特許第6420189号(P6420189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420189
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20181029BHJP
   B62J 99/00 20090101ALI20181029BHJP
【FI】
   F02D29/02 311A
   F02D29/02 K
   B62J99/00 J
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-54944(P2015-54944)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-176345(P2016-176345A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】奥山 史彦
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−209047(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157013(WO,A1)
【文献】 特開2010−208382(JP,A)
【文献】 特開2012−202285(JP,A)
【文献】 特開2010−031845(JP,A)
【文献】 実開平07−011466(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0236425(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00 〜 29/02
B62J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車のリーンアングルを検出するリーンアングルセンサ及び内燃機関を搭載した前記自動二輪車の駆動輪及び従動輪の各々の回転速度を用いて算出されるスリップ量と、前記自動二輪車の所定の入力量を用いて算出される前記スリップ量の目標値であるスリップ量目標値と、の偏差に応じて、前記自動二輪車の前記内燃機関が発生する駆動力をフィードバック制御で制御する駆動力調整処理を含むトラクション制御処理を実行する制御部を備えた駆動力制御装置において、
前記制御部は、読み込んだ前記リーンアングルが大きいほど前記スリップ量目標値をより低減した値に設定すると共に、前記駆動力調整処理の実行中において前記リーンアングルセンサの異常を検知した場合には、前記スリップ量目標値を、前記リーンアングルセンサの前記異常を検知した際に読み込んだ前記リーンアングルに対応する値よりもより低減した低減目標値に補正すると共に、前記低減目標値を用いて前記駆動力調整処理を実行することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記リーンアングルセンサの前記異常を検知した場合に前記リーンアングルの最新値として記憶していた記憶リーンアングルよりも大きなリーンアングルを示す第1のリーンアングル代替値を読み込んで用い、前記スリップ量目標値を前記低減目標値に補正することを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1のリーンアングル代替値を漸増させながら前記スリップ量目標値を前記低減目標値に補正することを特徴とする請求項2に記載の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理において、前記駆動力を漸増すると共に、前記駆動力を漸増する漸増度合いを、前記駆動力復帰処理の開始時に読み込んでいるリーンアングルが大きい値であるほど小さな値に設定することを特徴とする請求項2又は3に記載の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理を終了した後に、前記自動二輪車の前記リーンアングルの第2のリーンアングル代替値として、前記自動二輪車の直立状態に対応したリーンアングルを設定することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関し、特に、自動二輪車の駆動力を制御する駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の発進時や走行時の挙動の安定性を向上するために、車両の駆動力を制御する駆動力制御装置が提案されてきている。
【0003】
このような駆動力制御装置では、車両に搭載された種々のセンサの検出情報を用いて、車両の駆動力を制御する構成を採用しているため、これらの種々のセンサに故障や断線等の異常が発生する事態も考えられる。
【0004】
かかる状況下で、特許文献1は、トラクション制御装置に関し、車両のアクセル操作に基づき定まるエンジンの要求駆動力に対して駆動力を抑制するトラクション制御が作動されている際に各種センサ(グリップ開度センサ、前輪回転速度センサ、後輪回転速度センサ、大気圧センサ、吸気管負圧センサ、吸気温センサ、冷却水温センサ、酸素濃度センサ、クランク角センサ、変速段センサ、及びノックセンサ)に異常が発生した場合には、フェールセーフ制御処理として、実スロットル開度をアイドル回転数開度まで低減させる構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−202285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成においては、トラクション制御が作動されている際に各種センサに異常が発生した場合に、フェールセーフ制御処理を実行するものであるが、そもそも、かかる各種センサには、リーンアングルセンサが含まれてはいないものである。かかるリーンアングルセンサは、自動二輪車の車体の長手軸(前後軸)を回転軸とする傾斜角を検出するセンサである。
【0007】
本発明者の更なる検討によれば、自動二輪車用のトラクション制御においては、リーンアングルセンサによって検出されたリーンアングルにも基づいて、スリップ量を低減するように駆動力を調整する駆動力調整処理を実行することが考えられる。
【0008】
ここで、かかる駆動力調整処理の実行中に、リーンアングルセンサに異常が発生した場合にはリーンアングルセンサの出力値の信頼性が低下するために、リーンアングルセンサに異常が発生した場合の制御を別途検討する必要がある。
【0009】
具体的には、駆動力調整処理を実行していないときにリーンアングルセンサに異常が発生した場合には、以降の駆動力調整処理を実行しないか、又はリーンアングルを所定値に固定して駆動力調整処理を実行すれば足りる。
【0010】
しかしながら、自動二輪車が傾斜走行中(リーン中)であり、且つ、駆動力調整処理を実行しているときにリーンアングルセンサに異常が発生した場合に、駆動力調整処理を即時に停止させることは、更なるスリップの発生を招く可能性もあり、最適な選択であるとはいえない。
【0011】
このため、現状としては、駆動力調整処理を実行しているときにリーンアングルセンサに異常が発生した場合であっても、スリップダウンやハイサイド等の車体姿勢の制御不能な事態の発生を抑制し、且つ、安定した車体姿勢を実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行可能とする駆動力制御装置の実現が待望された状況にある。
【0012】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、駆動力調整処理を実行しているときにリーンアングルセンサに異常が発生した場合であっても、車体姿勢の制御不能な事態の発生を抑制し、且つ、安定した車体姿勢を実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行可能とする駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の目的を達成するべく、本発明は、自動二輪車のリーンアングルを検出するリーンアングルセンサ及び内燃機関を搭載した前記自動二輪車の駆動輪及び従動輪の各々の回転速度を用いて算出されるスリップ量と、前記自動二輪車の所定の入力量を用いて算出される前記スリップ量の目標値であるスリップ量目標値と、の偏差に応じて、前記自動二輪車の前記内燃機関が発生する駆動力をフィードバック制御で制御する駆動力調整処理を含むトラクション制御処理を実行する制御部を備えた駆動力制御装置において、前記制御部は、読み込んだ前記リーンアングルが大きいほど前記スリップ量目標値をより低減した値に設定すると共に、前記駆動力調整処理の実行中において前記リーンアングルセンサの異常を検知した場合には、前記スリップ量目標値を、前記リーンアングルセンサの前記異常を検知した際に読み込んだ前記リーンアングルに対応する値よりもより低減した低減目標値に補正すると共に、前記低減目標値を用いて前記駆動力調整処理を実行することを第1の局面とする。
【0014】
本発明は、第1の局面に加えて、前記制御部は、前記リーンアングルセンサの前記異常を検知した場合に前記リーンアングルの最新値として記憶していた記憶リーンアングルよりも大きなリーンアングルを示す第1のリーンアングル代替値を読み込んで用い、前記スリップ量目標値を前記低減目標値に補正することを第2の局面とする。
【0015】
本発明は、第2の局面に加えて、前記制御部は、前記第1のリーンアングル代替値を漸増させながら前記スリップ量目標値を前記低減目標値に補正することを第3の局面とする。
【0016】
本発明は、第2又は第3の局面に加えて、前記制御部は、前記駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理において、前記駆動力を漸増すると共に、前記駆動力を漸増する漸増度合いを、前記駆動力復帰処理の開始時に読み込んでいるリーンアングルが大きい値であるほど小さな値に設定することを第4の局面とする。
【0017】
本発明は、第2から4のいずれかの局面に加えて、前記制御部は、前記駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理を終了した後に、前記自動二輪車の前記リーンアングルの第2のリーンアングル代替値として、前記自動二輪車の直立状態に対応したリーンアングルを設定することを第5の局面とする。
【発明の効果】
【0018】
以上の本発明の第1の局面にかかる駆動力制御装置によれば、制御部が、読み込んだリーンアングルが大きいほどスリップ量目標値をより低減した値に設定すると共に、駆動力調整処理の実行中においてリーンアングルセンサの異常を検知した場合には、スリップ量目標値を、リーンアングルセンサの異常を検知した際に読み込んだリーンアングルに対応する値よりもより低減した低減目標値に補正すると共に、低減目標値を用いて駆動力調整処理を実行するものであるため、駆動力調整処理を実行しているときにリーンアングルセンサに異常が発生した場合であっても、車体姿勢の制御不能な事態の発生を抑制し、且つ、安定した車体姿勢を実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行することができる。
【0019】
また、本発明の第2の局面にかかる駆動力制御装置によれば、制御部が、リーンアングルセンサの異常を検知した場合にリーンアングルの最新値として記憶していた記憶リーンアングルよりも大きなリーンアングルを示す第1のリーンアングル代替値を読み込んで用い、スリップ量目標値を低減目標値に補正するものであるため、簡便な構成で、車体姿勢の制御不能な事態の発生を確実に抑制し、且つ、安定した車体姿勢を確実に実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行することができる。
【0020】
また、本発明の第3の局面にかかる駆動力制御装置によれば、制御部が、第1のリーンアングル代替値を漸増させながらスリップ量目標値を低減目標値に補正するものであるため、第1のリーンアングル代替値の初期設定値と第1のリーンアングル代替値の最終設定値との差が大きな値になる場合でも、第1のリーンアングル代替値の変化度合いを抑制することができ、安定した車体姿勢をより確実に実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行することができる。
【0021】
また、本発明の第4の局面にかかる駆動力制御装置によれば、制御部が、駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理において、駆動力を漸増すると共に、駆動力を漸増する漸増度合いを、駆動力復帰処理の開始時に読み込んでいるリーンアングルが大きい値であるほど小さな値に設定するものであるため、駆動力調整処理が完了しそれに引き続く駆動力復帰処理が開始される際のリーンアングルが大きい値である場合でも、安定した車体姿勢をより確実に実現することができるように駆動力復帰処理を継続して実行することができる。
【0022】
また、本発明の第5の局面にかかる駆動力制御装置によれば、制御部が、駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理を終了した後に、自動二輪車のリーンアングルの第2のリーンアングル代替値として、自動二輪車の直立状態に対応したリーンアングルを設定するものであるため、リーンアングルセンサの異常に影響されない態様で、駆動力復帰処理が完了した後の駆動力制御処理を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施形態における駆動力制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本実施形態における駆動力制御装置が実行する駆動力制御処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、図2に示すステップS6の処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、本実施形態における駆動力制御装置が実行する駆動力制御処理の流れを説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を適宜参照して、本実施形態における駆動力制御装置につき、詳細に説明する。
【0025】
〔駆動力制御装置の構成〕
まず、図1を参照して、本実施形態における駆動力制御装置の構成につき、詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態における駆動力制御装置の構成を示すブロック図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態における駆動力制御装置1は、図示を省略する自動二輪車に搭載され、自動二輪車が備える図示を省略するバッテリ等の電源から供給される電力を利用して動作する。駆動力制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を有するマイクロコンピュータ等の演算処理装置であり、典型的にはECU(Electronic Control Unit)である。駆動力制御装置1は、メモリ部13から必要な制御プログラム及び制御データを読み出して、自動二輪車の駆動力制御処理用等の制御プログラムを実行する。
【0028】
具体的には、駆動力制御装置1は、駆動力制御処理用等の制御プログラムを実行する制御部として機能するCPU11、スロットルモータ30を駆動するモータ駆動回路12、及びメモリ部13、14を備えている。また、駆動力制御装置1には、入力側センサとして、スロットルポジションセンサ21、クランク角センサ22、ギアポジションセンサ23、アクセル開度センサ24、エンジン温度センサ25、大気温度センサ26、大気圧センサ27、後輪速センサ28a、前輪速センサ28b、IMU(Inertial Measurement Unit)29、及びスロットルモータ30が電気的に接続されている。なお、このような各種入力側センサ用の駆動力制御装置1内の各種入力回路については、図示を省略する。
【0029】
CPU11は、モータ駆動回路12を介してスロットルモータ30を制御することにより、自動二輪車のギアポジション及びアクセル操作に基づき定まるエンジンの要求駆動力に対して自動二輪車の駆動力(エンジンの駆動力が自動二輪車の図示を省略する変速機を介して駆動輪に発生する駆動力)を調整する駆動力の調整処理(以下、駆動力調整処理と記す)及び駆動力調整処理に引き続いて実行する駆動力復帰処理を含むトラクション制御処理(以下、駆動力制御処理と記す)を実行する。ここで、かかる駆動力調整処理には、自動二輪車のアクセル操作に基づき定まるエンジンの要求駆動力に対して、自動二輪車の駆動力を低下又は増加させる処理を含む。なお、本実施形態の駆動力調整処理では、実スロットル開度を制御することによってかかる駆動力を制御する例で説明しているが、これに限らず、点火時期や燃料噴射量を制御することによって駆動力を制御してもよい。
【0030】
CPU11は、メモリ部13内に記憶されている駆動力制御処理用の制御プログラムを実行することによって、スリップ量算出部11a、スリップ量目標値算出部11b、異常検出部11c、リーンアングル読込部11d、リーンアングル代替値読込部11e、スリップ量関連補正部11f、及び駆動力演算処理部11gとして機能する。
【0031】
スリップ量算出部11aは、後輪速センサ28aによって検出された図示を省略する駆動輪である後輪の回転速度と前輪速センサ28bによって検出された図示を省略する従動綸である前輪の回転速度とに基づいて、前後輪間のスリップ量(実スリップ量)を演算する。なお、かかるスリップ量は、後輪の回転速度と前輪の回転速度との偏差のみならず、後輪の回転速度と前輪の回転速度との偏差を前輪の回転速度で除した値等であるスリップ率をも含む概念として用いる。
【0032】
スリップ量目標値算出部11bは、IMU29が備えるリーンアングルセンサ29aによって検出されたリーンアングルに基づいて前後輪間のスリップ量の目標値(スリップ量目標値)を算出する。具体的には、スリップ量目標値算出部11bは、リーンアングルの値が大きいほど、スリップ量目標値を低減した値に設定する。
【0033】
異常検出部11cは、IMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常を検出する。なお、かかる異常は、IMU29自体の故障及びリーンアングルセンサ29a自体の故障のみならず、リーンアングルセンサ29a及びIMU29間の電気配線の断線や電気的接続構成の故障、並びにIMU29及びECUである駆動力制御装置1間の電気配線の断線や電気的接続構成の故障をも含む概念として用いる。
【0034】
リーンアングル読込部11dは、リーンアングルセンサ29aを有するIMU29によって検出されて算出されたリーンアングル(実測値)を読み込む。
【0035】
リーンアングル代替値読込部11eは、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中であってIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出されている場合には、リーンアングルセンサ29aによって検出されメモリ部14に記憶されている最新のリーンアングルよりも、より大きなリーンアングルを示しメモリ部13に記憶されている第1のリーンアングル代替値をリーンアングルとして読み込み、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理に引き続く駆動力復帰処理を完了した以降では、自動二輪車が直立した状態のリーンアングルを示しメモリ部13に記憶されている第2のリーンアングル代替値をリーンアングルとして読み込む。
【0036】
スリップ量関連補正部11fは、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理開始前である場合には、リーンアングル(実測値)に基づいて、実スリップ量のみを補正し、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中であってIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出されていない場合には、リーンアングルの実測値に基づいて、スリップ量目標値(目標スリップ量)及び実スリップ量を補正し、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中であってIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出されている場合には、第1のリーンアングル代替値に基づいて、スリップ量目標値及び実スリップ量を補正し、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理に引き続く駆動力復帰処理を完了した以降は、第2のリーンアングル代替値に基づいて、実スリップ量のみを補正する。特に、スリップ量関連補正部11fは、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中であってIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出された際には、第1のリーンアングル代替値に基づいて、IMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が発生した際に検出されたリーンアングルに対応するスリップ量目標値よりも、スリップ量目標値をより低減させる。
【0037】
駆動力演算処理部11gは、自動二輪車のギアポジション、自動二輪車のアクセル操作部材の操作量(アクセル開度)、並びに各々が対応して補正済みであるスリップ量目標値及び実スリップ量との偏差に応じて自動二輪車の目標駆動力を算出し、このように算出した目標駆動力を出力するようにモータ駆動回路12を介してスロットルモータ30をフィードバック制御する駆動力調整処理を実行する。この際、クランク角センサ22、エンジン温度センサ25、大気温度センサ26、及び大気圧センサ27の各々から出力される電気信号の出力値は、かかる目標駆動力を発生させるための燃料噴射量等の算出に用いられる。
【0038】
また、駆動力演算処理部11gは、駆動力調整処理が完了した後に、リーンアングルに応じてモータ駆動回路12を介してスロットルモータ30を制御することによって、自動二輪車の駆動力をエンジンの要求駆動力まで漸増させる。具体的には、駆動力演算処理部11gは、駆動力調整処理中にIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出された場合に駆動力調整処理が完了しそれに引き続く駆動力復帰処理が開始される際のリーンアングルが大きい値である場合には、自動二輪車の姿勢が不安定になる傾向が高いことを考慮して、かかるリーンアングルが大きい値であるほど、自動二輪車の駆動力を漸増させる漸増度合い(増加する量や増加する周期)を小さな値に設定する。
【0039】
モータ駆動回路12は、CPU11からの制御信号に応じてスロットルモータ30の動作を制御する。
【0040】
メモリ部13は、不揮発性の記憶装置(ROM:Read Only Memory)によって構成され、駆動力制御処理用等の各種制御プログラム及び制御データを記憶している。また、メモリ部14は、揮発性の記憶装置(RAM:Random Access Memory)によって構成され、各種入力側センサからの入力値や演算結果などを記憶する。
【0041】
スロットルポジションセンサ21は、自動二輪車の図示を省略する電子制御スロットル装置のスロットルバルブの開度(実スロットル開度)を検出し、このように検出した実スロットル開度を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。
【0042】
クランク角センサ22は、自動二輪車のエンジンのクランク軸の回転角度を検出し、このように検出したクランク軸の回転角度を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。
【0043】
ギアポジションセンサ23は、自動二輪車の変速機のギアポジションを検出し、このように検出したギアポジションを示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。
【0044】
アクセル開度センサ24は、自動二輪車の図示を省略するアクセルグリップ等のアクセル操作部材の操作量(アクセル開度)を検出し、このように検出したアクセル開度を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。
【0045】
エンジン温度センサ25は、自動二輪車のエンジンの温度(エンジン温度)を検出し、このように検出したエンジン温度を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。なお、かかるエンジン温度センサ25としては、エンジンの潤滑オイルの温度を検出する温度センサや、エンジンのクーラントの温度を検出する温度センサが使用可能である。
【0046】
大気温度センサ26は、自動二輪車のエンジンの周囲の大気温度を検出し、このように検出した大気温度を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。
【0047】
大気圧センサ27は、自動二輪車のエンジンの周囲の大気圧力を検出し、このように検出した大気圧力を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。なお、大気圧センサ27の他に自動二輪車のエンジンの吸気圧を検出する吸気圧センサが設けられていてもよい。
【0048】
後輪速センサ28aは、自動二輪車の駆動輪である後輪の回転速度を検出し、このように検出した後輪の回転速度を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。
【0049】
前輪速センサ28bは、自動二輪車の従動輪である前輪の回転速度を検出し、このように検出した前輪の回転速度を示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。
【0050】
IMU29は、自動二輪車の3軸等の直交座標系の角度成分等、特に自動二輪車のリーンアングルを検出する装置であり、所定の制御周期毎に駆動力制御装置1と相互にCAN(Cotroller Area Network)通信を行う。IMU29は、リーンアングルセンサ29aを備えており、リーンアングルセンサ29aによって検出された自動二輪車の3軸等の直交座標系の角度成分を示す電気信号から自動二輪車のリーンアングルを算出し、このように算出したリーンアングル示す電気信号を駆動力制御装置1に出力する。また、IMU29は、リーンアングルセンサ29aの異常を検出すると共に、このようにリーンアングルセンサ29aの異常を検出した旨の通知をする電気信号を異常検出部11cに出力する。なお、IMU29を設けずにリーンアングルセンサ29aを単独で設けてもよく、かかる場合には、リーンアングルセンサ29aによって検出された自動二輪車の3軸等の直交座標系の角度成分を示す電気信号は駆動力制御装置1に直接出力され、駆動力制御装置1はかかる電気信号から自動二輪車のリーンアングルを算出する。
【0051】
スロットルモータ30は、モータ駆動回路12からの駆動信号に従って自動二輪車のスロットルバルブを開閉駆動する。
【0052】
このような構成を有する駆動力制御装置1は、以下に示す駆動力制御処理を実行することにより、駆動力調整処理を実施しているときにリーンアングルセンサに異常が発生した場合であっても、車体姿勢の制御不能な事態の発生を抑制し、且つ、安定した車体姿勢が実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行する。以下、更に図2から図4をも参照して、本実施形態における駆動力制御装置1が実行する駆動力制御処理の流れにつき、詳細に説明する。
【0053】
〔駆動力制御処理〕
図2は、本実施形態における駆動力制御装置1が実行する駆動力制御処理の流れを示すフローチャートである。図3は、図2に示すステップS6の処理の流れを示すフローチャートである。また、図4は、本実施形態における駆動力制御装置1が実行する駆動力制御処理の流れを説明するためのタイミングチャートである。
【0054】
図2のフローチャートに示すように、本実施形態における駆動力制御処理は、自動二輪車の図示を省略するイグニッションスイッチがオン状態になり、駆動力制御装置1に対して電力が供給されてそれが稼働を開始したタイミング(図4に示す時刻t=t0)で開始となる。ここで、後輪速センサ28aによって検出された後輪の回転速度と前輪速センサ28bによって検出された前輪の回転速度とからスリップ量算出部11aによって算出される実スリップ量が所定値(開始閾値)以上になったタイミング(図4に示す時刻t=t1)で、駆動力調整処理が開始され、駆動力制御処理はステップS1の処理に進む。ここで、かかる駆動力制御処理は、所定の制御周期毎に繰り返し実行され、イグニッションスイッチがオフ状態になり、駆動力制御装置1に対して電力が供給されなくなったタイミングで終了する。
【0055】
ステップS1の処理では、異常検出部11cが、IMU29との間の通信が断絶されたか否かを判別する。IMU29との間の通信が断絶されたか否かは、例えば異常検出部11cが送信した確認信号に対するIMU29からの応答信号が確認信号の送信時刻から所定時間内に受信されたか否かによって判別できる。判別の結果、IMU29との間の通信が断絶された場合には、異常検出部11cは、IMU29に異常があると判断し、駆動力制御処理をステップS4の処理に進める。一方、IMU29との間の通信が断絶されていない場合には、異常検出部11cは、IMU29に異常がないと判断し、駆動力制御処理をステップS2の処理に進める。
【0056】
ステップS2の処理では、異常検出部11cが、IMU29からリーンアングルセンサ29aの異常を検出した旨の通知をする電気信号の入力があったか否かを判別する。判別の結果、IMU29からリーンアングルセンサ29aの異常を検出した旨の通知があった場合には、異常検出部11cは、リーンアングルセンサ29aに異常があると判断し、駆動力制御処理をステップS4の処理に進める。ここで、異常検出部11cがIMU29及び/又はリーンアングルセンサ29aに異常があると判断したタイミングは、図4に示す時刻t=t3である。また、IMU29及び/又はリーンアングルセンサ29aに異常が発生したタイミングは、図4に示す時刻t=t2である。一方、IMU29からリーンアングルセンサ29aの異常を検出した旨の通知がない場合には、異常検出部11cは、リーンアングルセンサ29aに異常がないと判断し、駆動力制御処理をステップS3の処理に進める。
【0057】
ステップS3の処理では、リーンアングル読込部11dが、リーンアングルセンサ29aを有するIMU29によって検出されて算出されたリーンアングル(実測値)を読み込む。これにより、ステップS3の処理は完了し、駆動力制御処理はステップS9の処理に進む。
【0058】
ステップS4の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、現在の自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中の状態又は駆動力調整処理に引き続く駆動力復帰処理中の状態であるか否かを判別する。判別の結果、現在の自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中の状態又は駆動力調整処理に引き続く駆動力復帰処理中の状態である場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、駆動力制御処理をステップS5の処理に進める。一方、現在の自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中の状態又は駆動力調整処理からの駆動力復帰処理中の状態でない場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、駆動力制御処理をステップS7の処理に進める。
【0059】
ステップS5の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、自動二輪車の直立状態に対応したリーンアングル(例えば0°)である第2のリーンアングル代替値がリーンアングルとしてセットされているか否かを示すフラグの値が1であるか否かを判別する。ここで、かかるフラグの値の初期値は、0(未セット)に設定され、かかるフラグの値の1は、第2のリーンアングル代替値がリーンアングルとしてセット済であることを示す。判別の結果、フラグの値が1である場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、駆動力制御処理をステップS8の処理に進める。一方、フラグの値が0である場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、駆動力制御処理をステップS6の処理に進める。
【0060】
ステップS6の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、リーンアングルセンサ29aによって検出されメモリ部14に記憶されている最新のリーンアングルよりも、より大きなリーンアングル(例えば自動二輪車の横転状態に対応した90°)を示しメモリ部13に記憶されている第1のリーンアングル代替値をリーンアングルとして読み込む。かかる第1のリーンアングル代替値の読込処理(代替値読込処理)の詳細については、図3に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、ステップS6の処理は完了し、駆動力制御処理はステップS9の処理に進む。
【0061】
ステップS7の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中の状態であるときにIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出された後に、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理に引き続く駆動力復帰処理を完了するタイミング(図4に示す時刻t=t5又は時刻t=t5')になっているので、第2のリーンアングル代替値がセットされているか否かを示すフラグの値を1(セット済)に設定する。これにより、ステップS7の処理は完了し、駆動力制御処理はステップS8の処理に進む。
【0062】
ステップS8の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、メモリ部13に記憶されている第2のリーンアングル代替値をリーンアングルとして読み込む。これにより、ステップS8の処理は完了し、駆動力制御処理はステップS9の処理に進む。
【0063】
ステップS9の処理では、スリップ量関連補正部11fが、ステップS3、ステップS6、及びステップS8の処理において対応して読み込まれたリーンアングル(リーンアングルの実測値、第1のリーンアングル代替値、及び第2のリーンアングル代替値のいずれか)に基づいて、スリップ量目標値(目標スリップ量)及び実スリップ量を対応して補正する。具体的には、スリップ量関連補正部11fは、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理開始前である場合には、リーンアングル(実測値)に基づいて、実スリップ量のみを補正し、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中であってIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出されていない場合には、リーンアングルの実測値に基づいて、スリップ量目標値(目標スリップ量)及び実スリップ量を補正し、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中であってIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出されている場合には、第1のリーンアングル代替値に基づいて、スリップ量目標値及び実スリップ量を補正し、自動二輪車の駆動力制御処理がかかる駆動力調整処理に引き続く駆動力復帰処理中では、第1のリーンアングル代替値に基づいて、実スリップ量のみを補正し、自動二輪車の駆動力制御処理がかかる駆動力復帰処理を完了した以降は、第2のリーンアングル代替値に基づいて、実スリップ量のみを補正する。特に、スリップ量関連補正部11fは、自動二輪車の駆動力制御処理が駆動力調整処理中であってIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常発生の判断が確定されたタイミング(図4に示す時刻t=t3)では、第1のリーンアングル代替値に基づいて、IMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が発生した際に検出されたリーンアングルに対応するスリップ量目標値よりも、スリップ量目標値をより低減させている。これにより、ステップS9の処理は完了し、駆動力制御処理はステップS10の処理に進む。
【0064】
ステップS10の処理では、駆動力演算処理部11gが、ステップS9の処理によってスリップ量関連補正部11fで各々が対応して補正されたスリップ量目標値及び実スリップ量との偏差に応じて自動二輪車のエンジンの目標駆動力を算出する。これにより、ステップS10の処理は完了し、駆動力制御処理はステップS11の処理に進む。
【0065】
ステップS11の処理では、駆動力演算処理部11gが、ステップS10の処理において算出された目標駆動力を出力するようにモータ駆動回路12を介してスロットルモータ30をフィードバック制御する。これにより、ステップS11の処理は完了し、今回の一連の駆動力制御処理は終了する。
【0066】
ここで、後輪速センサ28aによって検出された後輪の回転速度と前輪速センサ28bによって検出された前輪の回転速度とからスリップ量算出部11aによって算出される実スリップ量が所定値(終了閾値)以下になって、自動二輪車の駆動力制御処理の状態が駆動力調整処理を完了しそれに引き続く駆動力復帰処理を開始するタイミング(図4に示す時刻t=t4)では、駆動力演算処理部11gは、駆動力調整処理が完了した後に、リーンアングル(第1のリーンアングル代替値)に基づいて実スリップ量のみを補正しながらモータ駆動回路12を介してスロットルモータ30を制御することによって、自動二輪車の駆動力をエンジンの要求駆動力まで漸増させる。具体的には、駆動力演算処理部11gは、駆動力調整処理中にIMU29及びリーンアングルセンサ29aの異常が検出された場合に駆動力調整処理が完了しそれに引き続く駆動力復帰処理が開始される際のリーンアングルが大きい値である場合には、自動二輪車の姿勢が不安定になる傾向が高いことを考慮して、かかるリーンアングルが大きい値であるほど、自動二輪車の駆動力を漸増させる漸増度合い(増加する量や増加する周期)を小さな値に設定する。また、駆動力調整処理が実行される期間は、図4に示す時刻t=t1から時刻t=t4までの期間であり、駆動力復帰処理が実行される期間は、図4に示す時刻t=t4から時刻t=t5又は時刻t=t5’までの期間である。なお、図4に示す所定の傾斜角αを大きな値に設定するほど、駆動力復帰処理が開始される際のリーンアングルも大きい値となる傾向がある。
【0067】
〔代替値読込処理〕
図3は、図2に示すステップS6の処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
図3に示すフローチャートは、図2に示すステップS5の処理において、第2のリーンアングル代替値がリーンアングルとしてセットされているか否かを示すフラグの値が1ではない(0である)と判別されたタイミングで開始となり、代替値読込処理はステップS21の処理に進む。
【0069】
ステップS21の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、リーンアングルとして読み込んでいる第1のリーンアングル代替値が所定の傾斜角α(所定の傾斜角αは、例えば自動二輪車の直立状態に対応した90°等に、任意に設定することができる)以下であるか否かを判別する。判別の結果、第1のリーンアングル代替値が所定の傾斜角α以下である場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、代替値読込処理をステップS22の処理に進める。一方、第1のリーンアングル代替値が所定の傾斜角αより大きい場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、代替値読込処理をステップS26の処理に進める。
【0070】
ステップS22の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、リーンアングルとして読み込んでいる第1のリーンアングル代替値に所定の漸増値(漸増するための値)を加算した値をバッファ値として算出する。これにより、ステップS22の処理は完了し、代替値読込処理はステップS23の処理に進む。
【0071】
ステップS23の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、ステップS22の処理において算出されたバッファ値が所定の傾斜角α以上であるか否かを判別する。判別の結果、バッファ値が所定の傾斜角α以上である場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、代替値読込処理をステップS25の処理に進める。一方、バッファ値が所定の傾斜角α未満である場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、代替値読込処理をステップS24の処理に進める。
【0072】
ステップS24の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、ステップS22の処理において算出されたバッファ値を第1のリーンアングル代替値に設定し、このように設定した第1のリーンアングル代替値をメモリ部14に記憶する。これにより、ステップS24の処理は完了し、今回の一連の代替値読込処理は終了する。
【0073】
ステップS25の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、所定の傾斜角αを第1のリーンアングル代替値に設定し、このように設定した第1のリーンアングル代替値をメモリ部14に記憶する。これにより、ステップS25の処理は完了し、今回の一連の代替値読込処理は終了する。
【0074】
ステップS26の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、リーンアングルとして読み込んでいる第1のリーンアングル代替値に漸減値を減算した値をバッファ値として算出する。これにより、ステップS26の処理は完了し、代替値読込処理はステップS27の処理に進む。
【0075】
ステップS27の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、ステップS26の処理において算出されたバッファ値が所定の傾斜角α以下であるか否かを判別する。判別の結果、バッファ値が所定の傾斜角α以下である場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、代替値読込処理をステップS25の処理に進める。一方、バッファ値が所定の傾斜角αより大きい場合には、リーンアングル代替値読込部11eは、代替値読込処理をステップS28の処理に進める。
【0076】
ステップS28の処理では、リーンアングル代替値読込部11eが、ステップS26の処理において算出されたバッファ値を第1のリーンアングル代替値に設定し、設定した第1のリーンアングル代替値をメモリ部14に記憶する。これにより、ステップS28の処理は完了し、今回の一連の代替値読込処理は終了する。
【0077】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における駆動力制御装置1では、CPU11が、リーンアングルが大きいほどスリップ量目標値をより低減した値に設定すると共に、駆動力調整処理中にリーンアングルセンサ29aの異常を検知した場合には、スリップ量目標値を、リーンアングルセンサ29aの異常を検知した際に読み込んだリーンアングルに対応する値よりもより低減した低減目標値に補正すると共に、低減目標値を用いて駆動力調整処理を実行するので、駆動力調整処理を実行しているときにリーンアングルセンサ29aに異常が発生した場合であっても、車体姿勢の制御不能な事態の発生を抑制し、且つ、安定した車体姿勢を実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行することができる。
【0078】
また、本実施形態における駆動力制御装置1では、CPU11が、リーンアングルセンサ29aの異常を検知した場合にリーンアングルの最新値として記憶していた記憶リーンアングルよりも大きなリーンアングルを示す第1のリーンアングル代替値を読み込んで用い、スリップ量目標値を低減目標値に補正するものであるため、簡便な構成で、車体姿勢の制御不能な事態の発生を確実に抑制し、且つ、安定した車体姿勢を確実に実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行することができる。
【0079】
また、本実施形態における駆動力制御装置1では、CPU11が、第1のリーンアングル代替値を漸増させながらスリップ量目標値を低減目標値に補正するものであるため、第1のリーンアングル代替値の初期設定値と第1のリーンアングル代替値の最終設定値との差が大きな値になる場合でも、第1のリーンアングル代替値の変化度合いを抑制することができ、安定した車体姿勢をより確実に実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行することができる。
【0080】
また、本実施形態における駆動力制御装置1では、CPU11が、駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理において、駆動力を漸増すると共に、駆動力を漸増する漸増度合いを、駆動力復帰処理の開始時に読み込んでいるリーンアングルが大きい値であるほど小さな値に設定するものであるため、駆動力調整処理が完了しそれに引き続く駆動力復帰処理が開始される際のリーンアングルが大きい値である場合でも、安定した車体姿勢をより確実に実現することができるように駆動力復帰処理を継続して実行することができる。
【0081】
また、本実施形態における駆動力制御装置1では、CPU11が、駆動力調整処理を終了した後に引き続いて実行する駆動力復帰処理を終了した後に、自動二輪車のリーンアングルの第2のリーンアングル代替値として、自動二輪車の直立状態に対応したリーンアングルを設定するものであるため、リーンアングルセンサの異常に影響されない態様で、駆動力復帰処理が完了した後の駆動力制御処理を実行することができる。
【0082】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明は、駆動力調整処理を実行しているときにリーンアングルセンサに異常が発生した場合であっても、車体姿勢の制御不能な事態の発生を抑制し、且つ、安定した車体姿勢を実現することができるように駆動力調整処理を継続して実行可能とする駆動力制御装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から自動二輪車等の車両の駆動力制御装置に広く適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0084】
1…駆動力制御装置
11…CPU
11a…スリップ量算出部
11b…スリップ量目標値算出部
11c…異常検出部
11d…リーンアングル読込部
11e…リーンアングル代替値読込部
11f…スリップ量関連補正部
11g…駆動力演算処理部
12…モータ駆動回路
13…メモリ部
14…メモリ部
21…スロットルポジションセンサ
22…クランク角センサ
23…ギアポジションセンサ
24…アクセル開度センサ
25…エンジン温度センサ
26…大気温度センサ
27…大気圧センサ
28a…後輪速センサ
28b…前輪速センサ
29…IMU
29a…リーンアングルセンサ
30…スロットルモータ
図1
図2
図3
図4