(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420611
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】電着塗装される異種金属部材相互の締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20181029BHJP
F16B 39/282 20060101ALI20181029BHJP
B62D 25/16 20060101ALN20181029BHJP
【FI】
F16B35/00 K
F16B39/282 Z
!B62D25/16 B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-200087(P2014-200087)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-70364(P2016-70364A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】辻 智子
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−272541(JP,A)
【文献】
特開2013−038253(JP,A)
【文献】
実開昭59−122417(JP,U)
【文献】
特開2010−084812(JP,A)
【文献】
特開2006−077953(JP,A)
【文献】
特開2013−257013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装される異種金属部材相互の締結に用いられ、前記異種金属部材のうち螺入方向下側の金属部材と同種の金属材料で形成され、頭部の座面から突出する突起部と、少なくとも前記座面を絶縁被覆する被覆膜部と、を有し、前記座面における前記突起部から該座面の外側端部までの領域の距離が3mm以上である金属製ボルトを、対応するナットと係合させて前記異種金属部材相互を接合した、電着塗装される異種金属部材相互の締結構造であって、
前記金属製ボルトを対応するナットと係合させて前記異種金属部材相互を接合した状態で、前記突起部が前記異種金属部材のうち螺入方向上側の金属部材に直接接触し、且つ前記座面における前記突起部から該座面の外側端部までの領域を被覆する被覆膜部が前記螺入方向上側の金属部材に対して密着することを特徴とする、電着塗装される異種金属部材相互の締結構造。
【請求項2】
前記頭部の下部は、平面視略円形のフランジ部であり、
該フランジ部の径方向外側端縁部が、縦断面視で角のない湾曲端部となっていること特徴とする請求項1に記載の電着塗装される異種金属部材相互の締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材相互の締結に用いる金属製ボルトに関し、特に、電着塗装される異種金属部材相互の締結に用いる金属製ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両における車体の軽量化のために、主に鋼材等の鉄系材料からなる車体構成部材に対してアルミニウム製部材を採用するニーズが高まっている。しかし、アルミニウム製部材を鉄系材料からなる車体構成部材に対して単に接合したのでは、接合される両部材の接触部(両部材の接合に用いられるボルト等の鉄系部材とアルミニウム製部材との接触部も含む)において局部電池形成に伴う電位差腐食が発生するという問題がある。また、アルミニウム製部材の表面に電着塗装を施す場合、アルミニウム製部材の表面に対する電着塗料の付着性を高めるために事前にアルミニウム製部材の表面に化成処理が行われるところ、鉄系材料の車体構成部材とアルミニウム製部材の接触部付近ではアルミニウム部材表面上への化成被膜の形成が阻害される。したがって、両部材の接触部付近の電着塗料の付着性が低下する。
【0003】
かかる電位差腐食及び化成被膜形成の阻害(以下、化成処理不良という)の問題は、両部材の接合部に絶縁被膜を施すことで解消するが、絶縁被膜を施すとなると接合部における部材間の導通が遮断され、アルミニウム製部材表面への電着塗装が行えないこととなってしまう。
【0004】
そこで、接合される部材間に別途導通接点を設け、電着塗装後にこの導通接点を解消するといった処置がとられていた。
【0005】
特許文献1には、異なる部材相互の接触部における導通を確保しつつ、この接触部への水の浸入を防止する技術が開示されている。具体的には、
図7に示すように、アースボルト100の頭部101の座面101aには、金属板102の表面の絶縁被膜103をはぎ取り可能な円環状に配置された突起部101bが設けられている。これによれば、アースボルト100の金属板102への取付け状態において、突起部101bと金属板102が接触し、アースボルト100及び金属板102間の導通が確保される。同時に、金属板102表面の絶縁被膜103は突起部101bにより切断され、この切断されて生じた絶縁被膜103の各端部に突起部101bの両側面が覆われるので、アースボルト100及び金属板102の接触部の水密性が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−219854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、アルミニウム製部材及び鉄系材料からなる車体構成部材の接合部に絶縁被膜を施し、電着塗装前に別途導通接点を設け、電着塗装後に導通接点を解消することは、工数アップによる生産性の低下を招く。
【0008】
また、特許文献1のアースボルトによれば、絶縁被覆された金属板へのアースボルトの締結という簡易な操作でアースボルト及び金属板間の導通を確保しつつ、円環状の突起部により突起部からアースボルト軸部側への水密性が確保されるので、異種金属部材を用いた場合であってもアースボルト及び金属板間の電位差腐食を防止することができる。しかしながら、特許文献1は電気機器から自動車等の筐体となる金属板にアースをとる技術であるから、金属板の表面は帯電する金属板表面を絶縁すべく絶縁被覆が既に施されていることを前提としており、その表面には化成処理も電着塗装も施すことはできない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡易な構成で局部電池形成に伴う電位差腐食及び化成処理不良の生じない、電着塗装される異種金属部材相互の締結に用いる金属製ボルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、電着塗装される異種金属部材相互の締結に用いら
れ、前記異種金属部材のうち螺入方向下側の金属部材と同種の金属材料で形成され、頭部の座面から突出する突起部と、少なくとも前記座面を絶縁被覆する被覆膜部と、を有
し、前記座面における前記突起部から該座面の外側端部までの領域の距離が3mm以上である金属製ボルトを、対応するナットと係合
させて前記異種金属部材相互を接合した
、電着塗装される異種金属部材相互の締結構造であって、前記金属製ボルトを対応するナットと係合
させて前記異種金属部材相互を接合した状態で、前記突起部が前記異種金属部材のうち螺入方向上側の金属部材に直接接触し、且つ前記座面における前記突起部から該座面の外側端部までの領域を被覆する被覆膜部が前記螺入方向上側の金属部材に対して密着
することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、頭部の下部の形態を、突起部と螺入方向上側の金属部材との直接接触に起因する化成処理不良の生じる範囲が座面における突起部から座面の外側端部までの領域内に留まるように設定しているので、金属製ボルトとナットによる異種金属部材相互の接合状態で、螺入方向上側の金属部材の表面のうち金属製ボルトの頭部の下部に無い領域(すなわち、化成処理液が触れる領域)は化成処理によって良好な被膜形成がなされ、良好な電着塗装を施すことが可能となる。
【0012】
さらに、金属製ボルトとナットによる異種金属部材相互の接合状態で、座面における突起部から座面の外側端部までの領域を被覆する被覆膜部が螺入方向上側の金属部材に対して密着しているので、金属製ボルトと螺入方向上側の金属部材との導通及び両部材の接触部の水密性が確保され、被水環境下においても電位差腐食が生じない。
【0013】
そのうえ、異種金属部材相互の締結はボルトとナットの係合という従来どおりの操作と変わるところがなく、生産性の低下も生じることがない。
【0015】
また、この構成によれば、車両における車体の電着塗装に先だって行われる一般的な化成処理の条件のもとで異種金属部材相互の接触部位から半径3mm未満の範囲が化成処理不良の生じる範囲となるところ、座面における突起部から座面の外側端部までの距離を3mm以上とすることで螺入方向上側の金属部材の表面のうち金属製ボルトの座面に覆われていない領域は化成処理によって良好な被膜形成がなされ、良好な電着塗装が可能となる。
【0016】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の
電着塗装される異種金属部材相互の締結構造において、前記頭部の下部は、平面視略円形のフランジ部であり、該フランジ部の径方向外側端縁部が、縦断面視で角のない湾曲端部となっていること特徴とする。
【0017】
この構成によれば、フランジ部の径方向外側端縁部が縦断面視で角の無い湾曲端部となっているから、突起部を除いて螺入方向上側の金属部材と座面とは鋭角的な接触がなく、この接触により座面の絶縁被膜がはがれるおそれがない。すなわち、座面における突起部から座面の外側端部までの領域の被覆膜部による被覆が確保され、化成処理不良の生じる範囲をこの被覆領域内により確実に留めることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、頭部の下部の被覆領域が化成処理不良の生じる範囲を水密性を有しつつカバーしているので、異種金属部材相互の接合に起因する電位差腐食及び化成処理不良が生じない。したがって、電着塗装後の螺入方向上側の金属部材表面は良好に電着塗装がなされ、水との接触による腐食の問題も解消する。同時に、ボルトとナット締めという簡易な構成であるから、車両等の車体の生産性を低下させることもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)本発明の実施の形態に係る金属製ボルト10の一部破断側面図、及び(B)底面図である。
【
図2】本実施の形態に係る金属製ボルト10の使用状態を説明するための、車両のフロント部の車幅方向断面の要部拡大図である。
【
図3】(A)異種金属部材の接触に起因する化成処理不良の生じる範囲の検討試験に用いた試料の説明図、及び(B)同図(A)のIII
B−III
B線断面図である。
【
図4】検討試験結果を、化成結晶の評点を縦軸とし、接点からの距離を横軸として示した図である。
【
図5】良好な化成処理状態(評点5)を示す電子顕微鏡写真である。
【
図6】化成処理不良の状態(評点3)を示す電子顕微鏡写真である。
【
図7】従来のアースボルト及びこのアースボルトと金属板との接合状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて詳細に説明する。電着塗装される異種金属部材相互の締結に用いられる本実施の形態に係る金属製ボルト10を、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0021】
図1(A)は本発明の実施の形態に係る金属製ボルト10の一部破断側面図であり、同図(B)は底面図である。
【0022】
同図(A)に示すように、本実施の形態に係る金属製ボルト10は頭部12の下部がフランジ部14となるフランジ付き六角ボルト(いわゆるフランジボルト)である。頭部12は、平面視略6角形状であって、下部は平面視略円形のフランジ部14となっている。金属製ボルト10の軸部16は、対応するナットサート(ナット)40の雌ネジ部と螺合する雄ネジ部(ネジ山)16aが設けられている。フランジ部14の下面が、金属製ボルト10の螺入方向上側の金属部材(フェンダ42)の表面と当接する頭部12の座面18となる。
【0023】
座面18は、水平面ではなく軸部16の軸芯位置を頂点として径方向外方の外側端部18aに向かって僅かに下方に傾斜するテーパ状となっており、外側端部18a付近で緩やかに上方へ湾曲してフランジ部14の上面部14aに連続する。すなわち、フランジ部14の径方向外側端部14bは、縦面視で略U字状の角のない湾曲端部となっている。なお、上記座面18の傾斜は、見た目に気付かない程度の僅かな傾斜である。
【0024】
また、
図1(B)に示すように、座面18の軸部16側には、下方に突出する円錐形状の6個の突起部18bが、軸部16を中心に底面視で円形に且つそれぞれ等間隔に配置されている。
【0025】
金属製ボルト10は、後述する金属製ボルト10の螺入方向下側の金属部材(アッパフレーム44)と同種の鉄系の金属材料で形成され導電性を有するが、表面全体が樹脂製の無色透明の絶縁被膜(被覆膜部20)により覆われている。
【0026】
頭部12の下部、すなわち、フランジ部14の形態は、突起部18bと後述する螺入方向上側の金属部材(フェンダ42)の直接接触に起因する化成処理不良の生じる範囲が座面18における突起部18bから座面18の外側端部18aまでの領域Aの範囲内に留まるように設定されている。好ましくは、座面18における突起部18bから座面18の外側端部18aまでの領域Aの距離Dは、3mm以上である。本実施の形態においては、この距離Dは3mmである。
【0027】
金属製ボルト10の各部の寸法は、座面18の径方向内側端部から径方向外方の外側端部18aまでの距離が5mm以上であり、突起部18bの幅が2mm以下であり、突起部18の高さは0.3mm以上であり、座面18の径方向内側端部から径方向外方の外側端部18a間の高さが0.2mm未満である。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係る金属製ボルト10の使用状態ともいうべき、異種金属部材が相互に締結された状態について、
図2に基づき説明する。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る金属製ボルト10の使用状態を説明するための、車両のフロント部の車幅方向断面の要部拡大図である。本実施の形態においては、金属製ボルト10は、フェンダ42及びアッパフレーム44を締結し、両部材の接合部の上部は、ボンネット46の端部側によって覆われている。
【0030】
フェンダ42はアルミニウム製であり、アッパフレーム44は鉄系の金属部材で形成されている。すなわち、両者は互いに異種金属部材の関係にあり、図示のように、フェンダ42は金属製ボルト10の螺入方向上側の金属部材、アッパフレーム44は金属製ボルト10の螺入方向下側の金属部材である。
【0031】
図示のように、アッパフレーム44の上面に表面を絶縁被覆した環状板材48、フェンダ42を順に重ねて配置されており、それぞれのボルト用挿通孔を位置合わせして金属製ボルト10の軸部16がこのボルト用挿通孔に挿通され、対応するナットサート40が軸部16に螺着され、強く締め付けられている。この締め付けにより金属製ボルト10のフランジ部14が弾性変形して突起部18bを除く座面18の領域が被覆膜部20を介してフェンダ42の表面と密着する。同時に、突起部18bの先端を覆う絶縁膜部20はフェンダ42の表面に押付けられて破断し、突起部18bの先端はフェンダ42の表面に直接接触して食い込む。
【0032】
金属製ボルト10によるフェンダ42とアッパフレーム44の締結状態において、絶縁被覆された環状板材48が介在するのでフェンダ42とアッパフレーム44は直接の電気的接点を有さない。しかし、ナットサート40が軸部16に螺着された際に雄ネジ部16aの被覆膜部20が破れ、軸部16aとナットサート40は直接接触する。また、ナットサート40は鉄系材料であり、且つ絶縁被覆されていないため、ナットサート40とアッパフレーム44は直接接触している。
【0033】
したがって、
図2の矢印200に示すように、アッパフレーム44は、ナットサート40及び金属製ボルト10を介してフェンダ42に対して導通する。すなわち、別途の導通接点を設けることなく、フェンダ42及びアッパフレーム44を含む車体全体を一つの陰極(カチオン電着塗装の場合である)として、電着塗装を車体全体に施すことができる。なお、矢印200の矢視方向は、カチオン電着塗装を行う場合の電流の流れる方向を示している。
【0034】
本実施の形態によれば、頭部12の下部であるフランジ部14の形態を、突起部18bとフェンダ42(螺入方向上側の金属部材)との直接接触に起因する化成処理不良の生じる範囲が座面18における突起部18bから座面18の外側端部18aまでの領域内に留まるように設定しているので、金属製ボルト10とナットサート40(ナット)による異種金属部材相互の接合状態で、フェンダ42の表面のうち金属製ボルト1012の頭部の下部に覆われていない領域(すなわち、化成処理液が触れる領域)は化成処理によって良好な被膜形成がなされ、良好な電着塗装を施すことが可能となる。
【0035】
さらに、金属製ボルト10とナットサート40(ナット)による異種金属部材相互の接合状態で、座面18における突起部18bから座面18の外側端部18aまでの領域を被覆する被覆膜部20がフェンダ42(螺入方向上側の金属部材)に対して密着しているので、金属製ボルト10とフェンダ42との導通及び両部材の接触部の水密性が確保され、被水環境下においても電位差腐食が生じない。
【0036】
そのうえ、異種金属部材相互の締結はボルトとナットの係合という従来どおりの操作と変わるところがなく、生産性の低下も生じることがない。
【0037】
また、車両における車体の電着塗装に先だって行われる一般的な化成処理の条件のもとで異種金属部材相互の接触部位から半径3mm未満の範囲が化成処理不良の生じる範囲となるところ、座面18における突起部18bから座面18の外側端部18aまでの距離を3mm以上とすることでフェンダ42(螺入方向上側の金属部材)の表面のうち金属製ボルト10の座面18に覆われていない領域は化成処理によって良好な被膜形成がなされ、良好な電着塗装が可能となる。
【0038】
さらに、フランジ部14の径方向外側端縁部14bが縦断面視で角の無い略U字状の湾曲端部となっているから、突起部18bを除いてフェンダ42(螺入方向上側の金属部材)と座面18とは鋭角的な接触がなく、この接触により座面18の絶縁被膜20がはがれるおそれがない。すなわち、座面18における突起部18bから座面18の外側端部18aまでの領域Aの被覆膜部20による被覆が確保され、化成処理不良の生じる範囲をこの被覆領域内により確実に留めることが可能となる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[試料の調整]
図3に示すように、紐50で吊るされた幅70mm、長さ150mmのアルミニウム製板材52を鉄製のフランジボルト54及びナット58で挟み込んで締め付けて試料とした。なお、ナット58は全面が絶縁被覆(図示省略)されており、ナット58によるアルミニウム製板材52への化成処理に対する影響は無い。
【0041】
アルミニウム製板材52は本発明の螺入方向上側の金属部材に相当し、フランジボルト54は鉄系の金属部材であって、螺入方向下側の金属部材と同種の金属材料で形成されたものに相当する。
【0042】
[化成処理]
上記試料に対し、以下の表1の工程に従って化成処理を施した。表1の化成処理工程は、車両の車体の一般的な化成処理の工程である。
【0043】
【表1】
【0044】
[化成処理結果の評価]
化成処理後の試料について、フランジボルト54の座面56の外側端部56aとアルミニウム製板材52との接点を0mmとして、フランジボルト54の座面56から離間する方向に0.5mm、1mm、2mm、3mm、4mm及び5mmの位置のアルミニウム製板材52の表面の化成結晶の生成状態を電子顕微鏡で観察した。
図4は、接点からの距離と化成結晶の評点の関係を示す図である。
【0045】
化成結晶の評点は、
図4に示すように、電子顕微鏡写真に基づいて結晶生成率を0〜100%に換算し、0〜5点の評点に振り分け、0〜3点の評点を化成処理不良として、4〜5点の評点を良好な化成処理状態と判断した。結晶生成率の算出式を、以下に示す。
【0046】
結晶生成率(%)=電子顕微鏡写真の所定領域中の結晶生成している部分の面積/電子顕微鏡写真の所定領域の面積×100
【0047】
図5は、良好な化成処理状態(評点5)を示す電子顕微鏡写真であり、
図6は、化成処理不良の状態(評点3)を示す電子顕微鏡写真である。図示のように、良好な化成処理状態とは、電子顕微鏡写真のほぼ全体に化成結晶の生成が見られる状態をいい、化成処理不良の状態とは、電子顕微鏡写真の所定領域のうち、化成結晶の生成が見られる領域が75%未満である状態をいう。
【0048】
図4によれば、フランジボルト54の座面56の外側端部56aとアルミニウム製板材52との接点からの距離が3mm〜5mmのアルミニウム製板材52上の部位においては、良好な化成処理状態となっていた。一方、上記接点からの距離が3mm以下(0.5mm、1mm及び2mm)のアルミニウム製板材52上の部位においては、化成処理不良の状態であった。
【0049】
したがって、フランジボルト54とアルミニウム製板材52との接触部から3mm以上離れなければアルミニウム製板材52の表面に良好な化成処理被膜を施すことができないことがわかった。
【0050】
すなわち、
図2を参照して説明すると、金属製ボルト10とフェンダ42の接点(すなわち、突起部18bとフェンダ42の接触部)から径方向外方に3mm以上離れた位置に座面18に覆われていないフェンダ42の表面が在る場合が本発明の実施例となり、突起部18bとフェンダ42の接触部から3mm未満の位置に座面18に覆われていないフェンダ42の表面が在る場合が比較例となる。
【0051】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施の形態においては金属製ボルト10により締結される螺入方向上側の金属部材としてアルミニウム製のフェンダ42を、螺入方向下側の金属部材として鉄系の金属材料からなるアッパフレーム44を採用しているが、この組み合わせに限られるものではない。互いに接合されて電着塗装される異種金属部材であれば、どのような組み合わせでもよい。
【0052】
また、本実施の形態に係る金属製ボルト10は、全面を絶縁被膜20により被覆しているが、少なくとも座面18における突起部18bから座面18の外側端部18aまでの領域が被覆されていれば良い。
【符号の説明】
【0053】
10 金属製ボルト
12 頭部
14 フランジ部(頭部の下部)
14b 径方向外側端部
18 座面
18a 外側端部
18b 突起部
20 被覆膜部
40 ナットサート(ナット)
42 フェンダ(螺入方向上側の金属部材)
44 アッパフレーム(螺入方向下側の金属部材)
A 座面における突起部から座面の外側端部までの領域
D 座面における突起部から座面の外側端部までの領域の距離