(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420173
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】自動走行圃場作業車両
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20181029BHJP
G05D 1/02 20060101ALI20181029BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20181029BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20181029BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20181029BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20181029BHJP
【FI】
B62D6/00
G05D1/02 H
G05D1/02 W
A01B69/00 303M
A01C11/02 331D
B62D101:00
B62D113:00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-35375(P2015-35375)
(22)【出願日】2015年2月25日
(65)【公開番号】特開2016-155491(P2016-155491A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】石見 憲一
(72)【発明者】
【氏名】林 繁樹
【審査官】
野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−182741(JP,A)
【文献】
特開2009−234560(JP,A)
【文献】
特開2008−143293(JP,A)
【文献】
特開平08−054925(JP,A)
【文献】
特開平11−124047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00− 6/10
A01B69/00−69/08
A01C11/02
G05D1/00−1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に設定された直線状の目標走行経路に沿って自動操舵走行する自動走行圃場作業車両であって、
自車位置を算定する自車位置算定部と、
自車の走行方位を算定する自車方位算定部と、
前記自車位置に基づいて前記目標走行経路に対する前記自車の横方向の位置ずれである位置偏差を演算する位置偏差演算部と、
前記目標走行経路の方位線と前記走行方位との間の方位偏差を演算する方位偏差演算部と、
前記位置偏差に基づいて偏差解消の第1操舵値を出力する第1制御演算部と、
前記位置偏差が大きくなるにしたがって減少傾向を示す重み係数を用いて調整された前記方位偏差に基づいて偏差解消の第2操舵値を出力する第2制御演算部と、
前記第1操舵値と前記第2操舵値とに基づいて前記目標走行経路に沿って走行するための目標操舵値を出力する目標操舵演算部と、
前記目標操舵値を入力として操舵駆動信号を出力する操舵駆動制御部と、
前記操舵駆動信号に基づいて操向輪の操舵を行う操舵駆動部と、
を備えた自動走行圃場作業車両。
【請求項2】
車速を算定する車速算定部が備えられ、
前記目標操舵演算部は、前記第1操舵値と前記第2操舵値とに基づいて前記目標操舵値を出力する際に前記車速が大きくなるにしたがって減少傾向を示す調整係数を用いて前記車速が大きい場合には前記目標操舵値を低減する請求項1に記載の自動走行圃場作業車両。
【請求項3】
前記目標操舵演算部は、前記目標操舵値に対する上限リミッタ機能を有し、前記車速に応じて上限リミット値が設定される請求項1又は2に記載の自動走行圃場作業車両。
【請求項4】
前記第2制御演算部における、前記位置偏差の大きさに依存する前記方位偏差の重み係数を用いた重みの低減度合は、変更可能である請求項1から3のいずれか一項に記載の自動走行圃場作業車両。
【請求項5】
前記目標操舵演算部は前記第1操舵値と前記第2操舵値とを加算演算して前記目標操舵
値を出力する請求項1から4のいずれか一項に記載の自動走行圃場作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定された目標走行経路に沿って自動操舵走行する自動走行作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
設定された目標走行経路に沿って自動操舵される自動操舵機能を有する作業車両として、特許文献1には、GPS装置により計測される位置情報に基づいて、ティーチング経路生成手段により生成されたティーチング経路に対して平行な目標経路を生成し、該目標経路上を自律的に走行する田植機が開示されている。この田植機では、自動走行中の実際の走行経路をGPSユニットにより測定し、目標経路と実際の走行目標経路のずれ量が演算され、予め設定した閾値と比較される。その際、目標経路方向と進行方向とが成す角度をずれ量としており、そのずれ量が閾値を越えている場合には、基準線に対するずれの方向を検知して判定を行い、左方にずれが生じている場合にはそのズレ量に応じてステアリング装置を右方向に補正し、右方にズレが生じている場合にはそのズレ量に応じてステアリング装置を左方向に補正する。しかしながら、このような自動走行の原理を採用した作業車両では、目標経路方向と進行方向とが成す角度だけを走行ズレとして操舵制御に用いているので、目標経路と車体とが接近しているのにずれ量だけが大きい場合や、ずれ量が小さいのに目標経路と車体とが遠く離れている場合には適正な走行が困難となる。
【0003】
特許文献2で開示されている車両系の走行制御技術では、いろいろな曲率が混在する目標走行経路(目標軌道)に対しては、目標走行経路からの横ずれ量と方位角のずれ量及び目標走行経路の曲率を計測し、2つのずれ量及び曲率に応じた操舵角が演算出力される。具体的には、車両位置が目標走行経路の法線方向になるように参照点を設け、その座標系に対して、座標系を車両位置の絶対座標系から参照点を基準とした相対座標系に変換するとともに、目標走行経路からの相対的な横ずれ及び方位角のずれを計算し、比例制御によりずれ量に応じたフィードバック的な操作量と、目標軌道の曲率及び横ずれ量に応じたフィードフォワード的な操作量により、操舵角が求められる。しかしながら、舗装された道路を走行する自動車などには有効であるかもしれないが、田植機やトラクタやコンバインさらには芝刈機などの農業作業機、あるいはドーザなどの土木作業機では、その走行速度は低速であることから同じ操舵角では高速走行する車両に比べて走行ズレの解消に時間がかかる。さらには、スリップや土塊の乗り上げなどによって瞬時に目標位置からの位置ずれが生じることがある。このため、特許文献2に開示された走行制御技術を、そのまま作業車両の自動操舵走行に適用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−131880号公報
【特許文献2】特開2002−215239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、設定された目標走行経路に沿って、作業走行中であっても、高い精度をもって自動操舵走行することができる自動走行作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圃場に設定された
直線状の目標走行経路に沿って自動操舵走行する、本発明による自動走行
圃場作業車両は、自車位置を算定する自車位置算定部と、自車の走行方位を算定する自車方位算定部と、
前記自車位置に基づいて前記目標走行経路に対する
前記自車の横方向の位置ずれである位置偏差を演算する位置偏差演算部と、前記目標走行経路の方位線と前記走行方位との間の方位偏差を演算する方位偏差演算部と、前記位置偏差に基づいて偏差解消の第1操舵値を出力する第1制御演算部
と、前記位置偏差が大きくなるにしたがって減少傾向を示す重み係数を用いて調整された前記方位偏
差に基づいて偏差解消の第2操舵値を出力する第2制御演算部と、前記第1操舵値と前記第2操舵値とに基づいて前記目標走行経路に沿って走行するための目標操舵値を出力する目標操舵演算部と、前記目標操舵値を入力として操舵駆動信号を出力する操舵駆動制御部と、前記操舵駆動信号に基づいて操向輪の操舵を行う操舵駆動部とを備えている。
【0007】
この構成によれば、目標走行経路に対する位置偏差及び目標走行経路に対する方位偏差とから目標走行経路に沿って走行するための目標操舵値を出力する。しかしながら、単純に目標走行経路に対する位置偏差から偏差解消のために演算される第1操舵値と、目標走行経路に対する方位偏差と偏差解消のために演算される第2操舵値を求めるのではなく、第2操舵値を求める際に、目標走行経路に対する位置偏差も考慮される。具体的には、前記位置偏差を変数として重み係数を導出する重み関数を導入し、その際、この重み関数は位置偏差が大きくなるほど重み係数が減少する傾向を有するものとする。つまり、位置偏差をdとし、重み関数をGとすると、重み係数wは、G(d)で求められ、Gは単調減少、または段階的に減少する関数となる。wは、通常、0より大きく、1以下の数値となる。重み係数wは乗算で用いられる。これにより、前記位置偏差が大きい場合には前記方位偏差の重みが低減されるという条件で、前記位置偏差と前記方位偏差とに基づいて偏差解消の第2操舵値が出力される。そのようにして求められた第1操舵値と第2操舵値とに基づいて目標走行経路に沿って走行するための、最終的な目標操舵値が出力される。この構成では、位置偏差が大きい場合には、方位偏差をある程度無視して、位置偏差の解消に重きをおいた目標操舵値が出力されるので、車体がスリップや土塊の乗り上げなどによって大きな位置偏差(位置ずれ)が生じた場合には、迅速にその位置偏差を解消することができる。このことは、田植機、コンバイン、トラクタ、芝刈機などのように、直線状の目標走行経路から大きく外れてしまうことを、単に真っ直ぐ走行することを犠牲にしても極力避けねばならない作業車両にとって利点がある。
なお、本願では、目標走行経路が直線状であるとして、位置偏差は車体から目標走行経路に下した垂線の長さとして、方位偏差とは車体の走行方向線と目標走行経路とのなす角度として表すことができる値であると定義される。
【0008】
低速あるいは中速での走行において適切に偏差解消ための目標操舵値を出力する制御系の場合、同一操舵角度であれば、車速が高速になるほど、一定時間における車体の位置変化や方位変化が大きくなる。その結果、高速走行時には、車体が蛇行しやすくなるという問題がある。この問題を解決するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、車速を算定する車速算定部が備えられ、前記目標操舵演算部は、前記第1操舵値と前記第2操舵値とに基づいて前記目標操舵値を出力する際に前記車速が大きくなるにしたがって減少傾向を示す調整係数を用いて前記車速が大きい場合には前記目標操舵値を低減するように構成されている。具体的には、前記車速を変数として調整係数(例えば0より大きく1以下の数値)を導出する調整関数を導入し、その際、この調整関数は車速が大きくなるほど調整係数が減少する傾向を有するものとする。つまり、車速をsとし、調整関数をKとすると、調整係数kは、K(k)で求められ、Kは単調減少、または段階的に減少する関数となる。調整係数kは乗算で用いられる。これにより、車速が高速になれば、目標操舵値が低減されるので、低速走行から高速走行にわたって適切な偏差解消が実現し、自動操舵走行が安定する。
【0009】
車速が高速になればなるほど、偏差解消の操舵角が車体に及ぼす影響が大きくなるという問題に対する別な方策として、本発明による好適な実施形態の1つでは、前記目標操舵演算部は、前記目標操舵値に対する上限リミッタ機能を有し、前記車速に応じて上限リミット値が設定されている。この上限リミット値は作業種によって変更可能であることが好ましい。これにより、低速走行から高速走行にわたって適切な偏差解消が実現し、自動操舵走行が安定する。
【0010】
本発明の特徴の一つは、上述したように、位置偏差が大きい場合には、方位偏差をある程度無視して、位置偏差の解消に重きをおいた目標操舵値が出力されることである。その際、作業走行する土壌の状態や作業種によって方位偏差を無視する度合を変えた方が、より作業に適応した自動操舵走行が得られる可能性が高い。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第2制御演算部における、前記位置偏差の大きさに依存する前記方位偏差の重み係数を用いた重みの低減度合は、変更可能なように構成されている。
【0011】
第1操舵値と第2操舵値とに基づいて目標走行経路に沿って走行するための目標操舵値を出力する目標操舵演算部を簡単化するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記目標操舵演算部は前記第1操舵値と前記第2操舵値とを加算演算して前記目標操舵値を出力するように構成されている。これにより、車体の走行方向を目標走行経路に対して平行な線に一致させる制御を行いつつ、徐々に車体を目標走行経路に接近させる制御を行うことで、特に圃場作業などで要求される直線状の目標走行経路に沿った作業走行が適切に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による自動操舵走行制御の基本原理を説明する模式図である。
【
図2】本発明による自動走行作業車両の実施形態の1つであるトラクタの側面図である。
【
図3】トラクタに搭載された制御系を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による自動走行作業車両の具体的な実施形態を説明する前に、
図1を用いて、本発明による自動操舵走行制御の基本原理を説明する。ここでは、自動走行作業車両(以下単に作業車両と略称する)として、圃場で直線状の走行作業をUターンを行いながら繰り返す、田植機、トラクタ、コンバインなどの農作業機が想定されている。この作業車両は、予め設定された目標走行経路に沿って自動操舵走行するように構成されている。自動操舵を行うためには、作業車両の現在の位置(以下自車位置と呼ぶ)及び現在の走行方向(以下自車方位)を知る必要がある。このため、この作業車両は、GPS(Global Positioning System)ないしはGNSS(Global Navigation Satellite System)と呼ばれる衛星を用いた衛星航法機器と加速度計やジャイロを用いた慣性航法機器を備えている。
図1に示されているように、ここでは自車位置は、作業車中心の測位値(緯度、経度)で示され、自車方位は、単位時間自車位置の変化から算定される走行方向で示される。
【0014】
図1に示すように、作業車中心から直線状の目標走行経路(方位線)に対して平行に引いた直線と目標走行経路との間隔:dが位置偏差として取り扱われ、車体中心を通る車体前後方向線(走行方位)と目標走行経路とがなす角度:θが方位偏差として取り扱われる。自動操舵走行制御における目標となる自車位置は目標走行経路上の点であり、目標となる自車方位は、目標走行経路の方位である。したがって、目標走行経路に対する自車位置との間の位置偏差はdとなり、目標走行経路の方位線と走行方位との間の方位偏差はθとなる。
【0015】
位置偏差に基づいて偏差解消の第1操舵値が演算される。この演算には、好ましくはPID制御演算を採用することができる。方位偏差に基づいて偏差解消の第2操舵値が演算されるが、その際位置偏差も考慮される。位置偏差が大きい場合には方位偏差に基づく偏差解消の第2操舵値は小さくされる。例えば、方位偏差に基づいて第2操舵値を導出する関数F(θ)で得られた値に対して、位置偏差が大きいほどその値が小さくなる重み係数w(0<w<1)を導出する関数W(d)を作成しておき、W(d)×F(θ)で、第2操舵値を求める。つまり、位置偏差が大きい場合には方位偏差の重みを低減した上で前記位置偏差と前記方位偏差とに基づいて偏差解消の第2操舵値が出力される。なお方位偏差に基づいて第2操舵値を導出する際にも、PID制御演算が採用することが好ましい。
【0016】
このようにして求められた第1操舵値と第2操舵値とを入力として、作業車両が目標走行経路に沿って走行するための目標操舵値が求められ、出力される。最も簡単には、目標操舵値は、第1操舵値と第2操舵値との符号を考慮した加算演算で求めることができる。さらに、この目標操舵値を入力として、作業車両の操向輪(クローラも含まれる)の操舵角を駆動する操舵駆動部に操舵駆動信号を出力する操舵制御系が備えられている。操舵駆動部は、電気モータまたは油圧機器あるいはその両方で構成することができる。操舵制御系は、PIフィードバック制御手法で構築することが好ましいが、その他の制御手法を用いてもよい。ここでは、フィードバックとして、操舵速度と操舵角とが採用されている。
【0017】
なお、
図1では点線で示されているが、第1操舵値と第2操舵値とから目標操舵値を求める際に、作業車両の走行速度、つまり車速を考慮することも好適である。つまり同一の操舵角の場合、車速が速いほど時間当たりの車体の姿勢変更量は大きくなる。時間当たりの姿勢変更量が大きくなりすぎると、圃場を荒らすという不都合が生じる。このため、第1操舵値と第2操舵値とから演算された目標操舵値は車速が速いほど弱めることが好ましい。例えば、低速走行時には演算された目標操舵値をそのまま使用し、所定以上の高速走行時には所定の低減割合で目標操舵値を小さくするとよい。
【0018】
次に、本発明の自動走行作業車両の具体的な実施形態の1つを説明する。この実施形態では、作業車両は畦によって境界づけられた圃場に対して耕耘作業などの農作業を行う作業装置を装備したトラクタである。このトラクタは、前輪2aと後輪2bとによって支持された車体3の中央部に操縦部30が形成されている。車体3の後部には油圧式の昇降機構4を介して対地作業装置5が装備されている。前輪2aは操向輪として機能し、その操舵角を変更することでトラクタの走行方向が変更される。前輪2aの操舵角は操舵機構6の動作によって変更される。操舵機構6には自動操舵のための操舵駆動部60が備えられている。操舵駆動部60を構成する電気モータの制御は、後で説明する電子制御ユニット7からの操舵駆動信号によって行わる。なお、前輪2aの操舵角は従来通りのステアリングホイールの操作によっても可能であり、ステアリングホイールは、操縦部30に各種操作レバーや運転者が着座するシートとともにトラクタの操縦部30に配置されている。操縦部30には、自動操舵操向時に必要となる自機位置を測定するための測位ユニット8も配置されている。測位ユニット8には、GNSSモジュールとして構成されている衛星航法用モジュールやと、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだジャイロモジュールとして構成されている慣性航法用モジュールが含まれている。衛星航法用モジュールには、GPS信号やGNSS信号を受信するための衛星用アンテナが含まれているが、
図2では省略されている。
【0019】
図3には、この作業車両に装備されている制御系が示されている。この制御系は、
図1を用いて説明された自動操舵制御の基本原理を流用している。
図3に示されている制御系は、電子制御ユニット7、測位ユニット8、スイッチ・センサ群9、操舵駆動部60を含んでいる。
【0020】
測位ユニット8は、GNSSを用いて緯度や経度などの方位を検出する衛星航法用モジュール81を備えており、その構成は、カーナビゲーションシステムなどで用いられている測位ユニットに類似している。測位ユニット8には、瞬間的な作業車両の動き(方向ベクトルなど)や向きを検出するために、及び衛星航法用モジュール81を補完するために、ジャイロ加速度センサなどを有する慣性航法用モジュール82が備えられている。操舵駆動部60は、電子制御ユニット7から出力される操舵駆動信号に基づいて操向輪である前輪2aの操舵角を調整する。スイッチ・センサ群9は、作業車両の走行状態や設定状況を検出するスイッチやセンサの総称であり、これらからの検出信号が電子制御ユニット7に入力し、種々の制御のための入力パラメータとして利用される。スイッチ・センサ群9には、車速を算定するための検出信号を出力するセンサや、操舵駆動部60の駆動状態(例えば、操作速度や操舵角)を算定するための検出信号を出力するセンサも含まれている。
【0021】
電子制御ユニット7には、特に本発明に関係する機能部として、基準経路取得部71、基準経路設定部72、自車位置算定部731、自車方位算定部732、位置偏差演算部741、方位偏差演算部742、第1制御演算部751、第2制御演算部752、目標操舵演算部76、車速算定部78、操舵駆動制御部79が含まれている。
【0022】
基準経路取得部71は、作業対象となっている圃場の地図位置や当該圃場の境界線を規定する畦の位置データなどの圃場情報や、実施されるべき圃場作業に関する機器設定データ(例えば作業幅)などの作業情報に基づいて、自動操舵作業走行のための目標走行経路を取得する。目標走行経路の取得に関しては、遠隔地の管理サーバからのダウンロード、圃場別及び作業別で作業車両自体が保有する目標走行経路からの読み出しなどを採用することができる。目標走行経路を算定するアルゴリズムによって、その都度演算して求めてもよい。また、ティーチング走行を通じて目標走行経路を算定してもよい。目標走行経路が決定すると、基準経路設定部72は当該目標走行経路を作業走行用地図に組み込み、自動操舵走行の制御目標として利用できるように内部処理する。
【0023】
自車位置算定部731は、測位ユニット8から送られてくる測位データに基づいて作業走行用地図での自車位置を算定する。自車方位算定部732は、測位ユニット8から送られてくる測位データに基づいて作業走行用地図での自車の走行方位を算定する。位置偏差演算部741は、目標走行経路に対する自車位置との間の位置偏差(
図1において記号dで示されている)を演算する。方位偏差演算部742は、目標走行経路の方位線と走行方位との間の方位偏差(
図1において記号θで示されている)を演算する。
【0024】
第1制御演算部751は位置偏差に基づいて偏差解消の第1操舵値を出力する。第2制御演算部752は、位置偏差が大きい場合には上述したような重み係数を用いて方位偏差の重みを低減した上で位置偏差と方位偏差とに基づいて偏差解消の第2操舵値を出力する。この第2制御演算部752は、方位偏差に基づいて偏差解消の仮第2操舵値を出力し、この仮第2操舵値を位置偏差が大きいほど低減させて、正式な第2操舵値として出力するように構成してもよい。なお、位置偏差の大きさに依存する方位偏差の低減度合は、入力デバイスを通じて調整可能である。
【0025】
目標操舵演算部76は、第1操舵値と第2操舵値とに基づいてこの作業車両が目標走行経路に沿って走行するための目標操舵値を出力する。最も簡単な形態では、第1操舵値と第2操舵値との加算演算結果が目標操舵値となる。目標操舵演算部76から出力された目標操舵値は、操舵駆動制御部79において、操舵駆動部60を駆動するための操舵駆動信号を出力するための制御演算における入力パラメータとして用いられる。
【0026】
この実施形態では、目標操舵演算部76は、目標操舵値を演算する際に、車速算定部78から得られる作業車両の車速を考慮し、車速が速い場合には、第1操舵値と第2操舵値とに基づいて演算出力される目標操舵値を減じる機能も備えている。さらには、目標操舵演算部76には操舵上限設定部760が組み込まれており、この操舵上限設定部760は、第1操舵値と第2操舵値とさらには車速を用いてに求められた目標操舵値に対して、その上限をクランプする機能、つまり上限リミッタ機能を有する。この上限リミット値も車速によって変動することが好ましい。つまり、車速が大きくなるほど出力される最大目標操舵値が低くなるように設定することで、高速走行時の操向安定性が向上する。
【0027】
以上のように構成された電子制御ユニット7のより具体的な制御的な仕組みを、
図4に示された制御線図を用いて説明する。第1制御演算部751は、目標位置偏差:Δdと位置偏差:dとを入力パラメータとして、位置偏差:dを小さくするための第1操舵値を、PI制御を用いて演算出力する。PI制御に代えて、PID制御を用いてもよい。第2制御演算部752は、目標方位偏差:Δθと方位偏差:θとを入力パラメータとして、方位偏差:θを小さくするための仮の第2操舵値を、PI制御を用いて演算出力する。ここでも、PI制御に代えて、PID制御を用いてもよい。ただし、第2制御演算部752では、位置偏差が大きい場合には、位置偏差量に応じて比例的にまたは非線形的に、方位偏差に基づいて得られた仮の第2操舵値を低減して、第2操舵値として出力する。目標操舵演算部76は、第1制御演算部751から出力された第1操舵値と第2制御演算部752から出力された第2操舵値との加算値を目標操舵値として制御出力する。
【0028】
操舵駆動制御部79は、フィードバック方式の操舵制御モジュールとして構成されている。入力された目標操舵値は実際の操舵角:Sθとの比較演算で得られた操舵角指令値:Sθ*を入力してPI制御を用いて前段出力値を求める。この前段出力値は、実際の操舵速度:Swと比較演算され、その演算結果を入力としてPI制御を用いて、操舵駆動信号が出力される。操舵駆動信号は、ドライバを介して操舵駆動部60を構成するモータを駆動して、前輪2aを操舵する。操舵駆動制御部79のおけるPI制御は、PID制御に置き換えてもよい。
【0029】
図5には、
図4で示された電子制御ユニット7の制御線図の変形例が示されている。
図5の制御線図は、目標操舵演算部76に車速に応じて最終的に出力する目標操舵値が低減される機能が付加されていることで、
図4と異なっている。つまり、この変形例では、第1制御演算部751から出力された第1操舵値と第2制御演算部752から出力された第2操舵値との加算値をさらに、車速が大きくなるほど当該加算値を低減する演算機能が付加されている。
【0030】
図6には、
図5で示された電子制御ユニット7の制御線図の変形例が示されている。
図6の制御線図は、目標操舵演算部76に、最終的に出力される目標操舵値を上限クランプする機能が付加されていることで、
図5と異なっている。つまり、この変形例では、求められた目標操舵値を出力する手前で、車速に応じて変化するしきい値によって出力される最高目標操舵値が抑えこまれる。車速が大きいほど、出力される最高目標操舵値が小さくなるように設定されている。
【0031】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、操舵駆動制御部79は、実際の操舵角と操舵速度とをフィードバック量とする操舵制御モジュールとして構成された。しかしながら、本発明では、操舵駆動制御部79の制御構成を限定しているわけではなく、その他の公知の制御構成を採用することも可能である。
(2)上述した実施形態では、目標走行経路を直線と見なしていたが、目標走行経路が曲線であっても、本発明を適用することができる。
(3)上述した実施形態では、測位ユニット8は、衛星航法用モジュール81と慣性航法用モジュール82とで構成されていたが、衛星航法用モジュール81だけで構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、農作業車両だけでなく、各種作業装置を装備した自動操舵走行可能な作業車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
2a :前輪
2b :後輪
3 :車体
6 :操舵機構
7 :電子制御ユニット
8 :測位ユニット
9 :センサ群
30 :操縦部
60 :操舵駆動部
71 :基準経路取得部
72 :基準経路設定部
76 :目標操舵演算部
78 :車速算定部
79 :操舵駆動制御部
81 :衛星航法用モジュール
82 :慣性航法用モジュール
731 :自車位置算定部
732 :自車方位算定部
741 :位置偏差演算部
742 :方位偏差演算部
751 :第1制御演算部
752 :第2制御演算部
760 :操舵上限設定部