(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に従う限流器システムを示す図である。
【
図2A】合金コーティング付き被コーティング超伝導テープの実施形態を示す図である。
【
図3A】二層合金コーティングの一実施形態を示す図である。
【
図3B】二層合金コーティングの別の実施形態を示す図である。
【
図3C】二層合金コーティングのさらなる実施形態を示す図である。
【
図4A】通常状態下の二層合金コーティング付き被コーティング超伝導テープを操作するシナリオを示す図である。
【
図4B】故障状態にある
図4Aの被コーティング超伝導テープにおける伝導性酸化物形成の、一シナリオを示す図である。
【
図4C】故障状態にある
図4Aの被コーティング超伝導テープにおける伝導性酸化物形成の、別のシナリオを示す図である。
【0009】
本実施形態は付随する図面に関連して以下でより全面的に記載し、図面ではいくつかの実施形態を示す。しかしながら、本開示の主題は多くの異なる形態で具現化することができ、本明細書で述べる実施形態に限定されるものであると解釈されるべきではない。むしろこの実施形態は、本開示が徹底的で完全であり、当業者に主題の範囲を全面的に伝えるように提供するものである。図面において、同種の数字は全体を通して同種の要素を意味する。
【0010】
前述の超伝導テープの欠陥のいくつかに対処するため、超伝導テープの改善構造、および、超伝導テープを形成するための改善技法を提供する実施形態を本明細書に記載する。これらの実施形態は特に、超伝導テープがAC電圧に供される限流器などの用途、および他の用途に適している。
【0011】
この状況に対処するため、本実施形態は特に、1つ以上の金属合金層を含む合金コーティングを含んだ超伝導テープ構造を提供する。特に、金属合金(本明細書では、単に「合金」ともいう)コーティングは、超伝導層と接して配置する。後述するように、合金コーティング内の合金層は、超伝導テープの堅牢性の改善を提供し、中でも、故障状態時の「バーンアウト」に対する抵抗の改善、シート抵抗の増加、および、下層の超伝導層の特性の改善を提供する。
【0012】
本明細書で使用する用語「合金」は、金属と、1つ以上の追加金属元素など、1つ以上の他の元素との混合物を意味する。合金は、単一相を形成する2つ以上の元素の固溶体;2つ以上の相の混合物であって、各相は2つ以上の元素の固溶体である混合物;1つ以上の金属間化合物;または、上記のいずれかの組合せの混合物で構成されてよい。金属間化合物は、構成元素比率が変化しない「ライン」化合物(“line” compound)であってよいが、構成元素比率が変化する化合物であってもよい。続く説明において、合金元素の適切な選択により如何にして望ましい超伝導テープ特性の組合せが調整可能であるかについて、例を示す。本明細書の下記に開示する合金コーティングは、少なくとも1つの合金層を含み、単一合金層、単一合金層および追加の非合金層、ならびに、複数の合金層および複数の非合金層、などを含むことができる。続く実施形態において、単一元素と合金化した銀または銅の層の例を、種々の合金元素について提供する。しかしながら、本実施形態は、2つ以上の合金元素を銅または銀などの材料と合金化した合金を含む。
【0013】
図1は、本開示の実施形態と一致する超伝導限流器(SCFCL)システム100の構造を示す図である。SCFCLシステム100はSCFCL102を備え、これは、続く記載に関し、本明細書で特に指定のない限り従来のSCFCLであってよい。SCFCLシステム100はさらに、種々の実施形態に従って配置した超伝導テープを含む保護素子106を備える。SCFCL102は、負荷電流を伝導するように設計した送電線108と直列に配置する。通常操作モードでは、負荷電流はSCFCLを周期的に、時折、または連続して通過することができる。通常操作モードでの負荷電流は、超伝導体素子104が超伝導状態を維持しているため、負荷電流がSCFCL102を通過する場合、該負荷電流をゼロ抵抗で超伝導体素子104に送電するような電流レベルを示す。従って、負荷電流は比較的低い抵抗でSCFCLに送電され、該SCFCLは通常状態の金属を含む抵抗点と接続点とを含む。
【0014】
超伝導体素子104は(HT
S)テープを使用して製造される。背景として、HT
Sテープは、SCFCLなどの装置を概して液体窒素沸騰温度(77K)まで冷却する状況で使用する。液体窒素沸騰温度は、HT
Sテープを製造するのに使用する超伝導体材料の臨界温度を下回る。SCFCLは、電流が臨界電流(J
C)未満である場合、電流を超伝導体(HT
S)テープに抵抗なしに送電する。これはテープを製造した超伝導体材料とテープ形状の機能である。故障状態では、SCFCL102を介して伝導する電流は急増してJ
Cを超え、述べたように超伝導体材料を有限状態抵抗に変換し、電流を金属接触層を介して分流する。従来のHT
Sテープ構造では、電流が金属接触層を介して分流する故障時に発生する高温が金属層の微細構造を変換し、金属原子の拡散、粒子成長、熱誘起応力を引き起こし、このプロセスが層凝集、空隙の発生、断絶を招く。加えて、故障が発生した際の環境次第で、金属層の酸化が起こる可能性がある。こうした現象の集合を本明細書では「バーンアウト」ともいい、単一の故障事象の後、または、複数の故障事象の後に起こる可能性がある。
【0015】
本実施形態と一致して、超伝導体素子104を構築するのに使用する金属コーティングは少なくとも1つの合金層を含み、これはバーンアウトに対する抵抗を改善する。種々の実施形態において、合金層は被コーティング伝導体構造の一部を形成し、該被コーティング伝導体構造は超伝導テープの内側超伝導層を囲む金属層を有する。
図2Aは、超伝導テープ200の一実施形態を示す図であり、ここにおいて、超伝導層204は基板202上に配置され、以下に述べるように複数の層が含まれる。基板202はその構成層の特長により高配向超伝導層の成長用テンプレートを形成する。本明細書で使用する用語「配向」および「高配向」は、一つの結晶軸が単一方向に平行に横たわる高度な二軸配向などの、高度な結晶配向を持つ性質を意味する。超伝導層204に適した材料には、例えば、ReBa
2Cu
3O
7−x[Rは希土類元素]またはBi
2Sr
2Ca
n−1Cu
nO
4+2n+xが含まれる。この材料群のそれぞれには、その臨界温度(Tc)および臨界電流能力が液体窒素温度で操作する限流器で使用するのに適切な、いくつかの構成物が含まれる。超伝導層204が非超伝導状態に移行する故障状態時に生じ得る、過渡的な故障電流などの電流を伝導するように構成した合金コーティング206は、超伝導層204上に配置される。以下に述べるように、合金コーティング206の構成物および/または超微細構造において、合金コーティング206は従来の金属層、または、銀もしくは銅などの超伝導テープで使用される積層よりもバーンアウトに対し、より抵抗がある。種々の実施形態において、合金コーティングは超伝導テープ200の周りに延在し、合金コーティング206と同じ材料としてよいコーティング2
08を、超伝導層204を配置する側の反対側で基板202に隣接して配置するようにする。こうすることで、超伝導層204および基板202が合金材料に囲まれる構造が得られる。しかしながら、続く図において、コーティング2
08は明確性のため省く。
【0016】
図2Bおよび2Cは、超伝導テープ200の変形態様を表し、ここでは超伝導層204がYBa
2Cu
3O
7−xであり、該材料は臨界電流が大きい。
図2Bの実施形態において、基板202はベース金属合金層210と、該ベース金属合金層210上に配置されたY
2O
3層212と、該Y
2O
3層212上に配置されたイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)層214と、該YSZ層214に配置されたCeO
2層216とを含む。
図2B、2Cに具体的に示すように、ベース金属合金層210に適した材料の例にはハステロイ(登録商標)C−276などのニッケル系の合金が含まれる。しかしながら、他の金属合金も使用することができる。CeO
2層216は、その上に超伝導層204が配置される層を表す。
【0017】
図2Cの例において、基板202は、ベース金属合金層210、Al
2O
3/Y
2O
3バッファ層、イオンビーム支援蒸着法により形成したMgO層(IBAD MgO222)、IBAD MgO 222上に配置されたホモエピタキシャルMgO層224、および、エピタキシャルLaMnO
3(LMO)層226を含む。エピタキシャルLMO層226は、その上に超伝導層204が配置される層を表す。それぞれの場合において、
超伝導層204が、高臨界電流能力を有するエピタキシャル層として形成されたYBa2Cu3O7−xとなるよう、その上がYBa
2Cu
3O
7−xからなる超伝導層204となる酸化物層
を、2軸で作ることができ
る。なお、実施形態は
図2Bおよび2Cに図示した特定の積層膜に限定されるものではない。
【0018】
種々の実施形態において、超伝導テープ200は、超伝導テープの1センチメートル幅あたり約1000Amps(A)程度の臨界電流に支持するように設計する。再び
図2Aを参照すると、超伝導テープの幅d
TAPEは、図示するデカルト座標系でY方向にある電流の流れの方向に対して、垂直な方向での超伝導テープ200の寸法を表す。約1マイクロメートルの(Z方向に沿った)層の厚さについて、1000A/cm幅の臨界電流は、10
7Amp/cm
2の臨界電流密度に相当する。高臨界電流能力を支持するため、超伝導テープ200は故障状態時に起こり得る高電流サージに支持すように構成する。例えば、超伝導テープ200のd
TAPEが約1cmである実施形態では、電流密度は超伝導層204が非超伝導状態に移行する前に1000Aを超え(故障状態では一時的にもっと高くなる場合がある)、これにより電流を、合金コーティング206を介し分流する。従って、種々の実施形態において、合金コーティング206は最低1000Aを超える電流偏位に耐えるように設計する。
【0019】
いくつかの実施形態において、合金コーティング206は二層スタックであり、合金で構成された少なくとも1つの層を含む。
図3A、3B、3Cは、合金含有の二層スタックを有する超伝導体テープの変形態様を示す。
図3Aでは、基板302上に配置された超伝導体層304を含む超伝導テープ300の末端断面図を示す。この例では、超伝導層304に形成した二層スタック305は、合金ではない超伝導体層
304上に配置した金属層306と、該金属層306上に配置した合金層308を含む。
図3Bでは、超伝導層310の末端断面図を示し、該超伝導層310は超伝導層304上に形成した二層スタック307の変形態様を含み、超伝導層304と接する金属層312は合金である。超伝導テープ310はまた、合金ではない金属層312上に配置した金属層314を含む。
図3Cでは、超伝導テープ320の末端断面図を示し、これは超伝導層304上に形成した二層スタック309の変形態様を含み、超伝導層304と接触する金属層312は合金であり、合金層308は金属層312上に配置される。
【0020】
種々の実施形態と一致して、
図3A〜3Cに描いた合金層は、めっき、化学蒸着、または物理蒸着を含む任意の簡便な方法により製造することができる。実施形態は本文脈に限定されるものではない。
【0021】
図3A〜3Cに示す超伝導テープの各構成は、例えば、故障状態時に過度な温度が各超伝導テープに生成した場合に起きかねないバーンアウトを低減するのに効果的である。超伝導層が二層金属構造または合金コーティングに覆われる超伝導テープのいくつかの実施形態において、超伝導層と接触する二層金属合金コーティング内の層は銀含有層であり、該銀含有層に配置した外側層は銅含有層である。例示的な構成において、銀含有層は1/10マイクロメートルの数倍〜約2マイクロメートルの範囲の厚さを有し、銅含有層は5マイクロメートル〜50マイクロメートルの範囲の厚さを有する。銀含有層は、超伝導層および二層金属スタックの間で低接触抵抗を維持するのに効果的である。銀含有層はまた、超伝導層の超伝導特性を劣化し得る、銅含有層と超伝導層との相互拡散を防ぐのに効果的である。一方、銅含有層は、より厚さが厚く、銅の比抵抗値が低いことから、生じる可能性のある故障電流の大部分を流すのに効果的である。
【0022】
いくつかの実施形態において、超伝導テープの銀合金層は、酸化環境の下で伝導性酸化物を形成する合金元素とともに製造する。該合金層の例は、AgとSnの合金、または、AgとZnの合金である。特に、実施形態、つまり、該合金の例示的な構成物は約0.5モル%〜約30モル%のSnおよびZnのいずれかである。比較的低濃度で、各合金は銀と単一相固溶体を形成する。例えば、Ag−Zn二元系は、Znのモル分率が約25%より少ない場合、単一相の面心立方(fcc)構造を形成し、Ag−Sn二元系はSnのモル分率が15%より少ない場合、単一相を形成する。故障状態時に、超伝導テープを概して取り巻く酸化環境と結合した超伝導体テープ内の過剰電流により生成した高温は、銀含有層の酸化を引き起こし得る。Ag−Zn合金層またはAg−Sn合金層はそれぞれ伝導性酸化物を形成する元素を含むため、これらの実施形態において、銀合金層に酸化が起こっても、下層の超伝導層とともに許容可能な接触抵抗を特に維持する伝導性層となる。
【0023】
この点を図示するため、
図4A〜4Cは、銀合金層の加熱を生成する故障状態または他の状態により引き起こされる銀合金層の酸化についての、2つの異なるシナリオを一括して示す。
図4Aには、超伝導テープ400の垂直断面図を示してあり、該テープは、合金化されていない銅層または層314などの被覆層(縮尺のため図示せず)を含む。しかしながら、他の実施形態では、銅層は合金層とすることができる。本明細書で使用する際、特段の注記がなければ、用語「銅層」および「銀層」は、層のモル分率がそれぞれ、銅で50%超または銀で50%超である任意の各層を含むことができる。よって、「銅層」は純銅であるか、総モル分率が銅層のうち50%未満である1つ以上の追加元素を含むことができる。超伝導テープ400は、異なる実施形態において、Ag−ZnまたはAg−Snの固溶体より形成することができる銀合金層402を含む。特定の実施形態において、銀合金層402のZnまたはSnのモル分率は30%以下である。超伝導テープ400は、周囲が液体窒素温度(77K)などの極低温まで冷却されている通常状態下で稼働される。電流404を、超伝導テープ400を介してJ
c未満の電流レベルで輸送し、超伝導層304は超伝導体状態を維持し、電流404は超伝導層304内で(Y方向に平行な)長手方向に沿って伝導するようにする。この状態下では、電流404は抵抗なく超伝導層304を横断し、超伝導テープ400内で起きる抵抗加熱はほぼ、または、全くない。
【0024】
図4Bでは故障状態が生じており、過剰電流により超伝導層304は非超伝導状態となり、電流406が銅層314に伝導し、部分的に銀層に伝導する。電流406は抵抗加熱を生成するのに十分で、超伝導テープ400が高温に達するようにする。いくつかの例において、超伝導テープ400は300℃、400℃、またはもっと高い温度に達する。この高温は銀層の酸化を引き起こし、酸化層408を生成する。銀合金層402はスズまたは亜鉛を含むため、酸化層408は電気的な伝導性を維持し、特に、境界面410で許容可能な接触抵抗を有する。銀自体は伝導性酸化物を形成することが可能だが、スズまたは亜鉛の添加により、より多くの伝導性層の形成を容易にすることができる。
【0025】
図4Cに別のシナリオを示し、ここでは
図4Aの構造に故障状態が生じており、電流406が銅層314に伝導し、部分的に銀層に伝導する。この例において、故障状態時に起きる高温が、当初の銀合金層402から残渣層414に加え境界面酸化物層412を生成した。境界面酸化物層412はSnリッチ酸化物層あるいはZnリッチ酸化物層を含むことができ、Sn含有量あるいはZn含有量は残渣層414より多い。境界面酸化物層412は低接触抵抗を示し、電流が銅層314に主に向かう故障状態に陥る、または、該故障状態から抜け出る場合に、超伝導テープ400は超伝導層304と銅層314の間に適切に電流を伝導可能であるようにする。厳密な故障状態のほか、使用する銀合金、および、SnまたはZnのモル分率に応じて、
図4Bまたは4Cのシナリオが選ばれる。いずれの場合も銀合金層は、酸化事象に耐え、許容できる伝導特性を維持することが可能なより頑強な材料を与える。
【0026】
追加の実施形態では、超伝導テープの銀合金層は、銀合金層で析出物を形成する合金元素とともに製造される。該析出物は、故障状態時に生じる高温状態(>〜250℃)下で銀合金層の安定性を維持するのに効果的である。特定の実施形態では、合金は銀と金属間化合物を形成する傾向に基づいて選択するが、該化合物はいくつかの状態下で析出物に分離する傾向がある。一例では、Au−Zr合金層を、Zrモル濃度を約25%までとして形成する。
図5はAg−Zr系の二元平行状態図の一部を描く。Zrが50%未満のモル濃度では、純銀相および二元AgZr化合物でできた二相領域が存在する。従って、Zrの濃度がより低い(<〜25%)場合、AgZr相は銀マトリックス相の粒界析出物などの隔離領域に分離すると予期することが可能である。このような微細構造が生じると、AgZr析出物は、Ag−Zr合金層が高温にさらされる際、マトリックス相において銀粒子の粒子成長を固定するように作用する。これは、高温化で平滑層としてのAg−合金層を維持することを容易にし、それにより層が凝集する傾向を軽減する。
【0027】
超伝導テープ銀合金層のさらなる実施形態では、下層の超伝導層の特性を改善するのに効果的な合金元素を銀に添加する。いくつかの実施形態では、ZrまたはTaを約0.5%〜10%のモル濃度で銀に添加して金属合金層を形成する。実施形態はこの文脈に限定されるものではない。
【0028】
超伝導テープの製作時に、ZrまたはTaを含む銀合金層を初めに超伝導層上に形成する場合、ZrまたはTaを上記のような金属間化合物などの銀マトリックスに分散する。超伝導テープをその後、約300℃などの高温に1秒間以上さらすと、ZrまたはTaが下層のYBa
2Cu
3O
7−x(YBCO)層などの超伝導層の少なくとも一部と反応し、超伝導層内で磁束ピンニングセンターを作成するのに効果的な、ZrBaO
xまたはTaBaO
xなどの析出物相を形成することができる。磁束ピンニングは、電流が流れる超伝導体内でローレンツ力が作用するにも関わらず、磁力線が動かない(拘束される、つまり「固定される」)現象である。磁束ピンニングは第1種超伝導体では起きないが、YBCOなどの第2種超伝導体では起きる。特に磁束ピンニングは、例えば、不純物の粒界から結晶学的欠陥が生じる場合に起きる。磁束ピンニングは、超伝導層で偽電気抵抗をもたらし、臨界電流密度および臨界磁場を低下して超伝導層を非超伝導状態に変換する可能性のある「磁束クリープ」を防ぐために、高温セラミック超伝導体材料において望ましい。よって、種々の実施形態において、ZrまたはTaを含む銀合金層を、例えば故障事象時または銀合金層の作為的なアニーリングにより300℃超の温度にさらす場合、下層の第2種の酸化物超伝導体の磁束ピンニング特性を改善することができる。
【0029】
他の実施形態では、合金元素または元素が銅層に添加され、該合金元素は銅層の粒子成長、粗化、および/または凝集を低減するのに効果的である。効果的な合金元素の例には、銅と固溶体を形成するSn、Znおよび他の元素、ならびに、析出相を形成することのできるZr、Taおよび他の元素が含まれる。合金元素の選択は、合金元素により達成される銅層の所望の抵抗率にある程度基づくことができる。例えば、銅と固溶体を形成する元素の添加は、純銅層と比較して比較的小さな抵抗増加をまねき得る。一方、析出物を形成する元素の添加は、比較的大きな抵抗増加をもたらし得る。
【0030】
種々の実施形態では、合金元素の添加は超伝導テープの超伝導層上に配置した金属層でのシート抵抗を増大するのに工学上効果的である。これは、超伝導テープの単位長さあたりの電圧降下を増加し、それにより、所定SCFCLで必要な超伝導テープの長さを縮小するのに有用である。銅/銀二層系の銅層に合金元素を組み込むことは、2つの方向性でシート抵抗を増加するのに効果的である。第一に、銅の被覆層は超伝導層に接触する銀の下層よりも何倍も厚くてよいことに留意されたい。いくつかのテープ構造では、例えば、銅層の厚さは約20μmで、銀層は1μmである。従って、純銅と純銀はほぼ同じ抵抗率を持つことから、Cu/Agスタックのシート抵抗は、銅被覆層のシート抵抗により支配される。これを踏まえ、種々の実施形態では、Zrなどの合金元素を銅被覆層の抵抗率を増加するため添加する。
【0031】
第二に、Zrなどのいくつかの元素と合金化する際に銅被覆層に加わる凝集または他の不所望な層変化に対する抵抗を増加するため、さらなる実施形態では、超伝導テープにおける銅の総層厚を低減することができる。例えば、いくつかの実施形態では、10マイクロメートルの厚さを有する銅合金を被覆層として使用し、超伝導テープの故障電流を伝導することができる。数%から約20%までの適切な量のZrの添加により、10マイクロメートルの厚さの銅合金層は、20マイクロメートル厚さの純銅フィルムなどのより厚い層を粗化する作用のある高温状態下で、粗化または凝集に抵抗することができる。
【0032】
種々の追加の実施形態では、銅/銀二層系は銅合金と銀合金の両方から構成される。各層の合金元素を調整してコーティング特性の所望の組合せを最適化することができる。いくつかの実施形態では、2以上の元素を銅層または銀層のそれぞれに添加することができる。例えば、スズなどの合金元素は銀層に添加して境界面での伝導性を最適化することができ、一方、ジルコニウムを添加すると下層の超伝導層の磁束ピンニングを改善する。
【0033】
要約すると、本実施形態は、故障状態時の劣化に対する抵抗などのテープ特性を改善するため、単一層または多層の金属合金コーティングで構成した超伝導体テープを提供する。いくつかの実施形態において、金属合金コーティングは、単位テープ長さあたりの電圧降下を増大し、下層の超伝導層の磁束ピンニングを改善するといった追加の性能利点を提供する。本実施形態の超伝導テープは、従来の超伝導テープにおける金属コーティングを製造する技術を含む種々の技術を用いて製造することができる。
【0034】
本開示は、本明細書に記載の特定の実施形態の範囲に限定されるべきではない。実際に、本明細書のものに加え、本開示の他の種々の実施形態および該開示に対する修正は、当業者にとって上記の記載および付随する図面より明らかであろう。よって、こうした他の実施形態および修正は、本開示の範囲内で行われる傾向にある。さらに本開示は、特定の目的のための特定の環境における特定の実施の文脈で本明細書において記述したが、当業者はその有用性がそれに限定されず、本開示は任意の種類目的のため、任意の種類環境において有益に実施できることを理解しよう。よって、下記の請求項は、本明細書に記載した本開示の全ての外延および精神を考慮して解されるべきである。