【実施例】
【0024】
図1〜
図8に示す本実施例の乗物用座席1は、航空機に設置される座席であって、座部10と、背もたれ20と、肘掛け30と、固定装置49とを含み構成されている。なお、この乗物用座席1は、航空機以外の各種乗物(鉄道車両、バス、船舶等)に設置される座席として実施することもできる。
【0025】
[座部10及び背もたれ20]
座部10は、通常の座部であって、上面に座面10sを備えている。また、背もたれ20も、通常の背もたれであって、傾動レバー(図示略)を操作することで、傾動可能な状態になる構成である。
【0026】
[肘掛け30]
肘掛け30は、肘当て面32を有する上側部品31と、座面10sよりも下方へ延びる下側部品36とで形成されたボックス形状をしている。そして、上側部品31と下側部品36とはヒンジ41によって連結されている。そのため、上側部品31は、下側部品36の上にある通常位置P1から下側部品36の外側方にある折畳位置P3にまでヒンジ41により可動である。具体的には、上側部品31は、前後方向に平行移動が可能かつ側方にヒンジ41により回動が可能に構成されている。そして、折畳位置P3は、通常位置P1の前方にある中間位置P2の外側方の下方にある。
【0027】
詳しくは、上側部品31の分割面31sの中央部には、上側中央凹部34が凹設されている。その上側中央凹部34内には、前後方向に延びる上側軸35が設置されている。また、下側部品36の分割面36sの中央部には、下側中央凹部37が凹設されている。その下側中央凹部37内には、前後方向に延びる下側軸38が設置されている。そして、上側軸35と下側軸38とが、ヒンジ41によって連結されている。
【0028】
そのヒンジ41は、第一リンク42と、第二リンク44とを含み構成されている。第一リンク42は、前面視でL字形をした板状のリンクであって、その一端部が下側軸38に前後方向にスライド可能かつ周方向に回動可能に取り付けられている。また、第二リンク44は、板状のリンクであって、その一端部が第一リンク42の他端部に連結軸43を介して回動可能に連結されている。その第二リンク44の他端部は、上側軸35に回動可能に取り付けられている。そして、このヒンジ41は、通常固定状態では、上側中央凹部34と下側中央凹部37とによって形成される空間内に収納される。
【0029】
この肘掛け30は、上側部品31の通常固定状態での外側面の下端部に、上側部品31と下側部品36との分割箇所Dを隠蔽する突条状の隠蔽部33を備えた意匠形状をしている。そして、この肘掛け30は、上側部品31が折畳位置P3に配された状態では、上側部品31、下側部品36及びヒンジ41のいずれも、座面10sの高さ以下に収まる。
【0030】
[固定装置49]
固定装置49は、操作部55aを備えている。そして、通常は上側部品31の通常位置P1への固定を行うことで通常固定状態にする。具体的には、前記平行移動(上側部品31の前後方向への平行移動)及び前記回動(上側部品31の側方への回動)を不能に拘束することで前記固定を行う。
【0031】
そして、操作部55aが操作されたときに、前記固定を解除することで上側部品31を可動状態にする。具体的には、
図3aに示すように背もたれ20が起立した状態、又は
図3bに示すように背もたれ20が倒された状態のいずれかの状態において、乗客やクルー等によって操作部55aが押し上げられる(操作される)と、固定装置49は、前記平行移動の拘束を解除することで前記固定を解除する。そのことで、前記可動状態の一つである平行移動可能状態にする。その平行移動可能状態は、上側部品31が通常位置P1から中間位置P2にまで平行移動が可能な状態である。そして更に、乗客やクルー等によって、
図4cに示すように、上側部品31が中間位置P2に配されると、固定装置49は、前記回動の拘束を解除することで、前記可動状態の別の一つの状態である回動可能状態にする。その回動可能状態は、上側部品31が中間位置P2から折畳位置P3にまで回動が可能な状態である。そして更に、乗客やクルー等によって、
図4dに示すように、上側部品31が折畳位置P3に配されると、肘掛け30の高さが低くなる。
【0032】
詳しくは、この固定装置49は、前記平行移動を拘束する平行移動拘束部50と、前記回動を拘束する回動拘束部60とから構成されている。
【0033】
平行移動拘束部50は、固定用突起51と、固定部52とから構成されている。固定用突起51は、上側部品31の通常固定状態での内側面(背もたれ20側の側面)の後部から内側方(背もたれ20側方向)に突出した突起である。また、固定部52は、背もたれ20と肘掛け30との間の位置であって、少なくとも背もたれ20を最大限起立させた状態では、背もたれ20の前面20sよりも後方に収まる位置に配置されている。この固定部52は、上下方向及び前後方向に延びる基板53と、基板53の内部空間53aに設置された操作機構54とから構成されている。そして、基板53の下部は、下側部品36の上部に固定されている。また、基板53の上部には、その前端から後方に凹む固定用凹部53bが形成されている。そして、通常固定状態では、固定用凹部53bの内側に固定用突起51が配される。
【0034】
操作機構54は、操作レバー55と、第一バネ56と、第二バネ57と、ラッチ58とを含み構成されている。操作レバー55は、その長さ方向中間部が基板53の内部空間53aにて支持軸55eによって回動可能に支持されている。その操作レバー55の一端部は、内部空間53aから基板53の前方に突出している。その一端部が、操作部55aを構成している。その操作部55aは、第一バネ56の付勢力によって通常固定状態では下がっており、押し上げられたときに前記固定を解除する構成になっている。
【0035】
ラッチ58は、通常固定状態のときに、固定用凹部53bの内側にある固定用突起51を前方に移動不能に拘束するための部材である。このラッチ58は、操作レバー55の他端部55fの上方に設置されており、ラッチ58と該他端部55fとの間には、第二バネ57が介装されている。そして、
図6bに示すように、操作部55aが下がり他端部55fが上がっている状態では、ラッチ58は、固定用凹部53bの前端の開口部を塞ぐ位置に配される。その一方、
図6cに示すように、操作部55aが押し上げられることで他端部55fが下がった状態では、自重で第二バネ57と共に沈降して、固定用凹部53bの前端の開口部を塞がない位置に配される。そのラッチ58の上部の前端には、下方から上方に行くに従い前方から後方に後退する傾斜部58aが設けられている。そのため、上側部品31を通常位置P1に戻す際には、操作部55aを押し上げなくても、上側部品31を中間位置P2から後方に平行移動させるだけで、傾斜部58aと第二バネ57との協働でラッチ58が自動的に下方に押し下げられて、上側部品31が通常位置P1に平行移動可能になっている。
【0036】
回動拘束部60は、上側部品31が通常位置P1に配された状態では、前記回動を不能に拘束し、上側部品31が中間位置P2に配された状態では、前記回動の拘束を解除する構成になっている。詳しくは、この回動拘束部60は、上側部品31に突設された拘束用突起64,64と、下側部品36に凹設された拘束溝67,67とから構成されている。
【0037】
拘束用突起64,64は、上側部品31の分割面31sから突出した突起であり、具体的には、上側中央凹部34の前後両側に1本ずつ突設されている。そして、各拘束用突起64の先端部には、その両側方に突出した突起側返し部65,65が形成されている。
【0038】
拘束溝67は、下側部品36の分割面36sに凹設された溝であり、具体的には、下側中央凹部37の前後両側に1本ずつ凹設されている。そして、各拘束溝67は、拘束用突起64よりも前後方向に長い。そして、各拘束溝67の上端の開口部の後部の両内側面には、内方に突出した溝側返し部68,68が設けられている。そして、上側部品31が通常位置P1に配された状態では、突起側返し部65,65が溝側返し部68,68に当接することで、前記回動を拘束する。その一方、上側部品31が通常位置P1から中間位置P2にまで平行移動したときには、突起側返し部65,65が溝側返し部68,68に当接しなくなることで、前記回動の拘束を解除する。
【0039】
本実施例によれば、次のA〜Iの効果を得ることができる。
[A]上側部品31を折畳位置P3に移動させることで、肘掛け30を低くして着座の支障にならない位置に退避させることができる。そのため、
図8に示すように、車椅子を必要とする乗客Hが、乗物用座席1の側方からその座部10の上に移動し易い。
【0040】
[B]上側部品31のみを折畳位置P3に移動させるため、ボックス形状の肘掛け30全体を移動させる場合に比べて、移動させる際に加えるべき負荷が小さくなる。そのため、ボックス形状の肘掛け30全体を重く設計できるようになる。よって、重量面での設計の自由度が上がる。また、それにより、重い材質でも適用可能になるので、材質面での設計の自由度も上がる。よって、ボックス形状の肘掛け30を、重量感のある意匠形状や高級感のある材質(質感)にすることができ、そうすることで、肘掛け30に高級感を持たせることができる。
【0041】
[C]上側部品31を、下側部品36の外側方にある折畳位置P3に移動させるため、肘掛け30を下方に移動させる場合とは違い、肘掛け30の下方にスペースを要しない。そのため、肘掛け30の下方向への長さの点でも、設計の自由度が上がる。よって、肘掛け30を、床まで又は床付近まで延びる意匠形状にすることができ、そうすることで、肘掛け30に高級感を持たせることができる。
【0042】
[D]上側部品31全体を折畳位置P3に移動させるため、肘掛け30の前端から後端までの全体が低くなる。そのため、乗物用座席1の側面の前後方向のすべてが乗降時に使える。
【0043】
[E]少なくとも背もたれ20を最大限起立させた状態では、操作部55aは、背もたれ20の前面20sよりも後方に収まるため、操作部55aは背もたれ20に隠れて見え難い。そのため、意匠的に見栄えが良い。
【0044】
[F]肘掛け30は、上側部品31の下端部に突条状の隠蔽部33を備えた意匠形状をしているため、通常固定状態では、分割箇所Dの斜め上方にくる乗客の目線からは、分割箇所Dが隠蔽部33に隠れて見え難い。そのため、意匠的に見栄えがよい。
【0045】
[G]上側部品31が折畳位置P3に配された状態では、上側部品31、下側部品36及びヒンジ41のいずれも、座面10sの高さ以下に収まるため、それらのいずれの部品31,36,41も乗降の邪魔にならない。
【0046】
[H]固定装置49は、操作部55aが押し上げられたときに前記固定を解除するので、押し下げられたときに前記固定を解除する場合に比べて、乗客が不用意に前記固定を解除してしまうといった誤操作が起き難い。
【0047】
[I]上側部品31は、通常位置P1からその前方にある中間位置P2にまで平行移動してからでないと、折畳位置P3には回動しないため、乗客が不用意に上側部品31を折畳位置P3に回動させてしまうといった誤操作が起き難い。
【0048】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で各部の構成や形状を任意に変更して実施することもできる。