(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スタッド部と、該スタッド部の端部から軸方向に延びる前記スタッド部より小径のかしめ軸部と、該かしめ軸部の前記スタッド部と反対側の端部から軸方向に延びる前記かしめ軸部より小径のねじ軸部とを有するスタッドボルトであって、前記かしめ軸部が被固定板の開口部にかしめ固定され、前記被固定板の一方の面にはスタッド部が突出し、他方の面にはねじ軸部が突出する構造のスタッドボルトと被固定板との固定構造において、
前記被固定板には前記スタッド部が嵌合するエンボス部が設けられ、
該エンボス部は、スタッド部のかしめ軸部側の外周面に嵌合する筒状部と、前記スタッド部の端部とかしめ軸部との段差部である肩部に密接する端板部と、を有し、該端板部に前記開口部が設けられており、
前記かしめ軸部の前記ねじ軸部側の端部には、径方向外方に張り出して前記被固定板の開口部の周縁部に係合する係合部が設けられ、前記筒状部の内周面と前記スタッド部との嵌合部に、前記被固定板とスタッドボルトの相対回転を規制する回り止め手段が設けられていることを特徴とするスタッドボルトと被固定板との固定構造。
前記回り止め手段は、前記スタッド部の外周面に設けられ、前記エンボス部の筒状部内周に食い込む突起である請求項1に記載のスタッドボルトと被固定板との固定構造。
前記被固定板には、さらに別の締付け板が重ねられ、前記ねじ軸部に螺合するめねじ部材によって前記締付け板が前記被固定板に重ねて締め付け固定される請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスタッドボルトと被固定板との固定構造。
スタッド部と、該スタッド部の肩部から軸方向に延びる前記スタッド部より小径のかしめ軸部と、該かしめ軸部の前記スタッド部と反対側の端部から軸方向に延びる前記かしめ軸部より小径のねじ軸部とを有するスタッドボルトにおいて、
前記スタッド部の外周面には、回り止め手段が設けられていることを特徴とするスタッドボルト。
前記スタッド部には、円筒面部と、円筒面部からスタッド部の肩部に向けて徐々に小径となるテーパー面部が設けられ、前記複数の突起が前記テーパー面部に設けられている請求項9に記載のスタッドボルト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、部品軽量化の影響で、スタッドボルト401はサイズダウンして高強度化され、それに伴い、締付トルクも高くなってきており、固定部のねじり強度を高めることが要請されている。
上記特許文献1の構成では、ねじり耐性を高める部分は、第二シャンク403もしくは第一シャンク402の肩部405にしか存在しておらず、ねじ径に近接する狭小な部分での接合となる。そのため、締付時のトルクに対する耐性には限界があり、スタッドボルト401が高強度ボルトになった場合には、締付け時のトルクによって、捩じり耐性を高めた形状の第二シャンク403もしくは肩部405と金属板410との固定部分が破壊され、スタッドボルト401がナットとともに回転し、締結が行えなくなる可能性がある。これは、かしめる金属板410の板厚が薄くなるほど顕著になり、締付トルクに対するねじり方向の固定強度を維持するということは極めて困難な課題であった。
また、ねじり方向の固定強度だけでなく、固定した後のねじ軸に対する軸直角方向の荷重に対する固定強度も弱いという問題もあった。
【0005】
本発明の目的は、締め付け時のトルクに対するねじり方向の固定強度が高く、しかも、軸直角方向の荷重に対する固定強度の高い構造のスタッドボルトと被固定板との固定構造及びスタッドボルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、
スタッド部と、該スタッド部の端部から軸方向に延びる前記スタッド部より小径のかしめ軸部と、該かしめ軸部の前記スタッド部と反対側の端部から軸方向に延びる前記かしめ軸部より小径のねじ軸部とを有するスタッドボルトであって、前記かしめ軸部が被固定板の開口部にかしめ固定され、前記被固定板の一方の面にはスタッド部が突出し、他方の面にはねじ軸部が突出する構造のスタッドボルトと被固定板との固定構造において、
前記被固定板には前記スタッド部が嵌合するエンボス部が設けられ、
該エンボス部は、スタッド部のかしめ軸部側の外周面に嵌合する筒状部と、前記スタッド部の端部とかしめ軸部との段差部である肩部に密接する端板部と、を有し、該端板部に前記開口部が設けられており、
前記かしめ軸部の前記ねじ軸部側の端部には、径方向外方に張り出して前記被固定板の開口部の周縁部に係合する係合部が設けられ、前記筒状部の内周面と前記スタッド部との嵌合部に、前記被固定板とスタッドボルトの相対回転を規制する回り止め手段が設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、金属板に設けたエンボス部の筒状部とスタッド部との嵌合部に設けた回り止め手段によって、締付トルクを支持する構成となっているので、かしめ軸部の変形度合によらず、ねじり方向の固定強度を高めることができる。
また、回り止め手段は、エンボス部の筒状部とスタッド部の嵌合部に設けているので、締付トルクを支持する長さが大きく、より大きな締付けトルクを支持することができる。
さらに、軸直角方向の荷重についても、エンボス部の筒状部で分散して支持することができ、軸直角方向の荷重に対する固定強度も高くすることができる。
特に、エンボス部に回り止め手段を設けているので、被固定板の板厚に関係なく、その板厚が適用されるねじの1ピッチ以下の厚みでもねじり方向の固定強度を高めることが可能である。さらに、被固定板に、薄い締付け板を重ねて締結する際の締結強度が確保でき、部品周辺の軽量化を図ることができる。
【0007】
前記回り止め手段は、前記スタッド部の外周面に設けられ、前記エンボス部の円筒部内周に食い込む複数の突起とすることができる。
このようにすれば、かしめ軸部のかしめ工程と平行して突起を食い込ませることができる。
また、前記スタッド部の前記被固定板の筒状部との嵌合部は、前記かしめ軸部側に向かって徐々に小径となるテーパー面と
し、前記突起をテーパー面に設けることができる。
このようにすれば、スタッド部をエンボス部の筒状部に嵌合する際に、突起が筒状部に楔状に食い込み、強固に固定することができる。
また、前記突起の最大径は、前記スタッド部の外径以下とすることができる。
このようにすれば、突起があっても、スタッド部に回転部品等の部品を挿入することができる。
また、かしめ軸部の前記被固定板の開口部とのかしめ固定は、前記かしめ軸部の前記ねじ軸部側の端部外周縁が圧潰されて外側に張り出し、前記開口部の周縁部に係合する係合部を備えた構成とすることができる。
このようにすれば、かしめ作業に、一般的なかしめ金型を使用でき、かしめ作業が容易である。
さらに、被固定板の開口部の周縁部に、前記係合部が収納される環状凹部を設けることができる。
このようにすれば、係合部が被固定板が突出することがなく、被固定板に、別の締付け板が重ねられ、ねじ軸部に螺合するめねじ部材によって締付け板が締付け固定する場合に、締付け板を隙間なく重ね合わせることができる。
【0008】
また、別の発明は、スタッド部と、該スタッド部の肩部から軸方向に延びる前記スタッド部より小径のかしめ軸部と、該かしめ軸部の前記スタッド部と反対側の端部から軸方向に延びる前記かしめ軸部より小径のねじ軸部とを有するスタッドボルトにおいて、前記スタッド部
の外周面には、回り止め手段が設けられていることを特徴とする。
前記回り止め手段
を複数の突起とすることができる。
前記スタッド部には、円筒面部と、円筒面部からスタッド部の肩部に向けて徐々に小径となるテーパー面部が設けられ、前記複数の突起が前記テーパー面部に設けられた構成とすることができる。
前記突起の最大径は、前記スタッド部の外径以下とすることが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、締め付け時のトルクに対するねじり方向の固定強度が高く、しかも、軸直角方向の荷重に対する固定強度の高い構造のスタッドボルトと被固定板との固定構造及びスタッドボルトを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係るスタッドボルトと被固定板としての金属薄板との固定構造を示している。
図1において、100は、スタッドボルト1と金属薄板102がかしめ固定されて一体化された組立体としてのスタッドボルトユニットを示すもので、金属薄板102の一側面にプーリ等の部品130が装着されるスタッド部2が突出し、他側面側にねじ軸部5が突出するように固定されている。
スタッドボルト1は、スタッド部2と、スタッド部2より小径のかしめ軸部4と、かしめ軸部4の前記スタッド部2と反対側の端部から軸方向に延びるかしめ軸部4より小径の
ねじ軸部5とを有し、かしめ軸部4が金属薄板102の開口部125にかしめ固定されている。
一方、金属薄板102にはスタッド部2が嵌合するエンボス部122が設けられ、エンボス部122は、スタッド部2のかしめ軸部側の外周面に嵌合する筒状部123と、スタッド部2の端部とかしめ軸部4との段差部である肩部23に密接する端板部124と、を有し、端板部124に開口部125が設けられている。
そして、かしめ軸部4のねじ軸部5側の端部には、径方向外方にかしめられて張り出し、金属薄板102の開口部125の周縁部に係合する係合部42が設けられ、筒状部123の内周面とスタッド部2との嵌合部に、金属薄板102とスタッドボルト1の相対回転を規制する回り止め手段としての突起25が設けられている。
また、この例では、金属薄板102の開口部125の周縁部には、係合部42が収納される環状凹部126が設けられている。
【0012】
[スタッドボルト1の構成]
次に、
図2(A)および
図3を参照して、上記スタッドボルト1について説明する。
スタッドボルト1は、
図2(A)に示すように、スタッド部2と、スタッド部2の端部から軸方向に延びるスタッド部2より小径のかしめ軸部4と、かしめ軸部4のさらに先端側(スタッド部2と反対側の端部)に軸方向に延びるねじ軸部5とを有している。ねじ軸部5は、かしめ軸部4より小径である。
スタッド部2は、頭部22と、頭部22の径よりも小径でねじ先端側がテーパー形状となるシャンク部21とを有する段付き形状で、シャンク部21から凹凸のない平滑な座面をもった肩部23に繋がっており、肩部23を介してかしめ軸部4に接続されている。肩部23は、ボルト中心軸線Nに対して直交する円環状の平坦面によって構成されている。
【0013】
シャンク部21は、頭部22側の円筒面部21aと、ねじ先端側のテーパー形状となるテーパー面部24とを有し、テーパー面部24は、円筒面部21a側の端部が最大径で、肩部23に向かって徐々に小径となり肩部23側の端部が最小径の円錐台形状となっている。
このテーパー面部24の、ボルト中心軸線Nを通る面で切断した断面におけるボルト中心軸線Nとテーパー面部24とのなす角度をテーパー角度αとすると、テーパー角度αは15°程度に設定されているが、10°〜20°の範囲に設定することが好ましい。
そして、テーパー面部24には、回り止め手段としての突起25が円周方向に複数設けられている。図示例では、突起25は6か所に等配されているが、数は任意であり、場合によっては、1か所でもよい。
突起25は、シャンク部21の円筒面部21aをテーパー面部24側に延長した仮想円筒面内に収まるように、すなわち、突起25が仮想円筒面より外方に突出しないように、突起25の形状および寸法が設定され、シャンク部21を回転軸として組み込んで使用される回転部材等の部品130の挿入性や円滑な回転を阻害しないものになっている。
【0014】
[突起25の構成]
突起25は、
図3(A)に示すように、テーパー面部24の表面形状である円錐台の母線(ボルト中心軸線Nを通る面とテーパー面部24との交線)方向に沿って、テーパー面部24の最大径部から最小径部まで、直線状に延びている。
突起25をボルト中心軸線Nに対して直交する面で切断した断面形状は、三角形状であり、テーパー面部24の母線方向に平行に延びる直線状の稜線25tと、稜線25tを境に円周方向両側に傾斜する斜面25c、25cとを有している。稜線25tのテーパー面部24からの高さ(h)は、母線方向に一定である。
【0015】
突起25の大径部側端部25a(テーパー面部24の大径端側、すなわち円筒面部21a側に位置する端部)は、突起25が、円筒面部21aを延長した仮想円筒面によってV
字状にカットされた形状であり、エッジ部25a1,25a1は、稜線25tの一端から円筒面部21aに向けてY字形状に分岐し、円筒面部21aとテーパー面部24との円形の大径境界線C1に繋がっている。
この大径部側端部25aは、ボルト中心軸線Nからの径が、円筒面部21aの径と同一径であり、突起25の最大径部となっている。突起25の最大径は、円筒面部21aの径以下であればよく、大径部側端部25aを円筒面部21aに対して小径としてもよい。
図3(C)は、突起25の大径部側端部25aを正面から見た図、すなわち、ボルト中心軸線Nに対して直交方向で、稜線25tがボルト中心軸線Nと重なる方向に見た図である。図において、エッジ部25a1,25a1間の頂角の角度θ1とすると、θ1は30°〜60°程度とすることが好ましい。θ1は、突起25のテーパー面部24からの高さhと、大径境界線C1上でのエッジ部25a1,25a1間の幅によって決まるもので、θ1によって高さを評価できる。
エッジ部25a1、25a1は、
図3(C)では直線的に記載しているが、実際は円筒面に沿った立体的な曲線であり、エッジ部25a1,25a1間の角度θ1は、
図3(C)の正面視で、エッジ部25a1、25a1と大径境界線C1との交点a、bと、稜線25tの端点t1とを結んだ直線間の角度としている。
【0016】
一方、突起25の小径部側端部25b(テーパー面部24の小径端側、すなわち肩部23側の端部)は、
図3(B)に示すように、突起25をボルト中心軸線Nに対して直交面でカットした形状で、肩部23側からボルト中心軸線Nと平行方向に見て、頂角がθ2の三角形状となっている。θ2は、70°〜120°程度に設定される。
すなわち、小径部側端部25bの一対のエッジ部25b1,25b1は、稜線25tの肩部側の端点からY字形状に分岐し、テーパー面部24と肩部23との角に位置する小径境界線C2に繋がっている。
なお、この小径部側端部25bは、
図3(D)に示すように、ボルト中心軸線と直交する面ではなく、ボルト中心軸線と直交面、すなわち、肩部23に対して、円筒面部21a側に向かってボルト中心軸線からの距離が大径となる方向に所定角度γだけ傾斜するように構成してもよい。
また、
図3(E)に示すように、小径部側端部25bが直線的ではなく、円弧状に傾斜するような構成とすることもできる。
さらに、
図3(D)、(E)において、大径部側端部25aと小径部側端部25b間の稜線25tの長さは任意であり、大径部側端部25aと小径部側端部の頂点が一点で交わるような構成としてもよい。
【0017】
[かしめ軸部4の構成]
図2(A)に示すように、かしめ軸部4は円柱形状で、平滑な肩部23に接続されており、突起や凹凸が無い平滑な円筒面によって構成される外周部を持ち、その軸径d4は、ねじ軸部5の外径d5よりも若干大きくなっており、後述するかしめ固定される金属薄板102の開口部125の口径Pd4よりも若干小さくなっている。また、カシメ後の特性を確保するため、凹凸のない平滑な肩部23からかしめ軸部4の終端(ねじ軸部5側の端部)までの長さmは、母材となる金属薄板102の板厚Ptよりもかしめ代分だけ長くなっている。このかしめ軸部4の長さmは、金属薄板102の板厚に対して、1.1〜1.5倍程度長くすることが好適である。
【0018】
[ねじ軸部5の構成]
ねじ軸部5は、
図3に示すように、かしめ軸部4に続き、ねじ軸部5側には完全山の形状で山高さが低い導入ねじ山52が存在し、導入ねじ山52の山高さが徐々に高くなり、外径がJIS規格値を満足する完全ねじ山51に移行する。導入ねじ山52の開始位置は、めねじ部品との完全山の嵌合比率を確保するため、肩部23の端面から導入ねじ山52の開始位置までの距離L3は、2ピッチ以内に収める必要がある。
この導入ねじ山52から完全なねじ山高さをもつ完全ねじ山51までの谷部53の谷径d6は、めねじJIS規格値の内径最小値よりも小さい径となっている。
【0019】
[金属薄板102の構成]
次に、
図2(B)を参照して、金属薄板102について説明する。
金属薄板102は、平板部121と、平板部121から局部的に凸形状に突出するエンボス部122と、を有し、このエンボス部122にスタッド部2のテーパー面部24が嵌合するようになっている。
エンボス部122は、スタッド部2のかしめ軸部4側の外周面、この実施形態ではスタッド部2のテーパー面部24に嵌合する筒状部123と、肩部23に密接する端板部124と、を有し、端板部124に開口部125が設けられている。
筒状部123は、基本的に円筒形状であり、図示のように若干のテーパー形状となっていてもよい。すなわち、図示例では、端板部124側から平板部121に向けて徐々に拡径するテーパー形状で、テーパー角度βは、スタッドボルト1のスタッド部2のテーパー面部24のテーパー角度αと同等かそれよりも小さい角度(円筒形状の0°を含む)に設定される。
また、エンボス部122の深さL2は、スタッドボルト1のテーパー面部24の軸方向長さL1よりも大きく、組み付け時にテーパー面部24がエンボス部122内に隠れるようになっている。
また、筒状部123の内周は、スタッド部2の肩部23がエンボス部122の底面(端板部124の内側端面)に当接した状態で、筒状部123の内周にテーパー面部が嵌合する寸法関係となっており、各突起25が筒状部123の内周に高さh分だけ食い込むようになっている。この例では、稜線25tに沿って突起25が軸方向全長に亘って食い込む構成となる。
もっとも、
図3(D)、(E)に示したように、突起25の頂部が稜線25tを形成していなくもよいし、テーパー面部24と筒状部123の内周面のテーパー角度が一致していなくもよい。要するに、突起25と筒状部123の内径との関係が、スタッド部2の肩部23がエンボス部122の底面に当接した状態で、テーパー面部24にある突起25が筒状部内周に食い込む構成となっていればよい。
【0020】
[スタッドボルト1と金属薄板102のかしめ工程]
次に、
図4を参照して、上記スタッドボルト1と金属薄板102とのかしめ工程について詳細に説明する。
使用するかしめ金型200は、スタッドボルト1のねじ軸部5が挿入可能な断面円形の孔201を備えた段付き円筒体であって、ねじ軸部5が挿入される側の端面が金型面203としてベース部204に対して円筒状に突出しており、金型面203に開口する孔201の開口縁には、さらに環状凸部202が突出している。
環状凸部202の内径は孔201の内径Daと同一径で、かしめ軸部4の軸径d4よりも小径で、かつ、ねじ軸部5の外径d5よりも大径である。口元には通常ボルトのねじ山の頂部とほぼ同程度の大きさのRが付与されている。
環状凸部202の外径Dbは、かしめ軸部4に嵌合する金属薄板102のエンボス部122の端板部124に設けられた開口部125の口径Pd4よりも大きい。また、環状凸部202の端面から隆起する高さT1は、0.2〜0.4mm程度である。
【0021】
まず、
図4(A)に示すように、部品130をスタッドボルト1のシャンク部21に挿入し、ねじ軸部5からかしめ軸部4を金属薄板102のエンボス部122に設けられた端板部124の開口部125に挿入した状態で、かしめ金型200にセットする。
かしめ軸部4が開口部125に入り込む過程で、スタッド部2のテーパー面部24がエンボス部122の筒状部123内に入り込むが、テーパー面部24に付与された突起25がエンボス部122の筒状部123の内壁と干渉し、肩部23とエンボス部122の端板
部124とは密着していない。すなわち、突起25の稜線25tが、筒状部123の内周面に、ほぼ線接触した状態で保持される。一方、エンボス部122の端板部124の反肩部側の端面は、開口部125の周縁部において、かしめ金型200の環状凸部202の端面に当接して保持されている。
この状態で、プレス機にセッティングされ、スタッドボルト1の頭部22に対して、パンチ400でかしめ金型200の方向にカシメ荷重を負荷し、スタッドボルト1と金属薄板102を圧着して一体化する。
図4(B)は、圧着固定した状態を示している。
カシメ荷重を負荷する過程で、テーパー面部24にある突起25が、低い荷重で、稜線25tからエンボス部122の筒状部123の内壁にくさび状に喰いこんでいき、同時にかしめ金型200の環状凸部202によって、かしめ軸部4のねじ軸部5側の端面の外径側端縁が、軸方向にしごかれ、押し広げられるように塑性変形して拡張し、エンボス部122のかしめ金型200と接触する面の開口部125の周縁に押し広げられ、スタッド部2の肩部23の凹凸のない平滑な座面とエンボス部122の端板部の内側の座面とが密着した状態でかしめられる。押し広げられた部分が端板部124の開口部125の周縁に係合する係合部42を構成する。
さらに、加圧することで、環状凸部202によって、開口部125の周縁を押圧し、金型面203が金属薄板102の端板部124の外側端面に当接するまでかしめ、かしめ固定が終了し、
図1に示した、スタッドボルトユニット100が完成する。
かしめ固定が終了した位置では、
図1に示すように、金属薄板102のエンボス部122における端板部124の開口部125の周縁部に、係合部42を含めて端板部124の開口部周縁部に環状凹部126が形成され、端板部124の外側端面の延長面(締結プレートの密着面)から、係合部42がねじ軸部5側に突出しない構造となっている。
[治具の使用]
次に、
図9を参照して、上記スタッドボルト1と金属薄板102とのかしめ工程で使用可能な治具について説明する。
治具300は、テーパー面部24にある突起25が、エンボス部122の筒状部123の内壁に喰いこむ際に、筒状部123が拡径する方向に逃げるのを防止するものである。治具300は、内周がかしめ金型200の金型面203とベース部203間の円筒状の周壁204aに嵌合する厚肉の円筒状部材で、治具300の上面の高さは、ベース部204から金型面203の高さよりも高く、上面の開口端部の内周に半径方向内方に突出する環状の内向きフランジ部305が設けられている。内向きフランジ部305の下面は、治具300の下面がベース部204に載置された状態で、金型面203に当接するようになっている。
内向きフランジ部305の厚さZは、端板部124の下面(金型に当接する面)から、平板部121の下面までの高さHと同一に設定されている。また、内向きフランジ部305の内周面301は円筒面で、治具300が筒状部123外周に食い込まないように、筒状部123の外径よりも内向きフランジ部305の内径の方が若干大きく設定されている。また、内向きフランジ部305の内周面301と上面の角部には、金属薄板102の平板部121と筒状部123の隅角部との干渉を避ける面取り301aが設けられている。面取り301aの代わりにR形状としてもよい。
治具300がかしめ金型200に組み込まれた状態では、
図9(A)に示すように、治具300の上面と平板部121との隙間T2が、かしめ金型200の環状凸部202の金型面203からの突出高さT1と等しくなるように設定されている(T1=T2)。
上記T1は、環状凸部202が金属薄板102の端板部124とボルトのかしめ軸部4をかしめる高さであり、T2は、金属薄板102全体が、T1の長さ分、下に動くとき距離であり、T1=T2に設定することにより、金属薄板102の筒状部122が拡径するのを確実に防ぐことができる。
すなわち、かしめ過程にて、テーパー面部24にある突起25が、エンボス部122の筒状部123の内壁に喰いこむ際に、平板部121がハの形状に開く方向のモーメント荷
重が作用するが、平板部121が治具300の上面によって支えられるので、平板部121の変形が防止され、突起25を筒状部123の内壁に確実に喰い込ませることができる。
T2>T1の場合には、筒状部123の拡径を充分に防ぐことができず、拡径してしまう。一方、T2<T1の場合には、第1治具300で金属薄板102の平板部121を拘束した後に、さらに端板部124が下方に移動するために、金属薄板102の筒状部102を変形させてしまう。
T1=T2とすることで、金属薄板102が拡径や変形せずに、強固なかしめを行うことができ、軸直角方向の荷重に対する固定強度、及びかしめ部の破壊トルクを高く維持することができる。
【0022】
[締結構造]
図7(A)には、
図1のスタッドボルトユニット100の金属薄板102に締付け板である締結プレート310を重ね、めねじ部材であるナット320で締め付け固定した締結例を示している。
この例では、開口部125の周縁部に係合部42を収容する環状凹部126が設けられているので、締結プレート310を、締結プレート310の下穴の大きさに拘わらず、金属薄板102との間に隙間が無いように密着させて締付け固定することができる。したがって、締結プレート310と金属薄板102が密着し、強固に固定することができる。
また、締付時には、スタッド部2のテーパー面部24に設けられた突起25が、金属薄板102のエンボス部122の筒状部123に食い込んでいるので、締付け時の締め付けトルクに対する耐性が高く、薄板であっても、高いトルクで締め付けることができる。
すなわち、かしめ軸部4の変形度合によらず突起25の喰い込み代を確保され、また、締付トルクを支持する長さが大きく、より大きな締付けトルクを支持することができる。
このように、締付けトルクに対する耐性はテーパー面部24にある突起25で負担するため、かしめ軸部4の係合部42は小さく抑えることができる。また、トルク耐性の向上代は、突起25の個数とシャンク部21の外径寸法、更にエンボス部122の深さに比例することから、この3つの因子を要求される仕様に対して最適化することで、かしめ軸部4は最小限の固着力を確保するための係合部42があるだけで良い。
さらに、軸直角方向の荷重についても、開口部125よりも大径のエンボス部122の筒状部123で分散して支持することができ、軸直角方向の荷重に対する固定強度も高くすることができる。
特に、エンボス部122の筒状部123に食い込む突起25の食い込み構造によって回り止めを図っているので、金属薄板102の板厚が、適用されるねじの1ピッチ以下の厚みでも、ねじり方向の固定強度を高めることが可能である。
また、金属薄板102に薄い締結プレート310を重ねて締結する際の締結強度が確保でき、部品周辺の軽量化を図ることができる。また、締結プレート310の板厚についても、適用されるスタッドボルト1のねじの1ピッチ以下の厚みでも締結することが可能となった。
本発明は、金属薄板102に突出するスタッド部2を様々な部品装着に適用できると同時に、部品装着した構造体を、先端にあるねじ軸部5を使用して様々な締結プレートへ締結する際、その板厚が、適用されるねじの1ピッチ以下の厚みでも締結することが可能となった。
【0023】
[他の実施形態]
図5には、
図2のスタッドボルトと金属薄板との他のかしめ金型で固定する方法、
図6には、
図5のかしめ金型で固定したスタッドボルトと金属薄板の固定構造を有するスタッドボルトユニット100A、
図7(B)には、スタッドボルトユニット100Aを用いた締結プレートの締結構造を示している。
いずれも、上記実施形態と基本的な構成は同一であるので、以下の説明では異なる点に
ついてのみ説明し、同一の構成部分については、同一の符号を付して説明を省略するものとする。
[固定方法について]
図5に示すように、かしめ金型200Aの金型面203Aは平坦面で、
図4に示したような環状凸部は設けられていない。
図5(A)では、かしめ軸部4は金属薄板102の開口部125に入り込み、凹凸のない平滑な肩部23とエンボス部122の端板部124とが密着せず、スタッド部2のテーパー面部24に付与された突起25がエンボス部122の筒状部123の内壁と干渉した状態でセットされた状態となっている。金属薄板102の端板部124は、かしめ金型200Aの平坦な金型面203Aに全面的に当接接触して保持される。金型面203Aは、
図4と同様に、ベース部204Aに対して円筒状に突出している。
この状態でプレス機にセッティングされ、
図4の例と同様に、スタッドボルト1の頭部22に対して、プレス機のパンチ400でかしめ金型200A方向に荷重を負荷し、スタッドボルト1と金属薄板102を圧着して一体化し、スタッドボルトユニット100Aが組み立てられる。
【0024】
[スタッドボルトユニット100A]
このように組み立てられたスタッドボルトユニット100Aは、
図6に示すように、金属薄板102の開口部125の周縁部に環状凹部はなく、かしめ軸部4の係合部42は、金属薄板102の開口部125の周縁部に被さり、端板部124の外側端面からは、ねじ軸部5側に若干突出する構造となる。
[締結構造]
図7(B)は、
図6のスタッドボルトユニット100Aを用いた締結例を示している。この例では、係合部42が金属薄板102の開口部125の周縁に露出しているが、その範囲は狭小であり、締結プレート310と干渉しないように、締結プレート310の下穴311内に納めている。
【0025】
次に、
図10及び
図11を参照して、かしめ強度に関する強度試験について説明する。
図10(A)は、軸直角方向の荷重に対するかしめ部の固定強度の試験方法の説明図、
図10(B)は試験結果を示す図である。
サンプルとして、スタッド部に突起を設けた本発明の実施例サンプル(実施例1に対応)と、実施例サンプルに対して突起を設けない比較例サンプルと、をそれぞれ3つ用意した。
試験方法としては、
図10(A)に示すように、ねじ軸5を試験機のチャック部330に固定し、スタッド部2に対して、軸直角方向に荷重を負荷した。スタッド部2には、試験治具320をあてがい、スタッド部2の肩部を基準位置とし、基準位置から頭部22までの距離X(mm)に対して、(0.6〜0.8)X(mm)の位置に、試験治具320を介して軸直角方向の荷重を負荷し、かしめ部が破壊するまでの破壊荷重を固定強度(kN)とした。試験機としては、株式会社島津製作所製の精密万能試験機(型番:AG−25TD)を用いた。
試験の結果は、
図10(B)に示すように、平均をとると、突起の無い場合は、0.77kNで、かしめ部が破壊したのに対して、突起がある本実施例サンプルでは、1.59kNと、ほぼ2倍の強度であった。
【0026】
図11(A)は、かしめ部が破壊に至る破壊トルクの試験方法の説明図、
図11(B)は試験結果を示す図である。
試験サンプルとして、かしめ部の軸直角方向の試験と同じく、スタッド部に突起を設けた本発明の実施例サンプル(実施例1に対応)と、実施例サンプルに対して突起を設けない比較例サンプルと、をそれぞれ5つ用意した。サンプルの寸法等は上記試験と同じである。
試験方法としては、
図11(A)に示すように、金属薄板102を試験機の回り止め部材350に固定し、ねじ軸5をチャック部340に固定し、かしめ部が破壊するまで、ねじ軸5と金属薄板102間にトルクを負荷し、かしめ部が破壊した時点のトルクを破壊トルク(N・m)とした。試験には、トルクレンチを使用した。
試験の結果は、
図11(B)に示すように、平均をとると、突起の無い場合は、9.90(N・m)でかしめ部が破壊したのに対して、突起がある本実施例サンプルでは、12.00(N・m)と、ほぼ20%程度、破壊トルクが大きくなった。
【0027】
なお、上記実施形態では、回り止め手段が、エンボス部122の筒状部123内周に食い込む突起25によって構成されているが、このような構成に限定されない。たとえば、スタッド部とエンボス部の筒状部との嵌合面間に、互いに係合する凹凸形状を有する構成としてもよいし、また、嵌合部を多角形断面形状、非円形断面形状としてもよく、要するに相対回転を規制する構造であればよい。
【課題】締め付け時のトルクに対するねじり方向の固定強度が高く、しかも、軸直角方向の荷重に対する固定強度の高い構造のスタッドボルトと被固定板との固定構造及びスタッドボルトを提供する。
【解決手段】被固定板102にはスタッド部2が嵌合するエンボス部122が設けられ、エンボス部122は、スタッド部2のかしめ軸部側の外周面に嵌合する筒状部123と、スタッド部2の肩部23に密接する端板部124と、を有し、端板部124に開口部125が設けられており、かしめ軸部4のねじ軸部側の端部には、径方向外方に張り出して被固定板102の開口部125の周縁部に係合する係合部42が設けられ、筒状部123の内周面とスタッド部2との嵌合部に、被固定板102とスタッドボルト1の相対回転を規制する回り止め手段25が設けられている。