【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜4に記載された方法では、いずれの場合においても、過酷な環境下に曝された際における金属−樹脂の界面での密着強度が必ずしも充分ではない。すなわち、特許文献1においては、金属板が鋼板の場合には良好な接着強度や耐食性を示すが、金属板がアルミニウムの場合には接着強度が十分ではなく、特に耐水密着性において改善の余地がある。また、特許文献2及び4においては、特許文献4では表面がケミカルエッチングにより粗面化されているものの、表面はいずれの場合も基本的に金属素地そのものであり、耐食性において充分ではなく、更に、特許文献3においては、金属部材の表面に適用する表面処理として、サンドブラスト処理、液体ホーニング処理、レーザ加工処理等の物理的処理や、陽極酸化処理法、酸又はアルカリの水溶液を用いる方法等の化学処理が例示されているが、単にこれらの物理的処理や化学的処理のみでは、金属部材、特にアルミニウム材と樹脂成形体との間に十分な接合強度と耐食性を付与することは困難である。更に、これら特許文献2〜4に記載の方法においては、金属部材に対する接着フィルムの貼付、金属部材表面に対する物理的処理及び/又は化学的処理、あるいは、金属部品表面のケミカルエッチング等の金属表面に対する処理を、プレス加工等の成形加工を行った後にプレス油等の加工油を除去してから行うことになり、成形加工前に予め処理しておくことは難しく、適用範囲が制限されて汎用性に乏しいという問題もある。
【0011】
ところで、例えば建材、輸送、電機、電子等の分野においては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材が頻繁に用いられており、特にその用途によっては室外で使用されることが多いことから、アルミニウム塗装材を用いて製造された様々な製品が他の分野の場合よりも更に過酷な湿潤環境下で用いられる場合がある。また、電機、電子、輸送等の分野においては、アルミニウム塗装材に対してプレス等の加工を行い、更にこの加工後にその表面にポストコート等の塗装を行って合計で30μm以上、更には40μm以上の厚い膜厚の塗膜を有するアルミニウム塗装材が求められる場合があり、また、膜厚が30μm未満であっても5μm以上、更には10μm以上の比較的厚い膜厚の塗膜と上記の如き過酷な湿潤環境下での使用とが重なる場合もある。
そして、このような過酷な湿潤環境下での使用の場合、また、単独で又は合計で30μm以上となるような膜厚の厚い塗膜が求められる場合、更に、比較的厚い膜厚の塗膜と過酷な湿潤環境下での使用とが重なる場合(以下、これらの場合を「過酷な使用条件下」ということがある。)には、アルミニウム材と塗膜との間の密着性が低下することがあり、更に優れた耐食性能が求められている。また、アルミニウム材と樹脂成形体とが複合化された部分以外に、アルミニウム材がその表面に塗装面を有する場合には、過酷な使用環境下での使用の場合と同様に、アルミニウム材と塗膜との間により優れた密着強度及び耐食性能が求められることがある。
【0012】
そこで、成形加工前であっても、また、成形加工後であっても、容易に樹脂との接合が可能であると共に、単にアルミ・樹脂接合面での密着強度に優れているだけでなく、アルミニウム材と樹脂成形体とが複合化されている部分以外のアルミニウム材の部分においても、優れた耐食性や耐水性、更には耐食試験後のアルミ・樹脂接合面の引張強度において優れており、更には、上述した過酷な使用条件下においても、優れた密着強度と耐食性能を発揮し得るアルミ樹脂複合材の開発が求められている。
【0013】
そこで、本発明者らは、上記の特許文献5及び6におけるアルミニウム塗装材を更に改良し、樹脂成形体と接合させてアルミ樹脂複合材を調製した際に、過酷な使用条件下であっても、樹脂成形体との間の高い密着強度とアルミニウム塗装材の高い耐食性とを両立させることが可能な接合用アルミニウム塗装材及びアルミ樹脂複合材を開発すべく、鋭意検討を行った結果、意外なことには、アルミニウム材の表面に接着用下地皮膜として水分散性シリカ、及びリン化合物を含むシリカ含有皮膜を形成する際に、単にシリコン(Si)やリン(P)の含有量及び含有率を制御するだけでなく、シランカップリング剤を所定の割合で共存させると共にP含有量とSi含有量とのP/Si質量比をある特定の範囲に制御することにより、ノンクロムでありながら上述した過酷な使用条件下においても優れた密着強度と耐食性能を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
従って、本発明の目的は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材とその表面に接着層を有し、ノンクロムでありながら過酷な使用条件下においても優れた密着強度及び耐食性能を発揮し得る接合用アルミニウム塗装材を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このような接合用アルミニウム塗装材を製造することができるアルミニウム塗装材を提供することにある。
更に、本発明の目的は、上記の接合用アルミニウム塗装材を用いて製造され、過酷な使用条件下においても、アルミニウム材と樹脂成形体との間の接合部において優れた密着強度及び耐食性能を発揮し得るアルミ樹脂複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に、接着用下地皮膜として水分散性シリカ、リン酸、及びシランカップリング剤を含むシリカ含有皮膜が形成されているアルミニウム塗装材であり、前記シリカ含有皮膜は、前記シランカップリング剤を0.5〜35質量%の割合で含むと共に、Si含有量が2〜60mg/m
2の範囲内であってP含有量が0.1〜6.0mg/m
2の範囲内であり、かつ、前記P含有量とSi含有量との質量比(P/Si質量比)が0.02〜0.15の範囲内であることを特徴とするアルミニウム塗装材である。
【0016】
また、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に、水分散性シリカ、リン酸、及びシランカップリング剤を含むシリカ含有皮膜を介して、接着層が形成されている接合用アルミニウム塗装材であり、
前記シリカ含有皮膜は、前記シランカップリング剤を0.5〜35質量%の割合で含むと共に、Si含有量が2〜60mg/m
2の範囲内であってP含有量が0.1〜6.0mg/m
2の範囲内であり、かつ、前記P含有量とSi含有量との質量比(P/Si質量比)が0.02〜0.15の範囲内であることを特徴とする接合用アルミニウム塗装材である。
【0017】
更に、本発明は、前記アルミニウム塗装材の接着用下地皮膜に、又は、接合用アルミニウム塗装材の接着層に樹脂成形体が接合されていることを特徴とするアルミ樹脂複合材である。
なお、本発明において、アルミニウム材の表面にシリカ含有皮膜を介して積層される接着層及び後述する塗膜層はいずれも塗装により形成される塗膜からなり、それぞれの膜厚については単に「膜厚」と称し、また、アルミニウム材の表面に積層された接着層の膜厚と塗膜層の膜厚とを合計した膜厚を「総合膜厚」ということがある。
【0018】
本発明において、アルミニウム材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる圧延材、押出形材、ダイカスト材、鋳物材等や、これらを適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの材料を適宜組み合わせて得られる組合せ材等が挙げられる。
【0019】
また、本発明において、アルミニウム材の表面に接着用下地皮膜として形成される、あるいは、接着層に先駆けて形成されるシリカ含有皮膜は、シリコン含有量(Si含有量)が2mg/m
2以上60mg/m
2以下、好ましくは2mg/m
2以上45mg/m
2以下、より好ましくは4mg/m
2以上40mg/m
2以下の範囲であり、リン含有量(P含有量)が0.1mg/m
2以上6.0mg/m
2以下、好ましくは0.3mg/m
2以上5.0mg/m
2以下、より好ましくは0.3mg/m
2以上3.0mg/m
2以下の範囲であり、かつ、これらP含有量とSi含有量とのP/Si質量比が0.02以上0.15以下、好ましくは0.02以上0.13以下、より好ましくは0.04以上0.13以下の範囲であることが必要であり、また、シランカップリング剤の含有率が0.5質量%以上35質量%以下、好ましくは1質量%以上25質量%以下、より好ましくは4質量%以上21質量%以下であることが望ましい。本発明においては、これら4つの条件が同時に満足されないと、上記の過酷な使用条件下での使用で耐食性が低下し、アルミニウム材と樹脂または、塗膜との間の密着性が低下し、アルミ・樹脂複合材の耐久性が損なわれる。
【0020】
そして、このシリカ含有皮膜の膜厚については、通常その膜厚が5nm以上500nm以下、好ましくは20nm以上300nm以下であるのがよく、また、このシリカ含有皮膜中のシリコン含有率(Si含有率)が30質量%以上50質量%以下、好ましくは35質量%以上45質量%以下であって、リン含有率(P含有率)が0.8質量%以上5.5質量%以下、好ましくは1質量%以上5質量%以下であるのがよい。この無機皮膜の膜厚が5nmより薄いと、耐糸錆性が不足する虞があり、反対に、500nmより厚くなると、密着性が不足する虞が生じる。また、シリカ含有皮膜中のSi含有率が30質量%より少ないと、耐糸錆性が低下する虞があり、反対に、50質量%より多くなると汎用的な原料では皮膜形成が難しくなりコストが高くなる。更に、シリカ含有皮膜中のP含有率が0.8質量%より少ないと耐食性が低下する虞があり、反対に、5.5質量%より多くなると密着性が悪くなる虞がある。
【0021】
ここで、本発明のシリカ含有皮膜に用いられる水分散性シリカとしては、例えばコロイダルシリカ、気相シリカ等があり、好ましくはコロイダルシリカである。そして、このコロイダルシリカとしては、特に限定されるものではないが、具体的には例えば、球状のコロイダルシリカとして、日産化学工業社製のスノーテックス-C、スノーテックス-O、スノーテックス-N、スノーテックス-S、スノーテックス-OL、スノーテックス-XS、スノーテックス-XL等が挙げられ、また、鎖状のコロイダルシリカとして、日産化学工業社製のスノーテックス-UP、スノーテックス-OUP等が挙げられる。また、気相シリカとしては、日本アエロジル社製のアエロジル130、アエロジル200、アエロジル200CF、アエロジル300、アエロジル300CF、アエロジル380、アエロジルMOX80等が挙げられる。
【0022】
また、このシリカ含有皮膜に用いられるリン化合物は、一層の耐食性の向上等を目的に添加されるものであり、特に限定されるものではないが、好ましくは、例えばオルトリン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及びこれらの塩から選ばれた1種又は2種以上の混合物を挙げることができ、具体的には、リン酸、リン酸三アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム等を例示することができる。
【0023】
更に、このシリカ含有皮膜に用いられるシランカップリング剤は、密着性と耐食性付与等を目的に添加されるものであり、特に限定されるものではないが、好ましくは、反応基として、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、チオカルボニル基、ハロゲン基、トリアジンチオール基等の反応性官能基を有するシランカップリング剤であり、最終的に反応性のシラノール基を発現させるものであれば特に制限はなく、具体的には例えば、ビニルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤については、単独で用いてもよく、また、2種以上を混合して用いてもよい。また、アルコキシシリル基と上述の反応性官能基を併せ持つアルコキシオリゴマーでもよく、更には、トリアジンチオール基を分子内に備えたシリコーンアルコキシオリゴマーや、ビニル基、アルキル基、アミノ基等を含有する多官能シラン化合物等でもよい。
【0024】
そして、本発明のシリカ含有皮膜を形成するこれら水分散性シリカ、リン化合物、及びシランカップリング剤については、アルミニウム材の表面にシリカ含有皮膜を形成する際に皮膜形成処理液として調製されるが、この皮膜形成処理液は好ましくは水溶液あるいはアルコール溶液として調製され、その際に、必要に応じて、表面調整剤、抗菌剤、防カビ剤、水やアルコール以外の溶剤等の第三成分が添加される。このため、本発明の上記シリカ含有皮膜中には、水分散性シリカ、リン化合物、及びシランカップリング剤に加えて、これら第三成分に由来する成分が存在する場合がある。
【0025】
本発明の接合用アルミニウム塗装材においては、アルミニウム材の表面には前記接着用下地皮膜としてのシリカ含有皮膜を介して接着層が形成され、この接着層が接合用アルミニウム塗装材の最外層を形成するものであるが、前記シリカ含有皮膜と接着層との間には、接着層を介して接合用アルミニウム塗装材に樹脂成形体が接合された後のアルミ樹脂接合材においてアルミニウム材と樹脂成形体との間の内部応力緩和を目的に、塗膜層を設けてもよい。
ここで、アルミニウム材の表面にシリカ含有皮膜を介して形成される接着層の膜厚については、1μm以上500μm以下、好ましくは1μm以上200μm以下、より好ましくは2μm以上100μm以下、更に好ましくは5μm以上80μm以下であるのがよく、1μm未満であると接合が不十分になる虞があり、反対に、500μmを超えると性能が飽和し、コストアップにもなる。
また、シリカ含有皮膜の上に塗膜層を介して接着層が形成される場合、塗膜層の膜厚については、接合用アルミニウム塗装材の使用目的等によって適宜選択され、また、決定されるものであり、特に制限されるものではないが、通常1μm以上50μm以下、好ましくは3μm以上30μm以下であるのがよい。塗膜層の膜厚が1μm未満であると塗膜を介する効果がなくなるという虞があり、反対に、50μmを超えると塗膜の厚膜によって密着性不良の虞が生じる。
【0026】
そして、上記の接着層の膜厚と塗膜層の膜厚とを合計した膜厚(以下、「接着層及び塗膜層の総合膜厚」又は単に「総合膜厚」と称する。)については、通常2μm以上500μm以下、好ましくは5μm以上200μm以下、より好ましくは5μm以上80μm以下であるのがよい。これら塗膜層及び接着層の総合膜厚については、2μmより薄いと十分な耐食性が発揮されず、反対に500μmを超えると効果が飽和する。
ここで、本発明の接合用アルミニウム塗装材の表面に樹脂成形体を射出成形又は共押出成形で接合する場合、この総合膜厚が5μm以上であれば、接着層の膜厚は1μm以上であればよく、十分な接合が可能である。この塗膜層の効果としては、耐食性付与と射出成形時又は共押出成形時の断熱性付与とが認められ、射出成形時又は共押出成形時に十分な断熱性が付与されないと、射出成形時又は共押出成形時に溶融した樹脂が熱伝導性の良いアルミニウム材を介して瞬時に熱を奪われて冷却され、溶融した樹脂と溶融した接着層とが相溶して十分に接合する前に固化してしまい、接合が不十分になる虞がある。この問題に対する対策としては、接着層を厚くして接着層自体に断熱性を付与することも可能であるが、例えば、接着層をロールコート法で厚く塗装する場合、ピックアップロールでの接着剤のピックアップ性が悪いことが多々あり、このような場合には、接着層を厚くするために、複数回の塗装を繰り返して多層コートを形成する必要が生じてコストが増大する虞がある。なお、ピックアップ性の良好な塗料を用いて塗膜層を形成することにより、断熱層が容易に形成され、接着層を薄膜化することが可能になる。
【0027】
ここで接着層を形成する接着塗料としては、塗布型塗料であって、塗装後に溶媒を乾燥して除去する、又は、冷却によって固化することにより接合用アルミニウム塗装材とすることができ、また、加熱することにより樹脂成形体と接合するものであれば特に制限はない。このような接着塗料としては、各種の熱可塑性樹脂系及び熱硬化性樹脂系の接着剤があり、熱可塑性樹脂系の接着剤としては、例えば、ホットメルト型ポリアミド樹脂系、ホットメルト型ウレタン樹脂系、ホットメルト型エチレン酢酸ビニル樹脂系、ホットメルト型変性ポリオレフィン樹脂系、ホットメルト型合成ゴム系等の接着剤や、酸変性ポリプロピレン樹脂系、酸変性ポリエチレン樹脂系、ウレタン変性ポリプロピレン樹脂系、ウレタン変性ポリエチレン樹脂系、塩素化ポリプロプレン樹脂系等の変性ポリオレフィン樹脂系接着剤や、塩ビ・酢酸ビニル樹脂系、ポリエステル樹脂系等の接着剤が例示され、また、熱硬化性樹脂系の接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、ウレタン樹脂系等の接着剤が例示される。
【0028】
また、前記シリカ含有皮膜と前記接着層の間に設けられる塗膜層を形成するための塗料(塗膜層形成用塗料)についても、特に制限はなく、有機系塗料、無機系塗料、有機・無機ハイブリッド系塗料等の各種の塗料を挙げることができ、例えば、アクリル系塗料、ポリエステル系塗料、ウレタン系塗料、アクリルウレタン系、アクリルポリエステル系、エポキシ系塗料、フッ素系塗料、アクリルシリコン系塗料、ウレタンシリコン系塗料、アクリルウレタンシリコン系塗料、セラミックス系塗料、酸化チタン系塗料等を例示することができる。
【0029】
最外層として接着用下地皮膜を有する本発明のアルミニウム塗装材や、最外層として接着層を有する本発明の接合用アルミニウム塗装材は、最終的には、接着層を介して樹脂成形体と接合され、アルミ樹脂複合材として用いられる。
これらのアルミニウム塗装材や接合用アルミニウム塗装材に接合される樹脂成形体については、接着用下地皮膜や接着層を介して接合することができれば、特に限定されるものではなく、各種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の成形体でよく、また、これら熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の発泡体であってもよい。
また、アルミニウム塗装材や接合用アルミニウム塗装材に樹脂成形体を接合する方法についても、特に限定されるものではなく、例えば、射出成形や押出成形で予め成形された樹脂成形体を例えばホットプレス等を用いて加熱加圧条件下で接合させる熱圧着の方法や、アルミニウム塗装材の接着用下地皮膜に加熱硬化型、室温硬化型、又はUV硬化型の接着剤を塗布して予め成形された樹脂成形体を接合させる方法や、接合用アルミニウム塗装材を金型内にセットしてその接着層上に溶融した熱可塑性樹脂を射出して成形と接合を同時に行うインサート成形の方法等を挙げることができる。
【0030】
本発明のアルミ樹脂複合品材に求められる物性、用途、使用環境等を考慮すると、樹脂成形体用の熱可塑性樹脂としては、好ましくは、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等の非ジエン系ゴム、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶性樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、シンジオタクティックポリスチレン樹脂等やこれらの熱可塑性樹脂の2種以上の混合物が挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂については、アルミニウム塗装材に接合させた後に、アルミニウム材との間の密着性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、反り等)、電気的性質等の性能をより改善するために、必要により繊維状、粉粒状、板状等の充填剤や、各種のエラストマー成分を添加するのができる。
【0031】
ここで、樹脂成形体用の熱可塑性樹脂に添加される充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維、アスベスト繊維、硼素繊維等の無機質繊維充填剤や、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維充填剤や、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、炭酸カルシウムを始めとする無機粉体類等の粉状充填剤や、ガラスフレーク、タルクやマイカ等の珪酸塩類等の板状充填剤等が例示され、熱可塑性樹脂100重量部に対して250重量部以下、好ましくは20重量部以上220重量部以下、より好ましくは30重量部以上100重量部以下の範囲で添加される。この充填剤の添加量が250重量部を超えると、流動性が低下しアルミ形状体の凹部へ進入し難くなり良好な密着強度を得られず、機械的特性の低下を招くという問題が生じる。
【0032】
また、樹脂成形体用の熱可塑性樹脂に添加されるエラストマー成分としては、ウレタン系、コアシェル型、オレフィン系、ポリエステル系、アミド系、スチレン系等のエラストマーが例示され、射出成形時の熱可塑性樹脂の溶融温度等を考慮して選択され、また、熱可塑性樹脂100重量部に対して30重量部以下、好ましくは3〜25重量部の範囲で使用される。このエラストマー成分の添加量が30重量部を超えると、更なる密着強度向上効果が見られず機械的特性の低下等の問題が生じる。このエラストマー成分の配合効果は、熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を用いた場合に特に顕著に現れる。
【0033】
更に、樹脂成形体用の熱可塑性樹脂には、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の添加剤、すなわち難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、可塑剤、潤滑剤、滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を、要求される性能に応じて適宜添加することができる。
【0034】
本発明において、アルミニウム塗装材又は接合用アルミニウム塗装材を射出成形用金型内にセットして行う熱可塑性樹脂の射出成形については、用いられる熱可塑性樹脂に求められる通常の成形条件を採用し得るものであるが、射出成形時に溶融した熱可塑性樹脂がアルミニウム塗装材の接着用下地皮膜又は接合用アルミニウム塗装材の接着層と確実に接触して固化することが重要であり、金型温度やシリンダー温度を熱可塑性樹脂の種類や物性、更には成形サイクルの許す範囲で比較的高めに設定するのが好ましく、特に金型温度については、下限温度を20℃以上、好ましくは40℃以上にする必要があり、また、上限温度については、使用する熱可塑性樹脂の種類に応じて、100℃以下、好ましくは70℃以下に設定するのが好ましい。
【0035】
そして、本発明のアルミ樹脂複合材を製造する際の樹脂成形体を形成するための熱硬化性樹脂についても、特に制限されるものではなく、代表的にはエポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
更に、上記の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂以外にも、例えば、エポキシ系やポリエステル系等の常温硬性樹脂や、アクリル系やエポキシ系等の紫外線硬化性樹脂等も使用することができる。
【0036】
以下に、本発明のアルミニウム塗装材及び接合用アルミニウム塗装材を製造する際の製造方法について説明する。
本発明のアルミニウム塗装材の製造に関しては、好ましくは、アルミニウム材の表面にシリカ含有皮膜を形成する皮膜形成処理に先駆けて、アルミニウム材の表面に対して予め脱脂処理や表面調整処理等の前処理を行ってもよく、前記脱脂処理としては、例えばシンナー等を用いた溶剤洗浄や市販の酸性若しくはアルカリ性脱脂剤を用いた脱脂処理が挙げられ、また、前記の表面調整処理としては、酸溶液、好ましくはpH6以下の酸溶液による酸処理、及び/又は、アルカリ溶液、好ましくはpH8以上のアルカリ溶液によるアルカリ処理等を挙げることができる。ここで、表面調整処理の酸処理に用いる酸溶液としては、例えば、上記の市販の酸性脱脂剤を用いて調製したものや、硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸等の鉱酸や酢酸、クエン酸等の有機酸を用いて調製したものや、これら鉱酸や有機酸を混合して得られた混合酸等からなる酸試薬を用いて調製したもの等を用いることができ、また、アルカリ溶液としては、例えば、市販のアルカリ性脱脂剤を用いて調製したものや、苛性ソーダ等のアルカリ試薬を用いて調製したものや、ケイ酸ソーダ系の脱脂剤を用いて調製したものや、これらのものを混合して調製したもの等を用いることができる。
【0037】
上記の酸溶液及び/又はアルカリ溶液を用いて行なう前処理の表面調整処理については、従来よりこの種の酸溶液又はアルカリ溶液を用いた表面調整処理において行なわれている操作方法及び処理条件と同様の方法を適用することができ、例えば、浸漬法、スプレー法等の方法により、処理温度が室温から90℃まで、好ましくは室温から70℃まであって、処理時間が1工程当り1秒から15分程度、好ましくは2秒から10分程度、より好ましくは2秒から3分であり、工程数が通常2以上6以下、好ましくは2以上4以下の処理条件で実施される。なお、この酸溶液及び/又はアルカリ溶液を用いて行なう前処理の表面調整処理において、アルミニウム材の表面は、エッチングされてもよく、また、されなくてもよい。
【0038】
そして、アルミニウム材の表面に上記の前処理を施した後は、必要により水洗処理してもよく、この水洗処理には工業用水、地下水、水道水、イオン交換水等を用いることができ、製造されるアルミニウム塗装材に応じて適宜選択される。更に、前処理されたアルミニウム材については、必要により乾燥処理されるが、この乾燥処理についても、室温で放置する自然乾燥でよいほか、エアーブロー、ドライヤー、遠赤ヒーター、オーブン等を用いて行う強制乾燥でもよい。
【0039】
このようにして必要により前処理されたアルミニウム材の表面には、上記の水分散性シリカ、リン化合物、及びシランカップリング剤を含む皮膜形成処理液が塗布され、本発明の上記シリカ含有皮膜が形成される。ここで、この皮膜形成処理液を調製する際には、アルミニウム材の表面に形成されるシリカ含有皮膜中のSi含有量が2mg/m
2以上60mg/m
2以下であり、P含有量が0.1mg/m
2以上6.0mg/m
2以下であり、かつ、これらP含有量とSi含有量とのP/Si質量比が0.02以上0.15以下であって、シランカップリング剤の含有率が0.5質量%以上21質量%以下であることを達成できるように、上記の水分散性シリカ、リン化合物、及びシランカップリング剤が水又はアルコール等の溶剤中に必要な第三成分と共に配合される。
【0040】
このアルミニウム材の表面にシリカ含有皮膜を形成する際の皮膜形成処理については、例えば、ロールコート法、スプレーコート法、浸漬法、バーコート法、静電塗装法等によるプレコート法により、あるいは、スプレーコート法、スピンコート法、浸漬法、静電塗装法等によるポストコート法により実施され、またその際には、必要により塗布後に乾燥処理が行われるが、この乾燥処理についても、室温で放置する自然乾燥でよいほか、エアーブロー、ドライヤー、遠赤ヒーター、オーブン等を用いて行う強制乾燥でもよい。強制乾燥を行う場合には、通常室温〜250℃の温度で1秒〜10分間程度、好ましくは2秒から5分間程度の条件で行うのがよい。
【0041】
本発明においては、このようにして形成されたシリカ含有皮膜の上に上記の接着塗料を塗布して接着層が形成されるが、その際の塗装方法については、例えばロールコート法、スプレーコート法、浸漬法、バーコート法、静電塗装法等によるプレコート法であっても、また、スプレーコート法、スピンコート法、浸漬法、静電塗装法等によるポストコート法であってもよい。そして、塗装後の乾燥処理についても、塗料に応じた乾燥方法を採用すればよく、例えば、エアーブロー、ドライヤー、オーブン等を用いて室温〜300℃及び5秒〜24時間の乾燥条件で行う方法を例示することができる。
【0042】
また、上記接着層の形成に先駆けて塗膜層を形成する場合についても、上述した塗膜層形成用の塗料をシリカ含有皮膜の上に塗布して塗膜層を形成し、次いで塗膜層の上に上記の接着層を形成すればよく、従来の多層塗膜を形成する場合と変わりなく、例えば形成された第1層の塗膜の上にロールコート法、スプレーコート法、浸漬法、バーコート法、静電塗装法等のプレコート法や、スプレーコート法、スピンコート法、浸漬法、静電塗装法等のポストコート法により上塗り塗料を塗布し、次いで塗布された上塗り塗料に応じた乾燥方法で乾燥すればよい。