特許第6420282号(P6420282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6420282フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420282
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20181029BHJP
【FI】
   C03C3/091
【請求項の数】15
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-133446(P2016-133446)
(22)【出願日】2016年7月5日
(62)【分割の表示】特願2012-244841(P2012-244841)の分割
【原出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2016-199467(P2016-199467A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2016年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-147767(P2011-147767)
(32)【優先日】2011年7月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-59232(P2012-59232)
(32)【優先日】2012年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小山 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】阿美 諭
(72)【発明者】
【氏名】市川 学
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−126728(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139861(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/104157(WO,A1)
【文献】 特開2010−275167(JP,A)
【文献】 特開2009−203080(JP,A)
【文献】 特開2006−265001(JP,A)
【文献】 特開2007−039324(JP,A)
【文献】 特開2009−167089(JP,A)
【文献】 特開2004−189535(JP,A)
【文献】 特開2002−201040(JP,A)
【文献】 牧島亮男 他,“ガラス材料設計支援システム:VitrES”,FUJITSU,日本,富士通株式会社,1993年11月10日,第44巻第6号,第560−565頁,ISSN:0016-2515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/076 − 3/093
C03B 25/00 − 25/12
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 5質量%以上、10質量%未満
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 9.2〜11質量%、
MgO 0〜2質量%未満、
CaO 8.6〜10.5質量%、
SrO 0〜3質量%、
R2O(但し、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0.01〜0.8質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
を含有し、かつAs2O3は実質的に含有せず、かつSb2O3を実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は8.5〜12の範囲であり、質量比(SiO2+Al2O3)/ROは7.5〜9.0であり、かつ質量比CaO/ROは0.9〜1であり、
エッチングレートが50〜160μm/hr
であるガラス(但し、下記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)の場合を除く、(i)Y2O3及びLa2O3を0.1〜4.0モル%含む場合、(ii)NH4+またはClを含む場合、(iii)硫黄をSO3換算で1ppm以上、0.02質量%未満含有する場合、(iv)実質的にアルカリ金属を含まない場合、(v)Cl及びFを0.05質量%以上含む場合)からなる、
ディスプレイ用ガラス基板。
【請求項2】
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 5質量%以上、10質量%未満
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 9.2〜10.5質量%、
MgO 0〜2質量%未満、
CaO 8.6〜10.5質量%、
SrO 0〜3質量%、
R2O(但し、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0.01〜0.8質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
を含有し、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は8.9〜12の範囲であり、質量比(SiO2+Al2O3)/ROは7.5〜9.0であり、かつ質量比CaO/ROは0.9〜1であり、
エッチングレートが50〜160μm/hr
であるガラス(但し、下記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の場合を除く、(i)Y2O3及びLa2O3を0.1〜4.0モル%含む場合、(ii)NH4+またはClを含む場合、(iii)硫黄をSO3換算で1ppm以上、0.02質量%未満含有する場合、(iv)実質的にアルカリ金属を含まない場合、(v)Cl及びFを0.05質量%以上含む場合)からなる、
ディスプレイ用ガラス基板。
【請求項3】
SiO2含有量が58〜72質量%であり、Al2O3含有量が10〜23質量%であり、B2O3含有量が5質量%以上、10質量%未満である、請求項1〜2のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項4】
SiO2及びAl2O3の合計含有量が75質量%以上であり、
RO、ZnO及びB2O3の合計含有量が7〜20質量%未満であり、かつ
B2O3の含有量が5質量%以上、10質量%未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項5】
前記ガラスは歪点が688℃以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項6】
前記ガラスはβ-OH値が0.05〜0.4mm-1である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項7】
前記ガラスはZrO2の含有量が0.2質量%未満である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項8】
前記ガラスはSrO及びBaOの合計含有量が0〜2質量%未満である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項9】
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 9.2〜10.5質量%、
MgO 0〜2質量%未満、
CaO 8.6〜10.5質量%、
SrO 0〜3質量%、
R2O(但し、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0.01〜0.8質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%を含有し、
Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有せず、かつ質量比CaO/ROは0.9〜1であり、
エッチングレートが50〜160μm/hrである
ガラス(但し、下記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の場合を除く、(i)Y2O3及びLa2O3を0.1〜4.0モル%含む場合、(ii)NH4+またはClを含む場合、(iii)硫黄をSO3換算で1ppm以上、0.02質量%未満含有する場合、(iv)実質的にアルカリ金属を含まない場合、(v)Cl及びFを0.05質量%以上含む場合)からなり、
昇降温速度が10℃/min、550℃で2時間保持の熱処理が施された後の下記式で示される熱収縮率が75ppm以下である、
ディスプレイ用ガラス基板。
(式)
熱収縮率(ppm)={熱処理前後でのガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×106
【請求項10】
熱収縮率が60ppm以下である請求項9に記載のガラス基板。
【請求項11】
前記熱収縮率は、ガラス基板をTgで30分保持した後、Tg-100℃まで100℃/minで冷却し、室温まで放冷する徐冷操作を行った後に前記熱処理を施して得た値である、請求項9又は10に記載のガラス基板。
【請求項12】
SiO2 57〜75質量%、
Al2O3 8〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 9.2〜10.5質量%、
MgO 0〜2質量%未満、
CaO 8.6〜10.5質量%、
SrO 0〜3質量%、
SrO及びBaOの合量 0〜3質量%、
R2O(但し、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0.01〜0.8質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%
Sb2O3 0〜0.3質量%、
を含有し、
As2O3は実質的に含有せず、かつ質量比CaO/ROは0.9〜1であり、
エッチングレートが50〜160μm/hrである
ガラス(但し、下記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の場合を除く、(i)Y2O3及びLa2O3を0.1〜4.0モル%含む場合、(ii)NH4+またはClを含む場合、(iii)硫黄をSO3換算で1ppm以上、0.02質量%未満含有する場合、(iv)実質的にアルカリ金属を含まない場合、(v)Cl及びFを0.05質量%以上含む場合)からなる、
ディスプレイ用ガラス基板。
【請求項13】
SiO2 57〜75質量%、
Al2O3 8〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 9.2〜10.5質量%、
MgO 0〜2質量%未満、
CaO 8.6〜10.5質量%、
SrO 0〜3質量%、
SrO及びBaOの合量 0〜3質量%、
R2O(但し、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0.01〜0.8質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%
を含有し、
Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有せず、かつ質量比CaO/ROは0.9〜1であり、
エッチングレートが50〜160μm/hrである
ガラス(但し、下記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の場合を除く、(i)Y2O3及びLa2O3を0.1〜4.0モル%含む場合、(ii)NH4+またはClを含む場合、(iii)硫黄をSO3換算で1ppm以上、0.02質量%未満含有する場合、(iv)実質的にアルカリ金属を含まない場合、(v)Cl及びFを0.05質量%以上含む場合)からなる、
p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項14】
TFT液晶ディスプレイ用である請求項1〜13のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項15】
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 5質量%以上、10質量%未満
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 9.2〜10.5質量%、
MgO 0〜2質量%未満、
CaO 8.6〜10.5質量%、
SrO 0〜3質量%、
R2O(但し、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0.01〜0.8質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
Sb2O3 0〜0.3質量%、
を含有し、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は8.5〜12の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは7.5〜9.0であり、かつ質量比CaO/ROは0.9〜1であり、
エッチングレートが50〜160μm/hrである
ガラス(但し、下記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の場合を除く、(i)Y2O3及びLa2O3を0.1〜4.0モル%含む場合、(ii)NH4+またはClを含む場合、(iii)硫黄をSO3換算で1ppm以上、0.02質量%未満含有する場合、(iv)実質的にアルカリ金属を含まない場合、(v)Cl及びFを0.05質量%以上含む場合)からなる、ディスプレイ用ガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板に関し、特にポリシリコン薄膜(以下、p−Siと記載する)フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及びその製造方法に関する。さらに詳細には、基板表面にp−Si形成して製造されるフラットディスプレイに用いられるガラス基板及びその製造方法に関する。さらに詳細には、ポリシリコン薄膜トランジスタ(以下、p−Si・TFTと記載する)フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及びその製造方法に関する。さらに詳細には、基板表面にp−Si・TFT形成して製造されるフラットディスプレイに用いられるガラス基板及びその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイが液晶ディスプレイであるp−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板、及びその製造方法に関する。あるいは、本発明は、有機ELディスプレイ用ガラス基板及びその製造方法に関する。あるいは、本発明は、酸化物半導体薄膜トランジスタフラットパネルディスプレイ用ガラス基板に関する。さらに詳細には、基板表面に酸化物半導体薄膜トランジスタを形成して製造されるフラットディスプレイに用いられるガラス基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器などの小型機器に搭載されたディスプレイは、消費電力を低減できるなどの理由から、薄膜トランジスター(TFT)の製造にp−Si(ポリシリコン)が適用されている。現在、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイの製造には、400〜600℃という比較的高温での熱処理が必要とされる。p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ製造用のガラス基板としては、耐熱性の高いガラスが用いられている。しかし、従来のa−Si(アモルファスシリコン)・TFTフラットパネルディスプレイに用いられているガラス基板は歪点が十分に高くなく、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイの製造時の熱処理により大きな熱収縮が発生し、画素のピッチズレの問題を引き起こすことが知られている。
【0003】
小型機器のディスプレイには、近年ますます高精細化が求められている。そのため、画素のピッチズレを極力抑制することが望まれており、画素のピッチズレの原因であるディスプレイ製造時のガラス基板の熱収縮の抑制が課題となっている。
【0004】
ガラス基板の熱収縮は、一般に、ガラス基板の歪点やTg(ガラス転移点)に代表される低温粘性域での特性温度(以下、低温粘性特性温度と記す)を高くすることで抑制することができる。歪点の高いガラスとしては、例えば、特許文献1に歪点が680℃以上の無アルカリガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-6649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス基板の歪点やTg(ガラス転移点)に代表される低温粘性特性温度を高めるするためには、一般的に、ガラス中のSiO2やAl2O3の含有量を多くする必要がある(以下、本明細書では、「低温粘性特性温度」として、「歪点」を代表して記載する。)。特許文献1に記載のガラスは、SiO2を58〜75質量%、Al2O3を15〜19質量%含有する(請求項1参照)。その結果、熔融ガラスの比抵抗が上昇する傾向がある。近年、効率的にガラスを熔解させるために直接通電加熱が用いられていることが多い。直接通電加熱の場合、熔融ガラスの比抵抗が上昇すると、熔融ガラスではなく、熔解槽を構成する耐火物に電流が流れてしまう場合がある。その結果、熔解槽が熔損してしまうという問題が生じることがあることが、本発明者らの検討の結果明らかになった。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明においては、熔融ガラスの比抵抗について考慮されていない。そのため、特許文献1に記載のガラスを直接通電加熱による熔融を経て製造しようとする場合、上記熔解槽熔損の問題が発生することが強く懸念される。
【0008】
さらに、ガラスの低温粘性特性温度をより高くすること、即ち、より高い歪点やTgを有するガラス及びガラス基板の提供が望まれており、上記熔解槽熔損の問題の発生に対する懸念は、ますます強まる傾向がある。
【0009】
そこで、本発明は、歪点が高く、ディスプレイ製造時のガラス基板の熱収縮の抑制が可能で、かつ直接通電加熱による熔解において熔解槽熔損の問題の発生を回避しつつ製造が可能であるガラスからなる、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、特にp−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の通りである。
[1]
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
Sb2O3 0〜0.3質量%、
を含有し、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は7〜30の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは6以上
であるガラスからなる、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第1の態様のガラス基板である。以下、本発明のガラス基板と記載する場合、本発明の第1の態様のガラス基板を意味する)。
[2]
前記ガラスは、Sb2O3を実質的に含有しない[1]に記載のガラス基板。
[3]
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜13質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
を含有し、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は8.9〜20の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは7.5以上
であるガラスからなる、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第1の態様のガラス基板の一例である。)。
[4]
SiO2含有量が58〜72質量%であり、Al2O3含有量が10〜23質量%であり、B2O3含有量が3〜11質量%未満である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のガラス基板。
[5]
前記ガラスは、SiO2及びAl2O3の合計含有量が75質量%以上であり、
RO、ZnO及びB2O3の合計含有量が7〜20質量%未満であり、かつ
B2O3の含有量が3〜11質量%未満である[1]〜[4]のいずれか1項に記載のガラス基板。
[6]
前記ガラスは歪点が688℃以上である[1]〜[5]のいずれか1項に記載のガラス基板。
[7]
前記ガラスはR2O(但し、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oの合量)の含有量が0.01〜0.8質量%である[1]〜[6]のいずれか1項に記載のガラス基板。
[8]
前記ガラスはβ-OH値が0.05〜0.4mm-1である[1]〜[7]のいずれか1項に記載のガラス基板。
[9]
前記ガラスはZrO2の含有量が0.2質量%未満である[1]〜[8]のいずれか1項に記載のガラス基板。
[10]
前記ガラスはSrO及びBaOの合計含有量が0〜2質量%未満である[1]〜[9]のいずれか1項に記載のガラス基板。
[11]
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜13質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%を含有し、
Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスからなり、
昇降温速度が10℃/min、550℃で2時間保持の熱処理が施された後の下記式で示される熱収縮率が75ppm以下である、
p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第2の態様のガラス基板)。
(式)
熱収縮率(ppm)={熱処理前後でのガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×106
[12]
熱収縮率が60ppm以下である[11]に記載のガラス基板。
[13]
前記熱収縮率は、ガラス基板をTgで30分保持した後、Tg-100℃まで100℃/minで冷却し、室温まで放冷する徐冷操作を行った後に前記熱処理を施して得た値である、[11]又は[12]に記載のガラス基板。
[14]
SiO2 57〜75質量%、
Al2O3 8〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、
MgO 0〜15質量%、
CaO 0〜20質量%、
SrO及びBaOの合量 0〜3質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%
Sb2O3 0〜0.3質量%、
を含有し、
かつAs2O3は実質的に含有しないガラスからなる、
p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第3の態様のガラス基板)
[15]
SiO2 57〜75質量%、
Al2O3 8〜25質量%、
B2O3 3〜10質量%未満、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、
MgO 0〜15質量%、
CaO 0〜20質量%、
SrO及びBaOの合量 0〜3質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%
を含有し、
Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスからなる、
p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第3の態様の一例のガラス基板)。
[16]
TFT液晶ディスプレイ用である[1]〜[15]のいずれかに記載のガラス基板。
[17]
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
Sb2O3 0〜0.3質量%、
を含有し、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は7〜30の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは6以上であるガラスからなる、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラス熔解炉の熔損を抑制または回避しつつ、高歪点ガラスを製造することが可能となり、その結果、ディスプレイ製造時のガラス基板の熱収縮の抑制が可能である、高い歪点を有するガラスからなるフラットパネルディスプレイ、特にp−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を高い生産性で提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願明細書において、ガラス基板を構成するガラスの組成は特に断らない限り、質量%で表示し、ガラスを構成する成分の比は質量比で表示する。また、ガラス基板の組成及び物性は、特に断らない限りガラス基板を構成するガラスの組成及び物性を意味し、単にガラスと表記するときは、ガラス基板を構成するガラスを意味する。但し、ガラス基板の熱収縮率は、実施例に記載の所定の条件で形成したガラス基板について、実施例に記載の条件で測定した値を意味する。また、本願明細書において、低温粘性特性温度とは、ガラスが107.6〜1014.5dPa・sの範囲の粘度を示す温度を意味し、低温粘性特性温度には、歪点およびTgが含まれる。従って、低温粘性特性温度を高めるということは、歪点およびTgを高めることも意味し、逆に、歪点及び/又はTgを高めるということは低温粘性特性温度を高めることを意味する。また、溶解性の指標となる熔融温度とは、ガラスが102.5dPa・sの粘度を示す温度であり、熔解性の指標となる温度である。
【0013】
<p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板>
本発明のp−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第1の態様のガラス基板)は、
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
Sb2O3 0〜0.3質量%、
を含有し、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は7〜30の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは6以上
であるガラスからなる基板である。また、本発明の第1の態様のガラス基板の一例としては、SiO2 52〜78質量%、Al2O3 3〜25質量%、B2O3 3〜15質量%、RO 3〜13質量%、Fe2O3 0.01〜1質量%を含有し、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスであって、質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は8.9〜20の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは7.5以上であるガラスからなるガラス基板を挙げることができる。以下に、本発明の第1の態様のガラス基板における各ガラス成分を含有する理由及び含有量や組成比の範囲について説明する。
【0014】
本発明の第1の態様のガラス基板におけるSiO2の含有量は52〜78質量%の範囲である。
SiO2は、ガラスの骨格成分であり、従って、必須成分である。含有量が少なくなると、耐酸性、耐BHF(バッファードフッ酸)および歪点が低下する傾向がある。また、SiO2含有量が少なくなると、熱膨張係数が増加する傾向がある。また、SiO2含有量が少なすぎると、ガラス基板を低密度化するのが難しくなる。一方、SiO2含有量が多すぎると、ガラス融液の比抵抗が上昇し、熔融温度が著しく高くなり熔解が困難になる傾向がある。SiO2含有量が多すぎると、耐失透性が低下する傾向もある。このような観点から、SiO2の含有量は、52〜78質量%の範囲とする。SiO2の含有量は、好ましくは57〜75 質量%、より好ましくは58〜72質量%、さらに好ましくは59〜70質量%、一層好ましくは59〜69質量%、より一層好ましくは61〜69質量%、さらに一層好ましくは61〜68質量%、尚一層好ましくは62〜67質量%の範囲である。他方、SiO2含有量が多すぎると、ガラスのエッチングレートが遅くなる傾向がある。ガラス板をスリミングする場合の速度を示すエッチングレートが十分に速いガラス基板を得るという観点からは、SiO2の含有量は、好ましくは53〜75 質量%、より好ましくは55〜70質量%、さらに好ましくは55〜65質量%、一層好ましくは58〜63質量%の範囲である。尚、SiO2含有量は、上記耐酸性等の特性とエッチングレートの両方を考慮して適宜決定される。
【0015】
本発明の第1の態様のガラス基板におけるAl2O3の含有量は 3〜25質量%の範囲である。
Al2O3は、分相を抑制し、歪点を高くする必須成分である。含有量が少なすぎると、ガラスが分相しやすくなる。また、歪点が低下する。さらに、ヤング率及びエッチングレートも低下する傾向がある。
Al2O3含有量が多すぎると、比抵抗が上昇する。また、ガラスの失透温度が上昇して、耐失透性が低下するので、成形性が悪化する傾向がある。このような観点から、Al2O3の含有量は 3〜25質量%の範囲である。Al2O3の含有量は、好ましくは8〜25質量%、より好ましくは10〜23質量%、さらに好ましくは12〜21質量%、一層好ましくは12〜20質量%または14〜21質量%、より一層好ましくは14〜20質量%、尚一層好ましくは15〜19質量%の範囲である。他方、エッチングレートが十分に速いガラス基板を得るという観点からは、Al2O3の含有量は、好ましくは8〜25質量%、より好ましくは10〜23質量%、さらに好ましくは14〜23質量%、一層好ましくは17〜22質量%である。尚、Al2O3の含有量は、上記ガラスが分相特性等とエッチングレートの両方を考慮して適宜決定される。
【0016】
本発明の第1の態様のガラス基板におけるB2O3は、3〜15質量%の範囲である。
B2O3は、ガラスの熔融温度に代表される高温粘性域における温度を低下させ、清澄性を改善する必須成分である。B2O3含有量が少なすぎると、熔解性、耐失透性及び耐BHFが低下する傾向にある。また、B2O3含有量が少なすぎると、比重が増加して低密度化が図りがたくなる。他方、B2O3含有量が多すぎると、比抵抗が上昇する。また、B2O3含有量が多すぎると、歪点が低下し、耐熱性が低下する。また、耐酸性及びヤング率が低下する傾向にある。また、ガラス熔解時のB2O3の揮発により、ガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなる。このような観点から、B2O3含有量は、3〜15質量%の範囲であり、好ましくは3〜12質量%、好ましくは3〜11質量%未満、より好ましくは3〜10質量%未満、さらに好ましくは4〜9質量%、一層好ましくは5〜9質量%、尚一層好ましくは7〜9質量%の範囲である。他方、失透温度を十分に低下させるためには、B2O3含有量は、3〜15質量%の範囲であり、好ましくは5〜15質量%、よりましくは6〜13質量%、さらにましくは7〜11質量%未満である。尚、B2O3含有量は、上記熔解性等と失透温度の両方を考慮して適宜決定される。
【0017】
本発明の第1の態様のガラス基板におけるMgO、CaO、SrO及びBaOの合量であるROは、3〜25質量%、好ましくは3〜14質量%の範囲、より好ましくは3〜13質量%の範囲である。
ROは、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる必須成分である。RO含有量が少なすぎると、比抵抗が上昇し、熔解性が悪化する。RO含有量が多すぎると、歪点及びヤング率が低下する。さらに、密度が上昇する。また、RO含有量が多すぎると、熱膨張係数が増大する傾向もある。このような観点から、ROは、3〜25質量%の範囲であり、好ましくは3〜14質量%の範囲、より好ましくは3〜13質量%の範囲であり、さらに好ましくは6〜13質量%、一層好ましくは6〜12質量%、より一層好ましくは7〜12質量%、さらに一層好ましくは8〜11質量%の範囲である。
【0018】
本発明の第1の態様のガラス基板におけるFe2O3の含有量は0.01〜1質量%の範囲である。
Fe2O3は、清澄剤としての働きを有する以外に、ガラス融液の比抵抗を低下させる必須成分である。熔融温度(高温粘性域における温度)が高く、難熔なガラスにおいては、上記所定量のFe2O3を含有させることで、ガラス融液の比抵抗を低下させることができ、直接通電加熱による熔解において熔解槽熔損の問題の発生を回避しつつガラスの熔解が可能になる。しかし、Fe2O3含有量が多くなりすぎると、ガラスが着色し、透過率が低下する。そこで、Fe2O3含有量は、0.01〜1質量%の範囲であり、好ましくは0.01〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.4質量%、さらに好ましくは0.01〜0.3質量%、一層好ましくは0.01〜0.2質量%、より一層好ましくは0.01〜0.1質量%、さらに一層好ましくは0.02〜0.07質量%の範囲である。
【0019】
本発明の第1の態様のガラス基板は、環境負荷を低減するという観点から、Sb2O3は0〜0.3質量%であることが好ましく、0〜0.1質量%であることがさらに好ましい。また、本発明の第1の態様のガラス基板は、環境負荷をより低減するという観点から、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3も実質的に含有しないことがさらに好ましい。本明細書において、「実質的に含有せず」とは、ガラス原料にこれら成分の原料となる物質を用いないことを意味し、他の成分のガラス原料に不純物として含まれる成分の混入を排除するものではない。
【0020】
本発明の第1の態様のガラス基板におけるB2O3に対するSiO2とAl2O3の合量である(SiO2+Al2O3)の質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は歪点と耐失透性の指標となる。 (SiO2+Al2O3)/B2O3は好ましくは7〜30であり、より好ましくは7.5〜25であり、さらに好ましくは8〜25であり、一層好ましくは8〜23の範囲、さらに一層好ましくは8.9〜20の範囲である。(SiO2+Al2O3)/B2O3が小さいほど歪点は低くなり、7未満では歪点は不十分であり、好ましくは7.5以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは8.9以上になると歪点を十分に高くすることができる。一方、(SiO2+Al2O3)/B2O3が大きいほど耐失透性が徐々に低下し、30を超えると極端に低下し、25以下、好ましくは23以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下であれば十分な耐失透性が得られる。そのため、(SiO2+Al2O3)/B2O3は、好ましくは8〜18の範囲であり、より好ましくは9.5〜16の範囲であり、さらに好ましくは9.8〜14であり、一層好ましくは10〜12の範囲である。他方、失透温度を十分に低下させることに加えて、エッチングレートが十分に速いガラス基板を得ることも考慮すると、(SiO2+Al2O3)/B2O3は好ましくは7〜30であり、より好ましくは8〜25であり、さらに好ましくは8.2〜20であり、一層好ましくは8.4〜15であり、尚一層好ましくは8.5〜12である。
【0021】
本発明の第1の態様のガラス基板におけるROに対するSiO2とAl2O3の合量である(SiO2+Al2O3)の質量比(SiO2+Al2O3)/ROは歪点と比抵抗の指標となる。(SiO2+Al2O3)/ROは好ましくは6以上であり、より好ましくは7以上であり、さらに好ましくは7.5以上である。これらの範囲にあることで、歪点の上昇と比抵抗の低減(熔解性の向上)を両立することができる。 (SiO2+Al2O3)/ROが小さいほど歪点は低くなり、6未満では歪点は不十分であり、7以上、好ましくは7.5以上になると歪点を十分に高くすることができる。(SiO2+Al2O3)/ROは、好ましくは7.5〜15の範囲であり、より好ましくは8.0〜12、さらに好ましくは8.1〜10の範囲である。なお、(SiO2+Al2O3)/ROを15以下にすることで、比抵抗が上昇しすぎることを抑制できる。他方、歪点の上昇と比抵抗の低減を両立させることに加えて、エッチングレートが十分に速いガラス基板を得ることも考慮すると、(SiO2+Al2O3)/ROは、好ましくは6〜15であり、より好ましくは7〜15であり、さらに好ましくは7.5〜9.5の範囲である。
【0022】
本発明のガラス基板(本発明の第1の態様のガラス基板)は、上記に加えて、以下のガラス組成および/または物性を有することが好ましい。
【0023】
本発明の第1の態様のガラス基板において、SiO2とAl2O3の合量であるSiO2+Al2O3は少なすぎると、歪点が低下する傾向があり、多すぎると、比抵抗が上昇し、耐失透性が悪化する傾向がある。そのためSiO2+Al2O3は、75質量%以上であることが好ましく、より好ましくは75質量%〜87質量%であり、さらに好ましくは75質量%〜85質量%であり、一層好ましくは78質量%〜84質量%であり、より一層好ましくは78質量%〜83質量%である。歪点をさらに高くするという観点からは、より好ましくは78質量%以上、さらに好ましくは79〜87質量%、一層好ましくは80〜85質量%である。
【0024】
本発明の第1の態様のガラス基板において、MgOは比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分である。また、アルカリ土類金属の中では比重を増加させにくい成分であるので、その含有量を相対的に増加させると、低密度化を図りやすくなる。必須ではないが、含有させることで、熔解性を向上し、かつ切粉の発生を抑制できる。但し、MgOの含有量が多すぎると、ガラスの失透温度が急激に上昇するため、成形性が悪化(耐失透性が低下)する。また、MgOの含有量が多すぎると、耐BHF低下、耐酸性低下の傾向がある。特に、失透温度を低下させたい場合には、MgOは実質的に含有させないことが好ましい。このような観点から、MgO含有量は、好ましくは0〜15質量%、より好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは0〜5質量%、一層好ましくは0〜4質量%、より一層好ましくは0〜3質量%、さらに一層好ましくは0〜2未満、尚一層好ましくは0〜1質量%であり、最も好ましくは実質的に含有しないことである。
【0025】
本発明の第1の態様のガラス基板において、CaOは、比抵抗を低下させる成分であり、ガラスの失透温度を急激に上げることなくガラスの熔解性を向上させるのにも有効な成分である。また、アルカリ土類金属の中では比重を増加させにくい成分であるので、その含有量を相対的に増加させると、低密度化を図りやすくなる。必須ではないが、含有させることで、ガラス融液の比抵抗低下および熔融温度(高温粘性)低下による熔解性向上及び失透性改善ができるので、CaOは含有させることが好ましい。
CaO含有量が多すぎると、歪点が低下する傾向にある。また、熱膨張係数が増加する傾向があり、さらに密度が上昇する傾向がある。CaO含有量は、好ましくは0〜20質量%、より好ましくは0〜15質量%、さらに好ましくは1〜15質量%、一層好ましくは2〜15質量%、より一層好ましくは3.6〜15質量%、さらに一層好ましくは4〜14質量%、尚一層好ましくは5〜12質量%、さらに一層好ましくは5〜10質量%、さらに一層好ましくは6超〜10質量%、最も好ましくは6超〜9質量%の範囲である。
【0026】
本発明の第1の態様のガラス基板において、SrOは、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分である。SrOは、必須ではないが、含有させると、耐失透性及び熔解性が向上する。SrO含有量が多すぎると、密度が上昇してしまう。SrO含有量は、0〜15質量%であり、より好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは0〜9質量%、一層好ましくは0〜8質量%、より一層好ましくは0〜3質量%、さらに一層好ましくは0〜2質量%、尚一層好ましくは0〜1質量%、さらに尚一層好ましくは0〜0.5質量%の範囲である。ガラスの密度を低下させたい場合には、SrOは実質的に含有させないことが好ましい。
【0027】
本発明の第1の態様のガラス基板において、BaOは、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分である。BaOは、必須ではないが、含有させると、耐失透性及び熔解性が向上する。また、熱膨張係数及び密度も増大してしまう。BaO含有量は、好ましくは0〜3質量%、より好ましくは0〜1.5 質量%未満、さらに好ましくは0〜1質量%、一層好ましくは0〜0.5質量%未満、尚一層好ましくは0〜0.1質量%未満である。BaOは、環境負荷の問題から、実質的に含有させないことが好ましい。
【0028】
本発明の第1の態様のガラス基板において、SrOとBaOは、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分である。必須ではないが、含有させると、耐失透性及び熔解性は向上する。しかし、含有量が多すぎると、密度が上昇してしまう。SrOとBaOの合量であるSrO+BaOは、密度を低減し、軽量化するという観点から、0〜15質量%であり、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜9質量%、さらに好ましくは0〜8質量%、一層好ましくは0〜3質量%、より一層好ましくは0〜2質量%、さらに一層好ましくは0〜1質量%、尚一層好ましくは0〜0.5質量%、さらに尚一層好ましくは0〜0.1質量%未満の範囲である。ガラス基板の密度を低下させたい場合には、SrOとBaOは、実質的に含有させないことが好ましい。
【0029】
本発明の第1の態様のガラス基板において、Li2O、Na2O及びK2Oの合量であるR2Oは、ガラスの塩基性度を高め、清澄剤の酸化を容易にして、清澄性を発揮させる成分である。また、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分である。R2Oは、必須ではないが、含有させると、比抵抗が低下し、熔解性が向上する。さらに、ガラスの塩基性度が高くなり、清澄性が向上する。
しかし、R2O含有量が多すぎると、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させるおそれがある。また、熱膨張係数が増大する傾向がある。
R2Oの合量であるLi2O+Na2O+K2Oは、好ましくは0〜0.8質量%、より好ましくは0〜0.5質量%、より好ましくは0〜0.4質量%、さらに好ましくは0〜0.3質量%、一層好ましくは0.01〜0.8質量%、一層好ましくは0.01〜0.3質量%、より一層好ましくは0.1〜0.3質量%の範囲である。
また、ガラスの比抵抗を確実に低下させたい場合、R2Oは、好ましくは0.1〜0.8質量%、より好ましくは0.1〜0.6質量%、より好ましくは0.2超〜0.6質量%、さらに好ましくは0.2超〜0.5質量%の範囲である。
【0030】
本発明の第1の態様のガラス基板において、Li2O及びNa2Oは、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分であるが、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させたり、ガラスの熱膨張係数を大きくして熱処理時に基板を破損したりするおそれのある成分である。Li2O及びNa2Oの合量は、好ましくは0〜0.2質量%、より好ましくは0〜0.1質量%、さらに好ましくは0〜0.05質量%、一層好ましくは実質的に含有しない。
【0031】
本発明の第1の態様のガラス基板において、K2Oは、ガラスの塩基性度を高め、清澄剤の酸化を容易にして、清澄性を発揮させる成分である。また、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分である。必須ではないが、含有させると、比抵抗は低下し、熔解性は向上する。さらに、清澄性も向上する。
K2O含有量が多すぎると、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させる傾向がある。また、熱膨張係数も増大する傾向がある。K2O含有量は、好ましくは0〜0.8質量%、より好ましくは0〜0.5質量%、さらに好ましくは0〜0.3質量%、一層好ましくは0.1〜0.3質量%の範囲である。
【0032】
本発明の第1の態様のガラス基板において、K2Oは、Li2OやNa2Oと比較して、分子量が大きいため、ガラス基板から溶出しにくい。そのため、R2Oを含有させる場合には、K2Oを含有させることが好ましい。つまり、K2Oは、Li2Oよりも高い比率で含有される(K2O>Li2Oを満たす)ことが好ましい。K2Oは、Na2Oよりも高い比率で含有される(K2O>Na2Oを満たす)ことが好ましい。
Li2O及びNa2Oの割合が大きいと、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させる傾向が強くなる。質量比K2O/R2Oは、好ましくは0.5〜1であり、より好ましくは0.6〜1であり、さらに好ましくは0.7〜1、一層好ましくは0.75〜1、さらに一層好ましくは0.8〜1、より一層好ましくは0.9〜1、より一層好ましくは0.95〜1、より一層好ましくは0.99〜1の範囲である。
【0033】
本発明の第1の態様のガラス基板において、ZrO2およびTiO2は、ガラスの化学的耐久性および耐熱性を向上させる成分である。ZrO2およびTiO2は、必須成分ではないが、含有させることで低温粘性特性温度(Tgおよび歪点を含む)の上昇および耐酸性向上を実現できる。しかし、ZrO2量およびTiO2量が多くなりすぎると、失透温度が著しく上昇するため、耐失透性および成形性が低下する場合がある。特に、ZrO2は、冷却過程でZrO2の結晶を析出する場合があり、これがインクルージョンとしてガラスの品質悪化を引き起こすことがある。以上の理由から、本発明のガラス基板では、ZrO2およびTiO2の含有率は、それぞれ、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%未満がさらに好ましく、0.2質量%未満がさらに一層好ましい。さらに好ましくは、本発明のガラス基板が、ZrO2およびTiO2を実質的に含有しないことである。言い換えると、ZrO2およびTiO2の含有率は、それぞれ、0〜5質量%が好ましく、0〜3質量%がより好ましく、0〜2質量%がさらに好ましく、0〜1質量%がさらに好ましく、0〜0.5質量%未満がさらに好ましく、0〜0.2質量%未満がさらに一層好ましい。さらに好ましくは、本発明のガラス基板が、ZrO2およびTiO2を実質的に含有しないことである。
【0034】
本発明の第1の態様のガラス基板において、ZnOは、耐BHF性や熔解性を向上させる成分である。但し、必須ではない。
ZnO含有量が多くなりすぎると、失透温度及び密度が上昇する傾向がある。また、歪点が低下する傾向がある。そのため、ZnO含有量は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜3質量%、さらに好ましくは0〜2質量%、一層好ましくは0〜1質量%の範囲である。ZnOは実質的に含有しないことが好ましい。
【0035】
本発明の第1の態様のガラス基板において、ROとZnOとB2O3の合量であるRO+ZnO+B2O3は、 清澄性の指標となる。RO+ZnO+B2O3が少なすぎると、ガラスの熔融温度(高温粘性)が上昇し、清澄性が低下する。一方、多すぎると、歪点が低下する。RO+ZnO+B2O3は、好ましくは20質量%未満、より好ましくは5〜20質量%未満、さらに好ましくは7〜20質量%未満、一層好ましくは10〜20質量%未満、さらに一層好ましくは14〜20質量%未満、より一層好ましくは15〜19質量%の範囲である。他方、失透温度を十分に低下させるためには、RO+ZnO+B2O3は、好ましくは30質量%未満、より好ましくは10〜30質量%未満、さらに好ましくは14〜30質量%未満、一層好ましくは14〜25質量%未満、より一層好ましくは15〜23質量%の範囲である。尚、RO+ZnO+B2O3は、上記清澄性等と失透温度の両方を考慮して適宜決定される。
【0036】
本発明の第1の態様のガラス基板において、P2O5は、熔融温度(高温粘性)を低下させ、熔解性を向上させる成分である。但し、必須ではない。P2O5含有量が多すぎると、ガラス熔解時のP2O5の揮発により、ガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなる。また、耐酸性が著しく悪化する。また、乳白が生じやすくなる。P2O5含有量は、好ましくは0〜3質量%、より好ましくは0〜1質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%の範囲であり、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0037】
本発明の第1の態様のガラス基板において、B2O3とP2O5の合量であるB2O3+P2O5は、熔解性の指標となる。B2O3+P2O5が少なすぎると、熔解性が低下する傾向がある。多すぎると、ガラス熔解時のB2O3とP2O5の揮発により、ガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなる。また、歪点が低下する傾向もある。B2O3+P2O5は、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは3〜11質量%未満、さらに好ましくは5〜10質量%未満、一層好ましくは4〜9質量%、より一層好ましくは5〜9質量%、さらに一層好ましくは7〜9質量%の範囲である。他方、失透温度を十分に低下させるためには、B2O3+P2O5は、好ましくは3〜15質量%であり、好ましくは5〜15質量%、よりましくは6〜13質量%、さらにましくは7〜11質量%未満である。尚、B2O3+P2O5は、熔解性等と失透温度の両方を考慮して適宜決定される。
【0038】
本発明の第1の態様のガラス基板において、CaO/ROは 熔解性と耐失透性の指標となる。CaO/ROは好ましくは0.05〜1、より好ましくは0.1〜1、さらに好ましくは0.5〜1、一層好ましくは0.65〜1、より一層好ましくは0.7〜1、さらに一層好ましくは0.85〜1、尚一層好ましくは0.9〜1、さらに尚一層好ましくは0.95〜1の範囲である。これらの範囲とすることで、耐失透性と熔解性を両立することができる。さらに、低密度化を図ることができる。また、原料として、複数のアルカリ土類金属を含有させるよりも、CaOのみを含有させた方が歪点を高める効果が高い。アルカリ土類金属酸化物としてCaOのみを原料として含有させた場合、得られるガラスのCaO/ROの値は、例えば0.98〜1程度である。なお、アルカリ土類金属酸化物としてCaOのみを原料として含有させた場合でも、得られるガラスには、他のアルカリ土類金属酸化物が不純物として含まれる場合がある。
【0039】
本発明の第1の態様のガラス基板において、SiO2 の含有量からAl2O3の含有量の1/2を引いた差であるSiO2-1/2Al2O3の値を、60質量%以下とすることにより、ガラスのスリミングを行うために十分なエッチングレートを有するガラス基板を得ることができるので好ましい。なお、エッチングレートを高くするために、SiO2-1/2Al2O3の値を小さくしすぎると、失透温度が上昇してしまう傾向がある。また、歪点を十分に高くできない場合もあるため、SiO2-1/2Al2O3の値が40質量%以上であることが好ましい。以上のことから、SiO2-1/2Al2O3の値が40〜60質量%であることが好ましく、45〜60質量%であることがより好ましく、45〜58質量%であることがさらに好ましく、45〜57質量%であることが一層好ましく、45〜55質量%であることがさらにより一層好ましく、49〜54質量%であることがさらに一層好ましい。
【0040】
また、生産性よくエッチング(スリミング)を行うために、本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスはエッチングレートが50μm/h以上であることが好ましい。一方、過度にエッチングレートが高いと、パネル作製工程での薬液との反応で不都合が生じる虞があるため、ガラス基板を構成するガラスのエッチングレートは160μm/h以下であることが好ましい。エッチングレートは好ましくは55〜140μm/h、より好ましくは60〜140μm/h 、さらに好ましくは60〜120μm/h、一層好ましくは70〜120μm/hである。本発明においては、上記エッチングレートは以下の条件で測定したものと定義する。
エッチングレート(μm/h)は、ガラス基板をHFの割合が1mol/kg、HClの割合が5mol/kgの混酸の40℃のエッチング液に1時間浸漬した場合の、単位時間(1時間)当たりのガラス基板の一方の表面の厚み減少量(μm)として表す。
【0041】
本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスは清澄剤を含むことができる。清澄剤としては、環境への負荷が小さく、ガラスの清澄性に優れたものであれば特に制限されないが、例えば、Sn、Fe、Ce、Tb、MoおよびWの金属酸化物の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。清澄剤としては、SnO2が好適である。清澄剤の添加量は、少なすぎると、泡品質が悪化し、含有量が多くなりすぎると、失透や着色などの原因となる場合がある。清澄剤の添加量は、清澄剤の種類やガラスの組成にもよるが、例えば、0.05〜1 質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%、より好ましくは0.1〜0.4質量%の範囲とすることが適当である。尚、本発明において必須成分であるFe2O3は清澄剤として用いることも可能であり、単独で用いるのではなく、SnO2と併用することが好ましく、SnO2の清澄効果を補助することができる。
【0042】
本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスはPbO及びFは実質的に含有しないことが好ましい。PbO及びFは環境上の理由から含まないことが好ましい。
【0043】
本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスは、清澄剤として金属酸化物を使用することが好ましい。前記金属酸化物の清澄性を高めるためには、ガラスを酸化性にすることが好ましくが、還元性の原料(例えば、アンモニウム塩、塩化物)を使用することで、前記金属酸化物の清澄性は低下する。前記還元性の原料を用いるとガラス中にNH4+やClが残存するという観点からNH4+の含有量が4×10-4%未満であることが好ましく、0〜2×10-4%未満であることがよりに好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。また、本発明のガラスは、Clの含有量が0.1%未満であることが好ましく、0〜0.1%未満であることがよりに好ましく、0〜0.05%未満であることがさらにに好ましく、0〜0.01%未満であることが一層に好ましく、実質的に含有しないことが尚一層好ましい。なお、上記NH4+及びClは清澄効果を期待して、アンモニウム塩および塩化物(特に塩化アンモニウム)としてガラス原料に用いられることでガラス中に残存する成分であるが、環境上および設備腐食の理由からも、これらの原料の使用は好ましくない。
【0044】
ガラス基板は、歪点やTgで代表される低温粘性特性温度が低いと、熱処理工程(ディスプレイ製造時)において熱収縮が大きくなる。本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスの歪点[℃]は、665℃以上であり、675℃以上が好ましい。また、歪点[℃]は、好ましくは680℃以上、より好ましくは685℃以上、さらに好ましくは688℃以上、一層好ましくは690℃以上、より一層好ましくは695℃以上、尚一層好ましくは700℃以上である。低温粘性特性という観点からは、本発明のガラスの歪点[℃]の上限はないが、実用上の目安としては例えば、750℃以下であり、好ましくは745℃以下、より好ましくは740℃以下である。但し、この上限に限定される意図ではない。ガラスの歪点は、上記本発明のガラス基板のガラスの組成の説明を参照して、ガラス組成を調整することで、所望の値にすることができる。
【0045】
また、本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスはTg[℃]が、好ましくは720℃以上、より好ましくは730℃以上、さらに好ましくは740℃以上、さらに好ましくは745℃以上、一層好ましくは750℃以上である。Tgが低くなると、耐熱性が低下する傾向がある。また、ディスプレイ製造時の熱処理工程においてガラス基板の熱収縮が生じやすくなる傾向もある。耐熱性および熱収縮の観点からは、本発明のガラスのTg[℃]の上限はないが、実用上の目安としては例えば、800℃以下であり、好ましくは795℃以下、より好ましくは790℃以下である。但し、この上限に限定される意図ではない。ガラスのTgを上記範囲にするには、本発明のガラス基板の組成の範囲において、Tgを高める、例えば、SiO2及びAl2O3等の成分を多めにすることが適当である。
【0046】
本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスは密度[g/cm3]が、ガラス基板の軽量化及びディスプレイの軽量化という観点から、好ましくは2.5g/cm3以下、より好ましくは2.45g/cm3以下、さらに好ましくは2.42g/cm3以下、一層好ましくは2.4g/cm3以下である。密度が高くなると、ガラス基板の軽量化が困難となり、ディスプレイの軽量化も図れなくなる。
【0047】
さらに、本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスの粘性は、ガラス熔解時における条件によっても変化する。同一組成のガラスであっても、熔解条件の違いにより、ガラス中の含水量が異なり、例えば、約1〜10℃の範囲で歪点が変化することがある。従って、所望の歪点を有するガラスを得るには、ガラス組成を調整するとともに、ガラス熔解時におけるガラス中の含水量も調整する必要がある。
【0048】
ガラス中の含水量の指標であるβ-OH値は、原料の選択により調整することができる。例えば、含水量の高い原料( 例えば水酸化物原料) を選択したり、塩化物等のガラス中の水分量を減少させる原料の含有量を調整したりすることで、β-OH値を増させることができる。また、ガラス熔解に用いるガス燃焼加熱(酸素燃焼加熱)と直接通電加熱の比率を調整することでβ-OH値を調整することができる。さらに、炉内雰囲気中の水分量を増加させたり、熔解時に熔融ガラスに対して水蒸気をバブリングしたりすることで、β-OH値を増加させることができる。
【0049】
なおガラスのβ-OH値[mm-1]はガラスの赤外線吸収スペクトルにおいて次式によって求められる。
β-OH値=(1/X)log 10(T1/T2)
X : ガラス肉厚(mm)
T1 : 参照波長2600nm における透過率(%)
T2 : 水酸基吸収波長2800nm付近における最小透過率(%)
【0050】
ガラスの水分量の指標であるβ-OH値は、値が小さいほど歪点が高く、熱処理工程(ディスプレイ製造時)において熱収縮が小さくなる傾向にある。他方、β-OH値が大きいほど、熔融温度(高温粘性)を低下させる傾向にある。
低収縮率と熔解性を両立するために、本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスのβ-OH値は、0.05〜0.40mm-1とすることが好ましく、0.10〜0.35mm-1がより好ましく、0.10〜0.30mm-1がさらに好ましく、0.10〜0.25mm-1がさらに好ましく、0.10〜0.20mm-1が一層好ましく、0.10〜0.15mm-1がより一層好ましい。
【0051】
本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスは失透温度[℃]が、好ましくは1330℃未満、より好ましくは1300℃未満、さらに好ましくは1250℃以下、一層好ましくは1230℃以下、より一層好ましくは1220℃以下、さらに一層好ましくは1210℃以下である。失透温度が1300℃未満であれば、フロート法でガラス板の成形がしやすくなる。失透温度が1250℃以下であれば、ダウンドロー法でガラス板の成形がしやすくなる。ダウンドロー法を適用することで、ガラス基板の表面品質を向上できる。また、生産コストも低減することができる。失透温度が高すぎると、失透が生じやすく、耐失透性が低下する。また、ダウンドロー法に適用できなくなる。他方、熱収縮率や密度のなどのフラットパネルディスプレイ用基板の特性を考慮すると、本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスは失透温度が、好ましくは1050〜1300℃未満、より好ましくは1110〜1250℃、さらに好ましくは1150〜1230℃、一層好ましくは1160〜1220℃、より一層好ましくは1170〜1210℃である。
【0052】
本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスは熱膨張係数(100-300℃)[×10-7℃]が、好ましくは39×10-7℃未満、より好ましくは38×10-7℃未満、さらに好ましくは37×10-7℃未満、一層好ましくは28〜36×10-7℃未満、より一層好ましくは30〜35×10-7℃未満、さらに一層好ましくは31〜34.5×10-7℃、尚一層好ましくは32〜34×10-7℃の範囲である。熱膨張係数が大きいと、ディスプレイ製造時の熱処理工程において、熱衝撃や熱収縮量が増大する傾向がある。他方、熱膨張係数が小さいと、他のガラス基板上に形成される金属、有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数との整合がとりにくくなり、周辺部剤が剥離してしまう場合がある。また、ディスプレイ製造工程では、急加熱と急冷が繰り返され、ガラス基板にかかる熱衝撃は大きくなる。さらに、大型のガラス基板は、熱処理工程において、温度差(温度分布)がつきやすく、ガラス基板の破壊確率が高くなる。熱膨張係数を上記範囲とすることで、熱膨張差から生じる熱応力を低減することができ、結果として、熱処理工程において、ガラス基板の破壊確率が低下する。つまり、熱膨張係数を上記範囲とすることは、幅方向2000〜3500mmであり、縦方向が2000〜3500mmであるガラス基板について、ガラス基板の破壊確率が低下させるという観点から、特に有効である。なお、ガラス基板上に形成される金属、有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数との整合が重視させる観点からは、熱膨張係数(100-300℃)が40×10-7℃未満であることが好ましく、28〜40×10-7℃未満であることがより好ましく、30〜39×10-7℃未満であることがさらに好ましく、32〜38×10-7℃未満であることが一層好ましく、34〜38×10-7℃未満であることがより一層好ましい。
【0053】
本発明の第1の態様のガラス基板は熱収縮率 [ppm]が、好ましくは75ppm以下であり、65ppm以下であることが好ましい。さらに、熱収縮率が、好ましくは60ppm以下、より好ましくは55ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、一層好ましくは48ppm以下、より一層好ましくは45ppm以下である。より詳細には、熱収縮率は0〜75ppmであることが好ましく、より好ましくは0〜65ppm、さらに好ましくは0〜60ppm、一層好ましくは0〜55ppm、より一層好ましくは0〜50ppm、さらに一層好ましくは0〜45ppmである。熱収縮率(量)が大きくなると、画素の大きなピッチズレの問題を引き起こし、高精細なディスプレイを実現できなくなる。熱収縮率(量)を所定範囲に制御するためには、ガラスの歪点を680℃以上にすることが好ましい。熱収縮率(量)は最も好ましくは0ppmであるが、熱収縮率を0ppmにしようとすると、徐冷工程を極めて長くすることや、徐冷工程後に熱収縮低減処理(オフラインアニール)を施すことが求められるが、この場合、生産性が低下し、コストが高騰してしまう。生産性およびコストを鑑みると、熱収縮率は、例えば、3〜75ppmであることが好ましく、より好ましくは5〜75ppm、さらに好ましくは5〜65ppm、一層好ましくは5〜60ppm、より一層好ましくは8〜55ppm、さらに一層好ましくは8〜50ppm、さらに一層好ましくは15〜45ppmである。
【0054】
尚、熱収縮率は、昇降温速度が10℃/min、550℃で2時間保持の熱処理が施された後の下記式で示される。
熱収縮率(ppm)={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×106
【0055】
本発明の第1の態様のガラス基板の熱収縮率は、熱収縮率の測定対象であるガラス基板を上記熱処理に供した後に測定されるものである。但し、本発明の第1の態様のガラス基板の熱収縮率は、熱収縮率の測定対象であるガラス基板を、実施例における熱収縮測定用試料ガラス基板の調製で示したように、Tgで30分保持した後、Tg-100℃まで100℃/minで冷却し、室温まで放冷する徐冷操作を行った後に前記熱処理を施して得た値であることもできる。ダウンドロー法等の連続式の方法で製造されたガラス基板については、冷却条件が異なることがあり、上記Tg保持後の冷却処理を施した後に熱収縮率を測定することで、同じ条件における熱収縮率の値を得ることができる。
【0056】
本発明第1の態様のガラス基板は、熱収縮率が75ppm以下であり、好ましくは65ppm以下、より好ましくは60ppm以下のガラス基板であり、かつSiO2 52〜78質量%、Al2O3 3〜25質量%、B2O3 3〜15質量%、RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25、より好ましくは3〜13質量%、Fe2O3 0.01〜1質量%を含有し、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスからなる、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第2の態様のガラス基板)も包含する。ガラス基板の熱収縮率は、75ppm以下であり、好ましくは65ppm以下であることが好ましい。さらに、熱収縮率は、好ましくは60ppm以下、より好ましくは55ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、一層好ましくは48ppm以下、より一層好ましくは45ppm以下、さらに一層好ましくは40ppm以下である。Fe2O3 含有量は0.01〜1質量%であるが、好ましくは0.01〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.1質量%、一層好ましくは0.02〜0.07質量%の範囲である。
【0057】
本発明の第2の態様のガラス基板は、環境負荷の問題から、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3も実質的に含有しないガラスからなる。
【0058】
熱収縮率が75ppm以下であり、好ましくは65ppm以下、より好ましくは60ppm以下であり、かつFe2O3 0.01〜1質量%を含有するガラスからなる本発明の第2の態様のp−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、画素の重大なピッチズレの問題を引き起こすことなく、かつ熔融ガラスの比抵抗を低下させることができ、直接通電加熱による熔解において熔解槽熔損の問題の発生を回避することが可能である。本発明の第2の態様のガラス基板の上記以外のガラス組成及び物性等は、本発明の第1の態様のガラス基板と同様であることができる。
【0059】
本発明の第1および第2の態様のガラス基板を構成するガラスは、熔融温度が、好ましくは1680℃以下、より好ましくは1650℃以下、さらに好ましくは1640℃以下、一層好ましくは1620℃以下である。熔融温度が高いと、熔解槽への負荷が大きくなる。また、エネルギーを大量に使用するため、コストも高くなる。熔融温度を上記範囲にするには、本発明のガラス基板の組成の範囲において、粘性を低下させる、例えば、B2O3,RO等の成分を含有することが適当である。
【0060】
本発明の第1および第2の態様のガラス基板を構成するガラスは液相粘度(失透温度での粘度)が、104.0以上であり、好ましくは104.5〜106.0 dPa・s、より好ましくは104.5〜105. 9 dPa・s、さらに好ましくは104.6〜105.8 dPa・s、一層好ましくは104.8〜105.7 dPa・s、より一層好ましくは104.8〜105.6 dPa・s、さらに一層好ましくは104.9〜105.5の範囲である。これらの範囲内にあることで、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板として必要な特性を有すると共に、成形時に失透結晶が発生し難くなるため、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすくなる。これにより、ガラス基板の表面品位を向上できるとともに、ガラス基板の生産コストを低減することができる。本発明の第1および第2の態様のガラス基板を構成するガラスの組成の範囲において、各成分の含有量を適宜調整することで、ガラスの液相粘度を上記範囲にすることができる。
【0061】
本発明の第1および第2の態様のガラス基板を構成するガラスは、ガラス融液の比抵抗(1550℃における)[Ω・cm]が、好ましくは50〜300Ω・cm、より好ましくは50〜250Ω・cm、さらに好ましくは50〜200Ω・cm、一層好ましくは100〜200Ω・cmの範囲である。比抵抗が小さくなりすぎると、熔解に必要な電流値が過大になり、設備上の制約がでる場合がある。一方、比抵抗が大きくなりすぎると、電極の消耗が多くなる傾向もある。また、ガラスではなく、熔解槽を形成する耐熱煉瓦に電流が流れてしまい、熔解槽が熔損してしまう場合もある。熔融ガラスの比抵抗は、主に、本発明のガラスの必須成分であるROとFe2O3含有量をコントロールすることで、上記範囲に調整できる。
【0062】
本発明の第1および第2の態様のガラス基板はヤング率[GPa]が、好ましくは70GPa以上、より好ましくは73GPa以上、さらに好ましくは74GPa以上、一層好ましくは75GPa以上である。ヤング率が小さいと、ガラス自重によるガラスの撓みによって、ガラスが破損しやすくなる。特に幅方向2000mm以上の大型のガラス基板では、撓みによる破損の問題が顕著となる。ガラス基板のヤング率は、本発明のガラス基板の組成の範囲において、ヤング率を変動させる傾向が強い、例えば、Al2O3等の成分の含有量を調整することで、大きくすることができる。
【0063】
本発明の第1および第2の態様のガラス基板は比弾性率(ヤング率/密度)[GPa cm3 g-1]が、好ましくは28GPa cm3 g-1以上、より好ましくは29GPa cm3 g-1以上、さらに好ましくは30GPa cm3 g-1以上、一層好ましくは31GPa cm3 g-1以上である。比弾性率が小さいと、ガラス自重によるガラスの撓みによって、ガラスが破損しやすくなる。特に幅方向2000mm以上の大型のガラス基板では、撓みによる破損の問題が顕著となる。
【0064】
本発明の第1および第2の態様のガラス基板は大きさには特に制限はない。幅方向は、例えば、500〜3500mm、好ましくは1000〜3500mm、より好ましくは2000〜3500mmである。縦方向は、例えば、500〜3500mm、好ましくは1000〜3500mm、より好ましくは2000〜3500mmである。大きいガラス基板を使用するほど、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの生産性が向上する。
【0065】
本発明の第1および第2の態様のガラス基板は板厚[mm]が、例えば、0.1〜1.1mmの範囲であることができる。但し、この範囲に限定する意図ではない。板厚[mm]は、例えば、0.1〜0.7mm、0.3〜0.7mm、0.3〜0.5mmの範囲であることもできる。ガラス板の厚さが薄すぎると、ガラス基板自体の強度が低下する。例えば、フラットパネルディスプレイ製造時の破損が生じやすくなる。板厚が厚すぎると、薄型化が求められるディスプレイには好ましくない。また、ガラス基板の重量が重くなるため、フラットパネルディスプレイの軽量化が図りがたくなる。
【0066】
本発明は、SiO2 57〜75質量%、Al2O3 8〜25質量%、B2O3 3〜15質量%、RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、MgO 0〜15質量%、CaO 0〜20質量%、SrO及びBaOの合量 0〜3質量%、Fe2O3 0.01〜1質量%、Sb2O3 0〜0.3質量%、を含有し、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスからなる、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第3の態様のガラス基板)を包含する。
【0067】
本発明の第3の態様のガラス基板の一例として、
SiO2 57〜75質量%、
Al2O3 8〜25質量%、
B2O3 3〜10質量%未満、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、
MgO 0〜15質量%、
CaO 0〜20質量%、
SrO及びBaOの合量 0〜30質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%
を含有し、
Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスからなる、p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を挙げることができる。
【0068】
本発明の第3の態様のガラス基板における各成分を含有する理由及び含有量や組成比の範囲について説明する。
【0069】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるSiO2の含有量は57〜75質量%の範囲である。
SiO2は、ガラスの骨格成分であり、従って、必須成分である。含有量が少なくなると、耐酸性、耐BHF(バッファードフッ酸)及び歪点が低下する傾向がある。また、熱膨張係数が増加する傾向がある。また、SiO2含有量が少なすぎると、ガラス基板を低密度化するのが難しくなる。一方、SiO2含有量が多すぎると、ガラス融液の比抵抗が上昇し、熔融温度が著しく高くなり熔解が困難になる傾向がある。SiO2含有量が多すぎると、耐失透性が低下する傾向もある。このような観点から、SiO2の含有量は、57〜75質量%の範囲とする。SiO2の含有量は、好ましくは58〜72質量%、より好ましくは59〜70質量%、さらに好ましくは61〜69質量%、一層好ましくは62〜67質量%の範囲である。他方、SiO2含有量が多すぎると、ガラスのエッチングレートが遅くなる傾向がある。ガラス板をスリミングする場合の速度を示すエッチングレートが十分に速いガラス基板を得るという観点からは、SiO2の含有量は、好ましくは57〜75 質量%、より好ましくは57〜70質量%、さらに好ましくは57〜65質量%、一層好ましくは58〜63質量%の範囲である。尚、SiO2含有量は、上記耐酸性等の特性とエッチングレートの両方を考慮して適宜決定される。
【0070】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるAl2O3の含有量は 8〜25質量%の範囲である。
Al2O3は、分相を抑制し、かつ、歪点を高くする必須成分である。含有量が少なすぎると、ガラスが分相しやすくなる。また、歪点が低下する傾向にある。さらに、ヤング率及びエッチングレートも低下する傾向がある。Al2O3含有量が多すぎると、比抵抗が上昇する。また、ガラスの失透温度が上昇して、耐失透性が低下するので、成形性が悪化する傾向がある。このような観点から、Al2O3の含有量は 8〜25質量%の範囲である。Al2O3の含有量は、好ましくは10〜23質量%、より好ましくは12〜21質量%、さらに好ましくは12〜20質量%、一層好ましくは14〜20質量%、より一層好ましくは15〜19質量%の範囲である。他方、エッチングレートが十分に速いガラス基板を得るという観点からは、Al2O3の含有量は、好ましくは10〜23質量%、より好ましくは12〜23質量%、さらに好ましくは14〜23質量%、一層好ましくは17〜22質量%である。尚、Al2O3の含有量は、上記ガラスが分相特性等とエッチングレートの両方を考慮して適宜決定される。
【0071】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるB2O3は、3〜15質量%の範囲であり、より好ましくは3〜10質量%の範囲である。
B2O3は、ガラスの粘性を低下させ、熔解性および清澄性を改善する必須成分である。B2O3含有量が少なすぎると、熔解性及び耐失透性が低下すると共に、耐BHFが低下する。また、B2O3含有量が少なすぎると、比重が増加して低密度化が図りがたくなる。B2O3含有量が多すぎると、ガラス融液の比抵抗が上昇する。また、B2O3含有量が多すぎると、歪点が低下し、耐熱性が低下する。さらに、耐酸性及びヤング率が低下する。また、ガラス熔解時のB2O3の揮発により、ガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなる。このような観点から、B2O3含有量は、3〜15質量%の範囲であり、好ましくは3〜10質量%未満、より好ましくは4〜9質量%、さらに好ましくは5〜9質量%、一層好ましくは7〜9質量%の範囲である。他方、失透温度を十分に低下させるためには、B2O3含有量は、好ましくは5〜15質量%、よりましくは6〜13質量%、さらにましくは7〜11質量%未満である。尚、B2O3含有量は、上記熔解性等と失透温度の両方を考慮して適宜決定される。
【0072】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるMgO、CaO、SrO及びBaOの合量であるROは、3〜25質量%の範囲である。ROは、比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる必須成分である。RO含有量が少なすぎると、比抵抗が上昇し、熔解性が悪化する。RO含有量が多すぎると、歪点及びヤング率が低下する。また、密度が上昇する。また、RO含有量が多すぎると、熱膨張係数が増大する傾向もある。このような観点から、ROは、3〜25質量%の範囲であり、好ましくは3〜16質量%、より好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは3〜14質量%、一層好ましくは3〜13質量%、より一層好ましくは6〜12質量%、尚一層好ましくは8〜11質量%の範囲である。
【0073】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるMgOは比抵抗を低下させ、熔解性を向上させる成分である。また、アルカリ土類金属の中では比重を増加させにくい成分であるので、その含有量を相対的に増加させると、低密度化を図りやすくなる。必須ではないが、含有させることで、熔解性を向上し、かつ切粉の発生を抑制できる。但し、MgOの含有量が多すぎると、ガラスの失透温度が急激に上昇するため、成形性が悪化(耐失透性が低下)する。また、MgOの含有量が多すぎると、耐BHF低下、耐酸性低下の傾向がある。特に、失透温度を低下させたい場合には、MgOは実質的に含有させないことが好ましい。このような観点から、MgO含有量は、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%、さらに好ましくは0〜4質量%、一層好ましくは0〜3質量%、さらに好ましくは0〜2質量%未満、一層好ましくは0〜1質量%であり、最も好ましくは実質的に含有しないことである。
【0074】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるCaOは、比抵抗を低下させ、ガラスの失透温度を急激に上げることなくガラスの熔解性を向上させるのに有効な成分である。また、アルカリ土類金属の中では比重を増加させにくい成分であるので、その含有量を相対的に増加させると、低密度化を図りやすくなる。必須ではないが、含有させることで、ガラス融液の比抵抗低下および熔融温度低下による熔解性向上が改善でき、さらに失透性も改善ができるので、CaOは含有させることが好ましい。
一方、CaO含有量が多すぎると、歪点が低下する傾向がある。また、熱膨張係数増加及び密度上昇の傾向がある。CaO含有量は、好ましくは0〜20質量%、より好ましくは0〜15質量%、さらに好ましくは1〜15質量%、一層好ましくは3.6〜15質量%、より一層好ましくは4〜14質量%、尚一層好ましくは5〜12質量%、さらに一層好ましくは5〜10質量%、さらに一層好ましくは6超〜10質量%、最も好ましくは6超〜9質量%の範囲である。
【0075】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるSrOとBaOは、ガラス融液の比抵抗を低下させ、かつ熔融温度を低下させて、熔解性を向上させると共に失透温度の低下させる成分である。必須ではないが、含有させると、耐失透性及び熔解性は向上する。しかし、含有量が多すぎると、密度が上昇してしまう。SrOとBaOの合量であるSrO+BaOは、密度を低減し、軽量化するという観点から、0〜15質量%であり、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜9質量%、一層好ましくは0〜8質量%、より一層好ましくは0〜3質量%、さらに一層好ましくは0〜2質量%、尚一層好ましくは0〜1質量%、さらに一層好ましくは0〜0.5質量%、尚一層好ましくは0〜0.1質量%未満の範囲である。ガラスの密度を低下させたい場合には、SrOとBaOは、実質的に含有させないことが好ましい。
【0076】
本発明の第3の態様のガラス基板におけるFe2O3の含有量は0.01〜1質量%の範囲である。
Fe2O3は、清澄剤としての働きを有する以外に、ガラス融液の比抵抗を低下させる必須成分である。熔融温度(高温粘性)が高く、難熔なガラスにおいては、上記所定量のFe2O3を含有させることで、ガラス融液の比抵抗を低下させることができ、直接通電加熱による熔解において熔解槽熔損の問題の発生を回避しつつガラスの熔解が可能になる。しかし、Fe2O3含有量が多くなりすぎると、ガラスが着色し、透過率が低下する。そこで、Fe2O3含有量は、0.01〜1質量%の範囲であり、好ましくは0.01〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.4質量%、さらに好ましくは0.01〜0.3質量%、一層好ましくは0.01〜0.2質量%、より一層好ましくは0.01〜0.1質量%、さらに一層好ましくは0.02〜0.07質量%の範囲である。
【0077】
本発明の第3の態様のガラス基板は、環境負荷を低減するという観点から、Sb2O3は0〜0.3質量%であることが好ましく、0〜0.1質量%であることがより好ましい。また、本発明の第3の態様のガラス基板は、環境負荷をより低減するという観点から、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3も実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0078】
本発明の第3の態様のガラス基板の上記以外のガラス組成、物性および大きさ等は、本発明の第1の態様のガラス基板と同様であることができる。
【0079】
本発明のガラス基板(本発明の第1〜3の態様のガラス基板に共通)は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、特にp−Si・TFTが表面に形成されるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板に好適である。具体的には、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板に好適である。特に、p−Si・TFT液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。中でも、高精細が求められる携帯端末などのディスプレイ用ガラス基板に好適である。
【0080】
<p−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法>
本発明のp−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第1の態様のガラス基板)の製造方法は、
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%、
Sb2O3 0〜0.3質量%、
を含有し、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は7〜30の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは6以上のガラスとなるように調合したガラス原料を少なくとも直接通電加熱を用いて熔解して熔融ガラスを得る熔解工程と、
前記熔融ガラスを平板状ガラスに成形する成形工程と、
前記平板状ガラスを徐冷する徐冷工程と、を有する。
【0081】
また、本発明の第1の態様のガラス基板の製造方法は、一例として、
SiO2 52〜78質量%、
Al2O3 3〜25質量%、
B2O3 3〜15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜13質量%、
Fe2O3 0.01〜1質量%
を含有し、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は8.9〜20の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは7.5以上のガラスとなるように調合したガラス原料を少なくとも直接通電加熱を用いて熔解して熔融ガラスを得る熔解工程と、前記熔融ガラスを平板状ガラスに成形する成形工程と、
前記平板状ガラスを徐冷する徐冷工程と、を有するガラス基板の製造方法を包含する。
【0082】
本発明の第2及び3の態様のガラス基板も上記本発明の第1の態様のガラス基板と同様の工程を経て製造することができる。但し用いるガラス原料は、本発明の第2の態様のガラス基板の製造においては、SiO2 52〜78質量%、Al2O3 3〜25質量%、B2O3 3〜15質量%、RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜13質量%、Fe2O3 0.01〜1質量%を含有し、Sb2O3は実質的に含有しない、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスとなるようなガラス原料である。本発明の第3の態様のガラス基板の製造においては、SiO2 57〜75質量%、Al2O3 8〜25質量%、B2O3 3〜15質量%、RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、MgO 0〜15質量%、CaO 0〜20質量%、SrO及びBaOの合量 0〜3質量%、Fe2O3 0.01〜1質量%、Sb2O3 0〜0.3質量%、を含有し、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスとなるようなガラス原料である。また、本発明の第3の態様のガラス基板の製造方法の一例においては、SiO2 57〜75質量%、Al2O3 8〜25質量%、B2O3 3〜10質量%未満、RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3〜25質量%、MgO 0〜15質量%、CaO 0〜20質量%、SrO及びBaOの合量 0〜3質量%、Fe2O3 0.01〜1質量%を含有し、Sb2O3は実質的に含有せず、かつAs2O3は実質的に含有しないガラスとなるようなガラス原料である。
【0083】
[熔解工程]
熔解工程においては、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を少なくとも直接通電加熱を用いて熔解する。ガラス原料は、公知の材料から適宜選択できる。ガラス融液の1550℃における比抵抗が、50〜300Ω・cmの範囲となるように、ガラス組成、特に、Fe2O3の含有量を調整することが好ましい。ROの含有量を3〜15質量%、Fe2O3の含有量を0.01〜1質量%の範囲とすることで、1550℃における比抵抗を上記範囲内とすることができる。
また、ガラス基板のβ-OHの値が0.05〜0.4mm-1となるように、熔解工程を調整することが好ましい。尚、本発明の第2の態様のガラス基板の製造においては、ROを3〜13質量%の範囲で調整できる。
【0084】
[成形工程]
成形工程では、熔解工程にて熔解した熔融ガラスを平板状ガラスに成形する。平板状ガラスへの成形方法は、例えば、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法が好適である。その他、フロート法、リドロー法、ロールアウト法などを適用できる。ダウンドロー法を採用することにより、フロート法など他の成形方法を用いた場合に比べ、得られたガラス基板の主表面が熱間成形された表面であるために、極めて高い平滑性を有しており、成形後のガラス基板表面の研磨工程が不要となるために、製造コストを低減することができ、さらに生産性も向上させることができる。さらに、ダウンドロー法を使用して成形したガラス基板の両主表面は均一な組成を有しているために、エッチング処理を行った際に、均一にエッチングを行うことができる。加えて、ダウンドロー法を使用して成形することで、マイクロクラックのない表面状態を有するガラス基板を得ることができるため、ガラス基板自体の強度も向上させることができる。
【0085】
[徐冷工程]
徐冷時の条件を適宜調整することでガラス基板の熱収縮率をコントロールすることができる。ガラス基板の熱収縮率は上述のように、75ppm以下、より好ましくは60ppm以下であることが好ましく、75ppm以下、より好ましくは60ppm以下のガラス基板を製造するためには、例えば、ダウンドロー法を使用する場合は、平板状ガラスの温度を、TgからTg-100℃の温度範囲を20〜120秒で冷却するように、成形を行うことが望ましい。20秒未満であると、熱収縮量を十分低減することができない場合がある。一方、120秒を超えると、生産性が低下すると共に、ガラス製造装置(徐冷炉)が大型化してしまう。あるいは、平板状ガラスの平均の冷却速度を、TgからTg-100℃の温度範囲において、50〜300℃/分とするように徐冷(冷却)を行うことが好ましい。冷却速度が、300℃/分を超えると、熱収縮量を十分低減することができない場合がある。一方、50℃/分未満であると、生産性が低下すると共に、ガラス製造装置(徐冷炉)が大型化してしまう。冷却速度の好ましい範囲は、50〜300℃/分であり、50〜200℃/分がより好ましく、60〜120℃/分がさらに好ましい。他方、徐冷工程後に熱収縮低減処理(オフラインアニール)工程を別途設けることで、熱収縮率を小さくすることもできる。しかし、徐冷工程とは別にオフラインアニール工程を設けると、生産性が低下し、コストが高騰してしまうという問題点がある。そのため、上述したように、徐冷工程において平板状ガラスの冷却速度を制御するという熱収縮低減処理(オンラインアニール)を施すことによって、熱収縮率を所定範囲内におさめることがより好ましい。
【0086】
以上、本発明のガラス基板をp−Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を例に説明したが、本発明の本発明のガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用、特にp−Siフラットパネルディスプレイ用としても用いることができる。さらに、本発明のガラス基板は、酸化物半導体薄膜トランジスタフラットパネルディスプレイ用のガラスとしても用いることかできる。即ち、本発明のガラス基板は、基板表面に酸化物半導体薄膜トランジスタを形成して製造されるフラットディスプレイに用いることもできる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0088】
実施例1〜34
表1に示すガラス組成になるように、実施例1〜34および比較例1〜2の試料ガラスを以下の手順に従って作製した。得られた試料ガラスおよび試料ガラス基板について、失透温度、Tg、100〜300℃の範囲における平均熱膨張係数(α)、熱収縮率、密度、歪点、熔解温度(粘度が102.5dPa・sの時のガラス温度、表1中ではT(log(η=2.5)と表示)、液相粘度、1550℃における比抵抗、エッチング速度を求め、表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(試料ガラスの作製)
まず、表1に示すガラス組成となるように、通常のガラス原料である、シリカ,アルミナ,酸化ホウ素,炭酸カリウム,塩基性炭酸マグネシウム,炭酸カルシウム,炭酸ストロンチウム,二酸化スズおよび三酸化二鉄を用いて、ガラス原料バッチ(以下バッチと呼ぶ)を調合した。なお、ガラスで400gとなる量で調合した。
【0091】
前記調合したバッチは、白金ルツボの中で熔融および清澄した。まず、このルツボを1575℃に設定した電気炉で4時間保持してバッチを熔融した。次に、その電気炉を1640℃まで昇温し、2時間保持することでガラス融液の清澄を行なった。その後、ガラス融液を炉外で鉄板上に流し出し、冷却固化してガラス体を得た。このガラス体には引き続いて徐冷操作を施した。徐冷操作は、このガラス体を800℃に設定した別の電気炉の中で2時間保持した後、740℃まで2時間、更に660℃まで2時間で冷却後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却することによって行なった。この徐冷操作を経たガラス体を試料ガラスとした。前記試料ガラスは、徐冷条件に影響されず、かつ/または、基板状では測定できない特性(失透温度、高温粘性(熔融温度)、比抵抗、熱膨張係数、Tgおよび歪点)の測定に用いた。前記試料ガラスは、Cl含有量が0.01%未満であり、かつNH4+含有量が 2×10-4%未満であった。
【0092】
また、上記試料ガラスを切断、研削および研磨加工を施して、上下面が鏡面である30mm×40mm×0.7mmの試料ガラス基板を作製した。前記試料ガラス基板は、徐冷条件に影響されない、β-OHの測定に用いた。
【0093】
さらに、上記試料ガラスを切断、研削および研磨加工を施して、厚み0.7〜4mm、幅5mm、長さ20mmの直方体とし、これをTgで30分保持した後、Tg-100℃まで100℃/minで冷却し、室温まで放冷することで、熱収縮測定用試料ガラス基板とした。
【0094】
(歪点)
前記試料ガラスを、3mm角、長さ55mmの角柱形状に切断・研削加工して、試験片とした。この試験片に対して、ビーム曲げ測定装置(東京工業株式会社製)を用いて測定を行い、ビーム曲げ法(ASTM C−598)に従い、計算により歪点を求めた。
【0095】
(熱収縮率)
熱収縮率は、前記熱収縮測定用試料ガラス基板を550℃で2時間の熱処理が施された後のガラス基板の収縮量を用いて、以下の式にて求めた。
熱収縮率(ppm)
={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×106
本実施例では、具体的に、以下の方法によって収縮量の測定を行った。
【0096】
前記熱収縮用試料ガラス基板について、示差熱膨張計(Thermo Plus2 TMA8310)を用い、室温から550℃まで昇温し、2時間保持した後、室温まで冷却し、熱処理前後での試料ガラスの収縮量を測定した。この時の、昇降温速度は10℃/minに設定した。
【0097】
(1550℃での比抵抗)
前記試料ガラスの熔融時の比抵抗は、HP社製 4192A LF インピーダンス・アナライザーを用いて、四端子法にて測定し、前記測定結果より1550℃での比抵抗値を算出した。
【0098】
(失透温度の測定方法)
前記試料ガラスを粉砕し、2380μmのふるいを通過し、1000μmのふるい上に留まったガラス粒を得た。このガラス粒をエタノールに浸漬し、超音波洗浄した後、恒温槽で乾燥させた。乾燥させたガラス粒を、幅12mm、長さ200mm、深さ10mmの白金ボート上に、前記ガラス粒25gをほぼ一定の厚さになるように入れた。この白金ボートを、1080〜1320℃(あるいは1140℃〜1380℃)の温度勾配をもった電気炉内に5時間保持し、その後、炉から取り出して、ガラス内部に発生した失透を50倍の光学顕微鏡にて観察した。失透が観察された最高温度を、失透温度とした。
【0099】
(100〜300℃の範囲における平均熱膨張係数αおよびTgの測定方法)
前記試料ガラスを、φ5mm、長さ20mmの円柱状に加工して、試験片とした。この試験片に対し、示差熱膨張計(Thermo Plus2 TMA8310)を用いて、昇温過程における温度と試験片の伸縮量を測定した。この時の昇温速度は5℃/minとした。前記温度と試験片の伸縮量との測定結果を元に100〜300℃の温度範囲における平均熱膨張係数およびTgを得た。なお、本願でのTgとは、ガラス体を800℃に設定した別の電気炉の中で2時間保持した後、740℃まで2時間、更に660℃まで2時間で冷却後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却した試料ガラスについて測定した値である。
【0100】
(密度)
ガラスの密度は、アルキメデス法によって測定した。
【0101】
(熔融温度)
前記試料ガラスの高温粘性は、白金球引き上げ式自動粘度測定装置を用いて測定した。前記測定結果より、粘度102.5dPa・sの時の温度を算出し、熔融温度を得た。
【0102】
(液相粘度)
前記高温粘性の測定結果より、前記失透温度での粘性を算出し、液相粘度を得た。表1には、10ndPa・sで示される液相粘度の指数部分nのみを表示する。
【0103】
(エッチング速度)
ガラス基板をHFの割合が1mol/kg、HClの割合が5mol/kgの混酸の40℃のエッチング液に1時間浸漬し、ガラス基板の一方の表面の厚み減少量(μm)を測定した。単位時間(1時間)当たりの減少量(μm)としてエッチングレート(μm/h)を求めた。
【0104】
実施例7および13に示すガラス組成となるよう調合したガラス原料を、耐火煉瓦製の熔解槽と白金合金製の調整槽(清澄槽)を備えた連続熔解装置を用いて、1560〜1640℃で熔解し、1620〜1670℃で清澄し、1440〜1530℃で攪拌した後にオーバーフローダウンドロー法により厚さ0.7mmの薄板状に成形し、TgからTg-100℃の温度範囲内において、100℃/minの平均速度で徐冷を行い、液晶ディスプレイ用(有機ELディスプレイ用)ガラス基板を得た。なお、前記記載の各特性については、得られたガラス基板を用いて測定した。
【0105】
上記のように得られた実施例7の組成のガラス基板の熔解温度は1610℃、β-OH値は0.20mm-1で、Tgは754℃、歪点は697℃、熱収縮率は51ppmであり、他の特性は実施例7と同等であった。また、実施例13の組成のガラス基板の熔解温度は1585℃、β-OH値は0.21mm-1で、Tgは761℃、歪点は710℃、熱収縮率は31ppmであり、他の特性は実施例23と同等であった。上記のように、上記ガラス基板は720℃以上のTgと、1680℃以下の熔融温度とを有しており、高い低温粘性特性温度および良好な熔解性とが実現されていた。さらに、熱収縮率および失透温度も、本発明のガラス基板の条件を満たしていた。なお、上記のように得られたガラス基板は、実施例7、13よりも、β-OH値が0.09mm-1大きいため、実施例7、13と比較するとTgは2〜3℃低くなるが、十分に高いTgを実現できている。したがって、本実施例で得られたガラス基板は、p−Si・TFTが適用されるディスプレイにも用いることが可能な、優れた特性を備えたガラス基板であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、ディスプレイ用ガラス基板の製造分野に利用可能である。