【実施例】
【0026】
図1を用いて本発明の実施例に係る崩壊熱除去系設備について説明する。
図1に示すように、原子炉容器10は内部に炉心11を有している。この原子炉容器11の内部には、隔壁12及び炉心11を支持するスカート部13によって上下に仕切られた原子炉容器上部プレナム14、原子炉容器中間プレナム15、及び原子炉容器下部プレナム16が形成されている。
【0027】
そして、本実施例に係る崩壊熱除去系設備の一次冷却系20は、原子炉容器10の外部に配設された中間熱交換器21、中間熱交換器21の上部に設けられた上部ノズル21aと原子炉容器上部プレナム14とを結ぶ一次系ホットレグ配管22、及び、中間熱交換器21の下部に設けられた下部ノズル21bと原子炉容器上部プレナム14とを結ぶ一次系コールドレグ配管23を備えている。
【0028】
中間熱交換器21は、下部ノズル21bの位置が原子炉容器上部プレナム14内の一次冷却材17の液面(より具体的には、
図1に実線で示す原子炉容器上部プレナム14内の一次冷却材17が高温状態にあるときの一次冷却材17の液面)17aよりも高くなるように配設されている。中間熱交換器21としては、例えば上記特許文献2に開示されているものを用いることができる。
【0029】
一次系ホットレグ配管22は原子炉容器上部プレナム14側の端部が原子炉容器10内の一次冷却材17の液面(より具体的には、
図1に一点鎖線で示す原子炉容器上部プレナム14内の一次冷却材17が低温状態にあるときの一次冷却材17の液面)17aから露出しない位置であって一次系コールドレグ配管23の原子炉容器上部プレナム14側の端部よりも高い位置に配設されている。また、一次系ホットレグ配管22は一次冷却材17の温度維持及び空調への負担低減のため一次系ホットレグ配管保温材24によって覆われている。
【0030】
ここで、一次系ホットレグ配管保温材24の材料、厚さ及び密度等は、少なくとも、一次冷却材17が予め設定する高温状態(例えば、650℃)になったときに該一次系ホットレグ配管保温材24の表面温度が予め設定する所定温度(例えば、70℃)以下となるものとするなど、原子炉格納容器40内の雰囲気温度を所定の温度(例えば、55℃)以下に維持することができる材料、厚さ及び密度等とする。
【0031】
また、一次系コールドレグ配管23は原子炉容器上部プレナム14側の端部が原子炉容器上部プレナム14と原子炉容器中間プレナム15との間の隔壁12の近傍に配設されている。すなわち、本実施例において一次系コールドレグ配管23は原子炉容器中間プレナム15を貫通していない。また、一次系コールドレグ配管23は冷却材の温度維持及び空調への負担低減のため一次系コールドレグ配管保温材25によって覆われている。
【0032】
ここで、一次系コールドレグ配管保温材25の材料、厚さ及び密度等は、その放熱性が一次系ホットレグ配管保温材24の放熱性よりも大きく、且つ一次系コールドレグ配管23内の一次冷却材17を凍結しない温度に維持することができ、さらに一次冷却材17が予め設定する高温状態(例えば、650℃)になったときでも該コールドレグ配管保温材24の表面温度が一次系ホットレグ配管保温材24と同格の予め設定する所定温度(例えば、70℃)以下となるものとするなど原子炉格納容器40内の雰囲気温度を所定の温度(例えば、55℃)以下に維持することができる材料、厚さ及び密度とする。
【0033】
なお、本実施例において崩壊熱除去系設備の二次冷却系30は、原子炉格納容器40の外に設けられた冷却器(最終除熱源は海水又は空気)31、中間熱交換器21から冷却器31へ二次冷却材を排出する二次系ホットレグ配管32、及び冷却器31で冷却された二次冷却材を冷却器31から中間熱交換器21へ供給する二次系コールドレグ配管33を備えている。
【0034】
原子炉が定格出力運転しているとき、原子炉容器上部プレナム14内の一次冷却材17は約550℃になっており、崩壊熱除去系設備は待機運転となる。崩壊熱除去系設備の一次系ホットレグ配管22及び一次系コールドレグ配管23それぞれの口径を外径318.5mm、それぞれの配管22,23の長さを30mとし、一次系ホットレグ配管保温材24の厚さを一次系コールドレグ配管保温材25の1.5倍の厚さ(例えば、一次系コールドレグ配管保温材25の厚さを80mmとした場合、一次系ホットレグ配管保温材24の厚さは120mm)とし、中間熱交換器21の伝熱中心と原子炉容器上部プレナム14内の一次冷却材17の液面との差を10m設けると、一次冷却材17が液体ナトリウムの場合、待機運転状態は以下の通りとなる。
【0035】
すなわち、原子炉容器上部プレナム14内の550℃の一次冷却材17は、一次系ホットレグ配管22から一次系コールドレグ配管23に約13.6t/hの流量で流れ、一次系ホットレグ配管22内では温度がほぼ維持される一方一次系コールドレグ配管23内では放熱により温度が低下して、約547℃で原子炉容器上部プレナム14に流出する。
【0036】
要するに、一次系ホットレグ配管保温材24は一次系コールドレグ配管保温材25の1.5倍の厚さとなっており、一次系コールドレグ配管保温材25の厚さが一次系ホットレグ配管保温材24よりも薄くなっているため、一次系コールドレグ配管23の放散熱量が一次系ホットレグ配管22の放散熱量よりも大きくなり、これにより一次系ホットレグ配管22内の一次冷却材17の温度よりも一次系コールドレグ配管23内の一次冷却材17の温度が低くなる。そのため、中間熱交換器21での放熱がないものとしても、一次系ホットレグ配管22内の一次冷却材17と一次系コールドレグ配管23内の一次冷却材17の温度の違いによる密度差によって、一次系ホットレグ配管22から一次系コールドレグ配管23に一次冷却材17が自然に循環するのである。
【0037】
なお、一次系コールドレグ配管23から原子炉容器上部プレナム14に流入した液体ナトリウムは、炉心11を囲む図示しない遮蔽体を通って炉心11下部に流入し、炉心11を通過して炉心11を冷却し、原子炉容器上部プレナム14へ戻る。
【0038】
この場合、一次冷却材17の温度低下は3℃程度と小さく、原子炉容器上部プレナム14の機器に悪影響を及ぼすことはない。また、一次系ホットレグ配管22と一次系コールドレグ配管23の放散熱の合計は約16kWであり、原子炉格納容器40内の換気空調系の熱負荷に対する影響も小さい。
【0039】
このように、一次系コールドレグ配管保温材25を、一次系ホットレグ配管保温材24よりも放熱性が高くなるように構成し、一次系ホットレグ配管保温材24と一次系コールドレグ配管保温材25を同じ材料且つ同じ厚さとした場合に比較して、一次系ホットレグ配管22と一次系コールドレグ配管23の放散熱量が異なるため、一次冷却材17が流動することなく停止した状態で雰囲気温度まで低下するおそれがない。このため、一次冷却材17として液体ナトリウムを用いた場合であっても、液体ナトリウムが融点(約100℃)以下となることを防止することができ、崩壊熱除去運転時に駆動できるようにヒータなどによって液体ナトリウムの温度を高温に維持する必要もない。
【0040】
また、高速増殖炉では、約200℃の低温停止状態で機器のメンテナンスなどを行うが、この場合の崩壊熱除去系設備の待機運転状態は上述した条件下で以下の通りとなる。
すなわち、原子炉容器上部プレナム14内の200℃の一次冷却材17は、一次系ホットレグ配管22から一次系コールドレグ配管23に約7.9t/hの流量で自然循環し、一次系ホットレグ配管22内では温度がほぼ維持される一方一次系コールドレグ配管23内では放熱により温度が低下して約199℃で原子炉容器上部プレナム14に流出する。一次系コールドレグ配管23から原子炉容器上部プレナム14に流入した液体ナトリウムは、炉心11を囲む遮蔽体を通って炉心11下部に流入し、炉心11を通過して炉心11を冷却し原子炉容器上部プレナム14へ戻る。
この場合も、一次冷却材17の温度低下は小さく、原子炉容器上部プレナム14の機器に悪影響を及ぼすことなく、一次冷却材17が凍結することを防止することもできる。
【0041】
また、崩壊熱除去運転時には、二次冷却系の冷却器31によって冷却された二次冷却材により、中間熱交換器21内で一次側冷却材が冷却され、温度の低い一次冷却材17が一次系コールドレグ配管23を通って、原子炉容器上部プレナム14に流出する。一次系コールドレグ配管23から原子炉容器上部プレナム14に流入した液体ナトリウムは、炉心11を囲む遮蔽体を通って炉心11下部に流入し、炉心11を通過して炉心11を冷却し原子炉容器上部プレナム14へ戻る。
【0042】
以上に説明したように、本実施例に係る崩壊熱除去系設備によれば、一次冷却系に原子炉容器10の外部に設けた中間熱交換器21を有する構成であっても、当該一次冷却系に電磁ポンプ、逆止弁、調整弁等の動的機器を設置することなく待機運転時に原子炉容器10と中間熱交換器21との間で一次冷却材17を自然循環により循環させて一次冷却材17の凍結を防止することができる。そのため、炉容器内冷却方式に比べて原子炉容器10の径を小さくすることができ、また、従来の動的機器の設置を必要とする補助炉心冷却方式、一次系炉心補助冷却方式、二次系炉心補助冷却方式等に比べて動的機器を設置する必要がなく動的機器の不具合が発生するおそれがないことから信頼性が向上する。さらに、動的機器を設置する必要がないため設備の合理化を図ることも可能となる。
【0043】
なお、上述した実施例では、一次系ホットレグ配管保温材24と一次系コールドレグ配管保温材25をそれぞれ同一の材料で一次系ホットレグ配管保温材24を一次系コールドレグ配管保温材25の1.5倍の厚さとする例を示したが、本発明は上述した実施例に限定されるものではない。
【0044】
一例として、表1に、一次系ホットレグ配管22、一次系コールドレグ配管23の配管長をそれぞれ30mとし、一次系コールドレグ配管保温材25として、冷却材温度650℃において保温材表面温度が70℃以下となるように厚さ80mmのマイクロサーム(商品名、日本マイクロサーム株式会社製)を用い、一次系ホットレグ配管保温材24を一次系コールドレグ配管保温材25と同一の材料で厚さを一次系コールドレグ配管保温材25の1.25倍、1.5倍、2倍と変化させた場合の待機運転状態のシミュレーション結果を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1からもわかるように、一次系ホットレグ配管保温材24の厚さを一次系コールドレグ配管保温材25の厚さの1.25倍から2倍とした場合、好適に待機運転時に原子炉容器10と中間熱交換器21との間で一次冷却材17を自然循環により循環させることができる。ここで、一次系ホットレグ配管保温材24、一次系コールドレグ配管保温材25の材料としては、マイクロサームのほか、耐熱性を有するロックウール、グラスウール等を適用してもよい。
【0047】
また、一次系ホットレグ配管保温材24よりも一次系コールドレグ配管保温材25の放熱性が高くなり、待機運転時に原子炉容器10と中間熱交換器21との間で一次冷却材17を自然循環により循環させることができれば、一次系ホットレグ配管保温材24と一次系コールドレグ配管保温材25を異なる材料で同じ厚さとしてもよく、異なる材料かつ異なる厚さとしてもよく、また、同一の材料で同一の厚さとし保温材密度を変えてもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。