながら進展したときに、エネルギ吸収部材10の外周部に設けられた立上り部22との干渉を避けることができる。すなわち、エネルギ吸収部材10が圧壊したときに、第1の保持部材20の立上り部22が、第2の保持部材40の立上り接合部42に接触することが避けられる。したがって、エネルギ吸収部材10の圧壊時に、第1の保持部材20の第1の基部21と、第2の保持部材40の第2の基部41との距離が極力近づけられ、エネルギ吸収部材10の潰れ残り量を低減することができる。
【0032】
立上り接合部42の内側に形成された開口部44は、内側空間に向かって潰れながらエネルギ吸収部材10の圧壊が進展したときに、潰れたFRP材料をエネルギ吸収部材10の外部に排出する排出部として機能する。したがって、潰れたFRP材料がエネルギ吸収部材10の内側空間に詰まることによってエネルギ吸収部材10の潰れ残り量が増え、衝撃エネルギ吸収量が減ることが抑制される。なお、図1に示した開口部44は、貫通穴として形成されているが、フロントフレーム4側に突出する凹部の入口部の開口として形成されていてもよい。
【0033】
立上り接合部42の内周面は、先端側に向けて直径が拡大するテーパ形状を有する。かかる立上り接合部42の内周面は、開口部44に向けて傾斜する傾斜面からなるガイド部43となっている。すなわち、ガイド部43は立上り接合部42の一部として形成されている。かかる立上り接合部42の先端部は、先細り形状を有する。したがって、内側空間に向かって潰れながらエネルギ吸収部材10の圧壊が進展する際に、潰れたFRP材料が、立上り接合部42に引っ掛かりにくくなっている。潰れたFRP材料は、ガイド部43に沿って開口部44へと案内される。これにより、エネルギ吸収部材10の内部に潰れたFRP材料が詰まることによるエネルギ吸収部材10の潰れ残りを低減することができる。
【0034】
ガイド部43を構成する傾斜面の先端側の端部がエネルギ吸収部材10の内周面に極力近付けられているほど、すなわち、立上り接合部42の先端側の端部が鋭角であるほど、潰れたFRP材料がより引っ掛かりにくくなる。
【0035】
立上り接合部42の高さは、例えば5〜20mmとすることができる。立上り接合部42の高さが低いと、エネルギ吸収部材10の接合強度が低下し、フロントバンパに発生するモーメントに耐えられないおそれがある。また、立上り接合部42の高さが高すぎると、エネルギ吸収部材10の圧壊時に、第1の基部21と第2の基部41との距離を近づけることができず、エネルギ吸収部材10の潰れ残り量を増加させることになる。したがって、立上り接合部42の高さは、8〜15mm程度であることが好ましい。
【0036】
図8は、第2の保持部材90がガイド部を有しない場合に、エネルギ吸収部材10が圧壊する様子を模式的に示している。車両の衝突発生時に、第1の保持部材20に対して衝突荷重が入力されると、エネルギ吸収部材10の先端部が潰れ始める。このとき、第1の保持部材20に設けられた立上り部22によってエネルギ吸収部材10の先端部は内側に向けられる。そのため、荷重の入力が継続すると、エネルギ吸収部材10は内側に向かって潰れながら圧壊が進展する。
【0037】
そして、潰れたFRP材料が立上り接合部92の先端の位置まで到達したときに、FRP材料は立上り接合部92に引っ掛かると、FRP材料は開口部44から排出されずに、エネルギ吸収部材10の内部で詰まることになる。その結果、エネルギ吸収部材10の潰れ残りが増大して、衝撃エネルギ吸収量は低減することとなる。
【0038】
図2及び図3は、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造100において、エネルギ吸収部材10が圧壊する様子を模式的に示している。車両の衝突発生時に第1の保持部材20に対して衝突荷重が入力されると、図8の場合と同様に、エネルギ吸収部材10が内側に向かって潰れながらエネルギ吸収部材10の圧壊が進展する。第2の保持部材40がガイド部43を有する場合、図2に示すように、潰れたFRP材料が、第2の保持部材40の立上り接合部42の位置を通過する際に、当該FRP材料が立上り接合部42に引っ掛かることなく、開口部44に向かって進展する。
【0039】
その後、エネルギ吸収部材10の圧壊が進展することに伴って、潰れたFRP材料は開口部44から排出される。その結果、図3に示すように、過剰な潰れ残りが生じることなく、第1の保持部材20と第2の保持部材40とが近接する位置まで、エネルギ吸収部材10が圧壊する。これにより、エネルギ吸収部材10の潰れ残りを低減して、エネルギ吸収部材10を圧壊させることが可能になるため、所望の発現荷重が得られるようになる。
【0040】
ガイド部43を構成する傾斜面の形態は、適宜変更することができる。図1に示したガイド部43は、立上り接合部42の先端側の端部から後端側の端部にわたって形成されているが、ガイド部43は、少なくとも立上り接合部42の先端側の端部から、軸方向に沿って所定の範囲内に形成されていればよい。
【0041】
図5は、ガイド部63が、立上り接合部62の先端側の端部から、立上り接合部62の中間位置まで形成された第2の保持部材60を示している。かかる第2の保持部材60であっても、潰れたFRP材料は、立上り接合部62の先端側の端部に引っ掛かることなく、開口部44に向けて案内される。このとき、潰れたFRP材料がガイド部43に引っ掛かることを防ぐためには、ガイド部43を構成する傾斜面の、軸方向に対する角度が、45度以下であることが好ましい。
【0042】
また、ガイド部43を構成する傾斜面の、軸方向に対する角度は、傾斜面全体にわたって一定でなくてもよく、部分的に異なっていてもよい。例えば、図6に示すように、ガイド部73を構成する傾斜面の、軸方向に対する角度が、先端側に行くにつれて小さくなるように変化してもよい。あるいは、図7に示すように、ガイド部83を構成する傾斜面の、軸方向に対する角度が、先端側に行くにつれて大きくなるように変化してもよい。ただし、いずれの場合においても、潰れたFRP材料がガイド部73,83に引っ掛かることを防ぐためには、ガイド部73,83を構成する傾斜面の、軸方向に対する角度が、最大でも45度以下であることが好ましい。
【0043】
以上のように、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造100によれば、エネルギ吸収部材10の先端側の端部を保持する第1の保持部材20が、エネルギ吸収部材10の外周部に配置される立上り部22を有する。したがって、エネルギ吸収部材10は、内側空間に向かって潰れながら圧壊する。また、エネルギ吸収部材10の後端側の端部を保持する第2の保持部材40は、エネルギ吸収部材10の内周面に接合される立上り接合部42を有する。したがって、形状精度の高い面同士が接合されており、エネルギ吸収部材10の接合の安定度が高められている。
【0044】
また、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造100では、エネルギ吸収部材10の圧壊時に、第1の保持部材20の立上り部22と第2の保持部材40の立上り接合部42とが接触しないように配置されている。したがって、第1の保持部材20の第1の基部21と第2の保持部材40の第2の基部41とが極力近接可能になり、エネルギ吸収部材10の潰れ残りを低減することができる。
【0045】
そして、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造100では、立上り接合部42の内周面にはガイド部43が形成されている。したがって、潰れたFRP材料は、立上り接合部42に引っ掛かることなく効率的に開口部44に案内され、エネルギ吸収部材10の外部に排出される。これにより、エネルギ吸収部材10の潰れ残りが低減されて、衝撃エネルギ吸収量を増加させることができる。
【0046】
また、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造100では、車両の衝突時において、エネルギ吸収部材10の大部分がエネルギ吸収部材10の内側空間に向かって潰れながら進展する。したがって、エネルギ吸収部材10の破片や粉塵が外部に飛散しにくくなる。これにより、車両の修理交換作業時に作業者が怪我をしたり、エネルギ吸収部材10周辺の電気製品の故障を招いたりするおそれが低減される。
【0047】
<2.第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造について説明する。図4は、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造に用いられる第2の保持部材50を示す説明図である。第1の実施の形態においては、立上り接合部52が、第2の基部51から折り曲げられて立ち上げられ、第2の基部51と一体成形されていた。これに対して、本実施形態では、立上り接合部52は、第2の基部51とは別体の部材からなり、第2の基部51に対して接合されている。立上り接合部52は、先端側の直径が後端側の直径よりも大きい円筒形状を有する。立上り接合部52の先端側の外周面はエネルギ吸収部材10の内周面に接合され、後端側の外周面はエネルギ吸収部材10の内周面から離間している。
【0048】
第2の基部51の中央部には、潰れたFRP材料の排出部となる開口部44が形成されている。立上り接合部52の内周面は、開口部44に向けて傾斜する傾斜面をなし、潰れたFRP材料を開口部44に案内するガイド部53を構成する。立上り接合部52の先端側の端部は先細り形状を有し、潰れたFRP材料が引っ掛かりにくくされている。したがって、潰れたFRP材料は、開口部44に向かって効率的に案内され、開口部44からエネルギ吸収部材10の外部に排出される。これにより、潰れたFRP材料がエネルギ吸収部材10の内部に詰まることによるエネルギ吸収部材10の潰れ残りの増加が抑制される。
【0049】
また、潰れたFRP材料の引っ掛かりを抑制するためには、ガイド部53を構成する傾斜面の後端側の直径が、開口部44の直径以下であることが好ましい。ただし、ガイド部53を構成する傾斜面の後端側の直径が小さすぎると、潰れたFRP材料が当該傾斜面の後端側で詰まるおそれがある。したがって、ガイド部53を構成する傾斜面の後端側の端部の直径は、開口部44の直径と近似していることがより好ましい。
【0050】
以上のように、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造は、第1の実施の形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造100と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、第2の保持部材50の立上り接合部52の後端側の外周面がエネルギ吸収部材10の内周面から離間し、間隙が形成されている。かかる間隙には、エネルギ吸収部材10と第2の保持部材50とを接合する接着剤のうち、余剰の接着剤が保持され得る。したがって、余剰の接着剤がエネルギ吸収部材10の外部にはみ出すことによる外観の低下を防ぐことができる。
【0051】
また、立上り接合部52の後端側の外周面がエネルギ吸収部材10の内周面から離間することによって、エネルギ吸収部材10の後端面が、第2の基部51の平坦面で支持される。したがって、エネルギ吸収部材10に対して衝突荷重が入力されたときに、エネルギ吸収部材10の後端側の端部の位置部分への応力集中が避けられる。これにより、エネルギ吸収部材10の後端側からの圧壊が抑制される。
【0052】
<3.第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造について説明する。図9は、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造に用いられる第2の保持部材90を示す説明図である。第1の実施の形態及び第2の実施の形態においては、立上り接合部42,52の一部としてガイド部43,53が構成されていた。これに対して、本実施形態では、ガイド部93が、立上り接合部92とは別体の部材として構成されている。
【0053】
第2の保持部材90は、第2の基部91と、立上り接合部92と、ガイド部93とを備える。第2の基部91、立上り接合部92及びガイド部93は、それぞれ別体の部材からなり、立上り接合部92及びガイド部93は、第2の基部91に対して接合されている。立上り接合部92は、エネルギ吸収部材10の軸方向に沿って延在する円筒形状を有し、その外周面は、エネルギ吸収部材10の後端側の端部の内周面に対して接合されている。ガイド部93は、先端側の直径が後端側の直径よりも大きい円筒形状を有する。ガイド部93の先端側の外周面はエネルギ吸収部材10の内周面に接合され、後端側の外周面は立上り接合部92の内周面から離間している。
【0054】
第2の基部91の中央部には、潰れたFRP材料の排出部となる開口部44が形成されている。ガイド部93の内周面は、開口部44に向けて傾斜する傾斜面をなしている。ガイド部93の先端側の端部は先細り形状を有し、潰れたFRP材料が引っ掛かりにくくされている。したがって、潰れたFRP材料は、開口部44に向かって効率的に案内され、開口部44からエネルギ吸収部材10の外部に排出される。これにより、潰れたFRP材料がエネルギ吸収部材10の内部に詰まることによるエネルギ吸収部材10の潰れ残りの増加が抑制される。ガイド部93のその他の構成は、第2の実施の形態にかかる立上り接合部52と同様の構成とすることができる。
【0055】
以上のように、本実施形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造は、第1の実施の形態にかかるエネルギ吸収部材10の保持構造100と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、第2の保持部材90の立上り接合部92とガイド部93とが別体の部材からなるため、第2の保持部材90とエネルギ吸収部材10との接合面積を確保することができ、エネルギ吸収部材10の接合の安定性を確保することができる。
【0056】
また、立上り接合部92がエネルギ吸収部材10を保持する機能を主として担うことになり、ガイド部93の設計の自由度が拡大する。したがって、本実施形態の第2の保持部材90によれば、エネルギ吸収部材10の後端側の端部を安定的に保持することができるとともに、エネルギ吸収部材10の圧壊時におけるエネルギ吸収部材10の潰れ残りを確実に低減して、所望の衝撃エネルギ吸収量を得ることができる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、上記の各実施形態を互いに組み合わせた態様も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0058】
2 バンパビーム
4 フロントフレーム
10 エネルギ吸収部材
20 第1の保持部材
21 第1の基部
22 立上り部
40,50,60,70,80,90 第2の保持部材
41,51,61,71,81,91 第2の基部
42,52,62,72,82,92 立上り接合部
43,53,63,73,83,93 ガイド部
44 開口部
100 エネルギ吸収部材の保持構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9