特許第6421020号(P6421020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 天龍エアロコンポーネント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6421020-乗物用座席 図000002
  • 特許6421020-乗物用座席 図000003
  • 特許6421020-乗物用座席 図000004
  • 特許6421020-乗物用座席 図000005
  • 特許6421020-乗物用座席 図000006
  • 特許6421020-乗物用座席 図000007
  • 特許6421020-乗物用座席 図000008
  • 特許6421020-乗物用座席 図000009
  • 特許6421020-乗物用座席 図000010
  • 特許6421020-乗物用座席 図000011
  • 特許6421020-乗物用座席 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6421020
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】乗物用座席
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/75 20180101AFI20181029BHJP
   A47C 7/54 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   B60N2/75
   A47C7/54 C
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-236252(P2014-236252)
(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2016-97797(P2016-97797A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】309034504
【氏名又は名称】天龍エアロコンポーネント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】梶 雅人
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0307308(US,A1)
【文献】 特開平06−156393(JP,A)
【文献】 特開2001−262946(JP,A)
【文献】 特開平10−131607(JP,A)
【文献】 特開平08−013933(JP,A)
【文献】 特開2004−267571(JP,A)
【文献】 特開2001−242954(JP,A)
【文献】 特開2005−237512(JP,A)
【文献】 特開2005−144021(JP,A)
【文献】 実開昭60−010564(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0278838(US,A1)
【文献】 米国特許第2452642(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/90
A47C 7/00− 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部(10)と、背もたれ(20)と、
肘掛け(30)とを備え、肘掛け(30)は、肘当て面(32)を有する上側部品(31)と、座面(10s)よりも下方へ延びる下側部品(36)とで形成されたボックス形状の肘掛け(30)であり、
上側部品(31)と下側部品(36)とはヒンジ(41)によって連結され、上側部品(31)は、前後方向に平行移動が可能かつ、下側部品(36)の上にある通常位置(P1)から下側部品(36)の外側方にある折畳位置(P3)にまでヒンジ(41)により回動が可能に構成され、折畳位置(P3)は、通常位置(P1)の前方又は後方にある中間位置(P2)の外側方の下方にあり
操作部(55a)を備えた固定装置(49)を備え、固定装置(49)は、通常は前記平行移動及び前記回動を不能に拘束することで上側部品(31)の通常位置(P1)への固定を行うことで通常固定状態にし、操作部(55a)が操作されたときに、前記平行移動の拘束を解除することで前記固定を解除することで、上側部品(31)が通常位置(P1)から中間位置(P2)にまで平行移動が可能な平行移動可能状態にし、上側部品(31)が中間位置(P2)に配されたときに、前記回動の拘束を解除することで、上側部品(31)が中間位置(P2)から折畳位置(P3)にまで回動が可能な回動可能状態にする構成である乗物用座席。
【請求項2】
操作部(55a)は、背もたれ(20)と肘掛け(30)との間の位置であって、少なくとも背もたれ(20)を最大限起立させた状態では、背もたれ(20)の前面(20s)よりも後方に収まる位置に配置された請求項記載の乗物用座席。
【請求項3】
肘掛け(30)は、上側部品(31)の通常固定状態での外側面の下端部に、上側部品(31)と下側部品(36)との分割箇所(D)を隠蔽する突条状の隠蔽部(33)を備えた意匠形状をした請求項1又は2記載の乗物用座席。
【請求項4】
上側部品(31)が折畳位置(P3)に配された状態では、上側部品(31)、下側部品(36)及びヒンジ(41)のいずれも、座面(10s)の高さ以下に収まる請求項1〜3のいずれか一項に記載の乗物用座席。
【請求項5】
固定装置(49)は、通常固定状態では操作部(55a)が下がっており、操作部(55a)が押し上げられたときに前記固定を解除する構成である請求項1〜4のいずれか一項に記載の乗物用座席。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、鉄道車両、バス、船舶等の各種乗物に設置される乗物用座席に関し、より具体的には、肘掛けを備えた乗物用座席に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行機の通路は、乗客が乗降する際や、クルーが各座席へサービスを行う際などに用いられるが、基本的に乗客、クルーのいずれも着座状態が基本であるので、最低限の幅しか確保されていないのが通常である。一方、移動するのに車椅子を必要とする乗客もいるので、そのような乗客にも対応可能なように、一部の座席には車椅子からの乗降を容易にするための仕組みを設けておくことも必要である。
【0003】
具体的には、車椅子で所定の座席側方あるいは前方に移動した乗客は、側方あるいは前方に位置取りを行い、車椅子から座席への平行移動による着座を行うが、特に側方からの着座動作においては座席の肘掛けが妨げとなる。そのため、車椅子対応として、肘掛けを着座の支障にならない位置に退避させる退避機能が、一部の座席には設けられている。その退避機能としては、通常は、肘掛けを上方へ跳ね上げる方法が多く採用されている。
【0004】
一方、上等級の座席では、高級感のあるボックス形状の肘掛けが採用されることが多い。しかしながら、通常、ボックス形状の肘掛けは、重量及び体積が大きいので、上方に跳ね上げる構成にすることは難しい。よって、車椅子を必要とする乗客が座席の前方からの着座を行えるように、シートピッチを多めに取る必要がある。そのため、例えば国内線の機体のようにシートピッチの狭い機体には、ボックス形状の肘掛けの適用が難しい。よって、ボックス形状の肘掛けでも採用できる退避機構の技術が必要である。そして、実際にそのような技術については、次の従来例1〜3に示すものがある。
【0005】
[従来例1]
図9に示す従来例1(特許文献1)の乗物用座席70は、ボックス形状の肘掛け73をその後端部にある回転軸74を中心に跳ね上げることで、車椅子を必要とする乗客の着座を容易にするものである。詳しくは、通常は、図9aに示すように、座面71sの下にあるロック機構によって、肘掛け73が通常位置に固定されているが、肘掛け73の前端部にある操作ボタン75によりロックが外れ、跳ね上げ動作が可能となる。そして、図9bに示すように、肘掛け73を所定の角度まで回動させることにより、肘掛け73の自重によってその位置を保持することになる。その肘掛け73には、内側から持ちあげるための窪み(図示略)が設けられており、乗客やクルーによる回動操作が可能である。
【0006】
[従来例2]
図10に示す従来例2(特許文献2)の乗物用座席80は、ボックス形状の肘掛け83を下方向に平行移動させることで、車椅子を必要とする乗客の着座を容易にするものである。詳しくは、肘掛け83の鉛直方向への平行移動を行えるよう、座部81の側部にガイドレール84,84が備えられ、そこに肘掛け83が配置されている。そして、車椅子を必要とする乗客の乗降時には、図10bに示すように、肘掛け83はガイドレール84,84に沿って下方向に押し下げられ、座面81sと肘掛け83の上面83sとが等しい高さとなることから横方向からの移乗が容易になる。
【0007】
[従来例3]
図11に示す従来例3(特許文献3)の乗物用座席90は、ボックス形状の肘掛け93をその後端部にある回転軸94を中心に、前部が斜下方向に下がる方向に回転移動させることで、車椅子を必要とする乗客の着座を容易にするものである。詳しくは、ボックス形状の肘掛け93は、背もたれ92の近傍に回転軸94を持っている。そして、ロックを解除してから、図11bに示すように、肘掛け93全体を回転軸94を中心に、前部が斜下方向に下がる方向に回転移動させることにより、乗物用座席90の側方からの乗降スペースが拡大されて、着座が容易な状態となる。
【0008】
【特許文献1】特開2012−249683号公報
【特許文献2】特開平6−156393号公報(特許第2689059号)
【特許文献3】特開平6−156129号公報(特許第2745180号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来例1〜3では、次に示す理由から、肘掛けの設計の自由度が低く、そのため、肘掛けにあまり高級感を持たせることができない。
【0010】
すなわち、まず第1に、従来例1〜3では、ボックス形状の肘掛け73,83,93全体を移動(回転又は上下方向に平行移動)させるため、該移動させるときに加えるべき負荷が大きくなってしまう。そのため、肘掛け73,83,93を移動させる際の労力や、安全性を考慮すると、肘掛け73,83,93全体を軽く仕上げる必要がある。また更に、従来例1,3では、肘掛け73,93の重量増大に伴い回転軸74,94の補強が必要となることからも、肘掛け73,93全体を軽く作る方が適切である。そして、肘掛け73,83,93の軽量化を考えると、適用可能な材質も樹脂にほぼ限定され、質感についても制約が顕在化してくる。よって、重量感及び材質(質感)の点で、肘掛けにあまり高級感を持たせることができない。
【0011】
また、第2に、従来例2,3では、肘掛け83,93を下方又は斜め下方に押し下げるため、肘掛け83,93の下方にスペースが必要となる。そのため、肘掛け83,93を、床まで又は床付近まで延びる意匠形状にすることができない。そのため、下方向への長さの点でも、肘掛けにあまり高級感を持たせることができない。
【0012】
そこで、ボックス形状の肘掛けを、着座の支障にならない位置に退避可能にしつつも、設計の自由度を高くして、必要に応じて高級感を持たせられるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明の乗物用座席は、次のように構成されている。すなわち、本発明の乗物用座席は、座部と、背もたれと、肘掛けとを備え、肘掛けは、肘当て面を有する上側部品と、座面よりも下方へ延びる下側部品とで形成されたボックス形状の肘掛けであり、
上側部品と下側部品とはヒンジによって連結され、上側部品は、前後方向に平行移動が可能かつ、下側部品の上にある通常位置から下側部品の外側方にある折畳位置にまでヒンジにより回動が可能に構成され、折畳位置は、通常位置の前方又は後方にある中間位置の外側方の下方にあり
操作部を備えた固定装置を備え、固定装置は、通常は前記平行移動及び前記回動を不能に拘束することで上側部品の通常位置への固定を行うことで通常固定状態にし、操作部が操作されたときに、前記平行移動の拘束を解除することで前記固定を解除することで、上側部品が通常位置から中間位置にまで平行移動が可能な平行移動可能状態にし、上側部品が中間位置に配されたときに、前記回動の拘束を解除することで、上側部品が中間位置から折畳位置にまで回動が可能な回動可能状態にする構成である。
【0014】
但し、ここでの「ボックス形状」は、外からみた形状を示すものであり、内部に中空があることを示すものではない。なお、該中空は、あってもよいし、なくてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボックス形状の肘掛けの上側部品を折畳位置に移動させることで、肘掛けを着座の支障にならない位置に退避させることができる。そのため、車椅子を必要とする乗客が、側方から乗物用座席に移動し易い。
【0017】
そして、このとき、上側部品のみを折畳位置に移動させるため、ボックス形状の肘掛け全体を移動(回転又は上下方向に平行移動)させる従来例1〜3に比べて、移動させる際に加えるべき負荷が小さくなる。そのため、ボックス形状の肘掛け全体を従来例1〜3よりも重く設計できる。よって、重量面での設計の自由度が上がる。また、それにより、重い材質でも適用可能になるので、材質面での自由度も上がる。よって、例えば、ボックス形状の肘掛けを、重量感のある意匠形状や高級感のある素材(質感)にすることができ、それにより、肘掛けに高級感を持たせることができる。
【0018】
また、上側部品を、下側部品の外側方にある折畳位置に移動させるため、ボックス形状の肘掛けを下方又は斜め下方に移動させる従来例2,3とは違い、肘掛けの下方にスペースを要しない。そのため、肘掛けの下方向への長さの点でも、設計の自由度が上がる。よって、例えば、肘掛けを、床まで又は床付近まで延びる意匠形状にすることができ、それにより、肘掛けに高級感を持たせることができる。
さらに、上側部品は、通常位置から中間位置にまで平行移動してからでないと、折畳位置には回動しないため、乗客が不用意に上側部品を折畳位置に回動させてしまうといった誤操作が起き難い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例の乗物用座席を示す斜視図である。
図2】実施例の乗物用座席の肘掛けを示す斜視図である。
図3】実施例の乗物用座席において、aは通常固定状態で背もたれが起立した状態を示す斜視図、bは通常固定状態で背もたれが倒された状態を示す斜視図である。
図4】実施例の乗物用座席の肘掛けにおいて、cは上側部品が中間位置に配された状態を示す斜視図、dは上側部品が折畳位置に配された状態を示す斜視図である。
図5】実施例の乗物用座席の肘掛けにおいて、bは通常固定状態を示す平面図、cは上側部品が中間位置に配された状態を示す平面図、dは上側部品が折畳位置に配された状態を示す平面図である。
図6】実施例の乗物用座席の固定装置の固定部において、bは通常固定状態を示す側面断面図(図5に示すVIb−VIb断面の図)、cは上側部品が中間位置に配された状態を示す側面断面図(図5に示すVIc−VIc断面の図)である。
図7】実施例の乗物用座席の肘掛けにおいて、cは上側部品が中間位置に配された状態を示す正面断面図(図5に示すVIIc−VIIc断面の図)、dは上側部品が折畳位置に配された状態を示す正面断面図(図5に示すVIId−VIId断面の図)である。
図8】実施例の乗物用座席に、車椅子を必要とする乗客が着座する際の様子を示す正面図である。
図9】従来例1の乗物用座席において、aは通常の状態を示す斜視図、bは肘掛けを跳ね上げた状態を示す斜視図である。
図10】従来例2の乗物用座席において、aは通常の状態を示す斜視図、bは肘掛けを下方に平行移動させた状態を示す斜視図である。
図11】従来例3の乗物用座席において、aは通常の状態を示す側面図、bは肘掛けを斜下方向に回転させた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
操作部の位置は、特に限定されないが、操作部によって乗物用座席の見栄えが悪くなることがない点で、次の態様であることが好ましい。すなわち、操作部は、背もたれと肘掛けとの間の位置であって、少なくとも背もたれを最大限起立させた状態では、背もたれの前面よりも後方に収まる位置に配置された態様である。
【0021】
肘掛けの意匠形状は、特に限定されないが、分割箇所によって肘掛けの見栄えが悪くなることがない点で、次の態様であることが好ましい。すなわち、肘掛けは、上側部品の通常固定状態での外側面の下端部に、上側部品と下側部品との分割箇所を隠蔽する突条状の隠蔽部を備えた意匠形状をした態様である。
【0022】
上側部品が折畳位置に配された状態での肘掛けの高さは、特に限定されないが、車椅子を必要とする乗客が乗降し易い点で、次の態様であることが好ましい。すなわち、上側部品が折畳位置に配された状態では、上側部品、下側部品及びヒンジのいずれも、座面の高さ以下に収まる態様である。
【0023】
固定装置の操作部は、特に限定されないが、次のc,dの構成を例示する。但し、乗客が不用意に操作部を操作して前記固定を解除してしまうといった誤操作が起き難くなる点で、dの態様であることが好ましい。
[c]固定装置は、通常固定状態では操作部が上がっており、操作部が押し下げられたときに前記固定を解除する構成である態様。
[d]固定装置は、通常固定状態では操作部が下がっており、操作部が押し上げられたときに前記固定を解除する構成である態様。
【実施例】
【0024】
図1図8に示す本実施例の乗物用座席1は、航空機に設置される座席であって、座部10と、背もたれ20と、肘掛け30と、固定装置49とを含み構成されている。なお、この乗物用座席1は、航空機以外の各種乗物(鉄道車両、バス、船舶等)に設置される座席として実施することもできる。
【0025】
[座部10及び背もたれ20]
座部10は、通常の座部であって、上面に座面10sを備えている。また、背もたれ20も、通常の背もたれであって、傾動レバー(図示略)を操作することで、傾動可能な状態になる構成である。
【0026】
[肘掛け30]
肘掛け30は、肘当て面32を有する上側部品31と、座面10sよりも下方へ延びる下側部品36とで形成されたボックス形状をしている。そして、上側部品31と下側部品36とはヒンジ41によって連結されている。そのため、上側部品31は、下側部品36の上にある通常位置P1から下側部品36の外側方にある折畳位置P3にまでヒンジ41により可動である。具体的には、上側部品31は、前後方向に平行移動が可能かつ側方にヒンジ41により回動が可能に構成されている。そして、折畳位置P3は、通常位置P1の前方にある中間位置P2の外側方の下方にある。
【0027】
詳しくは、上側部品31の分割面31sの中央部には、上側中央凹部34が凹設されている。その上側中央凹部34内には、前後方向に延びる上側軸35が設置されている。また、下側部品36の分割面36sの中央部には、下側中央凹部37が凹設されている。その下側中央凹部37内には、前後方向に延びる下側軸38が設置されている。そして、上側軸35と下側軸38とが、ヒンジ41によって連結されている。
【0028】
そのヒンジ41は、第一リンク42と、第二リンク44とを含み構成されている。第一リンク42は、前面視でL字形をした板状のリンクであって、その一端部が下側軸38に前後方向にスライド可能かつ周方向に回動可能に取り付けられている。また、第二リンク44は、板状のリンクであって、その一端部が第一リンク42の他端部に連結軸43を介して回動可能に連結されている。その第二リンク44の他端部は、上側軸35に回動可能に取り付けられている。そして、このヒンジ41は、通常固定状態では、上側中央凹部34と下側中央凹部37とによって形成される空間内に収納される。
【0029】
この肘掛け30は、上側部品31の通常固定状態での外側面の下端部に、上側部品31と下側部品36との分割箇所Dを隠蔽する突条状の隠蔽部33を備えた意匠形状をしている。そして、この肘掛け30は、上側部品31が折畳位置P3に配された状態では、上側部品31、下側部品36及びヒンジ41のいずれも、座面10sの高さ以下に収まる。
【0030】
[固定装置49]
固定装置49は、操作部55aを備えている。そして、通常は上側部品31の通常位置P1への固定を行うことで通常固定状態にする。具体的には、前記平行移動(上側部品31の前後方向への平行移動)及び前記回動(上側部品31の側方への回動)を不能に拘束することで前記固定を行う。
【0031】
そして、操作部55aが操作されたときに、前記固定を解除することで上側部品31を可動状態にする。具体的には、図3aに示すように背もたれ20が起立した状態、又は図3bに示すように背もたれ20が倒された状態のいずれかの状態において、乗客やクルー等によって操作部55aが押し上げられる(操作される)と、固定装置49は、前記平行移動の拘束を解除することで前記固定を解除する。そのことで、前記可動状態の一つである平行移動可能状態にする。その平行移動可能状態は、上側部品31が通常位置P1から中間位置P2にまで平行移動が可能な状態である。そして更に、乗客やクルー等によって、図4cに示すように、上側部品31が中間位置P2に配されると、固定装置49は、前記回動の拘束を解除することで、前記可動状態の別の一つの状態である回動可能状態にする。その回動可能状態は、上側部品31が中間位置P2から折畳位置P3にまで回動が可能な状態である。そして更に、乗客やクルー等によって、図4dに示すように、上側部品31が折畳位置P3に配されると、肘掛け30の高さが低くなる。
【0032】
詳しくは、この固定装置49は、前記平行移動を拘束する平行移動拘束部50と、前記回動を拘束する回動拘束部60とから構成されている。
【0033】
平行移動拘束部50は、固定用突起51と、固定部52とから構成されている。固定用突起51は、上側部品31の通常固定状態での内側面(背もたれ20側の側面)の後部から内側方(背もたれ20側方向)に突出した突起である。また、固定部52は、背もたれ20と肘掛け30との間の位置であって、少なくとも背もたれ20を最大限起立させた状態では、背もたれ20の前面20sよりも後方に収まる位置に配置されている。この固定部52は、上下方向及び前後方向に延びる基板53と、基板53の内部空間53aに設置された操作機構54とから構成されている。そして、基板53の下部は、下側部品36の上部に固定されている。また、基板53の上部には、その前端から後方に凹む固定用凹部53bが形成されている。そして、通常固定状態では、固定用凹部53bの内側に固定用突起51が配される。
【0034】
操作機構54は、操作レバー55と、第一バネ56と、第二バネ57と、ラッチ58とを含み構成されている。操作レバー55は、その長さ方向中間部が基板53の内部空間53aにて支持軸55eによって回動可能に支持されている。その操作レバー55の一端部は、内部空間53aから基板53の前方に突出している。その一端部が、操作部55aを構成している。その操作部55aは、第一バネ56の付勢力によって通常固定状態では下がっており、押し上げられたときに前記固定を解除する構成になっている。
【0035】
ラッチ58は、通常固定状態のときに、固定用凹部53bの内側にある固定用突起51を前方に移動不能に拘束するための部材である。このラッチ58は、操作レバー55の他端部55fの上方に設置されており、ラッチ58と該他端部55fとの間には、第二バネ57が介装されている。そして、図6bに示すように、操作部55aが下がり他端部55fが上がっている状態では、ラッチ58は、固定用凹部53bの前端の開口部を塞ぐ位置に配される。その一方、図6cに示すように、操作部55aが押し上げられることで他端部55fが下がった状態では、自重で第二バネ57と共に沈降して、固定用凹部53bの前端の開口部を塞がない位置に配される。そのラッチ58の上部の前端には、下方から上方に行くに従い前方から後方に後退する傾斜部58aが設けられている。そのため、上側部品31を通常位置P1に戻す際には、操作部55aを押し上げなくても、上側部品31を中間位置P2から後方に平行移動させるだけで、傾斜部58aと第二バネ57との協働でラッチ58が自動的に下方に押し下げられて、上側部品31が通常位置P1に平行移動可能になっている。
【0036】
回動拘束部60は、上側部品31が通常位置P1に配された状態では、前記回動を不能に拘束し、上側部品31が中間位置P2に配された状態では、前記回動の拘束を解除する構成になっている。詳しくは、この回動拘束部60は、上側部品31に突設された拘束用突起64,64と、下側部品36に凹設された拘束溝67,67とから構成されている。
【0037】
拘束用突起64,64は、上側部品31の分割面31sから突出した突起であり、具体的には、上側中央凹部34の前後両側に1本ずつ突設されている。そして、各拘束用突起64の先端部には、その両側方に突出した突起側返し部65,65が形成されている。
【0038】
拘束溝67は、下側部品36の分割面36sに凹設された溝であり、具体的には、下側中央凹部37の前後両側に1本ずつ凹設されている。そして、各拘束溝67は、拘束用突起64よりも前後方向に長い。そして、各拘束溝67の上端の開口部の後部の両内側面には、内方に突出した溝側返し部68,68が設けられている。そして、上側部品31が通常位置P1に配された状態では、突起側返し部65,65が溝側返し部68,68に当接することで、前記回動を拘束する。その一方、上側部品31が通常位置P1から中間位置P2にまで平行移動したときには、突起側返し部65,65が溝側返し部68,68に当接しなくなることで、前記回動の拘束を解除する。
【0039】
本実施例によれば、次のA〜Iの効果を得ることができる。
[A]上側部品31を折畳位置P3に移動させることで、肘掛け30を低くして着座の支障にならない位置に退避させることができる。そのため、図8に示すように、車椅子を必要とする乗客Hが、乗物用座席1の側方からその座部10の上に移動し易い。
【0040】
[B]上側部品31のみを折畳位置P3に移動させるため、ボックス形状の肘掛け30全体を移動させる場合に比べて、移動させる際に加えるべき負荷が小さくなる。そのため、ボックス形状の肘掛け30全体を重く設計できるようになる。よって、重量面での設計の自由度が上がる。また、それにより、重い材質でも適用可能になるので、材質面での設計の自由度も上がる。よって、ボックス形状の肘掛け30を、重量感のある意匠形状や高級感のある材質(質感)にすることができ、そうすることで、肘掛け30に高級感を持たせることができる。
【0041】
[C]上側部品31を、下側部品36の外側方にある折畳位置P3に移動させるため、肘掛け30を下方に移動させる場合とは違い、肘掛け30の下方にスペースを要しない。そのため、肘掛け30の下方向への長さの点でも、設計の自由度が上がる。よって、肘掛け30を、床まで又は床付近まで延びる意匠形状にすることができ、そうすることで、肘掛け30に高級感を持たせることができる。
【0042】
[D]上側部品31全体を折畳位置P3に移動させるため、肘掛け30の前端から後端までの全体が低くなる。そのため、乗物用座席1の側面の前後方向のすべてが乗降時に使える。
【0043】
[E]少なくとも背もたれ20を最大限起立させた状態では、操作部55aは、背もたれ20の前面20sよりも後方に収まるため、操作部55aは背もたれ20に隠れて見え難い。そのため、意匠的に見栄えが良い。
【0044】
[F]肘掛け30は、上側部品31の下端部に突条状の隠蔽部33を備えた意匠形状をしているため、通常固定状態では、分割箇所Dの斜め上方にくる乗客の目線からは、分割箇所Dが隠蔽部33に隠れて見え難い。そのため、意匠的に見栄えがよい。
【0045】
[G]上側部品31が折畳位置P3に配された状態では、上側部品31、下側部品36及びヒンジ41のいずれも、座面10sの高さ以下に収まるため、それらのいずれの部品31,36,41も乗降の邪魔にならない。
【0046】
[H]固定装置49は、操作部55aが押し上げられたときに前記固定を解除するので、押し下げられたときに前記固定を解除する場合に比べて、乗客が不用意に前記固定を解除してしまうといった誤操作が起き難い。
【0047】
[I]上側部品31は、通常位置P1からその前方にある中間位置P2にまで平行移動してからでないと、折畳位置P3には回動しないため、乗客が不用意に上側部品31を折畳位置P3に回動させてしまうといった誤操作が起き難い。
【0048】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で各部の構成や形状を任意に変更して実施することもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 乗物用座席
10 座席
10s 座面
20 背もたれ
20s 前面
30 肘掛け
31 上側部品
32 肘当て面
33 隠蔽部
36 下側部品
41 ヒンジ
49 固定装置
55a 操作部
P1 通常位置
P2 中間位置
P3 折畳位置
D 分割箇所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11