特許第6421085号(P6421085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6421085
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】三輪車のブレーキ機構
(51)【国際特許分類】
   B62L 3/02 20060101AFI20181029BHJP
   B60T 11/04 20060101ALI20181029BHJP
   B62K 5/027 20130101ALI20181029BHJP
   B62K 5/05 20130101ALI20181029BHJP
【FI】
   B62L3/02 F
   B60T11/04
   B62K5/027
   B62K5/05
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-127912(P2015-127912)
(22)【出願日】2015年6月25日
(65)【公開番号】特開2017-7604(P2017-7604A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112978
【氏名又は名称】ブリヂストンサイクル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】安倍 章雄
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−042225(JP,A)
【文献】 特開2013−119341(JP,A)
【文献】 特開2003−335235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62L 3/02
B60T 11/04
B62K 5/027
B62K 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前二輪型三輪車の前輪もしくは後二輪型三輪車の後輪のそれぞれの二輪のリムに当接自在なブレーキシューを備えたアームから構成される二基のブレーキと、
回転軸を中心に相互に回転自在な二つのてこ片から構成されるてこ部材と、からなり、 てこ部材の回転軸よりも一方側にはブレーキレバーに通じる第一ブレーキワイヤが取り付けられ、回転軸よりも他方側には二基のブレーキにそれぞれ通じる二本の第二ブレーキワイヤが取り付けられている、三輪車のブレーキ機構。
【請求項2】
一方のてこ片における第一ブレーキワイヤ取り付け箇所と回転軸との距離L1、一方のてこ片における第二ブレーキワイヤ取り付け箇所と回転軸との距離L2、のいずれか一方もしくは双方を変更する変更手段がさらに備えてある、請求項1に記載の三輪車のブレーキ機構。
【請求項3】
変更手段は、一方のてこ片に設けられた複数の第一ブレーキワイヤ取り付け箇所、一方のてこ片に設けられた複数の第二ブレーキワイヤ取り付け箇所、のいずれか一方もしくは双方からなる、請求項2に記載の三輪車のブレーキ機構。
【請求項4】
変更手段は、一方のてこ片において、第一ブレーキワイヤ取り付け箇所、第二ブレーキワイヤ取り付け箇所、のいずれか一方もしくは双方をスライドさせるスライド部からなる、請求項2に記載の三輪車のブレーキ機構。
【請求項5】
他方のてこ片には該他方のてこ片に対して相対的に回動自在で二つの腕部を具備する回動部材が備えてあり、
一方のてこ片における二つの第二ブレーキワイヤ取り付け箇所に二基のブレーキに通じる二本の第二ブレーキワイヤのアウターが取り付けられ、それぞれのインナーが回動部材の各腕部に取り付けられている、請求項1に記載の三輪車のブレーキ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前二輪型三輪車の前輪もしくは後二輪型三輪車の後輪を制動する、三輪車のブレーキ機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二基の前車輪が並列に配設された前二輪型三輪車は、前後一輪ずつの二輪車に比べて、前二輪の間に積載スペースを設けることができ、また、荷重を前二輪で支持できることから静置状態や低速走行時でもふらつきや横転が抑制でき、ハンドルに前バスケットや幼児シートを取り付けた場合であっても操縦安定性が高いといった利点を有している。さらに、路面が傾斜している等の場合であっても停車した状態で倒れ難いこと、直進性能に優れ、スピードを出し易いこと、カーブでの小回りが利き、安定して曲がれること、などの利点も備えている。
【0003】
前二輪型三輪車の場合は、左右のブレーキレバーの一方が前二輪用のブレーキレバーとなり、他方が後輪用のブレーキレバーとなっており、後二輪型三輪車の場合は、左右のブレーキレバーの一方が後二輪用のブレーキレバーとなり、他方が前輪用のブレーキレバーとなっている。
【0004】
ここで、特許文献1には、三輪自転車用のブレーキ装置にかかる技術が開示されている。具体的には、後二輪のそれぞれのブレーキを作動させる左右の後輪ブレーキワイヤがバランス駒を介して主後輪ブレーキワイヤに接続された三輪自転車のブレーキ装置において、バランス駒と左右の後輪ブレーキワイヤのアウターとの間にストッパを固設したものである。この構成により、左右の後輪ブレーキワイヤのアウターに対するインナーのストロークの調整を、バランス駒をストッパに当接させた状態で簡便かつ正確に均等に調整することが可能になるとしている。
【0005】
特許文献1で開示されるバランス駒は「やじろべい」と称されることもある。ところで、乗員がブレーキレバーを引いた際に感じる負荷は乗員の握力によって相違することから、ブレーキレバーを引いた際の負荷が一律である従来の三輪車では、負荷が大き過ぎると感じる乗員もいれば、逆に負荷が少な過ぎると感じる乗員もいる。
【0006】
したがって、ブレーキレバーを引いた際に受ける負荷が乗員に応じて容易に設定可能なブレーキ機構の開発が望まれるものの、たとえば特許文献1で開示されるバランス駒を具備する機構ではこのように負荷を容易に設定することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−067558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、ブレーキレバーを引いた際に受ける負荷を容易に設定することのできる三輪車のブレーキ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による三輪車のブレーキ機構は、前二輪型三輪車の前輪もしくは後二輪型三輪車の後輪のそれぞれの二輪のリムに当接自在なブレーキシューを備えたアームから構成される二基のブレーキと、回転軸を中心に相互に回転自在な二つのてこ片から構成されるてこ部材と、からなり、てこ部材の回転軸よりも一方側にはブレーキレバーに通じる第一ブレーキワイヤが取り付けられ、回転軸よりも他方側には二基のブレーキにそれぞれ通じる二本の第二ブレーキワイヤが取り付けられているものである。
【0010】
本発明の三輪車のブレーキ機構は、前二輪型三輪車の前輪もしくは後二輪型三輪車の後輪のそれぞれの二輪を制動する機構として、てこの原理を用いたてこ部材を適用したことにより、ブレーキ操作の際に乗員が受ける負荷を所望に設定することを可能としたものである。
【0011】
より具体的には、てこ部材において、回転軸を中心に相互に反対側にあるブレーキレバーに通じる第一のブレーキワイヤ取り付け箇所とブレーキに通じる第二のブレーキワイヤ取り付け箇所のいずれか一方の位置もしくは双方の位置を所望に設定することで、所望するブレーキ操作時の負荷に設定可能となる。
【0012】
また、本発明による自転車のブレーキ機構の好ましい実施の形態は、一方のてこ片における第一ブレーキワイヤ取り付け箇所と回転軸との距離L1、一方のてこ片における第二ブレーキワイヤ取り付け箇所と回転軸との距離L2、のいずれか一方もしくは双方を変更する変更手段がさらに備えてあるものである。
【0013】
本実施の形態のブレーキ機構は、ブレーキレバーもしくはブレーキに通じるワイヤのてこ部材への取り付け箇所を変更する変更手段を具備することにより、ブレーキレバーを引いた際に受ける負荷を自在に変更することを可能としたものである。
【0014】
てこの原理により、ブレーキレバーに通じる第一のブレーキワイヤ取り付け箇所と回転軸との距離L1を長くしたり、あるいはブレーキに通じる第二のブレーキワイヤ取り付け箇所と回転軸との距離L2を短くすることで乗員が受ける負荷は小さくなる。逆に、距離L1を短くしたり、距離L2を長くすることで乗員が受ける負荷は大きくなる。
【0015】
ここで、てこ部材の実施の形態として、たとえば二種類の形態を挙げることができる。
【0016】
変更手段の一つの形態は、一方のてこ片に設けられた複数の第一ブレーキワイヤ取り付け箇所、一方のてこ片に設けられた複数の第二ブレーキワイヤ取り付け箇所、のいずれか一方もしくは双方からなる形態である。
【0017】
回転軸の一方側に複数の第一のブレーキワイヤ取り付け箇所が設けられ、回転軸の他方側に複数の第二のブレーキワイヤ取り付け箇所が設けられていることで、たとえば距離L1が最も長くなる取り付け箇所に第一のブレーキワイヤを取り付け、距離L2が最も短くなる取り付け箇所に第二のブレーキワイヤを取り付けることで、乗員に作用する負荷は最小になる。一方、距離L1が最も短くなる取り付け箇所に第一のブレーキワイヤを取り付け、距離L2が最も長くなる取り付け箇所に第二のブレーキワイヤを取り付けることで、乗員に作用する負荷は最大になる。
【0018】
各取り付け箇所の中から、乗員にとって最適な負荷となる取り付け箇所に第一のブレーキワイヤと第二のブレーキワイヤを取り付けることで、快適なブレーキ操作を実現できる。また、他の乗員が三輪車を使用する際には、当該他の乗員に好ましい負荷となるように各ブレーキワイヤの取り付け箇所を変更すればよい。
【0019】
また、変更手段の他の形態は、一方のてこ片において、第一ブレーキワイヤ取り付け箇所、第二ブレーキワイヤ取り付け箇所、のいずれか一方もしくは双方をスライドさせるスライド部からなる形態である。
【0020】
本実施の形態の変更手段は、各ブレーキワイヤ取り付け箇所を複数設けておく代わりに、各ブレーキワイヤ取り付け箇所がスライド自在に構成され、回転軸からの距離の変更を各ブレーキワイヤ取り付け箇所がスライドすることで実行するものである。
【0021】
この変更手段によれば、スライド部を徐々に移動させることにより、ブレーキ操作の際の負荷の微妙な調整も実行可能になる。
【0022】
また、本発明による自転車のブレーキ機構の好ましい実施の形態は、他方のてこ片には該他方のてこ片に対して相対的に回動自在で二つの腕部を具備する回動部材が備えてあり、一方のてこ片における二つの第二ブレーキワイヤ取り付け箇所に二基のブレーキに通じる二本の第二ブレーキワイヤのアウターが取り付けられ、それぞれのインナーが回動部材の各腕部に取り付けられているものである。
【0023】
前二輪型もしくは後二輪型の三輪車においては左右二基のブレーキが同時に作動するのが望ましいものの、自転車の使用過程において一方のブレーキが相対的に緩んでしまい、他方のブレーキのみが最初に利いてしまうといった問題が生じ得る。
【0024】
本実施の形態のブレーキ機構は、このように一方のブレーキワイヤのみが引かれた際に、自動的に他方のブレーキワイヤも引き、左右のブレーキワイヤの引き量を自動的(自然に)に同程度に調整する(左右のブレーキのばらつきを吸収する)べく、他方のてこ片に対して相対的に回動自在で二つの腕部を具備する回動部材を備えたものである。二本の第二ブレーキワイヤのアウターが一方のてこ片に取り付けられ、それぞれのインナーが回動部材の各腕部に取り付けられている。この構成により、たとえば右側のブレーキワイヤの引き量が大きい場合に、回動部材は左側のブレーキワイヤの引き量を大きくする方向に自然に回動する。この回動部材の自動的(自然)な回動により、左右のブレーキワイヤの引き量を同程度に調整することができる。
【0025】
ここで、二つの腕部を具備する回動部材の具体的な形態としては、回動部材がTの字状を呈し、左右の張り出し部が腕部になっている形態や、回動部材がYの字状を呈し、左右の傾斜方向への張り出し部が腕部になっている形態などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明による三輪車のブレーキ機構によれば、三輪車の前二輪もしくは後二輪を制動する機構としててこ部材を適用したことにより、ブレーキレバーを引いた際に受ける負荷を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の前二輪固定機構を具備する前二輪型三輪車の全体を模擬した斜視図である。
図2】前二輪型三輪車を前方から見た正面図である。
図3】前二輪型三輪車を前方斜めから見て、かつ、てこ部材の実施の形態1を拡大して示した図である。
図4】(a)、(b)はてこ部材の実施の形態2,3を示した模式図である。
図5】てこ部材の実施の形態4を示した模式図である。
図6】ロック部を拡大した図であって、ロック部が解除されている状態を示した図である。
図7】ロック部を拡大した図であって、ロック部が操作されている状態を示した図である。
図8】ステアリング軸固定部を斜め前方から見た斜視図である。
図9】ステアリング軸固定部を斜め後方から見た斜視図である。
図10】傾動アーム固定部を斜め前方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の三輪車のブレーキ機構の実施の形態を説明する。なお、図示する三輪車は前二輪型三輪車であるが、本発明のブレーキ機構が後二輪型三輪車の後二輪に適用できることは勿論のことである。また、図示例は二つの車輪のリムを制動する構造のブレーキを示しているが、本発明のブレーキ機構で適用されるブレーキはドラムブレーキでもディスクブレーキでもよいことは勿論のことである。
【0029】
(前二輪型三輪車について)
図1は前二輪型三輪車の全体を模擬した斜視図であり、図2は前二輪型三輪車を前方から見た正面図である。
【0030】
図示する前二輪型三輪車10は、フレーム体を構成するメインパイプ1dの前方にヘッドパイプ1cが接続され、メインパイプ1dの後方には縦パイプ1eが接続され、右ハンドル1aと左ハンドル1aaが取り付けられたステアリング軸1bがヘッドパイプ1cに回転自在に遊嵌され、ステアリング軸1bには傾動アーム4を介して二基の前二輪2A,2Bが取り付けられ、ペダル1hの踏込みによって回動するチェーン1iを介して駆動力が伝達される後輪2Cが取り付けられてその全体が大略構成されている。なお、図示する前二輪型三輪車10は、バッテリ1jを備えた電動アシストユニットが搭載された電動アシスト三輪車である。
【0031】
縦パイプ1eにはシートポスト1fが昇降自在に取り付けられ、シートポスト1fの頂部にサドル1gが接続されている。
【0032】
ステアリング軸1bに取り付けられた右ハンドル1aと左ハンドル1aaは、側方に広がった後、直上に立ち上がり、乗員側に延びて構成されており、右ハンドル1aには前二輪2A,2B用のブレーキレバー1a’が取り付けられ、左ハンドル1aaには後輪2C用のブレーキレバー1aa’が取り付けられている。そして、右ハンドル1a、左ハンドル1aaの間の空間であって前二輪2A,2Bの直上には前バスケット1kが配設されている(図示する前バスケット1kは幼児シート兼用のバスケットであり、一つの実施例である)。
【0033】
右ハンドル1aの立ち上がりパイプには、ステアリング軸1bの回転(Z1方向)と傾動アーム4の曲線軌跡上の移動(Z2方向)を同時に、もしくはほぼ同時に固定する際にロック操作するためのレバーから構成されたロック部6が取り付けられている。
【0034】
ロック部6がハンドル1aの途中位置に取り付けられていることで、乗員は手を伸ばして臨機にステアリング軸1bと傾動アーム4の固定を図ることができる。
【0035】
前二輪2A,2Bにはそれぞれ、各前輪2A,2Bの輪軸に接続されて前輪2A,2Bの上部を跨ぐU型のホーク1pが取り付けられ、左右のホーク1pに対して、傾動アーム4を構成する上傾動アーム4Aと下傾動アーム4Bが回動軸を介して回動自在に接続されている。なお、接続アーム4Dに対して、上傾動アーム4Aと下傾動アーム4Bがそれらの中央位置で回動自在に接続されている。
【0036】
したがって、前二輪型三輪車10を傾けた際に、上傾動アーム4Aと下傾動アーム4Bが曲線軌跡上で移動し、左右のホーク1pが傾斜することで前二輪2A,2Bの傾動が図られる。
【0037】
図2で示すように、上傾動アーム4Aには、上方に突出するリング状のディスク4Cが固定されており、このディスク4Cが後に詳細に説明する傾動アーム固定部にて固定(ロック)されるようになっている。
【0038】
左右のホーク1pには、前輪2A,2Bを跨いで配設され、ブレーキ3を構成する二つのアーム3a,3bのうちの一方のアーム3bが接続されている。二つのアーム3a、3bは前二輪2A,2Bの直上で回動軸を介して接続されており、各アーム3a、3bの先端内側にはブレーキシュー3cが取り付けられ、ブレーキ操作の際にブレーキシュー3cが前輪2A,2Bのリム2A’、2B’に摺接して制動が実行される。なお、ブレーキ3と、ブレーキ3を駆動するてこ部材5と、から、後に詳細に説明するブレーキ機構30が構成される。
【0039】
傾動アーム4を構成する接続アーム4Dには後に詳細に説明するてこ部材5が取り付けられており、てこ部材5の先端には前二輪用のブレーキレバー1a’に通じる第一ブレーキワイヤ9aが取り付けられ、てこ部材5の後方(後輪側)の二箇所には、二基のブレーキ3にそれぞれ通じる第二ブレーキワイヤ9bが取り付けられている。
【0040】
(ブレーキ機構について)
図3,4,5を参照して、ブレーキ機構を構成する実施の形態1〜4について詳細に説明する。ここで、図3は前二輪型三輪車の前方を斜めから見て、かつ、てこ部材の実施の形態1を拡大して示した図であり、図4(a)、(b)はそれぞれてこ部材の実施の形態2,3を示した模式図であり、図5はてこ部材の実施の形態4を示した模式図である。
【0041】
<てこ部材およびブレーキ機構の実施の形態1>
図2で示すように、ブレーキ機構30は、ブレーキ3とてこ部材5から構成される。図3で示すようにてこ部材5は、上下二つの上てこ5a(てこ片)と下てこ5b(てこ片)が回転軸5cを中心に相互に回転自在に組み付けられており(X1方向に回動)、上てこ5aの前方(三輪車の前進方向)には一つの第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5dが設けてあり、上てこ5aの後方端には一組の第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5eが設けてある。
【0042】
第一ブレーキワイヤ9aのアウター9a’(ワイヤ)の先端は第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5dに突き当たって取り付けられ、アウター9a’から突出したインナー9a”(ワイヤ)は下方の下てこ5bにあるワイヤ先端固定部5fで挟持され、固定されている。
【0043】
ブレーキレバー1a’の操作により、てこ部材5は、回転軸5cを中心に上てこ5aと下てこ5bが相互に回転し、洗濯バサミのように動く。
【0044】
なお、てこ部材5の後方において、接続アーム4Dにはブロック体8cが取り付けられており、ブロック体8cの下方には、後に詳細に説明する傾動アーム固定部8aが取り付けられ、ブロック体8cの上方には、後に詳細に説明するステアリング軸固定部7が取り付けられている。そして、ステアリング軸固定部7と傾動アーム固定部8aから前二輪固定機構20が構成されている。
【0045】
図示するてこ部材5を適用することにより、てこの原理を利用して、ブレーキ操作の際に乗員が受ける負荷を所望に設定することが可能になる。すなわち、回転軸5cから第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5dまでの距離L1、回転軸5cから第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5eまでの距離L2を適宜設定することで、乗員が受ける負荷を所望に設定可能となる。
【0046】
<てこ部材およびブレーキ機構の実施の形態2>
図4(a)で示すブレーキ機構30Aを構成するてこ部材5Aでは、上てこ5aの前方(三輪車の前進方向)には三つの第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’が設けてあり、上てこ5aの後方端には二組の第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’が設けてある。
【0047】
三つの第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’と二組の第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’が設けてあることで、回転軸5cから第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’および/または第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’までの距離が変更自在となっている(これら複数のブレーキワイヤ取り付け箇所5d’、5e’は変更手段である)。
【0048】
第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’に関し、回転軸5cから近い順にそれぞれ、回転軸5cからの距離がL1、L1’、L1”となっており、第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’に関しては、回転軸5cから近い順にそれぞれ、回転軸5cからの距離がL2、L2’となっている。
【0049】
このように、回転軸5cからの距離が異なる複数の第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’と第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’を備えていることで、ブレーキレバー1a’を操作する際の乗員に与える負荷の程度を調整することが可能になる。
【0050】
たとえば、第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’を回転軸5cから最も長い距離L1”の場所に設定し、第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’を回転軸5cから最も短い距離L2の場所に設定することで、てこの原理により、乗員がブレーキレバー1a’を操作した際の負荷は最も少なくなる。逆に、第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’を回転軸5cから距離L1の場所に設定し、第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’を回転軸5cから距離L2’の場所に設定することで、乗員がブレーキレバー1a’を操作した際の負荷は最も大きくなる。
【0051】
ブレーキ機構30を設けることにより、乗員が感じる負荷の程度に応じて、乗員が適度の負荷を受ける位置に第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’と第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’を設定することが可能になる。なお、第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5d’と第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5e’の基数やそれぞれの回転軸5cからの距離は図示例に何ら限定されるものではなく、多様な形態が適用可能である。
【0052】
<てこ部材およびブレーキ機構の実施の形態3>
図4(b)で示すブレーキ機構30Bを構成するてこ部材5Bは、変更手段である第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5dがスライド部5gに固定されており、上てこ5aに開設されたスライド溝5a’内をスライド部5gがスライドすることにより(X2方向)、第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5dと回転軸5cの距離L1を適宜変更できる構成を有している。
【0053】
スライド溝5a’には左右の溝壁にスリット5a”が設けてあり、スライド部5gの側方に張り出したピン5g’の先端がスリット5a”に嵌り込み、適宜の場所で固定自在となっている。
【0054】
なお、図示を省略するが、第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5eもスライド部にてスライド自在に構成されていてもよい。また、第一ブレーキワイヤ取り付け箇所5dが図示例のようにスライド自在であり、第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5eが図4(a)で示すように複数箇所に設けられた形態であってもよい。
【0055】
<てこ部材およびブレーキ機構の実施の形態4>
このブレーキ機構30Cは、使用によって一方のインナーワイヤが他方のインナーワイヤよりも少し伸びてしまった場合や、左右のブレーキのブレーキシューのうち、一方が他方に比して多く摩耗し、ブレーキワイヤの引き代に差が生じてしまった場合に、左右のブレーキワイヤの引き量を自動的(自然に)に同程度に調整する(左右のブレーキのばらつきを吸収する)ことを可能としたブレーキ機構である。このように左右の調整誤差を吸収できるため、厳密に左右均等に調整する必要がなくなる。
【0056】
図5で示すブレーキ機構30Cを構成するてこ部材5Cは、下てこ5bの後方に下てこ5bに対して相対的に回動自在な(W1方向)回動部材5hが取り付けられたものである。回動部材5hはYの字状を呈しており、左右の傾斜方向へ張り出した2つの腕部5h’を備えている。
【0057】
上てこ5aにおける二つの第二ブレーキワイヤ取り付け箇所5eに二基のブレーキに通じる二本の第二ブレーキワイヤ9bのアウター9b'が取り付けられ、それぞれのインナー9b"が回動部材5hの各腕部5h'に取り付けられている。
【0058】
この構成により、たとえば右側のブレーキワイヤ9bの引き量が大きい場合に、回動部材5hは左側のブレーキワイヤ9bの引き量を大きくする方向に自然に回動する。この回動部材5hの自動的(自然)な回動により、左右のブレーキワイヤ9bの引き量を同程度に調整することができる。
【0059】
なお、図示を省略するが、図4で示す変更手段と図5で示す回動部材の双方が組み合わされたてこ部材とこのてこ部材を備えたブレーキ機構であってもよいことは勿論のことである。
【0060】
(前二輪固定機構について)
図3で示す前二輪固定機構20は、ステアリング軸1bの回転を固定するステアリング軸固定部7と、傾動アーム4の曲線軌跡上の移動を固定して前二輪2A,2Bの所定の傾動姿勢を保持する傾動アーム固定部8aとから構成される。以下、図6〜10を参照して順に、ステアリング軸固定部7と傾動アーム固定部8aを固定するロック部6、ステアリング軸固定部7、最後に傾動アーム固定部8aを説明する。
【0061】
<ロック部について>
図6はロック部を拡大した図であって、ロック部が解除されている状態を示した図であり、図7はロック部が操作されている状態を示した図である。
【0062】
ロック部6は、右ハンドル1aの立ち上がりパイプに取り付けられるギヤ6aと、係合部6cが回動自在に装着されたレバー6bとから構成されている。
【0063】
レバー6bの端部において、ステアリング軸固定部7に通じるステアリングワイヤ9cと、傾動アーム固定部8aに通じる傾動アームワイヤ9dが取り付けられ、それぞれのワイヤ9c、9dの上端が上方のギヤ6aに延びて固定されている。なお、ステアリングワイヤ9cの途中位置には不図示のタイミング調整器が介在しており、ステアリングワイヤ9cと傾動アームワイヤ9dの同時引きのタイミングを調整するようになっている。
【0064】
図6で示すロック部6の状態では、ステアリング軸固定部7と傾動アーム固定部8aの双方のロックが解除されており、したがって、ステアリング軸1bは回転自由であり、傾動アーム4は曲線軌跡上を移動自在となっている。
【0065】
図6で示すように、係合部6cを下方に引いて(Y1方向)係合部6cのギヤ6aへの係合を解除した後、レバー6bを上方に引き上げ(Y2方向)、図6で示すごとくレバー6bの引き上げ状態にて係合部6cをギア6aに係合させる。このことにより、ステアリングワイヤ9cと傾動アームワイヤ9dが同時に引き下げられ、双方のワイヤ9c、9dの同時引きにより、前二輪固定機構20を構成するステアリング軸固定部7と傾動アーム固定部8aの同時固定もしくは略同時固定が図られる。なお、係合部の形態によっては最初の係合解除が不要な場合もある。
【0066】
<ステアリング軸固定部について>
図8はステアリング軸固定部を斜め前方から見た斜視図であり、図9はステアリング軸固定部を斜め後方から見た斜視図である。
【0067】
ステアリング軸固定部7は、回動軸7cを中心に回動自在で内側に不図示のパッドを備えた二つのアーム7a、7bから構成されている。二つのアーム7a,7bの一端は回動軸7cに固定され、二つのアーム7a,7bの他端においては、ステアリングワイヤ9cのアウターの端部がアーム7bに突き当たって固定され、アウターから突出したインナーがアーム7aに固定され、ヘッドパイプ1cを挟んで双方のアーム7a,7bが配設されている。
【0068】
回動軸7cにはバネ7gが配設されており、ステアリング軸1bが回動自在の状態では、バネ7gの付勢によって二つのアーム7a、7bがステアリング軸1bから離れた状態で位置決めされている。
【0069】
アーム7bの他端には貫通孔7eが開設され、アーム7aの他端にはステアリングワイヤ9cのインナーを挟む挟持部7fが設けてあり、ステアリングワイヤ9cが貫通孔7eに挿通され、挟持部7fでインナーが挟持されている。
【0070】
ロック部6の操作によってステアリングワイヤ9cのアウターに対してインナーが引っ張られた際に、ステアリングワイヤ9cの動きに応じて二つのアーム7a、7bがバネ7gの付勢に抗して回動軸7cを中心に回動し、パッドを介してヘッドパイプ1cを挟むことでステアリング軸1bを固定する。
【0071】
<傾動アーム固定部について>
図10は傾動アーム固定部を斜め前方から見た斜視図である。
傾動アーム固定部8aは、傾動アームワイヤ9dの先端が固定されたディスクキャリパー8bから構成されており、ディスクキャリパー8bの先端には不図示の突起(たとえばパッド)が設けられている。そして、上傾動アーム4Aから上方に突出しているディスク4Cがディスクキャリパー8bの先端位置に配設されている。
【0072】
ロック部6が操作されて傾動アームワイヤ9dのインナーが引かれると、傾動アームワイヤ9dの動きに応じてディスクキャリパー8bが操作される。
【0073】
ロック部6が解除されている状態では、ディスクキャリパー8bはディスク4Cを挟持していない。そして、ロック部6の操作によってディスクキャリパー8bが回転すると、突起の位置が変更されてディスク4Cと摺接し、ディスク4Cを固定することで傾動アーム4の全体が固定される。
【0074】
図示する前二輪固定機構20によれば、ハンドル1a、1aaが取り付けられたステアリング軸1bと前二輪2A,2Bを傾動させる傾動アーム4の双方をロック部6を操作して同期して固定することにより、前二輪2A,2Bの回転と傾動の二種類の動きを同時もしくはほぼ同時に固定(ロック)でき、前二輪2A,2Bと後輪2Cの三点で前二輪型三輪車10の停止姿勢を安定的に保持することが可能になる。したがって、ロック部6の操作により、三点で地面に接地している重量のある前二輪型三輪車10を、その立ち姿勢を維持した状態で駐輪することが可能になる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1a…右ハンドル、1aa…左ハンドル、1a’,1aa’…ブレーキレバー、1b…ステアリング軸、1c…ヘッドパイプ、1d…メインパイプ、1e…縦パイプ、1f…シートポスト、1g…サドル、1h…ペダル、1i…チェーン、1j…バッテリ、1k…前バスケット、1p…ホーク、2A,2B…前輪(前二輪)、2C…後輪、3…ブレーキ、3a,3b…アーム、3c…ブレーキシュー、4…傾動アーム、4A…上傾動アーム、4B…下傾動アーム、4C…ディスク、4D…接続アーム、5,5A…てこ部材、5a…上てこ(てこ片)、5b…下てこ(てこ片)、5c…回転軸、5d,5d’… 第一ブレーキワイヤ取り付け箇所(変更手段)、5e,5e’…第二ブレーキワイヤ取り付け箇所(変更手段)、5f…ワイヤ先端固定部、5g…スライド部(変更手段)、5h…回動部材、5h’…腕部、6…ロック部、6a…ギヤ、6b…レバー、6c…係合部、7…ステアリング軸固定部、7a,7b…アーム、7c…回動軸、7e…貫通孔、7f…挟持部、7g…バネ、8a…傾動アーム固定部、8b…ディスクキャリパー、8c…ブロック体、9a…第一ブレーキワイヤ、9b…第二ブレーキワイヤ、9c…ステアリングワイヤ(ワイヤ)、9d…傾動アームワイヤ(ワイヤ)、10…前二輪型三輪車、20…前二輪固定機構、30,30A…ブレーキ機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10