特許第6420733号(P6420733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6420733-塗装方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420733
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20181029BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20181029BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20181029BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20181029BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20181029BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   B05D1/36 B
   B05D3/02 Z
   B05D3/00 D
   B05D7/24 301R
   B32B27/36 101
   B32B7/02 105
【請求項の数】4
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-145177(P2015-145177)
(22)【出願日】2015年7月22日
(65)【公開番号】特開2017-23942(P2017-23942A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】四方 周二
(72)【発明者】
【氏名】長谷 真子
(72)【発明者】
【氏名】舘 和幸
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−082535(JP,A)
【文献】 特開2010−036095(JP,A)
【文献】 特開2010−082534(JP,A)
【文献】 特開2010−142712(JP,A)
【文献】 特開2007−229671(JP,A)
【文献】 特開2009−028576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された下層と該下層上に形成された少なくとも1層の中間層と該中間層上に形成された上層とを備える積層塗膜を形成する塗装方法であって、
前記下層を形成するための下層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、前記中間層を形成するための中間層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、かつ、前記上層を形成するための上層用塗料として熱硬化型塗料を準備する準備工程と、
前記基材上に前記下層用塗料、前記中間層用塗料及び前記上層用塗料をウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する形成工程と、
前記未硬化積層塗膜に焼付け処理を施して前記下層用塗料、前記中間層用塗料及び前記上層用塗料を同時に硬化させる焼付工程と、
を含んでおり、
前記準備工程において、前記上層に隣接する前記中間層を第一の隣接層とし、該第一の隣接層を形成するための前記中間層用塗料を第一の隣接層用塗料とし、前記第一の隣接層に隣接する前記中間層又は前記下層を第二の隣接層とし、該第二の隣接層を形成するための前記中間層用塗料又は前記下層用塗料を第二の隣接層用塗料とし、前記上層用塗料について電場ピックアップ粘度計を用いて標準焼付け温度140℃、標準昇温速度20℃/minの条件で測定されるオシロ波形において、振れ幅が最大振れ幅の5%まで小さくなった時間を前記上層用塗料の流動停止時間tcUとし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から標準焼付け時間tbU終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率をωとし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第一の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA1終了時までの間の前記第一の隣接層用塗料の収縮率をωA1とし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第二の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA2終了時までの間の前記第二の隣接層用塗料の収縮率をωA2とするとき、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値との和が8.0%以下となるように、前記上層用塗料、前記第一の隣接層用塗料及び前記第二の隣接層用塗料を選択する、
ことを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記上層用塗料の収縮率ωが0〜40%の範囲にあり、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1が0〜40%の範囲にあり、前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2が0〜40%の範囲にある、ことを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記上層用塗料が、硬化剤としてメラミン樹脂を含まない塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記上層用塗料が、熱処理による硬化反応において揮発性生成物を生成しない熱硬化型塗料であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して同時に焼付ける塗装方法及びそれにより得られる塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層した後、焼き付ける塗装方法により積層塗膜を形成する場合において、従来から、すべての塗料を積層した後に積層塗膜を構成するすべての層が焼付けにより硬化するように各層を形成する熱硬化型塗料を選択し、積層塗膜全体を硬化させる方法が用いられていた。しかしながら、従来の塗装方法では、下層を焼き付けてから中間層と上層を形成する塗料を積層して焼き付けた場合に比べて、積層塗膜の肌及び光沢が劣るという問題があった。このため、積層塗膜の肌及び光沢を向上させるために種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特開2004−275966号公報(特許文献1)には、中塗り塗料、ベース塗料及びクリア塗料を順次ウェットオンウェットで塗装する工程と、低温加熱段階(硬化温度の25〜80%の温度で硬化時間の5〜30%の時間加熱)及び高温加熱段階(硬化温度の80%を超え、120%以下の温度で硬化時間の30〜130%の時間加熱)の2段階の加熱工程を含む塗膜形成方法が開示されている。さらに、これによって塗膜の鮮映性を確実に確保できることも開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の塗装技術においては、積層塗膜の肌(平滑性)や光沢等の外観品質に大きく影響を及ぼす積層塗膜の層界面の凹凸は着目されていなかったため、肌や光沢等の外観品質を自動車の外観品質に要求されるレベルまで向上させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−275966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して同時に焼付けて高耐久性の確保などのために各層を硬化させても、上層表面の凹凸の発生が十分に抑制された積層塗膜を得ることができる塗装方法、及びそれにより得られる外観品質が高度に優れた塗装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、3種類以上の熱硬化型塗料をウェットオンウェットで積層して同時に焼付け塗装をする場合において、下層を形成するための下層用塗料として熱硬化型塗料を使用し、中間層を形成するための中間層用塗料として熱硬化型塗料を使用し、上層を形成するための上層用塗料として熱硬化型塗料を使用し、前記上層に隣接する前記中間層を第一の隣接層とし、この第一の隣接層を形成するための前記中間層用塗料を第一の隣接層用塗料とし、前記第一の隣接層に隣接する前記中間層又は前記下層を第二の隣接層とし、この第二の隣接層を形成するための前記中間層用塗料又は前記下層用塗料を第二の隣接層用塗料とするとき、前記上層用塗料の流動停止時間後から各塗料の標準焼付け時間終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率と前記第一の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率と前記第二の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値との和が特定の範囲となるように、前記上層用塗料、前記第一の隣接層用塗料及び前記第二の隣接層用塗料を選択することによって、上層が硬化して流動性が著しく低下した後において、上層と第一の隣接層の界面凹凸及び又は第一の隣接層と第二の隣接層の界面凹凸の上層への転写量をより小さくでき、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層した後に同時に焼付けを実施しても外観品質により高度に優れた積層塗膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の塗装方法は、基材上に形成された下層と該下層上に形成された少なくとも1層の中間層と該中間層上に形成された上層とを備える積層塗膜を形成する塗装方法であって、
前記下層を形成するための下層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、前記中間層を形成するための中間層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、かつ、前記上層を形成するための上層用塗料として熱硬化型塗料を準備する準備工程と、
前記基材上に前記下層用塗料、前記中間層用塗料及び前記上層用塗料をウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する形成工程と、
前記未硬化積層塗膜に焼付け処理を施して前記下層用塗料、前記中間層用塗料及び前記上層用塗料を同時に硬化させる焼付工程と、
を含んでおり、
前記準備工程において、前記上層に隣接する前記中間層を第一の隣接層とし、該第一の隣接層を形成するための前記中間層用塗料を第一の隣接層用塗料とし、前記第一の隣接層に隣接する前記中間層又は前記下層を第二の隣接層とし、該第二の隣接層を形成するための前記中間層用塗料又は前記下層用塗料を第二の隣接層用塗料とし、前記上層用塗料について電場ピックアップ粘度計を用いて標準焼付け温度140℃、標準昇温速度20℃/minの条件で測定されるオシロ波形において、振れ幅が最大振れ幅の5%まで小さくなった時間を前記上層用塗料の流動停止時間tcUとし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から標準焼付け時間tbU終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率をωとし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第一の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA1終了時までの間の前記第一の隣接層用塗料の収縮率をωA1とし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第二の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA2終了時までの間の前記第二の隣接層用塗料の収縮率をωA2とするとき、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値との和が8.0%以下となるように、前記上層用塗料、前記第一の隣接層用塗料及び前記第二の隣接層用塗料を選択する、
ことを特徴とする方法である。
【0009】
前記本発明の塗装方法においては、前記上層用塗料の収縮率ωが0〜40%の範囲にあり、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1が0〜40%の範囲にあり、前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2が0〜40%の範囲にあることが好ましい。また、前記上層用塗料が、硬化剤としてメラミン樹脂を含まない塗料であることが好ましい。さらに、前記上層用塗料が、熱処理による硬化反応において揮発性生成物を生成しない熱硬化型塗料であることが好ましい。
【0011】
なお、本発明において「上層用塗料の流動停止時間」とは、上層用塗料により形成された塗膜を標準昇温速度で加熱した場合に、塗膜が変形しなくなるまでの時間であり、以下の方法により測定されるものである。すなわち、ステンレス鋼板(40mm×50mm×0.5mm)上に焼付け後の膜厚が100μmとなるように上層用塗料を塗布し、室温で10分間放置した後、試料を電場ピックアップ粘度計にセットする。なお、電場ピックアップ粘度計は、電極となる針を試料表面の近傍に保持し、一定時間毎にオン/オフを繰返して直流電圧を印加してマックスウェル応力による試料表面の変形を非接触で測定できる装置である。針−試料表面間距離:100μm、電圧:5V、電圧オン時間:1.0秒間、電圧オフ時間:1.0秒間の測定条件で直流電圧のオンとオフを切替えながら、試料を室温から上層用塗料の標準焼付け温度まで上層用塗料の標準昇温速度で加熱する。この間の試料表面の変形を、レーザー光を照射して試料表面で反射されるレーザー光の強度を検出電圧として0.01秒間の測定ピッチで測定する。図1は、このとき得られるオシロ波形の一例である。
【0012】
図1に示すように、得られたオシロ波形においては、m+1秒間にm個の検出電圧の振れが観察される。検出電圧の振れ幅が大きいほど電場による試料表面の変化が大きいことを示している。これらm個の検出電圧の振れの中で、振れ幅が最大(amax)となる時間をtmaxとし、tmax以降の時間範囲において、振れ幅がamaxの5%まで小さくなった時間を上層用塗料の流動停止時間tcU(tcU>tmax)とする。
【0013】
また、本発明において「塗料の収縮率」とは、硬化反応の揮発性生成物と高沸点溶媒等の残存溶媒の揮発に起因するものであり、以下の方法により測定されるものである。すなわち、秤量したステンレス箔(150mm×30mm×0.5mm)に、塗料を熱処理後の膜厚が積層塗膜での目標膜厚となるようにエアスプレー塗装し、塗料の標準焼付け温度で塗膜の焼付けを開始する。その後、前記上層用塗料の流動停止時間tcUまで塗膜を焼付け(焼付け時間:tcU)、試料(ステンレス箔+塗膜)を秤量する。さらに、焼付け開始からの総焼付け時間が塗料の標準焼付け時間tとなるように、塗料の標準焼付け温度で塗膜を焼付け(後段の焼付け時間:t−tcU)、試料(ステンレス箔+塗膜)を秤量する。
【0014】
上層用塗料、中間層用塗料及び下層用塗料の収縮率ω、ω及びωは、下記式(1):
ω=100(Y−Z)/(Z−X) (1)
(式中、ωは硬化反応の揮発性生成物と高沸点溶媒等の残存溶媒の揮発に起因する塗料の収縮率、Xはステンレス箔の質量(g)を表し、Yは塗料の標準焼付け温度で前記流動停止時間tcUまで焼付けた後の試料(ステンレス箔+塗膜)の質量(g)を表し、Zは塗料の標準焼付け温度で塗料の標準焼付け時間まで焼付けた後の試料(ステンレス箔+塗膜)の質量(g)を表し、iはU(上層用塗料)、I(中間層用塗料)又はL(下層用塗料)である。)
により算出される。
【0015】
また、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記上層用塗料の収縮率ωとの差の絶対値(|Δω|)、並びに前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2と前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値(|Δω|)は、下記式(2−1)及び(2−2):
|Δω|=|ωA1−ω| (2−1)
|Δω|=|ωA2ωA1| (2−2)
により算出される。
【0016】
また、本発明の塗装方法によって、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して同時に焼付けて各層を硬化させても、上層表面の凹凸の発生が十分に抑制される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、従来のウェットオンウェットにより形成した積層塗膜では、上層を含めすべての層で熱硬化型塗料が用いられ、各層を同じ加熱温度で同時に硬化させたり、下層から順に硬化を開始するように設計されているため、上層を形成する熱硬化型塗料を加熱処理(焼付け処理)により硬化させる際には、その下層においても熱硬化型塗料の硬化が進行して既に流動性を失った状態となっている。このような積層塗膜の各層では縮合反応や硬化剤の脱ブロック反応の後の付加反応により熱硬化型塗料を硬化させるため、この縮合反応や脱ブロック反応により生成した揮発性生成物が、残存する溶媒とともに揮発し、積層塗膜が収縮して塗膜表面に凹凸が形成される。この塗膜表面の凹凸は上層が十分に流動性を有している間はその流動等により緩和されるが、上層の流動性が硬化により著しく低下した場合には、基材表面や各層の界面の凹凸が上層表面に転写され、積層塗膜の肌や光沢が悪化するものと推察される。
【0017】
また、硬化剤としてイソシアネート化合物やイソシアネート樹脂を含有する熱硬化型塗料を上層用塗料として用いた場合等においては、上層用塗料の硬化速度が速いため、下層が硬化する前に上層が流動性を失うことが多い。この場合、上層が硬化した後に下層の硬化が進行するが、従来のウェットオンウェット塗装に用いられていた下層用塗料は、流動性に乏しく、下層の硬化の進行に伴う収縮により形成された凹凸が十分に緩和されず、基材表面や各層の界面の凹凸が上層表面に転写され、積層塗膜の肌や光沢が悪化するものと推察される。
【0018】
本発明者らは、先ず、上記目的を達成するために、積層塗膜の肌(平滑性)や光沢等の外観品質は上層表面の凹凸が少ないほどよいことに着目した。そして、肌となる凹凸は、スプレー時に基材面上に塗着する塗料量及び乾燥工程(焼付工程も含む)における塗膜の収縮量が面方向に不均一なことに起因し、光沢を左右する凹凸(肌の場合よりも短波長)は乾燥工程における塗膜の収縮量が面方向に不均一なことに起因することを見出した。また、上記二つの原因で形成される凹凸のうち、スプレー時に基材面上に塗着する塗料量が面方向に不均一なことに起因する凹凸は、塗料の微粒化を向上させることによって抑制できるが、塗料の有効利用率である塗着効率の低下を招くので、塗料の微粒化を必要以上に向上させることはコスト等の点で得策でない。このため、肌(平滑性)や光沢等の外観品質を向上させるには、乾燥工程での塗膜の収縮量が面方向に不均一なことに起因する凹凸を減少させることが有利であることを見出した。そして、本発明者らは、基材上に下層を形成する塗料、少なくとも1層の中間層を形成する少なくとも1つの塗料、及び上層を形成する塗料をウェットオンウェットで積層した後に、同時に焼付けして積層塗膜を形成する場合、上記の凹凸は主として、下層用塗料と中間層用塗料と上層用塗料をウェットオンウェットで積層したときに形成される上層と前記第一の隣接層との界面凹凸及び前記第一の隣接層と前記第二の隣接層との界面凹凸が、乾燥工程で上層の流動性が著しく低下した後、各層の収縮によって上層表面に転写されることによって形成され、上層用塗料の流動停止時間後から各塗料の標準焼付け時間終了時までの間の上層と第一の隣接層との収縮率差の絶対値と、第一の隣接層と第二の隣接層との収縮率差の絶対値との和が小さければ界面凹凸の上層表面への転写量は小さくなることを見出した。
【0019】
そこで、本発明者らは、3種類以上の熱硬化型塗料をウェットオンウェットで積層して同時に焼付け塗装をする場合において、下層を形成するための下層用塗料として熱硬化型塗料を使用し、中間層を形成するための中間層用塗料として熱硬化型塗料を使用し、上層を形成するための上層用塗料として熱硬化型塗料を使用し、これら塗料として、前記上層用塗料の流動停止時間後から各塗料の標準焼付け時間終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率と前記第一の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率と前記第二の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値との和が8.0以下となるものを選択することによって、上層と前記第一の隣接層との界面凹凸及び前記第一の隣接層と前記第二の隣接層との界面凹凸の上層への転写量を十分に小さくでき、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層した後に同時に焼付けを実施しても外観品質により高度に優れた積層塗膜が得られるものと推察している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼付けて高耐久性の確保などのために各層を硬化させても、上層表面の凹凸の発生が十分に抑制された積層塗膜を得ることが可能となる。これにより、肌(表面平滑性)や光沢等の外観品質が高度に優れた塗装体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】上層用塗料の流動停止時間tcUを算出する際に塗膜表面の変形を表すオシロ波形である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明の塗装方法は、基材上に形成された下層と該下層上に形成された少なくとも1層の中間層と該中間層上に形成された上層とを備える積層塗膜を形成する塗装方法であって、
前記下層を形成するための下層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、前記中間層を形成するための中間層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、かつ、前記上層を形成するための上層用塗料として熱硬化型塗料を準備する準備工程(原料塗料準備工程)と、
前記基材上に前記下層用塗料、前記中間層用塗料及び前記上層用塗料をウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する形成工程(塗装工程)と、
前記未硬化積層塗膜に焼付け処理を施して前記下層用塗料、前記中間層用塗料及び前記上層用塗料を同時に硬化させる焼付工程(焼付工程)と、
を含んでおり、
前記準備工程において、前記上層に隣接する前記中間層を第一の隣接層とし、該第一の隣接層を形成するための前記中間層用塗料を第一の隣接層用塗料とし、前記第一の隣接層に隣接する前記中間層又は前記下層を第二の隣接層とし、該第二の隣接層を形成するための前記中間層用塗料又は前記下層用塗料を第二の隣接層用塗料とし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から標準焼付け時間tbU終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率をωとし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第一の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA1終了時までの間の前記第一の隣接層用塗料の収縮率をωA1とし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第二の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA2終了時までの間の前記第二の隣接層用塗料の収縮率をωA2とするとき、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値との和が8.0%以下となるように、前記上層用塗料、前記第一の隣接層用塗料及び前記第二の隣接層用塗料を選択する、
ことを特徴とする方法である。
【0024】
本発明の塗装方法において、前記中間層が1層の場合には、この中間層が前記第一の隣接層であり、下層が前記第二の隣接層となる。一方、前記中間層が2層以上の場合には、前記上層に隣接する中間層が前記第一の隣接層であり、この第一の隣接層に隣接する中間層が前記第二の隣接層となる。
【0025】
(原料塗料準備工程)
本発明の塗装方法においては、先ず、下層を形成するための下層用塗料、少なくとも1層の中間層を形成するための少なくとも1つの中間層用塗料、及び、上層を形成するための上層用塗料を準備する。
【0026】
本発明にかかる上層用塗料としては、熱硬化型塗料を使用する。このような上層用塗料に用いられる熱硬化型塗料としては、塗膜形成可能な熱硬化性樹脂及び硬化剤を含むものであればよく、通常の焼付塗装の上層用塗料として使用される熱硬化型塗料が挙げられる。このような上層用熱硬化型塗料の形態は、溶剤型、水性、粉体のいずれでもよい。上層用熱硬化型塗料の標準焼付け温度は、特に限定されるものではなく、通常40〜200℃、好ましくは80〜160℃である。なお、このような上層用塗料としては、その標準焼付け温度における重量減少率が0〜20質量%の塗料を使用することが好ましい。このようにすることにより、加熱処理による塗膜の収縮を最小限にすることができる傾向にある。また、このような観点から、前記重量減少率が0〜10質量%の塗料を使用することが最も好ましい。
【0027】
なお、本発明において、塗料の標準焼付け温度とは、対象とする塗料を基材上に塗装して加熱処理を施して塗膜を硬化せしめ、基材上に定着させるために焼付け時間等の硬化条件との関係で最も効率よく焼付けできる温度をいい、一般的には塗料毎に設定(設計)されているものである。本発明では、この標準焼付け温度としてカタログ値を採用することができる。また、本発明において、塗料の標準焼付け時間とは、対象とする塗料を基材上に塗装して加熱処理を施して塗膜を硬化せしめ、基材上に定着させるために標準焼付け温度等の硬化条件との関係で最も効率よく焼付けできる時間をいい、一般的には塗料毎に設定(設計)されているものである。本発明では、この標準焼付け時間としてカタログ値を採用することができる。さらに、本発明において、塗料の標準昇温速度とは、対象とする塗料を基材上に塗装して加熱処理を施して塗膜を硬化せしめ、基材上に定着させるために標準焼付け温度及び標準焼付け時間等の硬化条件との関係で最も効率よく焼付けできる塗膜の昇温速度をいい、一般的には塗料毎に設定(設計)されているものである。本発明では、この標準昇温速度としてカタログ値を採用することができる。
【0028】
このような上層用塗料に含まれる塗膜形成可能な熱硬化性樹脂としては、水酸基、グリシジル基、カルボキシル基を含有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい硬化剤としては、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、イソシアネート樹脂、アミノ化合物、メラミン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの熱硬化性樹脂及び硬化剤はそれぞれ1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
なお、このような上層用塗料に含まれる硬化剤としては、メラミン樹脂を含まないものであることが好ましい。このようにすることにより、加熱処理による塗膜の収縮を最小限にすることができる傾向にある。
【0030】
また、このような上層用塗料としては、熱処理による硬化反応において揮発性生成物を生成しない熱硬化型塗料であることが好ましい。このようにすることにより、加熱処理による塗膜の収縮を最小限にすることができる傾向にある。
【0031】
さらに、このような熱処理による硬化反応において揮発性生成物を生成しない前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との組み合わせとしては、水酸基含有アクリル樹脂とイソシアネート化合物及び/又はイソシアネート樹脂との組み合わせ等が挙げられる。また、更に優れた高度な外観品質を得るために、本発明において、前記積層塗膜に熱処理を施し硬化させた積層塗膜の上層の上に、熱処理により硬化させる熱硬化型塗料を積層してもよい。この熱硬化型塗料は熱処理による硬化反応において、実質的に揮発性生成物を生成しない塗料であることがより好ましい。
【0032】
なお、本発明においては、このような上層用塗料に含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤とを、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率と前記第一の隣接層用塗料の収縮率の差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率と前記第二の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値との和が特定の範囲となるように組み合わせて上層用塗料を選択し調製する。前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との組合せとしては、水酸基を含有するアクリル樹脂とイソシアネート化合物の組合せ、水酸基を含有するアクリル樹脂とイソシアネート樹脂の組合せ、水酸基,グリジル基を含有するアクリル樹脂とカルボキシル基を含有するアクリル樹脂の組合せであることが好ましい。
【0033】
さらに、このような上層用塗料としては、自動車用塗料及び塗装で用いられるクリア塗膜(クリア層)を形成するいわゆる「クリア塗料」であることが好ましい。例えば、透明な塗膜を形成可能な、熱硬化性樹脂と有機溶剤と、必要に応じて紫外線吸収剤等が含有されているものが挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基等の架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂等の樹脂と、これらの架橋性官能基に反応し得るメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等の架橋剤とからなるものが挙げられる。
【0034】
また、本発明にかかる上層用塗料においては、必要に応じて従来公知の着色顔料や光輝性顔料等が従来公知の範囲で含まれていてもよい。また、各種物性を調整するために粘性制御剤、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤等の各種添加剤を従来公知の範囲で配合してもよい。
【0035】
本発明にかかる中間層用塗料としては、熱硬化型塗料を使用する。このような中間層用塗料に用いられる熱硬化型塗料としては、塗膜形成可能な熱硬化性樹脂及び硬化剤を含むものであればよく、通常の焼付塗装の中間層用塗料として使用される熱硬化型塗料が挙げられる。このような中間層用熱硬化型塗料の形態は、溶剤型、水性、粉体のいずれでもよい。中間層用熱硬化型塗料の標準焼付け温度は、特に限定されるものではなく、通常40〜200℃、好ましくは80〜160℃である。
【0036】
このような中間層用塗料に含まれる塗膜形成可能な熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。硬化剤としては、アミノ化合物、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、イソシアネート樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、このような熱硬化性樹脂及び硬化剤は、それぞれ1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0037】
なお、本発明においては、このような中間層用塗料に含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤とを、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率と前記第一の隣接層用塗料の収縮率の差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率と前記第二の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値との和が特定の範囲となるように組み合わせて中間層用塗料を選択し調製する。前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との組合せとしては、アクリル樹脂とメラミン樹脂の組合せ、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂の組合せ、アクリル樹脂と(ブロック)イソシアネート化合物の組合せ、ポリエステル樹脂と(ブロック)イソシアネート化合物の組合せであることが好ましい。
【0038】
さらに、このような中間層用塗料としては、自動車用塗料及び塗装で用いられるベース塗膜(ベース層)を形成するいわゆる「ベース用塗料」であることが好ましい。例えば、既知の溶剤系着色ベース塗料や水性着色ベース塗料が好適に用いられる。かかる水性着色ベース塗料としては、例えば、顔料と、水に溶解又は分散可能な樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶媒である水とを含有するものが挙げられる。水に溶解又は分散可能な樹脂としては、例えば、1分子中にカルボキシル基等の親水基と水酸基等の架橋性官能基とを含有する樹脂であって、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、架橋剤としては、例えば、疎水性又は親水性のアルキルエーテルメラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物等が挙げられる。一方、溶剤系着色ベース塗料としては、例えば、顔料と、上記同様の樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶剤とを含有するものが挙げられる。
【0039】
また、本発明にかかる中間層用塗料においては、必要に応じて従来公知の着色顔料や光輝性顔料等が従来公知の範囲で含まれていてもよい。また、各種物性を調整するために粘性制御剤、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤等の各種添加剤を従来公知の範囲で配合してもよい。
【0040】
本発明にかかる下層用塗料としては、熱硬化型塗料を使用する。このような下層用塗料に用いられる熱硬化型塗料としては、塗膜形成可能な熱硬化性樹脂及び硬化剤を含むものであればよく、通常の焼付塗装の下層用塗料として使用される熱硬化型塗料が挙げられる。このような下層用熱硬化型塗料の形態は、溶剤型、水性、粉体のいずれでもよい。下層用熱硬化型塗料の標準焼付け温度は、特に限定されるものではなく、通常40〜200℃、好ましくは80〜160℃である。
【0041】
このような下層用塗料に含まれる塗膜形成可能な熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。硬化剤としては、アミノ化合物、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、イソシアネート樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、このような熱硬化性樹脂及び硬化剤は、それぞれ1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0042】
なお、本発明においては、このような下層用塗料に含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤とを、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率と前記第一の隣接層用塗料の収縮率の差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率と前記第二の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値との和が特定の範囲となるように組み合わせて下層用塗料を選択し調製する。前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との組合せとしては、アクリル樹脂とメラミン樹脂の組合せ、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂の組合せ、アクリル樹脂と(ブロック)イソシアネート化合物の組合せ、ポリエステル樹脂と(ブロック)イソシアネート化合物の組合せであることが好ましい。
【0043】
さらに、このような下層用塗料としては、自動車用塗料及び塗装で用いられる中塗り塗膜(中塗り層)を形成するいわゆる「中塗り塗料」であることが好ましい。例えば、基体樹脂と架橋剤とからなる熱硬化性樹脂組成物が好適に用いられる。かかる基体樹脂としては、例えば、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基のような架橋性官能基を1分子中に2個以上有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、また、架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂などのようなアミノ樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物などが挙げられる。
【0044】
また、本発明にかかる下層用塗料においては、必要に応じて従来公知の着色顔料や光輝性顔料等が従来公知の範囲で含まれていてもよい。また、各種物性を調整するために粘性制御剤、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤等の各種添加剤を従来公知の範囲で配合してもよい。
【0045】
なお、本発明の原料塗料準備工程においては、前記上層に隣接する前記中間層を第一の隣接層とし、該第一の隣接層を形成するための前記中間層用塗料を第一の隣接層用塗料とし、前記第一の隣接層に隣接する前記中間層又は前記下層を第二の隣接層とし、該第二の隣接層を形成するための前記中間層用塗料又は前記下層用塗料を第二の隣接層用塗料とし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から標準焼付け時間tbU終了時までの間の前記上層用塗料の収縮率をωとし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第一の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA1終了時までの間の前記第一の隣接層用塗料の収縮率をωA1とし、前記上層用塗料の流動停止時間tcU後から前記第二の隣接層用塗料の標準焼付け時間tbA2終了時までの間の前記第二の隣接層用塗料の収縮率をωA2とするとき、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値との和が8.0%以下(好ましくは6.0%以下、より好ましくは4.0%以下)となるように、前記上層用塗料、前記第一の隣接層用塗料及び前記第二の隣接層用塗料を選択する必要がある。このようにすることにより、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼付けて各層を硬化させても上層表面の凹凸の発生が十分に抑制された積層塗膜を得ることが可能となる。これにより、肌(表面平滑性)や光沢等の外観品質により高度に優れた塗装体を得ることができる。
【0046】
このような上層用塗料、第一の隣接層用塗料及び第二の隣接層用塗料においては、前記上層用塗料の収縮率ωが0〜40%の範囲にあり、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1が0〜40%の範囲にあり、前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2が0〜40%の範囲にあることが好ましい。このようにすることにより、上層表面の凹凸が少ない積層塗膜を得ることが可能となる傾向にあり、これにより肌(表面平滑性)や光沢等の外観品質が高度に優れた塗装体を得ることができる傾向にある。
【0047】
このような上層用塗料、中間層用塗料及び下層用塗料としては、上層用塗料が酸エポキシ硬化系、イソシアネート硬化系、メラミン硬化系の塗料であり、中間層用塗料がメラミン硬化系、イソシアネート硬化系の塗料であり、下層用塗料がメラミン硬化系、イソシアネート硬化系の塗料であることが好ましい。
【0048】
さらに、上層用塗料、中間層用塗料及び下層用塗料の組み合わせとしては、上層用塗料/中間層用塗料/下層用塗料が、酸エポキシ硬化系/メラミン硬化系/メラミン硬化系、酸エポキシ硬化系/メラミン硬化系/イソシアネート硬化系、酸エポキシ硬化系/イソシアネート硬化系/メラミン硬化系、酸エポキシ硬化系/イソシアネート硬化系/イソシアネート硬化系、イソシアネート硬化系/メラミン硬化系/メラミン硬化系、イソシアネート硬化系/メラミン硬化系/イソシアネート硬化系、イソシアネート硬化系/イソシアネート硬化系/メラミン硬化系、イソシアネート硬化系/イソシアネート硬化系/イソシアネート硬化系であることがより好ましい。
【0049】
(塗装工程)
次に、本発明の塗装方法においては、前記原料塗料準備工程で準備した下層用塗料、中間層用塗料及び上層用塗料を、基材上にウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する。
【0050】
本発明にかかる基材としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅、錫、亜鉛、ステンレス鋼、ブリキ、亜鉛メッキ鋼、合金化亜鉛(Zn−Al、Zn−Ni、Zn−Fe等)メッキ鋼等の金属材料、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂や各種のFRP等のプラスチック材料、ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料、木材、繊維材料(紙、布等)、発泡体等を挙げることができる。なかでも、金属材料及びプラスチック材料が好ましく、金属材料が特に好ましい。特に、外観品質に対する要求特性が高い自動車用鋼板に本発明は好適に適用される。これら基材表面には、予め電着塗装、又は電着塗装と中塗り塗装等の処理が施されていてもよい。
【0051】
本発明にかかる塗装工程においては、先ず、基材上に下層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥等により溶媒等を蒸発させて未硬化の下層を形成する。次いで、この未硬化の下層の上に中間層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥等により溶媒等を蒸発させて未硬化の中間層を形成する。この中間層は1層のみ形成しても2層以上形成してもよい。次に、この未硬化の中間層上に上層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥等により溶媒等を蒸発させて未硬化の上層を形成する。下層用塗料、中間層用塗料及び上層用塗料の塗布方法としては、エアスプレー塗装、エアー静電スプレー塗装、回転霧化式静電塗装等の従来公知の方法が挙げられる。
【0052】
なお、下層の膜厚は所望の用途により適宜設定することができるが、例えば、加熱処理後の膜厚で5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。下層の膜厚が前記下限未満では均一な下層の塗膜が得にくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると上層の塗膜に含まれる溶媒等を多く吸収する傾向にあるとともに下層自身に含まれる溶媒の揮発も抑制され積層塗膜の外観品質を悪化させる傾向にある。
【0053】
また、中間層の膜厚は所望の用途により適宜設定することができるが、例えば、加熱処理後の膜厚で5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。中間層の膜厚が前記下限未満では均一な中間層の塗膜が得にくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると上層の塗膜に含まれる溶媒等を多く吸収する傾向にあるとともに中間層自身に含まれる溶媒の揮発も抑制され積層塗膜の外観品質を悪化させる傾向にある。
【0054】
さらに、上層の膜厚は所望の用途により適宜設定することができるが、例えば、加熱処理後の膜厚で15〜60μmであることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましい。上層の膜厚が前記下限未満では流動性が不十分であり積層塗膜の外観品質が悪化する傾向にあり、他方、前記上限を超えると流動性が過度に大きくなり鉛直方向に塗装する場合にはタレ等の欠陥が発生する傾向にある。
【0055】
(焼付工程)
次に、本発明の塗装方法においては、前記塗装工程において得られた未硬化積層塗膜に焼付け処理(加熱処理)を施して前記下層用塗料、前記中間層用塗料及び前記上層用塗料を同時に硬化させる。本発明の塗装方法において、前記加熱処理は、少なくとも上層が硬化する温度以上、例えば、[前記上層用塗料の標準焼付け温度−20℃]以上の温度での加熱処理を含んでいることが好ましい。また、加熱時間は、前記上層用塗料の標準焼付け時間tbUの50%以上150%以下であることが好ましい。
【0056】
また、本発明の塗装方法では、ウェットオンウェットにより積層された未硬化状態の塗膜を安定させるために、前記焼付け処理(加熱処理)前に室温で静置(セッティング)させることが好ましい。セッティング時間は通常1〜20分に設定される。
【0057】
さらに、本発明において、より高級な外観を有する塗装体を得るためには、前記塗装方法により得られた塗装体の前記上層の上に更に1種以上の塗料を塗布して加熱処理を施し、表面層を形成することが好ましい。前記塗料としては、前記上層用塗料として例示したものを使用することができる。また、前記塗料の塗布方法としては、エアスプレー塗装やエアー静電スプレー塗装、回転霧化式静電塗装等の従来公知の方法が挙げられる。
【0058】
本発明の塗装体は、前記本発明の塗装方法により製造されたものであり、積層塗膜表面の凹凸が従来のウェットオンウェットで製造した積層塗膜よりも十分に少なく、外観品質が高度に優れている。また、基材上に下層を形成する塗料、中間層を形成する塗料、上層を形成する塗料をウェットオンウェットで積層した後に、同時に焼付けして積層塗膜を形成することにより、大幅なエネルギー削減、コスト低減及び工程短縮を実現することができる。さらに、主溶媒として水を用いた水性塗料を採用することにより、揮発性有機化合物(VOC)の排出を削減することができる。このような塗装体は、特に乗用車、トラック、バス、オートバイ等の自動車用車体やその部品として有用である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、上層用塗料の流動停止時間tcU、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の各塗料の収縮率、及び各塗料の収縮率差の絶対値の算出は以下の方法により行なった。
【0060】
<上層用塗料の流動停止時間tcUの算出>
ステンレス鋼板(40mm×50mm×0.5mm)上に焼付け後の膜厚が100μmとなるように上層用塗料をバーコータを用いて塗布し、室温で10分間放置した後、試料を電場ピックアップ粘度計(京都電子工業(株)製、型番RM−01T)にセットした。針−試料表面間距離:100μm、電圧:5V、電圧オン時間:1.0秒間、電圧オフ時間:1.0秒間の測定条件で直流電圧のオンとオフを切替えながら、試料を室温から上層用塗料の標準焼付け温度(140℃)まで上層用塗料の標準昇温速度(20℃/min)で加熱した。この間の試料表面の変形を、レーザー光を照射して試料表面で反射されるレーザー光の強度を検出電圧として0.01秒間の測定ピッチで測定した。図1は、このとき得られるオシロ波形の一例である。
【0061】
図1に示すように、得られたオシロ波形においては、m+1秒間にm個の検出電圧の振れが観察される。これらm個の検出電圧の振れの中で、振れ幅が最大(amax)となる時間をtmaxとし、tmax以降の時間範囲において、振れ幅がamaxの5%まで小さくなった時間を上層用塗料の流動停止時間tcU(tcU>tmax)とした。
【0062】
<各塗料の収縮率、収縮率差及びその和の算出>
秤量したステンレス箔(150mm×30mm×0.5mm)に、上層用塗料、中間層用塗料、又は下層用塗料をそれぞれ熱処理後の膜厚が積層塗膜での目標膜厚となるようにエアスプレー塗装し、標準焼付け温度(140℃)で塗膜の焼付けを開始した。その後、前記上層用塗料の流動停止時間tcUまで塗膜を焼付け(焼付け時間:tcU)、試料(ステンレス箔+塗膜)を秤量した。さらに、焼付け開始からの総焼付け時間が塗料の標準焼付け時間t(30分)となるように、塗料の標準焼付け温度(140℃)で塗膜を焼付け(後段の焼付け時間:t−tcU)、試料(ステンレス箔+塗膜)を秤量した。
【0063】
上層用塗料、中間層用塗料及び下層用塗料の収縮率ω、ω及びωは、下記式(1):
ω=100(Y−Z)/(Z−X) (1)
(式中、ωは硬化反応の揮発性生成物と高沸点溶媒等の残存溶媒の揮発に起因する塗料の収縮率、Xはステンレス箔の質量(g)を表し、Yは塗料の標準焼付け温度で前記流動停止時間tcUまで焼付けた後の試料(ステンレス箔+塗膜)の質量(g)を表し、Zは塗料の標準焼付け温度で塗料の標準焼付け時間tまで焼付けた後の試料(ステンレス箔+塗膜)の質量(g)を表し、iはU(上層用塗料)、I(中間層用塗料)又はL(下層用塗料)である。)
により算出した。
【0064】
また、第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と上層用塗料の収縮率ωとの差の絶対値(|Δω|)、及び第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2と第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値(|Δω|)は、下記式(2−1)及び(2−2):
|Δω|=|ωA1−ω| (2−1)
|Δω|=|ωA2ωA1| (2−2)
により算出した。
【0065】
(合成例1)溶剤型クリア用アクリル樹脂R−1の調製
まず、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂製造用反応容器に、ソルベッソ100を235質量部仕込み、撹拌しながら130℃に昇温した。
【0066】
次に、この反応容器に、アクリル酸2−エチルヘキシル95質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル120質量部、スチレン150質量部、メタクリル酸グリシジル135質量部、重合開始剤(日油(株)製、「パーキュアO」)40質量部の混合物を3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、130℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、パーキュアOを10質量部添加し、更に130℃で2時間撹拌を継続して反応させた後、室温まで冷却し、水酸基価94、エポキシ価107、不揮発分70質量%のアクリル樹脂R−1を得た。
【0067】
(合成例2)溶剤型クリア用アクリル樹脂R−2の調製
まず、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂製造用反応容器に、ソルベッソ100を310質量部仕込み、撹拌しながら130℃に昇温した。
【0068】
次に、この反応容器に、メタクリル酸ブチルが125質量部、メタクリル酸2−エチルヘキシルが225質量部、無水マレイン酸が150質量部、ソルベッソ100が50質量部、重合開始剤(日油(株)製、「パーキュアO」)が100質量部の混合物を3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、130℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、パーキュアOを10質量部添加し、更に130℃で2時間撹拌を継続して反応させた後、60℃まで冷却した。冷却後、トリエチルアミン4.6質量部、メタノール73.5質量部を添加し、60℃で12時間撹拌を継続して反応させた。その後、室温まで冷却し、酸価172、不揮発分61質量%のアクリル樹脂R−2を得た。
【0069】
(合成例3)溶剤型クリア用アクリル樹脂R−3の調製
まず、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂製造用反応容器に、ソルベッソ100を195質量部、酢酸ブチル65質量部を仕込み、撹拌しながら130℃に昇温した。
【0070】
次に、この反応容器に、メタクリル酸ブチル162.5質量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル149.5質量部、スチレン78質量部、アクリル酸イソボルニル260質量部、重合開始剤(日油社製、「パーキュアO」)52質量部の混合物を3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、130℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、パーキュアOを13質量部を添加し、更に130℃で2時間撹拌を継続して反応させた後、酢酸ブチル75質量部を添加し、室温まで冷却し、水酸基価90、不揮発分65質量%のアクリル樹脂R−3を得た。
【0071】
(合成例4)水性中塗り用アクリルエマルションR−4の調製
まず、アクリル酸2−エチルヘキシル31.5質量部、メタクリル酸ブチル78.8質量部、スチレン52.9質量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル72.5質量部、アクリル酸16.4質量部、メタクリル酸メチル63.0質量部、n−ドデシルメルカプタン3.2質量部、イオン交換水119質量部及びラテムル(PD−104)17.5質量部を混合し、ミキサーを用いて攪拌して乳化させ、モノマープレエマルションを調製した。
【0072】
次に、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用反応容器に、イオン交換水280質量部、ラテムルPD−104(花王ケミカル製)3.5質量部及びAPS水溶液(重合開始剤:過硫酸アンモニウム、APS(Aldrich製)0.7質量部と水7質量部を撹拌混合したもの)を仕込み、撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、この反応容器に、前記モノマープレエマルションのうちの5質量%を添加し、80℃で10分保持した。その後、残りのモノマープレエマルションを上記反応容器中に3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、更に80℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、イオン交換水322質量部を添加し、室温まで冷却した。冷却後、50質量%ジメチルエタノールアミン水溶液40.5質量部を添加し、10分撹拌して、水酸基価86、不揮発分29質量%のアクリルエマルションR−4を得た。
【0073】
(合成例5)水性ベース用アクリルエマルションR−5の調製
まず、アクリル酸2−エチルヘキシル31.5質量部、メタクリル酸ブチル78.8質量部、アクリル酸ブチル37.8質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル63.0質量部、アクリル酸16.4質量部、スチレン87.6質量部、n−ドデシルメルカプタン3.2質量部、イオン交換水119質量部及びラテムル(PD−104)17.5質量部を混合し、ミキサーを用いて攪拌して乳化させ、モノマープレエマルションを調製した。
【0074】
次に、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用反応容器に、イオン交換水280質量部、ラテムルPD−104(花王ケミカル製)3.5質量部及びAPS水溶液(重合開始剤:過硫酸アンモニウム、APS(Aldrich製)0.7質量部と水7質量部を撹拌混合したもの)を仕込み、撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、この反応容器に、前記モノマープレエマルションのうちの5質量%を添加し、80℃で10分保持した。その後、残りのモノマープレエマルションを上記反応容器中に3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、更に80℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、イオン交換水322質量部を添加し、室温まで冷却した。冷却後、50質量%ジメチルエタノールアミン水溶液40.5質量部を添加し、10分撹拌して、水酸基価86、不揮発分29質量%のアクリルエマルションR−5を得た。
【0075】
(調製例1)溶剤型クリア塗料C−1の調製
容器に、合成例1で得た溶剤型クリア用アクリル樹脂R−1を443.3質量部、合成例2で得た溶剤型クリア用アクリル樹脂R−2を300.3質量部、n−ブタノールを123.8質量部、ソルベッソ100を24.8質量部、キシレン14.9質量部、2−メトキシ−1−プロパノール39.6質量部、チヌビン123(BASF社製)9.9質量部、チヌビン384−2(BASF社製)9.9質量部、トリブチルアンモニウムブロミド溶液(トリブチルアンモニウムブロミド0.9質量部とn−ブタノール9質量部を混合したもの)9.9質量部を仕込み、これに、撹拌しながらBYK−370(BYK−Chmie製)2.8質量部、BYK−306(BYK−Chmie製)5.2質量部、BYK−392(BYK−Chmie製)9.5質量部、ディスパロンNSH8430(楠本化成製)5.0質量部、ディスパロンOX883(楠本化成製)1.2質量部を添加し、更に10分攪拌して、不揮発分52%の酸エポキシ硬化型の溶剤型クリア塗料C−1を得た。この溶剤型クリア塗料C−1の流動停止時間tcUは400秒であり、流動停止時間tcU後から標準焼付け時間tbU終了時までの間の収縮率ωは7.7%であった。
【0076】
(調製例2)溶剤型クリア塗料C−2の調製
容器に、合成例3で得た溶剤型クリア用アクリル樹脂R−3を759.3質量部、酢酸ブチル197.4質量部、チヌビン123(BASF社製)9.9質量部、チヌビン384−2(BASF社製)9.9質量部を仕込み、これに、撹拌しながらBYK−370(BYK−Chmie製)2.8質量部、BYK−306(BYK−Chmie製)5.1質量部、BYK−392(BYK−Chmie製)9.5質量部、ディスパロンNSH8430(楠本化成)4.9質量部、ディスパロンOX883(楠本化成製)1.2質量部、ポリイソシアネート(旭化成ケミカル社製、「デュラネートTPA−100」)175質量部を添加し、更に10分攪拌して、不揮発分59%のイソシアネート硬化型の溶剤型クリア塗料C−2を得た。この溶剤型クリア塗料C−2の流動停止時間tcUは320秒であり、流動停止時間tcU後から標準焼付け時間tbU終了時までの間の収縮率ωは1.4%であった。
【0077】
(調製例3)溶剤型クリア塗料C−3の調製
容器に、合成例3で得た溶剤型クリア用アクリル樹脂R−3を759.3質量部、酢酸ブチル197.4質量部、チヌビン123(BASF社製)9.9質量部、チヌビン384−2(BASF社製)9.9質量部を仕込み、これに、撹拌しながらBYK−370(BYK−Chmie製)2.8質量部、BYK−306(BYK−Chmie製)5.1質量部、BYK−392(BYK−Chmie製)9.5質量部、ディスパロンNSH8430(楠本化成)4.9質量部、ディスパロンOX883(楠本化成製)1.2質量部、ブロックイソシアネート(ポリイソシアネート(旭化成ケミカル社製、「デュラネートTPA−100」)のイソシアネート基の半分を3,5−ジメチルピラゾールでブロックしたもの)175質量部を添加し、更に10分攪拌して、イソシアネート硬化型の溶剤型クリア塗料C−3を得た。この溶剤型クリア塗料C−3の流動停止時間tcUは370秒であり、流動停止時間tcU後から標準焼付け時間tbU終了時までの間の収縮率ωは5.8%であった。
【0078】
(調製例4)着色顔料ペーストの調製
容器に、イオン交換水450質量部、湿潤分散剤(Byk−Chemie社製、「Disperbyk−180」)50質量部、ルチル型酸化チタン(石原産業社製、「CR−90」)495質量部、カーボンブラック(三菱化学社製、「MA−100」)5質量部を仕込み、10分間予備混合した後、仕込み体積量と同じ体積量のガラスビーズ(粒径1.6mm)を投入し、卓上サンドミルで1時間分散した。グラインドゲージによる分散終了時の粒度は5μm以下であった。
【0079】
(調製例5)水性中塗り塗料P−1の調製
容器に、合成例4で得た水性中塗り用アクリルエマルションR−4を185.7質量部仕込み、これに、撹拌しながらメチル化メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、「サイメル325」)30.0質量部、イオン交換水32質量部を加えて5分間攪拌した。更に、アルカリ増粘剤(BASF社製、「Viscalex HV30」)3.2質量部、ジメチルエタノールアミン0.8質量部、BYK−346(BYK−Chmie製)2.5質量部、着色顔料ペースト123.1質量部を加えて、不揮発分39.3質量%の水性中塗り塗料P−1を得た。この水性中塗り塗料P−1の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には5.8%であり、tcUが370秒の場合には5.4%であり、tcUが400秒の場合には5.0%であった。
【0080】
(調製例6)水性中塗り塗料P−2の調製
容器に、合成例4で得た水性中塗り用アクリルエマルションR−4を132.6質量部仕込み、これに、撹拌しながらイオン交換水16.0質量部を加えて5分間攪拌した。更に、Viscalex HV30を1.6質量部、ジメチルエタノールアミンを0.4質量部、BYK−346を1.0質量部、着色顔料ペーストを61.5質量部加えて、不揮発分39.3質量%の水性中塗り塗料P−2を得た。この水性中塗り塗料P−2の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には3.2%であり、tcUが400秒の場合には2.4%であった。
【0081】
(調製例7)水性ベース塗料B−1の調製
容器に、合成例5で得たアクリルエマルションR−5を99.5質量部仕込み、これに、撹拌しながらイオン交換水54質量部を加えて5分間攪拌した。更に、アルカリ増粘剤(BASF社製、「Viscalex HV30」)2.0質量部、ジメチルエタノールアミン1.2質量部を加えて、水性樹脂液を得た。
【0082】
別の容器に、ブチルグリコール9.9質量部及びアルミペースト(Eckart社製、「Hydrolan2156」)9.9質量部を仕込み、更に1時間攪拌してアルミペースト溶液を得た。
【0083】
次に、前記水性樹脂溶液156.7質量部に、このアルミペースト溶液19.8質量部を撹拌しながら添加し、更に1時間攪拌して、水性ベース塗料B−1を得た。この水性ベース塗料B−1の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には2.8%であり、tcUが370秒の場合には2.0%であり、tcUが400秒の場合には0.9%であった。
【0084】
(調製例8)水性ベース塗料B−2の調製
容器に、合成例5で得たアクリルエマルションR−5を84.5質量部仕込み、これに、撹拌しながらメチル化メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、「サイメル325」)5.6質量部、イオン交換水54質量部を加えて5分間攪拌した。更に、Viscalex HV30を3.0質量部、ジメチルエタノールアミン1.2質量部を加えて、水性樹脂液を得た。
【0085】
別の容器に、ブチルグリコール9.9質量部及びアルミペースト(Eckart社製、「Hydrolan2156」)9.9質量部を仕込み、更に1時間攪拌してアルミペースト溶液を得た。
【0086】
次に、前記水性樹脂溶液148.3質量部に、このアルミペースト溶液19.8質量部を撹拌しながら添加し、更に1時間攪拌して、水性ベース塗料B−2を得た。この水性ベース塗料B−2の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には6.3%であり、tcUが400秒の場合には3.2%であった。
【0087】
(調製例9)水性ベース塗料B−3の調製
合成例5で得たアクリルエマルションR−5の仕込み量を69.6質量部に、サイメル325の添加量を11.3質量部に、Viscalex HV30の添加量を4.0質量部に変更した以外は調製例8と同様にして、水性ベース塗料B−3を得た。この水性ベース塗料B−3の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には8.2%であり、tcUが370秒の場合には7.2%であり、tcUが400秒の場合には6.4%であった。
【0088】
(調製例10)水性ベース塗料B−4の調製
容器に、合成例5で得たアクリルエマルションR−5を69.6質量部仕込み、これに、撹拌しながらサイメル325を11.3質量部、イオン交換水を54質量部、2−エチルヘキサノールを7.5質量部、ブチルグリコールを3.8質量部加えて5分間攪拌した。更に、Viscalex HV30を3.0質量部、ジメチルエタノールアミンを1.2質量部加えて、水性樹脂液を得た。
【0089】
別の容器に、ブチルグリコール9.9質量部及びアルミペースト(Eckart社製、「Hydrolan2156」)9.9質量部を仕込み、更に1時間攪拌してアルミペースト溶液を得た。
【0090】
次に、前記水性樹脂溶液150.4質量部に、このアルミペースト溶液19.8質量部を撹拌しながら添加し、更に1時間攪拌して、水性ベース塗料B−4を得た。この水性ベース塗料B−4の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には10.3%であり、tcUが400秒の場合には8.1%であった。
【0091】
(調製例11)水性ベース塗料B−5の調製
2−エチルヘキサノールの添加量を15.0質量部に、ブチルグリコールの添加量を7.5質量部に、Viscalex HV30の添加量を2.0質量部に変更した以外は調製例10と同様にして、水性ベース塗料B−5を得た。この水性ベース塗料B−5の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には9.9%であり、tcUが400秒の場合には9.2%であった。
【0092】
(調製例12)水性ベース塗料B−6の調製
2−エチルヘキサノールの添加量を22.5質量部に、ブチルグリコールの添加量を11.3質量部に、Viscalex HV30の添加量を2.0質量部に変更した以外は調製例10と同様にして、水性ベース塗料B−6を得た。この水性ベース塗料B−6の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には10.4%であり、tcUが400秒の場合には10.3%であった。
【0093】
(調製例13)水性ベース塗料B−7の調製
2−エチルヘキサノールの添加量を30.0質量部に、ブチルグリコールの添加量を15.0質量部に、Viscalex HV30の添加量を2.0質量部に変更した以外は調製例10と同様にして、水性ベース塗料B−7を得た。この水性ベース塗料B−7の収縮率ωは、流動停止時間tcUが320秒の場合には12.7%であり、tcUが400秒の場合には12.0%であった。
【0094】
(実施例1)
電着塗装を施した鋼板(日本ルートサービス(株)製)の表面に、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=400秒の場合、ω=5.0%)を、焼付け後の膜厚が20μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次に、調製例9で得た水性ベース塗料B−3(tcU=400秒の場合、ω=6.4%)を、焼付け後の膜厚が15μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次いで、この水性ベース塗料B−3の層の上に、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を焼付け後の膜厚が35μmになるように塗装し、水性中塗り塗料P−1と水性ベース塗料B−3と溶剤型クリア塗料C−1とをウェットオンウェットで積層した未硬化積層塗膜を得た。
【0095】
この未硬化積層塗膜を室温で10分間静置(セッティング)した後、硬化反応をさせるために140℃で30分間の加熱処理(焼付け処理)を施して各層を硬化させ、積層塗膜を得た。
【0096】
得られた積層塗膜について、ウェーブスキャン(BYK−Gardner社製「Wave−Scan Dual」)を用いてウェーブスキャン値〔Wa(波長<0.3mm)、Wb(波長0.3〜1mm)、Wc(波長1〜3mm)、Wd(波長3〜10mm)、We(波長10〜30mm)〕を測定した。その結果を表1に示す。これらのウェーブスキャン値は、値が小さいほど上層表面における当該波長の凹凸が少ないことを示し、外観品質が優れることを意味する。ちなみに、duやWaが小さいほど光沢が優れ、WdやWeが小さいほど肌がよいことを意味する。
【0097】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−3により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は1.3%であり、水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は1.4であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は2.7%であった。
【0098】
(実施例2)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=400秒の場合、ω=5.0%)を用い、ベース塗料として、調製例11で得た水性ベース塗料B−5(tcU=400秒の場合、ω=9.2%)を用い、クリア塗料として、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0099】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−5により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−5(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は1.5%であり、水性ベース塗料B−5(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は4.2であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は5.7%であった。
【0100】
(実施例3)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=400秒の場合、ω=5.0%)を用い、ベース塗料として、調製例12で得た水性ベース塗料B−6(tcU=400秒の場合、ω=10.3%)を用い、クリア塗料として、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0101】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−6により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−6(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は2.6%であり、水性ベース塗料B−6(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は5.3%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は7.9%であった。
【0102】
(実施例4)
中塗り塗料として、調製例6で得た水性中塗り塗料P−2(tcU=400秒の場合、ω=2.4%)を用い、ベース塗料として、調製例9で得た水性ベース塗料B−3(tcU=400秒の場合、ω=6.4%)を用い、クリア塗料として、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0103】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−3により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−2により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は1.3%であり、水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−2(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は4.0%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は5.3%であった。
【0104】
(実施例5)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=320秒の場合、ω=5.8%)を用い、ベース塗料として、調製例7で得た水性ベース塗料B−1(tcU=320秒の場合、ω=2.8%)を用い、クリア塗料として、調製例2で得た溶剤型クリア塗料C−2(tcU=320秒、ω=1.4%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0105】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は1.4%であり、水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は3.0%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は4.4%であった。
【0106】
(実施例6)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=320秒の場合、ω=5.8%)を用い、ベース塗料として、調製例8で得た水性ベース塗料B−2(tcU=320秒の場合、ω=6.3%)を用い、クリア塗料として、調製例2で得た溶剤型クリア塗料C−2(tcU=320秒、ω=1.4%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−2により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−2(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は4.9%であり、水性ベース塗料B−2(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は0.5%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は5.4%であった。
【0108】
(実施例7)
中塗り塗料として、調製例6で得た水性中塗り塗料P−2(tcU=320秒の場合、ω=3.2%)を用い、ベース塗料として、調製例7で得た水性ベース塗料B−1(tcU=320秒の場合、ω=2.8%)を用い、クリア塗料として、調製例2で得た溶剤型クリア塗料C−2(tcU=320秒、ω=1.4%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0109】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−2により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は1.4%であり、水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−2(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は0.4%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は1.8%であった。
【0110】
(実施例8)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=370秒の場合、ω=5.4%)を用い、ベース塗料として、調製例7で得た水性ベース塗料B−1(tcU=370秒の場合、ω=2.0%)を用い、クリア塗料として、調製例3で得た溶剤型クリア塗料C−3(tcU=370秒、ω=5.8%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0111】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−3(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は3.8%であり、水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は3.4%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は7.2%であった。
【0112】
(比較例1)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=400秒の場合、ω=5.0%)を用い、ベース塗料として、調製例13で得た水性ベース塗料B−7(tcU=400秒の場合、ω=12.0%)を用い、クリア塗料として、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0113】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−7により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は4.3%であり、水性ベース塗料B−7(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は7.0%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は11.3%であった。
【0114】
(比較例2)
中塗り塗料として、調製例6で得た水性中塗り塗料P−2(tcU=400秒の場合、ω=2.4%)を用い、ベース塗料として、調製例13で得た水性ベース塗料B−7(tcU=400秒の場合、ω=12.0%)を用い、クリア塗料として、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0115】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−7により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−2により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−7(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は4.3%であり、水性ベース塗料B−7(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−2(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は9.6%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は13.9%であった。
【0116】
(比較例3)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=320秒の場合、ω=5.8%)を用い、ベース塗料として、調製例9で得た水性ベース塗料B−3(tcU=320秒の場合、ω=8.2%)を用い、クリア塗料として、調製例2で得た溶剤型クリア塗料C−2(tcU=320秒、ω=1.4%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0117】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−3により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は6.8%であり、水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−1(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は2.4%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は9.2%であった。
【0118】
(比較例4)
中塗り塗料として、調製例6で得た水性中塗り塗料P−2(tcU=320秒の場合、ω=3.2%)を用い、ベース塗料として、調製例9で得た水性ベース塗料B−3(tcU=320秒の場合、ω=8.2%)を用い、クリア塗料として、調製例2で得た溶剤型クリア塗料C−2(tcU=320秒、ω=1.4%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0119】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−3により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性中塗り塗料P−2により形成された下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は6.8%であり、水性ベース塗料B−3(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料P−2(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は5.0%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は11.8%であった。
【0120】
【表1】
【0121】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のように、下層、中間層及び上層の各層に熱硬化型塗料を使用し、ウェットオンウェットにより積層して未硬化積層塗膜を得、その後焼付け処理を施す塗装方法において、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の上層用塗料(溶剤型クリア塗料)の収縮率ωと第一の隣接層用塗料(水性ベース塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、第一の隣接層用塗料(水性ベース塗料)の収縮率ωA1と第二の隣接層用塗料(水性中塗り塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)が8.0%以下となるように、上層用塗料、第一の隣接層用塗料及び第二の隣接層用塗料を選択して形成した積層塗膜(実施例1〜8)のWa〜Wdはいずれも、前記絶対値の和(Δω+Δω)が8.0%を超えている従来の積層塗膜(比較例1〜4)に比べて小さく、外観品質が高度に優れたものであることが確認された。すなわち、本発明のように、前記絶対値の和(Δω+Δω)が8.0%以下となるように、上層用塗料、第一の隣接層用塗料及び第二の隣接層用塗料を選択してウェットオンウェットで積層した塗膜(実施例1〜8)のWaは25以下で要求外観品質を満たしていた。これに対して、前記絶対値の和(Δω+Δω)が8.0%を超える上層用塗料、第一の隣接層用塗料及び第二の隣接層用塗料をウェットオンウェットで積層した塗膜(比較例1〜4)のWaは25を上回り、要求外観品質を満たしていないことが確認された。
【0122】
(実施例9)
電着塗装を施した鋼板(日本ルートサービス(株)製)の表面に、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=400秒の場合、ω=5.0%)を、焼付け後の膜厚が20μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次に、調製例9で得た水性ベース塗料B−3(tcU=400秒の場合、ω=6.4%)を、焼付け後の膜厚が15μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次に、調製例10で得た水性ベース塗料B−4(tcU=400秒の場合、ω=8.1%)を、焼付け後の膜厚が15μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次いで、この水性ベース塗料B−4の層の上に、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を焼付け後の膜厚が35μmになるように塗装し、水性中塗り塗料P−1と水性ベース塗料B−3と水性ベース塗料B−4と溶剤型クリア塗料C−1とをウェットオンウェットで積層した未硬化積層塗膜を得た。
【0123】
この未硬化積層塗膜を室温で10分間静置(セッティング)した後、硬化反応をさせるために140℃で30分間の加熱処理(焼付け処理)を施して各層を硬化させ、積層塗膜を得た。
【0124】
得られた積層塗膜について、ウェーブスキャン(BYK−Gardner社製「Wave−Scan Dual」)を用いてウェーブスキャン値〔Wa(波長<0.3mm)、Wb(波長0.3〜1mm)、Wc(波長1〜3mm)、Wd(波長3〜10mm)、We(波長10〜30mm)〕を測定した。その結果を表2に示す。
【0125】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−4により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性ベース塗料B−3により形成された中間層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−4(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は0.4%であり、水性ベース塗料B−4(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料B−3(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は1.7%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は2.1%であった。
【0126】
(実施例10)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=320秒の場合、ω=5.8%)を用い、ベース塗料として、水性ベース塗料B−3の代わりに調製例8で得た水性ベース塗料B−2(tcU=320秒の場合、ω=6.3%)を用い、水性ベース塗料B−4の代わりに調製例7で得た水性ベース塗料B−1(tcU=320秒の場合、ω=2.8%)を用い、クリア塗料として、調製例2で得た溶剤型クリア塗料C−2(tcU=320秒、ω=1.4%)を用いた以外は実施例9と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0127】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性ベース塗料B−2により形成された中間層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は1.4%であり、水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料B−2(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は3.5%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は4.9%であった。
【0128】
(比較例5)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=400秒の場合、ω=5.0%)を用い、ベース塗料として、水性ベース塗料B−3の代わりに調製例13で得た水性ベース塗料B−7(tcU=400秒の場合、ω=12.0%)を用い、水性ベース塗料B−4の代わりに調製例7で得た水性ベース塗料B−1(tcU=400秒の場合、ω=0.9%)を用い、クリア塗料として、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(tcU=400秒、ω=7.7%)を用いた以外は実施例9と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0129】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性ベース塗料B−7により形成された中間層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は6.8%であり、水性ベース塗料B−1(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料B−7(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は11.1%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は17.9%であった。
【0130】
(比較例6)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(tcU=320秒の場合、ω=5.8%)を用い、ベース塗料として、水性ベース塗料B−3の代わりに調製例13で得た水性ベース塗料B−7(tcU=320秒の場合、ω=12.7%)を用い、水性ベース塗料B−4の代わりに調製例8で得た水性ベース塗料B−2(tcU=320秒の場合、ω=6.3%)を用い、クリア塗料として、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−2(tcU=320秒、ω=1.4%)を用いた以外は実施例9と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0131】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一の隣接層は前記水性ベース塗料B−2により形成された中間層であり、前記第一の隣接層に隣接する第二の隣接層は前記水性ベース塗料B−7により形成された中間層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ωと水性ベース塗料B−2(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|は4.9%であり、水性ベース塗料B−2(第一の隣接層用塗料)の収縮率ωA1と水性中塗り塗料B−7(第二の隣接層用塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|は6.4%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ωと前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、前記第一の隣接層用塗料の収縮率ωA1と前記第二の隣接層用塗料の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)は11.3%であった。
【0132】
【表2】
【0133】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のように、下層、2層の中間層及び上層の各層に熱硬化型塗料を使用し、ウェットオンウェットにより積層して未硬化積層塗膜を得、その後焼付け処理を施す塗装方法において、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の上層用塗料(溶剤型クリア塗料)の収縮率ωと第一の隣接層用塗料(第一の水性ベース塗料)の収縮率ωA1との差の絶対値|Δω|と、第一の隣接層用塗料(第一の水性ベース塗料)の収縮率ωA1と第二の隣接層用塗料(第二の水性ベース塗料)の収縮率ωA2との差の絶対値|Δω|との和(Δω+Δω)が8.0%以下となるように、上層用塗料、第一の隣接層用塗料及び第二の隣接層用塗料を選択して形成した積層塗膜(実施例9〜10)のWa〜Wdはいずれも、前記絶対値の和(Δω+Δω)が8.0%を超えている従来の積層塗膜(比較例5〜6)に比べて小さく、外観品質が高度に優れたものであることが確認された。すなわち、本発明のように、前記絶対値の和(Δω+Δω)が8.0%以下となるように、上層用塗料、第一の隣接層用塗料及び第二の隣接層用塗料を選択してウェットオンウェットで積層した塗膜(実施例9〜10)のWaは30以下で要求外観品質を満たしていた。これに対して、前記絶対値の和(Δω+Δω)が8.0%を超える上層用塗料、第一の隣接層用塗料及び第二の隣接層用塗料をウェットオンウェットで積層した塗膜(比較例5〜6)のWaは30を上回り、要求外観品質を満たしていないことが確認された。
【0134】
以上より、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して塗膜を形成する場合において、上層用塗料の流動停止時間tcU後から各塗料の標準焼付け時間t終了時までの間の上層用塗料の収縮率と第一の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値と、第一の隣接層用塗料の収縮率と第二の隣接層用塗料の収縮率との差の絶対値との和を8.0%以下とすることによって、外観品質が高度に優れた積層塗膜を得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上説明したように、本発明によれば、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して同時に焼付けて各層を硬化させても、上層表面の凹凸の発生が十分に抑制された積層塗膜を得ることができる。これにより、肌(表面平滑性)や光沢等の外観品質が高度に優れた塗装体を得ることができる。
【0136】
したがって、本発明は、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して同時に焼付ける場合においても外観品質が高度に優れた塗装体を得ることができる塗装方法として有用であり、特に乗用車、トラック、バス、オートバイ等の自動車用車体やその部品の塗装方法として有用である。
図1