特許第6420958号(P6420958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6420958インプリント用モールドブランクおよびインプリント用モールド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420958
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】インプリント用モールドブランクおよびインプリント用モールド
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20181029BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20181029BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   H01L21/30 502D
   B29C59/02 B
   B29C33/38
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-41655(P2014-41655)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-167199(P2015-167199A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100090136
【弁理士】
【氏名又は名称】油井 透
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和丈
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−274460(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/139904(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/047195(WO,A1)
【文献】 特開2001−228598(JP,A)
【文献】 特開平08−202016(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0128528(US,A1)
【文献】 米国特許第06096460(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 33/38
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基板と、前記光透過性基板の表面に形成されたハードマスク層と、を有するインプリント用モールドブランクであって、
前記ハードマスク層の厚みが5nm以下であり、
前記光透過性基板の前記表面に対向する裏面に位相シフト膜が形成されており、
前記位相シフト膜の厚みが2nm以上6nm以下であり、
前記位相シフト膜は、単層またはその大気側に酸化膜を有する構造であり、
前記位相シフト膜は、前記光透過性基板と接している領域の複素屈折率をn−ik(iは虚数単位)と表した場合に、nが1.6〜3.0、kが1.6〜3.0の範囲内であり、
前記位相シフト膜は、前記光透過性基板の前記表面に光が入射した場合に、前記裏面と前記位相シフト膜との界面で反射され、前記光透過性基板の内部を進行する光LB3と、前記裏面と前記位相シフト膜との界面で前記位相シフト膜を透過し、前記位相シフト膜と大気との界面で反射され、前記裏面と前記位相シフト膜との界面で前記光透過性基板を透過して前記光透過性基板の内部を進行する光LB7と、がほぼ相殺するように構成されていることを特徴とするインプリント用モールドブランク。
【請求項2】
前記位相シフト膜は、前記光LB3の位相と、前記光LB7の位相と、がほぼ反転するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールドブランク。
【請求項3】
前記位相シフト膜により相殺される光LB3およびLB7の波長が190nm〜750nmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリントモールドブランク。
【請求項4】
前記位相シフト膜を構成する材料が、クロムまたはクロム化合物と、タングステンまたはタングステン化合物と、モリブデンまたはモリブデン化合物と、タンタルまたはタンタル化合物と、ハフニウムまたはハフニウム化合物と、からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のインプリント用モールドブランク。
【請求項5】
前記位相シフト膜を構成する材料と、前記ハードマスク層を構成する材料と、が同質であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のインプリント用モールドブランク。
【請求項6】
前記位相シフト膜を構成する材料と、前記ハードマスク層を構成する材料と、がクロムまたはクロム化合物であることを特徴とする請求項に記載のインプリント用モールドブランク。
【請求項7】
請求項1からに記載のインプリント用モールドブランクを用いて製造されるインプリント用モールド。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用モールドブランクおよびインプリント用モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
微細パターンを形成するための技術として、所定の微細パターンが形成されたモールドを被転写物に押しつけて転写を行い所望の微細パターンを形成するインプリント技術が知られている。近年、nmレベルの微細パターンを形成可能なナノインプリント技術が、ハードディスクドライブ(HDD)用の高密度記憶媒体として知られるディスクリートトラック型(DTR)、ビットパターンド型(BPM)等のディスク状記憶媒体の量産に適用されている。
【0003】
このようなインプリント技術において用いられるインプリント用モールドは、たとえば、以下のようにして製造される。まず、基板上にハードマスク層およびレジスト層を順に形成し、レジスト層に対し電子線等を用いて露光し現像することで、レジストパターンを形成する。続いて、レジストパターンをマスクとして、ハードマスク層および基板をエッチングして、基板上に所定の微細パターンを形成する。その後、必要に応じて、レジスト層およびハードマスク層を除去する。
【0004】
このような製造工程において、電子線等によりレジスト層を露光する際には、微細パターンを設計通りに形成するために、基板表面にフォーカスが合うように電子線の照射位置の制御を行う(たとえば、特許文献1を参照)。具体的には、レジスト層に対し電子線等を照射する際に、レーザー光を基板に照射して、その反射光を検出することにより基板の表面高さの情報を取得する。続いて、取得した表面高さの情報を、電子線等のフォーカス制御にフィードバックし、基板表面にフォーカスが合うように電子線等の照射位置を補正しながら描画露光を行う。
【0005】
特許文献1には、表面高さを精度よく検出するために、基板において、微細パターンが形成される側の面(表面)とは逆の面(裏面)に反射防止部を設けていることが記載されている。この反射防止部を設けることにより、基板の裏面において反射する光の影響を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−267777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1にも記載されているように、基板の表面高さを精度よく検出する際に、基板の裏面において反射する光(裏面反射光)の影響を低減する必要がある。裏面反射光の影響を低減する手法としては、たとえば、基板の表面高さを検出するために用いられる光検出器のセンサ部の前面に、開口部を狭くしたスリット(ピンホールスリット)を配置することが考えられる。このようなピンホールスリットを配置することにより、センサ部に基板の表面において反射する光(表面反射光)のみが取り込まれ、裏面反射光が入り込まないようにして、表面高さの情報を精度よく取得することができる。
【0008】
ところが、インプリント用モールドに用いられる基板に微細なパターンを形成するためには、ハードマスク層の厚みを、たとえば5nm以下にまで薄くする必要が生じる。ハードマスク層は厚みが100nm程度であれば、光学濃度(Optical Density:OD)が高く、光を吸収するが、ハードマスク層が5nm以下まで薄くなると、ハードマスク層で吸収されずに透過する光が多くなる。その結果、表面反射光の強度に対し、ハードマスク層を透過した光の一部である裏面反射光の強度が相対的に強くなるため、裏面反射光の光量分布のすそ野が広がり、このすそ野の端部が、ピンホールスリットの内側まで及んでしまうことがある。そうすると、このすそ野の端部がセンサ部により検出されてしまい、基板表面高さの情報が精度よく取得できず、基板表面にフォーカスが合うように電子線等の照射位置を制御できなくなってしまう(以降、この現象をフォーカス異常ともいう)。特に、表面高さを精度よく検出するために高精度のセンサを用いた場合には、すそ野の端部を検出しやすいため、フォーカス異常が発生する恐れが潜在的に高まってしまう。さらに、ハードマスク層の薄膜化が進むと、透過率向上とともに表面反射率低下が生じる事も有り、5nmよりも薄膜化を進めるとフォーカス異常発生率が増す。また、描画露光を高速で行う場合にも、センサ感度を高める必要を生じ、ノイズの影響を受け易くなるために、フォーカス異常を発生する恐れが高まる。
【0009】
裏面反射光の光量分布のすそ野の端部がスリットの内側に及んでも、必ずしもフォーカス異常が発生するとは限らず、その発生率は低い。しかしながら、インプリント用モールドの製造における描画時間は数百時間に及ぶこともあるため、フォーカス異常の発生を防止することは重要である。フォーカス異常の発生率の低さは、すそ野の端部を検出するか否かが、たとえば、描画露光時の微小なバラツキに左右され、すそ野の端部の検出が一定のレベルに達した際に、フォーカス異常として顕在化することを意味していると考えられる。また、このようなフォーカス異常の問題は、レーザー光の反射を利用する他の機器、たとえば、検査機等にも生じると考えられる。
【0010】
本発明者は、フォーカス異常の発生率が低いことを考慮して、フォーカス異常を引き起こす要因を完全に除去せずとも、フォーカス異常が生じない程度まで押さえ込むことができれば、フォーカス異常の問題は解決できると考えた。
【0011】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされ、裏面反射光に起因するフォーカス異常を防止できるインプリント用モールドブランクおよびインプリント用モールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特許文献1に記載されている裏面反射光強度を低減する方法は、裏面の表面を粗くしたことに起因する散乱により低減する方法、あるいは屈折率(実数部)のみから算出した位相差が180°となる膜により入射光と反射光とを相殺する方法である。後者は、特許文献1の0010段落に記載されている以下の式1から算出でき、たとえばλを633nmとし、n=1.35において、m=1としてもL=117nmとなる。
nL=(2m−1)λ/4・・・式1
なお、式1中において、n:反射防止層の屈折率(実数部)、L:膜厚、m:整数、λ:検査光波長である。
【0013】
これに対し、本発明者は、上述した裏面反射光の問題に対し、光を吸収する物質の界面を光が反射または透過する際に、それぞれの物質の屈折率および消衰係数に由来する複素屈折率により、該光の位相が変化することに着目した。複素屈折率は下記の式2のように表すことができる。
N=n−ik・・・式2
なお、式2中において、N:複素屈折率、n:屈折率(実数部)、k:消衰係数である。
【0014】
具体的には、前述の複素屈折率の考え方を導入し、適切な屈折率(実数部)と消衰係数を有する材質とで反射防止膜を裏面に設ける事により、わずか数nmの裏面反射防止膜によりほぼ180°の位相差で、しかも薄膜であるがゆえに減衰の少ない同程度の反射光強度で相殺する事が出来る事に着目した。この裏面反射防止膜は、散乱による反射光を低減するものと異なり、あるいは屈折率(実数部)から膜厚による180°位相差による相殺を行う従来法とは膜厚の違いから明白なように、設計的にまったく異なるものである。また、このように複素屈折率による位相差を利用する技術であれば、光路差を利用する技術に比較して、基板に入射する光の波長依存性を極めて小さくすることができる。
【0015】
すなわち、本発明の態様は、
光透過性基板と、光透過性基板の表面に形成されたハードマスク層と、を有するインプリント用モールドブランクであって、
ハードマスク層の厚みが5nm以下であり、
光透過性基板の表面に対向する裏面に位相シフト膜が形成されており、
位相シフト膜の厚みが2nm以上6nm以下であり、
位相シフト膜は、光透過性基板の表面に光が入射した場合に、光透過性基板の裏面と位相シフト膜との界面において反射し、表面側に戻る裏面反射光と、位相シフト膜と外部との界面において反射し、表面側に戻る最表面反射光と、がほぼ相殺するように構成されていることを特徴とするインプリント用モールドブランクである。
【0016】
上記の態様において、位相シフト膜は、裏面反射光の位相と、最表面反射光の位相と、がほぼ反転するように構成されていることが好ましい。
【0017】
上記の態様において、位相シフト膜は単層、またはその大気側に酸化膜を有する構造であることが好ましい。
【0018】
上記の態様において、位相シフト膜において、光透過性基板と接している領域の複素屈折率をn−ik(iは虚数単位)と表した場合に、nが1.6〜3.0、kが1.6〜3.0の範囲内であることが好ましい。
【0019】
上記の態様において、位相シフト膜により相殺される裏面反射光および最表面反射光の波長が190nm〜750nmの範囲内であることが好ましい。
【0020】
上記の態様において、位相シフト膜を構成する材料が、クロムまたはクロム化合物と、タングステンまたはタングステン化合物と、モリブデンまたはモリブデン化合物と、タンタルまたはタンタル化合物と、ハフニウムまたはハフニウム化合物と、からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0021】
上記の態様において、位相シフト膜を構成する材料と、ハードマスク層を構成する材料と、が同質であることが好ましい。特に、位相シフト膜を構成する材料と、ハードマスク層を構成する材料と、がクロムまたはクロム化合物であることが好ましい。
【0022】
本発明の別の態様は、
上記の態様のいずれかに記載のインプリント用モールドブランクを用いて製造されるインプリント用モールドである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、裏面反射光に起因するフォーカス異常を防止できるインプリント用モールドブランクおよびインプリント用モールドを提供することができる。特に、本発明に係るインプリント用モールドブランクに形成された位相シフト膜は、位相差を用いて反射光の強度を低減するので、波長依存性が極めて小さく、基板に入射する光の波長によらず機能する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本実施形態に係るインプリント用モールドブランクおよびインプリント用モールドの模式的な断面図である。
図2図2は、本実施形態に係るインプリント用モールドブランクに形成された位相シフト膜が、フォーカス異常を低減する膜として機能する仕組みを説明するための模式図である。
図3図3は、裏面反射光の光量分布のすそ野が光検出器により検出される様子を説明するための模式図である。
図4図4は、複素平面上において、基板の内部を進む光が裏面反射光となる場合の位相の変化と、基板の内部を進む光が最表面反射光となる場合の位相の変化と、を示す模式的なグラフである。
図5図5は、本実施形態に係るインプリント用モールドブランクおよびインプリント用モールドを製造する方法を説明するための模式図である。
図6図6は、実施例に係るインプリント用モールドブランクにおいて、基板に入射する光の波長と、該光に起因する裏面反射光の反射率と、の関係を示すグラフである。
図7図7は、石英基板に位相シフト膜のみを形成した構成において、位相シフト膜の厚みと、裏面反射光の反射率と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
第1実施形態では、本発明を図面に示す実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.インプリント用モールドブランク
2.インプリント用モールド
3.インプリント用モールドの製造方法
4.本実施形態の効果
5.変形例等
【0026】
(1.インプリント用モールドブランク)
図1に示すように、本実施形態に係るインプリント用モールドブランクは、基板1の両主面の一方の面(以降、表面1aともいう)上にはハードマスク層2およびレジスト層4がこの順で形成されており、両主面の他方の面(以降、裏面1bともいう)上には、位相シフト膜3が形成されている構成を有している。
【0027】
(基板)
基板1は光透過性基板で構成されている。該基板を構成する材料としては、インプリント用モールドブランクに用いられる材料であれば特に制限されないが、たとえば、石英、サファイア等が例示される。本実施形態では、基板として、石英基板を用いる例について説明する。石英基板は、平坦性および平滑性に優れるため、たとえばインプリント用モールドとして用いてパターンの転写を行う場合に、転写パターンの歪み等が生じさせることなく高精度の転写を行えるからである。
【0028】
基板1の厚みは、高精度のパターン転写が可能なインプリント用モールドが得られる程度において、薄いことが好ましい。具体的には、11mm厚以下の基板にパターン描画作成した後に薄板加工するのに対して、予め描画用基板の少なくとも描画領域を0.3mm〜1mm程度までに薄板加工した基板を用いる場合である。
【0029】
後述するように、基板1の表面には、微細なパターン(たとえば、凹凸パターン)が形成されることによりインプリント用モールドとして機能する。
【0030】
(ハードマスク層)
基板1の表面1a上にはハードマスク層2が形成されている。このハードマスク層2は、インプリント用モールドの製造工程において、所定のパターン(ハードマスクパターン)に形成され、その後、基板1のマスクとして働く。その結果、ハードマスクパターンに対応するパターンが基板1に形成されることとなる。
【0031】
ハードマスク層2を構成する材料としては、導電性を有する材料、たとえば、クロム(Cr)またはクロム化合物、タングステン(W)またはタングステン化合物、モリブデン(Mo)またはモリブデン化合物、タンタル(Ta)またはタンタル化合物、ハフニウム(Hf)またはハフニウム化合物等が例示される。本実施形態では、クロムを含有する材料またはタングステンを含有する材料が好ましく、クロム(Cr)またはクロム化合物としては、窒化クロム(CrN)が好ましく、タングステン(W)またはタングステン化合物としては、窒化タングステン(WN)が好ましい。中でも、窒化クロムが好ましい。窒化クロムは、レジストパターンを形成する際に、電子線による描画時のチャージアップを防止するのに十分な導電性を有しているからである。さらに、窒化クロムは、レジストパターンを構成する材料を除去するために用いられるアンモニア水、硫酸過水(硫酸と過酸化水素水との混合物)等に対して十分な耐性を有するからである。
【0032】
ハードマスク層2の厚みは5nm以下である。インプリント用モールドに形成されるパターンは微細化が進んでおり、たとえば、基板1の表面1aに数十nmピッチの凹凸パターンを形成する場合には、レジストの薄膜化を進める必要があり、これを忠実に転写するためにハードマスク層2の膜厚を小さくする必要があるからである。
【0033】
(レジスト層)
ハードマスク層2上には、レジスト層4が形成されている。レジスト層4は、電子線等の照射により露光する材料で形成されており、レジスト層4を露光、現像して得られるレジストパターンは、インプリント用モールドに形成される微細パターンに対応する。レジスト層4を構成する材料は上述した微細パターンを形成できる材料であれば特に制限されず、公知の材料を用いることができる。
【0034】
レジスト層がポジ型レジストで構成されている場合、電子線により描画した部分が基板1上の溝(凹部)に対応することとなる。一方、レジスト層がネガ型レジストで構成されている場合、その逆の位置となる。図1では、ポジ型レジストを用いた場合を例示する。
【0035】
(位相シフト膜)
基板1の裏面1b上には、単層の位相シフト膜3が形成されている。この位相シフト膜3により描画露光時のフォーカス異常は効果的に抑制される。まず、フォーカス異常について詳細に説明する。
【0036】
図2(a)に示すように、基板1の表面1aに入射する光LBは、基板1とハードマスク層2との界面で反射する光(表面反射光LB1)と、基板1の内部を進行する光LB2と、に分かれる。表面反射光LB1は、矢印に示す方向に進み、該方向の延長線上に存在する光検出器20により検出され、基板1の表面高さの情報を取得するために用いられる。
【0037】
一方、基板1の内部を進行する光LB2は、基板1の裏面1b(基板1と外部との界面)に到達すると、裏面1bで反射し、基板1の表面1a側に戻る方向に進む光(裏面反射光LB3)と、裏面を透過し外部に抜ける光LB6と、に分かれる。この裏面反射光LB3は、図2(a)に示すように、表面反射光LB1と同じ方向に進み光検出器20に検出されることとなる。
【0038】
ハードマスク層2の厚みが大きい場合、たとえば100nm程度では、光学濃度(OD)が高く、基板1に入射する光の多くがハードマスク層2に吸収され、ハードマスク層2に吸収されずに透過する光LB2の強度は必然的に小さくなるため、裏面反射光LB3の反射率は、その影響を無視できる程度に小さい。したがって、フォーカス異常は生じない(図3(a)を参照)。
【0039】
ところが、ハードマスク層2の厚みが小さい場合、たとえば5nm以下になると、ハードマスク層2に吸収されずに透過する光LB2の強度が大きくなるため、これに伴い、裏面反射光LB3の強度(反射率)が比較的に大きくなる。その結果、裏面反射光LB3の光量分布が広がるため、そのすそ野30がセンサ部の前面に配置されているピンホールスリット22の内側まで及んでしまう。その結果、センサ部21が、表面反射光LB1だけでなく、裏面反射光LB3も検出してしまうと、表面高さに誤差が生じてしまう(図3(b)を参照)。すなわち、基板1の表面1aでのフォーカス異常が生じる原因となってしまう。なお、図2においては、レジスト層の図示を省略した。
【0040】
そこで、本実施形態では、図2(b)に示すように、基板1の裏面1b上に位相シフト膜3を形成している。位相シフト膜3を設けることにより、基板1の裏面1b(基板1と位相シフト膜3との界面)を透過した光LB4は、位相シフト膜3の内部を進行し、位相シフト膜の最表面3a(位相シフト膜と空気との界面)を透過し外部に抜ける光LB6と、該最表面で反射し基板1の表面1a側に戻る方向に進む光LB5と、に分かれる。さらに、該光LB5は、基板1の裏面1bにおいて透過または反射し、透過した光LB7は、裏面反射光LB3と同じ方向に進み、光検出器20に検出されることとなる。本実施形態では、光LB5が基板1の裏面1bを透過した後の光LB7を、最表面反射光LB7と呼ぶ。すなわち、裏面反射光LB3と最表面反射光LB7とは同じ方向に進む。
【0041】
ここで、光を吸収する物質に光が入射すると、入射光の一部は該物質を通過または反射する。このとき、位相が変化することが知られている。図2(b)においては、基板1の内部を進む光LB2は、基板1と位相シフト膜3との界面(裏面1b)を透過または反射する際に位相が変化するが、透過した光LB4の位相変化量と反射する光(裏面反射光LB3)の位相変化量とは異なる。さらに、界面を透過した光LB4は位相シフト膜3の内部を進み、位相シフト膜3と外部との界面(位相シフト膜3の最表面3a)において通過または反射する際に位相が変化する。そして、位相シフト膜3の最表面3aで反射した光LB5は、位相シフト膜3の内部を基板1の表面1a側に進み、基板1と位相シフト膜3との界面(裏面1b)を再び透過または反射する際に位相が変化し、透過光は最表面反射光LB7となる。
【0042】
したがって、図2(b)においては、基板1の内部を進む光LB2に対して、裏面反射光LB3は位相が1回変化しており(LB2→LB3)、位相シフト膜3の最表面3aにおいて反射し、基板1の裏面1bを透過する光(最表面反射光LB7)は位相が3回変化している(LB2→LB4→LB5→LB7)。
【0043】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、裏面反射光LB3における1回の位相変化量と、最表面反射光LB7における3回の位相変化量と、を制御して、裏面反射光LB3の位相に対して、最表面反射光LB7の位相が反転する(ほぼ180°ずれる)ように構成している。併せて、位相シフト膜の薄い膜厚と適当な複素屈折率により、透過した光LB4から反射した光LB5の吸収と反射強度とを制御し、裏面反射光LB3と同程度の強い光強度である最表面反射光LB7となる。
【0044】
このようにすることにより、裏面反射光LB3と、最表面反射光LB7と、は位相が逆で、かつ同等の強度なので、それらは相殺される。その結果、光検出器においては、裏面反射光LB3は、見かけ上、フォーカス異常が生じない程度に反射率が低くなり、裏面反射光LB3はほとんど検出されない。したがって、表面高さの情報を精度よく取得でき、基板1の表面1a上でのフォーカス異常を防止することができる。
【0045】
位相シフト膜3を構成する材料としては、光をある程度吸収する物質で、裏面反射光LB3の位相に対して、最表面反射光LB7の位相が反転するように制御可能な材料であることが求められる。位相変化量を制御する方法としては、たとえば、位相シフト膜を構成する材料が有する複素屈折率のパラメータを変化させることが例示される。複素屈折率Nは、上述したように、N=n−ik(iは虚数単位)で表されるので、屈折率「n」および消衰係数「k」を制御すればよい。この「n」および「k」は、該材料を構成する元素、元素の組成比等により制御できる。なお、屈折率(n)は1.6〜3.0、消衰係数(k)は1.6〜3.0である事が望ましい。
【0046】
本発明者は「n」および「k」の値を検討し、位相シフト膜3を構成する材料を、ハードマスク層2を構成する材料と同質の材料とすることができることを見い出した。本実施形態では、ハードマスク層2を窒化クロムで構成しているため、位相シフト膜3も窒化クロム(CrN)で構成している。なお、本明細書において、「同質」とは、材料を構成する元素は同じであるが、その組成比は同じであってもよいし異なっていてもよいことを意味する。
【0047】
位相シフト膜3を構成する材料が、ハードマスク層2を構成する材料と同質であれば、以下の点で好ましい。すなわち、ハードマスク層2を形成するための手法と同じ手法を用いて、位相シフト膜3を形成することができ、位相シフト膜3を形成する工程を別途設ける必要がなく、工程の増加に伴う不純物の混入も防止できるからである。さらに、基板1の両面に同質の材料が形成されるため、たとえばベーク処理等の熱処理において生じる応力を緩和することができる。また、基板1の両面が導電性を有する材料で構成されることになるため、該基板1を載置するステージとして静電チャック式のステージを用いることができる。
【0048】
図2(b)に示すように裏面反射光LB3の位相に対して、最表面反射光LB7の位相が反転していても(ほぼ180°ずれていても)、裏面反射光LB3の強度(反射率)に対して、最表面反射光LB7の強度(反射率)が小さければ、裏面反射光LB3の強度をフォーカス異常が生じない程度まで低減できない可能性がある。そこで、裏面反射光LB3の反射率と、最表面反射光LB7の反射率と、を同程度とするために、本実施形態では位相シフト膜3の厚みを制御している。具体的には、位相シフト膜3の厚みは2nm以上6nm以下であり、2nm以上5nm以下であることが好ましい。すなわち、位相シフト膜3は、ハードマスク層2と同様に極めて薄く形成されている。
【0049】
この位相シフト膜3は、位相差を利用して裏面反射光LB3を低減していることに加え、その厚みがレーザー光の波長λ(たとえば、633nm)よりも極めて小さく、光の光路差の影響をほぼ無視できるため、裏面反射光の波長に対する依存性が極めて小さい膜として機能する。
【0050】
なお、位相シフト膜3が形成されていないインプリント用モールドブランクの裏面反射光LB3の反射率を1とすると、該インプリント用モールドブランクに位相シフト膜を形成した場合、裏面反射光LB3の反射率と最表面反射光LB7の反射率との差、すなわち、裏面反射光LB3の見かけ上の反射率は0.9以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。より薄い(透過率が高い)ハードマスクを用いる場合、あるいは高いセンサ感度で描画する場合、裏面反射率LB3の見かけ上の反射率を厳格に制御することが望ましい。
【0051】
基板が石英基板での裏面反射光LB3は、反射率3.5%程度である。これに、表面反射光LB1が10〜12%程度の窒化クロムよりなるハードマスク層を設けた場合、透過率が大きくなる5nm以下にて、フォーカス異常が顕在化し始める。さらにハードマスクを薄く、たとえば2.5nm程度とすると、透過率が上昇するだけでなく、表面反射率が6%程度まで下降し、フォーカス異常は悪化する。したがって、本実施形態に係るインプリント用モールドブランクにおいて、裏面反射光LB3の見かけ上の反射率は3.5%未満であることが好ましく、装置状態の変動、ハードマスクの薄膜化等を考慮すれば、2%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。
【0052】
裏面反射光の反射率の測定方法としては、裏面反射光の反射率を直接測定できる装置がないため、表面反射光の反射率を測定できる装置、表裏面の反射光の反射率を測定できる装置等を用いて、裏面反射光の反射率を換算して算出する方法が例示される。
【0053】
(2.インプリント用モールド)
上記のインプリント用モールドブランク10を用いることにより、フォーカス異常が生じることなく、設計通りのレジストパターンを形成することができる。そして、レジストパターンをマスクとして、ハードマスク層2および基板1をエッチングすることにより、図1(b)に示すように、基板1の表面1aに微細なパターンが形成された本実施形態に係るインプリント用モールド12が得られる。
【0054】
基板1上に残存しているハードマスク層2およびレジスト層4は必要に応じて除去される。たとえば、熱インプリントにより、インプリント用モールド12を用いてパターンを転写する場合には、ハードマスク層等が残存していてもよい。また、ハードマスク層2およびレジスト層4を除去すると、インプリント用モールド12の裏面側からUV光等を照射する光インプリントを行う場合であっても、全く問題なく転写できる。
【0055】
(3.インプリント用モールドの製造方法)
次に、インプリント用モールドを製造する方法について詳細に説明する。上記のインプリント用モールドは、まず、上記のインプリント用モールドブランクを製造し、該ブランクを基にして製造される。図5は、本実施形態に係るインプリント用モールドの製造方法の製造工程を示す説明図である。
【0056】
(ハードマスク層および位相シフト膜の形成)
まず、図5(a)に示すように、石英から構成される基板1(光透過性基板)を準備する。続いて、図5(b)に示すように、基板1の一方の主面1a上にハードマスク層2を形成すると共に、他方の主面1b上に位相シフト膜3を形成する。ハードマスク層2を形成するための成膜手法としては、公知技術を利用すればよく、たとえば、スパッタリング法が例示される。
【0057】
具体的には、窒化クロム(CrN)から構成されるハードマスク層2をスパッタリングにより形成する場合、クロム(Cr)からなるターゲットを、反応ガスとしてのアルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガスを用いてスパッタリングを行い、基板1の表面1a上に窒化クロムを成膜すればよい。窒化クロム中のクロムと窒素との組成比は、混合ガスのアルゴンと窒素との混合比を変化させることにより制御することができる。その他の成膜条件は適宜決定すればよい。
【0058】
本実施形態では、ハードマスク層2を構成する材料と、位相シフト膜3を構成する材料と、は同質であるため、ハードマスク層2を形成するために用いる手法を、位相シフト膜を形成するために用いる手法に適用することができる。したがって、位相シフト膜を形成する場合にも、スパッタリング法を採用することができ、ハードマスク層2の形成と同様に、クロムをターゲットとし、反応ガスとしてアルゴンと窒素との混合ガスを用いる。
【0059】
また、ハードマスク層2を構成する窒化クロムの組成比と、位相シフト膜3を構成する窒化クロムの組成比と、は同じであってもよいし、異なっていてもよい。本実施形態では、ハードマスク層2を構成する窒化クロム中の窒素の組成比を、位相シフト膜3を構成する窒化クロム中の窒素の組成比よりも大きくすることが好ましい。このようにすることにより、ハードマスク層2と基板1との界面における光(表面反射光)の反射率を大きくできるからである。
【0060】
(レジストパターンの形成)
続いて、図5(c)に示すように、ハードマスク層2の上にレジスト層4を形成する。レジスト層4を形成する方法としては公知の方法を用いればよく、たとえばスピンコート法が例示される。レジスト層4を形成した後には、レジスト層4に含まれる溶剤を除去するため等にベーク処理を行ってもよい。
【0061】
レジスト層4の厚みは特に制限されないが、ハードマスク層2に対するエッチングが完了するまでに残存する厚みであればよい。レジスト層4を形成することにより、図5(c)に示す本実施形態に係るインプリント用モールドブランク10が得られる。
【0062】
続いて、得られたインプリント用モールドブランクを基にして、インプリント用モールドを製造する。
【0063】
まず、図5(d)に示すように、インプリント用モールドブランク10のレジスト層4に対してパターニングを行い、レジストパターン4aを形成する。レジスト層4に対するパターニングは、たとえば、電子線描画機を用いた電子線露光によるパターン描画の後、描画されたパターンを現像することにより行う。このパターン描画の際には、上述したように、レーザー光を用いて基板表面に電子線のフォーカスが合うように照射距離を制御している。本実施形態では、基板1の裏面1bに位相シフト膜3が形成されているため、フォーカス異常を効果的に抑制することができる。
【0064】
続いて、レジスト層4における電子線により描画した部分(露光部分)をエッチングにより除去して、露光後のレジスト層を現像する(レジストパターン4aを形成する)。レジスト層4はポジ型レジストであるので、電子線により描画した部分が、基板1上の溝(凹部)に対応することになる。
【0065】
(ハードマスク層2に対するエッチング)
レジストパターン4aを形成した後は、図5(e)に示すように、該レジストパターン4aをマスクにして、ハードマスク層2に対するエッチングを行う。エッチングは、ドライエッチングであってもよいしウェットエッチングであってもよく、公知の手法を用いればよい。このエッチングにより、ハードマスクパターン2aが形成される。
【0066】
(基板に対するエッチング)
エッチングにより、ハードマスクパターン2aを形成した後は、図5(f)に示すように、エッチング後のハードマスクパターン2aをマスクにして、基板1に対するエッチングを行い、ハードマスクパターン2a自体が有するパターンを基板1に転写して、該基板1への所望パターンの形成を行う。エッチングは、公知の手法を用いればよいが、本実施形態では、ドライエッチングにより基板1をエッチングする。
【0067】
ドライエッチングに用いるガスとしては、基板を侵食して掘り込むことができ、微細なパターンを形成できるガスであれば特に制限されないが、たとえば、フッ素系ガスが例示される。フッ素系ガスとしては、たとえば、C(例えば、CF、C、C)、CHF、これらの混合ガス、または、これらに希ガス(He、Ar、Xe等)を添加したガスが例示される。
【0068】
基板1に対するエッチングを行うことで、基板1については、所望パターンに対応する溝加工(凹凸部形成)が施されることになる。
【0069】
基板1に対するエッチングを行った後は、必要に応じて、基板1上の残存膜(ハードマスクパターン2a、位相シフト膜3、レジストパターン4a等)の除去を行う。残存膜の除去は、公知の手法を用いて行えばよい。そして、基板1から残存膜を除去した後は、必要に応じて、基板1の洗浄等を行う。
【0070】
以上のような各工程を経て、図5(c)に示すインプリント用モールドブランク10を製造し、該ブランクを基にして、図5(g)に示すインプリント用モールド12が製造される。
【0071】
(4.本実施形態の効果)
インプリント用モールドは、ハードマスク層が形成されたインプリント用モールドブランクを描画露光することにより所定の微細パターンを形成して製造される。このとき、基板の表面にレーザー光を照射して、該表面における反射光を利用して、該基板の表面高さの情報を取得し、この情報をフィードバックして、該基板の表面にフォーカスが合うように補正しながら電子線を照射してレジスト層の描画露光を行う。ところが、基板の表面で反射せず基板に入射した光が基板の裏面と外部との界面で反射すると、基板の表面側に戻っていく光(裏面反射光)となる。これが検出されるとフォーカス異常が生じてしまうことがある。フォーカス異常の発生率は低いものの、インプリント用モールドブランクの描画には数十時間から数百時間を要するため、このようなフォーカス異常は無視できない。
【0072】
そこで、本実施形態では、微細パターンが形成されることになる基板の表面(基板の一方の主面)と対向する面(基板の他方の主面)に、位相シフト膜を形成している。この位相シフト膜は、微細パターンを形成するために用いられるのではなく、位相シフト膜に入射し位相シフト膜と外部との界面(位相シフト膜の最表面)で反射し、基板の表面側に戻っていく光(最表面反射光)を生じさせ、かつ裏面反射光の位相に対し、最表面反射光の位相が反転する(ほぼ180°ずれる)ように、それぞれの光の位相変化量を制御している。そうすると、裏面反射光と最表面反射光とがほぼ相殺されるため、フォーカス異常の原因となる裏面反射光が見かけ上ほとんど生じない。したがって、フォーカス異常の発生を効果的に抑制することができる。
【0073】
しかも、本実施形態では、位相シフト膜の厚みを特定の範囲とすることにより、裏面反射光の強度と、最表面反射光の強度と、を同程度にすることができる。したがって、裏面反射光の強度を、フォーカス異常を生じさせない程度まで確実に小さくすることができる。さらに、この位相シフト膜は、光の位相差を利用して裏面反射光を低減するものであり、かつ位相シフト膜の厚みが、基板に入射する光(たとえば、レーザー光)の波長(たとえば、633nm)よりも極めて小さいため、位相シフト膜を設けることにより得られる効果は、光の光路差にほとんど依存しない。換言すれば、位相シフト膜は、基板に入射する光の波長に依存することなく、基板に入射する光の一部である裏面反射光の強度を低減できる膜として機能する。
【0074】
さらに、本実施形態では、上記の効果を有する位相シフト膜を、ハードマスク層の構成材料と同じまたは同質の材料で構成している。したがって、ハードマスク層を形成するために用いられる手法と同じ手法を用いて、位相シフト膜を形成することができる。したがって、発生率の低いフォーカス異常の原因となる裏面反射光の強度を低減するためだけに、位相シフト膜の形成工程を別途設ける必要はなく、工程の増加に起因する不純物等の混入を生じない。また、位相シフト膜の吸光により基板を透過する光量を減ずる事により、裏面異物による散乱光等のノイズを低減できる効果も期待できる。
【0075】
また、位相シフト膜を窒化クロム(CrN)で構成することにより、複素屈折率Nにおける屈折率(n)と、消衰係数(k)と、を本発明の効果を奏する範囲内とすることができる。具体的には、窒化クロムの組成比を変化させることにより、屈折率(n)および消衰係数(k)は、制御することができる。
【0076】
(5.変形例等)
上述した実施形態では、ハードマスク層と位相シフト膜とを同じ材料で構成しているが、ハードマスク層を構成する材料と、位相シフト膜を構成する材料と、が異なっていてもよい。たとえば、ハードマスク層を窒化クロムで構成し、位相シフト膜を窒化タングステンで構成してもよい。ただし、コスト等の観点から、ハードマスク層と位相シフト膜とを同じ材料で構成することが好ましい。
【0077】
上述した実施形態では、基板の裏面上に単層の位相シフト膜を形成している構成について説明したが、基板の裏面上に複数層の位相シフト膜を形成してもよい。
【0078】
そうすると、複数の位相シフト膜における反射光の位相変化量の合計をほぼ180°とすることにより、裏面反射光をほぼ相殺できる。なお、反射光の強度は、位相シフト膜を構成する層の数により制御すればよい。したがって、位相シフト膜を複数形成した場合であっても、上述した効果を奏することができる。
【0079】
(第2実施形態)
以下、その他の好ましい形態を、第2実施形態として付記する。本実施形態は、熱処理を行うか否かを考慮し、熱処理を行う場合にはさらに熱処理条件も考慮して、形成する位相シフト膜の厚みを制御する点で第1実施形態とは異なる。その他の点は第1実施形態と同一であるため、詳細な説明を省略する。
【0080】
本発明者は、レジスト層を形成した後に行うベーク処理により、位相シフト膜の厚みに対応する裏面反射光の反射率が変化することを見い出した。換言すれば、ベーク処理により、裏面反射光の反射率をフォーカス異常が生じない程度まで低減できる位相シフト膜の厚みの範囲が変化することを見い出した。そうすると、位相シフト膜を所定の厚みで形成した時点では、その厚みであれば裏面反射光の反射率をフォーカス異常が生じない程度まで低減できるが、ベーク処理を行うと、その厚みにおける裏面反射光の反射率が変化し、裏面反射光の反射率をフォーカス異常が生じない程度まで低減できない可能性が生じてしまう。
【0081】
本発明者は、この知見に基づき、インプリント用モールドブランクの構成要素、たとえば、基板に形成されるレジスト層を構成する材料に関して、ベーク処理等の熱処理が必要か否かを判断し、熱処理が必要な場合には、該構成要素に適した熱処理条件を考慮して、形成する位相シフト膜の厚みを制御できることを見い出した。
【0082】
熱処理要件を考慮して、インプリント用モールドブランクを製造することにより、裏面反射光の反射率を、フォーカス異常が生じない程度まで確実に低減できる。なお、本明細書では、「熱処理要件」とは、熱処理が必要か否かの判断および熱処理が必要な場合に行われる熱処理条件をいう。位相シフト膜の厚みは上述したように2〜6nmの範囲であるのに対し、ベーク処理等により、裏面反射光の反射率が最も小さくなる位相シフト膜の厚みは、位相シフト膜の厚みの範囲の数十%に相当する1nm程度も変化することがある。したがって、熱処理要件を考慮して、位相シフト膜の厚みを制御することは重要である。
【0083】
上記では、熱処理として、レジスト層のベーク処理を例示している。なお、ベーク処理としては、プリベーク(PAB)であってもよいし、露光後ベーク(PEB)であってもよいし、現像後ベーク(PDB)であってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。なお、位相シフト膜の表面が、加工処理、あるいは環境による変化を受け易い場合、予めCr酸化膜を大気側に成膜しておいても良い。
【0084】
以下、本実施形態における特徴的な構成を付記する。
[付記1]
光透過性基板と、前記光透過性基板の表面に形成されたハードマスク層と、レジスト層と、を有するインプリント用モールドにおいて、
前記ハードマスク層の厚みが5nm以下であり、
前記光透過性基板の前記表面に対向する裏面に位相シフト膜が形成されており、
前記位相シフト膜の厚みが2nm以上6nm以下であり、
前記位相シフト膜は、前記光透過性基板の前記表面に光が入射した場合に、前記光透過性基板の前記裏面と前記位相シフト膜との界面において反射し、前記表面側に戻る光Aと、前記位相シフト膜と外部との界面において反射し、前記表面側に戻る光Bと、がほぼ相殺するように構成されているインプリント用モールドブランクを製造する方法であって、
前記インプリント用モールドブランクの製造工程における熱処理要件を考慮して、前記位相シフト膜の厚みを制御することを特徴とするインプリント用モールドブランクの製造方法。
【0085】
[付記2]
前記熱処理要件は、前記レジスト層のベーク処理を含むことを特徴とするインプリント用モールドブランクの製造方法。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0088】
(実施例1)
まず、寸法が152.4mm×152.4mm×6.35mmである石英基板を準備した。続いて、この石英基板の両主面上にスパッタリング法を用いて窒化クロムを両面とも4nmの厚みで成膜した。ターゲットとしてクロムを用い、反応ガスとしてアルゴンと窒素との混合ガスを用いた。混合ガスにおける組成比は、Ar:90%、N:10%であった。なお、位相シフト膜の特性を確認する為に、同寸法の石英基板の裏面にのみ窒化クロムを同様に成膜したものも作成した。
【0089】
スパッタリングにより両主面に形成した窒化クロム膜について、膜品質、異物の吸着等の観点から評価して良好であると判断した窒化クロム膜をハードマスク層とし、他方の窒化クロム膜を位相シフト膜とした。続いて、ハードマスク層の上に、日本ゼオン社製ZEP520をスピンコート法により塗布してレジスト層を形成した。ハードマスク層および位相シフト膜が形成された基板を、ホットプレート上に載置し、200℃−15分の条件でレジスト層に対しベーク処理を行い、インプリント用モールドブランクを得た。位相シフト膜の特性を評価する為の基板(位相シフト膜特性評価用基板)は、レジストを塗布する事無しに、同様なベーク処理を行い作製した。
【0090】
得られた位相シフト膜特性評価用基板に対し、種々の波長の光を基板に入射させて、基板の裏面反射光の反射率を測定した。この測定は、オリンパス社製レンズ反射率測定器(USPM-RU)を用いて行った。このレンズ反射率測定器を用いて、位相シフト膜特性評価用基板の裏面にフォーカスを合わせることにより、裏面反射光の反射率を測定した。なお、入射させる光の入射角は0°(基板に垂直)であり、反射率を測定する領域は、φ1mm以下とした。結果を図6に示す。なお、本実施例1において、位相シフト膜の屈折率は2.34、消衰係数は2.54であった。
【0091】
図6から明らかなように、幅広い波長域において、裏面反射光の反射率が0.4%以下であることが確認できた。なお、400nm以下の波長域では、ノイズのために測定不良であったが、波長に対する膜厚が小さい場合には、さらに広い領域での制御、たとえば190nm程度まで反射率の測定が可能である。
【0092】
一方、位相シフト膜を形成していないインプリント用モールドブランクの基板における裏面反射光の反射率は3.5%であった。すなわち、位相シフト膜を設けることにより、裏面反射光は最表面反射光により相殺され、裏面反射光の強度(反射率)がフォーカス異常を生じない程度まで低減され、しかも最表面反射光による相殺効果は、裏面反射光の波長にはほとんど依存しないことが確認できた。
【0093】
続いて、得られたインプリント用モールドブランクに対し、電子線描画機を用いて、60nm幅のラインアンドスペースを描画露光した。描画露光時には、フォーカスハイトセンサ(Focus Height Sensor)を用いて、波長が633nmのレーザー光をインプリント用モールドブランクの基板表面に照射し、その反射光を検出して、基板の表面高さを算出し電子線の描画位置にフィードバックした。通算約1000時間の描画露光を、50枚のインプリント用モールドブランクに対して行ったが、フォーカスハイトセンサの読み取り値に異常はなく、フォーカス異常は全く生じなかった。なお、位相シフト膜を形成しなかったインプリント用モールド作成においては、1/10枚(1回/20時間)程度の異常発生であった。
【0094】
次に、レジスト層を現像液により現像しレジストパターンを形成した後、このレジストパターンをマスクにして、ドライエッチングによりハードマスク層をエッチングし、ハードマスクパターンを形成した。さらに、形成したハードマスクパターンをマスクにして、石英基板をドライエッチングすることにより、石英基板の表面に60nmのラインアンドスペースパターンを形成した。続いて、該パターン上に残るレジストパターンを熱濃硫酸処理により剥がし、さらにハードマスクパターンをウェットエッチングにより除去した。この時、位相シフト膜も同時に除去した。
【0095】
(実施例2)
石英基板の両主面上に両面とも厚みが5nmの窒化クロム膜を成膜した以外は、実施例1と同様にして、インプリント用モールドブランクを得た。得られたインプリント用モールドブランクに対し、70nmのホールパターンを描画露光した以外は、実施例1と同様にして、描画露光を行った。その結果、実施例1と同様に、フォーカス異常は全く生じなかった。
【0096】
(実施例3)
石英基板の一方の主面上に、ハードマスク層として厚みが4nmの窒化クロム膜を成膜し、他方の主面上に、位相シフト膜として厚みが3nmの窒化クロム膜を成膜した以外は、実施例1と同様にして、インプリント用モールドブランクを得た。得られたインプリント用モールドブランクに対し、30nmのラインアンドスペースパターンを描画露光した以外は、実施例1と同様にして、描画露光を行った。その結果、実施例1と同様に、フォーカス異常は全く生じなかった。
【0097】
(実施例4〜7)
実施例4〜7では、ベーク処理により、裏面反射光の反射率に対応する位相シフト膜の特性の変化(たとえば、裏面反射光の反射率が最も小さくなる位相シフト膜の厚み)を評価した。なお、ベーク処理は膜表面の酸化を進行させる為、膜全体としての複素屈折率が変化する。
【0098】
実施例4では、位相シフト膜の厚みが2〜5nmの範囲内にある試料を複数準備し、レジスト層形成後にベーク処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、位相シフト膜特性評価用基板を複数製造した。
【0099】
実施例5では、位相シフト膜の厚みが2〜5nmの範囲内にある試料を複数準備した以外は実施例1と同様にして、位相シフト膜特性評価用基板を複数製造した。
【0100】
実施例6では、反応ガスとしての混合ガスの組成比を、Ar:70%、N:30%として、位相シフト膜の厚みが2〜5nmの範囲内にある試料を複数準備し、レジスト層形成後にベーク処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、位相シフト膜特性評価用基板を複数製造した。
【0101】
実施例7では、反応ガスとしての混合ガスの組成比を、Ar:70%、N:30%として、位相シフト膜の厚みが2〜5nmの範囲内にある試料を複数準備した以外は実施例1と同様にして、位相シフト膜特性評価用基板を複数製造した。
【0102】
得られた実施例4〜7の位相シフト膜特性評価用基板について、n&kテクノロジー社製n&kアナライザを用いて、該ブランクの基板の表裏面の反射率を測定し、測定値から裏面反射光の反射率を算出した。なお、入射させる光の入射角は5〜10°であり、反射率を測定する領域は、φ5mm程度とした。結果を図7に示す。
【0103】
図7より、ベーク処理により、裏面反射光の反射率が最も小さくなる位相シフト膜の厚みが変化すること(実施例4および5)、ベーク処理により裏面反射光の反射率が変化すること(実施例6および7)が確認できた。このように付随する処理で位相シフト膜全体としての特性変化が想定される場合、あるいは、洗浄性を向上させるための機能性膜等を別途で設けた多層構造とするような場合に、予め異なる膜厚の位相シフト膜にて影響量を想定して、適切な膜厚に設定すればよい。たとえば、レジスト層を形成する材料として、200℃−15minのベーク処理が必要なものを採用する場合には、Cr:90%、N:10%で構成される位相シフト膜の厚みを4nm程度とすることにより、裏面反射光の反射率を最も低減することができる。
【符号の説明】
【0104】
10…インプリント用モールドブランク
1…基板
2…ハードマスク層
2a…ハードマスクパターン
3…位相シフト膜
4…レジスト層
4a…レジストパターン
12…インプリント用モールド
20…光検出器
21…センサ部
22…ピンホールスリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7