特許第6420906号(P6420906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420906
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物及び粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20181029BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20181029BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20181029BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20181029BHJP
   C09J 7/28 20180101ALI20181029BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20181029BHJP
【FI】
   C09J133/06
   C09J11/04
   C09J11/06
   C09J9/02
   C09J7/28
   C09J7/38
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-524152(P2017-524152)
(86)(22)【出願日】2015年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2015067132
(87)【国際公開番号】WO2016203510
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2017年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145079
【氏名又は名称】株式会社寺岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
(74)【代理人】
【識別番号】100181607
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 史子
(72)【発明者】
【氏名】山縣 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】石川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】土屋 靖史
(72)【発明者】
【氏名】山下 麗美
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−136778(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/037378(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/002203(WO,A1)
【文献】 特開2010−138317(JP,A)
【文献】 特開2011−037914(JP,A)
【文献】 特開2013−151641(JP,A)
【文献】 特開2007−051271(JP,A)
【文献】 特開2008−248226(JP,A)
【文献】 特開2015−059133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数が1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A1)10〜20質量%、炭素原子数が4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)50〜80質量%、カルボキシル基含有モノマー(A3)10〜15質量%、水酸基含有モノマー(A4)0.01〜0.5質量%、及び、酢酸ビニル(A5)1〜5質量%をポリマー鎖の構成成分として含み、過酸化物系重合開始剤を用いて得られる共重合体の重量平均分子量が95万〜200万、理論Tgが−55℃以下であるアクリル系共重合体(A)と、
架橋剤(B)と、
シランカップリング剤(C)と、
酸化防止剤(D)と、
導電性粒子(E)
を含有する粘着剤組成物。
【請求項2】
シランカップリング剤(C)がグリシジル基を含み、その配合量がアクリル系共重合体(A)100質量部に対して0.01〜0.5質量部である請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
架橋剤(B)が、少なくともイソシアネート系架橋剤を含む請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
酸化防止剤(D)が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
導電性粒子(E)が、金属粒子を含む請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
導電性粒子(E)の配合量が、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して0.01〜10質量部である請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
さらに、防錆剤(F)を含む請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
防錆剤(F)が、トリアゾール系化合物を含む請求項7記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
導電性基材の片面又は両面に、請求項1記載の粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する粘着テープ。
【請求項10】
導電性基材が、金属箔である請求項9記載の粘着テープ。
【請求項11】
粘着剤層の厚さが、2〜100μmである請求項9記載の粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐反発性、耐衝撃性、導電性、電磁波シールド性等の諸特性に優れた粘着剤組成物及びそれを用いた粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器においては、静電気や電磁波の悪影響により部品の誤作動や材料破壊が生じることがある。そのような悪影響を防ぐ目的で、機器内部の部品等の構成部材を固定する粘着テープとして、導電性を有する粘着テープを使用する方法がある。具体的には、基材として金属箔を用い、粘着剤層に導電性粒子を添加した粘着テープが知られている。このような粘着テープの導電性によって、静電気の帯電を防止し且つ電磁波を遮蔽することができる。
【0003】
一方、近年、スマートフォン、タブレット端末等のポータブル電子機器の小型化、薄型化が進んで来ている。これに伴い、例えばFPC(Flexible Printed Circuits)は機器内部でより鋭角に折り曲げられ、常時強い反発力がかかる内部構造になって来ている。したがって、FPCを筐体に固定する粘着テープには、内部からのFPC等の反発力や外部からの衝撃に耐えられる高い接着力が必要となる。しかし、従来の粘着テープでは、基材(金属箔)のコシの強さ又は導電性粒子の添加による粘着剤層の接着力の低下が原因で、FPCの反発力や外部からの衝撃に耐えられずに剥がれてしまう恐れがある。
【0004】
特許文献1には、導電性基材と導電性粘着剤層とを有する導電性粘着シートが記載されている。この導電性粘着剤層は、炭素原子数1〜14の(メタ)アクリレート及びカルボキシル基を含有するモノマーをモノマー成分として有するアクリル系共重合体とトリアゾール系化合物を含有する。
【0005】
特許文献2には、接着剤成分と導電性充填剤を含む接着剤組成物が記載されている。そして、この接着剤成分の具体例として、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等の種々の合成高分子化合物が記載されている。
【0006】
特許文献3には、熱可塑性バインダーと導電性表面皮膜を有する有機合成繊維とを含む電磁波シールド用粘着性複合材料が記載されている。そして、この熱可塑性バインダーの具体例として、アクリル酸エステル重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の種々の樹脂が記載されている。
【0007】
しかし、例えば特許文献1の導電性粘着シートを先に述べた小型化及び薄型化が進んだポータブル電子機器に使用する場合、接着力不足によって、内部の反発力や外部からの衝撃により剥がれてしまう恐れがある。また、特許文献2及び特許文献3の組成物を粘着シートの粘着剤層に使用した場合も同様に、接着力不足によって、内部の反発力や外部からの衝撃により剥がれてしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−136778号公報
【特許文献2】特公平01−54392号公報
【特許文献3】特開2004−352926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決する為になされたものである。すなわち本発明の目的は、耐反発性、耐衝撃性、導電性、電磁波シールド性等の諸特性に優れた粘着剤組成物及びそれを用いた粘着テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、新規な粘着剤組成物[成分(A)〜(D)を含む粘着剤組成物]について既に国際特許出願(PCT/JP2014/081012)を出願している。そして本発明者らは、この新規な粘着剤組成物に対して導電性粒子を添加し、これを用いて例えばコシの強い導電性基材(金属箔等)上に粘着剤層を形成し粘着テープとした場合であっても、十分な耐反発性、耐荷重性等の諸特性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、炭素原子数が1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A1)10〜20質量%、炭素原子数が4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)50〜80質量%、カルボキシル基含有モノマー(A3)10〜15質量%、水酸基含有モノマー(A4)0.01〜0.5質量%、及び、酢酸ビニル(A5)1〜5質量%をポリマー鎖の構成成分として含み、過酸化物系重合開始剤を用いて得られる共重合体の重量平均分子量が95万〜200万、理論Tgが−55℃以下であるアクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、シランカップリング剤(C)と、酸化防止剤(D)と、導電性粒子(E)を含有する粘着剤組成物である。
【0012】
また本発明は、導電性基材の片面又は両面に、本発明の粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する粘着テープである。
【発明の効果】
【0013】
先の国際特許出願に係る新規な粘着剤組成物[成分(A)〜(D)を含む粘着剤組成物]は、高Tgモノマーである炭素原子数が1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A1)を比較的多く含むにもかかわらず、耐反発性、耐衝撃性等の諸特性に優れている。したがって、これに導電性粒子(E)を添加し、さらに例えばコシの強い導電性基材(金属箔等)を用いて導電性や電磁波シールド性に優れた粘着テープとした場合であっても、十分な耐反発性、耐衝撃性等の諸特性を維持でき、例えば内部の反発力や外部からの衝撃による剥がれを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例の耐反発性の評価方法を説明するための模式図である。
図2】実施例の耐反発性の評価方法を説明するための模式図である。
図3】実施例の耐衝撃性の評価方法を説明するための模式図である。
図4】実施例の耐衝撃性の評価方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<粘着剤組成物>
本発明の粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、シランカップリング剤(C)と、酸化防止剤(D)と導電性粒子(E)を含有する粘着剤組成物である。
【0016】
アクリル系共重合体(A)は、炭素原子数が1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A1)、炭素原子数が4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)、カルボキシルキ含有モノマー(A3)、水酸基含有モノマー(A4)、及び、酢酸ビニル(A5)をポリマー鎖の構成成分として含むアクリル系共重合体である。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A1)は、炭素原子数が1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、耐反発性、耐衝撃性を向上する為の成分である。具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、メチル(メタ)アクリレートが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A1)の含有量は、アクリル系共重合体(A)の構成成分(単量体単位)100質量%中、10〜20質量%であり、好ましくは12〜16質量%である。これらの範囲の下限値は、耐反発性、耐衝撃性等の特性の点で意義がある。また上限値は、防水性等の特性の点で意義がある。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)は、炭素原子数が4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。具体例としては、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有量は、アクリル系共重合体(A)の構成成分(単量体単位)100質量%中、50〜80質量%であり、好ましくは65〜79質量%である。
【0019】
カルボキシル基含有モノマー(A3)は、耐反発性、耐衝撃性を向上する為の成分である。具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2−カルボキシ−1−ブテン、2−カルボキシ−1−ペンテン、2−カルボキシ−1−ヘキセン、2−カルボキシ−1−ヘプテンが挙げられる。カルボキシルキ含有モノマー(A3)の含有量は、アクリル系共重合体(A)の構成成分(単量体単位)100質量%中、10〜15質量%であり、好ましくは10〜12質量%である。これらの範囲は、耐反発性、耐衝撃性等の特性の点で意義がある。
【0020】
水酸基含有モノマー(A4)は、耐反発性、耐衝撃性を向上する為の成分である。具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。水酸基含有モノマー(A4)の含有量は、アクリル系共重合体(A)の構成成分(単量体単位)100質量%中、0.01〜0.5質量%であり、好ましくは0.05〜0.15質量%である。これらの範囲は、粘着テープの加熱・湿熱雰囲気下での経時変化を抑制して、十分な耐反発性、耐衝撃性等の特性を維持する点で意義がある。
【0021】
酢酸ビニル(A5)は、耐反発性、耐衝撃性を向上する為の成分である。酢酸ビニル(A5)の含有量は、アクリル系共重合体(A)の構成成分(単量体単位)100質量%中、1〜5質量%であり、好ましくは2〜4質量%である。これらの範囲の下限値は、耐反発性、耐衝撃性等の特性の点で意義がある。
【0022】
アクリル系共重合体(A)は、少なくとも以上説明した成分(A1)〜(A5)を共重合させることにより得られる。重合方法は特に限定されないが、ポリマー設計が容易な点からラジカル溶液重合が好ましい。またアクリル系共重合体(A)とそのモノマーとからなるアクリルシロップをまず調製し、このアクリルシロップに架橋剤(B)と追加の光重合開始剤を配合して重合させても良い。
【0023】
アクリル系共重合体(A)の製造には、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A1)〜(A5)以外のモノマーを共重合させても良い。
【0024】
アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量は95万〜200万であり、好ましくは100〜150万である。これら範囲の下限値は、耐反発性、耐衝撃性等の特性の点で意義が有る。また上限値は粘着剤組成物の塗工性等の特性の点で意義が有る。この重量平均分子量はGPC法により測定される値である。
【0025】
アクリル系共重合体(A)の理論Tgは−55℃以下であり、好ましくは−55〜−75℃である。この理論TgはFOXの式により算出される値である。これら範囲の上限値は粘着剤組成物の塗工性等の特性の点で意義が有る。
【0026】
本発明においては、以上説明したアクリル系共重合体(A)を樹脂成分として用いるが、本発明の効果を損なわない範囲内において他の種類の添加剤成分を併用することも出来る。具体例としては、ロジン系粘着付与剤、テルペン樹脂、石油系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、スチレン系樹脂等の粘着付与樹脂が挙げられる。
【0027】
本発明に用いる架橋剤(B)は、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成する為に配合される化合物である。特に、アクリル系共重合体(A)のカルボキシル基及び/又は水酸基と反応し得る化合物が好ましい。さらに、耐衝撃性等の特性の点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。イソシアネート系架橋剤の具体例としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びこれらの変性プレポリマー等が挙げられる。これらは二種以上を併用しても良い。架橋剤(B)の配合量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して好ましくは0.02〜1質量部、より好ましくは0.3〜0.6質量部である。
【0028】
シランカップリング剤(C)は、耐反発性を向上する為の成分である。特にグリシジル基を含むシランカップリング剤が好ましい。具体例としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらは二種類以上を併用しても良い。シランカップリング剤(C)の配合量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して好ましくは0.01〜0.5質量部、より好ましくは0.02〜0.5質量部、特に好ましくは0.03〜0.3質量部である。
【0029】
酸化防止剤(D)は、耐反発性を向上する為の成分である。特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤(D)の配合量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して好ましくは0.01〜1質量部、より好ましくは0.02〜0.5質量部である。
【0030】
導電性粒子(E)は、粘着剤組成物に導電性を付与する為の成分である。導電性粒子(E)を含む粘着剤組成物を例えば粘着テープの粘着剤層に使用すれば、その導電性は、静電気の帯電を抑制する効果や電磁波を遮蔽する効果に寄与する。さらに、成分(A)〜(D)を含む粘着剤組成物自体が耐反発性、耐衝撃性等の諸特性に優れているので、導電性粒子(E)を添加しても十分実用的な耐反発性、耐衝撃性等の諸特性を維持できる。したがって、例えば、従来の粘着テープの粘着層と同程度の量の導電性粒子(E)を添加した場合は、従来の粘着テープと比較して耐反発性、耐衝撃性等の諸特性に優れることになる。また、従来の粘着テープの粘着層よりも導電性粒子(E)の量を多くして、導電性を高めることも可能である。
【0031】
導電性粒子(E)の具体例としては、ニッケル、銅、クロム、金、銀等の金属粒子又はその合金若しくはその変性物、カーボン、グラファイト、樹脂表面に金属を被覆した導電性樹脂粒子が挙げられる。二種以上の導電性粒子を併用しても良い。中でも、金属粒子が好ましく、ニッケル粒子、銅粒子がより好まく、ニッケル粒子が最も好ましい。導電性粒子(E)の配合量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.02〜7質量部、特に好ましくは0.05〜5質量部である。
【0032】
本発明の粘着剤組成物は、さらに防錆剤(F)を含むことが好ましい。防錆剤(F)は、耐反発性や導電性を安定させる為の成分である。例えば、イミダゾール系化合物、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、チアジアゾール系化合物を防錆剤(F)として好適に使用できる。中でも、トリアゾール系化合物が好ましい。トリアゾール系化合物の具体例としては、ベンゾトリアゾール、1−アミノベンゾトリアゾール、5−アミノベンゾトリアゾールが挙げられる。特に、ベンゾトリアゾールが好ましい。防錆剤(F)の配合量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部、特に好ましくは0.5〜3質量部である。
【0033】
本発明の粘着剤組成物は、必要に応じてさらに他の添加剤を含んでいても良い。具体的には、このタイプの粘着剤組成物に添加可能なことが知られている種々の添加剤(例えば粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、金属不活性剤、顔料等)を使用できる。
【0034】
<粘着テープ>
本発明の粘着テープは、導電性基材の片面又は両面に、本発明の粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する。この基材の導電性は、静電気の帯電を抑制する効果や電磁波を遮蔽する効果に寄与する。例えば近年の製品の小型化、薄型化に伴い粘着テープも鋭角な箇所に使用されることが多くなって来ており、コシの強い導電性基材(金属箔等)を用いた粘着テープも、鋭角な箇所で問題無く使用可能であることが求められて来ている。一方、本発明の粘着剤組成物により形成された粘着剤層は耐反発性、耐衝撃性等の諸特性に優れているので、たとえコシの強い導電性基材を用いた態様であっても鋭角な箇所に良好に使用できる。
【0035】
導電性基材としては、金属製基材(特に金属箔)が好ましい。基材を構成する金属の具体例としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄、クロム、チタンが挙げられる。中でも、銅、アルミニウムが好まく、銅が最も好ましい。導電性基材の厚さは、好ましくは3〜50μm、より好ましくは5〜35μm、特に好ましくは6〜20μmである。
【0036】
粘着剤層の厚さは、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは5〜30μm、最も好ましくは7〜20μmである。粘着剤層は導電性基材の片面だけに形成しても良いが、両面に形成して両面粘着テープとすることが好ましい。
【0037】
粘着剤層は、本発明の粘着剤組成物を架橋反応させることにより形成できる。例えば、粘着剤組成物を導電性基材上に塗布し、加熱により架橋反応させて導電性基材上に粘着剤層を形成出来る。また、粘着剤組成物を離型紙又はその他のフィルム上に塗布し、加熱により架橋反応させて粘着剤層を形成し、この粘着剤層を導電性基材の片面又は両面に貼り合せることも出来る。粘着剤組成物の塗布には、例えば、ロールコーター、ダイコーター、リップコーター等の塗布装置を使用できる。塗布後に加熱する場合は、加熱による架橋反応と共に粘着剤組成物中の溶剤も除去できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。以下の記載において「部」は質量部、「%」は質量%を意味する。
【0039】
<製造例1〜9(アクリル系共重合体(A)の調製)>
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、表1に示す量(%)の成分(A1)〜(A5)と、酢酸エチル、連鎖移動剤としてn−ドデカンチオール及び過酸化物系ラジカル重合開始剤としてラウリルパーオキサイド0.1部を仕込んだ。反応装置内に窒素ガスを封入し、攪拌しながら窒素ガス気流下で68℃、3時間、その後78℃、3時間で重合反応させた。その後、室温まで冷却し、酢酸エチルを追加した。これにより、固形分濃度30%のアクリル系共重合体(A)を得た。
【0040】
各アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)及び理論Tgを表1に示す。この重量平均分子量(Mw)は、GPC法により、アクリル系共重合体の標準ポリスチレン換算の分子量を以下の測定装置及び条件にて測定した値である。
・装置:LC−2000シリーズ(日本分光株式会社製)
・カラム:Shodex KF−806M×2本、Shodex KF−802×1本
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
・注入量:100μL
・検出器:屈折率計(RI)
・測定サンプル:アクリル系ポリマーをTHFに溶解させ、アクリル系ポリマーの濃度が0.5質量%の溶液を作製し、フィルターによるろ過でゴミを除去したもの。
【0041】
理論Tgは、FOXの式により算出した値である。
【0042】
【表1】
【0043】
表1中の略号は以下の化合物を示す。
「MA」:メチルアクリレート
「2−EHA」:2−エチルヘキシルアクリレート
「BA」:n−ブチルアクリレート
「AA」:アクリル酸
「4−HBA」:4−ヒドロキシブチルアクリレート
「Vac」:酢酸ビニル
【0044】
<実施例1〜7>
製造例1〜7で得たアクリル系共重合体(A)の固形分100部に対して、架橋剤(B1)、シランカップリング剤(C1)、酸化防止剤(D1)、ニッケル系導電性粒子(E1)、トリアゾール系防錆剤(F1)を表2に示す量(部)加えて混合し、粘着剤組成物を調製した。
【0045】
この粘着剤組成物を、シリコーン処理された離型紙上に乾燥後の厚みが10μmになるように塗布した。次いで、110℃で溶媒を除去・乾燥すると共に架橋反応させて、粘着剤層を形成した。この粘着剤層を、7μm厚の導電性基材(銅箔)の両面に貼り合せた。そして、40℃で3日間養生して、導電性両面粘着テープを得た。
【0046】
<実施例8>
ニッケル系導電性粒子(E1)の代わりに銅系導電性粒子(E2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして導電性両面粘着テープを得た。
【0047】
<実施例9>
ニッケル系導電性粒子(E1)の配合割合を7.0部に増やし、粘着剤層の厚さ及び基材(銅箔)の厚さを各々20μm及び35μmと厚くしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性両面粘着テープを得た。
【0048】
<実施例10>
トリアゾール系防錆剤(F1)の代わりにテトラゾール系防錆剤(F2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして導電性両面粘着テープを得た。
【0049】
<比較例1>
製造例1で得たアクリル系共重合体(A)の代わりに、製造例8で得たアクリル系共重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして導電性両面粘着テープを得た。
【0050】
<比較例2>
製造例1で得たアクリル系共重合体(A)の代わりに、製造例9で得たアクリル系共重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして導電性両面粘着テープを得た。
【0051】
<参考例1>
導電性基材として、銅箔の代わりに厚さ30μmの導電不織布(Solueta社製、商品名NW05CN)を用い、粘着剤層の厚さを15μmと厚くしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性両面粘着テープを得た。
【0052】
【表2】
【0053】
表2中の略号は以下の化合物を示す。
「B1」:イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネート(登録商標)L−45E)
「C1」:シランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名KBM−403)
「D1」:酸化防止剤(BASF社製、イルガノックス(登録商標)1010)
「E1」:ニッケル系導電性粒子(ヴァーレ社製、商品名ニッケルパウダータイプ123)
「E2」:銅系導電性粒子(福田金属箔社製、商品名 電解粉FCC−115)
「F1」:トリアゾール系防錆剤(共同薬品社製、商品名BTZM)
「F2」:テトラゾール系防錆剤(東洋化成社製、商品名M−5T)
【0054】
<評価試験>
実施例及び比較例で得た導電性基材両面テープを以下の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0055】
(耐反発性)
1mm×20mmに裁断した両面粘着テープ1の一方の離型紙を剥離し、厚さ75μmで20mm×60mmのポリイミドフィルム2の一方に図1に示すように貼り付け、23℃、50%RHの雰囲気下で60分間養生した。その後、ポリイミドフィルム2を図2に示すように折り曲げて粘着テープ1を被着体3(1.5mm厚のSUS板)に貼り合せ、85℃の雰囲気下で72時間放置し、接着部分の剥がれを目視にて確認し、以下の基準で耐反発性を評価した。
「○」:72時間後に接着部分の剥がれ無し。
「×」:72時間後に接着部分の剥がれ有り。
【0056】
(耐衝撃性)
2mm×40mmと2mm×30mmに裁断した両面粘着テープ1の一方の離型紙を剥離し、厚さ2mmで50mm×40mmのアクリル板4の四方に図3に示すように貼り付け、23℃、50%RHの雰囲気下で60分間養生した。その後、粘着テープ付きアクリル板4のもう一方の離離紙を剥離し、被着体3(1.5mm厚のSUS板)に貼り合せ、23℃、50%RHの雰囲気下で60分間養生した。その後、図4に示すように一定の荷重(300g)の錘5を高さを変更しながら落下させ、剥がれを目視で確認し、以下の基準で、耐衝撃性を評価した。
「○」:300mm以上の高さで接着部分の剥がれ無し。
「×」:300mm未満の高さで接着部分の剥がれ有り。
【0057】
(電磁波シールド性)
KEC(関西電子工業振興センター)法により電磁波シールド性を確認した。KEC法は、装置内に試料が存在しない状態を基準とし、装置内に試料を挿入した時の減衰量をデシベル表示で評価する方法である。この測定には市販の電界シールド効果評価装置を使用し、特に周波数1000MHzでの減衰率を基準にして、電磁波シールド性を以下のように評価した。
「○」:1000MHzでの減衰率60dB以上。
「×」:1000MHzでの減衰率60dB未満。
【0058】
(導電性)
25mm×25mmに切断した粘着テープを真ちゅう製(金めっき)の電極に挟みこみ、電極の上部から3.5Nの圧力をかけた状態で、0.1Aの電流が流れるように電圧を調整し、R(抵抗値)=V(電圧)/I(電流)の式から抵抗値(mΩ)を算出した。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の結果から明らかなように、本発明の粘着剤組成物を使用した実施例1〜10では全ての特性が優れていた。
【0061】
一方、Mwが低過ぎるアクリル系共重合体(製造例8)を使用した比較例1では、耐反発性が劣っていた。また、成分(A1)を含まないアクリル系共重合体(製造例9)を使用した比較例2では、耐衝撃性が劣っていた。
【0062】
基材として導電不織布を使用した参考例1では、電磁波シールド性が劣っていた。ただし、この結果は単に不織布自体の導電性のレベルに起因するものである。すなわち、参考例1でも本発明の粘着剤組成物に起因する耐反発性及び耐衝撃性の効果は得られた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の粘着剤組成物及びそれを用いた粘着テープは、耐反発性、耐衝撃性、導電性、電磁波シールド性等の諸特性に優れるので、そのような特性が必要な分野における様々な用途に利用可能である。すなわち、例えば電子機器における静電気や電磁波の悪影響を防止し、しかも内部の反発力や外部からの衝撃によっても剥がれないことが求められる用途に好適である。具体的には、例えばスマートフォン、タブレット、カーナビゲーション、カメラ、オーディオビジュアル機器、ゲーム機、情報機器等のポータブル電子機器における部材の接着や固定の用途に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 両面粘着テープ
2 ポリイミドフィルム
3 被着体
4 アクリル板
5 錘
図1
図2
図3
図4