特許第6420902号(P6420902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420902
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】3次元(3D)印刷用融合剤
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/165 20170101AFI20181029BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20181029BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20181029BHJP
   B33Y 70/00 20150101ALI20181029BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20181029BHJP
【FI】
   B29C64/165
   C09D11/30
   C08L101/00
   B33Y70/00
   B29C64/209
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-516303(P2017-516303)
(86)(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公表番号】特表2017-531572(P2017-531572A)
(43)【公表日】2017年10月26日
(86)【国際出願番号】US2014058091
(87)【国際公開番号】WO2016053248
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】511076424
【氏名又は名称】ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 清春
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】プラサド,ケシャヴァ,エイ
(72)【発明者】
【氏名】エマジョーメ,アリ
(72)【発明者】
【氏名】ハディック,グレン・トーマス
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0068131(US,A1)
【文献】 特開2014−133414(JP,A)
【文献】 特開2013−203850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元(3D)印刷用の融合剤であって:
融合剤の合計重量%の約15重量%から約30重量%の範囲の量で存在する共溶媒;
融合剤の合計重量%の約0.5重量%から約1.4重量%の範囲の量で存在する界面活性剤であり、10未満の親水性親油性バランス(HLB)値を有する界面活性剤;
融合剤の合計重量%の約3.0重量%から約6.0重量%の範囲の量で存在するカーボンブラック顔料;
約12,000から約20,000の範囲の重量平均分子量を有するポリマー分散剤;および
バランス量の水
を含む融合剤。
【請求項2】
融合剤の合計重量%の約0.03重量%から約0.10重量%の範囲の量で存在するキレート剤をさらに含む、請求項1に記載の融合剤。
【請求項3】
ポリマー分散剤が、スチレンアクリレートおよびポリウレタンからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の融合剤。
【請求項4】
共溶媒が300℃未満の沸点を有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の融合剤。
【請求項5】
共溶媒が、2−ピロリジノン、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリプロピレングリコールメチルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、融合剤が他の共溶媒を含まない、請求項4に記載の融合剤。
【請求項6】
界面活性剤が、アセチレンジオールの化学に基づく自己乳化性界面活性剤であり、またはフルオロ界面活性剤およびアセチレンジオールの化学に基づく自己乳化性界面活性剤の組み合わせを含む、請求項1〜5の何れか1項に記載の融合剤。
【請求項7】
ポリアクリル酸ポリマーとオレス−3−ホスフェートの組み合わせを含む抗コゲーション剤をさらに含み、この組み合わせが融合剤の合計重量%の0.20重量%超から約0.62重量%の範囲の量で存在する、請求項1〜6の何れか1項に記載の融合剤。
【請求項8】
3次元(3D)印刷用の融合剤であって:
融合剤の合計重量%の約15重量%から約30重量%の範囲の量で存在する共溶媒;
融合剤の合計重量%の約0.5重量%から約1.4重量%の範囲の量で存在する界面活性剤であって、10未満の親水性親油性バランス(HLB)値を有する界面活性剤;
融合剤の合計重量%の0.20重量%超から約0.62重量%の範囲の量で存在する抗コゲーション剤;
融合剤の合計重量%の約3.0重量%から約6.0重量%の範囲の量で存在するカーボンブラック顔料;
約12,000から約20,000の範囲の重量平均分子量を有するポリマー分散剤;
融合剤の合計重量%の約0.03重量%から約0.10重量%の範囲の量で存在するキレート剤;
任意選択的に殺生物剤;および
バランス量の水
からなる融合剤。
【請求項9】
殺生物剤が融合剤の合計重量%の約0.30重量%から約0.40重量%の範囲の量で存在する、請求項8に記載の融合剤。
【請求項10】
3D印刷された物体の層であって:
構築材料;および
構築材料の少なくとも幾らかの表面に適用された請求項1〜9の何れか1項に記載の融合
を包含する層。
【請求項11】
構築材料が、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、およびこれらのブレンドからなる群より選択されるポリマーである、請求項10に記載の層。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
3次元(3D)印刷は付加印刷プロセスであり、デジタルモデルから3次元の固形物体を作製するために使用される。3D印刷はしばしば、製品のラピッドプロトタイピング、金型作製、およびモールドマスターの作製に用いられる。3D印刷技術は付加プロセスであると考えられているが、それはこの技術が、材料の連続した層を組み合わせて適用することを含むからである。これは在来の、多くの場合に材料を除去することに依拠して最終的な物体を創造する、機械加工プロセスとは異なる。3D印刷に用いられる材料は多くの場合、硬化または溶解を必要とするが、これは幾つかの材料については熱アシスト押出または焼結を用いて達成してよく、また他の材料についてはデジタル光投影技術を用いて達成してよい。
【図面の簡単な説明】
【0002】
本発明の開示の例の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面を参照することによって明らかになるが、そこでは同様の参照番号は、同一ではないかも知れないが、類似の部品に対応している。簡潔さのために、参照番号または既に記述した機能を有する特徴は、それらが現れる他の図面に関しては説明されても、またはされなくともよい。
【0003】
図1】ここに開示する3D印刷の例を例示した流れ図である。
【0004】
図2A】ここに開示する3D印刷方法の一例を用いて3D物体の一層を形成するのに含まれる工程の断面図である。
図2B】ここに開示する3D印刷方法の一例を用いて3D物体の一層を形成するのに含まれる工程の断面図である。
図2C】ここに開示する3D印刷方法の一例を用いて3D物体の一層を形成するのに含まれる工程の断面図である。
図2D】ここに開示する3D印刷方法の一例を用いて3D物体の一層を形成するのに含まれる工程の断面図である。
【0005】
図2E図2Aから図2Dの工程を数回行った後に形成されるであろう3D物体の一例の断面図である。
【0006】
図3図2Eの3D物体の斜視図である。
【0007】
図4】ここに開示する3D印刷方法の一例に使用されてよい3D印刷システムの一例の簡単化した説明図である。
【発明の概要】
【0008】
ここに開示する融合剤の例は、3次元(3D)印刷システムに利用される。この3D印刷システムは、インクジェットで適用された融合剤(単数または複数)を使用した構築材料を溶解させるのに、電磁放射線の使用を包含する3D製造プロセスを基礎としており、対象とする3D物体/部分を選択的に画定する(層ごとに)。この3D製造プロセスの間に、構築材料(例えばポリアミド材料または別の適切なポリマー)のすべての層が電磁放射線に曝露されるが、構築材料の選択された領域のみが溶解され硬化されて、3D物体の層となる。融合剤はインクジェットアプリケータ(塗布装置)によって選択的に適用(塗布)され、融合剤が選択された領域で構築材料と接触するようにされる。融合剤はポリマー分散されたカーボンブラック顔料を含み、これは選択領域における放射線吸収効率を改善させる。ポリマー分散したカーボンブラック顔料は、吸収した放射線を熱エネルギーに変換させることができ、この熱エネルギーが次いで、ポリマー分散したカーボンブラック顔料と接触している構築材料を溶融および/または焼結させる。これは構築材料の溶解を生じさせ、3D物体の層が形成される。
【0009】
また、融合剤は共溶媒と界面活性剤とを含み、界面活性剤は融合剤が構築材料全体に比較的均等に拡がることを可能にするが、これは少なくとも部分的には、界面活性剤が構築材料の層の中に浸透することに基づく。共溶媒は300℃よりも低い沸点を有し、また界面活性剤は親水性親油性バランス(HLB)が10未満である。融合剤は、これらの特定の成分と共に、低い動的表面張力を有する(すなわち融合剤は適用されると、10ミリ秒以内に26ダイン/cmの平衡表面張力に達する)。動的表面張力が低いほど、融合剤のドット拡散が良好になり、得られる3D物体の光学密度は良好になる。その結果、改善されより均一な化粧性を備えた3D物体が得られる。
【0010】
ここに開示された融合剤を用いると、得られる3D物体は、例えば異なる共溶媒および指定HLBのない両性界面活性剤を含む、異なる融合剤で形成された3D物体と比較した場合に、改善された機械的特性(例えば引張強度、ヤング率、破断点歪み率)を有する。幾つかの例では、この改善された機械的特性は、ここに開示した融合剤がより少なく用いられた場合でも得られると考えられる。
【0011】
ここに開示の融合剤は水性系であり、特定の共溶媒と界面活性剤を含む。上述したように、融合剤の水系の性質と特定の成分は、疎水性であってよい構築材料上においてさえ、融合剤の濡れ性を向上させる。このことは、融合剤内部にあるポリマー分散したカーボンブラック顔料が、構築材料表面にわたってより一様に拡がることを可能にする。
【0012】
1つの例において、融合剤は、水(例えば脱イオン水)、沸点が300℃未満の共溶媒、HLBが10未満の界面活性剤、およびポリマー分散したカーボンブラック顔料を含む。融合剤中の水の量は、他の成分の量に応じて変化してよいが、しかし水は融合剤の残部を構成する(すなわち融合剤の合計の重量%が100となるように)。
【0013】
上述したように、共溶媒は300℃未満の沸点を有する。幾つかの例において、共溶媒は250℃未満の沸点を有する。共溶媒の幾つかの例には、2−ピロリジノン、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、およびトリプロピレングリコールメチルエーテルが含まれる。ここで開示の例においては、融合剤は列挙した共溶媒の1つを単独で、または列挙した共溶媒の2またはより多くを組み合わせて含み、他の共溶媒は排除されることが理解されよう。であるから、共溶媒が2−ピロリジノンであるとすれば、共溶媒として2−ピロリジノンが単独で含まれる。別の例では、共溶媒が2−ピロリジノンと1,5−ペンタンジオールの組み合わせであるとすれば、これらの溶媒だけが含まれる。共溶媒は融合剤中に、融合剤の合計重量%に基づいて、約15重量%から約30重量%の範囲の量で存在してよい。1つの例においては、共溶媒は融合剤中に、融合剤の合計重量%に基づいて、約25重量%の量で存在してよい。
【0014】
やはり上述したように、界面活性剤は10未満のHLBを有する。この成分は少なくとも部分的に、融合剤が低い動的表面張力(上記に定義したごとき)を有することに寄与する。10未満のHLBを有するどのような界面活性剤を使用してもよい。1つの例では、界面活性剤は自己乳化性の界面活性剤であり、アセチレンジオール系の化学に基づく(例えばエアプロダクツ社(Air Products and Chemical Inc.)のSURFYNOL登録商標SE−F)。他の例においては、界面活性剤はエトキシル化低発泡湿潤剤(例えばエアプロダクツ社のSURFYNOL登録商標440またはSURFYNOL登録商標CT−111)またはエトキシル化湿潤剤およびモレキュラー消泡剤(例えばエアプロダクツ社のSURFYNOL登録商標420)である。さらに他の、HLBが10未満の適切な界面活性剤には、ノニオン性湿潤剤およびモレキュラー消泡剤(例えばエアプロダクツ社のSURFYNOL登録商標104E)または水溶性ノニオン界面活性剤(例えばダウケミカル社(The Dow Chemical Company)のTERGITOLTMTMN−6)が含まれる。構築材料の濡れを改善するために、フルオロ界面活性剤を10未満のHLBを有する界面活性剤に加えてよい。かくして別の例において、融合剤は、HLBが10未満の界面活性剤(例えばアセチレンジオール系の化学に基づく自己乳化性界面活性剤)とノニオン性フルオロ界面活性剤(例えばデュポン社(DuPont)のCAPSTONE登録商標FS−35)の組み合わせを含む。
【0015】
界面活性剤が単独で使用されても、界面活性剤の組み合わせが使用されても、融合剤中での界面活性剤(単数または複数)の合計量は、融合剤の合計重量%に基づき、約0.5重量%から約1.4重量%の範囲であってよい。1つの例では、10未満のHLBを有する界面活性剤は約0.5重量%から約1.25重量%の範囲の量で含まれ、そしてフルオロ界面活性剤は約0.03重量%から約0.10重量%の範囲の量で含まれる。
【0016】
融合剤には、抗コゲーション剤を含んでよい。コゲーションは、サーマルインクジェットプリントヘッドの加熱素子上の乾燥インク(例えば融合剤)の積層物である。抗コゲーション剤(単数または複数)は、コゲーションの集積阻止を補助するために含有される。適切な抗コゲーション剤の例には、オレス−3−ホスフェート(例えばクローダ社(Croda)から商業的に入手可能なCRODAFOSTMO3AまたはCRODAFOSTMN−3酸)、またはオレス−3−ホスフェートと低分子量(例えば<5,000)のポリアクリル酸ポリマー(例えばルブリゾール社(Lubrizol)から商業的に入手可能なCARBOSPERSETMK−7028ポリアクリレート)の組み合わせが含まれる。単独の抗コゲーション剤が用いられる場合も、組み合わせの抗コゲーション剤が用いられる場合も、融合剤中の抗コゲーション剤(単数または複数)の合計量は、融合剤の合計重量%に基づいて0.20重量%超から約0.62重量%の範囲にあってよい。1つの例では、オレス−3−ホスフェートは約0.20重量%から約0.60重量%の範囲の量で含まれ、そして低分子量のポリアクリル酸ポリマーは、約0.005重量%から約0.015重量%の範囲の量で含まれる。
【0017】
ここに開示する融合剤において、カーボンブラック顔料は、放射線吸収剤または活性材料として作用する。カーボンブラック顔料の例には、日本の三菱化学株式会社によって製造されたもの(例えばカーボンブラックNo.2300,No.900,MCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100およびNo.2200Bのごとき);ジョージア州マリエッタのコロンビアンケミカルズ社(Columbian Chemicals Company)によって製造されたRAVEN登録商標シリーズの種々のカーボンブラック顔料(例えばRAVEN登録商標5750,RAVEN登録商標5250,RAVEN登録商標5000,RAVEN登録商標3500,RAVEN登録商標1255およびRAVEN登録商標700のごとき);マサチューセッツ州ボストンのキャボット社(Cabot Corporation)によって製造されたREGAL登録商標シリーズ、MOGUL登録商標シリーズまたはMONARCH登録商標シリーズの種々のカーボンブラック顔料(例えばREGAL登録商標400R,REGAL登録商標330RおよびREGAL登録商標660Rのごとき);およびニュージャージー州パーシッパニーのエボニックデグッサ社(Evonik Degussa Corporation)によって製造された種々のブラック顔料(例えばColor Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,PRINTEX登録商標35,PRINTEX登録商標U,PRINTEX登録商標V,PRINTEX登録商標140U,Special Black 5,Special Black 4AおよびSpecial Black 4のごとき)が含まれる。
【0018】
カーボンブラック顔料は約12,000から約20,000の範囲にある重量平均分子量を有するポリマー分散剤によって、融合剤中においてポリマー分散される。ここに開示する幾つかの例では、カーボンブラック顔料は最初、水系の顔料分散物の形である。この水系の顔料分散物は、カーボンブラック顔料(表面処理されていない)、ポリマー分散剤、および水(共溶媒ありまたはなし)を含む。含まれる場合の共溶媒の例は、2−ピロリジノンであってよい。ポリマー分散剤は、約12,000から約20,000の範囲にその重量平均分子量を有する、スチレンアクリレート系またはポリウレタン系のものであってよい。幾つかの商業的に入手可能なスチレンアクリレートポリマー分散剤の例は、JONCRYL登録商標671およびJONCRYL登録商標683(いずれもバスフ社(BASF Corp.)から入手可能)である。水系の顔料分散物中において、カーボンブラック顔料のポリマー分散剤に対する比率は、約3.0から約4.0の範囲にある。1つの例では、カーボンブラック顔料のポリマー分散剤に対する比率は約3.6である。ポリマー分散剤は、カーボンブラック顔料が向上した電磁放射線吸収を示すのに寄与すると考えられる。
【0019】
融合剤に存在するカーボンブラック顔料の量は、融合剤の合計重量%に基づいて、約3.0重量%から約6.0重量%の範囲にある。他の例では、融合剤に存在するカーボンブラック顔料の量は、4.0重量%超から約6.0重量%の範囲にある。顔料のこうした充填量は融合剤の有する噴射信頼性と電磁放射線吸収効率の間のバランスをもたらすと考えられる。水系の顔料分散物にカーボンブラック顔料が存在する場合、融合剤に添加される水系の顔料分散物の量は、融合剤中のカーボンブラック顔料の量が所定の範囲内となるように選択してよい。
【0020】
融合剤はまた、キレート剤、殺生物剤/抗微生物剤、および/またはこれらの組み合わせを含んでよい。キレート剤は、融合剤の合計重量%に基づいて、約0.03重量%から約0.10重量%の範囲内の量で添加してよい。適切なキレート剤の例には、TRILON登録商標(バスフ社から入手可能なアミノポリカルボキシレート)が含まれる。殺生物剤または抗微生物剤は、融合剤の合計重量に対して、約0.30重量%から約0.40重量%の範囲の量で添加してよい。適切な殺生物剤/抗微生物剤の例には、PROXELTMGXL(アーチケミカルズ社(Arch Chemicals,Inc.)から入手可能な1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの水溶液)およびKORDEKTMMLK(ダウケミカル社のホルムアルデヒドフリーの殺微生物剤)が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここに開示する融合剤の例は、どのような適切な3D印刷方法およびシステムにも使用してよい。3D印刷方法100の例が図1に示され、そしてこの方法100の種々の工程で用いられる印刷システム10の例が図2Aから図2Eに示される。図1に示す方法100の工程の各々が以下で詳細に説明され、そして幾つかの場合において、図2Aから図2E図1との関連で説明されることが理解されよう。
【0022】
図1および図2Aにおいて参照番号102で示されているように、この方法100の例は、3D印刷システム10を用いて構築材料12を適用することを含んでいる。図2Aに示された例では、以下でより詳細に説明するように、構築材料12の一層14が適用されている。
【0023】
構築材料12は、粉末(パウダー)、液体、ペースト、またはゲルであってよい。構築材料12の例には、5℃より大きな幅広い処理ウインドウ(すなわち融点と再結晶化温度の間の温度範囲)を持つ高分子半結晶性プラスチック材料が含まれる。1つの例では、処理ウインドウは15℃から約30℃の範囲にわたる。
【0024】
適切な構築材料12の例には、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、およびこれらの材料のアモルファス形態が含まれる。適切な構築材料12のさらに他の例には、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、他のエンジニアリングプラスチック、およびここに列挙したポリマーの2またはより多くのブレンドが含まれる。これらの材料のコアシェルポリマー粒子もまた使用してよい。
【0025】
構築材料12は、約55℃から約450℃の範囲の融点を有してよい。この範囲内に融点のある構築材料12の幾つかの具体例には、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン812、ナイロン912などが含まれる。例として、ポリアミド12(すなわちナイロン12)は約180℃の融点を有し、ポリアミド6(すなわちナイロン6)は約220℃の融点を有し、そしてポリアミド11(すなわちナイロン11)は約200℃の融点を有する。
【0026】
構築材料12はまた、変性したポリアミドであってよい。1つの例では、変性ポリアミド材料はエラストマー変性したポリアミドであり、ナイロン12よりも低い温度で溶融する。
【0027】
構築材料12が粉末状の場合、ポリアミド構築材料12は同様のサイズの粒子から構成されていてもよく(図2Aに示すように)また異なる大きさの粒子から構成されていてもよい。1つの例では、構築材料12は3つの異なるサイズの粒子を含む。この例では、第1の粒子の平均サイズは第2の粒子の平均サイズよりも大きく、そして第2のポリマー粒子の平均サイズは、第3のポリマー粒子の平均サイズよりも大きくてよい。ここで使用するとき、用語「サイズ」は、球形粒子の直径、または非球形粒子の平均径(すなわち非球形粒子を横切る幾つもの直径の平均)を参照している。一般に、構築材料12の粒子の平均サイズは、約10μmから約100μmの範囲にある。幾つかの例では、構築材料12の粒子の平均サイズは約40μmから約50μmの範囲にある。それぞれの粒子のサイズが異なる例として、第1の粒子の平均サイズは50μmより大きくてよく、第2の粒子の平均サイズは10μmと30μmの間でよく、そして第3の粒子の平均サイズは10μmに等しいかより小さくてよい。1つの例では、第1のポリアミド粒子は約70重量%から約95重量%の範囲の量で存在し、第2のポリアミド粒子は約0.5重量%から約21重量%の範囲の量で存在し、そして第3のポリアミド粒子は0重量%超から約21重量%の範囲の量で存在する。
【0028】
構築材料12は、構築材料の粒子に加えて、帯電防止剤、流動補助剤、またはこれらの組み合わせを含んでよいことが理解されよう。帯電防止剤(単数または複数)は、摩擦帯電を低減させるために添加してよい。適切な帯電防止剤(単数または複数)の例には、脂肪族アミン (エトキシル化されていてよい)、脂肪族アミド、4級アンモニウム塩(例えばベヘントリモニウムクロリドまたは コカミドプロピルベタイン)、リン酸エステル、ポリエチレングリコールエステルが含まれる。幾つかの適切な商業的に入手可能な帯電防止剤には、それぞれクラリアント社(Clariant Int.Ltd.)から入手可能なHOSTASTAT登録商標FA38(天然系エトキシル化アルキルアミン)、HOSTASTAT登録商標FE2(脂肪酸エステル)、およびHOSTASTAT登録商標HS1(アルカンスルホネート)が含まれる。1つの例において、帯電防止剤は構築材料粒子の合計重量%を基準として、0重量%超から5重量%未満の範囲の量で添加される。
【0029】
流動補助剤(単数または複数)は、構築材料12の塗布流動性を改善するために添加されてよい。流動補助剤(単数または複数)は、粒子のサイズが25μmよりも小さい場合に特に望ましいであろう。流動補助剤は、(粒子の導電性を増大させることで)摩擦、横方向の抗力、および摩擦帯電の蓄積を低減させることにより、構築材料12の流動性を改善させる。適切な流動補助剤の例には、トリカルシウムホスフェート(E341)、粉末セルロース(E460(ii))、マグネシウムステアレート(E470b)、重炭酸ナトリウム(E500)、フェロシアン化ナトリウム(E535)、フェロシアン化カリウム(E536)、フェロシアン化カルシウム(E538)、骨質ホスフェート(E542)、ナトリウムシリケート(E550)、二酸化ケイ素(E551)、カルシウムシリケート(E552)、マグネシウムトリシリケート(E553a)、タルカムパウダー(E553b)、ナトリウムアルミノシリケート(E554)、カリウムアルミニウムシリケート(E555)、カルシウムアルミノシリケート(E556)、ベントナイト(E558)、アルミニウムシリケート(E559)、ステアリン酸(E570)、またはポリジメチルシロキサン(E900)が含まれる。1つの例では、流動補助剤は構築材料粒子の合計重量%に基づいて、0重量%超から5重量%未満の範囲の量で添加される。
【0030】
再度図2Aを参照すると、3D物体形成用の印刷システム10は、供給床16(構築材料12の供給物を含む)、配給ピストン18、ローラー20、製造床22(接触表面23を有する)、および製造ピストン24を含んでいる。これらの物理的要素の各々は、印刷システム10の中央処理装置(図示せず)によって作動するよう接続してよい。この中央処理装置(例えば非一時的な有形のコンピュータ読み出し可能な記憶媒体に記憶された実行中のコンピュータ読み出し可能な命令)は、3D物体を創造するための物理的要素を制御するために、プリンターのレジスタやメモリ内の物理(電子)量として表されたデータを操作し、変換する。構築材料12、融合剤などの選択的な配給のためのデータは、形成される3D物体のモデルから誘導してよい。
【0031】
配給ピストン18および製造ピストン24は同じタイプのピストンであってよいが、反対の向きに移動するようにプログラムされる。1つの例では、3D物体の最初の層が形成される場合に、配給ピストン18は供給床16の開口部から所定量の構築材料12を押し出すようにプログラムされてよく、そして製造ピストン24は製造床22の深さを増大させるべく、配給ピストン18と反対向きに移動するようプログラムされてよい。配給ピストン18は十分に前進して、ローラー20が構築材料12を製造床22内へそして接触表面23上へと押しやる場合に、製造床22が十分に深く、構築材料12の層14が床22に形成されてよいようにされる。ローラー20は構築材料12を製造床22へと拡げることが可能であって層14を形成し、この層の厚みは比較的均一である。1つの例では、層14の厚みは約90μmから約110μmの範囲にあるが、より薄いまたはより厚い層を使用することでもよい。
【0032】
ローラー20は他の工具、例えば異なる種類の粉末を拡げるのに望ましいであろうブレードや、ローラーとブレードの組み合わせなどで代替してよいことが理解されよう。
【0033】
構築材料12の層14が製造床22内に導入された後、層14は加熱に曝される(図1および図2Bで番号104で示すように)。加熱は、構築材料12を予熱するように行われ、従って加熱温度は、構築材料12の融点未満であることが望ましい。それゆえ選択される加熱温度は、使用する構築材料12に依存する。例として、加熱温度は構築材料12の融点より、約5℃から約20℃低くてよい。1つの例では、構築材料12は約50℃から約430℃の範囲にわたる温度に加熱される。構築材料12がポリアミド12である例においては、予熱温度は約160℃から約170℃の範囲にわたる。
【0034】
構築材料12の層14の予熱は、製造床22内にある構築材料12の全部を熱に対して曝露する、何らかの適切な熱源を用いて達成してよい。熱源の例には、電磁放射線源、例えば赤外光源または近赤外光源が含まれる。
【0035】
層14を予熱した後、図1において参照番号106で、また図2Cに示すように、前述した融合剤26が層14中の構築材料12の一部上に選択的に適用される。図2Cに示すように、融合剤26はインクジェットアプリケータ28(例えばサーマルインクジェットプリントヘッドまたは圧電インクジェットプリントヘッド)から施与されてよい。図2Cには単一のインクジェットアプリケータ28が示されているが、製造床22の幅にわたって広がる多数のインクジェットアプリケータを使用してよいことが理解されよう。融合剤26を所望の領域(単数または複数)に積層するために、インクジェットアプリケータ(単数または複数)28は、インクジェットアプリケータ(単数または複数)28を製造床22に隣接して移動させる可動式のXYステージまたは平行移動するキャリッジ(いずれも図示されていない)に取り付けてよい。
【0036】
インクジェットアプリケータ(単数または複数)28は、中央処理装置からコマンドを受け取り、そして形成される3D物体の層の断面パターンに従って融合剤26を積層するようにプログラムされてよい。ここで使用するところでは、形成される物体の層の断面とは、接触表面23と平行な断面を指している。インクジェットアプリケータ(単数または複数)28は融合剤26を層14のそうした部分上に選択的に適用し、それらの部分は溶解して3D物体の1つの層になる。1つの例として、第1の層が立方体または円筒形のように形成される場合、融合剤26は構築材料12の層14の少なくとも一部上に、それぞれ正方形または円形のパターン(上から見て)で積層される。図2Cに示す例では、融合剤26は層14の領域または部分30上に正方形のパターンで積層されるが、領域または部分32には積層されない。
【0037】
ここに開示する方法100の例では、単一の融合剤26を選択的に適用して3D物体の層を形成してよい。適用される融合剤26の量は、最終製品における性質を変化させるためデジタル的に調節してよいことが理解されよう。
【0038】
融合剤(単数または複数)26が所望の領域(単数または複数)または部分(単数または複数)30に選択的に適用された後、構築材料12の層14の全体、およびその少なくとも一部に適用された融合剤(単数または複数)26は、電磁放射線に曝露される。これは図1の工程108および図2Dに示されている。
【0039】
1つの例において、電磁放射線は赤外放射線または近赤外放射線であってよい。電磁放射線は放射線源34、例えば赤外または近赤外硬化ランプ、赤外または近赤外発光ダイオード(LED)、または所望の電磁放射波長のレーザーから発せられる。1つの例において光源の電磁放射波長は約100nm(UV)から約10μmの範囲にある。別の例においては、光源は近赤外光源であって波長は約800nmである。さらに別の例では、光源は赤外光源であって波長は約2μmである。放射線源34は例えば、インクジェットアプリケータ(単数または複数)28も保持しているキャリッジに取り付けてよい。キャリッジは放射線源34を、製造床22に隣接した位置へと移動させてよい。放射線源34は、中央処理装置からのコマンドを受け取り、層14および適用された融合剤26を電磁放射エネルギー(例えば赤外または近赤外エネルギー)に曝露するようにプログラムしてよい。
【0040】
放射線が適用される時間の長さ、すなわちエネルギー曝露時間は、例えば:放射線源34の特徴;構築材料12の特徴;および/または融合剤26の特徴の1つまたはより多くに依存してよい。
【0041】
溶解レベルでの変動は、X、Y、および/またはZ軸に沿ったエネルギー曝露時間を変更(増加または減少)することによって達成してよいことが理解されよう。例えば、Z軸に沿って溶解レベルを低減させることが望ましい場合には、放射線曝露時間は第1の層で最も長く、後続の形成層で減少するようにしてよい。さらに別の例においては、X、Y、および/またはZ軸に沿って適用される融合剤26の量を変化させる(増大または低減)ことにより、溶解レベルの変化を達成してもよい。
【0042】
融合剤26は、電磁エネルギーの吸収を増大させ、吸収した電磁エネルギーを熱エネルギーに変換し、そして融合剤26と接触している(すなわち領域(単数または複数)/部分(単数または複数)32において)構築材料12への熱エネルギーの伝達を促進する。1つの例において、融合剤26は領域(単数または複数)32にある構築材料12の温度をその融点付近または融点以上へと十分に昇温させ、構築材料12の溶解(これは溶融、焼結、結合その他を含んでよい)が行われることを許容する。具体的な例では、温度は構築材料12の溶融温度より約50℃上まで昇温される。融合剤26はまた例えば、構築材料12の融点未満であるが軟化および結合を生ずるのに適した温度への加熱を生じさせてよい。適用された融合剤26を有していない領域(単数または複数)32が吸収するエネルギーはより少なく、従ってそうした領域(単数または複数)32内にある構築材料12は一般に融点を超えず、溶解しないことが理解されよう。これによって、形成すべき3D物体50(図2Eおよび3)の1つの層40が形成される。
【0043】
上述したように、電磁放射線に対する曝露は構築材料12を領域(単数または複数)32において溶解させて3D物体50の層40を形成する。図1の工程102から108は、後続の層42、44、46(図2E)を生成するのに所望とされる回数だけ繰り返してよく、最終的に3D物体50が形成される。融合剤26がその上に適用された構築材料12の一部によって吸収されまたは通り抜けた(エネルギーの適用中に)熱は、先に固化した層、例えば層40に伝播され、その層40の幾らかを融点以上に加熱させてよいことが理解されよう。この効果は、3D物体50の隣接する層(例えば40および42)の間に強力な層間結合を生じさせるのに役立つ。
【0044】
図2Eは、製造床22中に形成された3D物体50の一例を示している。後続して形成される層42、44、46は、形成される3D物体50の大きさ、形状その他に応じて、所望とするどのような形状および/または厚みを有していてもよく、また他の層40、42、44、46の何れと同じでも異なっていてもよいことが理解されよう。
【0045】
図2Eに示されているように、後続の層42、44、46が形成されるにつれて、配給ピストン18は配給床16の開口近くへと押し上げられ、配給床16にある構築材料12の供給量は減少する(例えば方法100の開始時における図2Aと比較して)。製造ピストン24は、構築材料12の後続の層(単数または複数)および選択的に適用された融合剤26を収容するように、製造床22の開口部から離れるように押し込まれる。層40、42、44、46の各々が形成された後、構築材料12の少なくとも幾らかは溶解されずに残っているため、3D物体50は少なくとも部分的に、製造床22内で未溶解の構築材料12によって包囲されている。
【0046】
3D物体50が完成した時点で、それは製造床22から取り出してよく、そして製造床22内に残っている未溶解の構築材料12は、部分的にはプロセス条件に応じて再使用してよい。
【0047】
図3は、3D物体50の斜視図を示している。層40、42、44、46の各々は、溶解した(溶融した、焼結した、結合した、その他の)構築材料と、融合剤26の少なくとも幾らかの成分(すなわち蒸発していない成分)とを含んでいる。
【0048】
今度は図4を参照すると、印刷システム10’の別の例が描かれている。このシステム10’は、付加印刷システム10’の全般的な動作を制御する中央処理装置(CPU)56を含む。例として、中央処理装置(CPU)56はマイクロプロセッサに基づいたコントローラであってよく、メモリ52に対して例えば通信バス(図示せず)を介して接続されている。メモリ52は、コンピュータ読み取り可能な命令54を可能している。中央処理装置56は命令54を実行してよく、そして命令54に従ってシステム10’の動作を制御してよい。
【0049】
この例においては、印刷システム10’は、支持部材60上にもたらされる構築材料12の層14(この図には示されていない)に対して融合剤26を選択的に配給/適用するインクジェットアプリケータ28を含む。1つの例において、支持部材60は約10cm掛ける10cmから約100cm掛ける100cmまでの範囲にわたる寸法を有するが、形成される3D物体50に応じて、支持部材60はより大きなまたはより小さな寸法を有してよい。
【0050】
中央処理装置56は、配給制御データ58に従って、構築材料12の層14に対する融合剤26の選択的な配給を制御する。
【0051】
図4に示す例においては、インクジェットアプリケータ28はプリントヘッド、例えばサーマルプリントヘッドまたは圧電インクジェットプリントヘッドであることが理解されよう。インクジェットアプリケータ28は、ドロップオンデマンド式のプリントヘッドまたは連続ドロップ式のプリントヘッドであってよい。
【0052】
インクジェットアプリケータ28は、融合剤26が適切な流体形態である場合に、選択的に配給するように使用してよい。上記に説明したように、融合剤26は水のような水性ビヒクル、共溶媒、界面活性剤その他を含み、それがインクジェットアプリケータ28を介して配給されることを可能にする。
【0053】
1つの例において、インクジェットアプリケータ28は、融合剤26の液滴を1インチ当たり約300ドット(DPI)から約1200DPIの範囲の解像度で配給するように選択されてよい。他の例においては、インクジェットアプリケータ28は融合剤26の液滴を、より高いまたはより低い解像度で配給することができるように選択されてよい。
【0054】
インクジェットアプリケータ28はノズルのアレイを含んでよく、それを介してインクジェットアプリケータ28は、液滴を選択的に吐出することができる。1つの例において、液滴の各々は液滴当たり約10ピコリットル(pl)程度であってよいが、より大きなまたはより小さな寸法の液滴を使用してよいことも考慮されている。幾つかの例においては、インクジェットアプリケータ28は可変寸法の液滴を配給することができる。
【0055】
インクジェットアプリケータ28は、印刷システム10’と一体化された部分であることができ、あるいはユーザーが交換可能なものであってもよい。インクジェットアプリケータ28がユーザー交換可能なものである場合、それは適切な分配装置受容器またはインターフェースモジュール(図示せず)内へと着脱可能に挿入可能であってよい。
【0056】
印刷システム10’の別の例においては、単一のインクジェットプリントヘッドを使用して、異なる融合剤26を選択的に配給するようにしてよい。例えば、融合剤26の1つを配給するようにプリントヘッドの第1の組のプリントヘッドノズルを構成し、別の融合剤26を配給するようにプリントヘッドの第2の組のプリントヘッドノズルを構成してよい。
【0057】
図4に示すように、インクジェットアプリケータ28は、ページワイドアレイ構成において、支持部材60の全幅に広がることのできるだけの長さを有している。1つの例において、ページワイドアレイ構成は、多数のインクジェットアプリケータ28を適切に積層することを通じて達成される。別の例においては、ページワイドアレイ構成は、支持部材60の幅にわたって広がることを可能にするだけの長さを有するノズルアレイを備えた、単一のインクジェットアプリケータ28を通じて達成される。印刷システム10’の他の例においては、インクジェットアプリケータ28は、支持部材60の全幅に広がることができない、より短い長さを有していてよい。
【0058】
図4には示されていないが、インクジェットアプリケータ28は可動のキャリッジ上に設置して、それが図示したY軸に沿って支持部材60の長さにわたり、双方向に移動することを可能にしてよいことが理解されよう。これは、支持部材60の全幅および全長にわたり、融合剤26の選択的な配給を単一パスで行うことを可能にする。他の例では、インクジェットアプリケータ28は固定とし、支持部材60がこれに対して相対的に移動するように構成してよい。
【0059】
ここで使用するとき、「幅」という用語は一般に、図4に示したXおよびY軸に平行な平面における、最も短い寸法を指しており、そして「長さ」という用語は、この平面における最も長い寸法を指している。しかしながら、他の例においては、用語「幅」は用語「長さ」と相互に交換可能であってよいことが理解されよう。例として、インクジェットアプリケータ28は支持部材60の全長に広がることを可能にするだけの長さを有してよいが、可動キャリッジは支持部材60の幅にわたって双方向に移動してよい。
【0060】
インクジェットアプリケータ28が短い長さを有し、支持部材60の全幅にわたって広がることができない例では、インクジェットアプリケータ28はまた、図示のX軸において支持部材60の幅を横切って双方向に移動可能であってもよい。この構成は、多数回のパスを用いて、支持部材60の全幅および全長にわたり、融合剤26を選択的に配給することを可能にする。
【0061】
インクジェットアプリケータ28はその中に、供給される融合剤26を含んでいてもよく、または別体の供給用融合剤26と連動するよう接続されていてもよい。
【0062】
図4に示されているように、印刷システム10’はまた、構築材料分配器64を含んでいる。この分配器64は、支持部材60上に構築材料12の層(例えば層14)をもたらすように用いられる。適切な構築材料分配器64は、例えば、ワイパーブレード、ローラー、またはこれらの組み合わせを含んでよい。
【0063】
構築材料12は構築材料分配器64へと、ホッパーまたは他の適切な配給システムから供給されてよい。図示の例においては、構築材料分配器64支持部材60の長さ(Y軸)にわたって移動して、構築材料12の層を積層する。先に記載したように、構築材料12の第1の層は支持部材60上に積層され、これに対し構築材料12の後続の層は、先に積層された(そして固化された)層の上に積層される。
【0064】
支持部材60はまた、Z軸に沿って移動可能であってよいことが、さらに理解されるであろう。1つの例において支持部材60は、構築材料12の新たな層が積層されるにつれて、直前に形成された層の表面とインクジェットアプリケータ28の下側表面との間に所定のギャップが維持されるように、Z軸方向において移動される。しかしながら他の例においては、支持部材60はZ軸に沿って固定されていてよく、そしてインクジェットアプリケータ28がZ軸に沿って移動可能とされてよい。
【0065】
システム10と同様に、システム10’もまた放射線源34を含み、構築材料12の堆積層および選択的に適用された融合剤26に対してエネルギーを適用し、構築材料12の部分(単数または複数)32の固化を生じさせる。先に記載したいずれの放射線源34を使用してもよい。1つの例においては、放射線源34は単一のエネルギー源であって、適用された材料に対してエネルギーを均一に適用可能なものであり、そして別の例においては、放射線源34はエネルギー源のアレイを含み、積層された材料に対してエネルギーを均一に適用する。
【0066】
ここに開示する例においては、放射線源34は、積層された構築材料12の全表面に対して実質的に一様な仕方でエネルギーを適用するように構成される。この種の放射線源34は、非集束エネルギー源と称されてよい。全表面をエネルギーに対して同時に曝露することは、3次元物体50が作成されうる速度を増大させるのに役立つであろう。
【0067】
図示されていないが、放射線源34は可動のキャリッジ上に設けてよく、あるいは固定位置に設けてよいことが理解されよう。
【0068】
中央処理装置56は放射線源34を制御してよい。適用されるエネルギーの量は、配給制御データ58に従うようにしてよい。
【0069】
システム10’はまた、予熱ヒーター62を含んでよく、これは積層された構築材料12を予熱する(図2Bに関して示され説明された如くして)のに使用される。予熱ヒーター62の使用は、放射線源34によって適用しなければならないエネルギーの量を低減するのに役立つであろう。
【0070】
本開示をさらに説明するために、ここに実施例を記載する。これらの実施例は例示目的で提供されるものであり、本開示の範囲を限定するものとして解釈されないことが理解されよう。
【実施例】
【0071】
実施例1
融合剤は、ここに開示の例に従って調製した。例示的な融合剤の配合を表1に示す。比較例の融合剤も調製した。この比較例の融合剤の配合も表1に示す。量は、重量パーセントとして記載されている。カーボンブラック顔料は配合物に対し、水性分散物(水およびポリマー分散剤を含む)の形態で添加したが、表1に示された量は、カーボンブラック顔料の実際の量を表している。
【表1】
【0072】
実施例のCA1および比較例のCA1は、2種類の異なるポリアミド−12、すなわちPA2200(エレクトロオプティカルシステムズ(Electro Optical Systems)社から入手可能)およびVESTOSINT X1556(エボニック(Evonik)社から入手可能)と共に、3D物体を形成するのに使用した。ポリアミド−12(PA−12)材料の各々の層を製造床に適用した。実施例のPA2200部分を形成するために、9ng用プリントヘッドでPA2200層の一部上に、実施例のCA1をパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。実施例のVESTOSINT X1556部分を形成するために、9ng用のプリントヘッドでVESTOSINT X1556層の一部上に、実施例のCA1をパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。比較例のPA2200部分を形成するために、9ng用のプリントヘッドでPA2200層の一部上に、比較例のCA1をパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。比較例のVESTOSINT X1556部分を形成するために、9ng用のプリントヘッドでVESTOSINT X1556層の一部上に、比較例のCA1をパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。実施例のCA1および比較例のCA1の各々は、XY方向およびZ方向に同じ量だけ適用した。放射線への曝露は毎秒約5インチ(約12.7センチ)であった。
【0073】
実施例のPA2200部分、実施例のVESTOSINT X1556部分、比較例のPA2200部分、および比較例のVESTOSINT X1556部分は、引張強度、ヤング率、降伏点歪み率、破断点歪み率、および歪み率(破断−降伏)などの種々の機械的特性を判定するために試験した。実施例の部分および比較例の部分の各々は、ASTM D638(「プラスチック引張特性標準試験方法」)に記載された方法を用いて、単軸引張で試験した。結果を表2に示す。
【表2】
【0074】
表2に示すように、XYおよびZ方向において、実施例のPA2200部分(実施例のCA1で作成)の機械的特性はすべて、比較例のPA2200部分(比較例のCA1で作成)の機械的特性よりも良好であった。よって、XYおよびZ軸方向の強度は両方とも、実施例のPA2200部分では改善された。
【0075】
またやはり表2に示すように、XY方向において、実施例のVESTOSINT X1556部分のすべての機械的特性は、比較例のVESTOSINT X1556部分の機械的特性よりも良好であった。
【0076】
加えて、機械的特性は、使用される実施例の融合剤の量を調節することによって、さらに改善されると考えられる。
【0077】
実施例2
融合剤中に用いられる顔料の種類が、形成される3D物体の機械的特性に及ぼす影響を試験するために、3つの異なるカーボンブラック顔料分散物を使用して、3つの異なる融合剤を作成した。他の点では、これらの異なる融合剤のビヒクルは同じであった。ビヒクルは10未満のHLBを有する界面活性剤を含まないことが留意される。1つの実施例融合剤が調製され(実施例CA2)、2つの比較例融合剤が調製された(比較例CA2および3)。比較例のCA2におけるカーボンブラック顔料は、実施例1のCB1(すなわちポリマー分散されていない表面処理されたカーボンブラック顔料)であった。比較例のCA3におけるカーボンブラック顔料は、12,000未満の重量平均分子量を有するスチレンアクリレートでポリマー分散したカーボンブラック顔料であった。実施例のCA2中のカーボンブラック顔料は、実施例1のCB2(すなわちJONCRYL登録商標671−約17,000の重量平均分子量を有するスチレンアクリレート−で分散したカーボンブラック顔料)であった。これらの配合を表3に示す。
【表3】
【0078】
実施例のCA2および比較例のCA2およびCA3は、ポリアミド−12を用いて、3D物体を形成するために使用した。ポリアミド−12(PA−12)材料の各々の層を製造床に適用した。実施例の部分を形成するために、9ngのプリントヘッドを用いてPA−12層の一部上に、実施例のCA2をパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。比較例のPA−12部分を形成するために、9ngのプリントヘッドを用いてPA−12層の一部上に、比較例のCA2およびCA3をそれぞれパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。実施例のCA2および比較例のCA2およびCA3は各々、XY方向およびZ方向に同じ量で適用した。放射線への曝露は毎秒約5インチ(約12.7センチ)であった。
【0079】
実施例の部分および比較例の部分は、引張強度、ヤング率、および降伏点歪み率などの種々の機械的特性を判定するために試験した。実施例の部分および比較例の部分の各々は、ASTM D638(「プラスチック引張特性標準試験方法」)に記載された方法を用いて、単軸引張で試験した。結果を表4に示す。Z軸に沿った機械的特性は試験しなかった。
【表4】
【0080】
CB2を用いて形成した実施例の部分の機械的特性は、他のカーボンブラックインク分散物(CB1およびCB3)を用いて形成した部分のいずれよりも良好であった。実施例のCA2を用いて形成した部分の機械的特性は、10未満のHLB値を有する界面活性剤を取り込むことによってさらに向上されたと考えられる。
【0081】
実施例3
融合剤中に使用される抗コゲーション剤のレベルが、形成された3D物体の機械的特性に及ぼす影響を試験するために、2つの異なる抗コゲーション剤レベルを用いて、2つの異なる融合剤を作成した。1つの実施例融合剤を調製し(実施例CA3)、1つの比較例融合剤を調製した(比較例CA4)。これらの配合を表5に示す。
【表5】
【0082】
実施例のCA3および比較例のCA4は、ポリアミド−12を用いて3D物体を形成するのに使用した。ポリアミド−12(PA−12)材料の層の各々を製造床に適用した。実施例の部分を形成するために、実施例のCA3をPA−12層の一部上に、9ng用プリントヘッドを用いてパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。比較例のPA−12部分を形成するために、比較例のCA4をPA−12層の一部上に、9ng用プリントヘッドを用いてパターン状にサーマルインクジェット印刷し、赤外放射線に曝露した。実施例のCA3および比較例のCA4は各々、XY方向およびZ方向に同じ量だけ適用した。放射線への曝露は毎秒約5インチ(約12.7センチ)であった。
【0083】
実施例の部分および比較例の部分は、引張強度、ヤング率、降伏点歪み率、破断点歪み率、および歪み率(破断−降伏)などの種々の機械的特性を判定するために試験した。実施例の部分および比較例の部分の各々は、ASTM D638(「プラスチック引張特性標準試験方法」)に記載された方法を用いて、単軸引張で試験した。結果を表6に示す。Z軸に沿った機械的特性は試験しなかった。
【表6】
【0084】
表6に示すように、実施例のPA−12部分(実施例のCA3で作成)の歪み率(破断−降伏)を除き、機械的特性はすべて、比較例のPA−12部分(比較例のCA4で作成)の機械的特性より良好か、または等しかった。よって、このレベルの抗コゲーション剤は、3D物体の機械的特性を改善させるために、ここに開示の融合剤中に適切な量で含有させてよい。
【0085】
明細書全体を通じて、「1つの例」、「別の例」、「例」といった言及は、それらの例に関して記載した特定の要素(例えば特性、構造、および/または特徴)が、ここに記載した少なくとも1つの実施例に含まれており、他の実施例には存在していても存在していなくてもよいことを意味する。また、文脈が明らかに別のことを述べているのでない限り、いずれの例について記載した要素も、種々の例においてどのような適切な仕方で組み合わせてもよいことが理解されよう。
【0086】
ここに提示した範囲は、記載された範囲と、その記載範囲内のどのような値および部分範囲をも含むものであることが理解されよう。例えば、約55℃から約450℃の範囲というのは、明示的に挙げられた約55℃から約450℃の上下限を含むだけでなく、57℃、95℃、125℃、250℃その他といった個別の値、および約70℃から約325℃、約60℃から約170℃その他といった部分範囲をも含むものと解釈されるべきである。さらにまた、値を記述するのに「約」が用いられる場合、それは記載された値からの小さな変動(+/−10%まで)を包含することを意味している。
【0087】
ここに開示の例を記載し特許請求するについては、文脈が明らかに別のことを述べているのでない限り、単数形は複数の指示対象を含むものである。
【0088】
幾つかの実施例について詳細に記述したが、ここに開示の例を修正してよいことは明らかである。従って、以上の記述は非限定的であると見なされるものである。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4