特許第6421070号(P6421070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6421070
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂発泡シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20181029BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   C08J9/12CES
   B32B27/32 E
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-73458(P2015-73458)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-193959(P2016-193959A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】森田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】角田 博俊
(72)【発明者】
【氏名】谷口 隆一
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−055248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/12
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂層が共押出により積層されている、見掛け密度が90〜600kg/m3のポリエチレン系樹脂発泡シートであって、
前記ポリオレフィン系樹脂層、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂との混合物からなり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂および前記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度(ηPP、ηPE)と体積分率(φPP、φPE)に関する以下の関係式(式1)で表されるPI値が2≦PI≦10であり、さらに、ポリエチレン系樹脂の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(ηPE)に対する前記ポリプロピレン系樹脂の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(ηPP)の比(ηPP/ηPE)が、2以上7未満であることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡シート。
【数1】
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂層は、ポリプロピレン系樹脂20〜80重量%と、ポリエチレン系樹脂20〜80重量%との混合物(ただし、前記ポリプロピレン系樹脂と前記ポリエチレン系樹脂の合計は100重量%である)からなることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂層の混合物の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が500〜2000Pa・sであることを特徴とする1または2に記載のポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂層において、前記ポリエチレン系樹脂発泡層との界面側に、前記ポリエチレン系樹脂を連続相とし、前記ポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造が形成されており、かつ、前記ポリオレフィン系樹脂層の表面側に、前記ポリエチレン系樹脂と前記ポリプロピレン系樹脂との共連続相からなる海海構造が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項5】
ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂層が共押出により積層されている、見掛け密度が90〜600kg/m3のポリエチレン系樹脂発泡シートであって、
前記ポリオレフィン系樹脂層は、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂との混合物からなり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂および前記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度(ηPP、ηPE)と体積分率(φPP、φPE)に関する以下の関係式(式1)で表されるPI値が2≦PI≦10であり、
前記ポリオレフィン系樹脂層は、ポリプロピレン系樹脂20〜80重量%と、ポリエチレン系樹脂20〜80重量%との混合物(ただし、前記ポリプロピレン系樹脂と前記ポリエチレン系樹脂の合計は100重量%である)からなることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
発泡ポリエチレンは、その柔軟性により、緩衝性を有する包装、仕切り材料などに好適に用いられている。しかしながら、発泡ポリエチレンは、応力下で界面活性剤等を含む液体と接触していると環境応力亀裂を起こしやすいため、パッキン材などの用途に使用する場合、界面活性剤に高い耐環境応力亀裂性(以下ESCR(Environmental Stress Cracking Resistance))を有していることが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂層形成用溶融樹脂を構成する樹脂として、メタロセン系触媒を用いて製造された135℃以下の融点を有するエチレン−ポリプロピレンランダム共重合体20〜80重量%と、ポリエチレン80〜20重量%とを混合して使用することにより、高い独立気泡率と、十分なESCR特性を備えたポリエチレン系樹脂発泡シートが製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−55248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなポリエチレン系樹脂発泡シートは、例えばパッキン材などの材料として有用なものであり、通常、パッキン材などは、ポリエチレン系樹脂発泡シートを円形状やドーナツ形状に抜き加工して生産される。そこで、ポリエチレン系樹脂発泡シートにおける抜き加工などの加工性(カット性)の更なる改善が求められてきた。
【0006】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、ESCRに優れるとともに、抜き加工などの加工性(カット性)に優れたポリエチレン系樹脂発泡シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明は、ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂層が共押出により積層されている、見掛け密度が90〜600kg/m3のポリエチレン系樹脂発泡シートであって、
前記ポリオレフィン系樹脂層、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂との混合物からなり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂および前記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度(ηPP、ηPE)と体積分率(φPP、φPE)に関する以下の関係式(式1)で表されるPI値が2≦PI≦10であり、さらに、ポリエチレン系樹脂の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(ηPE)に対する前記ポリプロピレン系樹脂の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(ηPP)の比(ηPP/ηPE)が、2以上7未満であることを特徴としている。
【0009】
【数1】
【0010】
このポリエチレン系樹脂発泡シートでは、ポリオレフィン系樹脂層は、ポリプロピレン系樹脂20〜80重量%と、ポリエチレン系樹脂20〜80重量%との混合物(ただし、前記ポリプロピレン系樹脂と前記ポリエチレン系樹脂の合計は100重量%である)からなることが好ましい。
【0011】
このポリエチレン系樹脂発泡シートでは、前記ポリオレフィン系樹脂層の混合物の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が500〜2000Pa・sであることが好ましい。
【0012】
このポリエチレン系樹脂発泡シートでは、前記ポリオレフィン系樹脂層において、前記ポリエチレン系樹脂発泡層との界面側に、前記ポリエチレン系樹脂を連続相とし、前記ポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造が形成されており、かつ、前記ポリオレフィン系樹脂層の表面側に、前記ポリエチレン系樹脂と前記ポリプロピレン系樹脂との共連続相からなる海海構造が形成されている
【0013】
本発明は、ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂層が共押出により積層されている、見掛け密度が90〜600kg/m3のポリエチレン系樹脂発泡シートであって、
前記ポリオレフィン系樹脂層は、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂との混合物からなり、
かつ、前記ポリプロピレン系樹脂および前記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度(ηPP、ηPE)と体積分率(φPP、φPE)に関する以下の関係式(式1)で表されるPI値が2≦PI≦10であり、
前記ポリオレフィン系樹脂層は、ポリプロピレン系樹脂20〜80重量%と、ポリエチレン系樹脂20〜80重量%との混合物(ただし、前記ポリプロピレン系樹脂と前記ポリエチレン系樹脂の合計は100重量%である)からなることを特徴としている。
【0014】
【数2】
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ESCRに優れるとともに、抜き加工などの加工性(カット性)に優れたポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの一実施形態を例示した概要断面図である。
図2】本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法の一実施形態を例示した概要図である。
図3】実施例1のポリエチレン系樹脂発泡シートのポリオレフィン系樹脂層断面透過型電子顕微鏡写真(倍率8000倍)である。
図4】比較例1のポリエチレン系樹脂発泡シートのポリオレフィン系樹脂層断面透過型電子顕微鏡写真(倍率8000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
通常、樹脂製シートの抜き加工は抜き刃により切断されることで行われるが、この際、抜き刃の種類や、抜き速度によっては抜き残りが生じるおそれがある。特に樹脂製シート内部が発泡体のような刃の圧力が分散されやすい構造では、刃の先端に生じる引き裂く力が弱くなり、刃の進入面の反対面(すなわち抜き終わり部分)の樹脂層の抜き残りが生じやすく、抜き加工性の向上が求められる。
【0018】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリエチレン系樹脂発泡シート表面側に位置し、ポリプロピレンおよびポリエチレンの混合物から形成されるポリオレフィン系樹脂層を特定の相構造に調整することによりポリエチレン系樹脂発泡シートの加工性(カット性)が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
以下、本発明のポリエチレン系樹脂発泡シート(以下、単に発泡シートともいう)の実施形態について説明する。図1は、本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの一実施形態を例示した概要断面図である。
【0020】
図1に例示した形態のポリエチレン系樹脂発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層2の両面側にポリオレフィン系樹脂層3が共押出により積層されている。
【0021】
このポリエチレン系樹脂発泡シート1において、ポリオレフィン系樹脂層3は、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂との混合物からなる。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂層3において、ポリエチレン系樹脂発泡層2との界面側には、ポリエチレン系樹脂を海成分、ポリプロピレン系樹脂を島成分とする海島構造が形成されている。また、ポリオレフィン系樹脂層の表面側には、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とを共連続相とする海海構造が形成されている。
【0023】
(発泡層)
ポリエチレン系樹脂発泡層2(以下、単に発泡層ともいう)はポリエチレン系樹脂から構成される。本発明においてポリエチレン系樹脂とは、エチレン成分単位が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含有されているものをいう。ポリエチレン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン系共重合体のうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0024】
なお、通常、それぞれのポリエチレンの密度範囲は、以下のように定義される。高密度ポリエチレンは、密度が940kg/mを超えるポリエチレン系樹脂を示すものとする。低密度ポリエチレンは、長鎖分岐構造を有する密度が910kg/m以上930kg/m未満のポリエチレン系樹脂を示すものとする。直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンと炭素数が4以上8以下のα−オレフィンとの共重合体であって、実質的に分子鎖が直鎖状である密度が910kg/m以上940kg/m以下のポリエチレン系樹脂を示すものとする。また、ポリエチレン系樹脂の密度の下限は、概ね910kg/m程度である。これらのポリエチレン系樹脂の中でも低密度ポリエチレンを主成分とすることが好ましい。ここで、低密度ポリエチレンを主成分とするとは、低密度ポリエチレンがポリエチレン系樹脂全重量に対して50重量%以上含有されていることをいう。前記ポリエチレン系樹脂の中の低密度ポリエチレンの含有量は、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上含有されていることがさらに好ましく90重量%以上含有されていることが特に好ましい。
【0025】
また、ポリエチレン系樹脂発泡層2には、本発明の目的および効果を阻害しない範囲で、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、アイオノマーやエチレン−プロピレンゴムなどのエラストマー、ポリブテンなどのブテン系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル系樹脂などを適宜添加することもできる。この場合の添加量は、ポリエチレン系樹脂発泡層2を形成するための溶融樹脂(発泡層形成用溶融樹脂)に含まれるポリエチレン系樹脂の全重量に対して30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
(発泡層の溶融粘度)
ポリエチレン系樹脂発泡層2を構成するポリエチレン系樹脂において190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が、500〜1500Pa・sであることが好ましい。溶融粘度が上記範囲であると、発泡層を構成するポリエチレン系樹脂が適度な伸びを示し、良好な発泡層となる。上記観点から、より好ましくは、600〜1200Pa・sであり、さらに好ましくは700〜1000Pa・sである。
【0027】
(溶融粘度(Pa・s)の測定)
溶融粘度は、例えば、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dなどの測定機を使用して次に示すように測定することができる。具体的には、このような測定機を準備するとともに、溶融粘度の測定対象となる樹脂を準備して測定用の試料とする。測定機については、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径1.0mm、長さ10mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を190℃とした。そして、そのシリンダー内に測定用の試料を必要量(例えば、約15g)入れ、4分間放置して溶融樹脂となし、剪断速度100sec−1で溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、その押出時の溶融樹脂の粘度を測定して、この値を溶融粘度とすることができる。
【0028】
(発泡層の厚み)
ポリエチレン系樹脂発泡層2の厚みは、0.2mm〜10mmが好ましく、0.5mm〜3mmがより好ましい。
【0029】
ポリエチレン系樹脂発泡層2の厚みの測定は、例えば、次のようにして測定することができる。すなわち、ポリエチレン系樹脂発泡シート1を押出方向に対して垂直に切断し、この切断面の厚みを顕微鏡により等間隔に幅方向に10点撮影を行い、撮影した写真よりポリエチレン系樹脂発泡シート1とポリオレフィン系樹脂層3の厚みをそれぞれ測定し、得られた各々の測定値の算術平均値をポリエチレン系樹脂発泡シート1、ポリオレフィン系樹脂層3の各々の厚みとする。次に、求めたポリエチレン系樹脂発泡シート1の厚みからポリオレフィン系樹脂層3の厚みを差し引きして算出された値をポリエチレン系樹脂発泡層2の厚みとする。
【0030】
(発泡層の連続気泡率)
ポリエチレン系樹脂発泡層2の連続気泡率は、ポリエチレン系樹脂発泡シート1を仕切り材やパッキン材などとして使用する場合には、十分な緩衝性を得ることが出来るという観点から、その連続気泡率が20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下である。連続気泡率の調整方法としては、気泡調整剤の量、ポリエチレン系樹脂発泡層2を形成するポリエチレン系樹脂組成物の押出温度、ポリオレフィン系樹脂層3を形成するポリエチレン系樹脂組成物の押出温度、樹脂層の積層量(厚み)などにより目的とする連続気泡率とすることができる。
【0031】
連続気泡率:S(%)は、ポリエチレン系樹脂発泡シート1を用いてASTM D2856−70に記載されている手順Cに準拠し、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型を使用して求められるポリエチレン系樹脂発泡シート1の実容積(独立気泡の容積と樹脂部分の容積との和):Vx(L)から、以下の関係式(式2)により算出される値である。
【0032】
【数3】
【0033】
ここで、上記(式2)中の、Va、W 、ρは以下の通りである。
Va:ポリエチレン系樹脂発泡シートの見かけ容積(L)
W :ポリエチレン系樹脂発泡シートの重量(g)
ρ :ポリエチレン系樹脂発泡シートを形成する樹脂の密度(g/L)
なお、ポリエチレン系樹脂発泡シートを形成する樹脂の密度ρ(g/L)及びポリエチレン系樹脂発泡シートの重量W(g)は、ポリエチレン系樹脂発泡シートを加熱プレスにより脱泡させて冷却して得られたサンプルから求めることができる。また、ポリエチレン系樹脂発泡シートの見かけ容積Va(L)は、外寸法から計算される値を採用することができる。
【0034】
(樹脂層)
ポリオレフィン系樹脂層3は、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂との混合物からなる。ポリオレフィン系樹脂層3は、ポリプロピレン系樹脂20〜80重量%と、ポリエチレン系樹脂20〜80重量%との混合物(ただし、前記ポリプロピレン系樹脂と前記ポリエチレン系樹脂の合計は100重量%である)からなることが好ましい。該混合物の配合比率は、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のメタロセン系ポリプロピレン20〜50重量%と、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン50〜80重量%とすることがより好ましい。
【0035】
ポリエチレン系樹脂発泡シート1は、ポリオレフィン系樹脂層3が、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂の混合物によって形成されているためESCRに優れている。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂層3を構成するポリエチレン系樹脂8は、ポリエチレン系樹脂発泡層2に使用できるものと同様のものを選択することができる。
【0037】
また、ポリオレフィン系樹脂層3を構成するポリプロピレン系樹脂5は、エチレン−プロピレンランダム共重合体からなることが好ましい。エチレン−プロピレンランダム共重合体としては、メタロセン系重合触媒を用いて重合してなるものであり、且つ、融点135℃以下のものが用いられる。なお、エチレン−プロピレンランダム共重合体には、エチレンとプロピレン及びそれら以外の成分、例えば1−ブテンなどを共重合体成分として含んで構成される共重合体が含まれる。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂5として、融点135℃より大きいポリプロピレンを用いた場合には、押出機の負荷、圧力などが極めて増加するため、ポリエチレン系樹脂発泡層を形成するための発泡層形成用溶融樹脂が発泡に適する温度よりはるかに高く設定せざるを得ず、ポリエチレン系樹脂発泡シート1の独立気泡率を損なうおそれがある。仮に、発泡層形成用溶融樹脂が発泡に適する温度まで低下できたとしても、ポリプロピレン樹脂の結晶化に伴いシート表面の凹凸や、著しい粘度増加に伴うポリオレフィン系樹脂層3のひび割れが生じて発泡シートの表面状態が損なわれ、またポリオレフィン系樹脂層3の亀裂によりESCR、機械物性を損なうおそれがある。ポリプロピレン系樹脂5は、融点135℃以下のメタロセン系重合触媒を用いて重合してなるエチレン−プロピレンランダム共重合体であるため、ポリエチレン系樹脂8に対して、より分散しやすく、上記した樹脂層3の凹凸や亀裂などといった諸々の虞が低減されうる。
【0039】
ポリプロピレン系樹脂5の融点は、ポリエチレン系樹脂発泡層2の独立気泡率を高く維持する観点から、130℃以下が好ましく、125℃以下がさらに好ましい。また、冷却管上でのシート冷却時の引取安定性の観点から、ポリプロピレン系樹脂5の融点の下限は概ね100℃以上、好ましくは110℃以上とすることができる。
【0040】
なお、融点は、JIS K7121(1987年)に準拠する方法により測定することができる。具体的には、試験片の状態調節(2)の条件(ただし、冷却速度は10℃/分)により、10℃/分にて昇温することにより融解ピークを得る。得られた融解ピークの頂点の温度を融点とする。なお、融解ピークが2つ以上現れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点の温度を融点とする。ただし、融解ピークが複数存在する場合は、それらの融解ピークの頂点の最も面積の大きな融解ピークを融点とすることができる。
【0041】
(メタロセン系重合触媒)
融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂を重合するメタロセン系触媒としては、周期律表のIVb族、Vb族、VIb族から選ばれた例えばチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロムなどの遷移金属に対してシクロペンタジエニル環又は置換シクロペンタジエニル環が共有結合により2個結合した分子、及び、アミノオキサンからなる触媒系等が例示できる。
【0042】
そして、ポリオレフィン系樹脂層3の混合物(ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂による樹脂層形成用溶融樹脂)は、190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が500〜2000Pa・sであり、かつ、以下の関係式(式1)で示されるPI値が2≦PI≦10であることが好ましい。
【0043】
【数4】
【0044】
PI値はポリプロピレン系樹脂の粘度を相対的に高くする(ポリエチレン系樹脂の粘度を相対的に低くする)、またはポリエチレン系樹脂の体積分率を増加する(ポリプロピレン系樹脂の体積分率を減少する)ことで調整することができる。上記のようにPI値が2以上10以下に調整されたポリオレフィン系樹脂層3の混合物を共押出することにより、ポリオレフィン系樹脂層3において、ポリエチレン系樹脂発泡層2との界面側がポリエチレン系樹脂を連続相として、ポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造を形成し、樹脂層3の表面側に、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とが共連続相をなす海海構造を形成することができる。
【0045】
このPI値は、ポリエチレン系樹脂発泡シート1の加工性を高める観点から、3より大きいことが好ましく、4より大きいことがより好ましい。一方、ポリエチレン系樹脂に対するポリプロピレン系樹の分散状態を良好にする観点から、PI値の上限は概ね10程度である。
【0046】
また、ポリオレフィン系樹脂層3中におけるポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との配合率は、このPI値を調整しやすくする観点から、ポリエチレン系樹脂が50重量%以上80重量%以下、ポリプロピレン系樹脂が20重量%以上50%重量以下であることがより好ましい。
【0047】
ポリプロピレン系樹脂の190℃、剪断速度100s-1における粘度は、より分散を制御しやすくすることとポリエチレン系樹脂と混合した場合の粘度が製膜に適することから、500〜2500Pa・sが好ましく、1000〜2000Pa・sがより好ましい。
同様の観点でポリエチレン系樹脂の190℃、剪断速度100s-1における粘度については、100〜2000Pa・sが好ましく、200〜1500Pa・sがより好ましく、300〜1000Pa・sがさらに好ましい。
【0048】
また、関係式(式1)におけるポリプロピレン系樹脂の体積分率とポリエチレン系樹脂の体積分率は、ポリオレフィン系樹脂層3を構成するポリプロピレン系樹脂の体積とポリエチレン系樹脂の体積との総和を100としたときのそれぞれの体積分率を意味する。ポリオレフィン系樹脂層3中に占めるポリプロピレン系樹脂の体積分率は0.2以上が好ましく、その場合には、良好なESCRとすることができる。また、ポリオレフィン系樹脂層3中に占めるポリプロピレン系樹脂の体積分率の上限は0.8が好ましく、上記範囲であれば、発泡層2との接着が良好となる。
【0049】
そして、ポリオレフィン系樹脂層3において、ポリエチレン系樹脂発泡層2との界面側がポリエチレン系樹脂を連続相としてポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造を形成し、かつ、ポリオレフィン系樹脂層3の表面側が、ポリプロピレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とが共連続相をなす海海構造を形成するためには、ポリオレフィン系樹脂層3中に占めるポリプロピレン系樹脂の体積分率は、0.6以下がより好ましく0.5以下がさらに好ましい。ポリオレフィン系樹脂層3中に占めるポリプロピレン系樹脂の体積分率がこの範囲であると、ESCRを維持しつつ、ポリエチレン系樹脂発泡シート1の抜き加工性を向上させることができる。
【0050】
さらに、ポリオレフィン系樹脂層3は、ポリエチレン系樹脂の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(ηPE)に対する前記ポリプロピレン系樹脂の190℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(ηPP)の比(ηPP/ηPE)が、0.5以上10以下であることが好ましい。溶融粘度の比(ηPP/ηPE)が上記範囲であると、ポリエチレン系樹脂発泡シート1の表面が美麗であるとともに、良好な抜き加工性を示す。上記観点から、より好ましくは、1〜7であり、さらに好ましくは2〜5である。
【0051】
また、ポリオレフィン系樹脂層3を構成するポリオレフィン系樹脂には、本発明の目的および効果を阻害しない範囲で、他の樹脂が含まれていても良い。他の樹脂としては、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリブテンなどのブテン系樹脂、アイオノマーやエチレン−プロピレンゴムなどのエラストマー、ポリブテンなどのブテン系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル系樹脂などを適宜添加することもできる。この場合の添加量は、ポリオレフィン系樹脂層3を形成するための溶融樹脂(樹脂層形成用溶融樹脂7)に含まれるポリオレフィン系樹脂の全重量に対して30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
さらに、ポリオレフィン系樹脂には、上記したような樹脂成分のほかに、各種の添加剤が添加されてよい。各種の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤等が挙げられる。
【0053】
(「ポリオレフィン系樹脂層の表面側」および「樹脂層と発泡層との界面側」の定義)
本発明の樹脂層におけるモルフォロジーとしては、樹脂層と発泡層との界面側にポリエチレン系樹脂を連続相としてポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造が形成されており、ポリオレフィン系樹脂層3の表面側に、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とが共連続相をなす海海構造が形成されている。本発明において、「ポリオレフィン系樹脂層の表面側」とは、樹脂層の表面から少なくとも3μmまでの深さをいう。また、本発明において、「樹脂層と発泡層との界面側」とは、樹脂層と発泡層との界面から樹脂層側へ少なくとも3μmまでの深さをいう。
【0054】
樹脂層のモルフォロジーは、発泡シートの厚み方向断面の透過型電子顕微鏡写真(例えば倍率8000倍)において確認することができる。
【0055】
(樹脂層の坪量)
ポリオレフィン系樹脂層3の積層量(坪量(g/m))は、得られるポリエチレン系樹脂発泡シート1のポリエチレン系樹脂発泡層2の少なくとも片面に5〜200g/mのポリオレフィン系樹脂層3が積層されていることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂層3の積層量が上記範囲であれば、目的とするESCR性能を確保しつつ、抜き加工性に優れることから好ましい。
【0056】
上記観点から、ポリオレフィン系樹脂層3の積層量は、10g/m以上が好ましく、15g/m以上がより好ましい。一方、ポリエチレン系樹脂発泡シート1の抜き加工性の観点から150g/m以下が好ましく、100g/m以下がより好ましい。
【0057】
(樹脂層の坪量の求め方)
樹脂層の坪量(g/m)は、以下の関係式(式3)にて特定することができる。
【0058】
【数5】
【0059】
(発泡シートの見掛け密度)
ポリエチレン系樹脂発泡シート1の見掛け密度は90〜600kg/mである。ポリエチレン系樹脂発泡シート1の見掛け密度が低すぎる場合、高い独立気泡率を有する発泡シートを共押出にて得ることが難しくなる虞がある。一方、見掛け密度が高すぎる場合には、抜き加工性に劣る虞がある。上記観点から、ポリエチレン系樹脂発泡シート1の見掛け密度は120kg/m以上であることが好ましく、150kg/m以上であることがより好ましい。一方、その上限は、550kg/m以下であることが好ましく、500kg/m以下であることがより好ましい。
【0060】
ポリエチレン系樹脂発泡シート1の見掛け密度(kg/m)は、ポリエチレン系樹脂発泡シート1の坪量(g/m)をポリエチレン系樹脂発泡シート1の厚み(mm)で除した値から単位換算することで求められる。具体的には、上記により求められるポリエチレン系樹脂発泡シート1の厚みと、以下に示すポリエチレン系樹脂発泡シート1の坪量から求められる。ポリエチレン系樹脂発泡シート1の坪量(g/m)は、ポリエチレン系樹脂発泡シート1から試験片を切り出し、試験片の重量(g)を測定し、その重量(g)を試験片の面積(m)で除することにより求めることができる。
【0061】
(製造方法)
次に、本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法の一実施形態について説明する。図2は、本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法の一実施形態を例示した概要図である。
【0062】
図2に例示したように、ポリエチレン系樹脂発泡層を構成するポリエチレン系樹脂8を第1の押出機12に供給し、加熱溶融させて混練することで溶融混練物とし、この溶融混練物に発泡剤9などを供給して、さらに混練し、ポリエチレン系樹脂発泡層を形成するための発泡層形成用溶融樹脂10を得る。
【0063】
発泡層形成用溶融樹脂10を構成するポリエチレン系樹脂組成物のメルトフローレイト(MFR)は、0.3〜20g/10分の範囲であることが好ましい。前記MFRが上記範囲であると発泡シートを押出発泡する際にダイにかかる圧力上昇に伴う発泡層形成用溶融樹脂10の発熱によるポリエチレン系樹脂発泡層2の連続気泡化が抑制されることとなり、発泡シートの機械的強度が好適な発泡シートとなる。このような観点から、MFRは1〜15g/10分の範囲であることがより好ましく、2〜10g/10分以上があることがさらに好ましい。本明細書において、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210−1:2014に準拠して、試験温度190℃、公称荷重2.16kgにて測定することができる。なお、ポリエチレン系樹脂が混合物である場合、その混合物のMFRは、押出機で予め溶融混練したものについて測定されるMFRにて特定される。
【0064】
発泡剤としては、従来ポリエチレン系樹脂発泡体の製造に用いられているものと同様の無機発泡剤、有機系物理発泡剤等が使用できる。無機発泡剤としては例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、空気等が挙げられ、有機系物理発泡剤としては例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素などが挙げられる。また、アゾジカルボンアミド等の分解型発泡剤も使用することができる。このような発泡剤は、2種以上を混合して使用することもできる。これらの発泡剤のうち、ポリエチレン系樹脂との相溶性、発泡性に優れているという観点からノルマルブタン、イソブタン、またはこれらの混合物を主成分とするもの、もしくは環境面、コスト面から二酸化炭素、またはこれを主成分とするものを好ましく使用することができる。
【0065】
発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする発泡体の密度に応じて適宜調整される。具体的には、発泡層を構成するポリエチレン系樹脂100重量部当たり0.05〜10重量部の添加量が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。
【0066】
また、第1の押出機12には、必要に応じてポリエチレン系樹脂8とともに気泡調整剤や各種の添加剤などがあわせて適宜供給される。
【0067】
気泡調整剤としては有機系のもの、無機系のもののいずれも使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどを例示することができる。また有機系気泡調整剤としては、リン酸−2,2−メチレンビス(4,6−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウムなどを例示することができる。またクエン酸と炭酸水素ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と炭酸水素ナトリウム等を組み合わせたものなども気泡調整剤として用いることができる。これらの気泡調整剤は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
気泡調整剤の添加量は、目的とする気泡径に応じて調節される。気泡調整剤の添加量は、発泡層を構成するポリエチレン系樹脂100重量部当たり0.01〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜2重量部である。
【0069】
また、各種の添加剤としては、例えば、核形成剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤などを例示することができる。
【0070】
ポリオレフィン系樹脂層3を構成するポリエチレン系樹脂4、およびメタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂5などを第2の押出機11に供給し、加熱溶融し混練してポリオレフィン系樹脂層を形成するための樹脂層形成用溶融樹脂(ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の混合物)7を得る。次に、発泡層形成用溶融樹脂10と樹脂層形成用溶融樹脂7とを、それぞれ適正温度に調整した後、図2の環状ダイ13に導入して、さらにその環状ダイ13から共押出することにより筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートを形成する。筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層2の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂層3が積層された積層構造を有する。環状ダイ13内で積層してから共押出することで、ポリエチレン系樹脂発泡層とポリオレフィン系樹脂層との接着強度が向上する。なお、ポリエチレン系樹脂発泡シートのESCRを維持しつつ、抜き加工性を向上させる観点からは樹脂層3を最外層とすることが好ましい。
【0071】
そして、筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートは、冷却装置を通過させる等の方法を適宜用いて冷却される。すなわち、形成された筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートの内面を冷却装置の側周面に沿わせて筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートを引き取ることで、筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートが冷却される。また、必要に応じて筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートの外面に冷風等を吹き付けて冷却することもできる。なお、冷却装置としては、押出発泡の分野で用いられている公知の装置を使用することができる。具体的には、例えば円柱状の形態のものや、冷却管がリング状に押出方向に連なった形状のもの、冷却パイプを籠状に形成した形状のものなどを例示することができ、なかでも、構造が簡単で冷却効率のよい円柱状の冷却装置が好ましい。
【0072】
そして、筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートを引き取りながら押出方向に沿って切り開いてシート状とすることにより、ポリエチレン系樹脂発泡シート1が形成される。なお、筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートは、冷却装置により冷却しつつ切開くこともできるし、冷却した後切開くこともできる。環状ダイ、押出機、筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートを切開く装置としては、従来、押出発泡の分野で用いられてきた公知の装置を適宜用いることができる。
【0073】
このような方法によって、ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂層が共押出により積層され、見掛け密度が90〜600kg/m3であるポリエチレン系樹脂発泡シートであって、ポリオレフィン系樹脂層が、メタロセン触媒を用いて製造された融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂との混合物からなり、ポリオレフィン系樹脂層において、ポリエチレン系樹脂発泡層との界面側がポリエチレン系樹脂を連続相としてポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造が形成されており、かつ、表面側がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とが共連続相をなす海海構造が形成されているポリエチレン系樹脂発泡シートを製造することができる。
【0074】
発泡層形成用溶融樹脂10と樹脂層形成用溶融樹脂7とを共押出する際において、ポリエチレン系樹脂発泡層2の厚さ、ポリオレフィン系樹脂層3の積層量を調整する方法として、例えば、発泡層を形成する発泡層形成用溶融樹脂の吐出量と樹脂層を形成する樹脂層形成用溶融樹脂の吐出量とを調整する、押出機の先端に取り付けられたダイの流路の間隔を調整する、それらを組み合わせることなどが挙げられる。
【0075】
本発明の発泡シートは、メタロセン系重合触媒を用いて重合してなる融点135℃以下のポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とを混練してなる樹脂層形成用溶融樹脂7を発泡層形成用溶融樹脂10と共に共押出することで形成される。
【0076】
このとき、発泡層の発泡を阻害しない押出温度において、樹脂層形成用溶融樹脂7中でポリエチレン系樹脂中にポリプロピレン系樹脂が微細に分散することとなり、そして、樹脂層形成用溶融樹脂7と発泡層形成用溶融樹脂10との界面側で、ポリエチレン系樹脂を連続相としてポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造を形成し、ポリオレフィン系樹脂層の表面側でポリエチレン系樹脂とポリオレフィン形樹脂とが共連続相を示す海海構造を有するような樹脂層の形成が実現される。
【0077】
樹脂層のポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂のそれぞれの溶融粘度と体積分率から求められるPI値が2≦PI≦10であることによって、より確実に上記した相構成を形成することができる。
【0078】
この発泡シートの表面側でポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とが共連続相となる理由としては、特定の配合比を有する樹脂層形成用溶融樹脂7が発泡層形成用溶融樹脂10と共押出される際に、樹脂層形成用溶融樹脂7の表面側のポリプロピレン系樹脂がダイ内壁との剪断により延伸されることによるものと考えられる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例に基づいて本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートについて詳細に説明するが、本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートは、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0080】
<1>樹脂材料
ポリエチレン系樹脂発泡層を形成するためのポリエチレン系樹脂(E1〜E5)、およびポリオレフィン系樹脂層を形成するためのポリエチレン系樹脂(E1〜E5)、ポリプロピレン系樹脂(P1、P2)として、以下の表1に記載の樹脂材料を使用した。なお、表1中において、メタロセンLLDPEは、メタロセン系重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレンである。LDPEは、低密度ポリエチレンである。メタロセンランダムPPは、メタロセン系重合触媒を用いて共重合してなるエチレン−プロピレンランダム共重合体である。
【0081】
【表1】
【0082】
<2>ポリエチレン系樹脂発泡シートの作製
(実施例1)
発泡層形成用の押出機(内径90mmと内径120mmのタンデム押出機)と樹脂層形成用の押出機(内径50mm)とをクロスバーを介してひとつの環状ダイ(ダイリップ部直径110mm)に連結された共押出装置を使用した。
【0083】
発泡層形成用の樹脂(E2)100重量部に対して、発泡剤として二酸化炭素0.2重量部、気泡調整剤としてクエン酸モノナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合物である大日精化工業株式会社製「ファインセルマスターSSC−PO217K」0.7重量部を、発泡層形成用の押出機に供給して加熱溶融混練し、発泡層形成用溶融樹脂とし、樹脂温度を121℃に調整して環状ダイに導入した。
【0084】
一方、樹脂層形成用の樹脂として、表1に示したポリエチレン系樹脂(E3)とポリプロピレン系樹脂(P2)を樹脂層形成用の押出機に供給して加熱溶融混練して樹脂層形成用溶融樹脂とし、樹脂温度を162℃に調整して環状ダイに導入した。
【0085】
ダイ内で前記発泡層形成用溶融樹脂と樹脂層形成用溶融樹脂とを合流させ、ダイリップから大気中に吐出量110Kg/時間で押出し、両面に樹脂層が積層された筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートを形成した(樹脂層形成用溶融樹脂の全体の吐出量を6Kg/時間、樹脂層形成用溶融樹脂の全体と発泡層形成用溶融樹脂の合計の吐出量110Kg/時間)。
【0086】
この筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートを、表2に示すような各層の坪量となるように引取速度を調整し、その内面を円柱冷却装置(直径212mm 、長さ1500mm)の周面に沿わせて通過させて冷却してから該筒状ポリエチレン系樹脂発泡シートを押出方向に切開き、ポリエチレン系樹脂発泡層の両面にポリオレフィン系樹脂層が積層されているポリエチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0087】
そして、このポリエチレン系樹脂発泡シートの断面を観察したところ、図3に示したように、ポリオレフィン系樹脂層は、ポリエチレン系樹脂発泡層と近接する側の断面(樹脂層と発泡層との界面から樹脂層側へ3μm付近)に、ポリエチレン系樹脂を海成分、ポリプロピレン系樹脂を島成分とする海島構造が形成されており、かつ、表面側の断面(樹脂層の表面から3μm付近)に、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とによる共連続構造が形成されていることが確認された。
【0088】
(実施例2−5)
樹脂層形成用の樹脂として、表2に示す樹脂、配合割合とした以外は実施例1と同様に、ポリエチレン系樹脂発泡シートを得た。このポリエチレン系樹脂発泡シートのポリオレフィン系樹脂層にも、実施例1と同様の断面構造が確認された。
【0089】
(比較例1)
樹脂層形成用の樹脂として、使用する樹脂、ポリオレフィン系樹脂層のポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の配合を表2の通り変更した以外は実施例1と同様に、発泡体を得た。このポリエチレン系樹脂発泡シートの断面を観察したところ、図4に示したように、ポリオレフィン系樹脂層は、断面全体に亘って、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とによる海海構造が形成されていることが確認された。
【0090】
(比較例2)
ポリオレフィン系樹脂層のポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の配合を表2の通り変更した以外は実施例1と同様に、発泡体を得た。このポリエチレン系樹脂発泡シートのポリオレフィン系樹脂層にも、比較例1と同様の断面構造が確認された。
【0091】
<3>評価方法
(1)抜き加工性の評価
外径30mm、内径18mmのドーナツ型の抜き刃を備える抜き加工機を用い、30回抜き加工を行った。抜かれたドーナツ形状のシートの一部が切れ残り元のシートとつながった状態となっている個数をカウントし、下記の通り分類した。
【0092】
◎:抜き残り個数0個
○:抜き残り個数1〜5個
△:抜き残り個数6〜12個
×:抜き残り個数13個以上
【0093】
(2)ESCRの評価
実施例、比較例から得られたポリエチレン系樹脂発泡シートから幅30mm、長さ50mmの大きさに切り出した。切り出した積層体を、外径8mmの鋼管の周面に隙間が出来ないよう、測定する樹脂層の面を外側に向けて巻きつけホチキス等により固定した。その後、積層体巻きつけた鋼管を、50℃に調整された三洋化成工業株式会社製ノニポール160を10重量%溶かした水溶液中に浸漬し樹脂層の状態を観察した。各試料につき5個以上浸漬し、表面にクラックが生じた試料が半数以上となるまでの時間をESCR亀裂時間とした。
【0094】
(3)表面状態
シートの表面状態を目視にて観察した。
【0095】
◎:シートの表面が平滑で美麗であった。
【0096】
○:シートの表面に僅かに凹凸が見られた。
【0097】
<4>結果
実施例及び比較例から得られたポリエチレン系樹脂発泡シートの厚み、各層の坪量(表2中ではポリオレフィン系樹脂層を単に樹脂層、ポリエチレン系樹脂発泡層を単に発泡層と示した)、見掛け密度、連続気泡率、ESCR、抜き加工性を表2に示した。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示した樹脂層のPI値の計算例を実施例1の場合について以下に示す。
PI値=(ηPP×φPE)/(ηPE×φPP
ηPP=ポリプロピレン系樹脂(P2)の粘度(1390Pa・s)
φPE=ポリエチレン系樹脂(E3)の体積分率
ηPE=ポリエチレン系樹脂(E3)の粘度(593Pa・s)
φPP=ポリプロピレン系樹脂(P2)の体積分率

φPE=(WPE/ρPE)/(WPE/ρPE+WPP/ρPP
=(0.7/0.913)/(0.7/0.913+0.3/0.900)
=0.697
φPP=(WPP/ρPP)/(WPE/ρPE+WPP/ρPP
=(0.3/0.900)/(0.7/0.913+0.3/0.900)
=0.303
PE=ポリエチレン系樹脂(E3)の配合量(70wt%/100=0.7)
ρPE=ポリエチレン系樹脂(E3)の樹脂密度(0.913kg/m
PP=ポリプロピレン系樹脂(P2)の配合割合(30wt%/100=0.3)
ρPP=ポリプロピレン系樹脂(P2)の樹脂密度(0.900kg/m

表2に示したように、ポリオレフィン系樹脂層において、ポリエチレン系樹脂発泡層との界面側に、ポリエチレン系樹脂を連続相とし、ポリプロピレン系樹脂を分散相とする海島構造が形成されており、かつ、ポリオレフィン系樹脂層の表面側に、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とによる共連続相からなる海海構造が形成されていた。また、実施例1−5では、ESCRおよび抜き加工性に優れていることが確認された。
【0100】
これに対し、実施例1−5のような断面構造が形成されていない比較例1、2では、抜き加工性が十分ではなかった。
【符号の説明】
【0101】
1 ポリエチレン系樹脂発泡シート
2 ポリエチレン系樹脂発泡層
3 ポリオレフィン系樹脂層
図1
図2
図3
図4